光触手の機兵

作者:寅杜柳

●強襲鉄機
 その日も神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)は日課の修練を終え、家路へとついていた。
 夕暮れ近く、元々人気の少ない場所を修行の場としていたこともあって、帰り道でもすれ違う人は殆どいない。ビルの建設予定地の看板が立てられた空き地に差し掛かった時には、周囲に人影一つもなくあったのは静けさのみ、だった。
 ふと嫌な気配を感じ、皇士朗が空を見上げる。夕日をバックにしたやや高い建物。茜色の空と建物の輪郭の境界に一つの黒点がありそれが建物を離れ急下降、みるみる大きくなる、距離を詰めてくる。重量を感じさせる墜落音と、駆動音と思しき重低音とともに皇士朗の前に舞い降りたそれは、人型をした機械兵。頭部は豚の頭を模した形、主に背から生えた光の触手はその機体がオークに似せられた存在なのだと主張している。
「お前は……っ!」
「……ケルベロス、任務遂行ヲ妨害スル可能性、高」
 排除スル、言い終わるか終わらないかのうちにそのダモクレス、ヤクトシュヴァインは両手の銃を皇士朗に向けて発砲した。

「みんな手を貸してくれ! まずい予知が引っ掛かった!」
 慌てた様子で雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)が近くを通りかかったケルベロス達を捕まえ、ヘリオンへと誘導する。そして彼女が見た予知について話し始める。
「神楽火・皇士朗というケルベロスがデウスエクスの襲撃を受けると予知されたんだ。すぐ彼に連絡を取ろうとしたんだが、タイミングが悪いのか捕まらなかった」
 修行好きらしいからそっちに集中してるのか、それとも反応することもできないくらい差し迫った状況なのかまでは分からないけど、と悔しそうな表情。
「恐らく襲撃までそんなに時間がない。いくらケルベロスといってもたった一人でデウスエクスと戦うのは明らかに厳しい話だ。だから、神楽火が無事なうちに救援に向かってほしい」
 そして知香は予知にかかったデウスエクスについて説明を始める。
「襲撃してくるのはオークを模して製造された、ヤクトシュヴァインという名のダモクレスだ。攻撃手段は両手に持った銃による射撃、それから全身各所から生やしている光の触手による捕縛が主のようだ。精密さはそれほどでもないが、とにかく弾数と火力で押し込んでくる」
 銃による攻撃は広範囲を制圧・殲滅する事を主眼に置いているのか、ばらまくように撃ちまくったり、こちらの陣に切り込んで舞うように周囲に向けて撃ってくるようだと彼女は言う。
「戦場は十分な広さのある空き地で障害物もないに等しい。襲撃を成功させるためか、このダモクレスが人払いをしていて周りに人気がないのは救いだな」
 一般人を巻き込む心配もなく敷地内に大したものもあるわけじゃないから、存分に戦って大丈夫だ、とヘリオライダーは言う。
「今から神楽火がいるだろう場所まで飛ばしていく。できるだけ急いで向かうが、多分ダモクレスとは既に接触している。戦闘開始に割り込む形になるだろうが、もう少し遅くになるかもしれない。……ちょっと変わった形になるかもしれないが、みんなで無事に帰ってきてくれ!」
 そう言い切った知香はヘリオンの操縦席へと乗り込み、ケルベロス達を空へと導いた。


参加者
神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)
草間・影士(焔拳・e05971)
笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)
西院・玉緒(夢幻ノ獄・e15589)
朔夜月・澪歌(ヒトリシズカ・e18093)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
カグヤ・ローゼンクロイツ(赤い流れ星・e44924)
北斗・アンジュリーナ(はっちぽっちがーる・e47963)

■リプレイ

●一人じゃない
 ダモクレス・ヤクトシュヴァインが銃を構えるのと同時、神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)が二刀に手をかける。即座に反応できるのは常日頃の心構えゆえか。
 しかし、同時に周囲の状況、一般人を巻き込んでしまわないかに思考が逸れてしまう。それにより生まれた一瞬の構えの遅れを逃さず、引鉄が引かれようとした。
「皇士朗さんから、離れろーっ!」
 必死さを感じさせる大声が響き、翼を広げた影が機兵と皇士朗との間に割り込む。
 移動の間も落ち着かない様子で彼を探していた朔夜月・澪歌(ヒトリシズカ・e18093)が地獄化した翼を広げ、飛び込んだのだ。
「うちの地獄は、大事なものを守るための力なんや!」
 足が地面に触れると同時、翼を形成する地獄の炎を崩しつつ機兵に向かって突撃。炎を全身に纏わせたその突撃は躱されるも、機兵の攻撃動作は中断させられた。
「発見!皇士朗殿はまだ無事です! 皆、行きましょう!」
 カグヤ・ローゼンクロイツ(赤い流れ星・e44924)の凛とした声が響き、地に響く落下音、鎧纏う巨体が盾を構え割り込む。
「オークを模した機械兵とは、また趣味の悪いことだな!」
 朗々と言い放った鎧の白熊は笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)、ボクスドラゴンの明燦も彼の隣で戦意を燃やしている。
 その影からひとつ影が飛び出し、凍気を纏ったパイルバンカーの杭が逃れようのない正確さでダモクレスに直撃、吹き飛ばす。
 体勢を立て直そうとした機兵だが、突如起こった爆発がそれを妨げる。
「……無事?」
「ふふ。お楽しみのトコ、邪魔して悪いわね」
 パイルバンカーを構えたノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)が皇士朗に問いかけ、銃を構えた西院・玉緒(夢幻ノ獄・e15589)がその横にひらりと舞い降りる。
「面識はないけど……助けて、あ・げ・る」
 さらに、黒髪の青年が守護星座の加護を彼らに与える。
「無事か。……細かい話は後だ。まずはあれを黙らせるとしよう」
 その青年、草間・影士(焔拳・e05971)は目標をしっかと見定め構えを取る。
「緊張しますね~」
 おっとりした声色で呟く北斗・アンジュリーナ(はっちぽっちがーる・e47963)にとっては、これがケルベロスとしての日本での初めてのお仕事。
「でもでも、神楽火さんをお助けするためにがんばりますよぉ~」
「……大丈夫かしら」
 初任務に臨む、いつもと変わらぬ友の姿をカグヤはちょっぴり不安に思う。
「……そうだった。今のおれはひとりじゃない」
 皇士朗が息を吐き、構えを取る。焦りは失せ、平常の、敵に相対する姿だ。
「ならよかった、始めよう」
 その姿が答え。それを認めたノチユ、そして体勢を整えた機兵が同時に飛び出し交錯、戦闘が始まる。

●豚鬼と機械と双銃
 交錯の一瞬、ノチユが研ぎ澄まされた一撃を食らわせ勢いのままに通り抜ける。彼が振り返ると包囲の形が完成。
「お前の弱点は忘れていない。……そこだッ!」
 連携して皇士朗が敵の構造的弱点を見出し装甲の合わせ目に一撃を喰らわせようとしたが、急加速した機兵の動きを捉え切れず硬い手応えが返ってくる。さらに澪歌がライフルから魔法光線を射出するが、機兵の全身にあるブースターが生み出す機動を捉え切れない。
 しかしその急動が停止した一瞬を見逃さなかった玉緒が機兵の頭に飛び蹴りを見舞う。クリーンヒット、けれど身じろぎすらせず攻撃主へとアイライトを向ける。
「……サンプリング対象、捕獲」
「豚がベースだからって、そんなトコまで真似なくても良いんじゃない?」
 背中の開口部から伸ばされた触手が捉える前に珠緒はひらりと跳躍、距離をとる。
 その間、鐐が大盾の下から九尾扇を取り出し影士に向ければ、幻影が彼に被さり妨害の力を増幅させる。
 機械兵が突然二丁の拳銃を構える。そのまま舞を踊るような動作で全方位に無数の弾丸を放ち、近くにいたケルベロス達を撃ち抜く。
「猛き炎を持つものよ。忌わしき牙を持つものよ。我が命運切り開く為に」
 そんな激しい銃撃の中でも、影士は冷静に詠唱を続けていた。
「その身に宿りし力を以って、喰らい尽くせ、立ち塞がるものを」
 魔方陣の完成、そして言葉と同時に炎が出現。足を止めたダモクレスを取り囲むように展開し、徐々に大蛇の姿をとり、喰らいつく!
 けれども炎が消えた後には全身から光る触手を伸ばした機兵の姿。触手で身を包み直撃を防いだようだ。
「ビームなのになんだか動きが生々しいであります……」
 本物とは違うとはいえ、それを連想させるぐねぐねとした動きにカグヤは思わず後ずさる。
 オーク、その行動はとても有名なもの。それを真似して作られた存在となれば、カグヤがひいてしまうのも無理はない。
「さ、触らないで! この変態っ!!」
 ぴくっ、と触手が動き、それが自分に伸ばされたような気がして、身に纏う砲戦兵装から弾丸を放ち拒絶する。
「いっきますよ~。〈ナインティーン・ハンドレッド・ワン〉起動。音響器展開よ~し。動力充填よ~し。穿孔カード装填よ~し」
 戦場に在ってものんびりとした、アンジュリーナの声が準備完了を告げる。
「ではでは、演奏始め~!」
 その声と共に演奏が始まる。蒸気機関とパンチカードの音が紡ぎだす勇ましい行進曲は傷ついた皇士朗達を鼓舞する。
「些少ではあるが、援護させてもらうとしよう」
 さらに彼女の行進曲に合わせるように鐐の口から勇気の賛歌が紡がれ、白虎模様の翼猫、澪歌のヒナタが後方から緩やかに翼を羽搏かせる。
「奴を地獄に誘え、鬼哭!」
 展開された光の触手を卓越した技量、そして鐐の低い吼声が促した一歩の踏み込みで掻い潜り、逃れようとする機兵よりも早く皇士朗が正確にその刃を届かせる。
 けれども相手はダモクレス。その損傷を意に介さず銃口を皇士朗に向ける。飛びのく彼をばら撒かれた弾丸が追う。それが彼に届こうとした時、明燦が丸みを帯びた体を割り込ませ庇った。
「ガンスリ気取りの豚がいる――そう聞いて来たけど、銃の腕は大した事ないわね」
 精度が甘い、とガンスリンガーである玉緒がその豊満な肢体を強調するようなポーズをとりつつ機兵を挑発する。一歩間違えれば警察のお世話になりそうな際どい服装、模倣元ならまず反応しただろうがこのダモクレスはそれには乗ってこない。
 あらつれない、と銃を向け精神を集中させ爆破、同時にノチユが敵に余裕を与えないよう、凍気を纏ったパイルバンカーを狙い澄まし叩き込む。
 けれども絶え間なく攻撃を続けることは難しい。機兵が再び二丁拳銃を構えると、今度は後方への射撃。澪歌や鐐が庇い傷を請け負ったが、全ては庇いきれなかった上、護り手達に炎の痛みが刻み込まれる。
「アカン、一回立て直さな!」
「大丈夫か」
 炎に蝕まれる明燦を桃色の霧で澪歌が癒やし、影士が後衛へ星座の護りを重ねる。さらにアンジュリーナが奏でていた行進曲は流れるようにギターの調べに切り替わる。その音楽は主題通り、前衛に立つケルベロス達に脅威に立ち向かい続ける為の護りの加護を与えた。
 鐐がその巨体に見合わぬ速度で弾丸の如く突撃。迎撃の銃弾を機兵がばらまくも華やかに彩られた彼の甲冑を貫けず、白熊の勢いを殺せぬままタックルをまともに喰らった。
(「それにしても、ダモクレスって他のデウスエクスの模造品も作るのね」)
 今回はオーク、けれどもしドラゴンなら? そんな想像をしてしまい、カグヤはぶるりと震える。
「……ねぇ。襲われる理由に心当たりはあるの?」
 製造目的を考えると男で狙われるなんて相当な事だと思うのだけど、と玉緒が疑問を口にする。
「何年か前、奴と似たダモクレスと戦ったことがある。オークを模した外見や武装は同じだが、あの時より明らかに強い」
 以前の機体は試作機なのだろう、と皇士朗は推測する。
「随分悪趣味だな、アレの創造主は」
 ノチユがばっさりと切り捨てる。
(「……あのダモクレスも、何かきっかけがあればわたしのように心を持つことができたんでしょぉか?」)
 定命化してそれ程年月の経っていないアンジュリーナだ。普段マイペースな彼女も少しどけ思うところがある。
(「だが、今回も決して負けはしない」)
 幾ら強化されようと、今は頼もしい戦友達がいる。そして何よりあの時よりもはっきりとした『負けられない理由』、生き残る意志があるのだから。
「ま、殲滅される前にこっちが潰せばいいだけの話だよな」
 さっさと鉄屑以下の存在にしてしまおう。冷めた瞳のサキュバスの青年がそう口にし、疾風のような蹴りを喰らわせる。反撃としてか、開口部から触手が一気に伸びるが、組み付いた鐐に注意を惹かれ触手を彼へと叩きつけ、ぎちぎちと鎧の上から締め上げる。
(「触手というよりは光鞭というべきか、これは!」)
 動きは自在、打ち据え巻きつき縛り付けるそれは、単純な打撃や銃撃よりも防ぎ辛く面倒な『しなる』系統の攻撃。
(「……が、私の守りを抜くほどではないな」)
 完全に絡め捕られる前に全身に力を込め、光を振りほどく。それと同時、明燦が属性インストールで傷を癒す。
 距離をとった機兵が再び弾丸を撒き、戦いは続いていく。

●鉄は鉄に
 暫く戦闘は続く。
 光の触手が護り手の間を抜いて影士を狙う。彼の身に纏うオウガメタルごと強く締め上げ、動きを縛る。
「……少しはやる様だが此方も黙って受ける訳にはいかないんでな。今度は此方から行かせてもらう」
 影士が身に纏い、防御に回していたオウガメタルを腕へと集中させ、
「鋼の拳。耐えられるか」
 縛られたまま、力任せに鋼鉄の拳を叩きつけ、皇士朗が合わせ納刀していた千子景光を瞬時に抜刀、高速の斬撃を見舞った。
「治しますねぇ?」
 機兵が拳に吹き飛ばされた隙に、アンジュリーナが銀のガジェットを影士に向け、魔導金属片を吹き付ける。
 鐐と澪歌、明燦が仲間を庇い被弾を抑えている事、また、足止めの解除と機兵へのプレッシャーの付与と連携の取れた速やかな回復が有効に働き、致命的な一撃はまだ出ていない。
 機兵が銃を構え発砲、しかし寸前に鎧の巨体が立ちはだかる。
(「擬態能力については言うこと無しだな」)
 間近に見た鐐はそう思う。制圧ではなく擬態を活かした運用がされていればもっと厄介だったかもしれない。
「まあ、おかげで他に被害が出ないうちに殲滅出来るわけだが」
 変形させたナイフが閃く。それは寸前で回避されるが、カグヤが流星の蹴りを見舞い、機兵の動きを縛る。
「足が止まりました! 今がチャンスでありますよ!!」
 その声に澪歌が飛び込み、チェーンソー剣で斬りつけるが双銃を盾に防御される。しかし、
「まだや!」
 モーターが唸り、そのまま防御ごと押し込み、胴体部に傷を刻み込む。
 体勢を崩したダモクレスをジグザグに変形した影士の刃がダモクレスを狙う。鋼の拳で潰され脆くなった装甲は更に劣化。
「……略取……殲滅……任務実行」
 どこか思考回路に変調をきたしたか、全身から光の触手を一斉に展開する。その狙いは、澪歌に合わせ飛び込もうとした皇士朗。
 突然の攻撃に回避は不可能と判断した皇士朗が刀を前に守りの構えをとる。
 衝撃、は来なかった。
「……今までたくさん助けてもらったから、今度はうちが皇士朗さんを助ける番や!」
 けれど、そんな皇士朗を澪歌が庇う。直撃のダメージは大きいが、それでも彼女の戦意は衰えない。
 何よりも愛しい人がそこにいるのだから、倒れている時間などない。
 そして、愛しい人を傷つけられたのは皇士朗も同じ。
「……覚悟しろ。今すぐ屑鉄にしてやる」
 怒りを押し殺した低い声で呟いた。
「あら、お触りはダ・メ・よっ!」
 乱雑に伸ばされる光の触手を体捌きで躱し、避け切れないものは鈍器じみた双銃と銃弾で弾き飛ばしつつ、玉緒が距離を詰め双銃の銃底で殴打、守りを崩し七色の蝶の翅の形に展開した神気を羽搏かせ飛翔する。そしてすぐにバク転、真上から急襲しピンヒールを突き立て、蝶の翅を収束、弾丸として撃ち込んだ。
「この豚と遊ぶの、もう飽きちゃったわ。そろそろ、逝かせ時だと思わない?」
「ああ、そうだな。……紅蓮の猛毒。耐えられるか」
 影士が同意、描いた陣から出現した炎蛇が再び喰らいつく。重ねて召喚していた炎蛇の毒と熱がダモクレスの運動機能を阻害。
 さらに蒸気とパンチカードの音楽をバックにした、芯の通った情感たっぷりの歌声が勇壮な行進曲を作り上げ、ケルベロス達の攻撃を後押しする。
(「私も頑張らないとね!」)
 普段からぽけぽけとした印象の彼女、その姿を知っているカグヤはいつもと変わらぬ友の姿に負けじと地を割るような強烈な一撃を放つ。
「潰れて壊れてゴミ以下になれよ、ブタ野郎」
 夕日を受けたノチユの漆黒の髪が星屑のように揺らめき、銀の鈴が一つ鳴り。
 その音を機兵が認識した時にはまるで死を与える神のように冷徹な一撃が装甲を貫いていた。
「我が魂は炎にして、神を弑する灼熱の耀きとならん!」
 掲げられた鬼哭景光を中心に巨大な重力の刃が形成され、
「貴様達の野望は、おれ達ケルベロスが何度でも打ち砕く!」
 天にも届かんばかりのその刃が断罪の如く振り下ろされ、豚鬼紛いの機兵を破壊し尽くした。

●いつもの日々へ
「なべて世は事も無し。未然に食い止められたのは功名かな」
 敵が完全に機能停止した事を確認した鐐がほっと一息つく。仲間の治療と空き地の修復を終えたノチユと影士の雰囲気もわずかに緩んでいる。
「やったわね!」
 カグヤが喜びと共に皇士朗に言った。団長を救い、友人の悲しむ顔を見ずに済んだ、それは最上というもの。
「みんな……有難う」
 皇士朗が仲間達に礼を言う。
「だが、奴の仕様から言って一機だけとは考えにくい。……もっと強くならなくてはな」
「えっへへ~。なんとかなってよかったです~。……あ」
 ぐう、とアンジュリーナの音が鳴る。初仕事を終えて気が緩んだのだろう。
「それじゃ、何か食べに行きましょうか」
 カグヤがずずいと仲間達を街へと促す。それは思い切った行動ができない澪歌に二人の時間を、という彼女のささやかな気遣いを察した玉緒もそれを後押し。
 こんな当たり前の事を喜び、誰かと分かち合う心を持つことができた、それがアンジュリーナにはたまらなく嬉しくて。ほんわり笑い、同意した。

 そうして仲間達が先に帰還し、澪歌と皇士朗は空き地にふたり。
 皇士朗が澪歌にそっと近づき、
「きみのおかげで命拾いした。ありがとう」
 ぶっきらぼう、けれど真っ直ぐな感謝の言葉。
「無事でよかった……ホンマに……!」
 澪歌が皇士朗に飛びつき胸に顔を埋める。
 それは抗い難い安堵。大切なひとが、生きてここにいることを実感した衝動ゆえ。

 そしてしばらくの後、彼らもまた、当たり前の日常へと戻っていった。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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