出会わなければよかった

作者:夏雨


 洋館風の古びたホテル。廃業後の荒れ果てた建物の中に、1人の青年が拘束されていた。
 1階全体を見下ろせる踊り場、その欄干部分と青年の両手は結束バンドでつながれている。
「なんでこんなことするんだよ!?」
 拘束された姿を無言で見下ろす異様な人物に対し、事態を理解できない青年は怒鳴った。
 猛きん類のような目とクチバシ、全身を羽毛で覆われた姿は鳥人間と形容するにふさわしい。その人物は口を開き、
「俺はお前とは違う」
 聞き覚えのある声に耳を疑いながらも、青年は尋ねた。
「ウソだろ……敦士なのか?」
 敦士と呼ばれた鳥人間はただ青年を見つめ返す。
 青年は努めて冷静に聞き返した。
「どうして、こんなことを……?」
「お前さえ近づいて来なければ……! 俺はまともな人間でいられたのに」
 声を荒げる敦士は一方的にまくし立てる。
「ユキト、お前のせいだぞ! お前が俺をこんな風にしたんだ。やっぱり間違っていたんだ、お前とのことを受け入れるべきじゃなかった。家族の誰もが俺を拒んだ。お前さえいなければ、こんな思いをせずに済んだはずだ!」
 涙を浮かべながら耳を傾けていた青年、ユキトはその言葉から多くを悟った。
「そっか……家族に打ち明けたんだ」
 ユキトは震える声で反論した。
「俺だけが原因じゃない、お前が自覚してなかっただけだよ」
「違う! 俺はそんな人間じゃない!」
「なんでだよ!? 好きだって言ってくれたじゃん!」
 ユキトも負けまいと大声で怒鳴ると、一瞬敦士は押し黙る。
「同じ男を好きになることがそんなにいけないことなのか?」
 涙を流して思いを吐露するユキトに対し、敦士は非情に振る舞う。鋭いかぎ爪を胸の表面に突き立て、いたぶるためにゆっくりと傷を刻んでいく。


「ビルシャナと契約した男性、敦士さんという方は拉致したユキトさんを殺すつもりでいます」
 ビルシャナとの契約、それは復讐の願いを成就させた後にビルシャナの命令を聞き入れるというもの。
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が予知したのは、契約者の敦士が復讐を実行しようとしている未来だった。
「察するに、このお2人は恋人関係にあった……ようですが、同性愛者であることを家族に打ち明け、拒絶されたことが原因となって、彼は契約を受け入れてしまったと考えられます」
 ユキトを殺す目的を果たしてしまうと、敦士は心身共にビルシャナと化してしまう。新たなビルシャナを生み出さないためにも、敦士の計画を阻止する必要がある。
 敦士は契約によって得たビルシャナの能力、精神を惑わす経文、炎と氷の力を駆使してケルベロスに対抗してくる。また、セリカは敦士の行動パターンについて言い添える。
「現場であるホテル内部に侵入し妨害する姿勢を見せれば、敦士さんは皆さんの排除に注意を向けるでしょう。ですが、追い詰められれば拘束されている彼を道連れにすることも考えられます」
 正面入り口から侵入すれば、階段の踊り場にいる2人を真向かいに見つけることができる。踊り場からは入り口の様子が丸見えだが、ホテル裏の非常階段からその真後ろへ侵入する手もある。
 『敦士さんはまだ完全にビルシャナになった訳ではありません』と、敦士の生存の可能性をほのめかす。
「間違った行いであることを理解させ、心から契約解除を望むことが重要です。復讐に対する未練が残っている限り、ビルシャナとして滅びる運命をたどることになります」
 セリカはわずかに表情を険しくしながら続ける。
「例え救うことが叶わなかったとしても、契約に至った彼にも落ち度はあります。皆さんだけが責任を感じることはありません」
 どこか物思いにふける様子のセリカは真剣な口調でつぶやいた。
「愛情と憎しみは紙一重とも言われますが、皆さんは彼の行動をどう感じますか?
 周囲の人間に否定された絶望を、最愛の人に向けるしかなかったというのも悲しいですよね」


参加者
アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)
露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)
斉賀・京司(花と蝶・e02252)
ラズリア・クレイン(天穹のミュルグレス・e19050)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
アベル・ヴィリバルト(根無しの噺・e36140)
觴・聖(滓・e44428)
御廟羽・彼方(眩い光ほど闇は深く黒く・e44429)

■リプレイ


 ヘリオンから古びたホテルの前へと降り立ったケルベロスたちは、早速建物内へと乗り込もうとする。
 4人ずつで二手に別れ、1チームは閉じられている正面入り口の向こうを窺う。もう一方のチームはホテルの裏手へと回り込んでいく。
 両開きの扉を勢いよく開け放つと、正面に見えた踊り場のビルシャナと青年の視線がケルベロスへ注がれた。
「おやめなさい! そこまでです」
 拘束されているユキトの姿を認めたラズリア・クレイン(天穹のミュルグレス・e19050)は声を張り上げた。
 武装した姿をさらけ出す4人のケルベロスを見た敦士は、ユキトの前に立ち塞がり警戒する。
 『何の用だ!?』と息巻く敦士に対し、露切・沙羅(赤錆の従者・e00921)は堂々と間違った行いをいさめた。
「⾜りな過ぎるよ。覚悟も想いも。……中途半端に想うなら、いっそ捨てた⽅がいいよ。契約をしたところで、絶対に満たされるなんてないから」

 ホテルの裏に回った4人は、非常階段から内部へと侵入し、1階に続く階段の方へと足を進める。
 次第に大きくなる声との距離。気配を悟られないようにして進む中、正面側では興奮を募らせる敦士に対し、アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)はぶっきらぼうに応える。
「おい、そこの鳥。事情は大体こっちでも把握してる」
 『無意味な八つ当たりより、心中の方がまだまだ増しだな』とトゲのある言い方で続けるアギトだが、ラズリアは真摯に語りかける。
「ユキト様は、私たちがお守りします。そして、敦士様……あなたを救うことも目的の1つです」
「お前さんは自分を拒否した家族に心を置いちまった訳だが……他に方法はなかったのか?」
 敦士は全身の羽を逆立てながらもアベル・ヴィリバルト(根無しの噺・e36140)の言葉に耳を傾け、ゆっくりと踊り場から降りてくる。
「口を挟むな。出て行かないなら――」
 『出て行く気なんてないね』と、アベルは敦士の言葉を遮る。
「出て行ったら、お前さんは大切な誰かさんを殺すだろう?」
 そう言いながら、アベルはユキトの方を一瞥した。身動きが取れない状態に置かれているユキトは、不安そうにアベルを見つめ返す。
 アベルはふと何かぶつぶつとつぶやく敦士の声を意識した。その瞬間、アベルは激しい耳鳴りに襲われる。アベルの耳鳴りが増大したときには、経文を唱える敦士の声を全員が認識した。
 頭を押さえて苦悶するアベルと敦士の関係を瞬時に見極め、沙羅は攻撃に踏み切る。
 沙羅の槍から放たれる鋭い一突きが襲いかかり、敦士は経文を唱えるのをやめて身をそらす。その動きを予測したラズリアも槍を突き放ち、敦士の動きを封じにかかる。
 敦士は直撃を避けようとして突きはねられ、追撃を狙い澄ましたアギトは鋭い蹴りを食らわせる。壁際へ追い詰められながらも、敦士はさほど手応えがないように立ち続けている。
 ユキトの救出を担うチームの1人、觴・聖(滓・e44428)は廊下の影から踊り場の方向を覗き込む。密かにユキトの下へ向かおうとしたが、
「敦士!」
 声をあげるユキトに反応し、後に続こうとした御廟羽・彼方(眩い光ほど闇は深く黒く・e44429)らを制止する。
「本気じゃないんだろ? 本当に殺すつもりなんてないよな!?」
 ユキトに視線だけを向けた後も、敦士は攻撃の構えを崩さない。
 敦士の気を引こうとするユキトは声を張り上げ続け、その様子を影から覗く聖は睨みつけるような目付きで舌打ちした。
 ビハインドの彼者誰を連れた斉賀・京司(花と蝶・e02252)は、ユキトの行動に焦る気持ちを抑えつつ、
「気持ちはわかるけれど……黙らせたいところだね」
 救出に踏み切る機会を待った。


 アベルは経文の影響を受けながらも紙兵の群れを散布する。霊力を帯びた紙兵は、周囲のものに守護の力を振りまいていく。
「いくら言っても無駄だろ」
 紙兵が舞い上がる中、敦士に対処しようと身構えるアギトは言った。
「周囲に否定されてもあんたを愛し抜く覚悟がこいつにはなかったんだからな」
 敦士の注意を引きつけるため、アギトは挑発的な言葉を向ける。敦士の視線がアギトを睨むように注がれ、張り詰めた空気の中で向かい合うラズリアは引き続き呼びかけた。
「御家族から突き放されたお気持ちはお察ししますが……それを相⼿に⼋つ当たりだなんて、恥ずかしくはございませんか」
 聖らと同様に壁の影に身をひそめるウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)は、敦士の様子を密かに窺う。そのウィルマのウイングキャットのヘルキャットは極度の肥満体型で、移動という重労働を終えたヘルキャットは、足元で悠然と羽を休めている。
「お前らに何がわかるんだ!」
 怒鳴った敦士は瞬時に炎を生み出し、クジャクの形を見せる炎はラズリアへと突撃した。炎を操る敦士を妨害しようとする沙羅は、その至近距離へ踏み込もうとした。しかし、ラズリアの目の前から急旋回する炎のクジャクは、敦士を守るように沙羅との間の盾となった。灼熱の炎から逃れるため、沙羅はやむを得ず後退する。
「認められず拒まれ続けた経験なら、吐き気がする程覚えが有る――」
 敦士の一言に答えるように、アベルは言った。
「それでも愛しい理解者⼀⼈いりゃ⼗分だったさ」
 過去を思い返しながら続けるアベルは、渋い表情を覗かせる。
 敦士の心を傾かせようと、沙羅も揺らめく炎の向こうの姿に語りかけた。
「すべては理解できなくても、これだけは言えるよ。周りに理解されなかったから最愛の人を傷つけるなんて――絶対に間違ってるよ」
「違う……そんなんじゃない! ユキトのことは――」
 敦士は『最愛の人』という部分に反応を示し、ユキトから視線を伏せた。
 口をつぐむように見えたが、敦士は揺るがない意志を示すように、
「とにかく邪魔をするな!」
 敦士の手の平から舞い散る氷片は、自在に浮遊する複数の円刃の形を現した。
 敦士と沙羅たちが交戦していた間にも、ユキトを救出に向かう4人。その1人でユキトの背後へ忍び寄ったウィルマは、騒がないようユキトの口を塞いだ後、「だ、大丈夫、大丈夫。……ね?」と安心させるよう努めた。
「初めまして、ケルベロスだ。そしてこの背後霊は君の護衛だ」
 京司が彼者誰の存在を説明している間に、聖はユキトの腕を固定している結束バンドを力任せに引きちぎる。
「てめえ『等』を助けに来た。殺させねえようにするからおとなしく――」
 聖が言い終えるまでに、ユキトは欄干から身を乗り出して敦士に呼びかけた。
「敦士、ごめん!」
 敦士は思わず踊り場の方を見上げ、拘束を解かれたユキトと他の4人の存在に目を見張る。
 彼方は「ユキトさんをお願い!」と階段の踊り場から飛ぶように降り立ち、真っ先に敦士を制止できるよう身構えた。
「――俺が、ずっと秘密にしておくのはイヤだとか言ったからだよな?」
 ユキトは欄干から強引に引き離そうとする聖にも構わず、見つめ返す敦士に向かって続けた。
「敦士のこと、そこまで追い詰めるとは思わなかったんだよ、だから、――ごめん」
 『なんで……』と口走る敦士の動揺を京司は見逃さなかった。
 敦士の逆立つ羽毛は一瞬わなわなと震えたが、
「うるさい! 俺はもう……!」
 形容できない感情をごまかすように、敦士は旋回する複数の氷刃にユキトを狙わせる。
 聖は迷わずユキトの体を抱え、氷刃に背を向けて踊り場から飛び降りた。氷刃はまるで雲を突き抜けるように欄干を容易く貫通し、同様に踊り場にいたウィルマや京司にも裂傷を刻んだ。
 聖は背中や肩に走る痛みを感じながらも、遮へい物にした階段の向こうにユキトを押し込めて言った。
「何度も言わせんな、おとなしくしてろ!」
 聖にすごまれたユキトは、言う通りに階段の影に隠れるようにした。
 聖と彼者誰は、ユキトとの線上に立ち塞がるようにして身構える。


 ふわりとそよがせる風の流れを受けて、聖の体の痛みは引いていく。どこか憮然とした面構えのヘルキャットは、翼のはばたきから癒しの力を送り込む。彼方も自らの紙兵を操り、無数に舞い上がる紙兵たちは滞りなく傷を癒す力を行き渡らせた。
 聖に防がれたことによって、敦士は更に苛立ちを露わにする。怒りに任せて理解不能なビルシャナの経文を唱える声を響かせると、聖をその術中へとはめた。
 激しい耳鳴りが聖の精神までもむしばもうとするが、アギトは透かさず行動に出る。具現化させた自らのオーラを集束させ、経文の影響を打ち消す力を聖へと注ぎ込んだ。
 息つく間もなく炎のクジャクをけしかけようとする敦士だが、彼方は説得を試みる。
「本当に、ユキトさんのこと好きなんでしょう? こんなことして絶対後悔するよ」
 彼方の言葉が琴線に触れたのか、敦士ははたと動きを止めた。
「ちゃんと皆と話し合ってみよう、偏⾒なんて吹き⾶ばそうよ。本当に愛しているのなら――」
 『黙れ!』と怒鳴る敦士に彼方の言葉は遮られ、動きを止めたクジャクも再び彼方へと向かう。しかし、動揺が現れているのか、飛び交う敦士の攻撃は稚拙さを増し、ケルベロスらを捉えられずにいる。
 幾度となく攻撃をかわした京司は、煩悶する精神を制御し切れない敦士の隙を突く。京司の意志によって自在に動く鎖は敦士の上半身を一周し、その体を巻き取って動きを封じにかかる。
 抵抗する敦士と鎖を引き合いながら、「今まで怖くて明⾔できなかったが――」と京司は出し抜けに言った。
「僕も君らと同じでね。同性である男に恋をしていた」
 その顔立ちに漆黒の長髪を艶めかせる京司ならば、口を開かなければ女性であることを多くの者は疑わないだろう。男への恋慕の告白も、どこか納得できるものがある。
「酷い男で僕に好きと云わせず連れて⾏かず、未来を求めて死んだ酷く狡い男……だけれども今も⼼を掴む男――」
 ここではない過去の情景を見つめるように、京司は虚ろな眼差しを見せてつぶやいていたが、
「君らは良いね、お互い⽣きて⼀緒にいてくれる……⼼底羨ましく、妬ましい。だのに殺す? ⼀時的な感情で?」
 心底からの感情を吐露する京司は、敦士を見据えながら続ける。
「後悔をしないかい? 後悔と恋と愛は⼀⽣の呪いだよ。君にそんな呪いを受ける覚悟はあるのかい?」
「俺は、後悔なんて……!」
 息巻く割に歯切れの悪い物言いの敦士に対し、ウィルマは畳みかけた。
「⼀度は好き合った相⼿がいなくなってしまうのを、さ、寂しくは思いませんか?」
 吃音が混じりながらもウィルマなりの言葉を伝える。
「自分を狂わせて、⼈⽣を壊した相⼿です。恨むのもいいでしょう……でも、本当、に、満足ですか?」
 ウィルマが語りかける間にも、敦士は徐々に鎖を巻かれた両腕に力を込める。宙に不意に閃いた火の粉は、瞬時に燃え盛る炎となり、クジャクの形を見せた炎は京司へと突っ込む。炎に対処しようとする京司が鎖を緩めた瞬間、敦士は拘束を振りほどいて京司に攻めかかる。鎖をムチのように振り回す京司は、挟み撃ちにしようとする炎と敦士の動きを乱す。それでもかき消されない勢いの炎が、京司へ迫ろうとした。が、炎の前へ飛び出した彼者誰は、体を張ってそれを打ち消してみせた。
 敦士は容赦なく攻撃を続け、旋回する氷刃を止めない。


 聖は機敏な動きで複数の氷刃をかいくぐり、敦士を近距離に捉えようとする。しかし、最後の氷刃は敦士の背後から飛び出し、聖の不意をつこうとした。怯まずに突き進む聖は刃の道筋から体をそらしつつ、その右手につかみ取った刃を割り砕いてみせた。勢いの衰えないままに、聖の右手は敦士へと伸ばされる。胸元の羽毛をつかみあげる聖の手は、敦士にかぎ爪を突き立てられてもびくともしない。
「何もかも――」
 相手を引き倒す態勢に移りながら、聖は吠えるように言った。
「なかった事にゃ出来ねえんだ!」
 大量の羽毛を引きちぎられ、床に叩きつけられた敦士は倒れふす。
 すぐには起き上がれそうにない敦士を見下ろし、「覆水盆に返らずって言うだろ」と続ける聖は心の丈をぶつけた。
「拒絶されたんなら見返してやれ。貫いてみせろよ、他人のせいばっかしてねえでさ。コイツはオレが選んだパートナーだって、胸張りゃいいんだ!」
 のどを枯らさんばかりに響かせる聖の声を受けながら、敦士はゆっくりと立ち上がる。
 逡巡するように鈍る氷刃の動きは、まともに対象を捉えられなくなっている。
 明らかな動揺を感じ取りながら、沙羅は息を切らす敦士に言葉をかける。
「君の本当の望みは何だい。体裁の良さかい? それとも好きな⼈への⼤切な想いかい?」
「差別をする⼈間ばかりだと、思わないで。あなたはお⼀⼈ではないのですから……」
 沙羅に続くラズリアの一言。
 敦士は全身で苦悩する様を現し始め、
「ユキトをあきらめることが、辛すぎて俺は……! やっぱり、こんな力に頼るべきじゃなかった!」
 敦士は床にひれ伏すようにして、「どんなことでもするから、許してくれユキト!」と震える声でありのままの思いを発した。
「そうか、なら今度こそ覚悟を決めろ」
 そう言い放つアギトからは、鋭く打ち振られる鎖の一撃が敦士へと向けられる。一片の抵抗も許さずに打ちのめしにかかるアギトの攻撃に乗じて、
「ああ……。本当に、本当に、⼈間ってめんどうくさい」
 人知れずクスリと口角を上げたウィルマは、瞬時に歪んだ空間から蒼い炎をまとった剣の柄を引きずり出した。
 ウィルマはなかなか切っ先が見えない剣を一気に引きずり出したが、長大な剣は敦士以外の対象を幻影のようにすり抜け、敦士のみを弾き飛ばした。
「喰らい尽くせ――欲喰」
 アベルは幻影のように揺れ動く竜の像を生み出し、敦士の体が宙へと投げ出されると同時に、藍紫色の竜を向かわせた。
 襲い掛かる竜は敦士を飲み込み、その体を突き上げた竜の姿は燃え盛る炎のようにかき消え、衝撃と共にまき散らされた羽毛が舞い踊る。
 消えた竜の向こうに見えた敦士は元の人間の姿に戻り、床に体を横たえたまま動かなくなった。
 気を失ったままの敦士の下に駆け寄るユキト、敦士の状態を確かめて安堵する一同。
 沙羅はいつの間にか姿を消している京司の存在に気づき、同様に叶わぬ想いを抱く相手のことを思い浮かべ、静かに微笑んだ。
(「性別で好きになったわけじゃないんだよね。僕は、彼女だから……あのヒトだから好きになったんだ」)

作者:夏雨 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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