ミッション破壊作戦～機械の支配する土地へ

■リプレイ

●ヘリオンは空を行く
　中国地方の一角、広島県福山市。
　ケルベロスたちを乗せた超高速ステルスヘリは、デウスエクスの支配する地へと一気に近づいていく。
「工場地帯を占領だなんて如何にもダモクレスらしいね……でもそうはさせないよ」
　光る小剣をしっかりと握りしめ、雨宮・利香（漆黒の雷刀・e35140）が呟く。
「そうだな……ダモクレスらしいやり方だぜ。絶対にぶっ壊してやらなきゃなあ」
　告げる尾方・広喜（量産型イロハ式ヲ型・e36130）は笑顔だった。
　まだ笑顔しか浮かべられないレプリカントだが、しかし決して喜んでいるわけではないことくらいはわかる。
「とりあえず目的地の地形は調べてきたよ」
　平・和（平和を愛する脳筋哲学徒・e00547）が仲間たちに魔空回廊があるあたりの地形を簡単に説明し始める。
「できるだけ降りる前に退路は見極めておきたいところだな」
　狸のウェアライダーが鋭い眼光で和を見ていた。
　今回と同種の作戦で、和が帰ってこなかった時のことを、思い出しているのだろうか。比良坂・陸也（化け狸・e28489）は鎖で小剣を結び付けている。
「作戦が成功したら、極力、撤退を優先して動きたいですね」
　片手で巨大な剣を担いだ天音・刕桜（鉄騎兵・e21969）が言った。
　戦場と化した福山市の上空までたどりつく。
「もうすぐバリアの上空ですね」
　機理原・真理（フォートレスガール・e08508）が呟く。
　無表情に地表を見下ろす赤い瞳の近くで、一房だけ赤い髪が揺れている。
　彼女も睦也と同じように、紐でグラディウスを手に結び付けていた。
　いささかやりすぎではあるが、グラディウスを必ず持ち帰るという強い意志の表れだろう。
　魔空回廊を守るバリアの上空へたどりつく。
「この不愉快なバリアを跡形残らず消し飛ばす力が欲しい。恥を知らないデウスエクスめら――要らない要らない。魔空回廊など必要ないのです！」
　サキュバスっぽいセクシーなスーツに身を包み、ズミネ・ヴィヴィ（ケルベロスブレイド・e02294）が言葉に力を込める。
「さあ、行くのよ。難しいけどクリアするの！」
　ミステリス・クロッサリア（文明開華のサッキュバス・e02728）がライドキャリバーの乗馬マスィーン一九を駆って、宙へと飛び出した。
　高空の空気が押し寄せてきて、Ｆカップの胸が大きく揺れる。
　次々に、ケルベロスたちは魔空回廊へ向かってヘリオンから飛び出していった。

●ケルベロスの叫び
　風の音が耳の中で響く。
　はるか下に見えるバリアへ向けて、ケルベロスたちは輝く小剣を構える。
　バリア周囲には、無残に壊された街が広がっているはずだ。
　ミステリスは静かに目を閉じた。ダモクレスによって支配された街の元の姿が、想像できるような気がした。
「”夢が実現できる”、その願いを込めてこの一帯のテクノ工業団地が作られたの。ケルベロスにはね、夢を守ることもできるのよ」
　想いを込めて、グラディウスを突き出す。
　最初の爆発がバリアへと広がった。
　町のかつての姿に想いを馳せていたのは、ミステリスだけではない。
（「産業機械を作ってるこの工業団地はこの国の先端技術が集まる場所の一つだ。機械主体のお前らにゃ格好の土地、そりゃ絶好の橋頭保だろうよ」）
　睦也は考える。
「――だから、必死になるんだろ！」
　叫びと共に二度目の爆発が起きた。
（「ここが使えなくなりゃあどれだけ生活に影響が出ると思ってやがる」）
　着地の姿勢を取りながら彼は心の中で吐き捨てる。
　真理は表情を変えないまま、口を開いた。
「私は工場の風景が好きなのです」
　もしかすると、小さな町工場で生まれたことが影響しているのか。
「昼間に色んな人が一緒に働いて、一人じゃ絶対作れないような物を作っている時の活気も。静まり返った夜に、コンビナートの光が星空みたいに灯っている綺麗な光景も」
　今や存在しない風景を、彼女は近づいてくる工業団地に重ねたのかもしれない。
　真理の表情は変わらない。けれど、面に現れないものが、存在しないわけではない。
「……人が作り上げてきた技術の結晶を、私の大好きな景色を返して貰うですよ！」
　３度目の爆発が強くバリアを揺らしていた。
　叫ぶ真理より少し高い場所で、利香は彼女を追うように降下していく。
「如何にもな場所だね……ここで鉄を沢山とって仲間を大量に作ろうって気でしょ？　そうはさせるもんですか、私達だってこうやって地道にやってきてるんですもの！」
　真理とは友人のつもりだが、その想いは決して同じではない。
　だが、彼女のためにも破壊しなければとは思う。
「纏めて消し飛びなさい、人類の為に！　後は真理ちゃんの為にもね！」
　４回目。
　デウスエクスが対応できない勢いで、重力に加速されたケルベロスたちの攻撃は次々に魔空回廊を守るバリアを揺らす。
　ズミネの露出した肌に風が吹きつけてくる。その風に負けぬ勢いで彼女は叫ぶ。
「ケルベロスは敗北が許されないのです。敗北は悪なんです。勝利のために振るわれる力は――罪人を斬り裂く正義の剣です！！」
　振り下ろす輝く刃は、まさに正義の刃となって魔空回廊を襲った。
　次なる１人の、黒いコートが風にはためく。
　下からの風で刕桜のフードが外れて、長い髪が一部あらわになるが、誰も見てはいないだろうし今は気にしている暇はない。
「貴方達の様な存在のせいでどれだけの人が苦しんでるか分かっているんですか？　貴方達は災害そのものです。そして、そんな災害をケルベロスが見過ごすわけがない」
　いつも使っている大剣に比べれば軽い小剣へと、いつもと変わらぬ力を込める。
「そんなに鉄鋼が欲しいのなら、貴方達をスクラップにしてそれを使うと良い。ここは……貴方達の来る場所じゃない！！　平和な日々を、返してもらいます！！」
　６度目の爆発が炸裂し、巻き起こり始めた黒煙の中でさらに雷光が舞い、そしてさらなる煙を巻き起こす。
　地表が近づくと敵の姿が見えたが、すぐに煙の中に見えなくなる。
　けれど、広喜の目はわずかな時間だけ見えたダモクレスの姿をしっかりとらえていた。
「俺は壊れるまで壊すために作られた。あいつらと同じだ。でも地球じゃ壊すのは悪いことだった。俺は沢山悪いことしちまった」
　破壊を行う彼らの姿に、自分が元はダモクレスだったことを思い出す。
「俺には壊すしか出来ねえ。だから贖罪のために壊す。俺とあいつらが奪ったもんをヒトに返すために壊す」
　表情は、彼が浮かべられる唯一の表情のままで……広喜は輝く小剣に決意を込める。
「この魔空回廊もてめえらも、全部俺がぶち壊す！」
　すべての力を腕に込めて、広喜は剣を突き立てる。
　７度目の爆発が、バリアへと炸裂した。
　そして８人目……和は、上空から見た福山市の風景を思い出していた。
「この福山市はね、夜景の綺麗な場所なんだ。夜も稼働する工場の明かりは極めて人工的なのに、とても幻想的に美しい」
　あの風景が、工場地帯にライトアップされたらどう見えるだろう。
　けれどもその光景は決して今は見ることができないのだ。
「そしてその明かりは、人々がここで生活を営んでる確かな証でもある。それを残虐に奪おうなんて、そんな酷いことを見過ごすなんてできない！」
　グラディウスを構える。
「フォートレスガーディアン！　ここからとっとと出て行けー！」
　漆黒の巨体を持つ敵への怒りを込めて、８度目の叫びと、８度目の爆発がひときわ大きくバリアを揺らしていた。
　攻撃を終えたケルベロスたちは、爆煙の中を次々に着地していた。
「やったか？」
「いえ……ダメージを与えた手応えはありましたが、壊れた様子はありません」
　広喜と真理が言葉を交わす。
「やれるだけはやったんだよ、後は帰るまでがミッションってね……行こう！　みんな、集まって！」
　利香が仲間たちへと呼びかける。
　多少散らばった状態での着地だったが、８人とサーヴァントはすぐに集まる。
「よーし、みんな揃ったー？　それじゃ、ぱーっと逃げるよー！」
　和の言葉が煙の中で響き、そしてケルベロスたちは走り出した。

●ダモクレス強襲
　巨大な影がケルベロスたちの前をふさいだのは、数分も移動しないうちだった。
　漆黒の装甲をまとった重巡級ダモクレス・フォートレスガーディアンの巨体が煙の中からケルベロスたちを見下ろす。
　真理が重厚なその姿を見上げた。
「私も似たような名前で呼ばれたりするです。……でも、親近感とかないですよ。今みたいに皆の大切な物を壊したりする貴方に、私は怒ってるですからね」
　その表情は変わっていないが、声のトーンには感情が混ざっていたかもしれない。
「あいつ、知り合いなのか？」
「違うですよ。ただ、たぶん同型機を、以前見たことがあるだけです」
　睦也の問いに真理が応じる。以前……そう、故郷を襲われたときに、確かに同型機を見た気がする。
　だが、その記憶以上に不快なのは、フォートレスガールという二つ名と似た名前を敵が使っていることだった。
　他の仲間たちも素早く敵の周りを囲んでいた。
「お前カッコいい装甲してんなあ」
　広喜が笑顔のまま告げる。
「壊し甲斐がありそうだぜ」
　拳を振り上げて言った言葉が、戦いの始まりを告げた。
　ケルベロスたちが攻撃するよりも早くダモクレスのレーザーが前衛たちを薙ぎ払う。
　真理はとっさに、和をかばった。
　繊細なその体を熱と衝撃が撫でていく。
　表情を変えないまま、彼女はその攻撃を受け止め切った。
　ライドキャリバーからはすでに降りている。プライド・ワンの機銃は敵を後方から狙っているはずだ。
　自身は体と接続したアームドフォートに付属する盾を構えて突っ込む。
「攻撃するのも、防御の一つなのですよ……！」
　激しく叩きつけ、押し付けて敵の動きを止める。
　そこに広喜が腕部パーツを投げつけ、利香が妖刀で切り裂いていた。
　範囲攻撃と言えども、精鋭のダモクレスが仕掛けた攻撃の威力は軽くない。
　睦也の星獄鎖が伸びて敵の巨体すら絡め取る結界を形作った。ミステリスはドローンを展開して守りを固めている。
　ズミネは自身の心象風景を周囲に展開した。
「おいしー♪♪　これこれー♪」
　仲間たちの肉体を外部から遮断し、ダモクレスに破壊された風景を美味なるおやつへと変化させていく。
　人々の空腹を癒したいという願いから生み出した技には、仲間たちを守る確かな力を備えていた。
　和もオウガメタル粒子をばらまいて、仲間たちを支援している。
　刕桜は後方から呪いをかけて、敵の動きを止めようとしているようだった。
　ケルベロスたちの攻撃を受けながら、強烈な打撃がミステリスを吹き飛ばす。
　利香は攻撃を終えた敵に向かって、舞うように接近する。
　敵は強い。攻撃力はもちろん、その巨体にも関わらず、決して回避能力も低くはない。
　だが、その敵に追いつけるように、彼女は自らの体に魔力の電流を流した。
「この剣で……勝利を掴む！」
　飛躍的に伸びた身体能力で、妖刀『供羅夢』が敵を切り刻む。
　トドメと切り上げた一閃と共に、豊満な胸が大きく揺れた。
「大博打、いっちょ決めてやりますか！」
　かなりの強敵だが、力を合わせて倒せないはずはない。必ずみんなで帰ることができると、彼女は信じていた。
　それに、その性能もいつまでもすべて発揮できるわけではない。
　和はファミリアロッドを使い魔の姿に戻した。
　真理の盾による殴打が、また敵の隙を作り出す。
「いっくぞー！　てややー！」
　仲間たちが攻撃するのに続いて、和は使い魔を飛ばした。魔力を帯びた生物が敵を傷つけ、さらに足を鈍らせる。
　敵を観察していた和には、最初より敵が隙を見せることが増えているとはっきりわかった。
　フォートレスガーディアンがジェネレータの出力を上げ、自らの回復をはかったのは数分後のことだった。
　睦也は敵が回復を行った隙に、攻撃に転じた。
　ズミネの回復だけでは治しきれない攻撃力だったため、これまでは回復ばかり行っていたのだ。
（「時間をかけて、また暴走されちゃたまらねぇからな」）
　前方で戦う和の背中に、睦也は視線を送った。
　月光を溜め込んだ符を構える。
「青白き月煌、遷ろう月。惑いの導きに、絶対なる零へと至れ――！！」
　生まれ出るものは、青白き月。
　その煌めきは、すべての動きを零にする。
「だいたい、テメェみたいなデカブツが近くにいるだけでストレスでもち豚の味、落ちるだろう。とっとと消えやがれ」
　凍りつく敵に向かって、彼は告げた。
　戦いはさらに何分も続いた。
　煙は少し晴れてきてしまっているようだ。
　敵が強力だからこそ、防御面を支援する技だけではなく攻撃面を支援する技を重視した方が安全に逃げられたかもしれない。
　かなりのダメージを与えているはずだが、敵はまだ動きを止めない。
　その間に、精鋭の強力な攻撃はミステリスのライドキャリバーを破壊し、さらにミステリス本人や真理の体力を削り取っている。
　和、利香、広喜が前衛で敵に痛打を与え、硬い装甲を砕き、切り裂き、ひしゃげさせる。
　刕桜は後方で銃大剣『クロス・サイフォス』を構えて隙を狙っていた。
　この場の仲間たちに比べれば、彼女の実力はまだ低い。
「ですが……今は、自分に出来る事を全力でしたいと思います！！」
　体よりも大きな剣を軽々と操り、一気に近距離まで踏み込む。
「斬り潰す！！」
　全身の力を込めた斬撃は、漆黒の装甲を深々と切り裂いていた。
　それでも倒れない敵は、巨大な拳を振り上げた。
　フォートレスガーディアンの拳が、唸りを上げて広喜に降り下ろされる。
　ミステリスはとっさに、その前に割り込んだ。
　迫ってくる漆黒の拳。傷ついてはいたけれど、その勢いに翳りはない。ドローンによる守りを打ち抜いて、攻撃は彼女の体を吹き飛ばす。
「やっぱり強敵なの……でも、あと少し、なのよ」
　むき出しの太ももが地面に触れているが、もう起き上がる体力は残っていない。
　かすむ視界の中、仲間たちの攻撃がダモクレスを追いつめていくのが見えた。
　拡散する光がケルベロスたちを襲うが、誰も倒れる者はいない。
　広喜は笑顔のままで、敵に突っ込んだ。
「どうした、俺はまだ壊れてねえぞ」
　拳を振り上げるその横で、真理が無表情にチェーンソー剣でジグザグに敵を切り刻む。
　たまらず後退しようとした動きを、地獄の炎を充填した眼球パーツが確実に捉えていた。
「壊れるまで、逃さねえ」
　六式の腕部パーツが装甲を砕き、容赦なく内部の回路を破壊すると、フォートレスガーディアンは完全に動きを止めた。
　ミステリスを支えたケルベロスたちは、煙が晴れきる前にと急いでその場を離れる。
　壊すにはいたらなかったが、魂の叫びは確実にバリアへと打撃を与えている。
　いずれこの地が解放されることを信じて、彼らは撤退していった。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年3月22日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 2
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。