十二単衣の抱擁

作者:千咲

●十二単衣の抱擁
 埼玉県さいたま市岩槻区――幹線道路から10分ほど車を走らせた辺り。
 桃の節句を前に、今年の出荷もすべて完了。例年通りの集中稼働も終わって、ひな人形製造の工房は、ようやく束の間の休暇期間へと突入。
 そんなある晩の事。日付も変わろうとする頃合いの工房に、突如として明かりが灯った。

 ゴゴゴゴゴッ……ガン、ガガ、ガン!
 工房の中から大きな音が響いたかと思うと、ドスンという重い音と共に工房の屋根が吹き飛び、灯ったばかりの明かりが消える。
 直後、大きな人型メカが姿を現した。
 それは、きらびやかな生地を何枚も重ねた着物に身を包んだ女性型――つまりはひな人形の女雛が立ち上がったような姿――だが、その大きさは人形のような愛らしいそれではなく、全長7mにも及ぶ巨躯。
 その巨大ロボットは、自らを封じていた地に建てられた工房を完全に破壊、街に向かってゆっくりと歩き出す。その向かう先は……岩槻の中心部か!?
 ――目的地に向け最短距離を邁進する巨体の前には、何があろうとお構いなし。潰し、壊し、砕き……。
 すべては豊潤なグラビティ・チェインを手に入れるために。

●Return to another
「みんな、集まってくれてありがとう。実は、深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)さんの予見した、ひな人形型のダモクレスが暴れる事件が現実のものになってしまいそうなの。既に、工房の全壊は避けられないみたいだけど、これ以上の被害と、グラビティ・チェインを奪われる事態だけは避けたいの……」
 赤井・陽乃鳥(オラトリオのヘリオライダー・en0110)がケルベロスたちに訴えた。
 事件が起こるのは、埼玉県さいたま市の岩槻区という街。かつては岩槻市だったのだが、十数年前にさいたま市と併合し、区となった場所。
「かつての大戦末期に、オラトリオにより封印された巨大ダモクレスが、復活にあたってボディを再構成する際に、周囲にあったものをモデルとしたのでしょう……復活したダモクレスは、ひな人形の女雛を模した姿の巨大ロボ型。ただしグラビティ・チェインが枯渇している影響で、いまは戦闘力が大きく低下している状態みたいなの。でも……もし放っておいたら、多くの人たちがいる場所へと移動し、殺戮によりグラビティ・チェインを補給しようと動くはず。そして……」
 陽乃鳥は息を呑んで言葉を続ける。
 当然ながら、力を取り戻した巨大ロボ型ダモクレスは、更に多くのグラビティ・チェインを略奪――。
「その体内にはダモクレス工場が格納されてるから、ロボ型やアンドロイド型のダモクレスが量産されることに繋がってしまうわ。だから……そんな事になる前に、この巨大ひな人形型ダモクレスを撃破して欲しいの」
 しかも、このひな人形型ダモクレスが動き出してから7分後に、魔空回廊が開くことが分かっている。
「魔空回廊が開けばダモクレスは撤退して、撃破も不可能。なので、魔空回廊が開く前に何とか、この巨大ダモクレスを撃破してね。お願いできる?」
 迷うことなく頷いたケルベロスたちの様子に、陽乃鳥は安心したように微笑むと、続けて戦場についての説明をし始める。
「戦場は、幹線道路からも幾分離れた郊外なので、到着時はあまり周囲の被害を気にしなくても大丈夫。ただ……誰もいないわけじゃないから避難勧告はあった方が良いかも。建物なんかはヒールで治せば大丈夫だと思うから、あとは敵の撃破に集中してね」
 敵はさっきも言った通り戦力が大きく低下している状態――ゆえに、今なら十分に撃破可能なはずだから、と。
「敵は着物姿に見えるけれど、布ではなく幾重にも重ねられた装甲なので注意してね。それとこの装甲、1枚1枚が薄いせいで、ダメージを受けるごとに剥がれ落ちていくみたい……けど、その分だけパワーとスピードが増していくという厄介な性質を持ってるの。そしてかのひな人形型ロボットの攻撃は鉄扇を飛ばしての遠距離攻撃と魅惑による催眠、そして全身全霊の突進と多彩な攻撃を持っているみたい。そして、この突進と同時にたった一度だけ、対象に抱擁することで更なる大ダメージを与えることができるみたいなの。ただし、これを実施するには装甲がかなり薄くなってからでないと出来ないみたいで、自身も薄い装甲のせいで一層損傷するの。もし、この自爆技にも近い攻撃を喰らったとしたら、みんなでも生命を拾えるかどうか……」
 中盤以降、もし一気に片を付けることができれば、防ぐことも可能かも知れないけれど、そう簡単ではないでしょうね――そう言って陽乃鳥は話を締めくくる。
「美しければ何をしても良いって訳じゃないもの。罪もない人を殺めようとするひな人形たちを、全力で止めて。お願いね」
 ――深々と礼をしながら、告げたのだった。


参加者
暁星・輝凛(獅子座の斬翔騎士・e00443)
深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)
塚原・宗近(地獄の重撃・e02426)
千手・明子(火焔の天稟・e02471)
蓮水・志苑(六出花・e14436)
款冬・冰(冬の兵士・e42446)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)
グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)

■リプレイ

●Stop the Hina dolls!
 ゴゴゴゴゴッ……ガン、ガガ、ガン!
 ドスン!
 極めて重そうな衝撃音と共に、工房の屋根が吹っ飛んだ。
 そして屋根を突き破るようにして姿を見せたのは、全長7mにも及ぶ巨大ダモクレス。しかも、その姿はひな人形の女雛の如く。
 ――封印カラ解放。タダチニ帰還ヲ試ミル……。
 澄み渡った闇夜に無機質な電子音が響くや、ダモクレスは手にした鉄扇を以て工房を粉砕、街の明かりを目指して歩き始めた。

 ちょうどその頃、ダモクレスの向かう少し先では、ケルベロスたちが付近の住民たちに呼び掛けていた。
「ダモクレスの出現、及び戦闘が始まる連絡だ! 巻き添え食らいたくなけりゃ今の内に全員避難しとけ!」
 ケルベロスになって間もないオウガ、グラハ・ラジャシック(我濁濫悪・e50382)が過激な口調で、人々の目覚めを促した。
 時は深夜。優しく避難を促している余裕などはない。
「さぁ戦だ。激しくなるから、とっとと逃げた方が良いよ」
 九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)も過熱気味に促した。
「ここからすぐに離れて! 暫く近寄っちゃだめだからね!」
「不良品のひな人形が暴動……破壊完了まで、避難を推奨する」
 暁星・輝凛(獅子座の斬翔騎士・e00443)、款冬・冰(冬の兵士・e42446)も更に続けた。
 着の身着のままで逃げ落ちてゆく人々を見渡しながら、蓮水・志苑(六出花・e14436)は、逐次安全な方向を指し示しながら声掛けを続け、千手・明子(火焔の天稟・e02471)が逃げ遅れた人々がいないかと入念にチェック。
 ひとしきり逃げおおせたと判断したところで、女雛撃破に向けて翻した。
「お雛様って、お姫様か王妃様かにゃ? でも、あれは、ちっともお姫様じゃないにゃ!」
 敵影を見上げ、率直な感想を漏らす深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)。
 見た目は確かに美しい。しかし、到底、姫などと呼べる行いではない。
 とは言え、そんな言葉で敵がショックを受ける訳もなく、只管グラビティ・チェインの奪取を求め市街へと向かう。食い止めねば僅か数分……しかも7分後には撤退する、と。
「時間制限か……厄介だけど、焦らずにいこう。確実に、かつ迅速に!」
 塚原・宗近(地獄の重撃・e02426)は携えた鉄塊剣に手をやりながら、意を決す。巨大なればこそ戦い甲斐もあろう、と。

●7分間の攻防
「さぁ、開始だ。勝つまでやるぜっ!」
 グラハがタイマーのスタートを押しつつ、ドラゴニックハンマーを肩に構え、初撃の砲弾を派手にぶちかます。
「砲撃体勢……ファイア!」
 その砲弾を追うように、冰がもう1発竜砲弾を放つ。2匹の竜は顎を広げるように、ひな人形に喰らい付いた。
「不良品は徹底的に破壊する……」
 続いて他の面々が一撃ずつ見舞っている間に、雨音と明子が敵の足元まで詰め寄る。
「暴れても、お内裏様はお迎えになんか来ないわよ!」
 霊力を纏わせた『白鷺』の、刃の周りに雷が爆ぜる。と同時に明子が摺り足から女雛の着物の裾を貫いた。
「大人しく、レディっぽくしろにゃ?」
 霊体の刃と化した『凛月』で鋭い斬撃を見舞う雨音。機械の裡を汚染させる。
 だが、厚い装甲に覆われし女雛は、いささかも応えた様子を見せず、前衛に立つ面々にたおやかに微笑みかける。
 ……クラッ。なぜか共感にも似た奇妙な感覚が湧き上がる。
「仲間への影響を検知。ヒール開始」
 すかさず冰が月明かりの下、通り雨のように薬液の雨を降りしきらせる。
「危ない……こちらもやり返させて貰おうか。装甲一枚で済むとは思わない事だね!」
 宗近が集中を研ぎ澄ませ、構えた鉄塊剣で強力無比な一撃を放つ。
 ――女雛ダモクレスの着物が1枚、粉々になって剥がれ落ち、さらに中にまで亀裂が及んだ。
「少女も夢から醒めるお雛様ですね。これ以上好きにはさせません、ご退場願います」
 志苑のオーラが躱そうとする敵を追い掛けて亀裂を直撃。もう1枚の着物を砕いてみせた。
 が、装甲が薄くなった分、敵のスピードが増す……。それに、すぐさま応じてみせたのは幻。抑え込むかのように紅い光の弧を描く鋭い斬撃を放つ。
「雷光団第一級戦鬼、九十九屋 幻だ。おとなしくしときなよ!」
 その切り口をさらに広げるように、雨音の斬霊刀、凛月から空の霊力が迸る。
「脱がしかけの着物……なんか、いかがわしいことをしてる気がするにゃ!」
 さらに続く攻撃を、ダモクレスが仰け反るようにして躱すと、間隙を突いて体勢を一転、雨音に向けて突進。脱がされ抱きつくなど、巨大ダモクレスでなかったら偏愛の極み!?
「でも、そうそう思い通りにはさせてあげられないな」
 輝凛がその前に立ちふさがり、巨体の突進を止める。周辺の木を薙ぎ倒すほどに後ずさるも、辛うじて突進を受け止め切った。
 直後、倒れた木から、まだ残っている木へと飛び移り、次々と渡るように上空に駆け上がる2つの影。幾度かそれを繰り返し敵の頭上近くまで跳んだかと思うと、2つは流星の如き光となって闇の中に疾った。
「これも、連携と言って良いのか?」
 敵の装甲を貫いて削ぎ落とし、着地した後に幻の方を見下ろすグラハ。
「まぁ、決まれば気持ち良いもんだね」
 そんなオウガ2人の力に触発されたかのように、宗近は地獄化している右腕のガントレットを外し、全身のオウガメタルをそこに集める。
「スピードが増そうとも、足止めを喰らえば敵じゃない」
 鋼と化した拳が機械の躯を貫いた。
 そうやって仲間たちが戦っている間に傷を癒す輝凛。
 痛みに耐えながらも、気遣う仲間には笑顔を覗かせる強さ……。
「大丈夫。敵の突撃は止めて見せるから。だから僕を信じて!」
 しかしひな人形型のダモクレスの攻撃の攻撃は突進だけではない。鉄の扇を開くと、皆に向けて投げつけようと振り上げる。
「遅い!」
 しかしその動作は大仰すぎた。明子はその間に既に女雛の懐深くまで踏み込んでいた。
「あきらさん!」
 志苑の声。同時に太刀を擦り上げた明子は、敵の腕が振り下ろされるのを阻みつつ、その着物――いや、ボディの装甲を斬り崩した。
 途中で止められ、威力が減殺された扇は、勢いなく飛び、ケルベロスたちの身体を掠める程度。
「あなたなど、それで十分です」
 白雪に雷を纏わせると、志苑は仄かな光煌めく刃先に精神を集中し、神速の突き。
「さぁ、そろそろ4分目……いつ来てもおかしくないと思え」
 グラハの忠告がこだまする。いつ来ても……とは、敵の渾身の一撃とやらのこと。
 そこで、一度距離を置いた幻が再び特攻、鬼神の角で敵を貫く。
「くひひ、装甲もだいぶ薄くなってきたね……例の攻撃が来る前に、ケリを付けようか!」
 これまで以上の攻勢に討って出るケルベロスたち。
 その中にあって冷静に敵の隙を窺っていた明子の一撃。
「有効な行動と判断。アキラ、グッジョブ」
 立て続けに邪魔をされた意識があるのか、女雛が再び突進の構え。
 が、今度は先ほどより早く兆しを察知した輝凛が、一足早く抑え込みに掛かる。しかし着物が薄くなったことで力を増した敵のパワーがそれを凌駕。輝凛の身体を弾き飛ばした。
 倒れた木に激突した彼の怪我を、すぐさま魔術の力による遠隔オペにより意識を留める。
「こうなったら、一気に決めて見せるにゃ!」
 パイルバンカーに凍気を込めて貫く雨音。
 ピキピキッ……音を立てて氷が張り詰めていくところに、グラハが突撃、大きな黄金の角を突き立てた。
 ひな人形の表情乏しい視線が彼に向けられる。
 視線を逸らせたところで志苑の太刀が一閃。流麗な軌跡からの斬撃がダモクレスの装甲をさらに剥ぎ取った。
 ――しかし。
 かなりのダメージを被っているはずの巨大女雛が、再び微笑みを見せた。決して笑う余裕などないはずなのに。
 その瞬間、前衛の面々の意識が、再び遠くに取り去られていくような感覚になる。
「すぐに癒すから……」
 が、そう言った輝凛のオーラによる回復は、仲間ではなく敵ダモクレスに向けられた。
 ???
 一瞬、何が起きたのか誰にも分からなかったが、すぐにそれが催眠によって操られたものであることを把握。
「しっかりしろ! 意識を……強く持つんだ!!」
 宗近が懸命に声を掛けながらも、自らの腕を覆う地獄の炎を全身へと迸らせると、傍目に分かるほど力が増していく――それは、勝利を掴むための最終の布石だった。

●十二単衣の抱擁
「多少の回復は気にすることないわ。その分も皆で一気に決めるから」
 明子の空の霊力が敵の全身の傷をさらに広げる。存分に痛い目を見てちょうだい……と。
「ああ、もう充分戦ったろう。ついでだ……こっちの全身全霊の一撃、受けてもらうよッ!」
 揺らぐ巨体に向かって放つ幻の究極の一撃。紅い稲妻の様な気の塊が巨躯を大きく震わせた。
「まだまだ。この一撃の重さが全てを証明する!」
 超重量の鉄塊剣を、音が遅れるほどの速度で振り抜く、宗近の一撃が残り少ない薄っぺらの装甲をさらに砕く。
 女雛ダモクレスの全身が、一層大きく傾いだ。
 もう終わりが見えた、とばかりに冰が木々を蹴り上げながら上空に跳んだ。
 その手に携えしは魔力で紡いだ氷の太刀。
「雪崩真向斬り!」
 ダモクレスの頭上から一気に斬り下ろし、
「冬月の太刀!」
 円を描くように鋭利な斬撃。そして氷華を散らすが如き一閃。
「氷華一文字!」
 ……直後、太刀は溶けゆくように儚く消えてゆく。
「ドーシャ・アグニ・ヴァーユ……」
 グラハの詠唱が響き渡る。黒い靄のようなものが溢れ出し、右腕を中心に纏わりつく。その表情は狂暴そのもの。心身ともに悪霊と化す。
「……病素より、火大と風大をここに崩さん――もう十分に生きたか? んじゃ、死ね!」
 悪霊化した黒き剛腕で女雛ダモクレスを殴りつける。

 ――崩壊を始めるダモクレスの巨体。
 その瞬間、何かの回路が振り切れたような高速移動……。
「拙い!」
 気を取り直す間もなく輝凛がその前に立ちはだかった。彼を突き動かすのは純潔なる使命感。
 そこに正面からぶち当たる女雛。そして、そのまま両手を広げて抱き締める。その力こそが自らの崩壊を一層進めると知りながら。
 ゆえに、その決死の抱擁から逃れる術はない――それでも死力を振り絞って呪詛の力を込めた斬撃を放つ輝凛……その意識が遠のいてゆく。
 仲間たちの呼ぶ声を微かに耳にしながらも、輝凛は満足げな表情で呟いた。
「僕は、……これでも、騎士だから……」
「暁星さんの想い……無駄にはしません。無慈悲な常闇の氷結、刹那に堕ちよ!」
 構えた白雪から無数の氷柱が刃となって顕現、敵の全身を斬り裂いてゆく。
「今度こそ……トドメにゃ!」
 雨音の両手の爪が獣化と共に長く鋭く伸び、無数の傷を刻み付けた。
 ダモクレスの全身から撒き散らされる鮮血だか機械油だか。ダモクレスの体躯の崩壊はついに止まらなくなり、やがて砕け散っていった……。

●動かず、騒がず……
「さすがに、派手にやったね……地面も元の形が分からないよ」
 宗近が少し呆れたように呟いた。時間の制約があったのだから已む無しと言えば已む無しだけれど。
 ヒールを持たない面々は、癒しの前に……と、重機よろしく邪魔な破片や瓦礫を端に寄せる。
「ふっ、今日も思ったより楽しめた。が、楽しんだ後は後始末が肝心だ」
 幻の癒しの拳が大地を揺らし、平坦さを取り戻す。
 そして志苑が己のオーラを大地に分け与えるようにして、大地や木々に活性を促す。
「お雛様に対する冒涜、打ち砕くことができて良かったですね。これで避難していただいた方々にも安心して戻ってもらえます」
 一方でダモクレスが出現した辺りに癒しの雨を降りしきらせる冰。ひとしきり降り注いだ後には、周辺を含め概ね元の状態に。
「……工房の原状回復、完了」
 事務的な声音と共に為すべきを終えた事を告げると、懐のナノマシン・ペーパーを取り出し、残った敵の残骸を見やりながら器用に何かを折り始めた。
「へぇ…器用なもんだな。何をやってるんだ?」
 その様子に馴染みのないグラハがいち早く尋ねた。
「お楽しみに、なのです」
 手早く折って皆に見せる冰――それは、折り紙で作ったひな人形。
「壊れた街の、いろどりね……」
 きれいなお雛様を見やり、明子が感じたままに告げた。そして志苑も表情を和ませ、優しく微笑む。
「さっきまでの敵とは違う、素敵な彩り。可愛らしいですね」
「おい、まさかコレもさっきの奴みたく暴れんのか?」
 グラハはこの折り紙が巨大になってダモクレスに……などというのを想像したらしい。
「まさか……雛人形は、動かず騒がず役目を果たすくらいが適切と判断したので作ってみた」
「そうだにゃ。人形は動かないからこそ、いい人形にゃ!」
 動き回り、ましてや暴れるなど滅相もない。
 そして、お雛様とは異なれど、和装で自在に動ける仲間たちに感心しつつ、自分には出来そうもない……と、深く思う雨音。
 夜半の街を後に、帰路につくケルベロスたち。
 帰ったら、温かいものでも飲んで心も身体も、ほっと一息……務めを果たした面々は、それぞれに思いを馳せていた。

作者:千咲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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