悪逆の刃

作者:baron

『オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ』
 白い牙から変転し突如現れた竜牙兵達。
 奴らは駅前に降り立つと、人々を虐殺しながら駅の中に入り込んで来た。
「痛い! 痛い! なんでこんなことを……」
『オマエたちがワレらにムケタ、ゾウオとキョゼツは、ドラゴンサマのカテとナル。せいぜい苦しんでシネ』
 それもただ殺すだけではなく、時折、恐怖と憎しみを煽るために腕や足だけを切り落としてから、出血で死ぬ前にトドメを刺すのだ。
『グァァァハハハ』
 千切れた手足でオブジェを作ったり、血と臓物の溢れた駅の中で、竜牙兵の咆哮が響いていた。


「山口の県の駅前で竜牙兵が人々を殺戮することが予知されました」
 セリカ・リュミエールが地図を手に説明を始める。
 そこは大きな駅で、人々大勢いることが予想された。
「竜牙兵が出現する前に、周囲に避難勧告をすると、竜牙兵は他の場所に出現してしまう為、事件を阻止する事ができず、被害が大きくなってしまいます。ですが皆さんが戦場に到着した後は、避難誘導は警察などに任せられるので、竜牙兵を撃破することに集中してください」
 残念ながら敵は人が居る時・いる時間帯を狙ってやってくる。
 予知で着て居ても避難勧告をすれば、他の街や前後する時間帯を狙うので、結果的に被害が大きくなってしまうだろう。
 だが、敵は主人の敵であるケルベロスとの戦闘を重視するらしく、こちらに向かってくるため、到着した後ならば避難しても問題無いらしい。
「敵は強力な個体が三体です。全て簒奪者の鎌を所持し、一度闘い始めると逃げることはありません」
 数が群れており場合によっては逃げ出すオークと違い、竜牙兵は勇猛果敢に襲ってくるらしい。
「またケルベロスほどではないにしても分担・集中攻撃といった連携を行ってきますので注意してください」
 竜牙兵は骸骨に見えても知性があるので油断できない。
 負荷を全体に撒き散らし、あるいは攻撃を一人に集中することもあるだろう。
「竜牙兵による虐殺を見過ごす訳には行きません。どうか、討伐をお願いします」
 セリカは軽く頭を下げると、出発の準備の為にヘリオンに向かうのであった。


参加者
写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)
葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)
ロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)
煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)
鏡月・凛音(狂禍髄血・e44347)
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)

■リプレイ


「大きな、骨。見るの、初めて。あれが、今回の、敵。……いつも通り。敵なら、殺す、だけ」
 鏡月・凛音(狂禍髄血・e44347)は『竜牙兵』と敵の正体を呟きながら走り込んだ。
 担いだ刀に指を掛けながら小さな声を、訥々と張り上げる。
「早く、逃げて。危ない、から」
「ケルベロスだよー。皆、慌てず騒がず、でも急いで避難してねー!」
 凛音がや写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309)は周囲に呼び掛けながら、変わり始めた牙に向かって立ち塞がった。
 そこからは鎧をまとった骸骨が現れたのだ。
 別ルートから来る仲間達も、その影に向かい合う。
「デウスエクスが現れたんだ、ここから逃げて!」
『ケルベロスめが……』
 燈家・陽葉(光響射て・e02459)は気を引くために鎖を使って剣を振り回しながら、避難をする人々と敵の間に 割り込んだ。
 その動きに釣られた訳でもあるまいが、目に見えて敵は刃と共にこちらに殺意を振り向けて来る。
「お前たちの相手は僕達だよ」
「ちゃんと、逃げて、くれた。よかった。これで、気にせず、切り刻める」
 陽葉が鎖を振り回して剣を叩きつけると、凛音は挟み討ちするかの如くグラビティで作った星を叩き込みつつ相対する。
 ジリジリと間合いを図る様は、まるで時代劇のチャンバラを見るかのようだ。
「念の為に、結界。完了。これで準備万端」
 兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)はチャキリと刀を引き抜きながら殺意の結界を張ったと告げる。
 おろおろしながら逃げ惑っていた人々も、一目散に走り去ったのが見える。
『エエイ。邪魔バカリシオッテ……グオオ!』
「……相変わらず、うるさい、ね。まずは、これだ、よ」
「鎌、ぶんぶん、鬱陶しい。邪魔。殺す。死んで。消えて」
 十三が話も聞かずに蹴り飛ばすと、凛音はコクコクと頷いて同意した。
 二人の少女は言葉少なに頷きながら、竜牙兵を通すまいと足早に戦場を駆けて行く。

 その時、天を刃が飛び交った。
 閃光の如き一閃を、一本の杖が跳ね飛ばす。
「忌まわしい竜の尖兵風情が……」
 葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)は片目を見開いて牙を向く。
 無表情なままに手さばき足さばきだけが雄弁に言葉を語り始めた。
「思い知らせて差し上げましょう。己がどれほど愚かなことをしているかを」
『ダマレ!』
 オルンが棒高跳びの要領で杖を付き、虹を纏って蹴りを浴びせようとした。
 だが敵も猿者ひっかく者。大鎌を回転させてその勢いを殺す。
 しかしその程度は想定済み、オルンはその時点で蹴りの反動を使ってバックステップを掛け、仲間に道を譲ったのだ。
「とーううっ! セリカちゃんに予知内容教えてもらったけど……悪趣味極まれりー!! 許せないんだよー!」
 在宅聖生救世主が翼を開いて滑空し、流星の様に降下して来た。
 敵は鎌の柄で受け止めるが、足元に線を残す程度の後退を行ってしまう。
 こうして一進一退の攻防でケルベロスと竜牙兵の戦いは幕を開けた。


「罪もない人々の命を弄ぶ所業、許しません!」
 煉獄寺・カナ(地球人の巫術士・e40151)は竜牙兵を睨むと、両手を広げてクルリと回転させた。
「我が身に宿り師しは玄武……皆を穢れから守りたまえ!」
 カナが腕を回転させて作った円に力を注ぎ込み、鏡の様に……いや甲羅の様になるべく力を安定化させていく。
 それは仲間達が負った傷を癒し、迫りくる脅威を退ける力だ。
「虐殺という凶行を行おうとは、甚だ不届至極なり」
『ホザケ!』
 葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)は態勢を低くして忍び寄ると、横っ飛びに切りかかった。
「……精々、覚悟召されよ」
 影二が持つ斬る為だけに鍛え上げられた刃は、上体を上げると同時に延ばされる腕と共に鋭く装甲を切り裂いて行く。
 僅かな動作でありながら捻じり込まれた回転エネルギーにより、鎧の一部と骨をヒトカケラほど打ち砕いたのだ。
 だがこれは今スグ倒す為の一撃に非ず、竜牙兵の正気をこそ抉り取る為の物だ。
「ふふふ……さぁ、私達が……私が、皆様の宿敵です。その刃をこちらへ向けて……さぁ……!」
 一撃離脱を掛ける仲間を追い掛ける大鎌に対し、ロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)は身をさらして受け止めた。
 体で受け止めながら指先で刃を握り込み、ジワジワと白銀の色をしたナニカが浸食して行く。
「さあ踊りましょう。ラストワルツなどとは言いません。心行くまで」
 それはロフィが付けて居た手枷であり流体金属でもある。大鎌を伝って竜牙兵に絡みつき、彼女の指先の代わりに復讐を果たす。
 ああ……訂正しよう。果たすのは復讐では無い、次の攻撃を呼び込む為の誘いである。

 こうしてガップリ四つに組んだケルベロスと竜牙兵達は、駅前のバス待ちゾーンや駐車エリアをズタズタに引き裂きながら相対した。
 それは刃であり鉄拳による攻防である。
「先に言っておくぞ。この線を越えるならば覚悟しておけ」
『シャラクサイワ!』
 オルンが杖で地面を一閃すると、焦げるような摩擦熱と共に一文字を刻む。
 その上には雷鳴の結界が張られ、来るモノを拒む意志を見せて居た。
「勝負を挑まれれば、逃げずに受けて立つ……その気質は、とても良いものだと私は思いますよ」
「竜牙兵は一般人にとっての害だって分かりやすくて、変に悩まなくていい分そこは楽かな。廃棄家電型とか偶に同情しそうになるけど」
 ロフィは血のように赤い斧で世界を染め上げ、陽葉は鎖月の剣を鎖鎌の様に投げつけた。
 それを弾き飛ばし、あるいは受け流す軽妙な技前を見ながら、この攻撃が一般人に向かわなくて良かったと陽葉は本気で思った(ロフィは別の意味でだが)。
 攻撃を引きつけ、集中攻撃まで掛けようと連携を見せる竜牙兵の事である。
 もし、ケルベロスの足止めをする個体と、人々を虐殺する個体に分担しあって居たら大変なことになっていただろう。
「とはいえ奴らもまた任務。どこまで続くものやら」
「だよねー。いい加減、下っ端の竜牙兵じゃなくてドラゴンとか出てきなさいよー! そこまで強くない奴でいいから!」
 影二はタップリと毒を塗り付けた手裏剣を投げつけながら呟いた。
 彼にしてみれば任務次第で同行は変わりかねず、在宅聖生救世主もその意見にウンウンと頷きながら降下したのである。
「担当してるボスが精鋭を引き連れるとか何かしらの変化は欲しいよね~。あ、オークはいい。オークは来なくていい」
 なんといいうか女の子に取ってオークは最悪な敵である。
 それはアポロンとか名だたる敵と戦ってきた写譜麗春一族に取っても例外ではなく、在宅聖生救世主は真顔で断罪の刃を振り降ろした。
 溢れる殺意を刃に載せて、オークの代わりに竜牙兵の首を狙ったのである。
 こうしてケルベロスたちはジリジリと戦線を押し上げ、それに竜牙兵が対抗して行くと言う形に攻守が入れ替わって行った。


「まずは一体。それとも一匹? どっちでもいいけど」
 何度目の攻防で、凛音の突き刺した刀は刃を通して竜牙兵を汚染して行く。
 内側から染め上げて不死のデウスエクスから寿命がある生命に描き変えて行った。
 しかしその姿を目で見ることはできず、あくまで悪夢の中で侵攻して行く。
『ぎ、ぎ、……キザマ……』
「生きてた? これで、とどめだ、よ」
 防御に優れて居たディフェンダーであった為か、そいつは生き残ったようだ。
 だが反撃に出ようとしたところで、十三が首を狩った。
 太陽や月に向かって跳ねるような切っ先が、竜牙兵の首を切断する。
「今の内に治療をしておかないとね」
 カナは領地……自らが守護する結界をを広げることで仲間達の傷を癒し迫りくる怨霊たちに向かい合う。
 二本の鎌を扉として、地獄の門が開かれたからだ。
『ユケイ! 悪霊ドモヨ!』
「うふふ。ケルベロスに地獄は故郷の様なものですわ。ねえ、クー」
 ロフィが両手を広げて鉄拳を浴びせながら怨霊を自分に喰らいつかせていると、テレビウムのクーは怨霊の叫びを録音しているようだった。
 後で御主人がBGMとして楽しむ為かもしれない。
 こんな日々が続けば良いのにと悩む高度なプレイを楽しむ主従はともかく、ケルベロス達は追い込みに掛った。
『コレハ腕? エエイ、ウットオシイ』
「相手をしてやってください。それは『恨み』だ。ああ、勿論キミに言ってるんだ」
 オルンが呼び起こした影は、足元から絡みつく腕の様であった。
 次々にまとわりついて、地獄に引き込むかのようだ。もしかしたら立ち塞がるケルベロスの想念なのかもしれない。
 誰かさんが羨ましそうに見ているが、ここは気にしないでおこう。
「ここは一気に畳みかけていくんだよー」
「そうだね。あまり時間も掛けたくは無いし、ね!」
 在宅聖生救世主は翼を畳みながら竜牙兵の頭へカカト落としを決めた。
 そこへ陽葉が殴りつけ、鎖を絡めてグルグルと振り回し始める。
「……その隙、逃さない、よ」
 ここで十三が赤いマフラーをなびかせて、竜牙兵の顔面を蹴り飛ばした。
 軽く足に力を掛け、顔を踏み台にして兎の様に飛びず去っていく。
「忍の妙技、篤と御覧頂こう……滅却!!」
 影二は右の親指で左手の生命線をなぞる様な印を切った後、両手を合わせることでソレを右手にコピーして走り始める。
 パっと両手を開いて左右どちらの印でも起動可能にすると、体の中で高めた螺旋が出口を求めて暴れ始めた。
 そして突き刺すような掌の一撃を放ち、敵の体内に火焔の螺旋を送り込む。それを内から爆けさせて人体発火どころか人間爆弾に変えたのである。
「たーまやー。……たまやって。なに?」
 凛音は旅団の仲間達が呟いた言葉を思い出しつつ、自分の体よりもおっきなハンマーを振りあげるのであった。


「傷はそれほど心配じゃないし、こんなところかな」
 カナは花香る風を引き起こして、結界の中に充満させた。
 山に草木が薫るように、亀を摸した結界が香り高い風に満たされる。
 それは冬から春に変わる季節を示すかのようで、怨霊に蝕まれた仲間たちから負荷を取り除いて行く。
「二体目だけに、まっぷたつー!」
 在宅聖生救世主は前転しながら空を滑り落ち、全身を断頭台に変えた。
 グルグルと回転する刃が猛威と化して竜牙兵を両断して行く。
 途中で負荷をばらまかれて、その回復に思ったよりも手間だったが、ようやくリーチを掛けたという所だ。
『オノレオノレオノレ!』
「あと、もう、少し。殺せば、終わり。おしまい。平和。だから、死んで」
 凛音はボールを蹴るかのようにグラビティで作りあげた星を放ち、そのまま走り出して様子を窺う。
 星が炸裂した後、仲間達が態勢が崩れた所に殺到する。
「拙者が牽制する」
 影二は手裏剣を投げつけて牽制した後、印を切って凍気を指先に集める。
 場合によっては間にあわないかもしれないが、無駄にはならないと信じて力を集中させて行った。
「じゃあ、動きを止める……、ね」
「任せた。その後で僕が押さえつけるから」
 ここで十三がハイキックで敵の頭を押さえると、陽葉は鎖を短くして剣を直接握って切り込んでいく。
 そして束ねた鎖を開放し、動きを止めるのに協力したのである。
「大丈夫だとはおぉ見ますけど……逃げたら、めっですよー」
「その通りです。ここは僕らが行かせない」
 ロフィは斧を横薙ぎに振るって混沌で浸食し、オルンは膝蹴りで飛び込み注意を引きつける。
 そのまま挟み込む要員して退路を断った。
「……斬った」
 凛音は軽く刀を握り込んで掌に傷を付けると、流れる血で刃に化粧を施した。
 そして振り切ることで呪詛を発動し、既に切ったから血が付いていると逆転現象でもって切り裂いたのである。

 最後の竜牙兵はそのまま崩れ落ち、物言わぬ屍となった。
 姿が骸骨であったが、名実ともに死体と化したのだ。
「……討伐完了」
 影二は組んで居た印を解除し、フっと息を駆けて集約して居たグラビティを発散させる。
「そういえば、骨、どうやって、動いてたの?気になる」
「ドラゴンの魔力とかなんじゃないの? 城ヶ島じゃ畑見たいだったらしいけど」
 凛音が首を傾げると在宅聖生救世主は地上に降り立ちながら背筋を伸ばした。
 このまま電車で帰るのも良いねーとか言いながら、無事に守りきった駅を見つめるのであった。
「じゃあヒールして帰ろっか」
「そうですね。手分けすればそれほど時間もかからないでしょう」
 陽葉の言葉にオルンが頷いて修復を開始した。
「こんな所でしょうか?」
「そうですね。念の為に建物の方も見に行ってみます」
 ロフィが赤く染まった道路を満足げに見て居ると、カナは携帯を取り出してもう終わったと警察に説明した。
 後は駅の構内で待って居る人々に告げれば全て終わりである。
「お土産でも、買って、かえろうか、な。おべんとうと……それから……」
 十三は電車の中で食べる弁当と、旅団の皆と一緒に食べる物を探してキョロキョロと駅の中を探検し始めた。
 その姿を見て居た仲間達は、懐中時計を渡して送れない様にね兎さんと、有名な童話をモチーフに忠告する。
 こうしてケルベロスと竜牙兵の戦いは無事に終了したのであった。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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