●ええんやで
神奈川県郊外の一軒家。
「……やってしまった……」
青年ががっくりと項垂れてテレビの前に座っていた。
彼の手元には1枚の写真。
青空の下、如何にも純粋無垢そうな童顔をした少女が、ピンタックの何本も入った丸襟ブラウスを着て笑っている。
とても青年と同い年には思えない。
大学の構内で彼女を初めて見た時から、青年は魂を抜かれてしまった。
理性のタガがゆるむままに少女を目で追いかけ、足で追いかけ、中庭で隠し撮りに及び——。
今、その写真を前に、深く後悔していた。
彼女への気持ちが恋である事には間違いない。
だが、大学で彼女の姿を垣間見るだけで舞い上がって満足するような時期は、とっくに過ぎていた。
だから写真だけでも欲しくなってしまった。
写真に写る彼女をいやらしい目で見てしまった。
例え誰に知られなくとも、密かに彼女を視線で穢してしまった。
青年が、その寛いだ体勢とは裏腹に、強い自責の念へ苛まれていると、
「恵縁耶悌菩薩は『ええんやで』とおっしゃいました。あなたの罪は許されたのです」
デラックスひよこ明王が現れた。
「……!?」
「さぁ心を罪から解放し、恵縁耶悌菩薩の羽毛に抱かれましょう」
声もなく驚いた青年を余所に、デラックスひよこ明王は謳う。
「恵縁耶悌菩薩の羽毛はふわふわで、とても気持ちが良いものです」
事実、この数多のひよこに埋もれたようなビルシャナへも、恵縁耶悌菩薩の加護があるらしく、
「ええんやで、なんてすばらしい言葉なんだ……そうか、僕の罪は許されたんだ、もう自分を責める必要は無い。ふわふわの羽毛ばんざーい!」
青年はすっかり教義に救われた様子で、明るい顔になってビルシャナへ変貌していった。
「おそらく、すぐにケルベロスが襲撃してくるだろう」
ビルシャナ化した青年を見て、デラックスひよこ明王が心持ち表情を引き締める。
「ケルベロスは君の罪を償わせようと襲い掛かってくる」
「!!」
「だから君は戦わねばならない……勿論、恵縁耶悌菩薩の配下たる私も共に戦うゆえ、充分に勝利できる」
デラックスひよこ明王は、自信に満ちた声音で断言してから、音もなく隣に佇む和装の螺旋忍軍を紹介する。
「更に、自愛菩薩の力により新たに配下とした、この者も君を守るだろう」
鬼の面を首から提げた女螺旋忍軍が、ニヤリと笑う。
この女、かつて螺旋忍軍同士で争っていた数ある派閥の一つ、幻花衆の手の者である。
●
「ビルシャナの菩薩達が最近企て始めた『菩薩累乗会』について、新たな動きを予知したでありますよ」
小檻・かけら(油揚ヘリオライダー・en0031)が説明を始める。
『菩薩累乗会』とは、強力な菩薩を次々に地上へ出現させて、彼らの力を利用して更に強大な菩薩を喚び出し、最終的には地球全土を菩薩達の力で制圧する——というものらしい。
「『菩薩累乗会』を阻止する方法は、未だに判らないのでありますが……だからといって手をこまねいて見ている訳には参りません」
ケルベロスが今やるべき事は、次々出現する菩薩が力を得るのを阻止して、菩薩累乗会の進行を食い止めるのに他ならない。
「現在、活動が確認されている菩薩は『恵縁耶悌菩薩』であります」
強い罪の意識を抱えている人間を標的とし、自らの羽毛の力で罪の意識を綺麗さっぱり消し去ったが最後、その存在を自らの身の内に取り込んでしまう菩薩だ。
罪の意識に苛まれている人のもとへ、配下のビルシャナであるデラックスひよこ明王達が送り込まれ、じわじわと被害者を増やしている。
ビルシャナ化させられた一般人は、自分を導いたデラックスひよこ明王と共に自宅に留まり続け、柔らかな羽毛に抱かれ続けて罪の意識から逃げ続けているようだ。
「このままですと、罪の意識から逃れ羽毛に魅了された彼らは、遠からず恵縁耶悌菩薩の一部になってしまうでありましょう」
そうさせない為にも、出来るだけ早く事件を解決する必要がある。
「さて、皆さんに倒して頂きたいのは、派遣されたデラックスひよこ明王と、デラックスひよこ明王によって開眼した元人間ビルシャナ、そして幻花衆の3体であります」
デラックスひよこ明王は、頑健性に満ちた『黄色いひよこ玉』を景気良く投げつけて、広範囲の敵複数人に痺れを齎す斬撃を放ってくる。
また、『罪の救済パンチ』で敵1人を毒に侵すべく敏捷に長けた破壊力ある殴打を仕掛けてくる。
一方の元人間ビルシャナは、『ふわふわボア膝掛け』を鞭のように伸ばして攻撃してくる。
敏捷さに長け、敵単体の身体を縛めて動きを鈍らせる、射程自在の魔法グラビティだ。
「それに加えて、『お徳用容量割り増しティッシュ箱』なる斬撃もありますね。敵単体へ激痛を与え、かなりの体力を削いできますのでお気をつけ下さいませ。ちなみに頑健に秀でたグラビティであります」
ちなみに幻花衆は下級戦闘員である為、ビルシャナ達に比べれば戦闘力はさして高くない。
しかし、ポジションがディフェンダーなせいで、作戦によっては多少鬱陶しいかもしれない。
螺旋手裏剣にそっくりなグラビティを使って攻撃してくるようだ。
「罪の意識を感じすぎるのはあまり良い事ではありません。ですが、罪の意識が全くないお方というのも、人間的に問題がありましょう。被害者さんに適切な罪の償い方を教えてあげる事ができれば良いのでありますが……」
かけらはそう言って首を傾げた。
「ですが、デラックスひよこ明王が戦場にいる限り、恵縁耶悌菩薩の影響力が強いせいで元人間ビルシャナの説得は不可能であります。彼の救出を目指すならば、先にデラックスひよこ明王を撃破するか撤退させる必要がありましょう。ご注意くださいませね」
参加者 | |
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ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320) |
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079) |
猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868) |
赤峰・葉流(ピュロマーネ・e30365) |
月白・鈴菜(月見草・e37082) |
オリビア・ローガン(加州柳生の伝承者・e43050) |
鷹崎・愛奈(天の道を目指す少女・e44629) |
ルクシアス・メールフェイツ(この世の全てに癒やしを・e49831) |
●
青年の部屋へケルベロス8人が踏み込んだ時、ビルシャナ達と幻花衆は既に臨戦態勢だった。
「大体、何でも『ええんやで』で済んだら警察いらんねん」
まずは、猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)が至極尤もな意見を述べながら、幻花衆へ狙いを定める。
「ネコマドウの十五、『猫の手を借りる』。ぶっとばせー、キ・ン・グー」
そして五十円玉を天へと弾き、巨大な猫を喚び出した。
現れた猫は家ほどもある巨体から破壊力抜群のパンチを繰り出し、幻花衆の細っこい胸を何度も強打、相当な苦痛を齎す。
ウイングキャットの火詩羽も主の意思に忠実に——幸い千舞輝がサボっていないのもあって——清らかな翼で羽ばたき前衛陣の邪気を祓っていた。
続いて。
「ひよこ……ギャグキャラしていれば可愛いものを。被害者を、人間を返してもらうの」
デラックスひよこ明王の所業へ憤りを露わにするのは、ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)。
「利息は値切りに値切って、あなた達の生命」
言うなり召喚した氷河期の精霊を、情けは無用と奴らへ嗾ける。
「ビルシャナも派遣だの、働き方改革で大変そうね……でも気にしても仕方ないし死ね」
吹雪そのものの姿をしたアイスエイジは、幻花衆とデラックスひよこ明王を氷漬けにすべく、暴風雪を噴き荒らした。
「……」
幻花衆は声もなく明王を庇い立て、その身に倍のダメージを喰らって極寒へ耐えている。
更に、凍傷の痛みを受けつつ螺旋手裏剣に似た武器を投擲。
——ドスドスドスッ!
前衛陣の頭上目掛けて回転刃の群れを降らせた。
戦いは続く。
「痛いの気にせんでええんやで」
どうやらフレーズを気に入ったらしいノーザンライトが、棒読みしつつ癒やしの風を巻き起こして前衛の悪寒を取っ払う一方。
「わたしだったら、隠し撮りの内容によっては通報ですが……。いえ、ともあれ、冷静に平常心でがんばらないと、ですね」
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)は、うら若い女子として当然の嫌悪感に駆られながらも、懸命に平静を保とうとしていた。
「おのれビルシャナ、です」
それでもついついジト目になってしまうスズナだが、倒すべき相手は決して見誤らずに精神統一。
「もえさかれ、えんゆ!」
稲荷の眷属たる狐の妖力を発揮して、燃え盛る狐火の弾丸を勢いよく投げつける。
高速の弾丸は地を這うように幻花衆の足元へ燃え移り、奴の動きを鈍らせた。
ミミックのサイも、スズナと呼吸を合わせて幻花衆の脛へガブリと齧りつき、牙を立てている。
その傍らでは、
「ひよことドッジボール。勝敗はいかに……いや、やっぱ良いや。うん。うん?」
赤峰・葉流(ピュロマーネ・e30365)が、デラックスひよこ明王の奇抜な姿や戦い方から妄想を掻き立てられたのか、しきりにこくこくと頷いていた。
「地獄のドッジボール!」
かと思えば、ありったけの害意を込めた地獄の弾を幻花衆の顔面目掛けてぶち当てる葉流。
見事にクリーンヒットした獄弾が、幻花衆の体温を根こそぎ奪ってますます凍てつかせると共に、残り少ない体力を削ぎ落とし、ついにトドメを刺した。
「……使えない……所詮は下っ端ですか」
デラックスひよこ明王が、その可愛い容姿にそぐわぬ酷薄さで唾棄する。
「ですが、恵縁耶悌菩薩はお許し下さるでしょう。配下を失っても『ええんやで』と」
ましてや、陶酔した声を響かせながら、黄色いひよこを体から毟り取ってはぽんぽん投げてくるのも、かなり異様な光景であった。
「あ、ありがとうございます……!」
「気にせんでええんやで! これが正しい使い方やんな」
後衛陣がひよこに痛い目に遭わされる中、ルクシアスを背中に庇った千舞輝がニヤリと笑う。
さて。
「助けられる命なら助けたい! 難しいかもだけど……」
無理矢理ビルシャナ化させられた青年の身を真剣に案じるのは、鷹崎・愛奈(天の道を目指す少女・e44629)。
(「おばあちゃんが言っていた。『罪の重さなんてものは裁く側が決めるものなのよ』って」)
だからこそ、調停者は公正でないと——祖母に教わったオラトリオの信念を胸に、愛奈は翼から聖なる光を放つ。
いわばシャイニングレイを収束したかのような性質を持つ光の帯は、明王の丸っこい身体を貫き、奴の『罪』を直接灼いて苦痛を与えた。
他方。
「……団長は『あの青年は写真をオカズにした』とか言っていたけど……どういう意味なのかしら……?」
月白・鈴菜(月見草・e37082)は、ビルシャナ達の方を見て、無表情のまま首を傾げた。
「……よく分からないけど団長へ私の写真はいるのか聞いてもはぐらかされたみたいだし……」
どうやら、いつも台本をくれる団長の態度が釈然としないらしく、眉を顰める鈴菜。
砲撃形態にしたドラゴニックハンマーから竜砲弾を放って、明王の黄色ひよこで隠れた足を正確無比に撃ち貫いた。
「よくも明王を!」
元青年ビルシャナがいきり立って、お徳用容量割り増しティッシュ箱を幾つもぶん投げてくる。
「……」
グラビティ故に無論痛いものの、中身のスカスカっぽい箱を当てられたスズナが、何かを察していよいよ表情が険しくなる。
それでも決して青年を感情的に殴るまい、と拳を振り上げるのを堪えて、代わりに光の尾を引く重い飛び蹴りを明王へぶちかました。
「あんなに徳用ティッシュをアピールする理由が気になる。写真……ティッシュ……。ぁ……」
ノーザンライトは少女の写真を視界の隅に捉えて、思わず洩らす。
「ところで、何でティッシュで攻撃? 花粉症なのかな?」
不思議そうに目を瞬いているのは愛奈だ。
「鷹崎さんはまだ気になさらなくて良いんですよ……こればかりは、お教えしてしまったら、貴方のお祖母様へ顔向けできませんからね……」
ルクシアス・メールフェイツ(この世の全てに癒やしを・e49831)は、妙に強張った笑顔で宙を舞うティッシュ箱を眺めた後、やっとそれだけ言った。
「全ての束縛から、君は開放されるべきだ……私はそう思います」
ともあれ、あらゆるしがらみや拘束、束縛を否定し、自由であるべきとの思いを篭めて歌を歌うルクシアス。
グラビティもがっつり乗せた歌声は、束縛へ対抗する力を与えると同時に千舞輝の傷を癒した。
「ええんやで……グッドな言葉ではありマスが、もっとポジティブに使わなきゃ意味ナイデース!」
オリビア・ローガン(加州柳生の伝承者・e43050)は、持ち前の明るい笑顔で場に躍り出るや、ビルシャナ達へ向かって真っ当な苦言を呈する。
「DEUS- EXでもKAIJUでもブッタ斬ってやるデース!!」
同時に、かつて回収したらしいダモクレス『赤錆丸』の巨大チェインソウアームを背後へ二本召喚。
それらを彼女はまるで自分の刀のように振り回して、明王を——表面に密集する黄色ひよこ達ごと——メタメタに斬り刻んだ。
「死後のことは、なんもきにせんでええんやで?」
最後は、月の魔力を取り込んだノーザンライトが、光の軌跡を描きつつ殴打・回し蹴り・踵落としと舞うような連続攻撃を浴びせて、デラックスひよこ明王へトドメを刺した。
●
デラックスひよこ明王が倒れたのを見て、元青年ビルシャナは茫然と立ち尽くす。
「よくないですから!」
そんな彼の注意を引こうと、スズナが鋭く叫んだ。
「たとえ何とか菩薩が許しても、わたしが許しませんから!」
言葉こそ彼女にしてはキツめだが、表情は平静を取り戻している。
「彼女と、あなた自身のために……けじめは、つけた方がいいと思いますよ」
当人がもう子どもじゃないですと主張する通り、男女の機微について優しく教え諭すスズナの姿からは、精神年齢の高さがよく判る。
「少し年齢のはなれた恋というなら、応援しないこともない、ですし?」
そして、ふんわり微笑む面差しからは、年相応の恋愛への憧れや、他人の幸せを願える純粋さを兼ね備えている事も窺える。
「あなたの前に、素敵な恋路がひらかれますよう、お祈りしていますっ」
スズナが本心からそう言うのへ気圧されて、ビルシャナは反論する術を持たなかった。
「その人の事好きなんでしょ? だから盗撮したんでしょ?」
次いで真面目に説得するのは葉流。
「敵になったら気持ちをまともに伝える事もできないじゃん。それで良いの?」
盗撮して敵になった奴で終わって良いん?
日頃情緒不安定とは思えないぐらい、簡潔でまっすぐ心へ訴える問いかけだ。
「よくないじゃろ。無視できないぐらい、盗撮するぐらい好きならよくないでしょう!」
それ故かビルシャナも、自分が好きな子の敵だと断じられて、大いに動揺した。
「でも……僕どうしたら」
「潔くその女の子にアタックしなよ! 好きだって伝えようよ! その方がカッコいいよ!」
グッと両の拳を握り締め、葉流はビルシャナを懸命に励ました。
「……あ、ありがとう……?」
ビルシャナは我知らず礼を言っている自分に気づいた。視界はスズナと葉流を捉えたまま。
「……彼女に罪悪感を感じるのなら……本人に謝るしかないと思うのだけど……?」
鈴菜は至極冷静に、好きな子への謝罪を勧める。
「……だって……貴方は貴方自身を赦せないのでしょう……?」
これらは正確には鈴菜の弁でなく、所属旅団長がくれた台本の内容を喋っているだけ。
「……どんなに後悔してもやった事は変えられないし、それが断罪されるのか赦されるのは分からないけど……きちんと彼女に理由を説明して答えを貰うべきだと思うわ……」
それでも、前回の事件よりは台本の理屈に共感していると見え、鈴菜は台本の一言一句を噛み締めるようにして、抑揚のない声ながら切々とビルシャナへ訴えている。
「そう……だな。いつまでも僕が僕を赦せないなら、あの子に……やっぱちゃんと謝らないと!」
なればこそ、ビルシャナも素直に鈴菜のアドバイスを受け止め、謝る気になり始めていた。
「まぁアレや、オトコノコやし多少はしゃーないやろ」
一方、大人ならではの寛容さを見せるのは千舞輝。
「ただ、そこで『ええんやで』とは言わへんで。それを言ってエエんは、そのお相手さんだけなワケやからな」
それが物の道理だとばかりに懇々と説教するのも、見事に様になっていた。
「ゆーたかて、初っ端からええんやでって言って貰えるワケないで? 物事には順序ってモンがあるわけや」
果たして関西弁のお陰かは判らないか、歳より大人びて見える千舞輝が言うと妙に説得力があるのも事実。
「好感度上げて、ルートに入って、エンディングが近くなってから初めて『ええんやで』って言って貰える可能性が生まれるんやろ」
何故か例えが恋愛シミュレーションゲームになっているが、それはそれでビルシャナにとって理解しやすい為、ナイスな選択である。
「そういうワケや、まずはルートに入れるように努力するトコからやな。好感度上げ、がんばりや?」
千舞輝はビルシャナのなで肩をパンパン叩くや、イイ笑顔で激励を送った。
「は、ハイ!」
その頼もしさに、ビルシャナが思わず背筋を伸ばして返事するのも頷ける。
他方。
「貴方が本当に赦しを請わねばならないのは誰ですか? 貴方が想いを寄せる方に決まっています」
ビルシャナへ噛んで含めるように言い聞かせるのはルクシアス。
「今までしたことを全て彼女に話し、そして謝ってください。そして、その上で告白するんです」
「告白……」
「長い間見られてたら気付いてるはずです。脈は多分あります」
はっきり言葉にされるとやはり怖気付くのが、ビルシャナの表情が曇る。
——パァン!
「私と同じ男だろうが、はっきりしろよ! 好きなんだろ!」
そんな彼へ容赦ない平手打ちを食らわせて、ルクシアスは大喝一声。
彼の目を覚まそうと発破をかけた。
「……!?」
(「な、殴りました、ね……」)
まさか叩きまでする仲間がいるとは思わず、スズナが目を丸くするも、却って冷静になったようだ。
「アメイジング……これがいわゆる『オトコノコ』ってやつデスねー」
オリビアは対照的に感激している。
「……男ぉ!?」
ビルシャナは痛みも忘れて呆気に取られていた。さもありなん。
ドゴン!
そして、平手打ち以上の行為に出たのが愛奈。
「赦しっていうのは罪から逃げることじゃなくて、罪と向き合う人が受けるものだよ!」
景気良くジャッジメントレイをぶっ放し、ビルシャナの顔面もとい内なる罪を灼き尽くすと、
「この光を受けて痛みがあるのは、罪から目を背けてるからだよ!」
青年へ己の罪と正面から向き合って欲しいと解らせるべく、ビシッと言い放った。
仮に罪がなくてもグラビティ故に喰らえば痛いっちゃ痛いのだが、そこは黙っておくのが賢明。
「罪から目を背ける……その通りだな……」
ビルシャナは顔面を翼で抑えつつ、自嘲気味に呟いた。
「大好きな相手に『レツジョー』を覚えるのはセイシュンヤングなら仕方ないデース!」
オリビアもまた、青年の葛藤を直截的な単語で容赦なく言い当てるも、それでこそ健全なのだと彼を擁護した。
「ホントに謝るべき相手、許してもらうべき相手は彼女デショー。何故なら赦されたい気持ちは彼女を大切に思う気持ちの裏返しだからデース!」
一見天真爛漫で自由奔放に思えるオリビアだが、ビルシャナへ倫理を説いた上で彼の想いを代弁する話術は本物。
(「彼に必要なのは『赦し』ではなく『励まし』デス!」)
青年の精神状態をしかと見極め看破した上で、舌鋒を奮っているのだ。
「むしろそこまでする行動力があるならドーン! と彼女へアタックデース!」
最後は、ありのままの自分に自信を持つよう伝えて、彼の背中を押すオリビア。
「彼女へアタック……なんか、自信出てきたかも」
何せ明朗快活を絵に描いたような彼女が言うのだから説得力充分、効果も覿面である。
「赦しを決めるのは他人じゃない」
さて、仲間とは一線を画す厳しい言葉をぶつけるのはノーザンライト。
「ましてビルシャナなんて論外。甘言に逃避先を求めず、人に戻ってちゃんと向き合え。それくらいできない男は、モテない」
それでも、青年へ進むべき道を毅然とした態度で示したり、最後にモテないだの付け加えたりする優しさも覗かせた。
「ただし。ビルシャナに呑まれた罪はケルベロス的にアウト。罪を償うケジメと思って歯を食いしばれ」
——ゴスゥッ!
かと思えば、ビルシャナへ拳を減り込ませる辺り、やはり胸中に憤懣遣る方無いものはあったようだ。
「……」
ルクシアスには引っぱたかれ、愛奈やノーザンライトにはグラビティをぶち込まれ、目を白黒させていたビルシャナだが。
「……僕、あの子に謝るよ。それで、もしチャンスがあるなら告白したい!」
ついに菩薩の加護から解放されて、人間へと戻った。
作者:質種剰 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年3月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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