こたつは許さない!

作者:神無月シュン

 家電量販店。その暖房家具売り場に、羽毛の生えた異形の姿――ビルシャナが乗り込んできた。
 一般人が逃げ惑う中、ビルシャナは叫ぶ。
「こたつ! こたつ! あの全てのやる気を奪う、人間を堕落させる機械……絶対に許さない!」
 そう言うと、ビルシャナは暴れ始めた。

「個人的な主義主張により、ビルシャナ化してしまった人間が、個人的に許せない対象を襲撃する事件が起こるので、解決してほしいっす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が集まった皆に説明する。
「ビルシャナは、『個人的に許せない対象が確実にある場所』を襲撃するっす!」
 今回の場合、家電量販店の暖房家具売り場になる。そこへと赴き、ビルシャナを倒すのが今回の目的だ。
「ビルシャナの主張に賛同している一般人が配下となっているようっすね」
 ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、戦わずして配下を無力化する事ができるかもしれない。
「ビルシャナの配下となった人間は、ビルシャナを守るように戦闘に参加してくるっす」
 ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能だが、配下が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるだろう。

「ビルシャナは炎と氷、2つの攻撃を使ってくるっす。配下になっているのは10人、こたつでついつい眠って時間を浪費したり、こたつのせいで家族が何もしなくて苛立ったりで賛同している人たちが主っすね」

「説得に重要なのはインパクトっす! あっと驚く内容で配下の目を覚まさせてやってくださいっす」


参加者
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)
ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)
舞阪・瑠奈(モグリの医師・e17956)
本田・えみか(スーパー電車道娘・e35557)
鹿目・きらり(医師見習い・e45161)
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)
霜憑・みい(滄海一粟・e46584)

■リプレイ


 家電量販店へと足を踏み入れ、ビルシャナが現れる場所へとケルベロス達は歩いていた。
「こたつかぁ……実に良い伝統よな」
「こたつが使えなくなったら、安心して冬を過ごせないです。こたつの素晴らしさを、必ず伝えてあげましょう」
 コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)と鹿目・きらり(医師見習い・e45161)が話しながら歩いていると、向かう先から数人の一般人が走ってくる。ビルシャナの出現に逃げてきたのだろう。すれ違う人達の顔には怯えが見て取れた。
「……絶対に、止める、よ」
 それを見た兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)が走り出し、一同それに続いていく。
 たどり着いた先には、ビルシャナを中心に10人の配下になった一般人。
「愚かな……貴様ら……古来より日本に伝わる暖房技術を否定するとは、愚かにも程があるわっ!」
 ビルシャナに賛同した者達に一喝するコクマ。
「日本の冬は厳しい……だがっ! こたつがあればっ……その辛い寒き日々を耐え抜く事が出来る!」
「そんなの別に、こたつじゃなくてもいいじゃないか」
「そうだ、そうだ」
「ほう? 確かにそうだろう……だが思い出すがいい。仕事で冬空の中歩いた日々、疲れながらも冷たい空気に晒された日々……こたつで足を温めながら好きなテレビを見て……好きな食べ物や好きな漫画……貴様ら……癒しは要らぬというのかっ!」
 舞阪・瑠奈(モグリの医師・e17956)がコクマを援護するように語り始めた。
「お前達、何か勘違いしてないか? こたつはただの暖房器具では無いぞ……疲れた心を癒す暖房器具だ」
「うとうと眠くなるのは蓄積した疲労を睡眠で回復させているのだ。ストレスの多い現代社会ではこたつは必要な暖房器具なのだぞ。しかも最近の――」
 矢継ぎ早に難解な医学用語を用い、長々と説明を続ける瑠奈に嫌気がさしたのか、聞いていた数人の配下がその場を去っていった。
「あなた達、誰も何もしてくれない……と苛立つ前に、ちゃんとご自身も休みたいという気持ちを相手に伝えましたか?」
 こたつに入ってテレビを見て、ご飯が出てくるのをただ待っているだけ。と家族の愚痴をこぼしていた主婦達に、語り掛ける霜憑・みい(滄海一粟・e46584)。
「ちゃんと、手が空いているなら手伝って! と、言葉で伝えなくては!」
「言っても動いてくれないから、困ってるんじゃないの」
「こたつは一度入ると、なかなか外に出にくいですよね」
 休んでいる時のあなた達も同じでは? と反論する主婦達にきらりが割り込んでいく。
「でも、それだけの理由で、こたつが人をダメにするわけでは無いと思います。こたつに入りながら、蜜柑を食べたり、はたまた鍋料理でワイワイと皆で楽しんだりと、こたつは人と人の心を繋ぐ架け橋になると思います」
 皆でこたつに入っている時に一度話し合われては? と、きらりは語る。


「そうすね! 相撲っすね!」
「は?」
 別の場所では、本田・えみか(スーパー電車道娘・e35557)が相撲を勧めていた。
「土俵の中にこたつは持ち込めないし、身体を動かせば温かくなるっす!」
 インパクトだけで押し通す様に畳みかける。
「みんなで相撲をとれば解決っす! さぁまわしを締めるっす! さぁさぁさぁさぁ!」
「え、遠慮するっす!」
 えみかの勢いに押されてか、口調まで移って配下は逃げ出していった。
「こんなに寒いのに、やせ我慢は身体に毒だよ?」
 ミスティアン・マクローリン(レプリカントの鎧装騎兵・e05683)が展示してあったこたつへと入り、おいでおいでと配下達に手招きしている。暖かそうにしているが、もちろん展示品と言っても電源が入っているわけではないから、暖かくはない……。
「させるかっ!」
 こたつへと誘われていく配下を止めるため、ビルシャナが叫ぶ。
 そして放たれた炎がこたつを燃やす。
「あちちちっ」
 ミスティアンは慌てて、こたつから飛び出した。
「あなたたちは、自分の、自堕落さを、おこたのせいに、してる、だけ。たとえ、おこたを全て、壊しても、次の、敵を見つける、だけだ、よ。そんな事を、続けた先に、は、ただ、冷たい世界しか、残らない」
 十三が配下達に向かって歩いていく。
「……そんな、世界が、お望み、なら、じゅーぞーが、連れて行って、あげよう、か?」
 威圧するよう睨みつけると、腰の刀へ手をやり、鯉口を切る。
「ぐあっ」
 コクマが配下の鳩尾を軽く突き意識を奪う。
「最後はやっぱりこうなっちゃうのよね」
「……だいじょうぶ、みねうち? だから、ね」
 ミスティアンと十三も怪我を負わせないよう、注意しながら配下の者を気絶させる。元はただの一般人。全力で倒すわけにもいかない。
「気合を入れてあげますわ、フンッ! 次ッ!」
 寒いのは鍛錬が足りないせいだと、ティファレト・ソレイユ(黄金・e50623)が拳を叩き込む。続けざまにもう一人へと。手加減をしているが、それでも勢いは強く身体が軽く宙を舞う。その身体は展示してあったこたつのすぐ横、座椅子の上へと着地した。
「どうです? 体を動かせばこたつがいらないほど熱くなれるでしょう?」
 しかし配下は皆、気を失い、聞いている者はいなかった……。
 配下の無力化に成功し、残るはビルシャナただ一人。
「さぁ、行きますよサターン、サポートは任せましたからね」
 きらりがウイングキャットに指示を飛ばす。
「さぁ寒さもふっとぶ、新春家電売り場場所開幕っす!」
 えみかが相撲の廻しに見立て、自らの尻尾を腰へと巻く。本人なりの気合の入れ方だ。そして四股を踏み……構える。
「はっけよーい!」
 掛け声と共に、ビルシャナに向かって突撃した。


「えみかの大一番に付き合ってもらうっすよー!」
 えみかが地面に向かって炎を吐くと、円を描くように燃え広がり……現れたのは戦いの場。それは無言の勝負の申し込み。戦いの場を用意した、かかってこいと……。
「こたつの恨みを知れ!」
 えみかの攻撃に気を取られているうち、胸部の発射口にエネルギーを集中させていたミスティアンが、光線を放った。
「ここから、本番だ、よ」
 光線を追うように十三が駆ける。光線がビルシャナを飲み込み、流星の如き蹴りが襲う。
「このっ凍ってしまえ!」
 ビルシャナが叫びながら、無数の氷の輪を産み出し……放つ。
「わあ、鳥さん声大っきいなぁ!」
 みいの叫びは魔力を帯びた咆哮となり、ビルシャナへと襲い掛かる。
 みいの攻撃に竦みあがっていたビルシャナの背後に、ビハインド――兄さんがいつの間にか移動していた。兄さんの攻撃にビルシャナが前方へとよろめく。
「私が鍛え直してあげましょう」
 待ってましたとばかりに、蹴りを放つティファレト。
「霊弾よ、爆ぜよ、そして敵を吹き飛ばしなさい!」
 きらりが手を前方へとかざす。圧縮されたエクトプラズムが大きな霊弾となり、ビルシャナに向かって放たれる。
 その横ではサターンがパタパタと羽ばたき、きらり達を邪気を祓う力で包み込んでいく。
「わしの一撃を受けよ!」
 コクマの一撃が、ビルシャナに叩き込まれ、地面が割れる。続けてミスティアンが放った毒手裏剣が襲う。
「雷の壁よ」
 瑠奈がライトニングロッドを振るう。迸る雷が、折り重なり仲間を護るように壁を成す。
 ふらふらになりながらも、ビルシャナが炎を放つ。炎は孔雀の形に姿を変え、羽ばたき襲い掛かる。
「仲間は私が……護る!」
 ミスティアンが飛び出し炎を受け、その後ろからティファレトが跳び上がり、阿頼耶識から光線を放った。
 ケルベロス達の攻撃が確実にビルシャナの体力を削っていく。気絶している一般人が目を覚ます前には勝負を決めたいところではある。頃合いだと、目配せ。一同頷き全力の一撃を放つため構えた。
「我が刃に宿るは光<スキン>を喰らいし魔狼の牙! その牙が齎すは光亡き夜の訪れなり!」
 コクマが先陣を切る。水晶の刃を纏わせた『スルードゲルミル』を手に突撃。薙ぎ払うように真横へと一振り。
「星よ、切り裂け! スターショット!」
 上空へとかざしたミスティアンの手の上には、直径60cm程の五芒星の形をした光の手裏剣。
「生成完了」
 光の手裏剣が、そして瑠奈がグラビティで生成した透明な硝子状のメスが、ビルシャナを次々斬り裂いていく。
「……もう少し、まってて、ね」
 十三が内から聞こえる声を抑え……構える。
「【月喰み】解放……刎ねる……刎ねる……兎が跳ねる……氷の刃を持て刎ねる」
 十三の放つ氷の刃がビルシャナを斬り刻む。
「か……回復を……」
 ビルシャナが回復の最中、みいが刀を構え……一閃。えみかが続き、張り手を繰り出す。張り手と共にオーラがビルシャナへと喰らいつく。
「格闘戦は得意では無いですけど、そうも言ってはいられない状況ですしね」
 きらりが手足を獣化させ、連撃。ビルシャナを吹き飛ばす。
「これでお終い……ですわ!」
 吹き飛んだ先、待っていたのはティファレト。力任せのパンチをビルシャナへと打ち込む。単純にして強力な一撃がビルシャナの骨を砕き、内臓を破壊し、命を刈り取った。


「室内でやりすぎた……でしょうか?」
「お、おら、そんなに暴れてないだ」
 みいとえみかが店内の修繕と掃除を行っている。目の前には割れた床や焼け焦げた跡。災害後と言われても納得してしまいそうな惨状だ。
「怪我は……なさそうだな」
 コクマが仕方なく眠らせた一般人の様子を眺めていると、作業を終えた2人も戻ってくる。
「目は覚めましたか? ……ふふ、見てください。最近はこんなにお洒落なこたつ布団もあるんですね」
 みいが掃除の途中で見つけた、こたつ布団を持ちながら、微笑んだ。
「皆働き過ぎだ。時にはこたつで過ごすのも良い……でも寝過ぎに注意だ。やばい、こたつに篭もりたくなるわっ」
 自身も無意識に癒しを求めているのだろうか……こたつに入りたい衝動に駆られるコクマ。
「今が買い時だ」
 時期的に暖房器具も安くなっているはずと、瑠奈は商品を見る為、歩き出す。
「……そろそろ、おこた、かたさなくちゃ、ね」
 やる事全てを済ませた帰り際、十三はそうつぶやいた。

作者:神無月シュン 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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