卒業式に竜牙兵!

作者:柊暮葉


 香川県、とある高校--。
 その高校では卒業式が行われようとしていた。生徒達は校舎から体育館に次々と移動していく。
 卒業式が終われば社会へと巣立つ若者達である。
 その晴れがましい舞台の上空で、不穏な光が輝く。
 光は『牙』となって校庭へ落下--3体の竜牙兵となった。
 竜牙兵はあっという間に体育館を破壊して生徒達へ襲いかかった。
「オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ」
「オマエたちがワレらにムケタ、ゾウオとキョゼツは、ドラゴンサマのカテとナル」
 竜牙兵は、そう言うと、周囲の人々を無差別に殺戮し始めた。
「グァァァハハハ」
 血と臓物の溢れた体育館の上で、竜牙兵の咆哮が響いていた。


 ソニア・サンダース(シャドウエルフのヘリオライダー・en0266)が集めたケルベロス達に説明を開始した。
 リリィエル・クロノワール(夜纏う刃・e00028)は、真面目な顔で話を聞いた。
「香川県の高校の卒業式に竜牙兵が現れ、人々を殺戮することが予知されました。急ぎ、ヘリオンで現場に向かって、凶行を阻止してください。竜牙兵が出現する前に、周囲に避難勧告をすると、竜牙兵は他の場所に出現してしまう為、事件を阻止する事ができず、被害が大きくなってしまいます。皆さんが戦場に到着した後は、避難誘導は警察などに任せられるので、竜牙兵を撃破することに集中してください」


 ソニアは説明を続ける。
「出現する竜牙兵の数は、3体です。装備している武器は簒奪者の鎌、狙いは卒業式の生徒達ですね」

 ゾディアックブレイク頑健近単斬撃+ブレイク星座の重力を剣に宿し、あらゆる守護を無効化する重い斬撃を放ちます。
 ゾディアックミラージュ理力遠列破壊+【氷】剣に宿した星座のオーラを飛ばします(例えばさそり座なら蠍、双子座なら双子)。
 スターサンクチュアリ頑健遠列ヒール+【BS耐性】地面に描いた守護星座が光り、仲間達を守護します。
 星天十字撃頑健近単魔法+【パラライズ】二つの星座の重力を同時に宿し、天地揺るがす超重力の十字斬りを叩き込みます。

「なお、竜牙兵は戦闘が開始されると敵に集中し、人々を襲ったり撤退するという事はありません。強さは我々ケルベロスと同程度と思われます」


 最後にソニアはこう言った。
「竜牙兵による虐殺を見過ごす訳には行きません。どうか、討伐をお願いします」


参加者
楠・牡丹(スプリングバンク・e00060)
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
天谷・砂太郎(汚れちまった悲しみに・e00661)
イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)
レイス・アリディラ(プリン好きの幽霊少女・e40180)

■リプレイ


 香川県の高校--。
 その卒業式が竜牙兵に襲撃されるという情報を得て、ケルベロス達は、迅速に行動を開始した。

 ケルベロス達は卒業式が始まる前に、密かに配備されている警察官とともに体育館周辺に潜み、竜牙兵達を待った。
「卒業式ぐらいは平和にやらせてあげればいいのに……まぁそんなことお構いなしか。仕方ないね。やらなきゃいけないことはシンプル。がんばろ」
 楠・牡丹(スプリングバンク・e00060)は体育館へ移動してくる卒業生を見守りながらそう言った。
「虐殺は必ず阻止するぜ、晴れの舞台なら尚更だ! オレ達が来たからには誰一人殺させはしねえ!」
 相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)は、勢い込んでいる。
「人々の新しい門出を襲おうなどと、許せません。絶対に守りきらねばばりませんね」
 イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)は、きっぱりと言い切った。
「卒業式って、学生の大事な思い出の1つなんだろ? それを潰されちゃたまったもんじゃない。せめて被害が最小限になるように俺たちで全部ぶっ倒すぞ。……なんだか香川に最近よく来てる気がするんだが、依頼案件ばかりで大した観光出来てねぇなあ……もったいない」
 村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)は、かすかにため息をついた。
「お世話になった学校を笑顔で旅立ちたい、よね」
 エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)はそう言って、唇を噛みしめた。
「丁度、私も先日卒業式迎えたから」
 エリンは4月から中学生になる身である。卒業を迎える者達の為にと気合は十分だ。
「人が集まるところならこいつらはどこにだって出てくるのね。芸のない攻め手には飽き飽きするけど、今回は丁度いいわ。ただただ叩き潰すことだけを考えていればよいのだから」
 レイス・アリディラ(プリン好きの幽霊少女・e40180)は、軽く笑ってそう言った。

 体育館は荘厳な静けさに包まれて、今正に、式が始まろうとしていた。
 そのとき、体育館の上空に不穏な光がきらめいた。
 光は見る間に巨大な『牙』となる。
 そして校庭に向かって急降下--体育館に至近距離の地面に突き刺さった。
 『牙』はたちまち3体の骸骨兵士に変身していく。
 そして、手に手にゾディアックソードを掲げて叫んだ。

「ドラゴンサマにグラビティ・チェインをササゲヨ!!」
「キサマラの最高の憎悪と拒絶をヨコセ!!」
「グォオオオオオ……!!」

 体育館中から生徒達の悲鳴が響き渡る。ひそかに配備されていた警察官達が飛び出して、警笛を鳴らしながら懸命に避難誘導を開始した。

「現れましたね……皆さん、行きましょう!」
 イピナが走り出す。

「骨だらけで目が付いてないから見えないかもしれませんけど、貴方がたの相手は此方です!」
 体育館に迫り来る竜牙兵。ジェミ・ニア(星喰・e23256)は彼らの前に立ちふさがる。
「せっかくの門出の日、竜牙兵に邪魔させるわけにはいきません!」
 彼は、パイルバンカーを鋭く掲げ、竜牙兵を挑発した。
「なんとか間に合った様だな。しかし、いつも同じ台詞ばかりでもう飽きてきた……これだから雑兵は」
 天谷・砂太郎(汚れちまった悲しみに・e00661)は、ジェミの隣に駆け寄りながら嘆くように言った。
 他のケルベロス達も次々に駆けつけて生徒達のいる体育館を背に、竜牙兵達を食い止めるように立ちふさがる。
 警察官達はプロの手際で続々と生徒達を避難させていった。

「邪魔ダ……」
 暗黒そのもののような眼窩に不気味な赤い光を宿しながら、竜牙兵が言った。
「ソコヲドケ! ウジ虫ドモ! キサマラゴトキ下等生物ガ、ワレラノ邪魔ヲスルナ!」
 別の竜牙兵達も口々に叫ぶ。
 しかし勿論、ケルベロス達が後退する訳がない。
 皆、次々に武器を取り出して構えた。
「ワレラニ、グラビティ・チェインヲ捧ゲヨ!!」
 苛立った竜牙兵Sn1は、ゾディアックソードを振り回した。
 剣に星座の重い重力を宿しながら牡丹へと突進して行く。
 銀河の重力をこめたまま牡丹へと振り下ろされる斬撃--辛うじて受け止めたものの、牡丹はその場の地面に膝を突いて呻いた。
 Sn1はうなり声を上げながら、二振りの剣を空高く振り上げる。二つの剣双方に、星座の重力をこめると、蛮声としか言いようのない雄叫びを上げて、泰地へと超重の十字斬りを放った。
 泰地は受け止めようとしたが吹っ飛んだ。
 Sn3はそんなケルベロス達を見てほくそ笑み、ゆっくりとゾディアックソードで守護星座の魔方陣を張り、自分と仲間を守護した。

「……誰も落とさせないよ」
 エリンは装甲から光の粒子を放って味方の超感覚を目覚めさせ、傷ついた仲間を回復していった。
 起き上がる泰地。口の中の血をぺっと地面に吐き捨てる。
『纏めてかかってきやがれ! この筋肉が相手してやるぜ!』
 そこで泰地は挑発(列攻撃用)(チョウハツレツコウゲキヨウ)で指を振り上げ、思い切り竜牙兵達の注意と敵意を自分へ引きつけた。
 砂太郎は、小型化して服に仕込んだライトニングロッドの先端から雷撃を迸らせ、Sn1を攻撃した。さながら掌から雷撃を放っているように見える。麻痺していくSn1。
 ジェミは流星の煌めきをたなびかせながら、宙を飛んで重力をこめた跳び蹴りをSn1に炸裂させる。
 ほぼ同時に柚月が反対方向からSn1に同じくスターゲイザーを炸裂、二人の間でボールのように蹴られるSn1。
『いけっブローラ! 氷結ビーム!』
 牡丹はテレビウムのブローラと共に美しき友情(エクス・ブローラ)を使った。
「私の手は届かなくても! ブローラを投げるとちゃんと届く!」
 ……吾輩はブローラ、テレビウムである。故に電撃も炎も出すことはできない。ましてや氷など。しかし、今現在、主の手によってどこからともなく現れた氷塊に投げつけられている。速度もコースも十分。ぶつかれば氷塊は砕け辺りに飛び散るだろう。しかし命綱なしに投げつけられる吾輩の身にもなってほしいものである。悲しいかな、投げられるのには慣れてしまっているが……。
 砕け散った氷が竜牙兵達に襲いかかり、みるみる氷結させていく。
「御自慢の得物を砕いてあげるわよ」
 レイスは精神を集中してSn1の武器を遠隔で爆破していく。
 そこでイピナが空の霊力を帯びた斬霊刀で、Sn1の傷口をなぞり上げて傷の威力を一気に増した。
「ぐはぁっ……!」
 Sn1が骨の喉をのけぞらせる。そのまま後ろに脳天から落ちて行って、地面に倒れ伏し、動かなくなった。

「イイ気ニナルナヨ……!」
 竜牙兵達は歯がみをした。
「下等生物ノウジ虫ガ! ドラゴンサマに逆ラウ気か!」
 別の竜牙兵が憤怒の叫びを上げる。
 彼は再び、二振りのゾディアックソードを振り上げると、泰地に突進していった。
 星天十字撃をその体に受ける泰地。
 筋肉が軋みを上げる音が聞こえるような激突。
 そのまま泰地は1メートル近く地面を音を立ててずり下がったが、持ちこたえた。
「俺の力を甘く見るなよ」
 不敵に笑う泰地。
 それを見て、Sn3は再びスターサンクチュアリを張り巡らせ、自分達の防護を高める。

「いい気なのはそっちだよ」
 エリンはマインドリングの上に光の盾を浮かべると、その力によって泰地を庇護し、回復していった。
 泰地は、マッスルガントレットに己の豊富なグラビティ・チェインを乗せると、武器ごとSn2に叩きつけた。その衝撃に砕け散るSn2の防護。
 砂太郎はエアシューズの摩擦熱を利用し、そのまま火炎を纏った回し蹴りをSn2に叩き込む。
 ジェミは杭に雪の何倍も勝る冷気をこめ、Sn2に突き刺した。
 火炎の地獄から冷気の地獄へ激しい温度差を浴びせられるSn2。軽い呻きが漏れる。
 牡丹は口から火炎の息を吐いて竜牙兵達を焦熱に包んでいく。
 冷気からさらに火炎。
 続いて牡丹のブローラによる凶器攻撃。
「ぐ……う……」
「鬱陶しいんで、少し黙ってもらおうか!」
 力を失っていくSn2に、柚月は緩やかな弧を描く斬撃で迫る。その動きを捕らえようとする。
「元より肉のない相手ならば、そのまま骨を断ちます!」
 イピナも同じく月光斬でSn2を捕縛していく。
「不格好ねえ。もう少しスリムになってみるのもいいんじゃない?」
 虫の息のSn2に、レイスがチェーンソー剣を振り上げて突撃。
 チェーンソー剣でSn2の防具全てを切り破り、無慈悲にトドメを刺した。
「斬れるのだもの、大したことない『牙』よねぇ」
 トドメを刺してレイスは笑った。

「バカナ……」
 Sn3は目の前の現実が信じられないようだった。
 ウジ虫、下等生物と罵っていた地球人達が、仲間をことごとく破ったのだ。
「グっ……竜牙兵ニ撤退ハアリエン……キサマラゴトキニ……」
 憎々しげに吐き捨てると、Sn3は頭をそびやかし、ゾディアックソードを振り上げた。
 剣の切っ先に守護星座のオーラが宿る。
 オーラに宿るのは春に似つかわしくない冷たすぎる凍気。
「ワレラドラゴンノ『力』ヲ思イ知レ!!」
 そう怒鳴り散らし、Sn3は凍気を帯びた守護星座のオーラをケルベロス達へ飛ばした。
 敵のオーラの包まれた前衛達から悲鳴が上がる。肌を引き裂くレベルの凍気が彼らを襲ったのだ。前衛が凍り付く--。

「……落とさせない!」
 エリンはフェアリーブーツで軽やかに踊り回る。ほぼ同時に花が降りしきり、前衛を治療回復していった。
 砂太郎は精神を集中し、思念をこめて、Sn3の骨の手首を遠隔で爆破していく。一振りのゾディアックソードを取り落とすSn3。
「お返しだぜ!」
 泰地は、卓越した技量の一撃を放ち、Sn3を凍り付かせていった。
 柚月は流星をきらめかせつつ、重力の跳び蹴りでSn3を攻撃する。
「私は守るばっかりだと思った? 残念、これでも少しは攻撃参加できるんだなー」
 牡丹はケルベロスチェインを射出し、刺し貫いたSn3を神殺しの毒で汚染する。
 ブローラはテレビフラッシュを使う。
 イピナは突進していくと音速を超えた拳でSn3を吹き飛ばし、防護をクズした。
『この漆黒の闇で塗り潰してあげるわ!』
 レイスのダークマタープレス。
 混沌とした鈍い光を放つエネルギー体を武装に纏わせ敵に叩きつける必殺技である。鎌の刃のごときダークマターがSn3を斬りつけ押しつぶす。エネルギー体は揺らぎ、傷口を歪ませる。
『餮べてしまいます、よ?』
 Devour(ディバウア)を使うジェミ。
 影の中から発生した漆黒の矢。尾を引いて、変幻自在な軌道を描き、相手を射抜いて生命を奪い去る。それは、彼が捕食者だった頃の能力の名残――。
 それがトドメとなり、Sn3は滅びた。


 戦闘後、ケルベロス達は皆でヒールと片付けを行った。
 そして、卒業式を見送る事にした。
「守り切れて、本当に良かった――もう大丈夫です。これからも、皆さんは私たちが守りますから…安心して、これからの人生を歩んでください」
 イピナは笑顔で卒業生達を送り出した。
「最悪の思い出にならずに済んだな」
 柚月もレイスとともに卒業式を見ている。
「この一瞬を大切にしようとする人間の儚さ、嫌いじゃないわよ」
 レイスも微笑んで呟いた。
(「学校を『卒業』することは『良いこと』だけれど、『友達と分かれる』ことは『悲しい』定命の者は、その短い一生の中に、たくさんの感情を詰め込んであるから 、寿命を持たない者たちよりも、ずっと充実した生を送れるのだと思う」)
 ジェミは学校に行った事がないので、どこか羨ましげに生徒達を見ている。
 卒業式の進行では、次は閉会の辞のはずだった。
「全員、起立!」
 しかし、不意に、マイクからそんな声がかけられた。
「守っていただいたケルベロスと警察官のみなさんに--感謝の礼!」
 卒業生達は後ろを振り返ると、一斉に、ケルベロス達へ頭を下げた。
 ケルベロス達は、一瞬、呆気に取られた。
 そして、一人一人が、自分達が守った命だということを思い出し、胸がじんわりと熱くなっていった。
 年配の警察官達が拍手を始めた。
 ケルベロス達も、皆、これから社会へ飛び立つ卒業生達へと惜しみない拍手を送った。
 そうして卒業式は終わっていった。
 砂太郎は、これから社会の荒波に飲まれていく若者達を見送ると、肩をすくめた。
「さて、そんじゃ帰りますか」

 こうして、ケルベロス達は、卒業式を無事に守り、任務を達成したのであった。

作者:柊暮葉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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