狂える獣の勢うは

作者:幾夜緋琉

●狂える獣の勢うは
 和歌山県の南紀白浜臨海部に広がる屈指の崖、三段壁。
 高さ50m程の切り立った崖は、その上に立てば恐怖を……一方、下からは美しい光景を見上げる事が出来る。
 そしてその崖の下には「三段壁洞窟」というのがあり、神秘的な洞窟を見る事が出来る。
 ただ、今日はその洞窟の中は営業していない。
 外の波が荒く、時折その波が入ってくる様な状況では、かなり危険な状況であるからである。
 ……しかし、そんな洞窟の中で。
『……ウゥゥ……』
 苦しみの唸り声を上げている者一人。
 それは、ボロボロの体で苦しんでいるオーク。
 既に命は助かる見込みも無い……どうしてそうなったのかは不明だが、最早死を待つのみであろう。
 ……そんなオークの死の気配に気づいたのか……そっと近づいてくる影一つ。
『グ……ゥウ……』
 オークの視線は、まるで救いを求めるが如く。
 しかし、その影はオークを一瞥すると、くすりと口端を釣り上げる。
 そして……そのまま影は、横たわるオークの胸元に、何か球根の様な物を埋め込む。
『ガ……! ァアア!!』
 悲痛な悲鳴が洞窟内に響き渡るが、その影は意に介さない。
 そして。
「さあ、お行きなさい。そしてグラビティ・チェインを蓄えて、ケルベロスに殺されるのです」
 その影……いや、死神は、そうオークに指示を与える。
 指示を受けたオークは、一端瞑目した後。
『ガ、ガァアアア!!!』
 と、絶叫と共に、洞窟を出て行くのであった。

「皆さん、集まって頂けましたね? それでは、早速ですが説明させて頂きます」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達へ軽く一礼しつつ、早速。
「依然として、死神が日本各地で動いている様で……今回、和歌山県の三段壁洞窟という所で、死にかけたオークを傀儡化する、という事件が起きたようなのです」
「オークは死神によって、死神の因子を植え付けられ、暴走状態になっています。そしてこのオークは、大量のグラビティ・チェインを得るが為、人間虐殺を指示されているのです」
「オークが人を殺し、大量のグラビティ・チェインを得てから死ぬと、死神の強力な手駒となってしまうのは間違い有りません。そうなる前に、皆さんには死神の傀儡のオークを撃破し、グラビティ・チェインの得る手段を妨げて頂きたいのです」
 そして、更にセリカは詳しい状況の説明を。
「死神により暴走状態にさせられてはいるオークですが……特に特殊な能力を得たわけでは無く、攻撃手段は他のオークと同様、その触手を絡みつかせ、締め付けて攻撃する今年か出来ません」
「しかしながら、先ほども言った通り、死にかけていたオークですから……暴走状態で体力が多少ブーストされていると言えども、全力全開の状態ではないのです」
「下手に攻撃をし、撃破をすると、この死体より彼岸花の様な花が咲いてしまう事が想定されます。その花は、すぐに消え去り……どうもそれが死神の糧となっている様なのです」
「しかし、オークの残り体力に対し、大幅に過剰なダメージを与え、死亡させると、死体は死神へ回収される事無く、死神の因子と共に破壊される様です。皆様には、可能な限り、死神因子の破壊もお願いしたいと想います」
 最後にセリカは、もう一度皆を見渡して。
「度々起きる死神の事件……彼女らが何故この様な行為をしているかは解りませんが、彼女らの糧になるような事態は止めねば鳴りません。どうか皆さんの力を貸して下さい」
 と、深く頭を下げた。


参加者
ガド・モデスティア(隻角の金牛・e01142)
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
篶屋・もよぎ(遊桜・e13855)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
大道寺・悠斗(光と闇合わさりし超者・e44069)
クーガー・ヴォイテク(紅蓮の道化師・e46526)
ミルフィーユ・タルト(甘いもの好き・e46588)

■リプレイ

●命の波間
 和歌山券は南紀白浜の臨海部にある、三段壁。
 高さ50m程を誇る、切り立った壁がとても印象的で、人によっては恐怖を呼び起こさせる……そして、下から見れば、美しい景色。
 でも……今回は崖の上ではなく、崖の下にある三段壁洞窟。
 ここにあるのは、神秘的な輝きを瞬かせる洞窟……でも、いつも入る事は出来ずして、外の波が荒ければ、普通に危険故閉鎖されてしまうという……ちょっと危険な洞窟の中。
 その舞台で死神によって踊らされているは……苦しみの唸り声を上げるオーク。
 一度死にかけた所を、死神が死神の因子を使い、植え付け、生きながらえさせる……という事件。
「死神の因子とオークであるか……何故このオーク、死にかけていたのであろうな? どこかのケルベロスと戦闘でもあったのだろうか?」
 と、大道寺・悠斗(光と闇合わさりし超者・e44069)は軽く首を傾げると、篶屋・もよぎ(遊桜・e13855)は軽く首を傾げつつ。
「うーん……? そうですね~、もしかしたらわたし達のお仲間さんがどこかで倒したのかもしれませんね~」
 ゆるりとした彼女の言葉に、ふむ、と悠斗は顎に手を当てる。
 そんな二人の言葉へクーガー・ヴォイテク(紅蓮の道化師・e46526)、ミルフィーユ・タルト(甘いもの好き・e46588)とジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)らも。
「しかし死神の因子……か、面倒な事が起きそうなもんだな」
「うん、オークに死神の委員氏かぁ……ただでさえ理性の失われたオークに死神の因子なんて植え込まれたら、もう手の施しようがないわね」
「そうですね。ま、同情はしますけれど、結局のところ滅せねばならないんですよねぇ。意識があったとしても豚ですし……感情がないのが良いのやら悪いのやら」
 肩を竦めたジュリアス、更にバジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)と彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)も。
「元々理性が欠如している上に死神の因子で更に狂暴になって大変ですよね」
「ええ……オーク達にとっては、私達は死の力を行使する恐るべき存在……と思われているのかもしれません。ですが、デウスエクスの脅威から地球を守るためには、私達は不可欠の存在……デウスエクスに畏れられたとしても、確実に倒さなければいけません」
「そうですね。死神の思惑通りにはさせません」
 と、そこまでの仲間の言葉に、ガド・モデスティア(隻角の金牛・e01142)は。
「んー……」
 と空を見上げるガドにジュリアスが。
「ん、どうしました?」
 と問いかけると、ガドは。
「うち、あんま学がないもんで、難しいことはさっぱりなんやけどね。これつまりはバフ盛々でぶん殴れ、っちゅうことやろ?」
 と、その言葉にミルフィーユが。
「そうね。まぁ……単純に言えばその通りかしら?」
「そう。ええねえ、そう言われると燃えてくるわ」
 ぐっ、と拳を握りしめるガドの言葉に、くすっとミルフィーユは微笑み。
「そうね。せめて、死神の手駒にされない様に楽にしてあげよう」
 と決意と共に、ケルベロス達は荒れつつある波を横に、洞窟の中へと足を踏み入れていった。

●薄暗い仄かな影に
「うわ……ほんま暗いもんやな」
 と漏れたガドの声が、狭い洞窟の中に響く。
 足元には外から流れ込む波飛沫によって、足元は濡れて滑りやすくなっている……そして、暗い。
 灯を手にし、先陣を切って歩くのは……もよぎ。
「さて、と……何処からオークさんは出てくるんでしょうかね?」
 と、軽く耳をピクピクッ、とさせて音を感じる。
 ……ケルベロス達の歩く音が、暫し木霊……と、その時。
『ウグゥ……』
 低く唸る、呻き声。
 その呻き声にぱたっ、と足を止めて、灯を掲げる。
 ……洞窟の多くの方までは、灯は届かず、まだ暗い。
 その暗い方向へ、更に灯を掲げるジュリアス……と、その光の先に、僅かな影の動きが。
「ふむ、装備品はなかなかいい仕事をしてくれそうですね」
 とジュリアスが言った瞬間。
『グ……ガアアア!!』
 絶叫と共に、その光の先から駆けてくる……狂気に苛まれたオーク。
 最早その不浄な触手を伸ばし、もよぎの手足を拘束しよう……とするが。
「させへんよ!」
 と、咄嗟にガドが前へ。
 その身を挺しつつ、その腕へ巻き付かせた後、力尽くで振り払う。
『グアア……!』
 触手一本、力尽くで引きちぎられ、叫ぶオーク。
 悲壮感漂う叫びだが……それに。
「こいつにも、女子の乳が尻が、と盛んに働く時があったんかなぁ」
 とガドの憐れみの言葉を掛ける。
 が、オークはそれに対しての反応はせず。
『グガア……ゥゥ……!!』
 ギロリと、狂気の視線で睨み付け、数歩の距離を取る。
 そんなオークへ、バジルと悠斗が。
「死神の因子を植えられ苦しいでしょう、すぐに楽にしてあげます」
「そうだな! 我輩シャドウエルフのぉぉお~~大道寺・悠斗が、今ここで楽にシテヤルぞっ!!」
 クルクル身体を翻しつつ、悠斗はずびしっ、と指さし宣言。
 そしてもよぎが。
「それじゃいくよ、そーれっ!」
 と早速、遠隔爆破の一撃を放つと、連続して悠斗がクリスタルファイア。
 そしてミルフィーユは。
「さぁ、育ちなさい……地中に眠る植物よ。蔦となり相手を絡み捕りなさい!」
 と捕食の蔦を伸ばし、敵の足元に蔦を絡みつかせる。
 脚を掴まれる形になり、体勢を崩すオーク。
 地面に突っ伏すが、それで更に逆上し、蔓を蹴り飛ばし、怒りの咆哮。
「ったく、面倒な依頼だっぜ……ミミ!! 任せたぜ!」
 と、クーガーの指示に、ナノナノのミミはナノっ、と叫びつつ、ジュリアスにナノナノばりあで強化。
 そしてクーガー自身は、オークとの間合いを詰めると。
「この程度なら問題ねぇだろ?」
 と、至近距離からのドラゴンブレスの一撃。
 更にもよぎのボクスドラゴンの自来也さんは。
「自来也さん、宜しくお願いしますよ~!」
 ともよぎの言葉にこくりと頷き、ボクスタックルの体当たり。
 そしてジャマーの悠乃は、己自身に護殻装殻術で破剣を付与し、ジュリアスも。
「私はトドメのためお準備と行きますか。土気は水気に打ち克ちて、仇名す見不をも打ち砕くッ!!」
 と『克水陣』による狙アップの自己付与で強化。
 そしてガドは、ボクスドラゴンのギンカクと共にオークへ対峙。
 オークの狂気を目の当たりにしつつ。
「ほんとはトドメの一撃と行きたいけども、火力は出しづらい身なもんでね……ギンカク、よろしゅう!」
 とギンカクから属性インストールを受けつつ、己はハウリングで敵の足止めを行う。
 そして、最後に動くのはバジル。
 仲間達の体力の消耗を見据えた上で、一番体力が減っている仲間に。
「大丈夫ですか、まだ傷は浅いです。少しじっとしていて下さいね」
 とウィッチオペレーションを飛ばして、その傷を回復する。
 そして、共に行動一巡……オークの戦意は、まだまだ充分。
 とは言え凝った攻撃手段に変わる事は無く、その本能のままに触手を伸ばし、拘束し、締め付けて苦しませるので精一杯。
「っ……!」
 と唇を噛みしめ、その攻撃を耐えるガド、それを救う為に、バジルが後衛からの回復を飛ばしつつ、至近のクーガーの旋刃脚や、自来也さんのボクスブレスが触手を焼く。
 そして触手乃拘束から逃れれば、ガドとギンカクはジュリアスへルナティックヒールと属性インストールで、最後の一撃に向けた強化を積み重ねていく。
 ……そして、スナイパーのもよぎと悠斗は、互いに声を掛け合いながら。
「掌に力を込めて~、えーいっ!!」
「ふははっ、これを見切れるものなら見切ってみるのだ!!」
 螺旋掌、ガジェットウィップでそれぞれバッドステータスを付与し、弱らせた所に、更にミルフィーユが。
「さぁ、遠隔爆撃だよ、これでも食らえー!」
 とサイコフォースの一撃爆破。
 そして悠乃はグラインドファイアによって、更に敵への炎効果を付与し、継続ダメージで弱らせる。
 その後も継続し、オークを削りつつ、体力の状況を観察し続けるケルベロス。
 ……防御を捨て、回復手段もないオークの体力は、加速度的に減少。
「裏コード入力。1000-10-0……これが我輩の最終兵器である!!」
 と悠斗が放つ、『フィン・ガジェット・ファング』が決まり、壁へと叩きつけられる。
「ストップ!」
 と、その異変に気づいたガドが手を上げ、仲間を制止。
「そろそろかしら? なら……愛する者よ……決して失われないで!」
 とミルフィーユが「想捧」でジュリアスへと強化を付与すると、ジュリアスは。
「では、砲撃地点へと移動しますよ!」
 と、クラッシャーポジションへの移動、それに伴い、もよぎやガド、ルナティックヒール。悠乃も護殻装殻術。
 集中的にジュリアスへの強化を施し、強化……闘志燃え上がり漲るジュリアスに。
「いやぁ、みんな元気やねぇ」
 と呟くガド。
 ……そして、大量強化の次の刻。
「最後だけもらうようで悪いですが……!」
 オークの真っ正面へ対峙したジュリアス。
「ターゲットスコープ展開、弱点捕捉、誤差修正、グラビティ充填率120%。対閃光衝撃防御、セーフティ解除……フォートレスキャノン、発射ァ!!」
 全力全開の、フォートレスキャノンの一撃をその頭頂部からずさっ、と叩き込むと……オークは、ウガアアアア、と言う絶叫と共に、其の場から言え失せていった。

●煌めく命の灯火に
 そして、どうにかオークを全て倒したケルベロス達……その耳に残るは、断末魔ともなった、苦しみの咆哮。
 ……勿論、死神の因子を破壊されたオークは、既に姿や跡形もない……。
「うーん……死神の因子は、どうなったかしら?」
 とミルフィーユは周囲を確認、そしてバジルが。
「……うーん……うん、大丈夫そうですね。取りあえずは一安心といった所でしょうか」
 と頷く。
 ……死神の因子の咲く影もなく、完全に破壊されてしまったオークに……一抹の憐れみの気持ちさえ浮かぶ。
 が、何であれ一般人を殺戮しようとするオークの行為を認める訳にはいかないし……その対処には、倒す他にない。
 でも……オークが暴れたからか、かなり周囲の建物や構造物等は被害が……。
「ああ、やらなければいけなかったとは言え、火力が強すぎたかもしれませんねぇ」
 とジュリアスは呟きつつ、壊れた部分にせっせとヒールを開始。
 無論、悠乃やバジルらもオークの被害を一つも残さない様、細かい所まで全てを回復。
 ……全てを終わる頃には、外の方から微かな陽射しが差し込んでくる。
「……もう、朝か……」
 静かに呟いたクーガー……入口とは逆の、奥の方へ。
 勿論、奥に何かあるかは……苦しみ、生きながらえさせられたオークの痕跡が何か、あれば。
 だが、消え失せたオークの生きし影は何もない。
「……そうか」
 と、ぽつりと一言呟いた後、クーガーは仲間達の元へ。
「何か、ありましたか?」
 と悠乃が問いかけるが、首を横に振るクーガー。
「そうですか……」
 と静かに俯く。
 死神の隠蔽は徹底しているのか……それとも、死神が狙うのは、痕跡のない者のみなのか……どちらかは解らない。
 が……何にせよ。
「さーって、んじゃ帰るで」
 と笑い掛けるガドの言葉に。
「そうですね~。あ、折角ここまで来たんですし、駅で美味しいお菓子とかどうですか? お饅頭とかカステラとかがあるみたいですし」
「お、それはええね♪」
 目をキラキラさせるもよぎにガドがサムズアップ。
 そんな二人の会話に周りの仲間達はくすりと笑みがこぼれ……そしてケルベロス達は、一先ず波に呑まれる前に、その洞窟から脱出するのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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