菩薩累乗会~その自己愛は菩薩の為に

作者:白石小梅

●自愛の菩薩
 その夜、大都会東京。
 高層マンションの一室で、16、7歳ほどの青年がため息を落としている。
「ありのままのボクを……みんな否定する。なにさ、オトコが化粧したって、可愛い服着たっていいじゃん……!」
 彼は幼いころから、化粧、髪型、脱毛、衣装などに気を配り続け『可愛く綺麗』であらんとする努力と鍛錬を欠かさなかった。
「何がオカマ野郎だよ。ボクは可愛く綺麗でありたいんであって、女の子になりたいワケじゃないってのに……ボクの生き方って、間違ってるのかな……」
 スキニーのジーンズにピンクのパーカー。ネイルは薄い紫色……その姿は、着飾った年頃の女子にも劣らない。
 だが彼は、学校では浮いてしまうことが多かった。今日は、クラスの男子から嘲笑を受け、自信喪失気味になって部屋に閉じこもっていたわけだ。
 ため息と共に彼が向き直った時。
『他人の意見なんかに惑わされないで! 自分が一番大事、大事なのは自分だけよ!』
 突如として、それは現れた。
「……!?」
 それは、愛くるしい姿をした桃色の鳥。
『他人が自分を否定したって関係ない。他者の評価の為に自分を偽るなんて間違ってる! もっと、自分を好きになって……』
 だが青年は、驚愕の声を上げることもなくその言葉に瞳を泳がせ始める。
『そう……ありのままの自分が一番なの。一番大事な自分が、自分を評価したなら、それがあなたの評価……つまり、あなたは、最高なのよ』
「そ、そう、だね。ボクは綺麗で、ボクは可愛いから、ボクは最高で……」
 ふらつきながらその言葉を肯定すると、青年は稲妻の如き輝きを放って……。
『ボクだけが、大好き……!』
 現れるのは、愛らしいメジロのような姿に変貌した青年。
『おめでとう! さあ、これから私と一緒に、自分を愛する気持ちを高めて、自愛菩薩さまに近づきましょう! あの方の一部となれるように、自分を愛し続けるの!』
『うん……ボクはもうボク以外……この世界に、必要ない……』
 薄ら笑う二羽のビルシャナは、経文のように自己愛を囀り始める。
 ひな鳥が、巨大な親鳥を呼ぶように。
 遥か夜の、彼方へ向けて……。

●菩薩累乗会
「緊急事態です。ビルシャナ菩薩たちが大規模行動に入ったことを予知しました」
 望月・小夜は、言いながら面々に資料を配る。
「作戦名は『菩薩累乗会』。特定の菩薩の影響下にある配下を量産し、その配下を菩薩が吸収・一体化する事で菩薩力を上昇……その菩薩力をもって、更に強力な菩薩を地上に出現させるサイクルを繰り返すという作戦です」
 最初の菩薩は更に二体の菩薩を呼び、二体の菩薩は四体の、四体の菩薩は……と、鼠算式に菩薩を顕現させていくのだという。
「完全発動すれば、阻止することはもはや不可能。得た力は全て召喚に使い、グラビティ・チェインの確保さえ無視するという徹底ぶり……伝染する狂信、とでも言うべき、恐るべき作戦です」
 菩薩累乗会を根本的に停止させる方法は現段階では不明。初期段階で確実に鎮圧して回るしかないという。
「活動を開始したのは『自愛菩薩』。自分が最も大事で、自分以外は必要ないという『自愛』が教義です。奴は配下である『エゴシャナ』達を、自己を否定してしてしまっている一般人の居場所へ派遣し、甘言を弄してビルシャナ化させ始めました」
 そして小夜は、一枚の写真を差し出す。写っているのは、一見すると女の子にも見える茶髪の愛らしい青年。
「タカヤさんと言います。彼は自己表現として『可愛さ』や『綺麗さ』を追求していた男性なのですが、他者にその価値観を否定されて自信を失っていました。そこをエゴシャナに付け込まれビルシャナ化。自宅に留まり、自己愛を高め続けます」
 力が十分に高まると、彼は自愛菩薩に吸収され新たな菩薩を出現させる糧とされてしまうという。
「今回の任務は菩薩累乗会の阻止。そして出来るならば……被害者の救出です」

 資料には、薄桃色のものとメジロに似たビルシャナの二体が描かれている。
 彼らは積極的な侵略は全く行わないが『自分のいる場所も自分の一部』と考えるため、侵入者は激しく排除に掛かるという。
「桃色がエゴシャナ。メジロがタカヤさんの転じた個体です。仮に、目白童子と名付けておきましょう。エゴシャナは歌や舞いで、目白童子は曼荼羅のような後光を放って攻撃してきます」
 ただしエゴシャナは自己愛が強く、己の危機には逃げようとする。更に自愛菩薩に力を捧げるのが目的のため、目白童子を先に倒せば作戦失敗と判断し逃げ出すという。
「ですが目白童子を先に撃破しては、タカヤさんは救出できません。彼を救うには、先にエゴシャナを撃破か撃退し、自愛菩薩の影響を排除した上で説得する必要があります。わずかに残るタカヤさんの意識が喪失していた自信を取り戻せば、目白童子の撃破後に彼は人に立ち返ることが出来るのです」
 敵を一体でも撃破出来れば任務は成功。だが被害者の救出まで狙うならば、作戦難度は一気に高くなるというわけだ。

「心無い言葉で自信を喪失しているタカヤさんですが、その生き様を皆さんが肯定してあげられれば、彼は人に立ち返れるかもしれません……被害者なく事件が終わることを、願っております」
 そういって小夜は出撃準備を頼むのだった。


参加者
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)
アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)
アルケミア・シェロウ(トリックギャング・e02488)
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)
ディー・リー(タイラントロフィ・e10584)
桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767)
ベルベット・フロー(ミス紅蓮ファイアー・e29652)
鋳楔・黎鷲(天胤を継ぐ者・e44215)

■リプレイ

●歓迎
 宝石のような明かりを灯す高層マンションを、マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)が見上げている。
「『可愛く綺麗に』か……気持ちは分からんでもないのだが……」
「ああ。その気持ちは理解出来る。永久に、美しくありたいものだ。だが……」
 横に並んだ鋳楔・黎鷲(天胤を継ぐ者・e44215)の言葉を、コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326) が引き取って。
「その心の隙間に付けこむエゴシャナは捨ておけねっす。絶対タカヤを助けて女子力アゲアゲなオシャレを伝授してもらうっすよ!」
 ベルベット・フロー(ミス紅蓮ファイアー・e29652) が同意を示し、己の両手を打ち付けた。
「避難は終わったみたいだね。これで思いっきりやれるよ。行こう」
 警察や消防は、周囲を固めている。番犬たちの入ったロビーには誰もおらず、外からの赤色回転灯だけが影を投げ掛けていた。
「……こういう状況だとなんか不気味だね。ま、荒仕事はお任せを、ってね」
 エレベータのボタンを押すのは、アルケミア・シェロウ(トリックギャング・e02488)。人の気配は階下へと遠ざかり、高いベルの音が階層への到着を告げる。
 そして、ディー・リー(タイラントロフィ・e10584) の一撃が、目の前のドアを蹴り破った。
「ケルベロスだー! 邪魔するぞー! タカヤの家はここかー?」
 聞こえて来るのは、小鳥の囀り。よく聞けば、それは言葉だ。
『ボクだけの場所に、狗がたくさん入ってきたよ……』
『自愛菩薩さまにお近づきになるのを、邪魔しに来たのね!』
 整った廊下を慎重に進み、リビングの戸を破る。そこには……。
「……!」
『さあ、闘って! 愛する自分を守るのよ!』
 鳴き騒ぐ桃色の鳥を、桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767) が冷たく流し見る。
「自己愛も結構。否定はしない。でも、何事も過ぎれば毒になるでしょ」
 アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)も、黒いケープを払ってヘッドドレスの位置を直すと、頷いた。
「結局、あーだこーだ言っても、タカヤくんを利用しているだけ。笑っちゃうよね」
 エゴシャナは嘴を歪ませ、鳥の瞳を見開いて。
『そうよ……全ては自分のため! さあ! 信仰に身をお捧げなさい!』
 自愛を貫くためならば、身の破滅さえ厭うなかれ。
 巨大な目白がゆらりと振り返り、狂信に導かれるように飛び上がる。
 そして闘いが、始まった。

●自愛の使者
『ボクのためはあの方のため。自愛の菩薩さまのため……』
『そうよ! そうよ! 合一するの! 一つになるの!』
 その囀りが、空間に力となって迸る。仲間を庇って音波の直撃を受けつつも、コンスタンツァは素早く拳銃を引き抜いて。
「エゴシャナの歌、洗脳も兼ねてるっす! 目白の方が完全に影響されてるっすよ! 説得は、奴がいなくならないと無理っぽいっす!」
 その肢体は音の波撃に吹き飛び、置いてあったソファごとひっくり返る。だが放たれた銃弾は確かにエゴシャナを撃ち抜いて、その動きを止めていた。
「それなら話は早いよね。元々、キミから叩くことにしてたし。苛立たしい囀りをばらまいたって無駄だよ」
 アンノがスカートを翻せば、周囲の空間が歪むように回転し始める。それはエゴシャナを巻き込んで、高い悲鳴と共にその姿が歪んでいく。
 だが。
「……!」
 稲光の如く瞬いた光の打撃が前衛を打ち払い、ねじれた空間を吹き飛ばした。
『ボクのためは、自愛の菩薩さまのため……』
 それは目白童子の放った閃光。仲間に救われたエゴシャナはけらけらと笑いながら縦横に飛び廻る。
「全く、ビルシャナはいけすかぬな! せいぜい戦いで楽しませてもらいたいところだが、こううるさいと集中もできぬなー!」
 光の打撃から咄嗟にクラッシャーたちを庇いつつ、ディー・リーは目白へと蹴りを入れてその動きをけん制している。
 だがすでに先ほどの光が、目の前にゆらりと恐ろし気な影を揺らめかせ始めていた。
「けたたましい鳴き声、飛び散る羽毛、それにトラウマ。厄介な。……武具よ。力を解き放て。倒すべき敵はここにいる」
 黎鷲が、舞うように天胤剣を振るう。それは味方の武具へ破壊の加護を宿すと同時に、破邪の風となって襲い来るトラウマたちを散らした。
「ホント、小鳥の鳥籠に跳び込んだ気分! いや、そんな可愛げがあればまだいいかな。とにかく、攻めに回るよみんな! 華麗に激しくステップ&ステップ!」
 ベルベットが、フラメンコの如き情熱的なリズムで踊り出す。それは敵の加護を破る力となって、前衛に満ち満ちて。
「うん! 二人とも、ありがと! ……じゃあ、本気で行くよ」
 萌花が放つは、石化の光弾。羽毛を飛ばして味方を癒していたエゴシャナは、クラッシャーの一撃に胸倉を打たれて天井にぶち当たった。そこを仲間に次々と狙われ、エゴシャナはきゃーきゃーと慌てふためきながらお手玉のように転げまわる。
(「さっきの一発、結構痛かったな。早めに頭数を減らさないと……!」)
 萌花の懸念を表すように、エゴシャナはいつの間にか舞うように回転し、伸びた羽衣が前衛を打ち据えた。
 桃色の鳥は、烏に似た鳴き声を発しながら、番犬たちをねめつける。
 愛くるしい外見にそぐわぬ、血走った瞳で……。

 ものの数分で、エゴシャナは番犬たちの集中攻撃を受け、血塗れになっていた。
『もういやよ! 私帰る!』
「ヤだな、逃げないでよ……ていうか、根性なさすぎじゃない? 援軍なんでしょ。ツケが回ってきたと思って観念してね」
 飛び立とうとするエゴシャナの正面に、いつの間にかアルケミアが現れる。彼女の放つ呪怨の一閃が、エゴシャナを室内に押し戻した。
『痛いわ! 痛い! 野蛮な狗!』
 ついにエゴシャナはパニックの金切り声を上げて暴れ狂い始めた。捕食者を蹴りつけながら鳥かごの中を跳ねまわるように。
 だがこちらも、この数分で受けたダメージは想定を超えていた。アルケミアを始め、前衛はすでに息が切れ始めている。
「人数を前に集中しすぎたか……! 明らかに私たちを集中攻撃してきている! 攪乱も回復も完全に無視だ……!」
 飛び逃げようとするエゴシャナを、マルティナのサイコフォースが撃ち落とす。だがその横合いからは、目白の閃光がすぐに味方を打ち払うのだ。
「……っ! やばいっす! そろそろ限界っすよ!」
 コンスタンツァの引き金を引く指にも、震えが来ている。
 攻守を固めた布陣が、今回の敵に限っては弱点となっていた。
 列攻撃しか持たない敵が、五人を配した前衛を集中的に狙ってきて、最大威力の攻撃を受け続けてしまっているのだ。
「回復が間に合わない。攻撃を逸らす手立てはないか……!」
 光の盾で辛うじて閃光の直撃を逸らしながら、黎鷲が問う。
 だがベルベットも、光の剣で彼の癒しを支えながらも首を振るしかない。
「そういう種類の呪縛が必要だよ……! 挑発くらいじゃ効かないもん!」
「んー……僕が前に入っても、この状況じゃ一手犠牲に被害を増やすだけだねー」
 アンノの放った氷は確実にエゴシャナを穿っている。
 奴の死は、近い。だが奴は死ぬ間際の二、三分を暴れ狂い、前衛を苛烈に攻撃するだろう。
 激しい乱舞の中、アルケミアはソファの裏に身を隠して思案を巡らせる。
(「考えないとなー……エゴシャナの撃破に拘るなら、まだ体力を残しているもう一匹を倒しきるのは……無理だよね」)
 ここでエゴシャナを見逃せば、目白童子の説得と撃破を目指す余力は残る。
「追い詰められたわけじゃないよ。まだ道は二つあって、選べるのが一つってだけ」
 そういう萌花に、エゴシャナが飛び掛かって来る。
 ここで奴の逃走を阻むか否かが、その選択肢の決め手となる。
「……救助が、優先だ。悔しいが、ここは見逃そう……!」
「そうだぞー! その二者択一ならば、仕方ないのだー!」
 マルティナとディーが、そう叫んだ。
 そう。意志は初めに、統一しているのだ。
 萌花がすっと身を逸らすと、エゴシャナは窓ガラスを突き破る。
 おぞましい桃色の妖鳥は、笑い声を響かせながら闇の彼方へと飛び去っていった……。

●目白の童子
『あれ……ボクは綺麗……狗をやっつける……あれ……?』
 その瞬間、目白童子の呪縛が薄れた。
 だが説得が届くようになっても、ビルシャナの呪縛のある限り攻撃はして来る。
「っし! 仕切り直しっす! タカヤ、今なら聞こえるっすか! 男子がオシャレするの全然悪くねっす! 大いにアリっす! でも……オシャレなタカヤが好きだって言ってくれる人や志を同じくする仲間まで否定することねっすよ!」
 コンスタンツァは仲間たちの説得が終わるまでもたせようと、歌に乗せて言葉を放つ。
 倒れかかっていた前衛が辛うじて踏み止まるのを見て、黎鷲とベルベットが頷き合う。
 全員分の言葉を届けるには、一人とて欠けるわけにはいかない。
「そうだ。タカヤとやら。この顔を見ろ。俺もまたお前と同じ願いを持つ者だ。気持ちはわかる。お前なら同じ願いを持つ者たちに、手を貸してやれる筈だ。だが先ほどの化物は、お前の事なぞ見ていない。ただ利用しようとしているだけだぞ」
「うん。アタシは、タカヤ君のこと少し羨ましいくらい……アタシってばこんな顔してるじゃない? だから化粧なんて殆ど経験なくてさ……でもビルシャナになっちゃったら、折角磨いたメイクもファッションの腕も台無しだよ! そんなのもったいないよ!」
 目白童子はぽかんとしていたが、ハッと思い出したように背に輝きを浮かべ直す。だがその時には、二人の癒しは前衛に飛び、前衛の膝を今一度奮い立たせていた。
『ボクのこと……みんな、否定する』
 茫然自失した呟きと同時に、激しい閃光が前衛を打つ。だがマルティナは、その衝撃を斬り裂くように、前へ出て。
「私たちは……君の可愛くなりたい気持ちを否定するつもりはない。寧ろ……良いことだと思う。だが皆が言うように……理解してくれる人と共に、高め合い、笑い合う……そういった心の美しさも持ち合わせてこそ、本当の美しさではないのか!」
 共に進むは、ディー・リー。
 前衛に繰り返し宿した加護は、しっかりと催眠の呪縛を払っていた。
「ああ。ディー・リーはお主のこと、綺麗な見目だと思ったぞー? 研鑽を重ねることができているお主は立派なのだ。それを否定した奴の評価を覆すまでに磨いて、度肝抜いてやったらきっと……痛快だぞー」
 二人は、仲間に支えられた最後の力でそれを口にし、想いを剣と拳に乗せて叩きつけた。
 慌てた目白童子が身構えるも、二人はあくまで盾として、その場を譲らない。
 雷鳴の閃光が轟き、二人が弾き飛ばされる。
 その隙間を、一跳びで肉薄するのは、萌花。
「そうだよ、タカヤくん。綺麗になるための努力、欠かさないなんて大変なことなんだよ。性別なんて関係なく、かわいい服着て、お化粧して、いいじゃん。ジェンダーレス男子って今流行りだよ。ねぇ、ほら。その羽毛を払って、かわいい顔をちゃんと見せて」
『え……え……?』
 困惑している目白の隣に、いつの間にかアンノも加わって。
「うん。僕はキミの姿、すごく可愛いと思ったよ。細かい所まで気を使って、理想に近づこうとしているのが伝わってきたもん。僕はキミの気持ち、よく分かるし、分かってくれる人はこの通り、沢山いるよ! だから、自分以外は必要ないなんて言わないで」
 目白のビルシャナは目の色を失い、黙りこくる。そして……。
『……おのれ! 猪口才な狗どもが! 余計なことを!』
 突如として金切り声を上げた。目を血走らせ、人格が入れ替わったかのように。
『主ら如きに調伏などされるものか! 我は目白の童子! この体は我が……』
 瞬間、萌花の蹴りとアンノの拳が顔面にめり込んだ。
 目白は盛大に鼻血を噴き上げて、部屋の中をバウンドする。それを、足で受け止めたのは、アルケミア。冷ややかに鳥を見下ろして。
「んー。これって多分、成功だよね? ま、みんなに大体言われちゃったし、とりあえず、私からはこんだけかな。……生き方に、間違いなんてないんだから、好きに生きろよ、ボク。あと……」
 アルケミアは目白の顎を蹴り上げる。天井に張り付いた肢体が落ちて来ると同時に、アルケミアのナイフがさくりと目白の胸を穿って。
「キミは、さよなら」
 瞬間、肉体から抜け出た目白の魂が燦然と輝き、悲鳴を上げながら消失していく。
 光の絶えた後、肉体の方は傷一つない青年の姿に戻って、倒れ伏した。
 全員が息を止めて青年を見つめる中、彼は眠たそうに眼をこすってむくりと起き上がって。
「あれ? 変な夢見たな……ボク、どうしちゃったの?」
 目をぱちぱちさせながら、青年が言う。
 番犬たちはふうっとため息を漏らして、膝をついた。
 闘いは、終わったのだ。

●決着
 エゴシャナは逃したものの、目白童子を討伐して被害者を救出した。
 最上ではないが、上の結果だろう。
「ボクなんかを……助けてくれたんだね……ありがとう」
 事情を聞いたタカヤ青年は、息を吐きながら身震いする。
「私は……ずっと、剣一本で生きてきたんだ。君のようになれたらいいな、と、考えたことがある。少しメイクやお洒落の事を聞けるだろうか……他のみんなにも」
 マルティナが青年の肩を叩くと、コンスタンツァがにっこりと笑って袋からメイク道具を取り出して。
「そうそう! タカヤはめちゃカワ男子って聞いたっす! アタシたちにオシャレのコツを伝授してほしっす! その為に、たんまりコスメ持ってきたっすよー!」
「うん……アタシはこの顔だから……マニキュアとか、教えてくれないかな」
 ベルベットがそう言うと、タカヤは微笑みを取り戻す。
「うん。ネイルは得意だよ」
 するすると始める素早い動きに、黎鷲が僅かに目を開いて。
「それがお前の磨き上げてきたものか……思った通りだな。いい手際をしている」
「へー。細筆使えるんだ。利き手はやりにくいから、あたしもしてもらおうかな」
 萌花と青年が微笑み合うのを、アンノが見つめて。
「うん。やっぱりこうでなくっちゃ。せっかく綺麗になっても周りに誰もいないんじゃきっと寂しいもん」
 その光景を振り返り、アルケミアはため息をついた。
「みーんな楽しそうにしちゃって……その間、こっちは片づけ担当だっていうのに」
「おーい。次はこちらはヒールをするぞー。散らかったものを頼むー」
 ディー・リーの呼びかけに、彼女は苦笑いをしながら応じるのだった。

 こうして青年は笑みを交わす中で自信を取り戻し、菩薩累乗会の一端は防がれる。
 だが、新たな菩薩はすでに躍動を始め、次々と他の勢力をその手勢に取り込んでいる。
 番犬たちの闘いは、まだ続く。
 この狂信の儀式を押しとどめる、その時まで……。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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