菩薩累乗会~おまわりさん、このイケメンです

作者:ハッピーエンド

「プルプル……、私、悪い職人じゃないよ……」
 暗い室内にイケメンが1人、ションボリと膝を抱えて落ちこんでいた。
「いや、しかし、欲しいと言われたら、誰だってああしたのではないだろうか……? いや、それはいい訳か。やはり私が浅はかだったのだろう……」
 頭を抱え、イケメンは力なく首を振った。
 ため息をついて顔を上げる。すると、その鼻先を、可愛らしいピンク色の衣装に身を包んだ巨鳥が、ノビノビと飛行していた。
 不思議そうに小首を傾けるイケメン。
 巨鳥はニヤリと笑うと、歌うようにささやきはじめた。
「自分が大事、大事なのは自分だけ~♪ 他人が自分を否定したって関係な~い♪ だって他人は大事では無いのだから~♪ 他人の評価の為に自分を偽るのは間違っている~♪」
 さえずりながらイタヅラっぽく微笑む巨鳥。イケメンは目で追う。
 ええんやで~とでも語りかけてくるような巨鳥の笑顔に元気づけられ、イケメンの瞳は少しずつだが光を取り戻した。
「落ちこむ必要は、ないのかな……?」
 問いかけるイケメンに巨鳥は優しく頷く。
 それを見て嬉しそうに目を輝かせるイケメン。
 巨鳥は自由奔放に空を飛び、歌い続ける。
「もっと自分を好きになっていいのよ~♪ ありのままの自分が一番だから他人の評価なんて関係ない~♪」
「そうか……、彼女が非難したからといって、私が落ちこむ必要なんてないですね」
「一番大事な自分だけを最高に評価したら、それがあなたの評価~♪」
「そうか。それなら私は最高の職人。私の技術力、私の作る飴玉は世界一ぃぃ!!」
「そうよ、あなたは最高なのよ~♪」
「私は最高、私は素晴らしい、そう……、つまり……我は……神なりぃぃぃぃ!!」
 巨鳥の言葉にスッカリのせられ、イケメンは叫び声をあげた。その体はみるみるうちにモフモフの羽根におおわれ、瞬く間にビルシャナと化していく。
 そして、イケメンは満足気に空を見上げると大空へと羽ばたいた――。
「アーイ、キャーン、フラーイ!!」
 しかしゴッツン。窓に頭をぶつけてポトリ。ゴロゴロ……もいちどゴッツン。
 ビルシャナになりたてのイケメンは、部屋の中を転がり回るのであった。

●ええんやで~、イケメン助けて、ええんやで~
「皆様、ついにビルシャナの菩薩達が動き始めました。その名も『菩薩累乗会』。強力な菩薩を次々に地上に出現させ、その力を利用して、更に強大な菩薩を出現させ続け、最終的には地球全てを菩薩の力で制圧しようとしているのです。我々はこの企みを、なんとしても阻止しなければなりません!
 しかし、この作戦を阻止する方法は現時点では判明しておらず、我々に出来ることは出現する菩薩が力を得るのを阻止することのみ。ですので、今回、活動を確認できた『慈愛』を教義とする『慈愛菩薩』配下のエゴシャナと、エゴシャナの甘言によってビルシャナと化してしまった飴細工職人の青年を、まずは止めて頂きます様お願いします。
 この自愛菩薩は、配下のビルシャナである、エゴシャナ達を、なんらかの理由で自己を否定してしてしまっている状態の一般人の元へ派遣し、甘言を弄してビルシャナ化させ、最終的にその力を奪って合一しようとしているようですね。人の弱った心に付け込むなど、なんたる大罪! 許せるものではありません!
 ビルシャナ化させられた青年は、自分を導いたエゴシャナと共に自宅に留まり続け、自分を愛する気持ちを高め続けています。このままだと、充分に高まった力を自愛菩薩に奪われ、新たな菩薩を出現させる糧とされてしまうことでしょう。一刻も早い対処が求められます」
 アモーレ・ラブクラフト(深遠なる愛のヘリオライダー・en0261)は一息つくと、手渡されたお茶を優雅に飲みほし、話を続けた。

「さて、具体的な戦闘の話をはじめましょう。ビルシャナ化したイケメンは、エゴシャナと共に自宅に留まり続け、自分を愛する気持ちを高め続けています。そのため、戦闘場所は被害者であるイケメンの部屋。敵はビルシャナとエゴシャナの2体となります。ビルシャナはキャスターで飴細工を具現化させる技を使い、エゴシャナはディフェンダーで歌による攻撃をするようです。2体とも耐久力が高くキュア持ちです。しっかりと準備をしてから攻撃をすると良いかもしれません」
 話終えたアモーレに、うなづくケルベロスたち。
 アモーレは満足げにケルベロスたちを見回すと力強く宣言をする。

「最後に重要なことなのでよく聞いてください。今回は、ビルシャナ化した青年を助けられる可能性があります! エゴシャナを先に倒し、適切な励ましの言葉などをかけた後に青年を撃破すれば、彼は人としての自分を取り戻すかもしれないのです! 任務の難易度は上がってしまいますが、助けられるかもしれない命です。もしよろしければ、救出のほど、考慮くださいますようお願い申し上げます」
 アモーレは真摯な態度で、深々とお辞儀をしたのだった。


参加者
生明・穣(月草之青・e00256)
望月・巌(昼之月・e00281)
ロイ・リーィング(見兔放犬・e00970)
一式・要(狂咬突破・e01362)
浅川・恭介(ジザニオン・e01367)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
アップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)
ステラ・フラグメント(天の光・e44779)

■リプレイ

 扉を開けた。今回の目的はピンク鳥を倒し、イケシャナの心をほぐして人間に戻すこと。できれば早急に鳥を倒して春樹を救いたい。不意を打てれば……。
 8人の番犬と4匹の相棒は息を殺して居間の中を覗いた。
 ……いない。別の部屋だったか……。そう考えて後ろを向いたその瞬間。
 パタンッ。
 後ろでトイレの扉が開いた。現れる二匹の怪鳥。目が合う。忍び足で歩いていた12の影。なんともシュールな絵面である。
「どなたです!?」
 イケシャナがヒィと声をあげた。ばれちまったらしょうがない! ずずいとラガーマン体系の大男、生明・穣(月草之青・e00256)が前に出る。肩に相棒のウイングキャット『藍華』を乗せ、マスターキーをクルクル回す。
「俺たちはケ――」
「なぜあなたがうちの鍵を!」
 格好良い口上は遮られた。
「それはマスターキィ! ということは大家さんがうちに入ることを許可した……つまり! 不審者ではありませんね。立ち話もなんですから――」
「もてなしちゃダメよおおお!!♪」
 イケシャナの後ろから、大きな歌声が響いた。
 ブワサッ。
 星屑のようなマントを翻し、黒猫を肩に乗せた青年がイケシャナの手を取った。ステラ・フラグメント(天の光・e44779)とウイングキャットの『ノッテ』である。
「今宵は怪鳥に盗まれた、無垢な魂を盗みに参りました」
 絵になるシーンだが、イケシャナはポカンとしている。
「あなたの命を獲りに来たって言ってるのよ~♪」
「ヒィッ!」
 イケシャナはピンク鳥を盾にするように後ずさった。
「そうよ~♪ 自分が一番大事~♪」
 ピンク鳥の瞳が怪しく光り、イケシャナの心を染め上げる。
「喧しいピンク鳥! 毟るぞ!」
 声をあげたのは色白なオラトリオの少年、浅川・恭介(ジザニオン・e01367)。その横では相棒のテレビウム『安田さん』が、ブンブン鉄パイプをフルスイングしている。イケシャナはヒイと声をあげてうずくまる。
 ゆらりと安田さんの影を隠す様に、黒髪の男が前に出た。袖を通さずコートを羽織っている。一式・要(狂咬突破・e01362)。自身の相棒、テレビウム『赤提灯』の頭を撫で、凶器を後ろに隠す様に合図を送った。
「怖がらなくてもいいよ。助けに来たんだからさ」
「え? 私を?」
 トクンッ。イケシャナの胸が弾む。
「騙されちゃダメ~♪ 誰かを助けるために動く人なんて、いないのだから~♪」
 怪しく目が光る。
「いいや、いるね」
 色黒でガッシリした職人体系の男、望月・巌(昼之月・e00281)が進み出た。
「この兄ちゃん、いい奴だって近所のやつらが言ってたぜ。助けてやりてぇんだよ」
 渋みのある顔で、ニッと笑う。
「ホントですか!」
 パァァッ。イケシャナの身体が光り出した。
「そんなの嘘~♪ 他人はあなたを傷つける~♪」
 汗汗と慌てながら、ピンク鳥が暗示をかけなおす。
 今度は、バニー服っぽい服を着た、レプリカントのウサミミ少女、アップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)。
「私も聞きマシタ。みんな、良い人だった、飴は綺麗で美味しくてまた食べたいって言ってマシタ」
「えぇ!?」
 ドッキーンッ!
 またしてもイケシャナの身体を不思議な発光が。
「大切~~~なのは~~~じぶ~~~~んだぁけ~~!!!♪」
 もうピンク鳥は、オペラ歌手のように声を張り上げている。誰もが思っていた。諦めろ! これは人選ミスだ!
 黒縁眼鏡をかけた繊細なウェアライダー、ロイ・リーィング(見兔放犬・e00970)が熱のこもった声をあげた。
「結城さんは、とっても心優しい職人さんなんだよね。絶対助けるよ! その飴細工、俺も欲しいな!」
 パァァァァッ。もはや昇天しそうな顔でイケシャナは光に包まれた。ギリィッ! 怒りに歯噛みする音が響く。
「YEAAAAAH!!」
 遂に吼えたピンクの鳥。
「クソくらえだぜ他人のボイス!♪ 守りたいのは自分のヘルス!♪ 信じろお前の心にキッス!♪ うるさい駄犬を倒せよヴァイス!♪ イェア! チェケラ!」
 ラップだ。ラップを歌いながら、YEAHとイケシャナの顔をビンタしている。まだ諦めない根性だけは凄い。
「開戦だぁぁっ!!♪」
 振り上げられる翼。ふらふらと臨戦態勢を整えるイケシャナ。やはり、ピンクを倒さねば春樹は救えないのだ。
 いの一番に、影が機先を制した。
『君にひとつ、まじないをかけよう』
 漆黒の弾丸が、エグイ角度でピンク鳥にヒットした。同時に弾丸からブラックスライムが跳び出し襲いかかる。
「君が攻撃に移るタイミングも、クールな情報屋は把握済みさ……なんてね」
 銀髪の情報屋、ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)は、涼しげな顔でウインクを決めたのだった。


 要のコートが宙を舞い、戦いが始まる。
 斬撃が飛び交い、銃声が上がり、敵の動きを警戒する声が上がり、光が満ちて、鳥は焦げた。
 また一撃、ピンクの死角を突いて、白銀の影が跳躍する。
「まぁ飴技術をもってしても、僕のイケメンっぷりは再現できないと思いますけど?」
 去り様、イケシャナの耳元で囁く。
 ブオンッ。炎が舞い上がり、瞬く間に職人の手の中でイケメンエルフの胸像が出来上がった。
「やるね!」
 ヴィルフレッドは嬉しそうに目を細める。
 と、職人の手に、ふわっと舞い落ちる一輪の赤い花。
「ラナンキュラス、花言葉は『あなたの魅力に目を奪われる』さ」
 空中を華麗に舞う怪盗が囁いた。流星群のようにピンクを蹴り飛ばしながら、黒猫と共に戦場を優雅に駆けている。
 ブオンッ。またも炎が舞い上がり、瞬く間に職人の手の中で、星形の花が出来上がった。
「それは……アイフェイオンか」
「花言葉は『星への願い』」
「やるじゃないか」
 フッと微笑む。
「戦ってぇぇぇ!!!♪」
 ピンクの絶叫が戦場を震わした。だがピンクよ。これこそ極度の自己愛を説いた成果では。
 華麗に舞う情報屋と怪盗に触発され、ウサミミ少女が俊敏に壁や天井を蹴りつけ、戦場を芸術的な彩で染めあげた。
 ドゴーンッ!
 瞬間、アップルが足場にしようとしていた天井が撃ち抜かれた。
 犯人は、もちろん鳥……ではない。第三の刺客。残念なイケメンは身内にもいた。犯人は、水流を纏った拳法で鳥を追い詰めていた男。要である。
「あっ……ごめ……」
「平気デースヨ」
 さすが身軽。アップルは気にも留めず、気持ちよさそうに天空を駆ける。
「美しい」
 イケシャナは天空を見やる。
「いいえ、真に美しいのは安田さんです!」
 恭介が挑戦するような眼差しで、イケシャナを見つめた。
 ヒュババッ!
 またも一瞬で安田さんの飴細工が出来上がる。
「ありがとうございます!」
 恭介と安田さんはホクホク笑顔。
 横からピンクの羽が降ってきた。綺麗な羽が降りかかり、まるで安田さんに翼が生えたよう。
「飴に羽毛が混じるんじゃぁ!!」
 ピンクを睨み、恭介の手からオウガ粒子が舞い踊る。
 たまったものじゃないのはピンク鳥。虫の息なのに、自己愛に染まった相棒は遊んでいる。とはいえ、一分に一回程度は戦いに参加しているので、サボっている訳ではないが。
「か……回復……」
 もう歌うどころではなかった。
 また職人の手の中に炎が生まれ、その中から笑顔を浮かべた少女の飴細工が姿を現す。回復するピンク。
「あの笑顔……少し曇っている気がする」
 強烈な斬撃を叩き込みながら、目聡く呟いたのはロイだった。
「私もそう思いますね」
 入れ替わり、重い一撃を浴びせ、穣も飴細工を見つめた。スッと目線が、隣で戦うバディへと移る。
 巌は薄く笑った。そのまま鳥の懐へ、滑り込む。
『腹を空かせているのなら、これを喰らいな。鉛弾をお前の胃袋に直接ご馳走してやるぜ!』
 零距離からの激烈な銃撃に、鳥は宙を舞い、
『この愛を、貴方に刻み付ける!! 幻兎変身、ブレイズモード!』
 アップルの愛の力が、加速度を付けて天空からピンクを砕いた。
 哀れ鳥は消滅した。


 イケシャナの目つきが変わった。哀しそうに目を伏せる。
 エゴシャナを倒したことにより影響が薄まったのだ。人の心を取り戻すなら今しかない。
「少し、話をしないか?」
 穣が優しく声をかけた。
「……」
 沈黙は肯定。怪盗が前に出る。
「自分の腕で人に笑顔を与えられるってのは凄い仕事だな。俺もそんな怪盗でありたいよ」
 二人の目が重なる。花を贈り合った二人。互いのことは認めている。
「素敵なお宝ならもっと色んな人に認めてもらいたい。もっと色んな人に喜んで貰いたい。俺だってそう思うよ! それは当たり前の気持ちさ!」
 だから一人でいたいなんて言うなよ。ステラは優しく微笑んだ。
 怪盗に続いて情報屋。
「その通りだよ。自分で自分を評価する、大事な事だ。でもいいのかい、他人の反応が無いと世界一と認められないし、何よりとってもつまらない物だよ? ほら、できた物は見せびらかしたいじゃん!」
 イタヅラに片目を瞑って、クスッと笑う。
「頑張って作って一番凝った部分を評価されたり驚かれればドヤってまた凄いの作りたいと思うじゃないか。飴細工で攻撃技出せてしまうくらい凄い職人なんだ。傷つくこともあるだろうけどその凄い飴細工を僕にもっと見せてよ!」
 さぁ、とばかりに差し出された手を、春樹はまだ握らない。だが、想いは通じている。その顔で分かる。
 アップル。
「貴方は誰のために飴を作るのデスカ? 貴方が先程作った子供の笑顔、それが答えなのではないデスカ? 綺麗と言っていた少女の言葉を思い出してくだサイ! あなたに飴を貰ったことがある子たちは、みんなお兄さん良い人だった。飴は綺麗で美味しくて、また食べたいって満面の笑顔で言ってましたよ。自分を愛する心は必要デス。でも誰かを愛する心を忘れてはいけマセン」
 噛みしめるように、春樹の顔に涙が浮かんだ。
 巌。
「俺も武装を扱う工房で物作りと修理をしてるんで、お前さんの気持ちも理解出来るぜ。自分の作った物を悪く言われたら、悲しいよな? でもよう、反対の事も言えるんだぜ。自分で作った物を人から褒めて貰えたら、嬉しいだろう? お前さんは、その喜びを知っていた筈だ。思い出してみろよ、初めてお客さんに喜んで貰えた時の事を。だから今日まで、職人続けて来られたんじゃねえのかい?」
 その脳裏には、子供たちの笑顔が浮かんでいるのだろう。あぁ、と春樹の脚が折れた。
 穣が続く。
「自己満足に浸ればそこで終わり最高は遠退いて行くもの。君は常に研鑽し美しい飴細工を喜ぶ人々の顔を無上の喜びと感じて居た筈。一度の挫折でそれを捨て去るつもりかい? 私は見たいんです。嘆息するまでに美しい飴細工を。儚い飴の中に宿る輝きを」
 春樹は自分の飴を見つめた。最高の飴細工。そのはずがどうだろう。少女の笑顔は曇ってしまっているではないか。
 要。
「殻に篭もれば感性は死んでいく。いくら出来が良くても飴細工の笑顔はどんどん曇る。そんなの望むところじゃないでしょう。まぁ、笑顔の飴細工を作る時点であなたの居場所はまだこっち側。トリさんの人選ミスだ。分かってるんでしょ? それに、また誤解されたら……ちゃんと説明すれば大丈夫じゃないかな。実際親御さんの誤解は解けたんだし、それもあなたの――」
「誤解は解けたんですか!?」
 春樹の顔がグワと上がった。
 面食らったように、要はええと頷く。話の流れを伺っていたロイが、優しく頷いた。
「あの後、女の子のお母さんは誤解に気づいて、あなたを追いかけたようですよ」
「そうだったんですか……」
 ヘタリと春樹は手を付いた。
「誤解された時は逃げずにちゃんと話合って。結城さんの飴を貰って喜んでた女の子を思い出して。きっとその笑顔が、貴方の努力を、成果を認めて評価してくれるよ!」
「私は……私は……」
 その顔から、迷いが晴れていった。
 最後に恭介。
「牙とか爪とか鳥さんとかすごいカッコいいあめですね~。でも僕は口の中を怪我しちゃうようなあめより、うちの安田さんの可愛さと凛々しさと鷹揚さがひしと伝わるエクストリームなあめをリクエストします!」
 春樹は、フフッと笑みを空へと向け、光を仰いだ。
 どこかで残念なイケメンが、なにか呟いていた。
「引きこもりに青い空はいい薬だ。実は計算ずくだったのさ」


 イケシャナとの戦闘は苦も無く終わった。ヒールも終わり春樹が目覚めるのを待つ。
「う、う~ん」
 起きた春樹をキラッキラの眩しい笑顔がお出迎えした。膝枕してくれた穣と、優しく頭を撫でてくれていた巌。なんという耽美フィールド。
 春樹は跳ね起きると、8人の顔を交互に見つめ、ゆっくりと三つ指を付いた。
 頭を下げて口を開くが、なにも言葉が出てこない。言葉を探しているようだが、なにからどう伝えればいいのか、想いが溢れて言葉にならないよう。
「職人さんの飴、食べたかったデスネー」
 アップルがクスクスっと笑った。
「あ、俺も!」
 ロイが、グワッと反応。実は飴が気になって仕方なかったのだ。
「で、では! お礼に皆さんのために飴細工を作らせてください!」
 番犬達は見つめ合い、
 ニカッ。笑顔で応えた。

 ロイは春樹の飴細工コレクションを手に取り手に取り、感嘆の息を漏らしている。その手の中には、春樹が作った、白い狼を肩に乗せニヤリと笑うロイの飴。
 要の手にも素敵な飴が。赤提灯とコタツで溶ける要。良い土産が手に入ったと微笑む要の手から、赤提灯がカプリと飴を咥えて逃げ去った。
 ヴィルフレッドの飴は、ブラックスライムくんとじゃれ合う情報屋。すげーすげーと目をキラキラ輝かせながら、甘~い飴をコロコロ転がしゴートゥーヘブン。
 アップルの飴は、豪兎槌をビシッとかまえたウサミミ少女。芸術的に作られた自分の飴を舐めながら、『美味しいデスネ~』ととろけている。
 恭介は、フル武装した最終兵器安田さんの飴細工を眺めてホックホク。笑顔で春樹にお礼を言い、安田さんと床にゴローン。見つめている。
 ステラの飴は、星型の花を胸に挿し、愛猫を抱く怪盗の飴。『今宵も価値有る宝物を、確かに戴いたぜ』。ノッテのあごを撫でながら満足そうにごちている。
 巌は穣と一緒に飴細工の見学をしながら、『分野が違うと、面白ぇな』とご機嫌。その手には、藍華を中心に肩を組みあう巌と穣の飴が握られていた。
 穣の手にも色違いの同じ飴。穣は春樹の今後に対して、支援を惜しまない事を伝えて微笑んだ。
「ともあれ、先ずはあのお嬢さんとお母さまに、貴男の素晴らしい技を披露しましょう。貴男はその技で世界に笑顔を広めねばね」
「はい!」
 春樹の顔に笑顔が灯った。その手の中では、少女を模った飴が、幸せそうに、幸せそうに、笑顔で番犬達を見つめていた。

 仲間の笑い声が響く中、春樹はしっかり、その足を前へと踏みだしたのであった。

作者:ハッピーエンド 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 4/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。