ワイヤード

作者:baron

『さあ、お行きなさい。そしてグラビティ・チェインを蓄え、ケルベロスに殺されるのです』
 黒に身を包む女性がナニカを開放した。
 そいつはガシンガシンと歩き始め、時折、崩れかけた体をドス黒いグラビティで支えながら移動して行く。
 マネキンの様な姿だが、人間にあるべき関節が存在せず、代わりに人間には無い部分に見た事も無い関節が存在する。
 ソレは元の形こそ人間に似たアンドロイド型ではあったが、既に変異した別のナニカだった。
『……』
 変わってしまった物も多いが、ソイツは元の様にグラビティを集める為に活動して行く。
 理性を失い獣のようになってもまた、グラビティを集めようと人々を虐殺していくのであった。


「静岡県静岡市で死神によって『死神の因子』を埋め込まれたデウスエクスが暴走します」
 セリカ・リュミエールが地図を手に説明を始めた。
 場所は工場などが多い地区で、人々が働いて居る場所だ。
「当然ながら放置する訳にも行きませんが、このデウスエクスが大量のグラビティ・チェインを獲得してから死ねば、死神の強力な手駒になってしまう可能性があります。そのためにも、このデウスエクスが、人間を殺してグラビティ・チェインを得るよりも早く、撃破しなければなりません」
 その為にはただ倒すだけでは無く、幾つか手順が必要だと言う。
「説明しますとこのデウスエクスを倒すと、デウスエクスの死体から彼岸花のような花が咲き、どこかへ消えてしまいます。おそらくは死神が回収するのでしょう」
 そこまで説明してセリカは注意事項を付け加えた。
「ですがデウスエクスの残り体力に対して過剰なダメージを与えて死亡させた場合は、死体は死神に回収されません。体内の死神の因子か何かが一緒に破壊されるのでしょう」
 だからトドメを刺す時は注意が必要なのだと言う。
「戦闘方法は変異した体を使って攻撃してきます。ギアで回転する脚や、ワイヤーで繋いだ手、ビーム砲そのものと化した顔。良くSFで見掛ける壊れたアンドロイドと言った風情です」
 ダモクレスやレプリカントが持つ回転する手が足になっていたり、ビーム砲が単発ではなく収束前に拡散してしまうなどの差があるものの、大きな変化はないそうだ。ワイヤーの様なても武器のグラビティを吸収しただけかもしれない。
「死神の動きは不気味ですが、まずは暴走するデウスエクスの被害を食い止めてください。よろしくお願いします」
 セリカはそう言うと急ぎ出発の準備に向かうのであった。


参加者
藤守・つかさ(闇視者・e00546)
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528)
黒鉄・鋼(黒鉄の要塞・e13471)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)
ルデン・レジュア(夢色の夜・e44363)
潟梛木・瑠美奈(オウガの女子高生・e50589)

■リプレイ


「警察に通報いたしました」
 目的地付近に達した辺りで、之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)は袂に携帯を仕舞う。
「デウスエクスの被害を一手に引き受けている今の日本なら、戦時中のように素早い避難ができるものと信じます」
「イベントでの自主規制なども、日本のモラルは凄いらしいですしね。……さて行きましょうか」
 しおんの言葉にアゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528)は頷きながら、ヘリオンの扉に手を掛けた。
 そして降下直前に空を蹴って、緩やかに舞い降りる。
「アレ……でしょうか。人々はまだ襲われて無い様子。これで作戦の第1段階は成功ですね」
「念の為に封鎖しておきましょうか」
 しおんの言葉に頷きながらカトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)は通路にテープを張ると、油断なく遠目に見える影へと迫る。
 最初は遠目に姿が見えただけだが、次第に全容が露わになっていった。
「正しく異形、でしょうか。身体各所にいい加減に機能をばら撒いた感じが否めません。半端に人のシルエットが残っている分、余計に嫌悪感を感じます」
「随分な異形になってるみたいだな。まぁ、機械にそんなこと言ってもわかんねぇか」
 アゼルに追随しながらノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)は回り込み始め、まずは通路を塞ぐ形で半包囲。
 戦闘が本格的に始まり次第、包囲網を完成させる構えを取った。
「最初からいのちなんて宿ってなかったのか、それとも最初は、いのちがあったのか。……いや、今はそんなの、どうだっていいことだ」
「そうだな」
 呟きながらノチユはつまらない事を言ったと首を振り、黒鉄・鋼(黒鉄の要塞・e13471)は言葉少なに頷いた。
 ノチユ自身が出口の無い答えで、意味が無い問答だと切り捨てた言葉に、つい反応したのだ。
「ああ、そうだな。……仕掛けるぞ」
 必要なことを喋らない鋼に取って、それを肯定する事は必要なことだったに違いない。
 ダモクレスは心無く、正確に機能を果たす存在だ。
 だから心が無いと言うのは侮蔑では無く当然のことであり、黙々と母星の為に働くことに誇りを持つ彼にとって、思えば必要な事だった。
 そして彼もまたケルベロスになった存在として、かつてダモクレスであった存在として義務を果たすべく戦闘行動を開始する。
「送るぞ」
「了解です。……コイツをつくり上げたやつはいいセンスをしているといえるでしょうね、まったく。そして嫌悪感に任せて半端に殴り倒すとグラビティチェンを持っていかれる」
 鋼が肩から体当たりを仕掛け、歪な形状をしたダモクレスの重心を崩す。
 そこへアゼルはガトリング砲を乱射し、頭を上げさせない様に砲撃を掛けた。
「単なる偶然かそれともそれも計算の上なのでしょうか」
 そう言いながらアゼルはワイヤーを束ねたブレードを引き抜き、ひとまずの距離を取る。
 そこへケルベロス達は左右から挟撃を仕掛けて行った。
「まずは動きを止めます」
「好きにしろ。こっちは退路を塞ぐだけだ」
 しおんが回し蹴りを浴びせるところで、ノチユはグラビティを活性化させた。
 漆黒の髪が地獄の焔に照らされ、星屑のように煌めき始める。
 そしてダモクレスの脇を抑えることで、緩やかなU字状に陣形を構築し始めた。


「……死神に操られているダモクレス……色んなデウスエクスがいるんだな……」
「死神の因子を植えられて、苦しいかと思いますけど。それから解放させてあげるのが私たちの役目ですわ」
 ルデン・レジュア(夢色の夜・e44363)に説明しながら、が飛び出した。
 ダモクレスの体が回転し始めた為、それを迎撃する為だ。腰そのものが回転し、膝にある二つの関節が別方向に唸りを上げる。
『きゅるるる!』
「人ではありえない多重関節……マネキンのダモクレス、ですか。この炎で、焼き尽くしてあげますわよ」
 カトレアは交差法で迎え討つように炎を伴う蹴りを繰り出した。
 中々成功するものではないが、相手の攻撃を相殺しきれない分だけが彼女の身にダメージとして刻まれる。
「焔を灯せれば理想的だったのですが……まあ、それは次回以降に持ち越すとしましょうか」
 カトレアは痛みに顔をしかめながらも、優雅にステップを刻み仲間に進路と射界を明け渡す。
「……死神に攻撃できないのが、くやしいな…………でも今は目の前の事に集中するか」
 ルデンは空を刻んで虚空に絵を描き始め、藤の花で天を紫に染め上げた。
「夜の終わり、始まる我ら、刮目されし色彩よ。花となりて世界を映せ……夢幻色/紫」
 天を埋め尽くす藤の花は、藤棚を思わせるほどのしな垂れ掛る。
 右に左に咲き誇り、行かに動こうとも進路を妨害する為にそこにあるのだ。
「きっれー! うーっし初っぱなから良い感じー! これがケルベロスデビュー、気合い入れてくし!」
「ならもう一花咲かせてやろう」
 潟梛木・瑠美奈(オウガの女子高生・e50589)が走り出したところで、藤守・つかさ(闇視者・e00546)はボタンを押した。
 予め敷設しておいた爆薬が、グラビティの注入と共に炸裂して行く。
 一面に咲く花が舞う様な気配がした後、周囲が爆裂してダモクレスを呑みこんで行った。
「そいやさー! って、何か良い匂いがしない?」
「多分、アレだと思いますよ」
 瑠美奈が流体金属で作った鉄拳で殴り付けると、周囲から良い香りが漂ってくる。
 すると、しおんが星剣の加護の他に流体金属の粒子砲を一応準備しながら、つかさが吹かせて居る風のことを教えてあげた。
 風も粒子砲も、敵が放つビームに対抗する為に用意されているのだ。
『フィィフィフィフィ!!』
「なんとお!」
 瑠美奈は急遽立ち止まって仲間の前に立ち、怪光線を弾き返す。
 自分の体で一人分の攻撃を止め、そのまま拳の先に黄金の角を伸ばした。
「オウガというのはケタ外れですわね。さぁ、この神速の突きを見切れますか!?」
「いやー。そんなに褒めないでよ照れるから」
 別に褒めてませんと言いながら、カトレアは瑠美奈と同じ様に光に向かって立ち塞がった。
 そして攻撃を放ち終わったばかりのダモクレスに、赤き薔薇の如き刀を抜いて突撃を掛けたのである。
「なんとか大事には至らなかったようだな。しかし自分で戦うならともかく、他人を見守るのは気を使うな」
「そういうの良く判らないけど、あんま気にしなくて良いんじゃない? 結構……いや、かなり元気ッポイし」
 つかさは風に花を載せて香りとグラビティで防壁を作り、溜息を付きながら胸を撫で下ろした。
 その言葉に対しルデンは楽しそうに戦っている瑠美奈を指差したのである。いや、オウガは例外で良いか。
「とにもかくにも……ぶっとべ!」
 ルデンは話を切り上げて、強烈な雷撃を放ったのである。


「このまま押さえつけるぞ。だから……」
 ノチユは周囲を見渡し、逃走ルートが無いことを確認してから攻撃を始めた。
「跡形もなくゴミ屑になって終われよ。そうして誰にも思い出してもらえなくなればいい」
 ノチユは足の関節を剣で削り飛ばし、顔面をロッドで叩き割ろうとする。
 だがその行為に意味は無く、ただ追い詰め抹殺する為の布石だ。仲間と共に包囲し追い立て、葬るために最適解を繰り返す。
(「忘却か。……それもまた良いかもしれんな。反逆の歴史などダモクレスには必要無い」)
 言葉には出さず鋼はチェンソーを掲げて斬り掛った。
 黙々と剣を振るい装甲を切り裂き、負荷を抑える為の予備機構を奪い去る。
 一刻も早く一刻も早く、死神などに操られるダモクレスを除去しなければと急ぐ。
「これでも喰ら……。ああ、もうっ。こういう姿を見ると嫌になりますね」
 アゼルが刃を先に付けたワイヤーを一度左右に振ってから鎖鎌のように刺突用に延ばして行く。
 だが、それに触発されたのか、敵もまたワイヤーアクションを掛けたのである。

 肩から肘、手首、爪先に至るまでが分解されて、ワイヤーで数珠つなぎになったブレードが周囲を切り裂いて行く。
「任せますよ。……私はどっちでも良かったんですが、こんなのを見せつけられると……。早く倒したくなるかなぁ」
「むわーかせて!」
 アゼルが少し下がって鞭の軌道にも似た高速の斬撃を連続浴びせると、入れ替わる様にして瑠美奈が前に出た。
 ワイヤーブレードを掴みながら、流体金属の拳で逆襲を行っている。
 同様に彼女が連れてる(憑いてる)怨霊も飛び出して、主人(?)の代わりに妖刀をを振り回して行った。
「強力だが範囲攻撃主体だからか、思ったほどでは無いな」
「一応、な。万が一を考えれば楽観したくはないが。まあ誰1人倒れさせないさ、思いっきり行ってこいよ」
 ノチユが猛攻を加えながら押し込んで居ると、つかさが傷付いた盾役を風で癒して居るのが見えた。
 今のところサーヴァントを含めた盾役がカバーしているので問題無いが、それは100%成功する訳でもない。
 つかさとしては過信したくはないし、単発攻撃を庇い損ねたら大変である。その場合は数人で掛らねばならないので、治療役に慣れて無い彼には安心出来ないのだ。
「更に傷口を広げて差し上げますわよ!」
「……ならばコレか」
 カトレアが虚空を緋色に切り裂いたのを見て、一瞬遅れた鋼は剣の機構を開放した。
 爆音を立てて刃が振動し、突き立てた後から敵の内部を揺さぶって行く。
 こうして乱打戦にも似た戦いにより、一気に戦局は進んで行ったかに見えた。


「んーと、出てこない?」
「そろそろかもしれませんね。注意が必要だと思います」
 ルデンが作りあげた紫花の結界から敵がなかなか出てこない。
 その様子を見て、しおんは粒子砲での支援に切り換え、ガイドを始めることにした。
「因子の咲く瞬間を見てみたいと思っていたが、その事で死神が強くなる、周囲に迷惑をかける可能性があるというなら止めておこう」
「その方が良いですね。場合によっては、私もコレで打ち止めです」
 ルデンの言葉に頷いて、アゼルは突き刺して居たワイヤーを戻し、元の扇形に組み変え直した。
 このタイプの再生デウスエクスは、ただ倒すだけでは問題があるのだ。
 死神の計画を助けてしまうとあっては、迂闊に攻撃は出来まい。
「んー。どうしよっか」
「俺達でトドメを刺す。倒してしまいそうだったら、回復でもして居てくれ」
 瑠美奈が確認を取ると、鋼はチェンソー剣を構えて最大火力に切り換えた。
 その言葉に頷いて、瑠美奈は少しだけ考えた後……。
「ちょ、なんか暴れ出したし!?」
 妖剣を携えた亡霊が暴れて同じ技を繰り返し始めたことから、瑠美奈は考えるのを止めた!
 サーヴァントは己の分身という者も居るくらいだが、もしかしたら熱暴走していたのかもしれない。
 大人しく拳で負傷を殴り、痛いの痛いの飛んで行けと回復に専念したのである。
「まあ、そう言うことでしたらお任せしますわ」
「判った。僕か黒鉄さんのどっちかで倒すよ」
 カトレアは気力を高めて回復しつつ、退路に成るべき位置を塞ぎに掛る。
 ノチユは自分がやっていたことを彼女が変わってくれたので、安心して全力を振るうことにした。
「じゃあ逃がさない様に挟み打ちで行こうか」
「了解した。異存はない」
 ノチユが勢いを付けて飛び蹴りを掛けると、鋼はタイミングを合わせてナイフに切り換えた。
 それは彼が用意した技の中で最も精度の高いモノであり、確実な死をもたらす一撃である。

 先に命中した蹴りが残った体力の過半を奪い、元から薄かった装甲を大きくへこませる。
 そして腹から胸に切り上げられたナイフが、彼岸花ごと死神の因子を消し去ったのである。
「死神の因子は、どうなりましたでしょうか?」
「それでしたら……」
「……っ」
 カトレアが確認し、しおんが顔をのぞかせてダモクレスの残骸を眺めようとした。
 それよりも先に鋼がそれらをバラバラに打ち砕き、切り裂いて行く。
「終わりましたね。しかし、最後まで気分の良くない依頼でした。早く死神を探したしたい物です」
「貴方の裏切りは未遂に終わりました。それなら、貴方は最後までダモクレスだった筈です……」
 アゼルが弔う様に切り裂かれたパーツを埋めると、鋼は敬礼してかつての同胞を見送ることにした。
(「殺意ではなく暴走を止めようとしたのか。ああ、この人は優しいのだ、と今更に気が付いたな」)
 ノチユは悼む二人には声を掛けず、口を開いたら余計なことを言ってしまいそうなので黙っておいた。
 彼としてはダモクレスに思うことは無くとも、ケルベロスとしての仲間に見せる配慮くらいは持っているのだ。
「一歩間違えれば私もあちら側だったのかもしれませんね……」
「お疲れさん……なるほど? 誰1人倒れさせないと言いたくなるな、これは……」
 しおんとつかさはヒールで周辺を修復しながら三人三様な彼らのを様子を眺め、背負うモノが大き過ぎるのだと気が付いた。
 ならばせめてその背くらいは守ってやりたいと思うし、自らも背負うのであれば、やり切ると断言せねばやっていられないとも思う。
「……因子の破片……ないのか? ないなら……たまには散歩でもしてみるか」
「ないみたいだねー。あー、ほんとこの変なのマジ困るんですけど…」
 ルデンが念の為に周囲を確認して、死神の痕跡や修復し忘れが無いことを確認する。
 初依頼の終わった瑠美奈は、肩の荷が下りたと言いながら、暴走を続けて居るかに見える妖刀を手に溜息をつくのであった。
 こうしてそれぞれの思いを胸に、死神の陰謀は蘇ったデウスエクスともども葬られたのである。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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