菩薩累乗会~もっと自分を愛する為に

作者:なちゅい

●自分が一番大事!!
「うぅ……」
 今年の春から、中学生となる武居・元気は、自室で引き篭もってしまっている。
 どうやら、小学校の卒業を前にして、学区が分かれることになる想い人へと告白、あえなく玉砕してしまったらしい。
 小学校の卒業まではまだ間があるものの、誰とも顔を合わせたくない彼は自分の部屋から出なくなってしまったのだ。
「もういいんだ、ボクなんか……」
 失意の中、彼は両親の呼びかけにも応じず、布団の中で蹲る。
 そんな彼の前に現われたのは、全身ピンクの鳥を思わせる鳥人間型のデウスエクス、ビルシャナだ。
「自分が一番大事、大事なのは自分だけ!」
 エゴシャナを名乗るそいつは、自らの教義をこう語る。
 ――他人が自分を否定したって関係ない。だって、他人は大事では無いのだから。
 ――他人の評価の為に自分を偽るのは間違っている。
「もっと、自分を好きになって」
「自分を、好きに……」
 見つめてくるエゴシャナの大きな瞳に、元気は引き込まれてしまう。
 ――ありのままの自分が一番だから、他人の評価なんて関係ない。
 ――一番大事な自分が、自分だけを最高に評価したのならば、それが、あなたの評価。
「つまり、あなたは、最高なのよ」
「ボクは、最高……そうだね」
 大きく頷く元気は声を荒げて。
「自分が大好き。他の人なんてどうでもいいんだ。ボクはボクだけが大好きなんだ!!」
 突然、元気の体が変貌する。彼の体からも羽毛が生え、口にはクチバシのようなものが現れる。彼はビルシャナ化してしまったのだ。
 エゴシャナは満面の笑みで拍手し、元気に向けて呼びかける。
「おめでとう、これから私と一緒に、自分を愛するエゴの気持ちを高めて、自愛菩薩さまに近づこう!」
 ――いつか、自愛菩薩さまの一部となれるよう、自分を愛し続けよう。
 エゴシャナはそうして、元気と共にその場で自愛の精神を高めていくのである……。

 新たな予知によって、判明した恐ろしい作戦。
 それは、ビルシャナの菩薩達が行う『菩薩累乗会』というものらしい。
 強力な菩薩を次々に地上に出現させ、その力を利用して、更に強大な菩薩を出現させ続け、最終的には地球全てを菩薩の力で制圧するというものだ。
 この『菩薩累乗会』を阻止する方法は、現時点では判明していない。
「なんとも、厄介な相手が現われたものだね……」
 リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)が顔をしかめる。
 ヘリポートに集まるケルベロス達は、思い思いに彼女の説明を耳にしていた。
「今、ボク達ができることは、出現する菩薩が力を得るのを阻止して、菩薩累乗会の進行を食い止める事だけだよ」
 現在、活動が確認されている菩薩は『自愛菩薩』。
 自分が一番大事で、自分以外は必要ないという『自愛』を教義としている菩薩だ。
 自愛菩薩は、配下のビルシャナであるエゴシャナ達を、なんらかの理由で自己を否定してしてしまっている状態の一般人の元へ派遣し、甘言を弄してビルシャナ化させ、最終的にその力を奪って合一しようとしているらしい。
「ビルシャナ化させられた一般人は、自分を導いたエゴシャナと共に自宅に留まり続けて、自分を愛する気持ちを高め続けているようだね」
 このままだと、その一般人は充分に高まった力を自愛菩薩に奪われ、新たな菩薩を出現させる糧とされてしまうだろう。
 そうさせない為にも出来るだけ早く、事件を解決したいところだ。
「ボクが視た事件の現場となるのは、被害者となる少年宅だね」
 彼は自宅で1人いたところで自愛菩薩に狙われてビルシャナ化してしまうので、対処の為には乗り込む必要がある。
「ビルシャナは『自分だけが大事』で、『自分の部屋も自分の一部』だと考えるようだね」
 この為、部屋に侵入するケルベロスに攻撃を仕掛けてくることとなるので、突入してすぐビルシャナ2体と戦闘に入ると想定しておきたい。
 エゴシャナはスナイパーとして、歌うように自愛について説いて攻撃を行う。
 また、ビルシャナ化した少年はクラッシャーとして立ち回り、自分が最高、他者など不要と言った主張を行い、戦うケルベロスをも拒絶しようとしてくる。
 ケルベロスが優位に立ち回った場合の戦況は大きく2パターンに分かれることになるが、ビルシャナ化した人を先に撃破した場合、エゴシャナは逃げ出してしまう。
 また、エゴシャナを先に倒した場合は、ビルシャナ化した少年を救出できる可能性も出てくるが、状況打開の為の敷居は高くなってしまう。
「エゴシャナを先に倒してから説得を考えるなら、少年のことを慮った言葉をかけてから倒したいところだね」
 戦況として難しくはあるが、できるなら試したいところだ。
 一息ついたリーゼリットは、さらに説明を付け加える。
「エゴシャナが戦場にいると、自愛菩薩の影響力が強くなるようだね」
 この為、ビルシャナ化した少年の説得は不可能になってしまう。彼の救出を考えるなら、エゴシャナの撃破、もしくは撤退は必須だろう。
「ともあれ、敵の計画の阻止も考えたいから、頭が痛いね……」
 どちらを優先させるか。もしくはどちらも達成するよう立ち回るか。
 リーゼリットは現場に赴くケルベロス達へ、その判断を委ねるのである。


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
内阿・とてぷ(占いは気の向くまま・e00953)
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)
ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)
神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)

■リプレイ

●少年の救出も目指して
 ビルシャナ化の予知がされた少年。
 少年は失恋で塞ぎこんでいたところ、エゴシャナにそそのかされる形でビルシャナとなってしまうという。
「想えば、必ず報われる。そんな世界だったら、何の悩みも無かったかも知れません」
 キジトラの使い魔『イマ』を肩に乗せる、和装姿の八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)はぼんやりと頭上を見上げて呟く。
 ただ、そんなのはただの夢。現実ではない、空虚な妄想でしかない。
(「だからこそ、乗り越えなければ」)
 その為の道はきっと有るはず。鎮紅はそう考える。
 女性ばかりのケルベロス達はエゴシャナ撃破と少年の救出の為、彼が引き篭もる自宅へと向かっていた。
「ビルシャナが2体。中々ハードっすね」
 いつもは、笑顔を浮かべる神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)だが、今回は真顔になっているようで。
「まあやれることはやる。それだけっす」
「エゴシャナを先に撃破、ビルシャナ化した少年を説得、救済。それでいいわよね?」
 円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)は仲間達に今回の方針を確認してから、少しだけ今回ビルシャナ化してしまう少年、武居・元気のことを考えていた。
「彼、わたしと同い年なのよね」
 キアリとこの少年は、今年の4月から中学生となる。
 そんな偶然も何かの縁だと、彼女は少年の救出の為にやってきていた。
「なるべくなら助けたい……けど、無理そうなら倒すしかないっすね」
 人の心を少年がなくし、化け物になってしまったのなら。それはもう、神宮寺の戦巫女が討滅すべき対象でしかない。
 結里花は静かに、そう覚悟を決めていた。

 武居家へと突入するケルベロス。
 元気少年の自室へと突入した一行は、自愛の祈りを高めるビルシャナとなった本人の姿を確認する。
 ……そして。
「さあ、自分を愛するエゴの気持ちを高めて」
 彼を『自愛』の教義でそそのかすエゴシャナの姿が。
「自分だけがいればいいって考え方は、あんまり好きじゃないですね!」
 世の中は楽しいと自負する、内阿・とてぷ(占いは気の向くまま・e00953)は、やや顔をしかめて言い放つ。
「菩薩累乗会を直接阻止できない以上、自愛菩薩とやらに力を与える訳にはまいりませんね」
 一見、女性に見紛う容姿だが、実はチーム唯一の男性、風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)もまた、この状況は許容できないようだ。
「『菩薩累乗会』などと、ビルシャナの好きにはさせないであります!」
 重鎧と大盾でがっちりと身を固めるヴァルキュリアの騎士、クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)は、被害者救出とビルシャナの企みを完全阻止せんと意気込む。
「熱いロックを届けるデス、イェーイ!!」
 シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)も景気よくギターをかき鳴らし、少年の目を覚まさせようと動く。
「自愛の祈りを妨げる不遜な者には、天罰を……!」
「はい……」
 目の前のビルシャナ2体は、ケルベロス達へと襲い掛かってくる。
 メンバー達が応戦の構えを取る中、結里花は落雷に身を包みながら甘酒(分類上はソフトドリンクである)を口にして。
「神宮寺流戦巫女、結里花。参ります!」
 口調を変え、彼女もまた竜鎚「白蛇の咢」を手に戦闘モードへと入るのだった。

●打倒エゴシャナ!
 先んじて、ビルシャナへと仕掛けたのは、後方にいたウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)だ。
「ノブレス・トレーズが一騎、山吹のウォーグ! 参る!」
 相手の布陣は少年ビルシャナが手前、そして、エゴシャナが後方。
 自愛菩薩の影響力を強めるエゴシャナを排除せねば、少年の救出すら叶わない。
 ウォーグは巨大なガトリングガンを手にし、金のポニーテールをなびかせながらエゴシャナ目掛けて連射していく。
 彼女の箱竜、メルゥガも遠方の敵へとブレスを吐き掛けて援護攻撃を行ってくれていたようだ。
「さあ、あなた達も自愛に目覚めるのです……」
 対するビルシャナ達は、グラビティを伴って自愛を語る。
「皆様はボクが護るであります!」
 それを、クリームヒルトはドローンを展開しながら耐えていく。
「人のために尽くす守護の騎士としては、自己愛しか考えない自愛菩薩とは相容れないでありますね」
 クリームヒルトのテレビウムも同意し、教義を耳にする前線メンバーを応援動画で目を覚まさせようとしていたようだ。
「そうだ、ありのままのボクでいいんだ……」
 ビルシャナとなった少年も、目の前のケルベロス達を拒絶するように言葉を紡ぐ。
 それは力となり、メンバー達を殲滅する刃となって襲い掛かる。
 シィカは己の信じるロックをぶつけようとしていて。
「自分が最高だと思うのは正にロック! ……デスが、それしかないのはノーロックデス!」
 ただ、まず近場の少年を抑えようとシィカは如意棒に持ち替え、祈りを妨げるべく殴打を浴びせる。
 メンバーの多くは、とにかくエゴシャナの排除に全力を尽くす。
 狙撃役のキアリも両腕にガトリングガンを構え、ありったけの銃弾をエゴシェナへ叩き込んでいく。
 彼女のオルトロス、アロンも神器の瞳で相手を睨みつけ、その身体を燃やそうとしていたようだ。

 自愛の言葉を繰り返すエゴシャナ。
「他の者など、気にすることはありません……」
 まさに、自らのエゴを説いてくる敵。
 だが、それは最終的にその力を自愛菩薩と一体化させるというという目的があってこそ。
 本当の意味で、自愛だけを考えているとは言いがたい。
 恵は簒奪者の鎌を投げ飛ばし、エゴシャナの体を切り刻む。
 自らの気持ちを存分に語るビルシャナ少年の後ろで、エゴシャナは狙撃役として自愛を語る。
 少年が盾になってないこと、エゴシャナが回復役でなかったことが救いか。
 もっとも、自愛を語る敵が他者前提で立ち回る盾役、回復役となる者は多くはないのかもしれないが……。
 回復役といえば、とてぷが奮戦してくれている。
 とてぷはミミックのマミックにエクトプラズムによる攻撃と仲間のカバリングを任せ、自らは巫女服の袖や懐から札をバラ撒く。
「さぁさぁお立会い! このヒトガタの紙をこう飛ばせば~……」
 明るく振る舞うとてぷは人型に切った紙を飛ばし、仲間を癒すと同時にその人形を周囲に飛ばすことで相手に仲間の姿だとかく乱させる。
 そうした仲間の援護を受けながら、火力となる鎮紅と結里花がエゴシャナを狙う。
 両手に二本一組の紅いダガーナイフ「ユーフォリア」を手にし、戦う鎮紅。
「イマ!」
 彼女の叫びに応じ、まるで弾丸のように駆け出したイマはエゴシャナの体へと強くぶつかっていく。
「なっ……」
 エゴシャナの体が後方に倒れかける。
「伸びろ、如意御祓棒」
 そこへ、結里花が手にする如意御祓棒を勢いよく伸ばし、エゴシャナの首を鋭く突いた。
 その一撃で、敵はゆっくりと崩れ落ちていく。
「自愛菩薩様、お許しを……」
 敵の体は無数のピンクの羽毛と成り果て、そのまま消えていったのだった。

●他人にも自分の素晴らしさを
 エゴシャナを倒しても、まだ終わらない。
 ビルシャナの作戦、『菩薩累乗会』の阻止の為にエゴシャナを倒すべきなのはもちろんなのだが、ビルシャナとなった少年とて放置できる存在ではない。
 少年の救出を目指すケルベロスとしては、なおのことだ。
 ビルシャナとなった少年はなお、ケルベロスを拒絶せんとグラビティを発してくる。
 それをクリームヒルトとサーヴァント勢が主立って受け止める中、メンバー達は説得へと当たっていく。
「告白した相手は、あなたにとって一番じゃなかったの?」
 札を飛ばし、時に快楽エネルギーを発して仲間の回復を続けるとてぷがまず、ビルシャナとなった少年、武居・元気へ呼びかけた。
「確かに振られちゃったけど、そこまで落ち込んでたってことは、一番だと思ってたんじゃない?」
 丁度、マミックが偽物の財宝をばら撒き、彼を惑わせている。
 とてぷは彼と年が近いこともあって、フランクに接していく。
「ね、告白しようとした時のことを思い出して!」
 ――自分だけの世界だと、こうやって話をすることもできないし、ずっと一人なんだよ?
 今の考えと、違う時を思い出させようとするとてぷ。
「もう、振られるのは、いやだよ……」
 だが、失恋の痛みまで思い出してしまった元気は大きく首を振り、ケルベロス達を拒絶しようと力を解き放つ。
「失恋はつらいと思うけど……」
 風のように吹き付けるプレッシャーに、クリームヒルトらが耐える中、諦めずに後列からキアリが声をかける。
 ――好きになった相手を想う間、苦しいだけでなくて、幸せな気持ちは一切無かった?
 キアリは語りかける間も星型のオーラを少年に蹴りこみ、身体を包む羽毛を取り払っていく。
「もしもあったのなら、戻ってきなさい。そちらに行ったら、その時の幸せはもう二度と得られなくなるわ」
 誰かを愛して得られる幸せ。自愛の精神はそれらを全て放棄することに繋がってしまう。
「……その恋が実らなかったことは、残念だと思います」
 ウォーグもオーラの弾丸で少年を攻撃はするものの、ビルシャナになってしまうほどの心の傷を慮る。
 だからこそ、ウォーグが伝えたいこと。
「そこまで傷を負えるほど、あなたは素敵な恋をしたのです」
 誰かを好きになれた。それだけで素晴らしいことなのだ。
「だからどうか、自分だけでいいなんてそんな悲しいことは言わないでください」
 ウォーグは気力での回復も交え、攻撃の手を緩める。
「さぁ、ボクのロックなステージ。聞いてくださいデース!」
 続き、自身の信じるロックを歌うシィカも、元気に叫ぶ。
 自分も、告白した人も大好き。二兎を追って二兎を得るくらいが本当に最高の状態だ。
「自分が最高だと思うのなら、それくらいの自信を持ってみろデス!」
 ――真のロックとは、自分の中だけで完結するに非ず!
 他人にも自分の最高さをわかってもらうデスと、シィカはギターをかき鳴らして訴えかけた。
「僕としては、自分に最高の評価を出す事は否定しません」
 自分が最高だと繰り返す少年に、恵も星座のオーラを叩き込んだ直後に声をかけていく。
「だが、評価と言うのは、他人と関わってこそ始めて評価になります」
 恵は、他人を排しての評価など、ただの孤独でしかないと言う。
 自身が最高であるなら、率先して他者と関わり、周りからも最高の評価をもらえるよう努力すべきなのだ。
「他者と関わりながらも最高を目指して自分を磨いていれば、良い出会いもきっとあります」
 そんな恵の主張に、自愛を語るビルシャナに戸惑いが見られ始める。
「うう……ボクはボクしか……」
 己のまよいを断ち切ろうと、ビルシャナは自愛の精神を確認しようとする。
 相手の攻撃が一旦止まったことで、クリームヒルトは仲間の状況を見ながら紙兵を撒きつつ、少年に声をかけた。
「玉砕したとしても、告白したその勇気は称えられるべきでありましょう」
 全ての他人が否定するわけではない。認めてくれる人もたくさんいるはずだ。
「もう少し、周りをよく見てみてもよいのではないでありますか? 何より、独りだけでは寂しいでありますよ」
「孤独……」
 相手に拒絶された少年。ただ、孤独という言葉に、彼は恐れを抱き始める。
 自分を好きになるのは、素敵なこと。
 攻撃過多と判断し、裂帛の気合で自らを癒す鎮紅もそれ自体は肯定するが。
「でも、其れを押し通すのは、ただの我侭。自分ひとりだけ、なんて寂しいでしょう?」
「自分のみ愛する人間なんて化生と同じです。人は化生を愛しません」
 結里花が少年の本心をつく。なお、化生(けしょう)とは、化け物、妖怪の類を指す。
「貴方も本当は、愛されたかったのでしょう。他者からの愛は決して、自愛では埋められません」
 そうして、元気に必要だったのは自愛でなく、自信だったのだと結里花は仲間の主張を繰り返す。
「自信を持って胸を張る。自愛に逃げずにまっすぐに。そういう男の子の方が恰好いいですよ」
「自愛でなく、自信を……」
 その言葉に、ビルシャナは明らかに自愛に疑問を覚え始めていた。
 説得が成功したと確信し、結里花は攻撃の手を強める。
 結里花の呼び出した竜巻の御業がさらに、攻性植物を召喚する。
「舞い踊れ! 凛として咲く撫子の花よ! 花吹雪の如く!!」
 現れた『凛として咲く撫子の花』の花びらは竜巻の御業に巻き込まれ、紅の竜巻となってビルシャナを包み込む。
 ウォーグも攻撃を再開し、メルゥガのタックルにあわせて竜の爪を浴びせかけていく。
「ボクは、ありのままで……」
 思い出したかのように、ビルシャナは自愛の言葉を口にしていたが、盾で防ぐクリームヒルトはテレビウムも応援を受け、傷つく自身を再臨の光で包む。
「少年救出の為にも、倒れてはいられないであります!」
「ケルベロスとして、絶対に救出するのデース!」
 さらに、シィカがビルシャナへと殺神ウィルスのカプセルを投擲していく。
 地獄の瘴気を放つオルトロス、アロンの後ろからキアリもガトリングガンを連射していく。
 もはや、ビルシャナには攻撃させないと、恵が日本刀「煌翼」で相手の傷を大きく切り広げれば、鎮紅が左手側に地獄の炎と混沌の水を迸らせ、歪で大きな剣を形作って。
「いつか、貴方の傍に立ってくれる人に、必ず巡り会えます」
 ――だから、歩き出しましょう。
 鎮紅は諭すように言葉を紡ぎ、刃を一閃させる。
「う、ああっ……」
 それがトドメとなり、ビルシャナの全身が淡く輝く。
 光が止むと、そこには元の少年の体に戻った元気の姿があった。
 少年の救出を確認し、恵は小さく息つくのである。

 しばらく、メンバーは少年の目覚めを待つ。
「ガラクタの海にある十字架は、罪を持たず消えた命らしい……♪」
 シィカの『ブラッドスター』が響く室内で、少年はゆっくりと目を開く。
「う、ううっ……」
「無事で良かったです」
 目覚めた少年に鎮紅はそっと笑いかけ、元気付ける。回復に当たっていたとてぷも、安堵の息を漏らしていたようだ。
「はい、すみません」
「……わたしと同年代の女の子なら、憧れる相手は年上が多いと思うのよね」
 だが、そんな元気に、キアリはやや子供っぽさを覚えて。
「好きになった相手に振り向いてほしいなら、少しずつでいいからもっと大人になりなさい」
 そんな同い年の女の子の言葉に、元気はそうだねと胸を張って応えて見せたのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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