菩薩累乗会~合言葉は『ええんやで』

作者:沙羅衝

「ああ……やってもた……。最悪や……」
 大学生の生田・卓が、一人大阪の自宅で、彼女の去った後だけを見る。
 売り言葉に買い言葉だった。一つ年下の高校生の彼女を傷つけるつもりなど無かったのだ。ただ、一緒の大学に進めなかっただけなのだ。
 受験の結果により、彼女は大学への切符を取りこぼしてしまった。本当は慰めてあげたかったはずのつもりだったのだが、頑張って笑顔を作ろうとした彼女に『ちょっと頑張りが足りなかっただけやんな』などと言ってしまった為、彼女は途端に泣き顔になり、『ごめん』と言い残し、去ってしまったのだ。
『どう……言えばええんや……』
 卓は一人うなだれる。直ぐに取り出したスマートフォン。だが、そこからアプリを立ち上げる事ができない。
 すると、すっかりと日が暮れ、暗くなった自宅の窓から、なにやら大量のひよこと、一人の和服を着た女性が現れた。
「ええんや、ええんやで……」
「え!?」
 その様子に身構える卓。しかし、明らかに異様な雰囲気だが、先程の事が事だけに、力を入れることができず、動けない。
「恵縁耶悌菩薩は『ええんやで』とおっしゃいました」
 その声は、まさにそのひよこの大群の真ん中にある、黒く一際大きいひよこから発せられた。
「『もうええんや』。これで、あんさんの罪はもう許された。心を罪から解放して、恵縁耶悌菩薩の羽毛に抱かれましょ。
 恵縁耶悌菩薩の羽毛はふわふわで、とても気持ちがええんやで……」
 その言葉を聞いた卓は、うっとりとした表情になる。
「ええんやで……。ほんま、救われる言葉やわ。もう、何も考えず、ふわふわの事だけ考えたらええねんな……。ふわふわ最高やー!!」
 卓はそう言うと、ビルシャナとなってしまったのだった。
「さて、そうこうしてるうちに、ケルベロスが来るやろ。ワシと、この娘も一緒に戦うから、まずはそれに勝利するで……」
 ひよこ、『デラックスひよこ明王』はそう言って、ビルシャナと化した卓を見て満足そうに頷くのだ。

「ええっと、『菩薩累乗会』のことは知っとるかな?」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が、集まったケルベロス達に尋ねた。何人かはそれを聞き、頷く。
「えっとな、強力な菩薩を次々に出現させて、そんでその力を使って更に強大な菩薩を出現させ続けるちゅうビルシャナの作戦らしい。いまんとこ、これを阻止する方法は見つかってへんねんけど、とりあえず、出てきた菩薩を食い止めていくで。
 今回の菩薩は、恵縁耶悌菩薩っちゅうて、自らの羽毛の力で罪の意識を消し去る事と引き換えに、その存在を自らに取り込んでしまうっちゅう菩薩らしい。被害者は罪の意識に苛まれてる人でな、配下のビルシャナである『デラックスひよこ明王』を送り込んできてる。被害者は、自分を導いたデラックスひよこ明王と共に自宅に留まり続けて、羽毛に抱かれ続けて罪の意識から逃げ続けるようや。
 このままやと、罪の意識から逃れて、羽毛に魅了された彼らは、恵縁耶悌菩薩の一部になってしまうやろ。そうさせない為にも、出来るだけ早く、事件を解決する必要があるで」
 絹の話を聞いたケルベロス達は、少し考え込んだ。罪の意識を消してくれる存在など、心に傷を負った者にとっては、それだけで救われるというものだ。絹はその様子を見て、口を開く。
「まあ、その辺も考えなあかんねんけど、とりあえず、敵の情報や。
 今回は、そのビルシャナ化した一般人、生田・卓さんという大学一年生の自宅に行ってもらう。そこにおるんは、さっき言ったデラックスひよこ明王と、あと、なんやしらんけど、螺旋忍軍の『幻花衆』が一人おる。この3体が敵になるちゅうことや。
 まず、ビルシャナ化した卓さんは、なんか叫びながら攻撃をしてくるわ。で、幻花衆はその2体を守るように動いてくる。で、一番強いのが、デラックスひよこ明王。自分の周りにおるひよこを投げつけてくるみたいやから、気をつけてな」
 すると、一人のケルベロスが、絹に卓を助けることは出来ないのか? と尋ねた。
「ええ質問やな。あとで飴ちゃんあげるな。
 前回のビルシャナの事件を知ってる人は、分かってるかもしれんけど、デラックスひよこ明王を先に倒すことで、このビルシャナ化した卓さんは、少し聞く耳を持つみたいや。どうやら、受験に失敗した彼女の励ましに失敗したっちゅうイタイ情報が入ってきてる。その辺りを考えて、琴線を揺さぶるような説得をした上で、卓さんを撃破する。そうすれば、救出できる可能性があるみたいや。ただ、気をつけなあかんのは、先に卓さんを倒してしまうと、デラックスひよこ明王はそのままさっさと逃げ出すから、その辺の順番は考えなあかんで。
 それと、幻花衆はそんなに強ないけど、この2体が倒されると逃げ出すみたいやからな」
 絹はそう言って、手元のタブレット端末を見ながら頷く。
「……罪の意識ちゅうのは、そんなに簡単に消えるもんやあらへん。それに、罪は相手があるから感じれることや。その辺が鍵ちゃうかと思ってる。せやから、この卓さんに、次の一歩を進ませる一言。それが必要ちゃうかなと思ってる。頑張ってな」
 こうして、ケルベロス達はヘリポートに向かうのだった。


参加者
九石・纏(鉄屑人形・e00167)
黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)
ソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)
シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)
リョウ・カリン(蓮華・e29534)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)
園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538)
天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)

■リプレイ

●戦ってもええんやで
 バン!!
「そこまでだ! 悪いが、貴様らの好きにはさせねェよ」
 ソル・ログナー(鋼の執行者・e14612)が、扉を勢い良くあけ、ガジェットから雷の霊力を帯びた弾丸を放つ。
 ドシュ!!
 その弾丸は、目の前にいた幻花衆が受け、その服を切り裂いた。
 ケルベロス達は、絹の情報から今回の事件の被害者、生田・卓の家に駆け込んだのだ。
「せやなあ、そんな言うんやったら、戦ってもええんやで……」
 ゆっくりとした動きで、そう言うのはひよこの塊、『デラックスひよこ明王』だ。
 デラックスひよこ明王は、そう言うなり、自らの周りに集合している黄色いひよこをむんずと掴み、ケルベロス達に投げつける。
 ドゥン!! ぼうっ!
 爆発音の後、ソルと、シマツ・ロクドウ(ナイトバード・e24895)、天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)から炎が上がった。
 そして引き続き、ビルシャナと化した卓が動く。
「ふわふわ最高!!」
 その鉤爪が、ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)を襲う。
 ガキン!
「どうも、ビルシャナさん達と幻花衆さん。シマツです」
 シマツがその鉤爪を代わりに受けると、そのまま弾き飛ばし、距離をとる。そして、エクスカリバール『コロスマッシャー』を肩に担ぐ。
 カカッ!
 園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538)が、シマツの動作を見て、すっとエアシューズ『エンジェルウィングブーツ』の踵を擦り、その摩擦で生じた熱を使って炎を投げつける。
「では破砕しますね」
 幻花衆から炎が上がり、そこに、シマツのフルスイングが炸裂する。
 ボボボ……!
 一度あがった炎が、増幅する。
「罪悪感を感じている所に優しい言葉をかけられたら甘えてしまいたくなる気持ちは、わかるけどね……」
 リョウ・カリン(蓮華・e29534)が前衛に向け、この場に眠る魔力を抽出し、纏わせる。
「でも、そうだね。気に入らないな」
「そうね。私も言いたいことあるわ。でも、その為にも、必ず救出して謝らせる。そうよね?」」
 黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)が『オウガメタル【舞火】』から、オウガ粒子を放出し、やはり前衛へと降り注がせる。
「黒住様は実にお優しい……」
 そう言うのはラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)。彼は頭であるバケツヘルムの隙間から炎をゆっくりとくゆらせ、同じくオウガ粒子を拡散させる。
「ええんやで、っていう言葉自体は嫌いじゃないんだけどね……。許すっていう行為は素晴らしい行為だと思う」
「ほう……。あんさんも恵縁耶悌菩薩の羽毛に抱かれたい、と?」
 ほほほと言わんばかりに、蛍の言葉に反応するデラックスひよこ明王。
 すると、蛍は首を振り、ヒールドローンを九石・纏(鉄屑人形・e00167)と共に前衛へと展開する。
「そもそも、ビルシャナが許したからなんだっていうのかな。許されたいっていうのは、その相手に対して申し訳なく思うからだと思う。それを歪めるっていうのなら……」
 蛍は前にずいっと前にでて、構える。
「さっさと倒して、卓さんの目を覚まさせないとね!」

●もがいてもええんやで
『荒れさせていただきます』
 シマツが螺旋を籠めた『コロスマッシャー』を幻花衆に何度も叩き付ける。
 どうっどうっどうっどうっどうっ!!
 鈍い音が響き渡ると、とうとう幻花衆は消滅した。
「流石に、ケルベロス。この娘程度では叶いませんなあ……」
 デラックスひよこ明王は、幻花衆の事は最初から当てにしていなかったようなそぶりを見せ、目の前の蛍に向けて飛ぶ。
 ドゴン!!
 部屋全体を揺らす、全体重を乗せたボディプレスが蛍を襲う。
「ぐ……」
 よほどの一撃だったのか、蛍の喉から漏れ出る声と共に、血が溢れる。最初に展開したドローンがいなければ、致命傷となっていた恐れもあった。
「さて、ケルベロスさん達。もがき苦しんでも、ええんやで……」
 ささっとその場から飛び退きながら、軽い動作で余裕の台詞を放つひよこ明王。
「相手のことを大事に思ってるから悩んでるんでしょ? 『ええんやで』ってそれで良いの? ……よくないよ!」
 血をボタボタと流しながら、立ち上がる蛍。それを見たリョウが魔法の木の葉でその傷を癒す。だが全てを回復させる事は出来ない。
『特別製だよ、ヒーリングバレット!』
 蛍は自らに、癒しの弾丸を降り注がせ、何とかその傷を塞いでいく。
 しかし卓が、俺はもう救われている! と叫び、鋭いパンチを蛍へと追撃する。
 パァン!
 それを間一髪シマツがドラゴニックハンマーで弾き、その行方を帰る。
「何も考えない、一時の間ならそれもいいでしょうけど、目を逸らし続けても、何も変わらないから」
 その卓を見た舞彩がそう言いながら、光の盾を蛍に纏わせる。
「呼吸を合わせて、撹乱しながら叩き込め!」
 ダンダンダン!
 ソルが今度は此方からの攻撃と全体に指示しながら、ガジェットから石化弾をひよこ明王に打ち込む。
「おっと、そうは行きませんで……」
 しかし、その弾丸は間一髪避けられる。
 ケルベロス達は、まず倒す順番を考えていた。幻花衆を真っ先に倒したのは、一番弱いという情報であったのが、邪魔になるというリスクを即座に排除するという目的からだった。そして、次にひよこ明王に対峙する。当然その間卓の攻撃にさらされるだろう。だが、それもあえて無視する事にした。ソルの言う通り、撹乱しながらも、必殺の一撃を叩き込む為だ。
 纏が仕事人の如く、常に正しい行動を選択する。ソルの一撃が避けられたという事は、まだ此方の集中が足らないという事。その補助の為に、オウガ粒子を後衛へと撒く。
「黒いひよことか、誰が得するんだろうね……正直、気味悪いよ?」
 纏のオウガ粒子を感じながら、藍励が狙い済ませ、ドラゴニックハンマー『スピリチュアルレイド uk.Hummer』をぶっ放す。
 どぅぉぉおぉおぉぉ……!!
 その竜砲弾がひよこ明王の動きを止める。
「ひよこがわらわらと……たいへん可愛らしいですが、やっぱり中身の方も気になりますよね」
 そしてラーヴァが、巨大弓『Bow with Flame & Infinity』を構え、その弓からエネルギー光弾を発射する。
 どうっ!!
「なんやて!?」
 その光弾に吹き飛ばされる、幾つかのひよこ達。ケルベロス達の作戦の肝が、ここで炸裂したのだった。

●死んでもええんやで
「なんやったら、そのまま死んでもええんやで……」
 明らかに表情を変えるひよこ明王。そして再び、飛び上がる。先ほど蛍に大きなダメージを与えたボディプレスだ。
 狙いは、ラーヴァだ。
 ラーヴァの真上から急降下するひよこ明王。
「……させません」
 シマツがラーヴァの頭上に来たひよこ明王に、身体ごとぶつける。
 ドゴッ!!
 激しい音と共に、シマツは床に叩きつけられた。
 だが、彼女は自らの傷にかまわず立ち上がる。
「さて……。何故、螺旋忍軍がいるのでしょう? 何か企んでいるのですね?」
 シマツはそのまま問う。
「くっ……」
 その形相に少し後ずさるひよこ明王。
「肯定してくださるようなので、遠慮なく、殺しますね」
 彼女の殺意が、己の身の傷を塞ぎ、纏がさらに光の盾を施し、リョウが再び部屋から魔力を抽出し、前衛の傷を癒す。
「貴様らに、こいつの後悔も幸せは奪わせねェぞ!!」
 ソルがガジェットの激鉄を起こす。
「ガジェット、展開。ガジェットツール、フルアクティブ!」
 その力がガジェットに伝わり、引き金を引く。
 ドォン!
 ひよこ明王が爆発を起こす。それを見たケルベロス達は一気に動いた。
 蛍がアームドフォートをガチャリと構え、弾丸を一斉に発射する。そのダメージで、ひよこ明王の動きが一瞬停止する。
「ひよこより、こっこの方が羽毛ふわっふわで、気持ちええんやで……なんてね。人間に戻って、やり直してもらうわよ」
 舞彩が鶏ファミリアの『メイ』に指示を出すと、大きく鳴く『メイ』。すると、何処からとも無く、大量の鶏が集結し始める。
『総攻撃!』
 その鶏たちはひよこ明王の傷を抉り、拡大させる。
 さらにラーヴァが、地獄の炎を纏い、弓を引き絞る。
『我が名は熱源。余所見をしてはなりませんよ』
 ドドドドドオ……。
 その矢がまた更にひよこ明王の傷を抉る。
 最後にが藍励が、詠唱を開始する。
『天姫、参之型『星屑』――――スターダスト』
 グラビティによって作り出された星たちが無数に出現する。そして、彼女が上げた手を下ろすと、その星たちは雨となり、豪雨となり、ひよこ明王の体に突き刺さる。
「んな……。ワシが、死ぬのは……ええんや、で?」
 その言葉を最後に、ひよこ明王は消滅していったのだった。

●後悔するのはあかんのやで
「あ……ああ。ふかふかのふわふわ……。ひよこ、様ぁ……」
 卓は消滅したひよこ明王をみて、泣き崩れるかの様に動揺する。
「さて、これで貴方を赦してくれる者は居なくなってしまいましたね?
 其方のふかふかな逃げ場所も、すぐ焼き払って差し上げますねえ」
 そう言ったラーヴァは、明らかな殺意を向けている。
「冗談です」
 だが、そう言って言葉だけを繋ぐ。本人はそれを冗談とは捉えていないのだろう。
「もとより、デウスエクスに赦してもらうのが間違いだ。
 傷つけた罪なら、赦すことができるのは、傷つけられた者だけでございましょう」
 そして、ファミリアを飛ばした。
「貴様は大事な事を忘れている。傷ついた彼女は、そのまま放置か?
 言っちまった現実から目を逸らし、愛する人は残された。嗚呼、お前は楽だろうな」
 ソルの言葉は冷たかった。だが、真実でもある。
「だがそれは単に易しに流されただけだ! 自分可愛さに、目をそらすな!
 思い出せ、お前が本気で愛し、大事なものはなんだったのかを! 貴様に纏わりつく闇、俺が祓ってやる!」
 罪は責めれば良いというモノではない。ソルは不器用ながらに、それを伝えたかった。
「今なんとかしてやる! 彼女を思いながら、ちっとばかし痛みを堪えろよ! はァァァ……!」
 そして、右の拳に魂を込め、卓の顎を殴り飛ばした。
「罪は相手がいるから感じられること、その罪の意識から逃げるという事は相手からも逃げる事になります」
 シマツはラーヴァのファミリアに与えられたダメージを疎ましそうにする彼を見て、言葉を投げかけた。
「貴方は本当にそれでいいのか、苦しくてもよく考えて欲しいです。どうか、後悔のない様に」
 そして『コロスマッシャー』で、ダメージを与える。
「そういえば、弐之式を依頼で使うのは初めてかも……でも、一人でも多くの人を救うためなら、大丈夫、使い切れる」
 藍励はそう言って再び星たちを呼び出し始める。
「励ましのつもりが傷つけた……そんな事、誰にだってあることだよ。
 言葉って、難しいから……何気ない一言が相手を傷つけることもあるし、逆に救うこともある」
「う……」
 藍励の言葉は優しいものだった。
「今回はそんなちょっとした思いのすれ違いから起きちゃった事、なんじゃないかな……。
 相手にとって、間違ったことを言っちゃったなら、素直に謝ろう? それから、その言葉の真意を伝えよ……?
 お互いに思い合ってたなら……さっきの黒くて大きい鳥のなり損ないじゃなくても、許してくれるはずだよ?」
 そして、その星を雨として落とす。それは、彼を浄化するように煌いた。
「卓さんが『ええんやで』って言って許してもらいたいのはビルシャナなんかじゃないでしょ!?
 相手を傷つけたままビルシャナになって放り投げていいの?」
「あ……」
 蛍の言葉が卓を現実に引き戻す。それは強烈な一言だったのだろう。明らかに狼狽する卓。
「卓さんのためだけじゃなく、相手の為にもフォローしに行こうよ。
 大丈夫、正面から真摯に謝ればまた仲良しに戻れるよ」
 蛍はそう言って時間を凍結する弾丸を放った。
「そうよ。貴方が犯してしまったのは罪なんかじゃない。ただ、言葉を間違ってしまっただけ。
 間違いは誰だってしてしまうもの」
 リョウはその間違いというモノを自覚させる。そう、間違いは誰にだってある。問題はそれからどうするかなのだ。
「本当の罪は目を反らすこと!
 やってしまったことを直視せず、その時の気持ちすら無かったことにしてしまうこと。
 貴方が、彼女を励ましたいと思った気持ちを無かったことになんかしてはいけない。
 貴方はもう一度、彼女さんと会うべきだよ!」
「そう、だ。俺はアイツを、励まし……たかった」
 卓がそう言うと、リョウは頷き、言葉を続ける。
「言葉が出てこなくたって、抱き締めて、撫でてあげる。
 それだけで、気持ちは伝えられるからさ!」
「……」
 卓にも、この期に及んでの、何かの葛藤があるのだろうか。明らかに迷っている。
「だから、此方側に帰っておいで、手を引いてあげるから」
 リョウはそう言って、左手に虎を型どった影を纏い、その顎でビルシャナの羽を噛み千切った。
「グゥ……」
 それは痛み。ただ、心に背負った痛みは、はるかにそれを凌駕するものだ。それを感じているのだろうか。彼は息を激しく吐く。
「ええんやって、本当に良いと思っているのかい? 彼女をほっといてさ。
 君はもう、彼女の事なんてどうでもいいって?」
 纏は、彼の気持ちを読み取りながら言葉を紡ぐ。すると、卓は頭を振り、違う、と呟いた。
「そうじゃないだろう。よくない筈だろう?
 だから今デウスエクスに魅入られてこんな事になったんだ」
「彼女の事を大事に思っているのなら、今すぐにでも会いにいくんだ」
「あやま、る?」
「そうだ。彼女に謝って、大学に一緒にいけなくたって、一緒にいる事はできるって一緒にいたいって、言ってみたらどうだい」
「一緒に……」
 そして纏は雪の結晶を模した手裏剣に呪い、いや、この場合祈りに近いだろうか。それを纏わせ、ビルシャナの嘴を切り刻んだ。
「ええんやでと言われて、それで本当にええんやと思うほどに彼女に対する思いは弱かったのかしら? そうじゃないでしょう?」
 舞彩の紡ぐ言葉は勇気。最後の一歩を踏み出す為の勇気。
「今そうしてビルシャナになるほど悩んだ、それだけ大事だったのでしょう?」
「……めっちゃ、大事や。……せや」
「まず謝りにね。
 どれだけ悩んだか、私からも彼女さんに話してあげるから。大学は別でも、一緒に過ごす事はできるでしょ!」
 そう言って、舞彩は『メイ』をぽんと肩に乗せる。
「これが最後のもふもふ、休むのは終わり。起きる時よ」
 鶏の爪が卓の心臓を、心を抉る。
 ビルシャナの姿は霧散し、そこにはスッキリとした表情の一人の青年が、ケルベロス達を見つめ一礼する姿があった。
 そして、彼は言った。
「急いで行かなければいけない所が出来ました」
 と。
 ケルベロス達は頷き、彼の背中を押したのだった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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