フラれた。そりゃもう、こっぴどくフラれた。
「ごめんね。ユートと付き合ってみたけど、なんか違うって感じなのよ」
そんな軽い台詞と共に、3か月間付き合ったミカはいなくなってしまった。
「……って、お試し期間って何だよ! 付き合うってそう言う事じゃねーだろ!」
自室の布団の中で佑都は叫ぶ。また悪夢を見た。実夏にフラれた時の夢だ。友人付き合いから告白、その後、三か月の交際期間を経て、待っていたのは「なんか違う」と別れの言葉だった。それが一週間前の事。以来、佑都は自室の中で引きこもりの生活を行っている。高校は病欠ってことになっていると思うが、正直、それはどうでも良かった。
「畜生!」
思い出したら涙が出てきた。17歳の繊細なハートに失恋の痛みはとても厳しかった。
「畜生! 女が何だ! 彼女が何だ! 俺は……俺は……駄目、なのか……」
「否、断じて否!」
佑都の叫びに反応して声が聞こえる。その声を発したのは、突如部屋の中に現れたピンク色の鳥人間だった。
「自分が一番大事、大事なのは自分だけ! 他人が自分を否定したって関係ない。だって、他人は大事では無いのだから。『なんか違う』は当たり前! 貴方の良さは貴方にしか判らない!」
自己愛に満ちた主張はしかし、今の佑都にとっては福音の如く響いていた。
「ありのままの自分が一番だから、他人の評価なんて関係ない。一番大事な自分が、自分だけを最高に評価したのならば、それが、貴方の評価。つまり、貴方は……」
ピンクの鳥人間――ビルシャナは歓喜に満ちた表情を浮かべる。
「最高なのだから!」
「あ、ああああ、ああああああ」
両の頬に流れる熱い滴は、佑都の瞳から零れた熱い涙だった。感銘を受けた佑都は布団を跳ね除け、立ち上がる。そこに迷いは無かった。
「俺は自分が大好き、他の人間なんて関係ない。俺は俺だけが大好きだ!」
その身体が羽毛に包まれていく。新たなビルシャナの誕生の瞬間であった。
それと同時に。
「おめでとう、これから私と一緒に、自分を愛するエゴの気持ちを高めて、自愛菩薩様に近づこう! いつか、自愛菩薩様の一部となれるように、自分を愛し続けるのよ!」
ビルシャナ――否、エゴシャナもまた、感嘆の声を零すのであった。
「未来予知によって、ビルシャナの菩薩達が恐ろしい作戦を実行しようとしている事が判明したわ」
慌てず騒がず。ヘリポートに集ったケルベロス達を前に、リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)が自身の見た予知の結果を告げる。その恐ろしい作戦とは。
「菩薩累乗会」
「菩薩累乗会」
思わず繰り返すケルベロス達を制止し、作戦の内容を説明する。
「強力な菩薩を次々に地上に出現させ、その力を利用して、更に強大な菩薩を出現させ続け、最終的には地球全てを菩薩の力で制圧する、と言うものね」
菩薩の単語ばかりが繰り返されているが、成程、良く分からなかった。まぁ、ビルシャナの侵略行為だし、つまりはそう言う事だろう。
「現段階で『菩薩累乗会』を阻止する方法は判明していないわ。ただ、出現する菩薩達が力を得る事を阻止して、その進行を止める事ならば出来る。だから、今はそれしか対抗手段は無いと思って欲しいの」
今は、と言う文言をさりげなく強調したリーシャは、現在、活動が確認されている菩薩の名を告げる。その名も『自愛菩薩』と言うらしい。
「自愛菩薩は自分が一番大事で、自分以外は必要ないという『自愛』を教義としている菩薩ね。配下のビルシャナであるエゴシャナを何らかの理由で自己否定している人の元へ派遣、甘言を弄してビルシャナ化させ、最終的にその力を奪って合一しようとしているようなの」
今回、予知に現れた堺・佑都と言う17歳の少年は、ビルシャナ化の後、自宅に留まり、自己を愛する気持ちを高め続けている最中だ。
このままでは十分に高まった力を自愛菩薩に奪われ、新たな菩薩を出現させてしまう糧となってしまうだろう。
「そうさせない為にも、早く事件を解決する必要があるわ」
黄金色の瞳は、真摯なまでに強い光を湛えていた。
「戦闘時は2体のビルシャナとの戦いになるから、気を付けてね」
1体目は当然、出現したエゴシャナである。自己愛を肯定する歌を歌う事で攻撃して来る。ポジションはジャマーのようだ。
そしてもう1体は堺・佑都だったビルシャナである。嘆きを力に変えて行われる攻撃はえげつなく、そして痛い。クラッシャーである事もそれに拍車をかけている。それ以外にも、不信感や自己肯定などが具現化したグラビティ等も使用して来るようだ。
「ビルシャナは自分だけが大事だし、部屋も自分の一部として部屋に侵入したケルベロス達――つまり、みんなを攻撃して来るわ。ここで注意点があるから、気を付けてね」
まず、ビルシャナのみを撃破した場合だ。この場合はエゴシャナは即座に逃亡する。
しかし、エゴシャナを先に撃破した場合、ビルシャナとなった少年を救出する可能性があると言う。
「ただ単に撃破するより難しい方法になるけど、そういう手段もあるって事は伝えておくわ」
エゴシャナ撃破の後、適切な説得を行う事が出来ればその目はあるのだ。恋に破れた傷心の少年が自暴自棄にならないような、かつ、自愛菩薩に心酔しないような文言であればおそらく効果的だろう、とはリーシャの助言だった。
「菩薩累乗会……、恐ろしい計画ね」
今までのビルシャナが起こした惨劇を考えれば、彼女の言葉も頷く事が出来るだろう。だが、それに負けずリーシャは気丈に笑い、ケルベロス達を送り出す。
ビルシャナの恐怖を払拭する程の信頼を表情に宿して。
「それじゃ、行ってらっしゃい」
参加者 | |
---|---|
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484) |
ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994) |
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161) |
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506) |
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023) |
粟飯原・明莉(闇夜に躍る枷・e16419) |
愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468) |
宮岸・愛純(冗談の通じない男・e41541) |
●花の命は儚く燃える
「皆、聞いて欲しい」
事件現場へと向かうヘリオンの貨物スペースの中、立ち上がった宮岸・愛純(冗談の通じない男・e41541)はくわっと目を見開く。
愛と悲しみのしっと戦士として、それは告げねばならない事であった。
「ど、どうしたん?」
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)の狼狽は当然だった。だが、彼にも考えがあっての事だろうと思い直し、その先の言葉を促す。
彼女と顔を見合わせたスノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)もそれに倣い、愛純に頷く。その言葉が悪い物ではないとの予感はあった。
「これから先、佑都少年を救う為、皆はそれぞれの説得の言葉を持って来ていると思う。それをどうこう言うつもりは無い。だが、頼みたい事は一つだけある。彼を否定しないで上げて欲しい」
自分はそのつもりは無いと、断言した上での言葉だった。
「成程ね」
ケラケラと笑うルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)は、その真摯な言葉に判る判ると頷く。
「まー。フラれた男だもんなぁ」
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)の言葉は何処か強い共感を伴っていた。
「強い否定は佑都を追い詰める結果になる、と言う訳だな」
ぶっきらぼうな粟飯原・明莉(闇夜に躍る枷・e16419)の言葉に、愛純はこくりと頷く。
ヘリオライダーは『自暴自棄にならないようにする』を助言としてくれた。そして振られた少年が自暴自棄にならない為にはどうすればいいのか。
男女がどうと言うつもりは無いが、その心は自分の様な男にしか判らない。そんな気がすると愛純は心で泣く。
(「まぁ、年頃の男子生徒なんて、豊満なお姉さんが抱きしめて『好き』とか言えばすぐに復帰する気がするが」)
言えばセクハラと訴えられそうな説得方法だったが、それは口にしない事にした。
目の前でやられたらしっとの炎が爆発しそうだったし。
「みんなで佑都くんを助けようーっ!」
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)の声に「おう」と皆で応じたその瞬間、機内に到着を告げる放送が流れる。
「さ。エゴシャナを退治して迷子の少年を正しい道に戻してあげましょうか」
徐々に広がる降下ハッチを前に、愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)が鬨の声を上げた。
堺・佑都宅、自室。
「俺は俺だけが大好きだ!」
金色に輝くビルシャナが、桃色の羽根を持つビルシャナ――エゴシャナの前で己への愛を声高らかに叫んでいる。
傍から見れば近所迷惑そのものだが、無論、ビルシャナ達にその意識は無い。
悟りを開くビルシャナの様相に満足そうに頷くエゴシャナ。そして。
――佑都の部屋の壁が大衝撃によって破壊されたのは、次の瞬間であった。
●トキメクトキ、恋
「なっ。なっ」
突然部屋を襲った轟音と衝撃に、ビルシャナがわなわなと震える。
最初は隕石か何かの衝突かと思った。或いは航空機等の墜落か。
空からの飛来物の所為と推測したビルシャナの勘は正しい。
「慣れんなぁ、これ」
獣の如く四肢を踏ん張り、落下のエネルギーを全て逃した瀬理が苦笑を浮かべる。
「仕方ないよ。緊急事態だよ」
とは、自身の翼でふわりと降り立つスノーエルからの弁だった。ぱたぱたと羽根で降り立つマシュも心なしか、頷いているように見える。
飛来物は8人のケルベロス、そして4体のサーヴァントだった。より正確に言うならば、落下し、壁や天井を破壊した物はケルベロス達の内7人で、唯一のオラトリオであるスノーエル、そして4体のサーヴァント達は自身の翼で緩やかに着地していた。
「やはり、自愛菩薩の助言は正しかった。現れたのね、地獄の番犬、ケルベロス!」
狼狽えるビルシャナを一喝したエゴシャナは、桃色の羽毛に包まれた腕をぴしりとケルベロス達に向ける。
「行くよ、ユート。否、新たなビルシャナよ! 彼の者は私たちを否定する為に現れたの! 奴らを排除しなければ私の自己愛は否定されちゃうわ!」
「良く判らないけど判った! 奴らは倒す!!」
エゴシャナとビルシャナの宣言の元、なし崩し的に戦闘が開始されるのだった。
「私は私が大事! 貴方なんか必要ないの♪」
エゴシャナの歌声が響く中、ビルシャナは跳躍。握りしめた拳を真っ直ぐに突き出す。
「――っ!」
武術の型もない、素人丸出しの無茶苦茶な殴打だったが、デウスエクスの膂力によって放たれればそれは立派な凶器となる。如意棒で受け止めた明莉から苦痛混じりの溜め息が零れる。
「エゴシャナへ集中砲火! ビルシャナは無視して!」
狙いを宣言しながら、瑠璃は自身の纏うポジション効果の恩恵をメディックへと転じていた。
「大丈夫? これですぐに治してあげるんだよ。痛いのは最初だけだから、ね!」
ビルシャナの攻撃を受け止めた明莉に向けられるのは、スノーエルによる魔導書の殴打だった。どごりと鈍く重い音が響いたが、あくまでこれはヒールグラビティ。ビルシャナの一撃によって受けた明莉の傷が治癒されていく。
殴打だけで回復しなかった傷は、マシュによる属性付与によって、完治にまで引き上げられていた。
「今回の鶏さんは派手ですねぇ。極楽鳥のつもりなんでしょうかねぇ」
まぁ、倒すから関係ないとめぐみは起爆スイッチのボタンを押し込む。派手な爆発に襲われたエゴシャナは目を見開き、ごろんごろんと床を転がり回った。
「らぶりん!」
追撃はめぐみのナノナノから紡がれる。理性溶かすハートの光線はエゴシャナに直撃、ほわんと蕩けた表情を浮かべさせた。
そこに鋼の拳が追い打ちを掛ける。煉の纏う天牙が形成した鋼鉄の拳はエゴシャナを捉え、その身体を吹き飛ばす。エゴシャナからひぃぃと情けない悲鳴が上がった。
「私の綺麗な羽毛が!!」
「怪我よりそっちなんかい!」
流石は自己愛のエゴシャナだと、突っ込みと共に放たれた瀬理の蹴りがピンク色の羽毛に包まれた鳩尾に突き刺さる。ぐえっと呻き声を零すエゴシャナはしかし、見た目よりも問題なさそうだった。
「コミカルなのは油断を誘う為かい? ――Heads up!」
ルアから放たれた衝撃波――グラビティを上乗した大声がエゴシャナを強襲する。悲鳴と共に、無数の羽毛がまき散らされていった。
「陣を作るよ」
派手に立ち回るエゴシャナとは対照的に、淡々と明莉が魔法陣を描く。
「どえええいっ!」
その行為を背景に、愛純の流星を纏う蹴りがエゴシャナを直撃した。しっとに全てを捧げた男は熱い涙を流し、エゴシャナにびしりと指を突き付ける。
(「エゴシャナは間違いなく狂っているし悪には違いない。だが方向性は違えど、振られた男を『救済』する為に現れた点は我々と同じ!」)
「つまりエゴシャナ、貴様も悪を憎み正義を示すしっと戦士の一員と言えるだろう!」
愛純の熱き想いへはしかし。
「そう、人間は自分が一番可愛い! 自分が一番大好き!!」
微妙に噛み合っていない返答だった。
「流石ビルシャナ。話が通じねーぜ!」
感嘆混じりの煉の台詞と同時に、ナノナノのしっと魂がぽんと愛純の肩を叩く。仕方ない。それがビルシャナと言う恐るべき侵略者なのだ。愛純の熱意が届くか否か。
「届かないと思うわ」
ある意味、冷静な感想と共に瑠璃ははぁと嘆息する。
●愛しているのは私だけ
「お前らに何が判るっ! 俺だって、俺だってっ!」
拳と共に放たれるビルシャナの叫びは、既に慟哭の色を纏っていた。魂の叫び斯くやの一撃を受け、めぐみのナノナノ、らぶりんの身体が消し飛んでいく。
「判らないとは言わないけども……ちょっと勿体ないよね」
軽口を叩きながらエゴシャナに向け、弱体化光弾を打ち出すルアはしかし、内心、焦燥の色を浮かべていた。
(「倒れないなぁ、こいつ」)
ビルシャナと化した佑都を救いたい。それはケルベロス達の総意だ。その為にはエゴシャナのみの撃破が必要で、そして、その為に全員の攻撃をエゴシャナに向けている。その行為そのものに誤りはない。
「腐ってもデウスエクスって訳やね」
ビルシャナの癖に……と呻く瀬理の愚痴も、判らなくも無かった。
ふざけた教義をばらまき、精神的な汚染をするだけと思われがちのビルシャナであるが、その能力はデウスエクスの一員である事に相応しく、強力で強大だ。
「大切なのは自分だけ~♪ それは貴方も私も変わらない。それでいいのよ~♪」
「唄ってろよっ」
地獄の炎を宿した武術棍を構える煉は、その口を塞げとばかりに殴打を重ねる。だが、エゴシャナの歌は止まる事を知らない。
「そんな歌、めぐみの歌で――」
エゴシャナの歌が振り撒く弱体化を掻き消そうと、希望の歌を紡ごうとするめぐみ。
だが、その歌が紡がれる事は無かった。
「めぐみっ。もういい。回復はスノーエルと瑠璃に任せ、君は攻撃を優先してくれ!」
花びらのオーラを紡ぐ明莉の声がそれを止めたのだ。
「他者に任せるの? それを是と出来るの? そのヒトが貴方を癒さなかったら、貴方は傷ついたままなんだよ?」
めぐみの設置した見えない機雷の爆風に煽られながら、エゴシャナはケルベロス達に野次を飛ばす。流石に自己愛を司る菩薩の使徒だ。ある意味正論な挑発はしかし、ケルベロス達に意味を為さない。
何故ならば。
「その為に私たちがいるんだよ――!」
「私達は皆、仲間を信じてる。自己愛だけの貴方達とは違うわ」
スノーエルが放つオーロラが、そして、瑠璃の歌が、エゴシャナの破壊した武器や防具を治癒していく。
こと、連携と言う点においては、ケルベロス達に叶うデウスエクスはいない。
「俺らは自分達が弱い事を知っている。だから、皆で協力し、お前を打ち倒すんだ。数の暴力と言うなら言えばいいさ。8本の――いや、12本の牙がお前を食い破る様、見ておきな!」
百獣の王的なオーラを纏ったルアの魔法光線はエゴシャナの身体を貫き、硬直させる。かはりと呼気を零し、脚を止めるビルシャナに、4つの影――否、4本の牙が殺到した。
それがケルベロス達の強さ。個々の能力ではデウスエクスに叶わずとも、皆が連携し、力を合わせる事でその力は幾倍にも膨れ上がる。
「その身体に、消えない傷を刻んでやる!」
明莉の振るう鎖はビルシャナの羽毛に無数の切り傷を刻み。
「貴様とは敵として会いたくなかった……せめて我が奥義で葬ろう!!」
己を愛する気持ちはしっと魂に通ずると、愛純が魂の咆哮と共に燃え盛る拳をエゴシャナに叩き付ける。
「これが親父から受け継いだ、俺の牙だっ!」
煉の拳は蒼き炎を纏って。その背後に浮かび上がる姉の幻影は、真摯な表情で抱いた蒼炎をエゴシャナに放出した。
自分達は一人ではない。それを体現するかのように誇らしげに胸を逸らした幻影は、やがて、虚空へと消えていく。
「疾走れ逃走れはしれ、この顎から! ……あはっ、丸見えやわアンタ!」
そして、猛虎が疾走る。
瀬理の得物が、そして蹴打が、乱撃がエゴシャナに食い込み、そのピンクの羽毛に包まれた身体を食い破っていく。それはさながら、肉食獣に蹂躙された草食獣の様でもあった。
「そんな、他者を信じる事が出来るなんて……」
「それが出来るのが人間。自分だけが大事だなんて教義、迷惑だから消えてくれる?」
狼狽するエゴシャナへの止めは、瑠璃の冷凍光線だった。
自己愛を主張するエゴシャナは消え行く己の最期で悟る。
自身に終焉をもたらした物が何だったのかを。
「……誰しも、己が大事。他人なんて、二の次。その筈なのに」
「だから、貴方は負けた。それだけだよ」
消え行くエゴシャナに重ねられるめぐみの言葉は、何処か誇らしげに、そして寂しく聞こえるのだった。
●次への扉
「え、エゴシャナ様っ!」
光の粒子へと転じてしまった同胞へ、ビルシャナの嘆きが響き渡る。
「貴様らっ。よくもエゴシャナ様を! そして次は俺と言う訳か! 畜生、俺だって、俺だって!」
「いや、最後まで話を聞こうよ」
応戦の構えを取るビルシャナに、ルアが嘆息する。
(「さて、どう言ったものかな……」)
倒すべき侵略者は倒した。よって、既にケルベロス達に敵意は無い。その事を告げようとする彼の言葉はしかし。
「少年よ! 私は貴様を決して否定したりはしない! 何故なら私も貴様と同じ! 女にこっぴどくフラれ、その傷を抱える者だからだ!」
愛純の暑苦しい――否、熱意の籠った言葉が、ビルシャナに叩き付けられたからだ。
「な、何故、俺が実夏にフラれた事を!」
当然の狼狽に、「ああ、やっぱり」と苦笑を浮かべる。
「ま、一から説明してあげるよ」
ビルシャナによる恐るべき野望と、そして、その犠牲に佑都が選ばれた事、そして……。
ルアの言葉にビルシャナは項垂れ、床に車座に座る。
「まー。あれだな。キモいとか言われたわけじゃないんだし、そんな落ち込むなよ」
実は彼女持ちの煉だったが、その事はおくびに出さず、「フラれた事が悔しければ、女に惚れられる男になれ」と強く説く。
「そうだな。堺・佑都。他人からのお前の評価は、お前自身が変えていけるんだ」
思い描いた事と異なる事などよくある。それをどう変えていくかが肝心と、明莉の励ましは強く響く。
「その実夏って子は別の女の子と出会う為の教科書だったって思えば、キミは今以上のスゲェ人間になれるんだよ」
前向きなルアの声は、ビルシャナ――否、佑都の顔を上げさせるに充分だった。
「大丈夫大丈夫。きっと、貴方を大切に思ってくれる人がいる筈だから」
誰かが評した価値観ではなく、自分に自信を持って。スノーエルの言葉は佑都を震え立たせる。
「今は無理でも、その傷を癒し素敵な恋をして欲しいと思うの」
めぐみの激励は、佑都を立ち上がらせるのに充分だった。
「そして、相手を好きになって相手を見て、相手に見て貰って、それで初めて自分のいいところいいところ悪いところに気付ける筈よ」
瑠璃の言葉は優しく佑都を捉える。
「そうやって自分のいいところを伸ばして初めて自分を好きになって他の人も好きになれるのよ」
だから、落ち込まないで欲しい。塞ぎこまないで欲しい。誰かを好きになる事は自分を好きになる事でもあるから、とアイドルらしい説得に、佑都は輝く目を彼女に向けていた。
「そして共にリア充と戦お……もがっ」
「あんたは黙っとき」
余計な事を言いそうになった愛純の口を背後から塞いだ瀬理はにぱりと佑都に笑い掛ける。
「とりあえず、心配かけた家族に顔見せに行って、謝っとき。全てはそこからやね」
その笑顔はビルシャナの教義に捕らわれた少年に、一筋の光明となる。
「俺は……俺は……」
ぱらぱらと羽毛が零れ、黄金の鳥はやがて一人の少年へと転じていく。
自愛菩薩の影響から少年が抜け出す様子に、ケルベロス達は満足げな微笑を浮かべるのだった。
作者:秋月きり |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年3月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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