菩薩累乗会~物欲に勝てない!!

作者:宮下あおい


●物欲の衝動
「……やっちゃったなぁ……」
 リナは自室で学校の鞄から取り出したのは、新品のメイク用品。アイシャドウのパレットだ。
 どうしても欲しかった。高校ではメイクを始めた子も多く、校内でこそしないが休日にはお洒落して出かけることも増えた。
 ほんの出来心で、偶然人目がなくて可愛い色で、雑誌で見た商品。悪いことと分かっていたけど、それでも衝動的にしてしまった万引き。
 今になって自責の念が押し寄せてくる。パレットを鞄へと突っ込み、勉強机の椅子に座る。
 ふと後方で聞こえる知らない声。
「恵縁耶悌菩薩は『ええんやで』とおっしゃいました」
 リナが顔を向けると、そこにいたのは黄色い物体……デラックスひよこ明王だ。
 リナは何故か、声をあげることも出来なかった。うっとりとして、次の言葉を待つ。
「あなたの罪は許されたのです。欲しいものは欲しい! 己に正直で良いのです。さあ、心を罪から解放し、恵縁耶悌菩薩の羽毛に抱かれましょう。恵縁耶悌菩薩の羽毛はふわふわで、とても気持ちが良いものです」
「ええんやで……なんて素晴らしい響き……! 私の罪は許されたのね! ふわふわの羽毛ばんざーい」
 リナが何度も両手をあげて万歳を繰り返すうちに、羽毛が生えてきた。ビルシャナ化するリナを眺めながら、デラックスひよこ明王は続ける。
「すぐにケルベロスが襲撃してくる。ケルベロスは君の罪を償わせようとするだろう。だから君は戦わねばならない。
 もちろん恵縁耶悌菩薩の配下たる私も共に戦うから、充分に勝利できる。更に自愛菩薩の力により新たに配下とした、この者も君を守るだろう」
 その言葉とともに、一体の和服の女性型螺旋忍軍が現れた。

●ヘリポートにて
 アーウェル・カルヴァート(シャドウエルフのヘリオライダー・en0269)は集まったケルベロスたちに向けて、説明を始めた。
「予知により、ビルシャナの菩薩たちが恐ろしい作戦を実行しようとしていることが判明しました」
 その作戦とは、『菩薩累乗会』
 強力な菩薩を次々に地上に出現させ、地球全てを菩薩の力で制圧するというものだ。この『菩薩累乗会』を阻止する方法は現時点では判明していない。
 今はとにかく出現する菩薩が力を得るのを阻止し、菩薩累乗会の進行を食い止めることだけ。
「現在活動が確認されている菩薩は『恵縁耶悌菩薩』です。罪の意識を持つ人間を標的とし、自らの羽毛の力で罪の意識を消し去ることと引き換えに、その存在を自らに取り込んでしまいます」
 被害者は罪の意識に苛まれている人、配下のビルシャナであるデラックスひよこ明王たちが送り込まれている。
 ビルシャナ化させられた人間は、自分を導いたデラックスひよこ明王と共に、羽毛に抱かれ続けて罪の意識から逃げ続けているようだ。
「このまま羽毛に魅了された被害者は、恵縁耶悌菩薩の一部とされてしまいます。そうさせないためにも、出来るだけ早く事件を解決する必要があります」


「情報をまとめます。敵はビルシャナ2体と、新たに配下となった螺旋忍軍1体。デラックスひよこ明王は、体のひよこを利用して攻撃しくるようです。もう1体のビルシャナは、経文を唱えたり、氷の輪を飛ばし、回復用の清めの光も使います」
 ビルシャナは羽毛のふわふわを堪能しており、それを邪魔しにきたケルベロスたちを攻撃してくる。
 またビルシャナ化した人を先に撃破した場合、デラックスひよこ明王と螺旋忍軍は逃げ出すようだ。
 デラックスひよこ明王を先に倒した場合、ビルシャナ化した人を救出できる可能性も出てくる。
 方法としては事情を鑑みて、適切な言葉をかけた後に撃破。しかし今回の状況を考えると、難しいものであり可能性は極めて低い。
「配下の螺旋忍軍1体は、下級戦闘員のようで戦闘力はあまり高くありませんが、螺旋忍者と同じグラビティを使用するものと思われます。またビルシャナ2体を守って戦うので、ビルシャナ2体が先に倒されたなら、螺旋忍軍は撤退します」
 向かう場所は被害者の自宅、周辺は住宅街となる。
「ビルシャナの菩薩が事件を起こす……。何か悪いことの前触れでなければ良いですが。ともあれ、皆さん、今回も宜しくお願い致します」


参加者
オルネラ・グレイス(夢現・e01574)
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
ロザリア・レノワール(黒き稲妻・e11689)
二階堂・たたら(あたらぬ占い師・e30168)
斬崎・冬重(天眼通・e43391)
カイアナ・スレッズ(藍楽・e44187)
クーガー・ヴォイテク(紅蓮の道化師・e46526)

■リプレイ

●戦闘開始!
 ビルシャナ化してしまった少女の家、住宅街であるため、手分けして呼びかけや少女の両親も避難してもらった。
 ロザリア・レノワール(黒き稲妻・e11689)はリナの部屋のドアを開け放ちざまに、幻花衆に向けてコアブラスターを放った。
「まずは幻花衆から、退場していただきましょう!」
 エネルギー光線は、不意打ちを狙ったため直撃した。悲鳴と共に膝をつくが、まだ致命傷までには至らない。
 同じくして四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)の瞳がの色が緋色に変わった。カラスアゲハを象ったオウガメタルと共にしなやかで気まぐれな舞を踊る。
「さあ……クロ……いくよ。――舞えよ踊れよ……悪戯者の鱗舞曲(ロンド)……一目見たなら…もう逸らせない……」
 悪戯者――トリックスター。舞いながら敵にオウガ粒子を悪戯に振りまくことで、敵の特定の感覚・感情を過剰覚醒させ、暴走させるグラビティだ。
 羽毛の心地よさに浸っていたリナがちらりと視線を向けた。
「やはり現れたか、ケルベロス! 邪魔者は消してしまえばいいだけです!」
「ええ、そうよね。その通りだわ」
 デラックスひよこ明王は身体のひよこを投げ、リナことビルシャナは、経文を唱え始める。
「……あらら、ひよこまみれ寸前。まぁどうであれ、おまえらは1匹残らず狩らせてもらうさね……!」
 二階堂・たたら(あたらぬ占い師・e30168)が、ヴァルキュリアブラストを放つ。光の翼を暴走させ、全身を光の粒子に変えて敵に突撃するものだ。ひよこ明王が押し倒されるように、部屋の壁に激突し、ひよこも数匹勢いで明王の身体から離れる。
「リナ様……少々手荒くなりますが……お許し下さいまし……」
 ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)はフォートレスキャノンを発射した。もちろん加減はしてある。リナの説得と救出も皆で決めたことだ。ある程度のダメージと、足止めになればいい。
「なんとまあ、厄介な敵が現れてくれたものね。さあ、皆の支援、私に任せて」
 オルネラ・グレイス(夢現・e01574)は仲間たちの周囲に雷の壁を構築する。ライトニングウォール、味方の異常耐性を高めてくれるものだ。それに続くようにサーヴァントでウイングキャットのノイアが羽をばたつかせ、皆の邪気を祓ってまわる。
「この力を受けてみろ!」
 斬崎・冬重(天眼通・e43391)が、自身の名刺を投げて攻撃するグラビティ。――名刺スラッシュアタック。
 幻花衆が氷結の螺旋を放つ寸前、冬重の攻撃が幻花衆の足を止める。
 クーガー・ヴォイテク(紅蓮の道化師・e46526)のサーヴァント、ナノナノのミミが主人に向けてハート型のバリアを形作った。
「俺と踊ってはくれないかね? ほら、――喰らっとけ」
 連鎖狂乱――レンサキョウラン。
 火の付いた煙草を幻花衆へと投げつける。煙草へと意識が行った瞬間に懐へと滑り込むように移動し、止められぬ拳打蹴撃の連打を叩き込む。
 幻花衆は勢いで壁を突き破った。崩れ落ちる小物やコンクリートの欠片、砂塵が宙を舞う。
「バランスの取れぬ欲は身を滅ぼす……これで『退場』していただきます」
 これを見越して隣室で待機していたカイアナ・スレッズ(藍楽・e44187)の阿頼耶光。光輪拳士の阿頼耶識から発せられる光線が、幻花衆を撃ちぬいた。


「ここまでは順調……しかし油断なくいかなくてはね」
 オルネラが生命を賦活する電気ショックを飛ばす。エレキブーストは、味方の戦闘能力を向上させてくれる。
 幻花衆の撃破は、皆の連携や集中攻撃もあり、問題なく成功した。
 壁が壊れたり、床が抜けたり、家具が壊れ、大きな音を立てて崩れるものもあった。
 千里は精神を極限まで集中させる。
「万引きは犯罪……そのことに耳を塞いで逃げ出したら……そこから永遠にどこへもいけなくなるよ……?」
 突然の爆破はビルシャナを直撃したが、埃でも振い落すように、ビルシャナは首をふる。
「どこへ行けなくても、このふわふわがあればいいのよ」
「その通り! ふわふわ万歳! ケルベロスたちの出番はどこにもありません!」
 ビルシャナは羽毛のふわふわに、再度うっとりと目を細め、ひよこ明王が自信たっぷりに告げる。
「ひよこ明王は黙っていてくださいませ!」
 ミルフィが踏み込む。虚空に白刃の軌跡が残る。壁に激突したひよこ明王は、態勢を立て直したところに、緩やかな弧を描く斬撃がひよこ明王に襲い掛かった。
 ビルシャナが光を放ち、ひよこ明王の傷を癒す。
「お、ありゃぁ……!」
 たたらが皆の邪魔にならぬよう、またひよこ明王が投げてくるひよこを器用に避けながら、椅子の上に起きっぱなしだったリナの鞄をとった。一旦後方へ下がり、戦闘に巻き込まれない場所まで運ぼうとする。そこを狙って、ビルシャナの氷の輪が飛ぶ。
「だめよ! それは私のものなんだから!」
 たたらと氷の輪の間に、ひとつ影が割って入った。
「たたら、危ねえ!」
 クーガーだ。たたらを押し退けたが、氷の輪が直撃する。
 転倒。
 オルネラが駆け寄った。横たわるクーガーを抱え、その場で回復グラビティを使う。
「クーガーさん、今回復するわ」
「助かった、この礼はまたそのうちに」
 腹部あたりに直撃し、衣服が赤黒く染まったクーガーは、オルネラの言葉にどうにか頷いた。片手をどうにかあげ、たたらにも応じる。
 皆それぞれの細かな傷の回復も含めて、薬液の雨が降り注ぐ。
 ひよこの大群がオルネラへ押し寄せるが、その前に立ちふさがったのは冬重だ。簒奪者の鎌でひよこたちを薙ぎ払う。
「これある種、圧巻だな……しかし邪魔はさせない。オルネラくん、今のうちに!」
 それに応じるように、オルネラがクーガーに肩を貸し後方へ下がる。
 ひよこ明王の気を逸らすべく、ロザリアがビルシャナに向けて、不可視の虚無球体を放った。球体に触れたもの全てを消滅させる。
 もちろん、少しだけ手加減を加えて。
「羽毛のもふもふは確かに気持ちいいです。ぬいぐるみや犬や猫が相手でも気持ちいいし、温かいしふわふわだし。でも、『ええんやで』で罪は消えません」
 ビルシャナがロザリアを睨む。そこへオルネラのサーヴァント、ノイアが飛び出しビルシャナの真横から爪でひっかく。
 それに気づいたひよこ明王が、援護しようと攻撃目標を変えようとするが、僅かな隙を見逃すケルベロスたちではない。
 カイアナがひよこ明王の気を掴み、触れずに投げ飛ばす。
「己の欲を受け入れ、人との関わりの中で喜びを分かち合う……貴方様が人へ戻ったのなら、そんな教義もあるとお話させてくださいませ」
 彼女の育った環境と関係があるのか、少し思うところもあるようだ。だからといって、明王たちの教義を許せるはずもない。


 着物の裾が翻り、千里が敵のグラビティを中和するエネルギー光弾を発射する。
 近隣の家も戦闘に巻き込み、大きな音を立てて崩れていく。
「前を向く為にも……まずは、することがある……そうでしょう……?」
 まずは店に謝りに行くことだ。
 ビルシャナの目に僅かに動揺が見えた気がした。ひよこ明王が声を張り上げて、きっぱりと言い張る。
「ケルベロスの言うことなど、聞いてはだめです! 恵縁耶悌菩薩の羽毛の心地よさは貴女も知っているでしょう!」
「リナくんには『ええんやで』が赦しとは思って欲しくはない。――ひよこ明王、いい加減に黙っていてもらおう!」
 冬重が更に言葉を重ねようとするが、それを邪魔しようとひよこ明王のひよこが複数飛び掛かってくる。彼なりに思うところがあるらしく、少々語気が荒い。エアシューズでひよこの雨を鮮やかに避けながら、ローラーダッシュの摩擦を利用して炎を纏った、冬重の激しい蹴りがひよこ明王を直撃した。
 隣家の壁へ激突するほど、ひよこ明王は吹っ飛ぶ。身体についているひよこは、無事なものが明王の身体へ戻っていっているのか、数を減らした様子はない。
 隣家にひよこ明王が激突するのとほぼ同時。オルネラとともに、戦線に復帰したクーガーがミミに命じる。
「……ミミ、行け!」
「ノイアもお手伝いしてきなさいな」
 主人の命に従い、2匹のサーヴァントが駆け飛び、ミミがハート光線をひよこ明王に浴びせる。ノイアも続いて、尻尾の輪を飛ばした。
「ぐわあああ! ケルベロスの言うことなど聞いてはいけない! 貴女の罪は許されたのです。欲しかったんでしょう? いいではないですか、己に正直に!」
「ええ、そうね。そうよね!」
 ビルシャナがひよこ明王に応じて、光を放とうとする。
 ビルシャナを止め、ひよこ明王に勝負をかけるなら――今!
 ミルフィがアームドフォートの主砲をビルシャナに向けた。ビルシャナと目が合う。
「お洒落にご興味が湧く年頃というのも理解できますわ。しかし、後ろめたい事をして入手した様な品を使っても、心にわだかまりが残るばかり。……今はどうか、正気に戻ってくださいませ。そして、謝罪した後は一緒にお買い物を致しましょう!」
 一斉発射。
 反省させるばかりが手でもない。欲や興味があるなら、少し埋めるのも手段のひとつだろうか。女であれば、お洒落に興味の沸く年頃は大抵理解できるから。
「そのためには、ひよこ明王! これで最後に致しましょう!」
「おっと、自分も忘れてもらっちゃ困るさね!」
 カイアナがファミリアシュートを、リナの鞄を退避させ戻ってきたたたらがペイントラッシュを、それぞれ決める。
 連続攻撃の隙に、駆け寄ったロザリアが高速演算で弱点を見抜き、痛烈な一撃を放った。
「――これにて、ひよこ明王も退場ですね」


 ひよこ明王は倒した。しかしその後は一進一退が続いていた。
「『ええんやで』……なんて、貴女がした行為が本当に良い事なのか、貴女が一番わかっているはずだわ。過ちを犯した自分を誤魔化しているだけ。少しは気持ちが楽になったかもしれないけれど、本当の解決はしていないわ。ちゃんと罪と向き合って、心の底から楽になりましょう」
 オルネラが呟きながら、雷の壁を構成しながらリナへ言葉をかける。ノイアも細かな傷を負いながらも、皆の支援に走り回っていた。
 普段のように問答無用で倒してしまうのとは、訳が違うとは解ってはいたつもりだが、やはり苦戦となれば体力や精神力との戦いになってくる。リナへ言葉を掛け続けつつ、状況に応じて攻撃や回復を繰り返していた。
「動揺や困惑は見える。もう少しには違いないんだろうが……。ごめんなさいで済まないこともあるかもしんねえけど、最初は謝らねえと何も進めねえと思うぜ」
 近くにいたクーガーが前半をオルネラに、テイルスイングを振るいながら、後半をリナに向けた。ミミも奮戦している。
「罪と向き合う……? いいえ、謝りにいくことなんかないわ!」
 ビルシャナの奇妙な経文が響く。
 ロザリアへ直撃したが、カイアナがすかさず桃色の霧を放つ。もちろん、リナへの説得も忘れない。
「美しいものへの憧れる、それは素晴らしい事です。ですが物欲、背徳感への欲。これらと貴方様はしっかりと向き合っておられますか? 暴走した『欲』が悪徳へと堕ちる前に、もう一度貴方様の心の中を見つめ直して下さいませ」
 自分に正直になることは即ち、己の『欲』と向き合い、時には解放し、時には折り合いを付け、『欲』への思いを充実させること。止められない物欲は、当人が『欲』を無作為に解放し続け、充足することがないから。こんな『欲』が暴走し、完全に恵縁耶悌菩薩の一部となってしまう前に、救えるならと思うのだ。
 ロザリアが妖精弓を構える。対象を自動追尾する矢を放った。
「ありがとう、カイアナさん。……今はひよこ明王のもふもふで意識がそちらに向いているだけ。ある日突然、罪の意識に苛まれるのは貴女ですよ。もうひよこ明王もいません。今なら間に合います。やり直してみませんか?」
 罪悪感のある所に『ええんやで』と言われれば、なびきたくなる心情も分からなくはない。しかしそれを免罪符に、罪を重ねさせるわけにはいかない。きちんと罪と向き合い、前へ進まなければ。
 たたらも弓を構えた。しかしビルシャナの動きが止まる。誰のどの言葉が響いたかはともかく、その瞳に確かに動揺がある。
「人は間違える生物だ、だが間違えたと理解できる生物でもある。お前さんの罪はお前さんしか清算できない。違えた道は自分でしか正す事が出来ないのさぁ。だから戻ってこい、鞄を持って謝りに行け」
 様子見のため攻撃ではなく、仲間の回復に切り替え、光の翼が粒子となり周囲に拡散する。
 騎乗の白き乙女――ロスヴァイセ。
 ここまで相応の攻防が続いたのだ。いくら回復手段があるとはいえ、事実上8対1だ。追いついているとはとても思えない。
「私にしか……清算、できない……? 私、間違えて……謝りに、お店に返しに、いかな、きゃ……!」
 ケルベロスたちは顔を見合わせた。繰り返し繰り返し、言葉を重ねた結果、届いたのだ。
 冬重が攻撃を再開しつつも、リナの心が引き戻されないように、更に言葉を掛け続ける。
「俺にも娘がいるが、無責任な言葉を投げかけるほど駄目な父親ではないぞ。責任から逃れても罪は無くならない。過ちは償えばいい。そうだ、戻ってくるんだ。光溢れる世界に帰ってくるんだ!」
 ここからは全力で。冬重の大鎌がブーメランのように回転しながら宙を舞う。
 続けて隙を与えず、ミルフィがロケットパンチを放つ。
 アームドクロックワークス・ホワイトガントレット。砲戦や白兵戦でも力を発揮するナイトオブホワイトの形態。
「貴方を……いいえ、リナ様の中のビルシャナを討つには……この腕一本で、事足りますわ……!」
「前を向いて生きていく為にも……お店に謝りに行こう……不安なら私もついていってあげるから……」
 千里が全力でゼログラビトンを発射した。
 ビルシャナが倒れる。コンクリートや瓦が崩れ、粉塵が舞う。そして残されたのは、ひとりの少女だった。


 救出成功。
 やはり無傷とはいかなかったが、回復グラビティで充分治せるものだ。
 そしてリナを時に叱咤したり、励ましたりしながら、万引きしてしまった店に皆共に向かった。
 きちんと反省して、品物も返し、万引きの件は大事にならずに済んだ。
 こうしてケルベロスたちも、安堵した心地で帰路へつくのだった。

作者:宮下あおい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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