戦う冷蔵庫ロボ!

作者:柊暮葉



 その冷蔵庫は廃品回収の業者の倉庫でふてくされていた。
 冷蔵庫の製氷の部分が壊れたのであっさりと捨てられてしまったのである。
(「それぐらい直してくれれば、まだ俺は働けるのに……」)
 そんなことを考えている冷蔵庫にカサコソと近づいて来る蜘蛛のような宝石。
 コギトエルゴスムだ。
 その宝石が侵入した途端、冷蔵庫はみるみるうちに巨大化変形、冷蔵庫ロボに!!
「レイ・ゾウ・コー!!」
 奇っ怪な叫びを上げたかと思うと冷蔵庫ロボダモクレスは歩き出し、物理で殴るで倉庫のシャッターを破壊して逃げ出してしまった!


 セリカ・リュミエールが集めたケルベロス達に説明を開始した。
「千葉県の業者の倉庫に捨てられていた冷蔵庫の一つが、ダモクレスになってしまう事件が発生するようです。幸いにもまだ被害は出ていませんが、ダモクレスを放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうでしょう。その前に現場に向かって、ダモクレスを撃破して欲しいのです」


 セリカは説明を続ける。

「このダモクレスは冷蔵庫を元にしたロボットのような形をしています。その能力もそれに纏わるものです」

 フロストレーザー……冷蔵庫のドアを開けるとそこから冷凍光線が発射。
 ブロークンアイス……冷凍庫のドアを開けるとそこから粉砕された氷が射出。
 物理で殴る……冷蔵庫の角で殴る。

「……どうやらコギトエルゴスムと合体したら、製氷の故障は直ったようですね。……廃品回収の業者の倉庫は、千葉県のある村の村はずれにあります。倉庫を出るとトラックが置ける程度の駐車場があり、ここで戦闘する事が可能です。業者はちょうど回収に出かけていた時間で、倉庫番のバイトが一人いますので、彼を安全な場所に避難誘導してください」


 最後にセリカはこう言った。
「罪もない一般人を虐殺するデウスエクスは許せません。必ず討伐してください!」


参加者
ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)
ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)
外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)
神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)
レイナ・クレセント(古代の狭間・e44267)
アルフレッド・イングラム(黒騎士・e46807)

■リプレイ


 千葉県の村にある廃品回収の業者の倉庫に、ダモクレス発生--。
 その情報を得たケルベロス達は、ただちに行動を開始した。

 ヘリオンで村の外れに降下したケルベロス達は農道を走って移動している。
「久し振りにロボとの戦いだ……心がちょっと踊るね! 君の氷と僕の炎、どっちが勝つか勝負だ!」
 ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)は陽気にそう言った。
「難しい事は何も考えなくていい。いつも通りに戦って人々を護るだけ、いつも通りに勝って皆を守ろうか」
 ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)は、自分が正義だと思う事を発言する。
「まあ、環境がどうのと言われてる昨今、直せるものなら直して使った方がいいとは思うが、とはいえ、ダモクレスになったなら別だ。めんどくせえが、さっさと壊して帰るぞ」
 外木・咒八(地球人のウィッチドクター・e07362)は先の二人に比べて随分気だるげである。
(「このまだ肌寒い時期に冷蔵庫ロボ……。寒い……夏ならまだしも春先……これはぱぱっとやっつけたいわねぇ……。とは言っても、あたしに火力はないし、いつも通り味方にお任せねー。さーて、いつも通り皆を守るわよー。テレ蔵くんも頑張るわよー。あー、帰ったら何かお汁粉でも飲みたいわー。姪っ子に電話して作ってもらおうかしら」)
 咒八に続いて一緒に走りながら神宮寺・純恋(陽だまりに咲く柔らかな紫花・e22273)はそんなことを考えている。
「さーて、みんなファイトファイトよー」
 そんな掛け声をあげる純恋。
「冷蔵庫ですか、まだまだ寒さも厳しいこの時期に更に寒くなるのは勘弁願いたいですね。まぁ、人に危害が加わるなら放ってはおけませんが」
 レイナ・クレセント(古代の狭間・e44267)は、まだまだ肌寒い空気に一瞬、ぶるっと身震いしながらそう言った。
「僅かな故障で打ち捨てられたことは無念でしょうが……あなたの蛮行、見過ごすわけには参りません」
 アルフレッド・イングラム(黒騎士・e46807)は紳士的な口ぶりで呟いた。彼は力なき人々の盾となり、剣たる騎士たることを常に意識し、あらゆるデウスエクスによる蛮行を止めるため戦意は非常に高いのだ。
「戦闘までできる冷蔵庫なんて家に欲しいですね」
 ティファレト・ソレイユ(黄金・e50623)は、戦いが待ち遠しいのか、高揚した口ぶりでそう言った。
 ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)は、皆の話に頷きながら、一緒に走ってついていった。

 やがて農道の先に、問題の業者の倉庫が見えてきた。
 シャッターの前でちょうど、倉庫番らしい青年がホウキで周囲を掃いている。
 アルフレッドが声をかけようとしたそのとき、倉庫の方で何かが砕けるような激しい物音がした。
 倉庫番バイトが何かと思ってシャッターに向かう。
「レイ・ゾウ・コー!」
 その途端、シャッターをぶちやぶって冷蔵庫ロボ--ダモクレスが現れた。悲鳴を上げて腰を抜かす倉庫番。
「流石にこの日本で暮らしているなら事体はすぐに把握できるよね! 僕らはケルベロスだよ! 今はとにかく早く逃げて!」
 そこに駆け寄って行って青年を助け起こしながら、ヴィットリオがそう告げた。
「我々が引き付けている間に、お逃げください」
 アルフレッドは倉庫番に声をかけつつ、牽制の攻撃を放って敵の注意を自分たちに向ける。
 続いて咒八、それにレイナが倉庫番とダモクレスの間に割って入った。
「ダモクレス、めんどくせえが一般人に手を出すんなら容赦しねえぞ!」
「さあ、早く逃げてください!」
 倉庫番は大慌てで戦場から逃げ出した。
 ダモクレスは憎らしそうに8人の顔を眺め回した。
「ぬう……ケルベロスか……」
 そこでティレファレトが動いた。
「危険の方を遠ざけてしまえばいいのです!」
 オウガの怪力により、冷蔵庫ロボを倉庫番が走って行ったのと逆方向へ、オウガナックルでぶち抜いていった。

 業者の倉庫の駐車場で、ケルベロス達は、ダモクレスに立ちはだかるように展開していった。
 ダモクレスは目を怒りで爛々と輝かせている。
「俺を勝手に捨てた人間どもめ! 邪魔するなら容赦しないぞ!」
 ダモクレスはそう怒鳴ると、冷蔵庫の角で出来た拳を振り上げた。
 ティファレトを狙って振り下ろされる拳--『物理で殴る』。
 しかし寸前でヴィットリオが彼女の前に飛び出て受け止める。
 ダメージを半減するものの、勢いで後ろまで足でずりさがっていくヴィットリオ。

「最近ちょっと暖かくなってきたとはいえ、涼しい系はもう3ヵ月くらい先でいて欲しいわー。まあでも化けて出てきたんだら、倒すわよ、テレ蔵くん」
 そんなことを言って、純恋はテレ蔵に凶器攻撃を使わせた。
「オウガメタルちゃんよろしくねー」
 純恋が、全身のオウガメタルから粒子を解き放ち、仲間達の超感覚を覚醒させていった。
「ああ、ありがとう」
 回復していくヴィットリオ。
 ベルンハルトは精神を集中させて、ダモクレスの拳を遠隔で爆破していく。
「捨てられたからなんだ!」
 ルージュはパンカーのパイルに雪をも退く凍気を纏わせてダモクレスへと突き刺した。凍結していくダモクレス。
 ヴィットリオは自分自身にオーラを溜めて体力を回復していく。
 その間に、彼のライドキャリバーのディートがキャリバースピンでダモクレスへと特攻していった。
「ったく、めんどくせえ」
 咒八は流星のきらめきと重量を宿し、跳び蹴りをダモクレスへとぶちかます。
「まずは、これです!」
 アルフレッドもまた反対方向からダモクレスへスターゲイザー。漆黒のパワードスーツで華麗なる跳び蹴り。
「さぁ、私のガジェットよ、石化弾で敵を石化させなさい!」
 レイナはガジェットを「拳銃形態」に変形させ、魔導石化弾を発射した。
 ティファレトはダモクレスの懐に飛び込むと、光り輝きながら敵を打ち砕くアッパーカットを繰り出した。

「ぐ……く……おのれぇえ!」
 ケルベロス達による一斉攻撃にダメージをくらい、ダモクレスは怒りのうなり声を上げる。
「きさまらになど……負けはせん!」
 そう怒鳴ると、ダモクレスは冷蔵庫のドアを開けた。
 途端にそこから恐ろしい冷気のビームが解き放たれる。
 冷蔵庫から放たれたフロストレーザーは真っ直ぐに純恋へと照射されていった。
 凍てついてしまう純恋。

「さっきのお返しだよ!」
 ヴィットリオが純恋へとオーラを溜めていき、彼女の体力を回復し、治療する。
 それを終えるとディートに乗りデットヒートドライブで攻撃。
 純恋のテレ蔵が懸命に主人へと応援動画を回している。
「守りを固めるわ。よろしくねー」
 体の動きを取り戻した純恋は、紙兵を辺りにばらまいた。回復と同時に、仲間達の力を高めていく純恋。
「捨てられたから無関係な人間を殺すのか? ありえない」
 ルージュは日本刀を納刀状態から一瞬にして抜刀し、ダモクレスを切り捨てる。
 ベルンハルトは喰霊刀でダモクレスを刺し貫き、刃から伝わる呪詛でダモクレスを汚染していく。
 アルフレッドは縦斬りをダモクレスの肩に食い込ませ--その直後、刀を振り払い、もう一本の横斬りで腹部を抉る。
「全てを虚無に放り込んであげますよー」
 レイナは虚無魔法を使う。
 触れたもの全てを消滅させる、見えない虚無球体を放つレイナ。
 ティファレトは阿頼耶識から光線を放ち、ダモクレスを攻撃する。
『安息に堕ちろ』
 咒八の菫(ウルフズベイン)。
 紫の花から作られる薬を用いて、甘やかな匂いと共に相手を安息へと誘う。誘われたのは本当に安息か。それを知るのは誘われた本人のみ。……追撃を受けていくダモクレス。

「小生意気なケルベロスたちめ!!」
 いよいよ怒り狂ったダモクレスが今度は冷凍庫のドアを開けた。
 途端に大量に貯蔵されていた製氷が砕け散りながら周辺にばらまかれた。恐ろしい冷気の塊の氷であった。
 駐車場のアスファルトがみるみるうちに凍り付いていく。そしてその砕けた氷達は、一挙にケルベロスの前衛の体にぶちまけられた。
 先程純恋を襲ったものの何倍もの冷気が、ベルンハルト、ヴィットリオ、ルージュ、純恋、ティファレトを襲い、凍り付かせていく。

 しかしあらかじめ、紙兵散布でケルベロス達は力を高めていた。
「もっと守りを固めるわ」
 辛うじて、純恋が動き、再び大量の紙兵を周囲に散布する。それにより凍結が解除され、次々とケルベロス達は回復していった。テレ蔵は応援動画でヒール。
『燃え上がれ、活力の炎っ!』
 さらにヴィットリオがセイクリッド・ホワイトフレアを使った。
 体内のグラビティチェインを、生命力を活性化させる白色の炎へと変換し周囲を包み込む。正しく炎が氷を溶かし、仲間の体を癒しの炎があたためていった。体の自由を取り戻すケルベロス達。
 ベルンハルトはガジェットを「鋼鞭形態」に変形させ、伸縮自在の鞭でダモクレスを打ち据え攻撃する。
「めんどくせえが……倒させてもらうぜ!」
 咒八はマインドリングから光の剣を召喚し、ダモクレスを真っ直ぐに斬りつけた。
 ティファレトは電光石火の素早さでダモクレスを蹴り上げようとしたが、惜しくも空ぶった。
『垣間見るは朽ちた未来。ならば、僕はそれに紅引き否定しよう。この手が誰もが望む未来に届くまで!』
 ルージュの朽紅の叛逆(ローズ・オブ・リベリオン)。
「私は恨みで殺すためではなく、人を護りたいから戦う」
 擬似的な演算を無数に繰り返し、未来を予測する事で引き当てる狙った奇跡。それにより、ルージュは確実な勝利へと導く一撃を当てていく。
「その隙、逃しません……私の全力、受けてもらいましょう!」
 アルフレッドが声高く言う。
『受けてもらいましょう。これが私の、全力です!』
 アルフレッドが疾風怒濤(ストーム・アンド・アージ)を行う。
 下段に構えた大剣にグラビティを集中……そのまま推力として解放。
 さながら疾風の様な掬い上げの斬撃が初撃。そして、切り上げた軌道を己の膂力、体捌き、グラビティのコントロールによって追撃の斬り落としの第二撃へとつなげる二段構えの大技である。
 頭がくらめくような追撃。
『太古の暴君よ、我が武器にその牙を宿して敵を喰らい尽くしなさい!』
 暴君蜥蜴の顎(ボウクントカゲノアギト)を使うレイナ。
 白亜紀の恐竜の顎を思わせるオーラを武器に宿して、敵の傷口を正確に抉り、喰らいつくすのだ。
 それがトドメとなり、ダモクレスは滅びた。


 戦闘後、ケルベロス達は周辺をヒールで片付けた。その上で逃げていったバイトも呼び戻し、後の事は彼に任せた。
「なかなか骨のある家電でしたね」
 ティファレトは満足そうな女神スマイルであった。
 冷気のために冷え込んでいた周囲は、春の午後の日射しを受けてだいぶあたたかくなってきた。
 もう冬は過ぎ、冷たい季節は過ぎ去っていくのである。
 ケルベロス達はのどかな春の農道を軽く散歩しながら、帰路についた。
 これから暖かい、楽しい季節。どんな事件が起こったとしても、きっと今日のように、明るい勝利へ導いていけるだろう。

作者:柊暮葉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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