襲撃は無邪気な遊戯

作者:流堂志良

●襲撃は遊ぶように
 その日、灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)は鍛錬の帰り道。
 歩く街は今日も平穏。この平穏を守るために、恭介は努力を惜しまない。
「明日もいい天気になりそうだな……」
 綺麗な夕焼けは明日も穏やかな日になりそうだと告げていた。
 そしてある道に差し掛かった時だった。
 ふと気がつくと、人の気配が感じられない。
「……む」
 不穏な気配を感じた恭介の前に子どもの姿をしたドラグナーが現れた。
「ふふっ、見ーつけた」
 鱗に包まれた手で飴を舐めながら、子どもは嬉しそうに笑う。
「貴様は……!」
 恭介は身構える。現れた相手が何者であるかなんて些細な事。
 敵だとわかるだけで、取るべき行動は判断できる。
 恭介の左目から燃え盛るように炎が噴き上がる。
「僕の名前はユウギだよ。あ、覚えなくていいよ。すぐに死んでもらうんだから」
 あどけない顔を見せて、ユウギは手にした銃を恭介に突きつけた。
「あ、せっかくだからさ。うんと苦しんで。そして僕を楽しませてよ」
 ユウギの口調はどこまでも無邪気で、くすくすと笑い声を上げる。
「俺の炎で燃やし尽くしてやる!!」
 黄色の炎のようなオーラを纏うドラグナーを前に、恭介は武器を構えたのだった。

●救援要請
「皆さん、力を貸してください」
 上代・ミナキ(オラトリオのヘリオライダー・en0282)は集まったケルベロスたちを前に緊張を隠せない顔で話し出した。
「灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)さんがデウスエクスに襲撃されるという予知があったんです。ですが、連絡がつかないのです……」
 すぐに救援に向かって欲しいのだとミナキは告げた。
「場所はわかっているんです。そして敵の姿も、能力も……」
 予知された襲撃場所は街中であるものの、周囲に人の気配はない。
 恭介を襲撃するのはドラグナーのユウギ。
 見た目はあどけない子どもであるとミナキは説明する。
「無邪気そうに見えますが、相手が苦しんだりするのを楽しみにしているようなんです」
 その無邪気さ、残酷さはユウギの使うグラビティにも反映されている。
「毒を、使うようなんです……。攻撃の正確さもあって、危険です」
 そして黄色い炎のようなオーラで広範囲を焼くのだとミナキは言う。
「どうか気をつけてください。毒や炎の攻撃の後、翼から生み出したオーラの刃で傷を広げてくるようなんです……」
 祈るようにミナキは集まったケルベロスたちを見つめた。
「皆さんが頼りです。どうか恭介さんを救って、この危険なドラグナーを倒して、無事に戻ってきてください」
 深々と頭を下げてミナキはケルベロスたちを見送ったのだった。


参加者
パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)
マリアム・チェリ(カラカラ・e03623)
メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)
鳳来寺・緋音(弾丸・e06356)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
阿東・絡奈(蜘蛛の眷属・e37712)
灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)
煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)

■リプレイ

●救援
 灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)はユウギと対峙しながら胸騒ぎを覚えていた。
(「こいつ、どこかで……?」)
 浮かぶ疑問を抱えたまま、じりじりとユウギの隙を窺う。
 そこへジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)の声が響く。
「間に合いましたか」
 到着した仲間が駆け寄る。
「お前ら……」
 恭介が驚いた声を上げる。
「へぇ……助けが来るなんて思ってもなかったよ」
 ユウギは駆けつけたケルベロスたちを見ても余裕の表情だ。
「各個撃破を狙うのはいい戦術ですが、時勢が悪かったですね。加勢致します」
「灰山さんはメアリの大事な仲間。傷つけるなんて許さない」
 メアリベル・マリス(グースハンプス・e05959)は恭介を庇うように立つ。
「ママは攻撃お願い」
 彼女は自分のサーヴァント『ママ』に指示を出す。
「灰山さん! 怪我は?」
 心配そうに煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)が恭介に駆け寄る。
「灰山さんは死なせませんし、あなたにこれ以上誰も殺させません!」
 間に合ったことにカナは胸を撫で下ろし、キッとユウギを睨みつけた。
「助けに来てくれたのか!」
 恭介は頼もしい仲間たちに胸が熱くなる。
「本当にガキの姿なんだな……」
 やれやれとパトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)は武器を構えた。
「ティターニアは支援を頼む!」
 パトリックの指示通り、彼のサーヴァント『ティターニア』は彼らを支援すべく体勢を整える。
「いいね、面白いよ。君たちで遊んであげるよ」
 ユウギは面白そうな玩具を見つけたようにクスクスと笑い声をあげた。
「たくさん苦しんで、僕を楽しませてね」
 ゆらりと黄色のオーラが激しく燃えるように、小さな体から噴き上がる。
「誰が! アンタなんかにッ!」
 鳳来寺・緋音(弾丸・e06356)は拳を構えて、姿勢を低くする。いつでも飛びかかれるように。
「貴方も我が主の供物になりなさい」
 阿東・絡奈(蜘蛛の眷属・e37712)はしっとりと笑った。

●残酷なる遊戯
「行くぞ、皆!」
 恭介が武器を構える隣を、ジュリアス、パトリックが駆けていく。
「我が身に宿り師しは玄武……皆を穢れから守りたまえ!」
 カナは祈りを捧げ、『四神降臨・玄武護防結界』を展開する。
 皆を守るように。玄武は立ち塞がる。
「守ってみせる! 皆さんを、灰山さんを!」
「あはは! 鬼ごっこのようだね! まずは君たちが鬼かな?」
 ひらり、ひらりとケルベロスたちの攻撃をユウギは踊るように避ける。
「じゃあ、次は僕が鬼かな?」
 はしゃぐ声と共に、ユウギの銃から弾丸が飛び出る。
「うっ……!」
 毒の込められた弾丸はマリアム・チェリ(カラカラ・e03623)を苦しめる。
 汗がぽたりとその頬を伝い落ちていく。
「どうにも、厄介な相手だな」
 緋音は舌打ちして一旦距離を取る。
「蜘蛛は捕まえるのが仕事……絡め取ってみせますわ」
 絡奈は『蜘蛛の糸 縛』を手にしてユウギの隙を窺う。
 しかし――。
「あははは!」
 ユウギが翼を広げる。纏ったオーラが広がり、ケルベロスたちに襲い掛かった。
 黄色の炎が仲間たちをなぎ払う。
「燃えちゃえ! 炎って熱いよね、苦しいよね。ふふっ!」
 ユウギは炎に巻き込まれたケルベロスたちを見て楽しげに笑う。
「ぐぅっ……覚悟はしていましたが、これは……」
 マリアムはなんとかその場に踏みとどまり、歯噛みする。
(「この炎はっ……!!」)
 恭介は大きく見開いた目でそれを見た。
「あははは!! いいねぇ、いい顔だよ、君たち」
 黄色い炎が燃え盛る中、楽しげに笑い声を上げる子ども。
「貴様っ! 十年前の誕生日に、俺の家族と友達を殺した奴の仲間だな!」
 響き渡る絶叫。ケルベロスたちは恭介の言葉に振り返る。
「お友達が……?」
 信じられないと言った風にメアリベルが息を呑む。
「こいつが、灰山の友人を!?」
 パトリックも絶句する。
「貴様、よくも俺の友達を殺したな!?」
 恭介は叫びながら前へ前へと進み出る。
「何のこと? 知らないなぁ」
 ユウギは笑い声を上げながらそんなことを言った。
「ふざけるな! 俺の家族を殺した奴はどこだ!」
 再度の問いにユウギは笑いながら首を振った。
「知らないよ、君の事なんて」
「ふざけるな!」
「ああ、でも……その顔はいいよ。もっと苦しめてあげる」
「貴様ァァァ!」
 恭介の左目の炎が強く強く燃え上がり、全身を飲み込んでしまいそう。もう彼は周りが見えていなかった。
 ユウギに単身突っ込んでいく。
「恭介ッ! しっかりしろ!」
 緋音の呼びかけにも答えない。
「灰山さん、駄目です! 怒りに呑まれて我を忘れては!」
 カナの制止も振り切って。
「灰山! 気持ちはわかるが冷静になれ!」
 パトリックは止まらぬ彼を見て拳を握りしめる。万が一の時は殴ってでも止めてやる、と。
 その時が来た。バシンと頬をぶっ叩く。
 それでも止まらぬ彼にもう一撃――。
「ミスタ灰山!」
 その前にメアリベルが後ろから抱きつくように制止する。
「しっかりして、ミスタ灰山!」
 悲痛に響くメアリベルの叫びは、確かに恭介の動きを止めた。
 だが、地獄化の炎は未だ収まらず、爛々とその瞳はユウギを睨みつけている。
 ユウギの他には何も見ていない。
「そろそろ……きちんと敵を見据えていただきましょうか」
 ジュリアスがふぅっとため息をついて、恭介に克水陣を使用する。
「あれ? 来ないの? 面白くないなぁ」
 ユウギは恭介に向けて弾丸を撃つ。
 それを滑り込むようにマリアムが食い止めた。
「攻撃は俺が引き受けます! 皆さんは今のうちに恭介さんを!」
 マリアムは自身にヒールを掛けながら、ユウギの方に足を踏み出した。
「恭介さん、皆あなたを心配しています!」
 どうか正気に戻ってほしいと呼び掛けて、マリアムはユウギに挑戦しに行く。
「いいね! 彼の前に君たちから遊んであげよう」
「誰がアンタに遊ばれるか!」
 緋音が吠える。その足を恭介へと向けながら。
「……回復はお任せください」
 カナは傷ついた仲間たちを回復させる。
「大切な人を失った灰山さんの気持ち、私も経験があるから分かります!」
 そして悲しげな瞳で恭介に語りかける。
「灰山、お前の気持ちはわかる!」
 パトリックは再度呼びかける。
「だが、怒りで相手をし損じては、本末転倒だぞ!!」
 今はその怒りを抑えて、立ち向かうべきなのだと語る。
「ええ、ここで我を忘れたら、何もなせなくなります! 目を覚ましてください!」
 カナはパトリックの言葉に頷いて、もう一度語りかけた。
「アナタのお友達は……メアリたちはここにいる。まだ生きてる!」
 必死にメアリベルは恭介に語りかける。自らの温もりが、彼に伝わるようにしっかりと抱きしめて。
「前に言ったはずだぜ。アンタのやるべきことをやれってな!」
 緋音は恭介の肩に手を置き、その瞳を覗き込んだ。
「今のアンタは本当にやるべきことをやってンのか!?」
 彼の瞳に生気が戻る。大きく息を吐いて頷いた。
「すまない、俺としたことが、我を忘れていた」
「不見(みず)には打ち克てましたか? では戦闘を続けましょうか」
 ジュリアスの言葉に、もう大丈夫だと力強く頷いた。
「ああ。俺たちで、こいつを倒すぞ!」
 仲間たちは共に頷き、ユウギに立ち向かう。
「それがどうしたっていうのさ!」
 ユウギの余裕の表情は崩れない。
 翼から放たれたオーラの刃が、ケルベロスたちを切り裂く。
「ふむ……次はどう攻めるべきですかね」
 ジュリアスは攻撃を繰り返しながら、思案する。
 ユウギは手強い。一つ攻撃を受けるだけで、大幅に体力を消耗する。
「回復の手が足りないと、こちらもどうなっていたか……わかりませんね」
 カナの回復と、絡奈のサーヴァント『アトラクス』の回復がこの戦いを支えていた。
「強い、ですね……」
 マリアムが流れる汗を拭う。
「先ほどの傷は大丈夫ですか?」
「ええ。何とか自分で傷は塞ぎました」
 ジュリアスの気遣いに、マリアムは笑って手を振る。
「次は何とかしてあいつの動きを止めてみせます」
 そう、せめてユウギの動きを止める事が出来れば、攻撃を止める事が出来るならば。
 動きさえ鈍れば、こちらの攻撃もじわじわと効いて来るだろう。
「せっかくだからもっと毒を味わってよ」
 ユウギの銃口は絡奈に向かって火を吹く。
 毒の籠った一撃を受けた絡奈は体をくの字に折り、苦しんで見せる。
(「こういうのがお好きなようですし」)
 それはユウギの油断を誘うために。
「あはは! いいね! もっと苦しんでよ」
 はしゃいだユウギの声が辺りに響く。
 次の瞬間地に張った蜘蛛の糸が、ユウギを足元から拘束する。
「油断、愉悦も心の毒、貴方には毒使いの深淵には程遠いようです」
 ユウギの油断を突いて、絡奈はユウギを縛り上げる。
「なっ……!」
 逆転の一手。蜘蛛の糸からユウギは逃れようとするが、絡みついた糸は彼の動きを鈍らせるには十分だった。

●遊戯の終焉
「なあ、アンタ。因果応報って知ってるか?」
 緋音の蹴りがユウギの腹に決まる。
「ぐっ……!」
 すぐに飛び退るユウギ。着地したその足はぐらりと傾いだ。
「へっ、効いてきたようじゃないか!」
 緋音は会心の一撃だと言わんばかりににやりと笑う。
「うおおおお!」
 パトリックの突きがユウギを掠める。
「禁じられた遊戯がそんなに楽しい? メアリの斧で刻まれてもそんな事が言えるかしら」
 メアリベルはリジー・ボーデンで追い込みをかける。一撃二撃、本当に切り刻むかのような滅多打ちだ。
 攻撃が次々とユウギに突き刺さっていく。
「くっ……こんな攻撃で、僕がっ……!」
 焦りの表情を見せるユウギ。その顔にもはや楽しげな様子は欠片もない。
 毒の銃弾を撃つ。
「そんな軽い攻撃で、アタシを止められるかよッ!」
 緋音は痛みをものともせず、前進して一撃を加える。
「毒には毒です!」
 マリアムの攻性植物がユウギへと食らいつく。その傷口から毒が注入された。
「毒を受けた者同士、これで対等です!」
 ユウギの動きが更に鈍くなる。
「お返し、ですわ。相手をいたぶって喜ぶのは所詮二流ですわよ、蜘蛛の毒はすべて捕食の為の物」
 絡奈はその隙を突くように、さらに毒を流し込む。
「その身で受ける毒の味はいかがですの?」
「くっ……くぅっ……!」
 ユウギはがっくりと膝を着く。
 度重なる集中攻撃、そして毒は、ユウギの体力を奪い去った。
「後は灰山様にお任せいたしましょう」
 その様子を見て、絡奈は興味を失ったようにユウギから背を向けた。
「ミスタ灰山――どうかお友達のぶんまで本願を果たして頂戴」
 メアリベルが言葉を紡ぐ。
 ジュリアスは恭介を振り返る。道を譲るかのように。
「さ、その手で引導を渡して差し上げてください」
 悔しそうなユウギの前に恭介が進み出る。
「最後にもう一度聞く。俺の家族を殺した奴はどこだ?」
「知らないよ、そんなの」
「そうか。では死ね!」
 ユウギの返答を聞き、恭介の地獄の炎が強く強く燃え上がった。
「決めろッ! 恭介ッ!」
「灰山さん! いっけー!」
 緋音やカナの声援が彼の背中を後押しする。
「貴様の骨一つ……いや、肉片一片たりとも残さん! 全て焼き尽くしてやる!!」
 その怒りを炎に込め、ユウギを焼き尽くす。まるでその姿は意思を持った竜のよう。
「俺の家族と友達――いや違う」
 恭介は言葉を切り、叫んだ。
「貴様が遊戯と称して殺してきた大勢の命に、地獄で懺悔し続けろ!」
 返答はない。悲鳴もない。
 地獄の炎に焼き尽くされるかのように骨も肉も残さずに、ユウギはこの世から消え去った。

●絆
 恭介は何かに祈るようにその場で目を閉じ立ち尽くす。
(「こういう時、なんて声を掛けたらいい……?」)
 パトリックはその姿を見て首を振る。掛ける言葉が見当たらない。
(「こういうトラウマなどはどこかで吐き出せばいいのですけど」)
 念入りに周囲にヒールを掛けながら、ジュリアスは残念がった。
 緋音はそっと恭介の背中に声を掛けた。
「お疲れさん」
 その言葉に万感の想いが籠っている。
 無事でよかった、と。安堵するように。
「助けに来てくれて、ありがとう、皆のおかげで俺……」
 恭介は駆けつけてくれた仲間一人一人に頭を下げる。
「灰山さん……無事でよかった……本当に……」
 カナは安堵のあまり、その場に泣き崩れた。
「お疲れ様、そしておかえりなさい」
 寄り添うようにメアリベルが恭介と手を繋ぐ。
 温かい仲間たちを感じて恭介は目を閉じる。
 仲間たちの絆を確かに感じたから。
 その顔に自然に笑みが浮かび、今の気持ちを言葉にした。
「ただいま、皆」

作者:流堂志良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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