菩薩累乗会~愛する人は自分だけ

作者:陸野蛍

●失恋の痛みを癒すのは自己愛?
「留美ちゃんも、愛ちゃんも、美咲ちゃんも俺を好きになってくれなかった。中学卒業で離れ離れになっちゃう、凛ちゃんにも振られたし……俺を好きなってくれる女の子なんていないんだ」
 部屋のベッドで体育座りをしている青年は、ぶつぶつと呟きながら情けなさに泣きそうになる。
 彼、木島仁は、ごく普通の青年である。
 4月からは、新しい高校生活が始まると言うのに、何故こんなにじめじめしているかと言えば、彼はこれまで何度も女の子に告白しては振られていた。
 成績は優秀、スポーツもそこそこ、顔も悪くない、人望もある方、なのに何故か特定の女の子に告白すると、皆揃って『付き合うにはちょっと』と言われ、いい人止まりで終わってしまうのだ。
 そんな時、ふと仁が顔を上げると目の前に、ピンク色のふわふわの羽毛の鳥人間とも言えばいいのだろうか……ビルシャナがちょこんと立っていた。
「他人に愛を求めるから駄目なのよ。愛は自分に与える物。自分が一番大事、大事なのは自分だけ! 他人が自分を否定したって関係ない。だって、他人は大事では無いのだから。他人の評価の為に自分を否定するなんて間違っているよ」
 ビルシャナの言葉は心地よく仁の耳に入って行く。
「もっと、自分を好きになって。ありのままの自分が一番だから、他人の評価なんて関係ない。一番大事な自分が、自分だけを最高に評価したのならば、それが、あなたの評価。つまり、あなたは、最高なのよ」
「そうだ、そうだよ……」
 ビルシャナの言葉に心を奪われたように、仁は呟くと立ち上がる。
「俺は自分が好きだ! 誰より好きだ! 他人なんて関係ない! 女の子に好かれるなんて大したことない! だって、俺は俺だけが大好きだから!」
 仁の叫びが終わると彼の身体は羽毛に覆われ、彼もビルシャナの一員となってしまう。
「おめでとう、これから私と一緒に、自分を愛するエゴの気持ちを高めて、自愛菩薩さまに近づこう! いつか、自愛菩薩様の一部となれるように、自分を愛し続けるのよ!」
 ビルシャナ……いや、エゴシャナの言葉に、仁だったビルシャナも頷くと手を握り、改めて自分の殻に閉じ籠もるのだった。

●始まりの菩薩累乗会
「第二次侵攻から常に動きのあった、ビルシャナなんだけど、ビルシャナの菩薩達が恐ろしい作戦を実行しようとしている事が分かった」
 ヘリポートに姿を現した、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は、そう話を切り出した。
「作戦名『菩薩累乗会』。強力な菩薩を次々に地上に出現させ、その力を利用し、更に強大な菩薩を出現させ続け、最終的には地球全てを菩薩の力で制圧するってものだ。この『菩薩累乗会』を阻止する方法は現時点では判明していない。俺達が今出来る事は、出現する菩薩が力を得るのを阻止し、菩薩累乗会の進行を食い止める事だけだ」
 強大な菩薩の数多の地球進出、防がなければ恐ろしい事態になる。
「現在、活動が確認されている菩薩は『自愛菩薩』。自分が一番大事で、自分以外は必要ないという『自愛』を教義としている菩薩だ。簡単に言うと『自己愛最高!』って言うのが協議ってこと。自愛菩薩は、配下のビルシャナである、エゴシャナ達を、なんらかの理由で自己を否定してしてしまっている状態の一般人の元へ派遣し、甘言を弄してビルシャナ化させ、最終的にその力を奪って合一しようとしているみたいだ。ビルシャナ化させられた一般人は、自分を導いたエゴシャナと共に自宅に留まり続け、自分を愛する気持ちを高め続けている。このままだと、充分に高まった力を自愛菩薩に奪われ、新たな菩薩を出現させる糧とされることになる。それを防ぐ為にも、出来るだけ早く、事件を解決する必要があるってことだ」
 自己愛……人にとって持っているべき大事な気持ちだが、ビルシャナによってそれだけが全てになってしまっては、他が何も見えなくなる。
「みんなに担当してもらうビルシャナの説明な。人間名、木島仁。中学卒業を控えた3年生男子。エゴシャナの甘言に乗ってしまった理由は誰も、特に好きになった女の子が自分を愛してくれないから……なら、自分だけは自分を愛そうって感じで洗脳されたみたいだな。攻撃手段は、自身の素晴らしさにグラビティを乗せマシンガントークして来る攻撃と、他人に裏切られた思い出を思い出させて自己愛に目覚めさせるトラウマ攻撃、自分は素晴らしいって思いを高めて自分の彫像を生みだしそれをハンマーのように打ち出してくる攻撃だな。あと、仁をビルシャナ化したエゴシャナも一緒に居て、歌に乗せてのパラライズ攻撃、武器封じ攻撃、ヒールグラビティを使用可能だ」
 ビルシャナを同時に2体相手にすることになる、舐めてかかれる相手ではなさそうだ。
「ビルシャナ……仁は『自分だけが大事』であり『自分の部屋も自分の一部』であると考え、部屋に侵入してきたケルベロスに積極攻撃してくるだろう。仁を先に撃破した場合、エゴシャナは不利とみて逃げていく。エゴシャナを先に倒した場合は、ビルシャナ化した仁を救える可能性も出てくるけど、難易度はかなり高くなる。1体を倒すのにも手こずりそうだし、エゴシャナだけを狙って倒すのも難しいからな」
 つまり、今回の目的はビルシャナ2体の撃破であり、少なくとも1体の撃破は必須。
 ビルシャナ化した仁の安否は問わないと言うことだ。
 苦しい判断を強いられるかもしれない。
「エゴシャナを先に倒せば、仁をビルシャナ化から救うことが出来るかもって感じだけど、教義が自己愛だからな~。自分以外にも自分を愛してくれる人は居るって本当の意味で気付かせた後に倒せば、最後に残った心次第で人としての一命を取り留めるかもしれない、何にしても、凄く難易度が高いから、厳しい事を言うようだけど、無理と判断したら止めを刺すのに躊躇しないでくれ」
 今回の作戦はビルシャナの菩薩が大量発生してしまう恐れのある危険なものだ。
 選び取らなければ命も出てくると言うことだろう。
「とは言ったけど、仁も救えれば俺もいいと思うんだぜ。けど、エゴシャナが戦場にいる限り、自愛菩薩の影響力が強くビルシャナ化した仁の説得は不可能。救出を目指すならば、エゴシャナを撃破するか撤退に追い込む必要がある。当然撤退させるより撃破した方がいいけど、今回の作戦には色々なパターンが考えられるから。とにかく、みんなの力で『菩薩累乗会』なんて作戦はぶっ潰していこうな!」
 そう言って雄大は拳を振り上げた。


参加者
陶・流石(撃鉄歯・e00001)
天満・十夜(天秤宮の野干・e00151)
ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)
燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎・e15316)

■リプレイ

●菩薩累乗会第一波
「ビルシャナの大作戦、『菩薩累乗会』……なんつーか、欠片もありがたくない菩薩達の大集合って空気がプンプンするな!」
 目的の住宅街に到着すると、天満・十夜(天秤宮の野干・e00151)がそう口にする。
「ただ、ここは地球の日本! 『信仰の自由』ってやつがあるんだぜ! 洗脳という名の教義の押し売りはノーサンキューだぜ!」
 十夜の言葉通り、信心だけで菩薩を崇拝するのなら止める権利は誰にも有りはしない。
 だが、ビルシャナの言葉には人の心を誘導する力が込められている。
 教義への関心が僅かにでも人の心の中にあれば、その教義が全てだと思いこんでしまう程の強い洗脳能力と言っても過言ではない。
 だからこそ、数が増せば増す程累乗に力を増す今回の作戦は、早期の決着が望まれているのだ。
「侵入者の心配は無いとのことであるが、念には念を入れておくぞよ」
 言うと、ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)は、自らの身体から強力な殺気を放ち、生物の侵入出来ない結界を作りだす。
 この場に留まれるのはグラビティ・チェインの力が強い者……ケルベロスかデウスエクスだけだ。
「それにしても、自己愛ねぇ。まあ、自分が大事っつう考えも間違いじゃねぇ。自分……大切にしてりゃ、少なくとも周りに迷惑はかけねぇわけだし」
 ぶっきらぼうに言うのは、陶・流石(撃鉄歯・e00001)だ。
「しかし、微妙に本質を突いてくるのがビルシャナの面倒なトコだよな。そういう意味じゃ、あたしらに一番親和性が高かったりすんのかねぇ」
 多くのデウスエクス勢力の地球侵攻は地球からグラビティ・チェインを搾取する為の虐殺と破壊を主としている。
 だが、ビルシャナは搾取の一つ前の行動として、人間のビルシャナ化及び信者化を進めている。
 地球に住む人々をビルシャナの集合無意識に統合しようとしているのか、全ての者をビルシャナと化そうとしているのか……これまでの動向から察することしか出来ないが、もし答えがそうならば、今回の『菩薩累乗会』は確実に止めなければならない作戦だろう。
「今回の菩薩は自愛菩薩……自分を愛する、だよね? ……うーん、私はそういう気持ち大切だと思うんだよ?」
 肩に乗るウイングキャットの『蓬莱』を優しく撫でながら、円谷・円(デッドリバイバル・e07301)がゆったりと言う。
「まぁでも、だけっていうのは良くないね。人を愛し愛されるのも幸せのカタチだもの……そういうのを味わってほしいの」
 今回は、自愛菩薩の配下である『エゴシャナ』と共に、元人間の学生『木島仁』の撃破も任務に含まれている。
 あくまでビルシャナとしての彼を撃破することが目的だが、人間に戻すことは困難だと告げられている。
 ……それでも。
「木島さんの命も諦めたくないよね」
 シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)が確認するように、そして自分の本心を再確認するように想いを言葉に乗せる。
 自愛を全てとしたヒトを救うことが出来るか、それを含めて、2体のビルシャナに勝利することが出来るか……ギリギリのライン、切り捨てなければいけない可能性があることも皆分かっている。
「人との関わりを切り捨てて、殻に篭るなんてのは悲しすぎる。俺達が止めてやらなきゃな」
 静かに言うと、雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎・e15316)は歩きだす。
 振り向かず、ビルシャナ達が篭る場所へ……。

●信心を強制するモノ
「君は君が大事。だって、君はその思いで前より素晴らしい自分になれたんだもの」
 エゴシャナの甘い言葉は、ビルシャナの耳に……木島仁だった存在に心地よく響く。
「俺は最高だ。俺は俺が好き。それが全てだ―!」
 ビルシャナがそう叫んだ時だった。
 自室のドアをぶち壊して、強烈な熱波が黒い光と共に注ぎ込まれた。
 ビルシャナにとって幸いだったことは、その熱波を浴びたのが、自身が一番愛する自分では無く、エゴシャナだけだったことだが。
「誰だ!?」
「ぁ? 文句あんのかよ? おめぇはおめぇが一番大事なんだろ? そいつが攻撃喰らってくれて、ラッキーじゃねえか?」
 背に黒い日輪の残光を残した、燦射院・亞狼(日輪の魔戒機士・e02184)が居丈高に言う。
「まずは、エゴシャナに消えてもらうぜ!」
「俺達は最善を目指す!」
 流石のリボルバー銃が火を噴いた直後、砲撃形態に姿を変えた達也の赤き眼の龍鎚『Jet-black』から竜砲弾が撃ち放たれる。
 それに続いて、ワルゼロムの相棒のシャーマンズゴースト『タルタロン帝』が原始の炎を呼び出し、傍らで清廉な翼をはためかせた蓬莱が、ケルベロスに護りの力を与える。
「アグニ! 一気に攻め落とすつもりで繋げるぞ!」
 十夜の声にボクスドラゴンの『アグニ』が纏う炎も勢いを増す。
「死霊と氷塊、好きな方で逝っちまいな!」
 十夜が身体に刻まれた紋用の呪力を解放し、エゴシャナの周囲に無数の『死霊』を喚び出す。死霊はエゴシャナを囲む壁となり、次の瞬間落ちて来た巨大な氷塊から逃げる術を失わせる。
 氷塊が砕けたと思えば、アグニの炎のブレスがエゴシャナを包む。
 状況こそ理解していないが、自身の愛する聖地が侵されたと判断したビルシャナは、自身の愛をグラビティに込め形にすると、彫像のハンマーとして十夜に振り下ろした。
 だが、十夜の代わりに『ガギンッ!』と攻撃をその身で受けたのは、漆黒のフープ型のライドキャリバー『テレーゼ』だった。
「テレーゼ、そのまま皆様を護りながら、エゴシャナを削り切ってください。仁様には、極力攻撃を当てぬようにしてください。仁様には自身が他の方にも必要とされる人間であると思いだして頂いてから、ビルシャナからの脱却を試みて頂きます。では、エゴシャナ……覚悟して頂きます。当たれっ!!」
 表情を変えず、淡々とと仕事をこなすメイド然としたテレサ・コール(黒白の双輪・e04242)は、テレーゼに指示を出し終えると、白と黒で一対の円形マスドライバー『ジャイロフラフープ・オルトロス』から高威力の弾丸を打ち出す。
 射撃の反動で小柄な身体が一瞬宙に浮くが、回り込んだテレーゼがその華奢な身体をその硬質なボディで受け止める。
「近づかせない、から……』
(「これ以上、彼の心にも……それ以外の人の心にも」)
 月竜を模した、三日月型の鱗をエゴシャナに鋭く投げながら、円は心の中で強く思う。
「この立ち位置から、エゴシャナと木島殿の間に割って入るのは少し時間がかかりそうであるな。シルディ殿、木の葉の加護受け取るが良いぞよ」
 仲間達と自分、そして2体のビルシャナの位置取りを確認しながら、ワルゼロムはシルディに木の葉の幻影の加護を与える。
「ありがとう♪ だけど、ボクも護られるだけじゃないからね! 紙兵よ、みんなを護る力となって!」
 可愛らしい笑顔をワルゼロムに向けると、シルディは視線を前に戻し、前を固める仲間達に紙兵を降らせ、護りの力を増幅させる。
「あなた達調子に乗り過ぎよ。自分を愛するわたしにミスなんてないんだから♪」
 言葉の奥に怒りをたぎらせたエゴシャナは、自身のエゴを歌に乗せ、ケルベロス達への攻撃とする。
 だが、その歌声を浴びた、流石、亞狼、達也が怯むことは無い。
 サーヴァント達も後ろに下がらず、前に出ようとする。
「何なのよ、あなた達。自分が大事でしょ? 攻撃を受けたくなかったら、下がりなさいよ!」
「ぐだぐだ、うるせぇよ」
 エゴシャナの言葉に低く返したのは、亞狼だ。
「勝ちゃなんでもいんだよ。おめぇがいると邪魔なんだよ。さっさと消えろや」
 その亞狼の言葉に、エゴシャナを狙い撃つ流石と達也の攻撃が重なった。

●惑わすモノ消えて
「ワルゼロム、私は後衛の回復をするんだよ。前衛の回復をお願いなの」
 黄金の林檎を創造し、癒しの力を広げながら円が声を上げれば、ワルゼロムもニヤリと笑み答える。
「我の美しい花の舞、その目で見られることを感謝するべきであるな。エゴシャナよ」
 ワルゼロムの両足が宙を舞う度舞う花弁は、仲間達の身体に触れると癒しの力となって溶けるように消えていく。
 戦闘開始から6分、エゴシャナの桃色の羽毛は焼かれ、裂かれ、ボロボロになっていた。
 今回ケルベロス達の戦力は、サーヴァントを含めると12と言う大所帯だった。
 それぞれの役割や能力を相談し、どうしても前衛過多になってしまい、回復効率は落ちている。
 だがその分、前衛陣がエゴシャナから攻撃を受けた場合、受けるダメージの減少にも成功していた。
 事前情報通り、エゴシャナの攻撃手段は複数同時攻撃の歌を使った攻撃のみ……発動した場合自身達の行動を極端に縛るグラビティの影響も抑えられている。
 動きが鈍っても、仲間達の援護を極力努めようと動く、シルディの呼び出した、雪の小人たちがグラビティの流れを正しく戻している。
 ただ、ケルベロス達が戦闘前に約束していた1つの条件が、戦況を危うくした局面が戦闘序盤に発生した。
 ケルベロスが決めたこと……『エゴシャナを倒すまで、ビルシャナ……木島仁を攻撃しない』
 助けられる命であれば助けたい、過半数の意見をケルベロス達は誰も無視できなかった。
 達也や円は、ヘリオン内で多くの犠牲を出さない為に、諦めなければならない命がある可能性も口にしている。
 だから、この決めごとは絶対では無い。
 当然、ケルベロス達が攻撃しなくてもビルシャナは、自身の領域を侵すものに全力で言葉のグラビティを浴びせていたし、ケルベロス達の心の闇も引きずりだそうとしていた。
 それでも、ケルベロス達は耐えた。
 そしてもう一つ功を奏したのは、十夜のこの一言である。
『自分だけが大切なそいつを庇って、自分が先に死んで何になる?』
 そうなのだ。
 エゴシャナは仁を自分のエゴの為に盾にしようとしていたが、仁が今一番大事なのはエゴシャナではなく自分だった。
 だから、その言葉に納得してしまったのだ。
 自分のすべきことは、エゴシャナを守ることではないと。
 流石とワルゼロムも戦況把握をしながら、サーヴァントと共に2体のビルシャナの接近を妨げていた。
 結果、エゴシャナだけが致命的なダメージを負った状態の現在となる。
 テレサのバスターライフルが、亞狼の天空からの虹色の蹴りがエゴシャナの足を完全に止める。
 流石の音速を超える拳がエゴシャナを貫き、エゴシャナを霞のように消滅させる。
「……さあってと、ここからが本番だぜ」
 残されたビルシャナ……木島仁だったモノを振り返りながら、流石が呟いた。

●愛すること
「家族や友達、先輩や後輩が側にいたよね? 木島さんといると幸せだから、楽しいから……ううん、表現しつくせないほど色んな理由で、一緒にいたいって思ってるからだよ。恋愛とは違うけどそれも愛なんだよ」
 聖なる鈍器がビルシャナとしての心を打ち砕けばいいと思いながら、シルディは言葉と共にビルシャナを打ち据える。
(「一緒にご飯を食べたり、遊んだり、冒険したり、勉強したり……それを忘れちゃったの? それを失ってもいいの?」)
「他人に無理して合わせる必要はねぇのは同感。けど、本当に大切にしたい、一緒に歩きたい相手を見つけたら、隣を歩く為に自然と歩調合せたり、時折立ち止まったりすんだろ。それと一緒」
 数度目の銃撃を放ちながら、流石は自分の言葉でビルシャナに渇を入れる。
「どうしても追いつかない相手、好きな道の違う相手だっている。まずはてめぇに無理のねぇ範囲で、そういう相手を見つけりゃいいさ」
「エゴシャナが居ない状態で倒せば、元に戻せる可能性があるって言っても、これ以上攻撃したら斬り殺しちまうぜ」
 ビルシャナを攻撃開始してから5分、仲間にその事実を伝えながらも十夜は星剣を横に薙ぐ。
 端的に言ってしまえば、このまま攻撃を数度重ねれば目の前のビルシャナは撃破出来る。
 だが問題は、攻撃をしながらの自分達の言葉が、仁にどれだけ届いているのか分からないのだ。
 そして、どれだけ心を開かせることが出来れば、人としての仁を救うことが出来るかも定かではない。
 笑顔を崩さないシルディも内心、焦りを感じていた、
「アレだ、分相応じゃねーもん求めんな。自分の為に他人が必要なのさ……だって、俺もお前もたいした事ねーじゃん」
 ナイフに込める力は抑えず、亞狼が言う。
「自分を愛する? 結構なことだ。だが他人を愛せないエゴを抱えていては、人の世で暮らすことはできまい。お主の今の姿が何よりの証拠」
 仲間達に最後の攻撃の力を与える為に、カラフルな爆発を起こしながらワルゼロムが告げる。
「そもそも失恋など誰もが経験すること。いつか自分を愛してくれる人がいるかもしれない、その可能性を捨てて自己愛の殻に閉じこもるつもりか? 目を覚ませ、自分を愛するのではなく、他人を愛する自分を信じろ!」
「告白する時、相手に気を遣って遠慮した言い方してたんじゃないか? 誰より好きだ? 他人なんて関係ない? ならそれくらいのエゴと想いを惚れた相手にこそぶつけてみろよ……本気だと伝える事、本気を信じてもらう事が最初の一歩じゃないかな」
『俺もそれが完璧に出来てるとは、思わないけどな』
 自戒の言葉だけは心に秘め、巨大剣を袈裟に振るう達也。
(「愛されるのはとっても気持ち良くて、気分が良い事だよね。だったら、君は、愛する気持ちを忘れなければいいんだ、よ」)
 虚無球体を繰り出しながら円は愛されることへの素直な思いを口にする。
「皆がみんな『自分だけが大切』って思ってたら世の中まわらない、よ? 愛されたいなら、まずは他人を愛してみたら?」
「メイドとは主のサポートをするのが仕事、つまり他人が必要としなければ……存在し得ない仕事です」
 主無きテレサが自身と重ねた言葉を口にしながら、最後の一撃となるであろうことを覚悟して、ジャイロフラフープをビルシャナに向ける。
「だからどうか忘れないでほしいのです。この世には貴方を必要としている人がいることを。自分だけいれば良いなんて、そんな寂しいことをおっしゃらないでください。……あなたならきっと、立派なご主人様になれますから」
 テレサの使う『御主人様』と言う言葉の意味……誰かを愛し、相手からも必要とされる存在に必ずなれるから……自分だけではどんな関係も成り立たないのだから。
 テレサが瞳を閉じると同時に、弾丸がビルシャナを貫いた。
 ビルシャナの羽が一斉に宙を舞う……そして1人の人間が『木島仁』が姿を取り戻した。
 ゆっくりと前のめりに倒れる仁。
 彼を受け止めた達也の腕の中で、仁は穏やかに息を吐きながら呟いた。
「みんな……大好きだよ。……ずっと、これからも」
 彼を愛してくれる人は今も存在し、これからもきっと増えていくのだろう……。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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