己を彩りし影は

作者:幾夜緋琉

●己を彩りし影は
 とある都内にある高級ホテルの一部屋。
 眼下には美しい夜景が広がり、何処かドラマチックな雰囲気。
『何よ……もう、知らない!!』
 ……そんなドラマチックな雰囲気とは真逆の、怒れる女性の声。
 その声の主は、目に涙を浮かべ……ドアをバンと開け放ち、其処から去り行く。
『……ちっ……ふざけた女だ』
 舌打ちし、苛立ちの声を上げるのは、とても顔立ちの整う、モデルと見紛う程に美しい男性。
 ……どうやら、彼女からフラレた……という事なのだろう。
 そして、彼は気を落ち着ける様に、手にワイングラスを持ち、外を眺める……すると。
『……ふふふ。全く、罪作りな人よね』
 微笑むは、何処かエキゾチックな、露出度の高い服装に身を包んだ女性……青のホスフィン。
『何だよ、オマエを招いた記憶は無いぞ?』
 と、ちょっと訝しげな彼だが……次の瞬間、パチンと彼女が指を鳴らすと、彼の身は、青い炎へと包まれる。
『っ……!』
 流石に驚き、目を見開く彼。
 その炎から逃れる事は出来ず……そして、完全に彼の身を包んだ炎が消えると、そこには……整った顔立ちの、エインヘリアルの姿。
『フフ……なかなか良い見た目のエインヘリアルが出来たわ。やっぱりエインヘリアルになら、外見に拘らないとよね? でも、見かけ倒しなんてダメだから、とっととグラビティ・チェインを奪って来てね。そしたら、迎えに来てあげる』
 片目ウィンクを飛ばすと、エインヘリアルはこくり、と頷き……そして、部屋を出て行くのであった。

「ケルベロスのみんな、集まってくれたね! それじゃ、早速だけど始めるね!」
 と、元気よく笹島・ねむが、集まったケルベロスに挨拶すると、早速。
「どうも、有力なシャイターンが出現したみたいなんだ。彼女達は死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性を其の場でエインヘリアルへとする事が出来るみたいなんだ」
「この現れたエインヘリアルは、グラビティ・チェインが既に枯渇している状態だから、どうにか人間を殺してグラビティ・チェインを奪う為に暴れ始めようとしている様なんだ。だから急ぎ、現場へと向かい、この暴れているエインヘリアルの撃破を頼みたいんだ!」
 そして、更にねむは。
「このエインヘリアルはどうも、青のホスフィンによって作り出されたエインヘリアルの様で、かなりのイケメンなエインヘリアルさんの様なんだ」
「勿論、イケメンだから何だ、って言うのもあるかもしれないけど、少なくともその美しい顔立ちを活かして、今迄多くの女性達を泣かせてきたという事があるみたいだね」
「そんな、このエインヘリアルの攻撃手段だけど、大きな斧を力尽くで振り回すという、あんまりスマートじゃない攻撃方法が得意みたい。その力尽くで倒れない相手は、叩きまくればいつかは倒れる、といった具合の考え方で攻撃してくるから、受けない様に注意してね?」
「後……まぁその顔に自信があるみたいだから、エインヘリアルを褒めたり、靡いた振りをすれば攻撃のターゲットからは基本的に外してくれるみたい。ただ攻撃をしてきた相手にはそれは効果無い様だから、どう勧めるかはみんなでちゃんと相談する様にね?」
 そしてねむは最後に。
「何にしても、状況的には余談を許さない状況なのは間違い無いよ。でも、みんなならきっとエインヘリアルの虐殺を止められるはず、と信じてるから、宜しく頼むね!!」
 と、再度拳を振り上げるのであった。


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
鏑木・蒼一郎(ドラゴニアンの執事・e05085)
キャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)
リチャード・ツァオ(異端英国紳士・e32732)
ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)
ブレイズ・オブジェクト(レプリカントのブレイズキャリバー・e39915)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)
カーラ・バハル(ガジェット使われ・e52477)

■リプレイ

●その美しい顔にそぐわぬ
 都内のとある、高級ホテルの一室。
 高層階にあるホテルの眼下に広がるは、都心の美しい夜景……そんなホテルの一室では、ロマンティックなドラマが繰り広げられているか……なんていうことはない。
 モデルと見紛うほどに美しい、イケメン男性と、露出度の高い服装に身を包んだシャイターンの『青のホスフィン』が繰り広げるは、エインヘリアルの一般人殺戮事件。
「ふむ……これはまた面倒な敵が現れたものだね」
 と、肩をすくめる九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)に、カーラ・バハル(ガジェット使われ・e52477)も。
「んー、そうだな。それにそのイケメンさを生かして女に振られたんじゃ、どーしよーもない男だよな」
 とため息をつく。
 ……とはいえ、そんなエインヘリアルを放置しておけば、彼によって大量の一般人が殺されてしまう。
 そんなことは、させる訳にはいかない。
「ま……こいつがなにをやったかは本当よくわからないが……女を泣かせた上に追いかけもしないんだろ? そんなやつは、男の風上にもおけないな。顔だけイケメンでも、心が伴ってなきゃよ」
 と水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)がイケメン、という言葉に静かな怒りを紡ぐと、それにラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)とリチャード・ツァオ(異端英国紳士・e32732)も。
「イケメン……か。本当に大事なところは中身だろうに」
「そうですねぇ。外見だけイケメンって言っても、内面がこれじゃあまりに良くありませんねぇ……それに、力尽くの攻撃方法はその内面を表しているのでしょうかね?」
 と、それにブレイズ・オブジェクト(レプリカントのブレイズキャリバー・e39915)は。
「顔が良いと戦闘性能が上がる……か?」
 大きく首をかしげるブレイズ。
 それにキャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)は。
「……? イケメン、とはどういうことなのでしょうか?」
 と。
「っ……キャロライン、イケメンの定義を知らないとかか?」
 と鬼人が言うと、ええ、と頷くキャロライン。
「んー、そうだな。例えば……こういうのを言うんだ」
 とスマホでイケメンと言われる俳優の写真を見せる鬼人。
 どれもイケメンな男の顔写真をパパパ、と見ていくと。
「……なるほど、つまり女性に人気がある顔立ち、ということでしょうか」
 とある程度、認識をした様である。
 そして、同じく女性の幻が。
「まぁ、そうだね。しかしそんなイケメンさんを相手にするには中々面倒くさい小細工が必要な様だし。でもそういうのは得意じゃないものでね、その辺はほかの頼れる皆に任せて、今回は正面から敵さんと殴り合うとしよう。今回はどんな戦いになるかな……くひひ、楽しみだよ」
 と、どこかマイペースな幻に、ブレイズは瞑目しつつ。
「……まぁ、味方……女性陣の士気はイケメンということに高まっている……様だし、一定の効果は見込めると仮定しておこう。個人的には大いに疑問ではあるがな」
「まぁ、そういうことにしておいた方がいいかね?」
 苦笑するカーラ、とその時、上空から鏑木・蒼一郎(ドラゴニアンの執事・e05085)が。
「準備よし。それじゃ、突撃するか」
 そしてラジュラムが。
「了解。本当彼もまた被害者だ……せめてもの救済は苦しまずに送ってやる事だ……さあ、行くぞ」
 と仲間たちに通達するとともに、ケルベロス達は覚悟を決め、突入を開始した。

●美しき顔は
 豪華な部屋の中で、イケメンのエインヘリアルが巨大化。
 そんなエインヘリアルの居る部屋へ、外から……蒼一郎が、気合いと共に窓を蹴破り侵入。
『ヌ……』
 と、そちらの方へと視線を向けるエインヘリアル。
 ……巨大化しているものの、その顔は……確かにモデルとかをやっていそうな位にイケメン。
 しかし、そんな顔を確認し、すぐに蒼一郎が。
「イケメンと聞いていたが……所詮は、だな。や、確かに顔は良い。良いんだが、内面の醜さがにじんでいるんだよな」
 と、そんな蒼一郎の言葉に。
『ナン、ダトォ……!?』
 と、早速怒りを滲ませる彼。
 さらに彼の元へ、ドアを蹴破り、一斉に突撃してくるケルベロス達。
「さぁ、雷光団第一級戦鬼、九十九屋・幻だ。手合わせ願うよ!」
 威勢良く突撃し、狂犬の様な笑みを浮かべたてきた幻の言葉に、さらにギロリとにらみつけるエインヘリアル。
 そんなエインヘリアルへ、鬼人、ラジュラムが。
「さーて、イケメンって事だから、その顔に傷がついたらどんな顔をするのか、ちょいと見てみたいから、一撃、入れてみるかな?」
「ああ。ほら、おじさんと遊んでくれないか? 見た目だけではないのだろう?」
 と、背後にキープアウトテープをビシッと張り巡らせつつ、そのまま絶空斬の一閃を振り薙ぐ鬼人と、達人の一撃を頭上から叩き落とすラジュラム。
 その攻撃に、部屋の中の調度品等が飛び跳ね、壊れる。
 そして、壊れた物品以上にエインヘリアルは、その顔を赤くして。
『コノ……オマエラ、ユルサネエ!!』
 と怒りと共に、その手に現れた巨大な戦斧を構え、振り回す。
 風を切る音と共に、ダメージを受ける鬼人。
 が、攻撃を受け血を流しつつも。
「ほら、その程度か? 掛かって来いよ」
 と指をクイクイッ、と視線の前に移し、挑発。
 そして、その挑発を加速させるがごとく、カーラはガジェットガンを手にし。
「さあ、食らいな!」
 と、泥をその銃身から吹き出し、顔を汚す。
 泥に汚された顔は、無様。
「良い顔じゃん。水もシタタル、だっけ? むしろ泥濡れって感じだけど!」
 カーラの挑発に、さらに怒るエインヘリアルだが、逆に。
「ふむ……いや、でもその顔も美しい。花も実もあるとは、正に貴方のためにある言葉だろうな」
「そうですね。言われてみると、素敵なお顔です。世の女性が放ってはおかないでしょうね!」
 とブレイズとキャロラインが逆におだてる。
 むしろキャロラインの言葉は、明らかな棒読みなのだが……エインヘリアルはどうやらかなり単純な性格の様で。
『……グハハ……!!』
 と笑い、そこからは視線を外す。
「ふぅむ……本当おだて言葉に弱い様だね」
 と幻の言葉に頷きつつ、リチャードも。
「ほんとう、素晴らしい美貌ですね。光り輝いている様です。貴方の様な美貌を見たのは初めてですから」
 と、さらにおだてて、己達をターゲットから外す。
 そして、蒼一郎から早速。
「お前の気脈、封じさせてもらおう!」
 と指天殺の強烈な一撃をたたき込むと、幻も呪怨斬月の一閃で攻撃。
 一方、おだてた三人はそれぞれ、全身防御、「紅瞳覚醒」で仲間達の強化の一方、ブレイズは後衛より、気咬弾の一閃。
『グオッ……!?』
 と攻撃を食らい、キリッ、とにらみつけるエインヘリアル。
 ただ、ブレイズはしれっと。
「すまない、貴方が余りに美しすぎて思わず打ってしまったんだ」
 と言い放つ。
 続く刻、敵は三人がおだてつつ、残る仲間は攻撃。
「鬼さんこちら! さっさと掛かってこいよ、木偶の坊! イケメンが廃るぞ?」
「全くだね。どんなイケメンかと思えば、ただのスカした兄ちゃんじゃないか。戦い方も斧をぶん回すだけって、全くスマートじゃないし」
『ナニ……ヲォ……!』
 怒りを吐き捨てるエインヘリアルが、さらに戦鬼を力尽くで振り回し、攻撃。
 その攻撃を受け流しながら、幻が。
「お、怒った? くひひ、怒った顔のほうがよっぽどお似合いさ!」
 と、人を食ったように笑う。
 そして、前衛陣が次々と攻撃し、またカーラもグラインドファイアで炎を付与。
 また、キャロラインは後衛人に。
「運命の鎖を断ち切りし、その牙を今ここに咆哮を上げよ……♪」
 と、『あらがいし番犬』のヒールと共鳴。
 対し、褒め称えていたリチャードとブレイズは……。
「闇を友とし光で貫く。我前に立つなら覚悟するが良い」
 と『炮蝙烙蝠』で炎をたきつけ、ブレイズもガトリングデストラクション。
 猛攻の前に、瞬く間に体力が削られるエインヘリアル。
 でも、それを取り繕うように褒めるため、エインヘリアルの攻撃ターゲットは……ほぼほぼ、鬼人、ラジュラム、幻の三人に集中する。
 そんなケルベロスとの対峙し、十数分。
 ……大幅に体力が削られ……苦しみにうめくエインヘリアルが、片膝をつく。
 そこに。
「顔だけ良くっても、心が伴ってなきゃ、ただの見かけ倒しって奴だ。来世でもし、生まれ変わる事が有るのなら……心を持って人に接してほしい」
 と鬼人が言うと共に、至近距離に接近……渾身の鬼砕きを頭部から叩きつける……その一撃に、床に頭から突っ伏すエインヘリアル。
 そして……蒼一郎が。
「さあ、お前の魂も食らってやろう!」
 と、渾身の蒼一郎の降魔真拳がその整った顔を殴りつけ……そして幻が。
「全身全霊の一撃、受けてくれるよねッ!?」
 と、『紅の一撃』を放ち……エインヘリアルは、完全にその場に崩れ落ちるのであった。

●心まで醜し
 そして、どうにかケルベロスたちは、エインヘリアルを倒す。
 ……死に絶えた彼は、もはや跡形もなく。
 そして……そんな彼に対し。
「安らかに眠れ。願わくば、次に生まれ変われたなら女性を大事に、な……」
 と目を閉じ、冥福を祈る蒼一郎。
 ……そんな冥福を祈る彼の横で、リチャードとラジュラムも。
「そうですね……ま、顔の美醜は確かに個性ですが、そればかりに気を取られるといけませんよね」
「ああ……しかしこの手の依頼は慣れぬな。救えぬ無力さを感じてしまう。だが、どうか成仏してくれ……」
 と、二人呟く。
 そして、皆が一度の冥福を祈り、その後にするべくは……壊した部屋の片付け。
「さすがに窓を壊して侵入したのは、ちょっとやり過ぎたかもしれないな」
 と苦笑する蒼一郎に、ブレイズとカーラが。
「ん……確かにな。まぁ、窓は使用禁止とかの張り紙でもしとくか」
「そうだな。それにここは高層階だし、落ちたらそれで大惨事になっちまうもんな」
 とか言いつつも、せっせと被害箇所をヒールしていくケルベロス。
 ……そして、大方の片付けと、修復を終えたところで、周りを見渡し。
「しかし……すごい豪華な部屋だな……一度でいいからこんな良い部屋で恋人と過ごしてみたいもんだ」
 と、鬼人の言葉にキャロラインが。
「そうですね……ああ、イケメンはやっぱりよくわからなかったですが、皆さんはかっこよかったですよ」
 と頷くキャロラインに、鬼人は。
「……いや、そんなことはない。俺はあいつの様な、下心はあんまりないからな」
 と言いつつ、首を振る。
 そしてケルベロス達は、辺りの修復も一通り終わると共に。
「それじゃ、みなさんお疲れ様でした……という事で、帰りましょうか」
 とリチャードが皆を促し、帰路につくのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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