鈍色のアルディリア

作者:犬塚ひなこ

●鈍色栗鼠の行進
 人々が寝静まった夜、街外れの廃墟群に巨大な影が現れた。
 間接部の歯車から鈍い音を立てながら発進したその物体は小動物めいた見た目をしている。愛らしい耳、短めの手足、大きな尻尾。そして、片手にはどんぐり。
 どうみてもリスのようなそれは鉄で出来ている。所々の部位が角張っている巨大機械はお世辞にも可愛いとは言えず、寧ろ武骨で凶悪に映った。
 機械リスの体長は約七メートルほど。巨大リスは鉄のどんぐりを振り回しながら廃墟地帯から抜け、その先の林へと向かってゆく。
 そして、樹々を踏み潰しながら進む鈍色リスは街を目指す。
 その目的は勿論――街を破壊してグラビティ・チェインを奪い、力を得ることだった。

●巨大ロボ退治指令
 封印された巨大ロボ型ダモクレスが復活して街を壊していく。
 凄惨な未来の光景が視えたのだと話し、雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)は予知の内容を語りはじめる。
「リスさんみたいな巨大ダモクレスが現れるのは郊外の廃墟あたりです。そこから林を通って、人がたくさん住んでいる街に向かっていくのでございます」
 敵は七メートルもの巨体。いくら小動物めいた形をしていても、それが歩くだけで周囲は破壊されていく。
 幸いにして復活したばかりの敵はグラビティ・チェインが枯渇している為、戦闘力が大きく低下しているらしい。それでも放っておけば甚大な被害が出ることは間違いない。
 また、敵が動き出してから七分経つと魔空回廊がひらく。
 それまでに倒せなければ撤退されてしまうので、時間内に撃破する作戦が必要だ。しかも、そのうえ敵は戦闘中に一度だけフルパワーを込めたどんぐり爆発攻撃を行うという。
「けれど悪いことばかりではないでございます。フルパワー攻撃は強力な分だけ、相手も大きなダメージを被ってしまうみたいです。つまり、それを利用したらうまく追い詰められるかもしれないのです」
 全力攻撃はいつ繰り出されるか分からないが、それに耐えきれば勝機は見えてくる。
 だが、守りや癒しを厚くしすぎてしまうとその分だけ攻撃の手が減ってしまう。状況次第で全員が攻勢に入った方が敵を倒せる可能性が高いだろう。
 されど戦い方は実際に戦地に赴く番犬達が決めること。信じています、と告げたリルリカの言葉を聞き、彩羽・アヤ(絢色・en0276)は頷く。
「だいじょーぶ! あたしがいるからには絶対に破壊も撤退もさせないからね!」
 それに罪もない人々を虐殺するデウスエクスは許せない。
 もし巨大ロボ型ダモクレスが魔空回廊内に回収されてしまえばダモクレスの戦力強化を許すことになってしまう。それだけは避けなければならない。
「リカは皆様を応援しています。ふぁいと、おーでございます!」
「巨大ロボットとバトルなんて最高じゃん。ふふーん、考えたら燃えてきたよ」
 人々が虐殺され、街が破壊されてしまうなんて未来は潰してみせる。強く誓ったアヤはペイントブキを握る手に力を込めた。


参加者
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
ゼー・フラクトゥール(篝火・e32448)
桃園・映(はいぱぁハリケーンうさぎ・e44451)
陸堂・煉司(冥獄縛鎖・e44483)

■リプレイ

●襲撃者
 ちいさな手足にふわふわ尻尾、つぶらな瞳。
 リスと聞いて一般的に思い浮かべるのはそのような愛らしい姿だろう。だが――。
「んー……思ってたより可愛くない」
 姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)が今回の敵を目にして零した感想は率直なものだった。リスさんは可愛い。けれど目の前で発進しはじめる巨大な機械は色もあまりよくないうえに可愛くはない。
「うわぁ……凶悪な顔のリスさんだねぇ。しかも、巨大だねぇ……」
 桃園・映(はいぱぁハリケーンうさぎ・e44451)は思わず神妙な顔つきになりながら首を捻った。サイズと外観がアンバランスだと思っているのは仲間達も同じらしく、陸堂・煉司(冥獄縛鎖・e44483)は独り言ちる。
「……動物は嫌いじゃねぇが、流石にありゃ無理だ」
「巨大ロボってのは心躍るモンだが……なんでリスなんだ?」
「七メートル級のリスはさすがに巨大ですねえ……」
 疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)とエレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)もダモクレスを見上げ、何とも云えぬ思いを口にした。
 可愛らしいだけなら良かったのだが、このリスは破壊の限りを尽くそうとする。絶対に阻止しましょう、とエレが意気込むと、ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)も決意を言葉に変えた。
「相手はダモクレス。決して油断はしない様にしましょう」
「はい、頑張りましょうね」
 神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)が頷き、ゼー・フラクトゥール(篝火・e32448)も巨大ロボを振り仰ぎながら、顎から長く伸びた竜髭に触れる。
「厳しそうじゃのぅ。じゃが……」
「あたしたちが絶対ぶっとばーす! だよね、皆!」
「うむ、違いない」
 彩羽・アヤ(絢色・en0276)が強く掌を握った様を見遣り、ゼーは静かに首を縦に振った。そして、番犬達は動き始めた敵を見据える。
「よーし、追跡開始!」
「行きましょう」
 ロビネッタの元気な声が響き、続いた鈴が廃墟の屋根へと跳躍した。ヒコも苔色の鋭い双眸を細め、その背にある翼を大きく広げた。
 そうして、仲間達の影が其々に夜の狭間へと跳ぶ。
 幕明けは昏く静かに。だが、攻防は必ず激しくなる。そんな予感の中で戦いは始まった。

●ざわめく樹々
 此処からは一分一秒ですら気を抜けぬ真剣勝負。
 郊外から林を抜け、街に向けて進もうとする巨大ダモクレスへと番犬達が追い縋る。
 廃墟の屋根を蹴りあげた鈴とゼーは、ボクスドラゴンのリュガとリィーンリィーン共に巨大リスに並走した。ゼーは魔鎖で陣を組み、鈴は禁縛の呪を紡ぐ。
 其処に続いたミントがリスの気を引き、電光石火の蹴りを見舞った。
「この蹴りを受けて、痺れてしまいなさい」
 ミントの一閃によって敵が漸く此方に気付く。だが、彼女の一撃は敵の動きを鈍らせるには至らない。反撃としてリスは鳴き声を響かせた。
 ギギィ、という妙な声が衝撃波となってミントを襲う。実に強力な一撃ではあったが、戦いは始まったばかり。エレは慌てずにウイングキャットの名を呼ぶ。
「ラズリ、いきますよ」
 翼猫は定位置であるエレの肩から飛び立って翼の加護を皆に与える。エレもエクトプラズムを用いて仲間に守りの力を施した。
 ヒコも進撃を続ける敵の進路横に回り込み、蹴りあげた礫を一気に浴びせかける。
「巨大ロボとリスってモチーフの相性悪かねぇか」
 ふとヒコが落とした呟きを聞き、煉司は押し黙ったまま頷いた。そして、ヒコが華麗に身を翻して攻撃射線をあけたことに気付いた煉司は其処へ飛び込む。
 一瞬後、鋭い蹴りが敵を穿った。
「可愛げの欠片さえ感じねぇ。さっさと解体処分にしちまうに限る」
 ギィ、と再び上がった鳴き声に煉司は溜息を吐く。
 その様子を見ていた映はくすりと笑み、だからこそ力も入ると気持ちをあらたにする。
「まぁ、可愛くないからこそ遠慮なく攻撃できるよね! 手加減しないよっ!」
 敵が若干怯んだ様子を眺め映もシャーマンズゴーストを連れて駆けた。プッチマンゴーさん、とその名を呼べば神霊の一撃が敵を穿つ。映も高く跳びあがって、流星を思わせる蹴りで機体を貫いた。
 硬い、と映から小さな声が零れる。大丈夫かと問いかけたロビネッタは流石はロボットだと敵を振り仰いだ。
「七分しかないんだから、攻撃は外しちゃダメだね。どんなに硬くたって打ち破るよ!」
 その為にも全力で、と心に決めたロビネッタはシェリンフォード改を構える。銃弾が敵に向けて撃ち込まれていく最中、ゼーは刃を振りあげた。
「まずは動きを鈍らせばのぅ」
 ゼーが鈍色の機体に傷を刻み込み、リィーンリィーンは清浄なる翼を広げて癒しに回る。鈴もリュガに守りに入るよう願い、アヤに声をかけた。
「アヤちゃん、皆の援護をお願い出来る?」
「もっちろん。縁の下の力持ちっていうやつでしょ!」
 快く応えたアヤは鮮やかなグラフィティで以てヒコの身に力を宿す。彼自身をイメージしたのか、描かれたのは翼を広げて飛ぶ鷹の意匠。
 それを見遣ったヒコは薄く口元を緩める。
「常に力の限りぶん殴るのが俺の仕事――……てね」
 言葉と共に掌を翳したヒコは光の剣を具現化させた。其処からひといきに振り下ろされた刃は機体を深く抉る。
 しかし、その程度で敵が止まるとは誰も思っていなかった。
 映はマンゴーさんに更なる攻撃を行うよう告げ、自らも塗料を飛ばしてゆく。煉司は爆発を起こし、鈴も業炎砲を放った。
 廃墟群を抜けて林に差し掛かったダモクレスは木々を薙ぎ倒しながら進む。番犬達は進撃を止めようと其々攻撃に入るが、リスロボは動きを止めることなく此方にどんぐりミサイルを放ってきた。
 ミントは蒼の鉄鎚でそれを弾き返し、狙われた仲間の分まで衝撃を受け止めに向かう。ロビネッタも何とかその痛みに耐えたが、体力は大幅に奪われてしまった。
 アヤがすぐに癒しを担い、ゼーが更なる守りを固める為に鎖陣を描く。
「うむ、見た目は妙に可愛らしくても……」
「あのミサイルはなんて厄介なのでしょうか」
 ゼーが思わず呟いた言葉を次ぐように、エレも口をひらいた。
 其処から攻防は巡り、既に三分。間もなく四分が経過する。幾重にも放たれたミサイルは木々の間を飛び交い、ケルベロスを撃ち落とそうと迫って来た。
 ミントは妙な気配を感じ取り、即座に懐から小瓶を取り出す。
「青き薔薇よ、その神秘なる香りよ、深遠なる加護の力を以て癒しを与えよ」
 神秘的な芳香が周囲に広がり、痛みを受けた者を癒していった。何故だか嫌な予感がする。そう思っているのは煉司も同じらしかった。
「……おい、気を付けろ」
 たった一言であったが、それまで敵を注意深く観察していた煉司の呼び掛けは的確だった。うん、とすぐに頷いたロビネッタは煉司の声に素早く反応する。
「やっぱり変だね。どんぐりがぴかぴか光ってるよ!」
「流石じゃのぅ、陸堂殿」
 ロビネッタが異変に気付き、ゼーも仲間に目礼をして身構えた。
 おそらく次にフルパワー攻撃が来る。その前に、とロビネッタは敵の腕に駆け登り、頭に向けて弾丸を発射する。鋭い一閃が敵を貫いて機体が揺れたが、彼女は振り落とされまいと翼を広げて均衡を取った。
 その隙を狙ったヒコはひらりと舞い、敵の死角に飛び込む。
「リスらしい小型に解体してやろうか。どんぐりも大きいと可愛くねぇし、な」
 まずは潰す、と短く告げたヒコは全力で竜槌を叩き込んだ。大きな衝撃によって巨体が揺らいだが、どんぐりは更に激しく明滅する。
 来ます、と皆に声をかけたエレは藍の武装を握る手に力を込めた。
「怖がったりなんて、しませんから」
 笑っていれば絶対に大丈夫。そんな信念のもと、微笑んだエレは霊弾を解放した。
 そして、光が敵を貫いた刹那。
 ケルベロスに向けて投擲されたどんぐりが大爆発を起こした。
「――!」
「く、ぅ……! リュガちゃんが!」
 あまりの衝撃に周囲の樹々が吹き飛び、鈴とアヤが悲鳴をあげる。鈴はどうにかして耐えたが、アヤを庇った匣竜が力尽きてしまう。
 それだけではない、煉司や映もかなりの痛みを受けてしまっていた。
 鈴は仲間を守って倒れたリュガに、ごめんね、と伝えながら体勢を立て直す。煉司も痛みを押し殺しながら拳を握る。
「意外と耐えられるもんだな。……体はまだ動く。何の問題もねぇ」
「ハユも何とか……。それよりも!」
 映は地面を蹴り、敵を追った。自分も爆発によってダメージを受けたというのに、ダモクレス未だ進み続けようとしている。
 ミントとロビネッタも頷き、ゼーとヒコが翼を広げて空に飛び立つ。
 あの先には街がある。何も壊させはしないと心に決め、番犬達は先を急いだ。

●決着
 全力攻撃の機を報せる為、セットしたタイマーは先程の衝撃で壊れてしまった。
 だが、誰もが攻撃の手を緩めてはいけないと悟っている。此方もかなりの損害を受けているが、それはフルパワー攻撃を行ったダモクレスも同じだ。
「そっちはダメだってば! 止まれ止まれ~」
 ロビネッタは進み続ける敵の頭にしがみつき、がんがんと機体を叩く。
 ヒコが剣を振り下ろし、映とマンゴーさんが追撃に入ったが敵はふらふらと歩き続けた。まったくもう、と頬を膨らませたロビネッタは至近距離から銃口を向けて弾丸を連射した。容赦のない刻印によってリスの頭部に風穴があく。
 装甲が破れそうだと感じたエレはラズリに尻尾の輪を飛ばすよう願い、自身も巨大ロボの機体を伝って眼前まで飛び出す。
「ビームは、出ませんでしたねえ……少し残念です」
 翼猫の一閃に敵が気を取られている隙にエレは右腕を大きく掲げた。露出された機械部位で敵を深く貫いたエレはくるりと宙で回転してから身を翻す。
 空いた射線を狙って鈴が武神の矢を放ち、ゼーが刃で敵の傷を斬り開いた。
 そのとき、一瞬だけ敵の動きが止まる。機体に痺れが巡ったのだと察した煉司は視線で仲間に合図を送る。
 それを受け、ミントは一気に敵との距離を詰めた。
「炎よ……高く立ち昇りなさい!」
 機体を駆けあがる摩擦を利用して炎を巻き起こしたミントはリスの腕を貫く。その衝撃によってどんぐりミサイルが地面に落ちた。
 時間はおそらく、戦闘開始から六分を過ぎた頃。
 だが、番犬達の攻撃によって敵は足止めされている。はっとした映は街の入口に魔空回廊が開きかけていることに気付いた。
 街に被害はなくとも敵を逃せば悪い方向に未来が傾いてしまう。
 そうはさせないと強い思いを抱いた映は傍らを駆けているアヤに呼び掛けた。
「ね、ね! アヤちゃん、せーのでいくよ!」
「わかったよ、あれだね。必殺技!」
 笑みを交わした二人の表情には不安など欠片もない。そして――。
『せーの!!』
 少女達の声が重なった瞬間。虹色の路が空中に描かれ、終焉を告げるベルの音が鳴り響いた。アヤと映の力が敵に向かっていく最中、鈴が其処に続く。
「わたしだってお父さんの娘……決めてみせるんだからっ!」
 巫術の力で眩い光を放つ狼のエネルギーを宿した鈴は、リューちゃんの分まで、と呟いて飛躍する。そして、拳を振るった鈴はまるで光の矢のように敵を貫いた。
 少女達の協力攻撃に双眸を細めたゼーは、傍に控えるリィーンリィーンに目配せを送る。それだけで何をするか理解した匣竜は身構え、竜の吐息を敵に浴びせかけた。
「決して逃さぬ」
 胸の奥から湧き起こる地獄の炎を纏い、ゼーはひといきに焔を放つ。
 刻限はあと僅か。
 しかし、誰も絶望などしていない。煉司は大侵略期の遺物とも呼べるダモクレスを睨み付け、堂々と宣言した。
「……教えてやるよ。テメェが眠りこけてる間に、立場は逆転したんだ」
 今度はテメェが狩られる側だ。
 真正面から告げた言葉と同時に超鋼の拳が敵を大きく穿った。エレは煉司の一撃が決定打になったと知り、ミントも次が最期になると感じる。
 鈴とアヤはヒコを見つめて最後を託した。渦巻く魔空回廊は未だ妖しく揺れているが、映もロビネッタも仲間を信じている。
 ヒコはふっと笑み、双翼をはばたかせて夜空に舞い上がった。そして、巻き起こる辻風の乗ったヒコは標的を見据える。
「夜は眠る時間だ。いい加減に止まりやがれ」
 真っ直ぐに降下した彼が放つのは蹴撃。綻んだ梅花が舞う春風は一夜のうちに千里を翔けるという。そのような光景を思わせる一閃は深く、鋭く敵を貫き――。
 どこか懐かしい甘い香りを残し、戦いは終結した。

●守ったもの
 ダモクレスは崩れ落ち、開きかけていた魔空回廊が閉じる。
 ヒコは広げていた翼を折り畳み、煉司も拳を下ろした。鈍色の機体の欠片すら逃すこともなくケルベロス達は戦いに勝利したのだ。
「無事に……いえ、被害はありましたが、勝てましたね」
 ミントは自分達が通って来た道を振り返りながらほっとした気持ちを抱く。そうだねえ、と頷いた映とプッチマンゴーさんも背後を見遣った。
 映達が見つめた其処には廃墟から林に続く破壊の後が見える。
「うわぁ……ぐちゃぐちゃだねぇ」
「これはヒールが大変そうですね……」
 エレは最後まで共に戦ってくれたラズリを撫で、癒しが必要な光景を瞳に映した。
 だが、ロビネッタはまだまだ元気いっぱいに腕を振りあげる。
「それじゃあひとつずつ修復していこう!」
「任せて! あたしもばっちり筆を振るって、壊れた所をカラフルにしちゃうからね」
「わあ、廃墟がアヤちゃんの作品になるのかな?」
 アヤが楽しげに意気込む姿を見て鈴は楽しみだというように微笑んだ。
 ゼーもリィーンリィーンを伴い、はしゃぐ少女達を見守る。厳しい戦場にアヤや映が駆り出されるのは、と少しばかり憂いていたゼーだったが心配は無用だったと気付く。
「なにはともあれ、まだ少し仕事が残っているようじゃのぅ」
「そうだな。ま、こういうのも悪くねぇ」
 ゼーに答えたヒコもその後に続き、修復作業を始めた仲間達の輪に加わった。
「ハユちゃん、こっちこっち。ヒコくんとゼーおじいちゃんも早く! 煉司くんもだよ!」
「わあ、待ってアヤちゃん!」
 駆け出すアヤと映。微笑ましげに目を細めるゼー。すぐ行く、とぶっきらぼうに返すヒコ。其処に手を振るロビネッタと鈴、静かに皆を待つエレとミント。
 煉司は賑やかな様子を見遣りながら肩を竦めたが、自分が不思議な充足感を覚えていることに気が付く。
 ケルベロスになって知ったのは、背中を預けられる奴は必ずいるということ。
(「……今この瞬間は、こいつらがそうだ」)
 浮かんだ思いは言葉にはしなかった。
 此処には皆で守った平和のかたちがある。夜が明ければいつもと同じ朝が来る。ただ、それだけでいい。
 やさしく吹き抜けてゆく夜風を受け、仲間達はちいさな笑みを交わしあった。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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