ミモザのうた

作者:ふじもりみきや

 部屋には封も切られていないダンボールがあふれていた。
 ひと目で駆り立てとわかる、殺風景な部屋だった。
「どうしよう……」
 部屋の真ん中で、ぽつんと少女は立ち尽くす。
「こんなんじゃ、入学式までにかわいい部屋なんてできっこない。無理だよ、あたし。そんなのぜんぜん、わかんないもん。誰か……」
 少女の名をマキという。今年の4月に、大学生になる。都会の大学に入るに当たり、実家を出て一人暮らしをはじめることとなった。最初は、今までの田舎くさい自分から脱却して、可愛い女子大学生になるつもりで。部屋だけ借りてもらって両親の手伝いも断った。でも。
「このままじゃ学校が始まっちゃう。誰か、誰でもいいから、あたしを可愛いあたしにしてよぉ。かわいいお部屋の、可愛い女の子に、してよ……っ」
 泣きそうになりながら、彼女は一人つぶやいた。
 それを聞いていた人間なら、思わず成る程、と言ったかもしれない。
 ぼさぼさの長い髪に、体操服のような部屋着。ぽっちゃり気味の体型。引越しの荷物は本とノートばかりで、洋服類は似たようなものの色違いばかりである。
 可愛い部屋、というのも難しい。家具はなければ、天井には電気も付いていない、カーテンもない。そんな本当に何も無い……と言うより、どこから手をつけたら良いのかわからない、というような部屋だった。
 イメージはある。彼女はミモザが好きだった。だから窓の外からその気が見える部屋を借りたし、そういう部屋、そういう自分にしたいと思っていた。でもできなかった。
 ……と、そんな風に一人泣いているマキの前に。
 ひとつの幻影が現れた。
 え、と、言うまもなく幻影の、大願天女はマキへと微笑みかける。すると彼女の姿が、見る見るビルシャナに変わっていった。
「……そう、うん、そうよね。あたしには、うまくできないから、だったら、できる人を殺して、その部屋をもらっちゃえばいいんだよね。それで、その人の服を着れば、きっとあたしも、可愛くなれる。……簡単だよ! それなら、あたしにもできる!」
 嬉しそうに計画を語るマキ。幻影は微笑むだけで何も言わず、ただ窓の向こう側でミモザが風に揺れていた。


「新生活迎える子の心につけこむビルシャナなんて、ちょっとどーかと思うわ。まあ、ビルシャナなんてどれもちょっとどうかと思うんだけど」
 そう言って、彩瑠・天音(スイッチ・e13039)はからりと笑った。浅櫻・月子(朧月夜のヘリオライダー・en0036)は肩を竦める。
「まあ、連中が面白おかしく趣味が悪いのはいつものことだな。……とはいえ」
 そういって、月子はひとつ呼吸をおいて。
「ビルシャナ菩薩『大願天女』の影響により、人間がビルシャナと化してしまう事件が起こっている」
「それって、あれね。自分のお願い、叶えるためにビルシャナの力でほかの人を襲おうっとするっていう」
「あぁ。特徴として、事件を起こす前に撃破できるということと、その人間を説得し、計画を諦めさせれば、ビルシャナ化した人間も救うことができる、ということだ」
「まあ……。でしたら、なるべく助けてあげたいですね」
 話しを聞いていたアンジェリカ・アンセム(オラトリオのパラディオン・en0268)もこくり、と頷くと、天音は片目を瞑って、
「そういうこと。努力目標ってやつね」
「戦闘能力としてはそれほど強くないからな。場所はその少女、マキの自宅だが、戦闘に支障はないし、逃走することもない」
「戦うだけなら、そう難しい相手でもないのね?」
「そういうこと。話が早くて大変よろしい」
 天音が片手を上げて発言すると、先生のごとく重々しい口調で月子が認める。二人でやるとなんだか先生と生徒……のふりをしているだけにしか見えない。いや、実際ふりをしているだけなのだけれど。
「後、逃走する心配もないから、そこも気にしなくていい」
「んー。となると、大事なのは説得よね。……そのマキちゃんを、可愛い部屋に住む可愛い女の子にしてあげればいいのよね?」
「あぁ。ちなみに彼女はSNS上の知り合いがいて、たまたまその知り合いも同じ大学に行くことを知ったのだが、その子には自分のことを……」
 言って、彼女は調書に一度目を落とす。それから妙に難しい顔で、
「つまり、明るくて可愛くてゆるふわでミモザのような女子だと自称していたらしい。そういう方向性が良いんだろう。最近の若者言葉は難解だな」
「まあ……」
 言って、アンジェリカは両手を組む。しばらく祈るように考え込み、
「………………ごめんなさい。その、私も、自分の部屋や、着るものを飾るのは、不得手なようでして」
「だ、大丈夫よ! そーゆーの、アタシ、得意だから! とにかく、彼女のお願いをかなえてあげて、ビルシャナの力なんて必要ない! って、教えてあげればいいのよ。皆でお買い物に行きましょう!」
 若干落ち込んだアンジェリカに、天音は明るくその肩を叩く。それから一度頷いて、
「困っている女の子のためにも、がんばりましょ! 難しく考えることなんてないわ。楽しくいきましょ♪」
 そういって話を締めくくった。


参加者
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)
和泉・紫睡(紫水晶の棘・e01413)
ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)
天城・ヤコ(桃色ファンタジー・e01649)
シィラ・シェルヴィー(白銀令嬢・e03490)
コマキ・シュヴァルツデーン(謳う銀環・e09233)
彩瑠・天音(スイッチ・e13039)
天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)

■リプレイ

 玄関のチャイムが鳴った。マキは怪訝そうに首を傾げ……そして無用心にも確認することなく扉を開ける。そして……、
「出張ケルベロスのコーディネートサービスです! 大学デビューで時間が無いとお困りとあらば参上です」
 びしっとポーズを決める和泉・紫睡(紫水晶の棘・e01413)に目を丸くした。
「オシャレを怖いと思っているそこのあなた! 大丈夫、今からでも充分間に合うよ……てか、方向性も決まってるなら瞬殺だよ。こんなところで人間やめてビルシャナになるなんて勿体ないよ!」
 びしびし! 天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)の突撃説得。
「瞬殺……?」
「そうだよ! もうすっごいんだから!」
 に、びっくりするマキに、蛍はうんうん、と頷く。何を殺すのかはともかく、その気迫は伝わったので、
「お洒落したい、って気持ち、それさえあれば、かわいくなれます。その大学デビュー、わたしたちがお手伝いします!」
 天城・ヤコ(桃色ファンタジー・e01649)もすかさず声をかける。それから真剣なまなざしで、
「ですので、上がっても良いでしょうか?」
「あ。はい」
 思わず反射的にマキは中へと彼らを招いた。
「ああ……。私も、大学進学で山を出る時は色々あったわねえ」
 部屋にお邪魔したコマキ・シュヴァルツデーン(謳う銀環・e09233)が、ダンボールの山に思わず感慨深そうな声を上げる。
「あなたも?」
「そうよー。だーいじょうぶよ、私もずっと田舎の山の中にいて、大学から都会に出たけど卒業までなんとかやれたもの! マキちゃんなら大丈夫!」
「でも、あなたみたいにきれいじゃないから……」
「大丈夫、貴女は絶対可愛く成れます。だってそう成りたいと願う気持ちが、既に愛らしいもの」
 俯くマキに、シィラ・シェルヴィー(白銀令嬢・e03490)がはっきり言い切る。
「人の可愛さを奪っても……自分に合わなければ、可愛くならないの。そして誰かを殺したらまったく可愛くなくなるよ」
 エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)が飛び切りの笑顔を向ける。
「そういう……ものかな」
「そうですよ。幾ら時間が無いからと言って他の人の部屋と服をそのまま貰ってしまっては、まさに「服に着られてる」ってやつだと思うんです。部屋も、自分が良いと思って自分で揃えた物で無いと、その人の気配がちらついて違和感が凄いですからね」
 紫睡が私も実は着るものを選ぶのは得意じゃないのです、なんて困り顔で付け足すと、
「……私、マキさんの気持ち、わかります。似合うか。サイズは入るか。そんなことばかり考えて、結局、何も選べないこと……あります」
 アンジェリカ・アンセム(オラトリオのパラディオン・en0268)の声が割と実感がこもっている。
「あー。私もどういう格好がオシャレとか友達受けするとか感覚で分からないから、気持ちは少しは分かるよ。だけど、ファッションはある程度は理論と情報でなんとかなるっていうし大丈夫だよ」
 蛍もなんとなく思い当たる節がある。多分苦手意識があるのだろう。うん、と共感するように言うと、
「ああ。君が憧れる可愛い……っつーのは既に君の頭の中にあるんだろ? それなら、別にヒトから奪う必要はないんじゃねェかな」
 ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)が言葉を付け足す。実に爽やかな様子であった。が、マキはそうかしら。と、思わず彼の顔を見て、
「……」
「……え、何、この間」
「ダレンさん、その……。どうせ男性にお誘いされるなら、もっとロマンティックにお誘いされたいものですわ」
「え、何その流れ!?」
 何故かアンジェリカに駄目だしされるダレン。ちなみに彼はこの世のすべての女性を愛しているといっても差し支えない身の上ではあるが、ちゃんと婚約者がいるのである。
「もし、意中の方がいらっしゃるのなら、その方に言うようにお願いします」
「ええ? そうだな、なら……いやいや、その言い方は変態だな!?」
 どんな誘い方をしたのかはダレンの心のうちである。一人であれこれ考える姿に、彩瑠・天音(スイッチ・e13039)は思わず笑った。
「もう、わがままさんたちね。でも、女の子はそうでなきゃ! お部屋も服もイメージにあった誰かの完成形を奪うのは確かに簡単。でもそれじゃつまらないわ。自分で作る方が、絶対贅沢で楽しいんだから。ね?」
 天音が目をやると、シィラが一歩踏み出す。
「マキさんはもう可愛い女の子への第一歩を踏み出してるのです。後は少しの勇気と工夫だけ……。わたし達に理想を叶えるお手伝い、させて頂けませんか」
「お手伝い……。あたしを、手伝ってくれるの?」
「そうよ? 全部を一人でって思う必要はないわ。一人で無理なら誰かと、よ。皆を巻き込んで、一緒に楽んじゃいましょう?」
「自分に合う可愛くする方法を探しましょう? 私たちも手伝いするからね」
 エルスも優しく言って手を差し出す。ヤコは神妙に頷いて、
「他人を殺してそのお洒落を貰っても、マキさんに似合うとは限らないと思うのですよ。それより、マキさんの、マキさんだからこそのお洒落を探した方が、絶対似合いますし楽しいと思うのですよ。それに……」
「それに?」
「そもそも、鳥の格好でできるお洒落って、限られちゃうんじゃあないでしょおかね?」
「そうだね!」
 それはものすごい破壊力を持った決定打だった。
「す、清々しいまでに断言したな……。まあ、さ。自分一人じゃスタートを切るのは難しいかもしれねーケド、マキチャン、今日の君は実に運が良いぜ。なにせ、今ここにお洒落やら可愛いやらの達人が勢揃いだからな。一緒に可愛いは作れる! を実践するとしましょうや?」
「はい。ここにはオシャレに明るい人が集まってるんです! その、私は服装に関しては余り教えられる事は少ないかもですが、一緒に色々と見て良いものを見つけましょう。自分の部屋くらい自分のしたい様にして良いんですよ」
 後押しするようなダレンと紫睡の言葉に、マキも頷いた。
「あたし、うまくできるかどうかわからないけれど……。とにかく、やってみる。デパートとか、行って選ぶのとか、怖いけど……。でも、一緒ならできる気がする!」
 そしてマキがそういったそのとき、彼女の体が光に包まれた。
 光はビルシャナとなった彼女の体を貫く。蛍はガトリングガンを構えた。
 彼女は知っている。この光は戦闘開始の合図だが、これでビルシャナは大きなダメージを受けるのだ。
「オッケイ、大願天女。またその計画潰させてもらうよ。……整備は万全! いつでもいけるよ!」
「はーい、悪い鳥退治ね。今日はすっごく暴れちゃいたい気分!」
 コマキが乗じて腰に下げていた小さい斧を元のサイズへと戻す。冬の星のような青みを帯びた銀の長柄斧は星のような軌跡を描きながらも、割と洒落にならない全力でビルシャナへと叩きつけられた。美しい歌声とともに。


「なかなかの強敵だったわね……。アタシたちが」
 割といい感じに粉砕されたビルシャナに、天音は合掌した。そして爽やかな笑顔で振り返る。
「それじゃ、お待ちかねの時間ね」
「え、いきなりでかけるの、難易度高くない?」
「ふふーん、本業は美容師だからねヘアメイクもお化粧もお任せあれ♪」
「じゃ、その間に私は部屋の整理をするよ。簡単な家具なら作っちゃうのもありかなぁ……」
「ごめんね、じゃあ寸法測定もお願いね~」
「お、じゃあ高いところと重いものは任せな」
 蛍がメモを片手に立ち上がると、手がふさがっていた天音が声をかける。ならばとダレンがメジャーを手に続いた。
「少し荷物を空けさせていただきますね。お洋服のコーディネートを考えましょう」
 シィラも行動を開始する。今ある中でも可愛い服を選ぶためだ。
「こちらの箱は開けても大丈夫ですかね? 大丈夫、何人かですればすぐなのですよ。焦らなくても、ちゃんと入学式に間に合います」
 頼りになる感でヤコが荷物の詳細を聞いて開封していく。
「ええと……、お手伝いいたしますね」
 慣れない様子でアンジェリカもヤコのまねをして、
「ふふ……大丈夫。この乙女心ヒールで、ベッドは可愛く生まれ変わるのよ!」
 一方コマキが星菫乙女斬りの影響で真っ二つにしたベッドを修復していた。
「折角、ミモザの木が見える自分だけの部屋を選んだのです。この雰囲気を生かせるようにしたいですね……」
 紫睡が窓を見て考える。
「カーテンと壁紙は、淡い色で明るいのがいいね。そうですね、ミモザの色や柄はどうかしら?」
 その様子に、エルスも会話に混ざる。この様子だと早めに良いように決まりそうだ。


 そして。
「でもアタシも、やっぱりお仕事だからいいもの仕入れてるけど、やっぱり違うのよね。お肌は一生ものだから、こういうのはなによりも大事にすべきだとも思うわ」
「そうですね……。わたしもナチュラル系のメイクは不得手ですから、お勧めのメーカーがあれば……」
「あら、そうね。じゃあここは私がいいお店を紹介しちゃう!」
 シィラの言葉にコマキが手を挙げた。薬草使いの魔女的にこういうのは得意なのだ。
「お化粧の成分とか、気になっちゃうほうだから。このお店いいのよー」
「あら、ほんと。それに安いわね?」
 天音のびっくりしたような声に、コマキは得意げに腰に手を当てる。
「自然派スキンケアとかいいわよ! このローズヒップオイルとかどうかしら? お肌の潤いも守ってくれるし、美白にも役立つのよー。興味ないとか、言ってちゃだめ。将来のための投資でもあるんだから」
「なんだか並々ならぬオーラを感じます……!」
 押される様に紫睡も棚を眺める。
「マキさんも、一緒に見ませんか? 私も自分のものを見ますから」
 ヤコが示す。ミュージシャンとして普通の人以上に努力もしているところもあるだろう。
「ううん……」
「どうした? お嬢ちゃんにはちょっと早いか?」
 エルスの難しい顔に気が付いて、ダレンが声をかけると、小さく彼女は頷いた。さすがに13歳に化粧は早かろう。
「あと、いい香りの精油も、お風呂に垂らすと心の疲れも取ってくれるしお肌にもいいのよー」
 コマキの台詞にアンジェリカが目を輝かせる。
「お風呂に入れるのですか?」
「そうよー。入りに来る?」
「うぅ……。気になります」
「そうだよね。疲れてるときにあったかいいいお風呂に入るの、絶対いいと思う! 私も一仕事した後のお風呂はサイコー! だし」
 ぐ、と蛍がこぶしを握り締め……気が付いた。
「シィラ……?」
「あ! いえ。少しばかりその……気になっただけで!」
 ロリータファッション系を眺めて思わず両親を思い出してしみじみしてしまったシィラは、思わず両手を振るのであった。
「ゆるふわイメージならコテも選びましょ。後で練習しましょうね」
「そうですね。お手入れ品とかプチプラなお店で済むものはそれを……」
 ヤコも頷く。その言葉を横で聞いて思わずダレンが、
「ゆるふわ……そうだな。可愛いと思う」
 だが思わず思い浮かべるのは、
「……顔が緩んでます、の」
「……変態ですね」
「誤解だ……!」
 エルスとアンジェリカにいじられていたりした。


「ミモザのような、女子……? よくわからないね……。けど」
 こんなのかとエルスが持ってきたのはばさーっとした巨大な木っぽい服で、
「そうそう、きっとこういうかんじですね!」
 紫睡が得意満面で前衛的で宝石っぽい黄色い服を持ってきた。
「多分それ、どっちも違うと思う!」
「!」
 蛍も言い切るが自分もそこまで得意ではないので、マキの隣で一緒に勉強してみようか、というスタンスである。
「あら、私は結構、いいと思うわよ。アンジェリカちゃんも……」
 一方コマキはマイペースな感想を述べ、アンジェリカを見て首を傾げた。
「慣れてない……だけですから。慣れてないだけですから」
「ええそうね。私も祖母が厳しかったから、わかるわ」
 しっかりフォローした。ヤコもあれこれ、服を持ちながら、
「アンジェリカさんも春色コーデ、したいですねえ。私も、歌うときの服も良いけれどたまには普通のお洋服も良いでしょうか」
「その気持ちは、わたしも解ります。育ての親の趣味から、いわゆるロリィタファッション……を、嗜んでいたので。……けれど」
 コマキの言葉にシィラもひとつ頷いた。そして差し出してくれたのは花柄のフレアスカートに白いハイネックブラウス。
「ナチュラル系も、気になっていました。こうしていると、とてもためになります。……一着纏ってみたのですけれど、いかがですか?」
「シィラさん……。このご恩は一生忘れません」
 照れつつ、感激するアンジェリカ。それから、
「あ、でも……一人だと、恥ずかしいので。よろしければ皆さんも……」
 春色・ゆるふわ・普通系。
 いつもはファンタジー色強めな皆様を、素敵な普通人風に衣装チェンジ。
「ふ……っ。なんだそれ目の保養だな……」
 可愛い系妹(エルス)にちょっと気弱なお姉さん(紫睡)、優しい可愛いちょびっとロリータ風味なお姉さん(シィラ)、天真爛漫なお姉さん(コマキ)に、転校生アイドル系(ヤコ)と明るい幼馴染系(蛍)、そして文学系(アンジェリカ&マキ)同級生。極めに素敵なおネエさん(天音)。これはいける。
「なんだそれは……天国だな。……おっと、変態じゃないぜ。純粋に愛でているだけだ」
「うーん。それはそれでいいのかしら?」
 天音が笑って両手を広げた。
「とにかく、折角だもの、いろいろ着てみましょうか。わからない子は皆で相談して、もうすっごく可愛く変身しちゃいましょう!」
「おおー! ……おおー?」
 そんな風に買い物はしばらく続いた。


「カーテンなら高身長のお兄さんに任せ給え! ってェー、オネェさんの方が背ェ高いンすケドー」
「大丈夫です、頼りにしておりますのでこのカーテンを……!」
「ん、了解。重いものは後でまかせな!」
 紫睡の買ってきたカーテンをダレンがつけていく。窓のミモザが生えるような色合いで、
「うわ、きれい……」
「そうでしょうとも。ここに300円ショップで買ってきたアイテムで……」
「ええと、ここに入ってたはずだけれど……」
 蛍は工具類を広げている。買ってきた棚に少し工夫をして。見てきた高級家具を再現する所存である。
「私の部屋、機械と工具ばっかりだ。帰ったら私も模様替えしようかな。……って、危ないよ」
「まあ。……でも私も、やってみたいのです」
「んー、じゃあ一緒にする?」
 蛍の言葉にアンジェリカは嬉しそうに頷いた。
「コテは……こんな感じで、ほら」
「んん……。面倒くさい……」
「大丈夫大丈夫、慣れたら面倒じゃなくなるわよ。……ね、シィラちゃん、マキちゃん、こっちなんだけど……」
「ええ、それならこちらのほうが良いのではないかしら。それでは私も、これを期にお聞きしたいことが……」
「なんだか二人の会話がハイスペックです」
「え、そうなの!?」
 コマキが部屋の片づけをしながら瞬きをした。
「大丈夫、簡単にポイントをメモしたから、これを見て参考にしてください!」
「おぉ、ありがとうございます……!」
 はい、とヤコが可愛いメモ帳を差し出す。細やかな気配りを忘れない彼女らしさだ。
「そのメモの内容、ちょっと気になっちゃう。あとでこっそり、教えてね……あら?」
「ここにさきの毛布を敷こうか? ……あ、わ」
 大きな毛布を引こうとして、少し手間取るエルスに、コマキがさっと立ち上がる。
「ちょっと待ってね」
「はっ。そういうことは頼ってくれれば……!」
「ああ、ダレンさん、そこで動くと危ないですー!」
 にぎやかな模様替えは、もうしばらく続いた。

「今日は、ありがとうございました」
 夕暮れ時に片付けは終わった。可愛らしくも春らしい部屋と少女は、少しなれないようにはにかみながら頭を下げる。
「すごいな。なんかすごい女の子の部屋で……それに可愛い」
「本当、とっても素敵です」
 ダレンとシィラが正直に褒めると、マキは少し顔を赤くして嬉しそうな顔をした。その顔をひょい、とエルスが覗き込む。
「自分で頑張って整理して、飾った部屋は、どうかしら?」
 笑顔とともに言われた言葉に、照れますね。なんてマキは笑った。
「困ったときはいつでも呼んでくださいね」
「そうそう。何か壊れた時だってね駆けつけるから」
「だったらわたしも、あなたが歌を聴きたいときには駆けつけます」
 ヤコと蛍がそういいあって。顔を見合わせて思わず笑うので、コマキも微笑んだ。
「もちろん、困ってなくても何でも言ってね。またお買い物に行きましょう?」
 はい。と頷くマキ。
「私たちが付いてますから。少しでも力になれたら嬉しいです」
「そうよ。一人で何でも抱え込んじゃだめよ」
 紫睡が頼りないですけれどと笑うと、任せなさい。なんて天音は笑顔を向けた。それでマキは深々と頭を下げる。
「ありがとう……。私、がんばってみます」
 どこかその声は、泣いているように聞こえた。

 そして夕食を一緒に頂き家を辞す。ふと、天音は振り返る。いつまでもこちらに向かって手を振り見送る少女に、
「がんばってね……」
 小さく声をかけた。だって、彼女にとっての新生活はこれからなのだ。新生活の不安も、孤独も……。
 どうかその先に幸福を。そんな思いを見守るように、ミモザが風に揺れていた。

作者:ふじもりみきや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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