無謀戦士参上!?

作者:秋津透

「あ、あれ?」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は、怪訝そうな表情で周囲を見回す。
 そこは、一面の平野のど真ん中。場所は、北海道十勝総合振興局管内更別村なのだが、ミリムはそんな地名は知らない。いつものように家の近くで散歩していたら、いきなり広大な空間に出てしまった。背後を振り返っても、来た道はない。しかも、人っ子一人いない。
 そして、首を傾げるミリムに、比喩でも誇張でもなく雷鳴のようなやかましい声が浴びせられた。
「がっはっはっはっは! 小娘、ようやく手中に収めたぞ! さあ、尋常に勝負だ!」
「げえっ! ロビス!」
 三国志の漫画で張飛にでくわした魏将のような声を出し、ミリムは周囲に逃げ場隠れ場がないか、探す。しかし、ない。まったく、ない。十勝平原の真っ只中、視界の中には山も川も人家すらない。そして、直線での単純な追いかけっこでは、いかにはしっこいミリムでも、この相手……エインヘリアルの無謀戦士ロビスを振り切って逃げ切ることはできない。
(「……参ったなぁ」)
 これ、本気で尋常に勝負しないとダメ? と、ミリムはいかにも戦士然とした髭面のエインヘリアルを見やる。もっとも、今まで何度か追いかけられた時に、かなりあくどい嘲弄をした上で逃げ切っており、今更謝って許してもらえるとはとても思えない。
(「これはもしかして……年貢の納め時って奴?」)
 内心呻くミリムに向け、無謀戦士ロビスは独特の形をした佩刀を無雑作に引き抜いた。

「緊急事態です! ミリム・ウィアテストさんが、宿敵であるエインヘリアルが仕掛けた空間罠に嵌り、逃げ場隠れ場がまったくない十勝平野の真ん中で勝負を挑まれる、という予知が得られました! 急いで連絡を取ろうとしたのですが、連絡をつけることが出来ません!」
 ヘリオライダーの高御倉・康が緊張した口調で告げる。
「一刻の猶予もありません。十勝平野へ全力急行しますので、ミリムさんが無事なうちに、何とか救援してください!」
 そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「現場はここです。宿敵エインヘリアルは……うわ、何だこのいかにもタチの悪そうな容姿は!」
 思わず大声で叫んでしまい、康は慌てて説明をやり直す。
「失礼しました。宿敵エインヘリアルの名は、無謀戦士ロビス。エインヘリアルでありながら独特な形状の鉄塊剣を使い、右目が地獄化しているようにも見えます。ポジションは、おそらくクラッシャー。鉄塊剣(一本)のグラビティすべてに加え、簒奪者の鎌のデスサイズシュートのように、剣を力任せにぶん投げることもあるようです。また、剣を使わず拳で殴ることもあり、その打撃はオウガさんたちに匹敵するとか。とにかく、無茶苦茶に厄介な敵です」
 そういうと、康は溜息をついて続ける。
「ミリムさんはこれまで、相手の巨躯が抜けられないような隙間などを利用して、戦わずに逃げていました。そこで相手も考えて、見渡す限り逃げ場隠れ場がない平原の真ん中に引っ張り出した。ですが、相手が望むように一対一で尋常に勝負すれば、ミリムさんは瞬殺されてしまうでしょう」
 すると、遠音鈴・ディアナ(ドラゴニアンのウィッチドクター・en0069)が決意を籠めた声で告げる。
「この敵には、私も何か因縁のようなものを感じます。微力ですが、ミリムさんの救援と無謀戦士討伐に参加させてください」
「……わかりました」
 大丈夫かなあ、という表情をしながらも、康はうなずいた。
「幸いというか何というか、敵は単体で、増援は呼ばず、撤退もしません。相手を斃すか、ミリムさん……と、救援に入った皆さんが全員斃れるか、どちらかになります。どうかミリムさんを助けて、宿敵を斃し、皆さんも無事に帰ってきてください」
 よろしくお願いします、と、康は深々と頭を下げた。


参加者
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)
エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)
戯・久遠(紫唐揚羽師団の胡散臭いモブ・e02253)
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)
皇・絶華(影月・e04491)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)

■リプレイ

●因縁……と申しますか
「半分は……本当にただの直感です。高御倉さんが提示したエインヘリアルの画像が、初見のはずなのに、なぜか見たことがあるような気がしたんです」
 現場に急行するヘリオンの中、なぜミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)の宿敵、エインヘリアルの無謀戦士ロビスに因縁を感じたのか、日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)皇・絶華(影月・e04491)の三人から尋ねられ、遠音鈴・ディアナ(ドラゴニアンのウィッチドクター・en0069)は小さく首を傾げて答える。
「後の半分は、うち……遠音鈴家に伝わる伝承です。無謀戦士ロビスと名乗る斧剣使いの戦士が、遠音鈴家の先祖にあたる異世界の竜……この世界のドラゴンと同種かどうかはわかりませんが、とにかく竜に対して喧嘩を売ってきたという伝承があるんです」
「竜に挑む、戦士ですか」
 絶華が、何か感慨深そうな表情で呟く。
「で、あなたの先祖は、無謀戦士ロビスと勝負したのですか?」
「それが……うちの先祖ってば、無謀戦士ロビスの甥にあたる人に恋しちゃって……まともに闘えば、竜と人ですから負けるわけないんですけど。恋人に嫌われたくないんで、勝負を避けて逃げ回ったらしいんですね。そしたら無謀戦士さん、ますますいきりたっちゃって……最後は、恋人に全部事情打ち明けて、間に立ってもらって和解……というか、好きな人の伯父さんとは闘えませんごめんなさいと謝ったそうです」
 ディアナの話に、三人は顔を見合わせる。
「それで、無謀戦士は納得したのか?」
 蒼眞の問いに、ディアナは苦笑する。
「納得はしなかったみたいですけど、結局うちの先祖は無謀戦士さんの甥と添い遂げて、義理の姪になったもんですから、立場上喧嘩が売れなくなって諦めたそうです。甥に向かって、竜に挑む俺より、竜を女房にするお前の方が、よっぽど大胆不敵で無謀じゃないか、とぼやいたそうです」
「ふむ……その人が、もしエインヘリアルに転生したとしたら、闘いたいのに結局闘えなかった竜の子孫であるディアナさんに執着する可能性はありますね」
 呟いて、レーンは思案顔で続ける。
「ですが、だとしたらなぜ、ミリムさんに執着するのかしら?」
「さあ……ただ、うちの先祖は、竜として本気出すとき以外は、人間の若い女性の姿をしていたそうです。もしも無謀戦士ロビスがエインヘリアルに転生して、前世の記憶は失ったけど、こだわりだけが残ってるとしたら『勝負を避けて逃げ回る若い女性』をむきになって追い回す可能性はあると思います」
 そう言って、ディアナが肩をすくめた時、ヘリオライダーからの通報が響いた。
「間もなく、現場上空です。カウントダウンを開始しますので、一分後から順次降下してください」

●おのれ勝負だ! 勝負せい!
 一方、こちらは十勝平野の真ん中で対峙する、エインヘリアルの無謀戦士ロビスと、ケルベロスのミリム・ウィアテスト。
(「真っ向からの立ち合いは絶対に御免だけど……背中向けたら最後、斧剣ぶん投げてくるよね……たとえ躱せても、体勢崩れるから追いつかれて殴られる……ダメだ、弱い考えしか浮かばないよお」)
 雪に覆われ、身を切るような冷風が吹く早春の十勝平野で、ミリムは全身から脂汗をかきながら唸る。
 その時、一瞬、何か気配が動いた……ような気がした。
「あっ! 何だアレは!」
 ほとんど反射的に彼方を指さし、ミリムは反転し全力疾走を開始する。しかし同時に、足元を薙ぐような感じで斧剣を投げつけられ、間一髪、跳躍して身を躱す。
(「ちゃ、着地してすぐ走らなくちゃ追いつかれわぁ雪ある嵌る無理!」)
 足から着地したら雪溜まりに嵌ると判断、ミリムは身を投げ出すようにして雪上をころころ回転、エインヘリアルから距離を取ろうと試みる。
「逃がすか!」
 投げ戻ってきた斧剣を掴み、無謀戦士ロビスが急迫する。すると、その目の前に高空から降下してきた絶華が着地する。
「何奴だ! 邪魔をするか!」
「うぷ……貴様が無謀戦士か……なるほど、ドラゴンにも単身挑みそうな奴だな」
 まともに雪溜まりに嵌った絶華は、とっさにエインヘリアルの足を掴んで体勢を整える。絵面としてはあまり格好良くないが、とにかくミリムに迫る無謀戦士を止める。
「こら! 放せ! 貴様などの相手をしている暇はない! 小娘、逃がさんぞ!」
「ええ、逃げなくていいです。私たちが守りますから。怪我はないですか?」
 絶華に続いて降下してきた鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)が、雪に嵌らないよう光翼を使い半ば浮遊しながら無謀戦士の真正面に立ち、穏やかな口調でミリムに訊ねる。
(「た、た、助けが……来てくれた?」)
 立ち上がり、ミリムは無謀戦士に取りつく絶華と、間に立って守りの構えを取る奏過を見やる。
「あ、ありがと……ケガはないよ!」
「それは重畳……どうも、ただならぬ相手のようですから」
 そう言いながら、続いてレーンが着地する。彼女は、重力制御でもしているのか、雪の上にふわりと立つが、続く蒼眞は絶華と同様、ずぼっと雪溜まりに嵌る。
「ぶっ、この……えい、俺は剣士、日柳・蒼眞! 天下に名高い無謀戦士ロビス、いざ勝負だ!」
「ええい、次から次へと……貴様らが尋常な勝負を望むなら、このアンガス・ロビス、逃げも隠れもせんが、その前に、その小娘と勝負させい!」
 エインヘリアルが喚くと、雪の少ない路面に降下した戯・久遠(紫唐揚羽師団の胡散臭いモブ・e02253)が、軽い口調で応じる。
「いーや、そうはいかんね。俺はあんたと勝負なんぞしたくもないが、ミリム店長に手を出そうってんなら許さねぇ。店長は俺たちのアイドル、近くライブも控える大事な身だ。何の因縁があるか知らんが、おっさんの難癖につきあってる暇なんかねーんだよ」
 そう言いながら、久遠は唐揚げを取り出して、むしゃむしゃと頬張る。
「んー、こいつは美味い。さて、おっさんどうする? 尻尾巻いて逃げるなら見逃してやるぜ?」
「だ・れ・が・逃・げ・る・かぁ!」
 脳の血管をぶち切りそうな形相で、エインヘリアルが叫ぶ。いやはや、この人数相手に無謀なこって、と、久遠は大仰に肩をすくめる。
 そして、続いて降下してきたジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)も、翼を使って雪上にふわりと着地しながら、果敢に言い放つ。
「どんな因縁があったか知らないけど、しつこすぎるのは嫌われるよ! ロリコン集団マン・ハオウ王子と親衛隊といい、少女追い回すストーカーのキミといい、エインヘリアルって言うのは変質者の集まりかなんかなの?」
「む……」
 怒るかと思いきや、無謀戦士は眉を寄せて唸る。
「少女を追い回す変質者か……性的な興味はまったくないが、それを言ったらマン・ハオウ殿下の一党が若い娘の血肉を欲したのも、強くなるためだ。心情的にはロクでもないと思うが、むしろ俺の方が不可解かもしれんな」
「……どういうこと?」
 ジューンとミリムが声を揃えて訊ねると、エインヘリアルは不機嫌そうな表情で答える。
「なぜ、堂々と挑戦してくる佳き戦士を後回しにして、逃げる小娘をしつこく追い回して勝負を挑まねばならんのか、正直、俺自身にもわからん。しかし、早々に決着をつけておかねば、後で歯噛みするような事態になると、胸の奥で何かが告げるのだ」
「その結果、策を使って罠に嵌めたつもりが、逆に袋叩きにされるという羽目になったわけね。ご苦労様」
 久遠と同様、雪の薄いところへ巧みに着地したエルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)が、嘲るとも同情するともつかない口調で告げる。
 そして、ウイングキャットとともに翼を使って滑空降下してきたディアナが、緊張した声で呼びかける。
「初めまして、無謀戦士ロビス。私は、リムズベルの血を引く遠音鈴・ディアナ。貴方とは、初めて会うはずなのに、そうは思えない。貴方のほうは。どうですか?」
「む……確かに。お前からは、そっちの小娘と同じ何かを感じる。何が何でも、この場で勝負をつけねばならん相手だ」
 ディアナを見据え、無謀戦士は低い声で唸る。
「貴様は、逃げるか? こうして、ここに出てきておきながら、俺との勝負を避けるか?」
「いいえ、私は逃げません。勝負をつけましょう、無謀戦士ロビス!」
 緊張と、おそらく恐怖で声を震わせながら、ディアナは叫ぶ。その返答に、エインヘリアルの顔が歓喜と高揚に輝いた。
「よし! いくぞっ! こいつを受けてみろ!」
 強烈な気合とともに、無謀戦士は斧剣をぶん投げる。直撃されたらひとたまりもないが、すかさずディフェンダーのレーンが飛び出し、R.F.ストレージシールドをかざして庇う。
「邪魔するかあっ!」
「ええ、やらせませんとも」
 一撃でシールドを破られ腕を折られ、なんて破壊力と内心唸りつつも、元ダモクレスの指揮官機であるレーンは、完璧なポーカーフェイスでにっこり笑う。
「ディアナさん、ミリムさんを守るのが、私の使命。おふたりを攻撃したいなら、まず盾たる私を破らなくては」
「守護者か……その覚悟、敵ながら天晴」
 無謀戦士ロビスが、不承不承ではあるが称賛の言葉を発する。そして彼は、天を仰いで咆哮した。
「よかろう、勝負だ! 全員まとめて、決着をつけてやる!」

●そして決着へ
 その時、あるいは中天を高速で飛行し、あるいは猛然と雪を蹴散らし、戦場に突入してくる者たちがいた。
「うおおおおおおおお、間に合ったあ! 加勢するぜぇ!」
 突進しながら咆哮を放つ相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)に続き、オウガの少女劉・涼鈴(鉄拳公主・e50576)が猛然と走ってくる。
「ミリムにはお世話になってるからね! お手伝いするよっ! 強そうなヤツと戦うのは面白そうだしね! 行っくぞー!!」
「無謀戦士ロビス……我らヴァルキュリアが無上の敬意を以てヴァルハラに招いた勇者たち。その一員に挑める事こそ誉れ!」
 光の翼を輝かせて飛翔するヴァルキュリアのフレック・ヴィクター(武器を鳴らす者・e24378)が叫び、弟と称するボクスドラゴン『紅龍』とともに中天を舞うように飛ぶドラゴニアン、揚・藍月(青龍・e04638)が楽しげに告げる。
「龍に挑む無謀戦士か。その心意気や良し。という訳で、俺と紅龍はディフェンダーとして守護しよう」
「守護なら、任せてください! ミリムさん、ディアナさんはもちろん、誰一人として倒れることなく決着をつけられるよう、『相箱のザラキ』とともに微力ながらも献身いたしますよ!」
 泰地と涼鈴が豪快に雪を蹴散らした後を疾走しながら、イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)が叫ぶ。
 更にその後を滑るように進んでくるフォート・ディサンテリィ(影エルフの呪術医・e00983)は、施術黒衣に加えてペスト医師のマスクを常に被る異様な風貌ではあるが、治癒者としての実力は疑いない。
「凄いな……サポートメンバーだけでも充分闘えそうな陣容じゃないか」
 これも人徳か、と呟きながら、絶華は炎を帯びた蹴りを放つ。
 その一撃は素早く躱した無謀戦士だったが、突っ込んできた泰地に、後頭部をまともに蹴られた。
「筋力流剛刃脚!」
「ぐおっ!」
 よろめくエインヘリアルに、奏過がオリジナルグラビティ『雷鎖絶手(ライサゼッシュ)』を放つ。
「封じさせてもらいます……その武器を!」
「ぐぬっ!」
 グラビティで形成された鎖を飛ばし、腕に絡みつけて雷電を送り込む。ばちばちと閃光火花が飛び、無謀戦士の顔が歪む。
「ぬううう……」
「結局……ボクに執着したのって、人違いだったの? 本当に探してた相手は、ディアナさんだったの?」
 それはそれで何だかなぁ、と呟きながら、ミリムが奏過に追従するような感じで、グラビティの黒い鎖を放つ。
 すると無謀戦士は、じろりとミリムを睨んで告げた。
「違う。確かに、あのドラゴニアンの娘からはただならぬものを感じるが、それで貴様から感じるものがなくなったわけでも、減じたわけでもない。貴様との決着は、今、ここでつける!」
「たはぁ……」
 思わず溜息を洩らし、ミリムは肩をすくめる。
 一方レーンは、片腕をシールドもろとも壊された痛手をものともせず、愛用の惨殺ナイフ『九十六式斬魔刀』でエインヘリアルに斬りつける。
 するとフレックが、鷹ほどの大きさの炎の鳥を飛ばし、レーンの傷を治癒する。
「我招くは血筋に眠りし星の精霊! 来たれ震天! 魂さえ燃え上らせるその焔を彼の者に与えん!」
「ふふ、感謝します」
 にっこり笑って、レーンはフレックに会釈する。
 そして蒼眞が、斬霊刀を一閃させ、無謀戦士の肩口を斬って氷を付着させる。
「やるな、小僧……できることなら、貴様とは一対一で武を競いたかったが……」
 無謀戦士の呟きに、蒼眞は少々複雑な表情になる。本当に一対一で闘ったらまず勝ち目はないだろうが、それでもやってみたかった想いは、どこかにある。
 一方、そういった感傷とは縁のない久遠は、ごく冷静に、レーンにウィッチオペレーションを施す。
 そしてイッパイアッテナは、エインヘリアルへ怒りを付与する攻撃を行う。
「Komm!」
「む……こやつ……」
 無謀戦士の視線が、じろりとイッパイアッテナに向けられる。
 そして次の瞬間、藍月と紅龍が、痛烈な攻撃を叩きこむ。
「龍の力の一端、味わってもらおうか……八卦炉招来! 急急如律令!」
「ぐぬっ!」
 複数の符で結界を形成して火炎弾を叩き込み、超高温で焼き尽くし爆裂させる。これには、さしもの無謀戦士も全身真っ黒に焼け焦げる。
 そこへジューンがフロストレーザーを撃ち込む。
「鎧装天使エーデルワイス、いっきまーす!」
「がはあっ!」
 エインヘリアルは、身体を大きく震わせる。追い討ちとばかりに、エルネスタがオリジナルグラビティ『穿鵠御霊箭術(センコクゴリョウセンジュツ)』を放つ。
「みたまさんおねがい!」
「ぐっ……」
 縛霊手『エルのミシンハンド56.75』から放たれた針が、無謀戦士の鳩尾あたりに突き立つ。続いて涼鈴が蹴りを放ったが、これは躱された。
「ふぅ……」
 エインヘリアルは大きく息を吐くと、手にした斧剣の柄をひねり、口につけてぐいと呷った。
「……よし。まだやれるぞ」
「……ちょっと……あれって……斧剣の柄に回復薬か何か仕込んであったの?」
 ミリムが訊ねると、蒼眞が応じる。
「回復薬というか……たぶん酒だな。黒芋焼酎(シュワルツヘイガー)って奴じゃないか」
「グラビティとしては、ウェポンオーバーロード……みたいなものでしょうか」
 首を傾げながら、レーンが呟く。
 そして絶華が、凄絶な口調で告げる。
「我が全霊! 我が刃……その身に刻もう! 冥府にて誇りとするがいい!」
 言い放つと、絶華はオリジナルグラビティ『四門「窮奇」(シモンキュウキ)』を発動させる。
「我が身……唯一つの凶獣なり……四凶門……「窮奇」……開門……! ……ぐ……ガァアアアアアア!!!!」
 獣じみた叫びをあげて、絶華はエインヘリアルに襲い掛かる。狂ったように振るわれる惨殺ナイフ『三重臨界』で切り刻まれ、無謀戦士は低く唸る。
「さすがだ……若造。貴様とも、一対一でやりたかったな……」
「貴様こそ、さすが音に聞こえた無謀戦士……この状態で「窮奇」で仕留め切れないのでは、一対一で私に勝ち目などない」
 複雑な表情で、絶華が応じる。
 そしてミリムが、強い口調で言い放つ。
「一対一なんかで、やるわけないだろ! あんたはエインヘリアル、ボクらから見れば化け物だ! 一人じゃ逃げるしかない! でも、力を合わせれば倒せる!」
 言い放つと、ミリムはオリジナルグラビティ『サテライトブラスター』を発動させる。
「オーライ、オーライ……ファイア!」
「ぐわわわわわわわわーっ!」
 その瞬間、無謀戦士の頭上から、巨大な光と魔力の奔流が叩きつけられる。戦略兵器搭載軍事衛星のビーム砲をグラビティに転換して、デウスエクスを天空から攻撃するという、ミリムの切り札だ。
「……さすがだ、小娘。やはり、逃がすわけにはいかぬ強敵だったな。結果、追ったためかえって命取りにはなったが……悔いはない」
 完全に肉体が焼け熔け、骨に炭が絡みついた状態になりながら、無謀戦士はなぜか言葉を発する。
 デウスエクスに凌駕はないはずだが、まさか、と奏過と泰地が身構える中、無謀戦士は更に言葉を続ける。
「しかし、慢心するなよ。俺は、無謀戦士ロビス三十六人衆の一人に過ぎん。俺と同等以上の力を持つ斧剣使いの無謀剛毅なエインヘリアルが、少なくともあと三十五人いるのだ。彼らに目をつけられぬよう、気を付けることだな」
「ロビス三十六人衆……だと?」
 確かに、これが最後の無謀戦士ロビスとは思えなかったが、あと三十五人は多すぎだろ、と、蒼眞が唸る。
 そしてディアナが、溜息混じりに応じる。
「ご忠告、感謝します。私はリムズベルの血を引きますが、この血統にはロビスの血も入っています。ですから、どうか安らかに……我がご先祖様」
 すると無謀戦士ロビスの遺骸は、がらがらと音をたてて崩れ落ち、後にはサンダルをはいた足先だけが残った。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 10
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。