ミッション破壊作戦~シュートは打たなければ入らない

作者:ほむらもやし

●戦いは続いている
「もう3月。受験の結果も出はじめるころだね。で、またグラディウスが使えるようになっていたから、僕らも着実に、ミッション破壊作戦を進めよう」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、いつもの様に丁寧に会釈をすると、依頼についての話を切り出した。
「作戦は行き先によって多少の違いはあるけれど、考え方は大きく変わらない、既に先輩たちの知見もあるから、経験の浅い君でも落ちついてやれば大丈夫だ。さて、これがグラディウス。通常の武器としては使えないけれど、『強襲型魔空回廊』を攻撃できる武器になる。使い方はバリアに刃を接触させるだけだ。後は撤退。撤退を阻もうとする敵を倒し、速やかに敵勢力圏から離脱する」
 作戦は魔空回廊への攻撃と、撤退戦の二つの段階からなる。
 前者は個人的な思い。後者は仲間との連携と、得られている知見をどのように生かすかがポイントになる。
 今回、向かうのも、攻性植物のミッション地域のいずれか。具体的な行き先はパーティで相談して決められる。

「特に気をつけることってあるか?」
「全てにスピード感を持つことかな。撤退に時間を掛けすぎれば、全滅する危険がある。もし戦いの最中に新手が来援を許せば最悪の事態に繋がる。作戦地域が敵の占領地域である以上、僅かな行動の遅延が命に関わる」
 とはいえ、敵はグラディウスの攻撃の余波である爆炎や雷光、同時に発生する爆煙(スモーク)に視界を奪われて大混乱に陥っている。これが少人数の奇襲でも、1回の遭遇戦で撤退可能と目論める最大の要因である。
「スモークが有効な時間はグラディウス攻撃を終えてから十数分程度。向かった場所やその日の状況で多少の違いはあるようだけど、何十分も持つものでは無いことだけは覚えておいて欲しい」
 時間に限りがあることを強調したが、今までミッション破壊作戦中に、ケルベロスが死亡した事例は無い。
「あと、グラディウスは使う時に気持ちを高めて叫ぶと威力が上がると言われる。君の熱い叫びがミッション地域を人類の手に取り戻す力になるのだから、恥ずかしいとか言わずに頑張って欲しい」
 攻撃を掛けるのはミッション地域の中枢にあたる、強襲型魔空回廊。
 中枢であるが故にヘリオン以外の手段で、そこを目指せば、果てしない遭遇戦の連続となる。従って消耗による撤退が不可避である。また敵にとってもグラディウスは重要なアイテムで、奪取される危険を考えれば、行うべきで無い。

「次に叫びはグラビティを高める為の手段だけど、何をもって強い叫びとされるかは解明されていない」
 ミッション破壊作戦では、何度も攻撃を繰り返して、ダメージの蓄積による強襲型魔空回廊の破壊を目指している。
 過去に1回、2回の攻撃で破壊に至った事例もあるが、極めて幸運なケースだ。
 だから1回の攻撃で過大な戦果は要求されていない。それよりも無事の帰還を最重視して欲しい。
 ミッション地域は、日本の中にあっても、人類の手が及ばない敵の占領地。
 日々ミッション地域へ攻撃を掛ける有志旅団の力を持ってしても、防備の固い中枢近くまでは、手が届かない。
 敵の傾向は、既に明らかになっている情報を参考にできる。だから速やかに撤退できるようプランを描き、皆で理解した上で、実行しよう。

「デウスエクスは皆が人生の転機にある時でも、お構いなしに攻め込んで来る。大切な人と愛を語り合っている間にも、苦心して進めた仕事が完成間際だったとしても、入学試験の最中でも……」
 襲われる土地は見知らぬ街かも知れないし、あなたの故郷かも知れない。
 今、目の前に見える世界が、平和に見えても、侵略を受けている日常は危機なのだ。
 なぜならその危機は次の瞬間にもあなたの元にやってくる可能性があるのだから。
 そして、この危機に立ち向かえる力を持つのは、あなた方ケルベロスだけだ。


参加者
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
ククロイ・ファー(ドクターデストロイ・e06955)
ヒビスクム・ロザシネンシス(地中の赤花・e27366)
ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)

■リプレイ

●序
「で……マジでいたんだよ。俺もアホの子のせいなのか、当てずっぽうで予知を願ったら」
 ヒビスクム・ロザシネンシス(地中の赤花・e27366)は、ククロイ・ファー(ドクターデストロイ・e06955)が広げた岸和田市の地図を眺めながら、『お金のなる木』が宿敵となったいきさつをさりげなく激白した。
「あの木を見た時の抗い難き欲望は凄まじいものだ。宝石のような果実がたわわに実り札束が手招きしているんだぜ、しかも金ぴかなんだぜ! もし俺の両親が目にしたら、絶対引っかかるよ。そんなの絶対に嫌なんだ!!」
「分かるよ、分かる! だけどね。その反応は大阪人のDNAに刻まれたものだよ。だから俺も協力する。——ああ今日の一撃で必ずやゲートを打ち破ろうぜ!」
「いいや大阪人だけじゃ無い。こんな木があったら、……金銭感覚が歪んでしまいそうだ。大人ならまだしも、子どもたちが巻き込まれたら由々しき事態だ!」
 撤退ルートの確認をしたいと言う、豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)が言葉を継ぐと、ヒビスクムの胸中は万感で溢れる。——お金に釣られても恥じることは無いんだ。
「あんたら良い奴だな!! ああ、その通りだとも! 必ず打ち破ってやろうぜ!!」
 地図での岸和田市域は東西におよそ7km南北に17km程と細長い形状で、市の中心部は大阪湾に面している。
 ヒビスクムの報告により、大阪府知事は岸和田市域に非常事態を宣言、該当する地域はミッション地域として封鎖された。現在、ケルベロス個人や有志の旅団連合の攻勢により『お金のなる木』の市外への流出は防がれている。
「さて、ゲートはその辺ってことで、んっ、むっ、……えっ?」
 指し示す指の位置が、あっちかなこっちかな、と感じに動くので、姶玖亜はハッキリして欲しいと詰め寄る。
「たぶん、このあたり。たぶん上空から見れば分かるんじゃないかなー」
 次の瞬間、誰かが咳き込む音がした。
 ヒビスクムは『お金のなる木』に遭遇しただけで、ミッション地域の全てを把握しているわけじゃない。
 現地の事情には、多少明るいかも知れないが、何から何まで知っているわけでは無い。
「どうやら、心配には及ばぬようだぞ」
 窓越しに視線を外に向ける、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)がやけにスッキリした口調で言う。
 まるで今まで寝ていたような遠い目をしているような感じもしないでも無いが、到着前に起きていれば問題は無い。しかもそのお陰で風景の中の特異点を見いだすことが出来たのなら、僥倖だろう。
「ほうら、どうにかなったよねー」
「くっ、君のようなアホの子に言われるなんて屈辱だよ」
「アホの子言うなー」
 自分でアホいう分は良いが仲間に言われると、傷つくらしい。せっかく芽生えかけた友情も有耶無耶になってしまった気もするが、修学旅行のバスの中のような、雰囲気は、戦いの連続でささくれ立っていたケルベロスたちの心に潤いを与えて、誰かにさせられるのでは無く、『自分が何の為に戦うのか』に目を向ける機会になった。
(「……どっちもどっち」)
 黙したまま、チラリと視線をむけ、空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)は降下の合図を待っている。
「Doute(腑に落ちませんの)……あの子たちもなんでわざわざ貴金属なんて実らせる様になったのでしょうか?」
 岸和田市民がだんじり祭で、そうするかのように『お金のなる木』を引きずりながら、群衆と共に町中を巡るような様を思い浮かべて、シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する人形娘・e00858)はぽつりと呟き、ちょうど考え事をしていた、ダリル・チェスロック(傍観者・e28788)が、応じるように言った。
「お金は欲しいでしょう。人の世にはお金で助かる命もあります。つまり誰にでもありそうな心の弱みにつけ込んだのはな無いでしょうか? 食虫植物みたいですね」
 果たして、疑問は疑問のまま、ヘリオンは岸和田市にあるミッション地域の中枢部の上空に到着し、その高高度でホバリング姿勢に入る。
 降下指示のブザーの音が鳴り響き、扉のロックが外れる音がする。
「先、行く」
 無月はドアを横に開け広げると、間を置かずに、外に飛び出て行く。

●降下攻撃
 陽射しは暖かくなって来ているが、3月の空気は未だ寒気を含んでいて、高空ではよりいっそう冷たく感じた。
 飛散の始まった杉の花粉のせいか、うっすらと霞んで見える大気。無月はグラディウスを抜き放ち、両手で構える。身につけている内に体温が伝わったのか、持ち手には不思議な温もりがあった。
「……人はお金に誘惑されるもの。さらに、お金に誘惑されないような人でも強制的に誘惑するなんて卑劣な作戦、やっぱり許してはおけない」
 背中の羽根を鋭角に窄め、緩降下から急降下へと姿勢を変えると、落下の速度は急速に上がった。
(「……それに、大阪城地下には攻性植物のゲートもあるし」)
 それに従って当初は見過ごしそうな程に小さくしか見えなかった、魔空回廊を守る浮遊タイプのバリアも大きく見えてきて、あっという間に、一面の壁と錯覚するほどの大きさと変わる。
「大阪で暮らす人々の平穏な生活の為、まずはお前たちを、ここで滅ぼす……!」
 叫びと共にグラディウスを叩きつけた瞬間、時が止まったかのように音が無くなった。刃先が微かにバリアに食い込んでいた。表情を動かさぬままに見つめる先で、閃光が噴き上がり、一瞬遅れて、衝撃波が無人の街並みを揺さぶる。そして閃光の中から生み出された雷光が地上に降り注いた。
 直後、爆音の響きと共に街のあちこちから橙色の炎と黒い煙が上がった。数秒の間を置いて、ダリルが突っ込んで来る。
「攻性植物のゲートのあるこの地で、日々の生活に苦しむ人々のいる土地で、金銭で欺くという卑劣極まりないその手段、二度と生えぬよう根こそぎ刈り取ってくれる!」
 叫びと共に叩きつけられたグラディウスは炎と煙を噴き上げる。轟音と共に炎は膨れあがり巨大な火球と変わる。そして崩れ落ちる火球は放射状に広がり津波のように街を飲み込んで行く。
 グラディウスによる魔空回廊攻撃はゲートやバリアにダメージを与えるだけでは無く、その余波によってゲートの護衛戦力や周囲へもダメージを与える。
「悪銭、身に付かず……って言うだろ?」
 手短に叫び、ヴォルフはグラディウスを使用した。破壊できる気配を感じなかったが、出来るだけのダメージは与えて置こうと力を籠める。
「覚えがある。昔あのころもここでは祭りをやっておったの。なかなか愉快じゃった」
 服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)にとって、岸和田市は知らない土地では無かった。
「常命の者どもも粋なことをすると感心したものじゃが、それを粋な場所に無粋な欲を撒き乱すは許せぬ!!」
 無明丸の瞼の裏に浮かぶのは、関西各地で行われるだんじり祭のひとつ、岸和田だんじり祭の光景だろう。速度を乗せただんじりを急旋回させるやりまわしや、だんじりに施された彫刻の巧みさは見所であるとされる。
 果たしてそれらだんじりが、避難の際に運び出されたか否かは分からないが、街を人の手に取り戻せば、必ずや祭りは復活するだろうと、無明丸は信じる。
「ぬああああああああ!!」
 そして叫びと共に、グラディウスを叩きつける。天を貫くような閃光、続いて爆音が轟き、刃先から溢れ出た濃密な爆煙がバリアの表面を流れ落ちて、燃え盛り、無数の黒煙を立ち昇らせる街並みを覆って行く。
「糞ッ、俺らの街がッ!」
 突入姿勢を取る、ククロイの表情が悔しさと怒りに歪む。だが直ぐに感情を振り払って感情を高める。
「大阪で暮らす人々が少しでも安心できる為にィ! 今日ッ! ここでェ! 必ず奪還するッ!」
 根拠など無いが、気持ちだけは本物、頭の中には真っ二つに砕けるバリアと魔空回廊のイメージしか無い。
「誘惑に弱い人の心を惑わす攻性植物はァ! 根こそぎ駆除だァッ!」
 街が燃えている。雷光に貫かれたデウスエクスと共に燃えている。
 嘗ては人の営みがあったのに、今は踏み入ることも出来ない街。
「さァ、唸れェ!グラディウスよッ!! 我が魂を込めた一撃でェッ! この忌むべき魔空回廊をッ!! 破ァ壊しろオオオォォォォッ!!!!!」
 ククロイは叫びと共に叩きつける。天を貫くが如き光柱が立ち上がり、刹那にそれは砕け散る。光の破片は無数の光の矢に変じ、豪雨の如きに地表に降り注ぐ。
「何度見てもグラディウスの力は凄まじいね」
「まったくだな」
 地上に降り立った、ククロイが思わず漏らすと、合流したヴォルフが頷く。グラディウス攻撃の余波はグラディウスを持たない者に襲いかかる。恐らくそれはケルベロスでも例外では無いはず。いま手にしている小剣を手放せば、瞬く間に自身も、その暴虐に巻き込まれると思えば背筋が凍る。
 ヒビスクムはボクスドラゴン『ガブリン』と共に降下を続ける。街並みは半球状のバリアを起点に、放射状広がった爆煙(スモーク)に覆われており、その範囲は半径2km程度だろうか。その範囲をミッション地域の中枢と想定するならば、駆け抜けるだけでも10分程度はかかる。ミッション地域の状況は様々であるため全てが同じと言うわけではないが、ミッション攻略戦に於いての撤退行動がシビアに考えねばならないと分かる。
「……こう、なんだ! 強欲な人を惑わすそのフォルム。なんつーか、俺の両親もひっかかりそうなんだよ! マジで!! こんなんに引っかかって、人が死んだなんてことになりゃ、恥ずかしいし、つれーわ」
 人は簡単に死ぬ。冗談みたいなことでも死ぬ。だからどんな相手にも戦いは全力を尽くさなければならないし、そうでなければ、奪う命にも、奪われる命も浮かばれない。
「だからお前たちはここで滅ぼす。……ってことで壊れろおおおおお!! お前の存在は色々と毒なんだよおおお!!」
 叫びと共に、ヒビスクムの叩きつけたグラディウスが、この日6度目の破壊をもたらす。巻き上がる風が地上にあるあらゆる物を空中に放り上げて、真っ黒な茸雲から降ってくる雷光が、狙い撃つ矢の如くに敵影を貫いて行く。
 空中に放り上げられた攻性植物が為す術も無く灰と散る様を目の当たりにして、シエナの平坦な胸の内に怒りとも悲しみともつかぬ感情が燃え上がる。
 下に目を向ければ、もはや壁にしか見えない巨大なバリア。シエナは思いを整理する間も無くグラディウスを突き出す。
「Brisez-le(砕かせていただきますわ)! これも人と攻性植物の共存の為ですの!」
 シエナが握りしめ巻き付けた攻性植物と共グラディウスは衝突して、この日7度目の大爆発が巻き起こった。
 スモークに覆われて、街が破壊されても、海の位置や山の形が変わる訳では無い。目印となりそうなランドマークを見極めた上で姶玖亜は破壊すべきバリアを睨み据える。
「お金は生えてきたり木になるものじゃない。労働や商品、権利等の対価として得るべきものなんだ。こんなのは、どう考えても歪んでる」
 見た目だけを似せた紛い物に騙された上に命まで奪うなど、絶対に見過ごせない。
 満身の怒りを込めて、姶玖亜はグラディウスを振り上げる。
「人々を騙して虜にしようとする害樹め! 一本残らず刈り取ってやる、これ以上の犠牲は出させない! さあ、収穫の時だグラディウス!!」
 閃光から生まれた雷光の刃が吹雪のように舞い、同心円状に広がる衝撃波は風景を揺さぶり、広域に破壊をもたらした。
 そして、ゲートを守るバリアは耐えきった。ダメージは間違いなく刻みつけたものの破壊には至らなかった。

●撤退戦
 宙に巻き上げられた小さな破片がバラバラと落ちてくる中、一行は撤退を開始する。
 先頭を行くのは、ヒビスクムであった。
「夜目も効くし、目には自信アリだぜ。ただのメイドにしといたら勿体ねえだろ」
 冗談めかして言うが、ポジションをディフェンダーと宣言し、不意打ちに備え、事前情報を元に武具の耐性も合わせていることは、誰の目にも明らか。もし彼女以外の者が先導すると言うなら敵の不意打ちを受けるリスクを孕んでのことになっただろう。
「さーて、ガブリン。気合入れていくぜ!」
 果たして、退路に立ち塞がる、お金のなる木と遭遇したあなた方は一片の迷いもなく戦闘に突入することができた。そしてヒビスクムが作ってくれた一瞬の間を活用した、姶玖亜は銃撃を開始する。
「さあ、踊ってくれないかい? と言っても、踊るのはキミだけだけどね!」
 弾倉が尽きるまで絶え間なく放たれた銃弾にダメージと足止めの効果を刻まれた敵は悲鳴を上げながらも、枝に実らせた財貨を揺らして、輝きと共においでおいでと招き寄せるような動きを見せる。
「催眠には刺激的な目覚ましを! ってね!!」
 催眠による相打ちを警戒していた、ククロイの放つライトニングウォールが淡く輝く雷の壁を構築すると同時、催眠の効果は霧散し、癒やしと共に状態異常への耐性がもたらされる。
 ダリルの放ったドラゴンの幻影が敵を橙色の輝きで包み、無月が繰り出した槍のひと突きが氷の霊力が共にお金のなる木の幹のど真ん中を貫く。炎と氷の影響を同時に受けて揺らぐ敵。機を逃さずに前に出た無明丸が一気呵成に撃破を狙う。
「ぬぅあああああああーーーッッ!!」
 夥しい輝き帯びた拳を振りかぶり、思い切り拳を叩きつける無明丸。どこが顔だかは分からないが、兎に角勢いだけで叩き込んだ。
「Hesitation(こんなひどいですの)……うぅ、必死すぎて見てられないですの」
 躊躇いの気持ちから、止めとなる一手を放つことが出来ずに、シエナはエクトプラズムから疑似肉体群を作り出し、仲間の傷を癒やさんとする。次の瞬間、揺らめくように歩く疑似肉体は吸い込まれるようにして、ヴォルフ、そしてヒビスクムら前衛の者たちの傷を癒した。
「何処まで逃げてくれますか?」
「圧し折れろおおおお!!」
 漆黒の髪を揺らし繰り出すヴォルフの斬撃が回避不能の軌道を描き、機を合わせるように、反対側からは高速回転で突撃耐性に入ったヒビスクム、そして羽ばたく『ガブリン』が急迫する。
 果たして、斬撃と破壊を叩き込まれた、金のなる木は為す術も無く砕け散り、灰となって消える。
 短時間、見事な速攻で、立ちはだかる敵を撃破したあなた方は、濃密なスモークに守られたまま、無事にミッション地域の中枢からの撤退に成功する。
 しかし街は燃えていた。
 後を振り向いたあなた方は、無数の黒煙を立ち昇らせる岸和田の街を目の当たりにした。
「いつか解放してやるからな」
 煙でかすむ葛城山を赤茶の瞳で見上げヒビスクムは奥歯を噛みしめる。煤を吸い込んだような黒い雨が、ぽつぽつと降り始めて、頬に黒い筋を引いた。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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