菩薩累乗会~アイのアイ

作者:洗井落雲

●暗い部屋で
 何がいけなかったのか、と悩むことはないだろうか?
 そういう時に、自分がいけなかったのだ、と落ち込むことはないだろうか?
 往々にしてそういう事はある。大抵は何とか立ち直れるものであるが、そうでないほど疲弊してしまう人もいる。
 彼がそうだ。
 藤田孝義、大学生。絶賛就職活動中。その結果は芳しくなく、今日もお祈りメールが着信する。
「俺は……俺は……社会から必要とされてないんだ……」
 過度の否定は、自信の喪失を招く。一度や二度なら何とかなるが、そう何度も受けてしまえば……。
「俺は……もうダメだ……」
 布団にくるまり、涙目でうずくまる。
 が。その時。
「ちがうわちがうわ!」
 甲高い声が響いた。
 驚いて孝義が顔をあげると、そこにはピンク色の奇怪な鳥がいたのである。
「他人の評価なんて関係ない! 自分を一番わかっているのは自分だけ!
 だから自分が一番大事。大切なのは、自分だけ!
 他人が自分を否定したって関係ない。だって、他人の評価なんてどうでもいいのだから。
 他人の評価に踊らされて、自分を嫌いになるなんて間違っている。
 もっと、自分を好きになって。
 ありのままの自分が一番だから、他人の評価なんて関係ない。
 一番大事な自分が、自分だけを最高に評価したのならば、それが、あなたの評価。
 つまり、あなたは、最高なのよ!」
 歌う様に、誘う様に、ピンク色の鳥がまくしたてる。
 まるでその言葉にいざなわれるように、義孝は立ち上がった。
「……そうだ」
「そうよ」
「そうだ!」
「そうよ!」
「俺は俺だ! 俺の評価は俺がする! 俺は……俺が好きだ!」
 義孝がそう叫んだ瞬間、その身体に変化が起こった。
 まるで巨大な鳥のような姿になったのである。そう、これこそビルシャナ化。ピンクの鳥は、『エゴシャナ』と呼ばれるビルシャナであったのだ。
「おめでとう、これから私と一緒に、自分を愛するエゴの気持ちを高めて、自愛菩薩さまに近づこう! いつか、自愛菩薩さまの一部となれるように、自分を愛し続けるのよ!」
 エゴシャナの言葉に、新たに生まれたビルシャナは、クケー! と声をあげたのだった。

●私と私
「ビルシャナの菩薩達が、何やらとんでもない作戦を実行しているようだ」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)が、集まったケルベロス達に告げた。
 ビルシャナの作戦とは、『菩薩累乗会』と言うらしい。
 なんでも、強力な菩薩を次々に地上に出現させ、その力を利用して、更に強大な菩薩を出現させ続け……最終的には地球全てを菩薩の力で制圧する、というものだそうだ。
「この『菩薩累乗会』を阻止する方法は、現時点では判明していない。我々が今できる事は、出現する菩薩が力を得るのを阻止して、菩薩累乗会の進行を食い止める事だけだなのだ」
 現在、活動が確認されている菩薩は『自愛菩薩』。
 自分が一番大事で、自分以外は必要ないという『自愛』を教義としている菩薩だ。
「自愛菩薩は、配下のビルシャナであるエゴシャナ達を、なんらかの理由で自己を否定してしてしまっている状態の一般人の元へ派遣し、ビルシャナ化させているようだ。最終的には、その力を奪って合一……つまり、一体化だな。それを狙っているようだ」
 ビルシャナ化させられた一般人は、自分を導いたエゴシャナと共に自宅に留まり続け、自分を愛する気持ちを高め続けている。
 このままでは、充分に高まった力を自愛菩薩に奪われ、新たな菩薩を出現させる糧とされてしまう。
 そうさせない為にも、出来るだけ早く、事件を解決する必要があるのだ。
 敵となるのは、ビルシャナが二体。『エゴシャナ』と、変化したばかりの『ビルシャナ』だ。
 ビルシャナは『自分だけが大事』であり『自分の部屋も自分の一部』であると考え、部屋に侵入してきたケルベロスに攻撃してくる。同時に、部屋から出ようともしないため、戦うためには部屋に侵入しなければならない。
 とは言え、現場はごく普通のアパートだ。とくに労せず侵入できるだろう。
 もしビルシャナを先に撃破した場合、エゴシャナは逃走する、と予知されている。
 エゴシャナを先に倒した場合は、ビルシャナを人間に戻し、救出する事の出来る可能性が出てくるが、作戦の難易度は上がるだろう。
「ビルシャナを人間に戻すためには、エゴシャナを倒した後、適切な励ましの言葉や説得を行った後で倒さなければならない。今回の犠牲者、藤田孝義と言う男は、就職活動に失敗し続け、自信を失っていたようだ。説得の参考にしてくれ」
 アーサーはヒゲを撫でながら、そう言った。
「まったく、ビルシャナも厄介な作戦を始めたものだ。ビルシャナの野望を阻止するためにも、頑張って欲しい。君達の無事と、作戦の成功を、祈っている」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出した。


参加者
槙野・清登(棚晒しのライダー・e03074)
綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)
イルリカ・アイアリス(イーリスの神官・e08690)
ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
引佐・鈴緒(黒曜石の硯・e44775)
ケースケ・シャイニング(自称小さな大芸術家・e45570)
霧島・蘇馬(この手に流星を宿し・e50380)

■リプレイ

●自己愛、増殖中
「俺……俺は最高……最高だ……」
 とあるアパートの一室にて。
 かつて藤田孝義であったビルシャナは、ぶつぶつと自分をほめたたえる言葉をつぶやいていた。
 自己愛を高め続けることにより、ビルシャナは自身の力も高まっていく、やがてその力は自愛菩薩によって奪われ、新たな菩薩を生み出す糧とされてしまうだろう。
「いや……今のアンタは最低だ……」
 と。部屋に、そんな言葉が響いた。
「なにやつ!」
 思わず叫ぶビルシャナへ、
「孝義さん……アンタの気持ちは痛いほど伝わる。俺も自宅警備員の端くれだからな……」
 そう言って部屋に入ってきたのは、槙野・清登(棚晒しのライダー・e03074)だ。
「だが……あんたのその考えは間違っている。自宅警備員的に言うと「自分だけが大事」ってのは……窓も玄関もない自宅だ。『何処とも・誰とも繋がりがない』。そんなのは自宅じゃない。牢獄さ」
「むむ! アンタケルベロスね!」
 エゴシャナがぴぃぴぃと鳴きながら、叫んだ。ビルシャナはその言葉にハッとした表情を見せた後、
「お前達が俺を否定する奴らか!」
 そう言った。どうやら、エゴシャナに何やら吹き込まれた様子である。
「否定……そうだな。『今のお前』は否定する。だが、俺達は、必ずお前を助ける」
 ケースケ・シャイニング(自称小さな大芸術家・e45570)が言うのへ、
「違う、俺は最高だ! 最高なんだ! 間違ってなんかない!」
 ビルシャナが喚き散らす。
「そうよ! あなたは最高なの! 惑わされないで!」
 エゴシャナが追従するのへ、
「それで誰かを救ったつもりか?」
 ハインツ・エクハルト(光を背負う者・e12606)が言った。いつもの穏やかな表情は消え、エゴシャナへの明確な敵意を、その表情に乗せていた。
 それは、サーヴァントであるオルトロス、『チビ助』にも影響したようだ。唸り声をあげ、エゴシャナを威嚇する。
「そうよ! 彼は苦しんでいた。それを解放してあげたじゃない?」
 くくく、とエゴシャナは笑う。だが、その救いの果てに待つのは、無。消滅だ。
「ふざけるなよ。教義だか何だか、お前達の目的は知らないが……人が、自分を生きる権利を奪うんじゃねぇ!」
「そう、そこが分かんねーんだよなぁ」
 霧島・蘇馬(この手に流星を宿し・e50380)が言った。
「自分が大切、と説きながら、その究極は自我を殺して他人と一緒になる……それはつまり、自分以外どうでもいい、って話と矛盾してないか?」
 その言葉に、ビルシャナがアレ? と首をかしげなら、
「アレ? そう言えばおか」
「騙されないで! アレは罠よ!」
 エゴシャナが言葉を遮り、喚いた。
「罠」
「罠!」
「罠か!」
「罠よ!」
「ええい、危うく騙される所だった!」
 クケー、と此方を威嚇するビルシャナ。
「やれやれ、やはりエゴシャナを何とかしなければ、話をしても無駄なようですね」
 筐・恭志郎(白鞘・e19690)が言う。
 エゴシャナは、言葉巧みに……力技も込みで、孝義ビルシャナを丸め込もうとする。やはり説得するにはエゴシャナが邪魔だ。
「予定通り、エゴシャナを倒しましょう。厳しい戦いになると思いますが……」
 と、イルリカ・アイアリス(イーリスの神官・e08690)。
 二体のビルシャナと戦う。それも条件付きで。難しい戦いではあるが。ケルベロス達の士気は高い。それは、被害者を救いたいという思いゆえに。
「はい。必ず救い出します。……ご家族のことを思えば、彼を失うような事があってはいけません」
 引佐・鈴緒(黒曜石の硯・e44775)が頷きながら、答える。
「穢れは全て祓いましょう、後方支援はお任せを。……参りましょう、皆さん」
 綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)の言葉に応じるように、ケルベロス達は一斉に戦闘態勢に入った。
 かくして、ケルベロス達とビルシャナ達。その戦いの火ぶたは切って落とされたのである。

●自己愛の末路
 ケルベロス達が狙ったのは、当然ながら、エゴシャナの早期撃破である。
 エゴシャナにすっかり骨抜きにされたビルシャナの献身的な動きにより、直接ダメージを与える機会は、少々、減らされていた。とは言え、全てを庇いきれるわけではない。
 また、ケルベロス達は、ビルシャナへの攻撃が波及する事を念頭に置き、強力すぎる攻撃やエフェクト、バッドステータス効果は避け、行動を阻害するエフェクトやバッドステータス効果を中心とした攻撃を行っていたため、自然、戦闘時間は少々長引いてしまったようだ。
 長い忍耐の時が続いた。だが、ケルベロス達はくじけなかった。そんな状況下、真っ先にネをあげたのは、エゴシャナであった。
「もー、何なのよ! いつまで戦ってるのよ!」
 パタパタとエゴシャナが翼を羽ばたかせてとび跳ねる。
「さっさとケルベロス達をやっつけなさいよ! つっかえないわね!」
 ケルベロス達からの攻撃から、エゴシャナを守っていたのは、他でもないビルシャナである。そのビルシャナに対してなんという言葉か。ここにきて本音が出たのだろうか。
「どうやら、化けの皮が剝がれたようですね……!」
 『志閃』より竜砲弾を放ちつつ、恭志郎が言う。放たれた砲弾は、エゴシャナへと直撃。
「痛いっ!」
 悲鳴をあげるエゴシャナへ、
「え、エゴシャナ様ー!」
 と、心配げに駆け寄ろうとするビルシャナ。
「その者の身を案じるのですか? 先ほど、貴方を貶めた方で御座いましょう?」
 鼓太郎がオーラを放ち、味方の傷を癒しながら、尋ねた。
「だって……だって……俺を認めてくれた人なんだよぉ……」
 泣きながらビルシャナが言う。
「そいつはお前を認めたんじゃない。ただ餌にしようとしてるだけだ!」
 ハインツがチェインで魔法陣を描く。チビ助が、エゴシャナをにらみつけると、エゴシャナから炎が上がり、その身を焼いた。
「あっつーい!!」
 ぼうぼうと、エゴシャナの身体が燃え盛る。
「畳みかける、相棒!」
 清登が、ライドキャリバー『雷火』へと声をかける。同時に、エゴシャナの足元から溶岩を噴出させ、雷火がガトリング砲を掃射。溶岩と銃弾のフルコースを浴びたエゴシャナは、たまらず悲鳴をあげた。
「きゃーーっ! もういや!」
 バサバサと翼を羽ばたかせるや、エゴシャナはこう言い放った。
「もういや! もういや! 何で私がこんな目に合わないといけないの!? ふん、後はあんた達で勝手にやるといいわ!」
 言うや否や、窓ガラスをぶち破り、何処かへと飛び去って行ってしまった!
「逃げやがったのか!?」
 ケースケが思わず叫ぶ。
「自愛……なるほど。自分のこと以外どうでもいい、まさにエゴの塊だったわけだ」
 蘇馬が嘆息する。
「あ……そんな! エゴシャナ様! エゴシャナ様!」
 ビルシャナが、すがる様に外へと手を伸ばした。勿論、エゴシャナからの言葉はない。
「お前達……よくも! よくも!」
 ビルシャナの瞳が怒りに燃えた。見捨てられたことの怒りの矛先を、ケルベロスへと向けたのだ。
 ビルシャナの、ケルベロス達を否定する波動が、ケルベロス達を襲った。負の評価によるプレッシャーがケルベロス達を覆い尽くす。
「くっ……聞いてください、孝義さん!」
 その衝撃に耐えながら、イルリカが叫んだ。
「他人だからあなたを傷つけてしまう。だけど、他人だからこそあなたを守ることができる!」
 言葉が届くように、孝義を傷つけぬように、慎重に、イルリカは言葉を紡ぐ。
「自分を大切にすることは悪いことじゃない。でもビルシャナの力を使って、それだけを信じて殻にこもるのは間違ってます。……あなたを完全に理解できる人なんていないのかもしれません。でも、あなたを助けようとしてる人がこうやって来てる。あなたのことを知って、大切にしたいって人がいる。人は、貴方を傷つけるだけなんかじゃないってことを忘れないでください……!」
「自分を大事にしてくれたのは本当に自分だけか? 親御さんだって、友達だって、あんたのこと大事に思ってくれてたろ!?」
 蘇馬が続いた。
「落とす面接官なんざお前の全部を見た訳じゃねーだろ? 自分を大事にしてくれた人は居たんだ。その存在まで否定されてる訳じゃねーだろ!! お前は、人から必要とされてるんだ!」
 他の誰かが、必ずあなたを見ている。あなたを大切にしてくれている。それを思い出してもらうために。それを信じてもらうために。
「他人から認めてもらうのって、難しいですよね。でも、そもそもあなたは、他人から認めてもらって就職できることを望んでいたんでしょう?」
 鈴緒が続けた。
「それなのにそれを諦めて、自分だけを愛するなんて、それこそ今までの自分の否定ですよね。大丈夫ですよ。たまたま今までが、相性が悪かっただけです。あなたが必要だと思ってくれるところは、必ずありますよ。だから……諦めないでください。諦めなければ、道は必ず開けるんですから!」
「お前、何社くらい受けたんだ? 俺はな、両手じゃ数えきれないくらい、アートコンペで落選したことがあるんだ。落ちて落ちて落ちまくって、諦めようかと思ったときに見つけてくれた選考者がいて、ほんと嬉しかったっけなー」
 にっ、と笑みを浮かべつつ、ケースケが言った。
「自分だけを見て自分だけを大切にしてたら、そういう良い出会いの尻尾も逃しちまうぜ? 確かに、辛かったよ。でも、諦めなかった先に、とてつもなくいい事がまってる。そう思うぜ!」
 諦めない事を、歩みを止めない事を。もう一度立ち上がってくれることを、祈って。
「誰だって受かりたくて受けるんだから、落ちたら悲しいし辛いけど……初対面から数分会話しただけの面接官の評価、そんなの本当の価値じゃ無いですよ」
 と、恭志郎。
「気の置けない友達とか、貴方だからこそ力になってくれる家族とか恩師とか……彼らにとっては孝義さんは唯一無二。自分を愛するのは良いけど、自分だけを肯定するんじゃなくて、どうか大事にしてくれる人達を忘れないで下さい。いつか頑張った成果が実った時、おめでとうって言ってくれる人が居ないのは、寂しいですから」
 あなたの本当の価値を知っていてくれる、そんな人は必ずいる。それはどんなに幸せな事だろう。そして、そんな人たちを悲しませてはいけない。
「自愛そのものに異議は御座いません。ですが藤田さん、彼の者の語る自愛は誤りです!」
 鼓太郎が叫んだ。
「自愛菩薩の一部になろうなどと、尊ぶべきと説いた自己を放棄させるような真似、自愛が聞いて呆れます。藤田さん、目をお覚まし下さい! エゴシャナこそが、貴方自身を最も軽んじ貶めているのです! 先ほどのエゴシャナの行動、アレこそが、ビルシャナの、歪んだ自愛の本性。もう、わかっているはずで御座いましょう?」
 自己を愛する事は大切だ。だが、歪んだその教義は、確実に間違っている。
「君が自分を愛そうとしてやってるその行為は、他ならぬ君自身を否定することだ。君の過去の努力を否定することだし、君が抱いた未来の夢や希望を否定することだ!」
 ハインツが続けた。
「それらは時々見えづらくなるけど、決して君の中から消えてはいないぜ。君はダメなんかじゃない! だから……オレ達と一緒に、君自身を取り戻しに行こう! オレ達は、君を絶対にあきらめたりしない!」
 自分達は、あなたを助けに来たのだと。希望は必ず残っているのだと、そう伝えるために。
「落ち込んでる時に1人で部屋に居たい気持ちも分かる。自分に優しくするのも悪い事じゃない。ただ、例えば就活で周囲から否定されたと感じたなら、否定される辛さが誰よりも分かるはず。そんな孝義さんは、同じ辛さを誰かに与えたいと思うだろうか?」
 清登が、諭すように言った。
「そんな風に、自分を大事にすれば自然と周りも大事に出来る。孝義さんは自分だけでなく、自分も他者も一緒に大事に出来るはずだ。大丈夫。俺達が保証する」
 自信を取り戻させるように。もう一度歩けるように。
「ケルベロスの皆さん……俺……俺……やり直せる、のかなぁ?」
 ビルシャナ……いや、孝義が、そう言った。
「ああ、出来るとも。その言葉、俺のエンジンに火を点けたぜ」
 そう言って、清登が、駆けた。全力疾走から繰り出す一撃。
 それは、浄化の一撃。
 孝義は、その一撃を、目を細めて受け入れた。

●私の愛
「皆さん……ご迷惑をおかけしました!!」
 と、孝義は、ケルベロス達に向かって土下座した。ケルベロス達の説得は、彼の心を開くことに成功し、見事ビルシャナから元の人間へと戻すことに成功したのだ。
「いえ、気にしないでください。就職活動は、とても大変だと聞きます。お酒は飲めないですが……飲み物片手に愚痴を聞く、ぐらいでもよければさせてください」
 イルリカがにこやかに言うのへ、孝義はぺこぺこと頭を下げた。
「微力ですが、僕もお話は聞きますよ。良かったら、就職活動の事、聞かせてください。辛い事も、吐き出せば楽になるはずですし」
 鈴緒の言葉に、孝義はありがとうございます、と再度深く頭を下げた。
「俺にはまだ縁遠いもの故、御役に立てる事を申せないのが歯がゆいのですが……。社会に出るとは、斯くも大変な試練なので御座いますね」
 鼓太郎の言葉に、孝義は苦笑する。
「君が無事でよかったよ」
 ハインツが、笑いながら言う。その表情は、いつもの笑顔だ。
「追い詰められる気持ちは分かります……その、就職活動。そろそろ他人事じゃなくなりますから……」
 苦笑しつつ、恭志郎が言った。
「まぁ、若いうちは何度か躓くもんだぜ。でもまぁ、人生ってのは何とでもなるもんさ。頑張りな」
 と、ケースケも笑いながら言った。
「しかし、エゴシャナには逃げられたか……」
 蘇馬の呟きに、
「うん……だけどまぁ、彼を助けられて、良かったんじゃないかな?」
 と、清登が答えた。

 ケルベロス達は、無事一人の人間と心を救うことに成功した。
 エゴシャナには逃げられてしまったようだが、作戦としてはビルシャナの無力化に成功し、孝義を救う事もできた。十分に胸を張って良い結果だろう。
 さて、この後、ケルベロス達は、愚痴聞きやアドバイスを兼ねて、孝義の家でちょっとしたパーティなどを開き、大いに盛り上がるのではあるが。
 それはまた、別の話である。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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