「よし、あと10回!」
森の奥で、どしーんどしーんと大きな音が鳴っている。
道着を着た青年が、樹木に頭突きを繰り返していた。
「本日の訓練、これにて終了」
「その前にさぁ、お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
森へ頭を下げようとしたところで、樹木の上から降ってきた声に意識を奪われる。
青年はその樹木へ頭突きを喰らわせ、降下してきた女へも頭からぶつかっていった。
しかし女にダメージはなく、笑いながら青年の背後へとまわり込む。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
そうして大きな鍵で胸を貫かれた青年は、どさりとその場に倒れてしまった。
入れ替わるように、隣にドリームイーターが立ち上がる。
「森を抜ければ誰かいるんじゃないか? お前の武術を見せつけてきなよ」
女の言葉に、ドリームイーターはぴょんぴょんと駆け出すのだった。
「ドリームイーターが出現します。出られる方はいらっしゃいますか?」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、皆に訊ねる。
調査に協力した、堂道・花火(光彩陸離・e40184)も隣で様子を見守っていた。
「幻武極というドリームイーターが、武術を極めようと修行に励んでいる武術家を襲う事件が発生しています。欠損している『武術』を奪い、モザイクを晴らすのが目的のようです」
そんな幻武極にとっては残念なことに、今回の襲撃では、モザイクは晴れなかったよう。
代わりに、武術家のドリームイーターを生み出して暴れさせようとしているらしい。
「出現するドリームイーターは、襲われた青年が目指す究極の技を使いこなします」
いまから向かえば幸い、このドリームイーターが森を抜ける前に迎撃できる。
ケルベロスも含めて、技の届く範囲に家屋やヒトの姿はないとのことだ。
春めく樹木や草花はあるものの、派手に破壊しなければ問題もない。
ひとまずは、被害を気にしなくて構わないだろう。
「ドリームイーターは、頭突きを極めています。近距離攻撃は勿論ですが、脚のばねを利かせた遠距離攻撃も強力です。バッドステータスにもご注意ください」
しかもこの技は、列の全員を巻き添えにするから厄介である。
特に武器は持たないが、その分、頭突き技に磨きがかかっているのだ。
「今回のドリームイーターは、自らの武道の真髄を見せつけたい衝動に駆られているようです。そのため戦いの場を用意すれば、相手から挑んでくるでしょう。どうかお気を付けて。よろしくお願いします」
セリカ曰く、被害者は屋外の修練場に倒れたままでいる。
ドリームイーターを倒すまでは、眼を覚まさない。
彼に声をかけるか否かはお任せしますと、セリカは付け加えた。
参加者 | |
---|---|
樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916) |
九十九折・かだん(自然律・e18614) |
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224) |
堂道・花火(光彩陸離・e40184) |
大道寺・悠斗(光と闇合わさりし超者・e44069) |
ティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448) |
ライナー・ハイドフェルド(孤独なる闇剣・e46618) |
リカール・マグニフィコ(愛は惑星を超える・e51255) |
●壱
森へ降りたケルベロス達は、間もなくドリームイーターと遭遇した。
「お前がまさかの頭突きを極めた格闘家のドリームイーターッスね! その武術にはめちゃくちゃ興味があるんスけど……被害を出すのはダメッスよ!」
堂道・花火(光彩陸離・e40184)は、巨大な鉄塊剣を構えて挑発する。
大きく振り上げつつ跳んで、そのままドリームイーターを叩き潰した。
「オレが全力で受けきってやるッス! まずはオレ達と戦えッス!」
くるっとバク宙して着地してから、愉しそうに呼びかける花火。
「アタシを置いて何処へ行くつもり? 逃げたらダメよぉ♪」
地上からは、リカール・マグニフィコ(愛は惑星を超える・e51255)が組み付く。
「アタシは身体が頑丈なの。安心して任せてちょうだい♪ それにしても、頭突きを極めた武術家ねぇ。どうして頭に拘るのかしら、あとで訊いてみたいわねぇ」
明るい声で仲間達へ宣言して、にっこり。
リカールの興味は、既にドリームイーターを通り越して被害者へと向いている。
「頭突きねぇ……そういえばまだ頭突きを主体にした武術とは戦ったことがなかったな。技がまったく想像できねぇ。まぁ邪魔も入らねぇし、一体どんな戦いになるのか楽しみだな」
ティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448)の日本刀が、緩やかな弧を描く。
そして瞬間に、ティリルは握る手に力を籠めて急所を斬り裂いた。
「氷つく頭突きとかどう考えても頭突きで起こす内容の範疇超えてるじゃねぇか!!! ワンダーかよ!! ドリームかよ!!! 想像力いい加減にしろよ!?」
「理想を基にしたドリームイーターだし、仕方ないんじゃないか?」
「アッ、ハイ……」
勢いよく、ライナー・ハイドフェルド(孤独なる闇剣・e46618)は疑問をぶちまける。
だがティリルの答えに、気付いたように納得。
思わず落としそうになったシガレット菓子を咥え直して、ライナーは影の弾丸を放った。
すると防戦一方だったドリームイーターが、不意に身体を浮かせる。
頭から突っ込んで前列全員に衝突して、もとの場所へと戻った。
「ほらほら、凍ってるから。回復するから下がって下がって!」
すぐにメディックの、樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)が声をかける。
最も体力の減少しているライナーを、真に自由なる者のオーラで包んだ。
「頭突きか。よっしゃ来い。どっちが強いか……誰が一番強いか、決めようぜ。武人」
九十九折・かだん(自然律・e18614)は言いながら、飛び蹴りを炸裂させる。
負けず嫌いな性格は、負けるはずがないという確信めいた感情を湧かせた。
「ところで、かだんさんは角で戦うの?」
「んー、そのとき次第だな。それより、回復周りは全部任せるよ。いけるだろう、正彦?」
「勿論ですお」
正彦とかだんは、ともに何度も依頼を戦った仲で互いのことも熟知している。
そんなふたりめがけて、ドリームイーターが頭突きをしかけてきた。
「最早、頭突きでやる必要はあったのかというレベルの話ではあるが……」
軽く溜め息を吐くのは、ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)だ。
外套の下に這わせる攻性植物から収穫した黄金の果実を、前列へと贈る。
「まぁいいか。珍しいモノが見られていい刺激だ」
それでも思い直して、大きなピンクの瞳でドリームイーターを観察した。
「誰だだと? 訊かれたら、答えてあげるが世の情け……」
ドリームイーターは言葉を発さないので、訊いてきてはいないがそれでも。
「我輩はシャドウエルフのぉ~~~、大道寺悠斗っ!!」
正々堂々と、大道寺・悠斗(光と闇合わさりし超者・e44069)は名乗りを上げる。
と同時に、不可視の虚無球体を両の掌から放った。
●弐
ドリームイーターも、やられっぱなしではいられない。
凍気を纏って大地を蹴り、中衛のペルを狙い打った。
「ブレイク、ブレイク、頭をクールに」
相撲の雲竜型で待ち構えていた正彦が、即座にペルの背後へ。
ガジェットから噴出する魔導金属片を含んだ蒸気で、傷を包み込む。
「助かったよ、正彦。さぁて。頭にも痺れを来たし、リフレッシュするがいい。視界を灼き、白き光景を刻み、瞬間に砕けろ」
己の魔力から生み出した強力な白雷を拳に宿し、ペルは地を蹴った。
打ち注いだ白雷はドリームイーターの全身を駆け巡り、その身体を拘束する。
「喰らいやがれッ!」
魔力を籠めた喰霊刀で以て、必殺の一撃を放つティリル。
大切な仲間を傷付けられた苛立ちが、ガラの悪さに拍車をかけている。
「潰えて、終え」
樹氷が如き腕の先に繋がるかだんの絶対零度の拳が、腹部に命中した。
散りゆく六花が、ドリームイーターを氷の世界へと誘っていく。
たいするドリームイーターも、前衛陣へと氷を重ねがけてきた。
「どういう原理ッスかねー! 怖いッスよ! でも参考にしたいいい技ッス! だから尚更オレ達以外には撃たせないッスよ! オレの炎だって、こんなこともできるッス! 地獄展開、穢れを払え!」
ドリームイーターの頭突きが超常的すぎて、花火は吃驚感嘆の声をあげる。
だからちょっと対抗してかっこよく、仲間を癒す暖かい地獄の炎で前列を囲い込んだ。
「しかし、この格闘家はなぜに頭突きをチョイスしたのであろうか? パキケファロサウルスにでも憧れたのであるか?」
慣れた手つきで、悠斗は拳銃形態へと変形させたガジェットから魔導石化弾を発射する。
恐竜は分厚い頭骨をぶつけあって闘っていたという説もあるのだが、果たして。
「ふふ、たいした頭突きだけどアタシ達が協力すればこんなのなんてことないわ! 絆の力を見せてあげましょう! アタシの愛、受けとってっ♪」
リカールも、愛に溢れたオーラを全身から放出しつつ、励ましの言を同列の仲間達へ。
華麗な所作からも言葉からも、思いやりの心が溢れている。
「呪弾解放。顕現せよ、死して尚恨みを纏い、怨敵を喰い潰す『死告の弾丸』よ」
詠唱で、一族に伝わる喰霊刀に宿った呪いを解放するライナー。
弟子達の魂のつくる怨敵への恨みは弾丸となり、ドリームイーターを撃ち抜いた。
●参
攻防を繰り返すうち、ドリームイーターを追いつめていくケルベロス達。
レベル2の頭突きにも、これまでのような威力がなくなっていた。
「お前もそろそろ終わりだな。まぁまぁ楽しかったぜ」
肩に喰霊刀をあてながら、ティリルは妖しく笑う。
刻まれた呪詛の力を刃に載せて、美しい軌跡からの斬撃を放った。
「このマチャヒコに勝てますかお?」
グラビティ・チェインを介して、辺りにある材木のコントロールを奪う正彦。
優しそうな豚の表情からは想像できないほど猛烈に、大量の材木を降り注がせる。
「裏コード入力。1000-10-0……これが我輩の最終兵器である!!」
悠斗が入力したのは、ガジェットを秘密形態に変形させて浮遊砲台を射出する裏コード。
グラビティの反動で吐血してしまったものの、トマト……と言って誤魔化した。
「おお……正彦さんも悠斗さんもカッコイイッス……参考にさせていただきたいッス」
ふたりのグラビティに感動して、驚嘆の言葉を発する花火。
自身はエアシューズに流星の煌めきと重力を宿し、ドリームイーターへと蹴り込んだ。
「いやだから頭突きで突っ込んでくるんじゃねぇよ!? 頭を切り払い防御とかいくら敵でもしたくねぇよ!? 頭を鎬で受けるとかこんな経験したくなかったわァ!!!」
絶叫しつつ、ライナーはドリームイーターの頭を凶太刀で引き受ける。
だがしかし完全に止めること叶わず、頭突きの進行方向が変わってしまった。
「あら、そっちはダメよ!? アタシも頭には自信があるのよ。角は自慢なの♪」
後衛とドリームイーターのあいだに割って入ったのは、リカールである。
身体を張って仲間を護り、頭部から黄金の角を伸ばしてドリームイーターを刺し抜いた。
「やるな、リカール。ドリームイーターよ、知ってるか。降魔真拳は頭突きでも出る」
動きの止まった相手の耳許へと迫り、思い切り頭をぶつけるかだん。
頭突きでも己の方が勝っていると言わんばかりに、腕を組んで仁王立ちしてみせた。
「本当に面白いな、頭突きだけでここまでやれるとはな……だが、そろそろお得意の頭突きはネタ切れか。レベル3以降も見たかったが……それにしても、石頭どころではないな。刺さるのか不安になるぞ? クク……」
最期は、ペルの喰霊刀がドリームイーターの頭を貫く。
刃から伝う呪詛がその魂をも汚染し、活動を停止させた。
●肆
周囲を見渡して、ひとつ息を吐くケルベロス達。
警戒を解いて落ち着いて見れば、薄赤や黄色の花が咲いている。
「もう春だものな。冬の氷は、森にはもう要らないのだから」
静かに呟いて、満月に似たエネルギー光球を浮遊させるかだん。
自身の散らせた氷花も含めて、抉れた大地や樹木をヒールした。
「どれ、我も手を貸そう」
ペルも溜めておいたバトルオーラを放出し、不思議な植物を生やしていく。
それぞれができることをおこない、可能なかぎりもとの森の姿へと近付けた。
「頭突きを極めるとああなるとかあんまりその、考えたくねぇんだけど。想像力って、やばいよな……一応、被害者は起こしにいこーか」
今回のドリームイーターにたいする素直な感想を述べて、ライナーは苦笑する。
新しいシガレット菓子を咥えて、先頭をきって森の奥へと進み始めた。
「あ、発見です! 大丈夫ですかお?」
ばたばたと走り寄り、ジョブレスオーラを注ぐ正彦。
間もなく、青年は眼を覚ました。
「私達はケルベロスだ。痛いところはないか?」
ティリルの問いかけに、青年は大丈夫ですと答える。
けれども立ち上がるのは、もう少し待ってからの方がよさそうだ。
「野生動物にいたずらされていなくてよかったのである。我輩達が来たのだ、もう安心であるぞ。わぁっはっはっはっ!」
尊大な態度で高笑う悠斗だが、内心には速攻で後悔の気持ちが溢れだしてくる。
ただ、心底安心したような眼前の青年に、ちょっと救われた。
「まだ冷えるッスよね! ゆっくり休んで欲しいッス! それに頭突き、凄かったッス。極めて世界を目指して欲しいッス」
花火の言葉に喜び、ありがとうございますと笑う青年。
同世代の花火と青年、頭突きについて熱く語り始める。
「ねぇ。なんで頭突きを極めようと思ったの?」
これまで強さを追い求めてきていたリカールは、話が切れるのを待って問うた。
すると青年は、サッカーのヘディングがかっこよかったからだと答える。
サッカーの運動量についていけるだけの体力はないけれども、頭突きなら負けないと。
にかっと笑うのだった。
作者:奏音秋里 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年3月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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