氷像祭と、炎の戦士と

作者:のずみりん

 地方都市の氷像祭を襲うエインヘリアル。
 大一撃でシンボルの巨大像を粉砕し、満足げに笑って虐殺を開始する。

 大剣の一撃が氷の城を粉砕する。
 ぶちまけられる氷粒、叫ぶ人々。『冬の終わりの祭典』と呼ばれた東北地方のさる氷像祭は、一瞬にして混乱に包まれたの場に変わっていった。
「寒々しいお遊びと思ったが、的としちゃ悪くねーな」
 惨劇をもたらした赤毛の巨人は侮蔑的に笑う。燃えるような闘気をたぎらせ、氷の山と化した城から引き抜いた剣を一閃。
「けどやっぱこっちだよなぁぁぁーッ!」
 炎が走り、叫びが消える。ぶちまけられる血と煤は、祭りを赤黒く染めていった。

「東北の氷像祭がエインヘリアルに狙われている」
 アリア・ホワイトアイス(氷の魔女・e29756)の警戒により確認されたという予知を、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は集まったケルベロスたちに告げた。
「敵は過去にアスガルドで重罪を犯した凶悪犯罪者がほおり出されたもののようだ。戦闘狂のエインヘリアルは炎を操り、氷像と人々を欲望のままに襲おうとしている」
 このままでは甚大な被害が発生し、人々には恐怖と憎悪、エインヘリアルに益がもたらされてしまうだろう。
「すぐに現場に向かう。ケルベロス、被害が広がる前にこの赤毛のエインヘリアルを撃破してほしい」
 祭の会場に出現した赤毛のエインヘリアルの武器はゾディアックソードのような長剣と闘気、いずれも炎めいた意匠を纏っているという。
「赤毛……火炎戦士とでも呼ぶかな? 呼称はともかく、炎をまとわせた高威力のグラビティを得意としているようだ。この襲撃先も炎使いゆえなのかもな」
 一種の敵愾心だろうか? 第一優先はエインヘリアルの撃破だが、会場を守るなら敵の火力は注意が必要かもしれない。

「市井の人々の楽しみを凶悪な犯罪者が破壊する。許しがたいです」
 相手が何者であれ見過ごせない事態だが、なおさらだとソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)は手の得物に力を込める。
「護りましょう。皆様と、ソフィアで」


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
唯織・雅(告死天使・e25132)
浜咲・アルメリア(捧花・e27886)
アリア・ホワイトアイス(氷の魔女・e29756)
ダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)

■リプレイ

●挑戦者、来たる
 赤髪を翻し、エインヘリアルの出鼻の一撃が氷の城を粉砕する。ぶちまけられる氷粒、叫ぶ人々。
「寒々しいお遊びと思ったが、的としちゃ悪くね……誰だコラァ!?」
「据え物切りは一流じゃねぇか。冬の終わりに、無粋極まりない野郎だがな」
 だが満足げに大剣を引き抜こうとするやにわ、文字通りにエインヘリアルは冷や水を叩きつけられた。卓越した闘気の一撃に赤髪が振り向けば、そこには嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)の姿。
「見ての通りのお医者さんよ。ちょいと血の気が余った兄さんに挑戦者のご紹介だ」
「どくたーにごしょーかいされた、勇名だ。相手、ぼくたちが、する。そっちの方が、氷こわすより、たのしい」
 同じ髪色、対照的な小柄さの伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)が拳を突き上げる姿に、エインヘリアルは一瞬ポカンとし、鼻で笑う。
「ガキ!? それも女かよ! こりゃ大層な挑戦者だなぁ!?」
「そういう態度は小さく見えるぜ。それに挑戦者は一人じゃあない」
 あからさまな態度にむっとする勇名だが、すかさず霧島・カイト(凍護機人と甘味な仔竜・e01725)が切り返す。
「炎と氷の対決はよく見るがまー、抵抗もしない氷相手にしたところで『つまらない』だろ? 俺たちが物理的に頭冷やさせてやる」
 バイザーを下ろし、指を一振り。かかってこいと宣戦布告。
 見れば『キープアウトテープ』がグルリと周辺を囲い、彼の相棒のボクスドラゴン『たいやき』へと伸びている。適当な柱にパチンとまきつければ、それはもうちょっとした氷のリングだ。
「私好みの、お祭りが……炎を操る、暑苦しそうな奴とか、最悪」
 会場に集まった氷の使い手……その中でもいっとう、挑発を通り越したアリア・ホワイトアイス(氷の魔女・e29756)の殺気に、エインヘリアルは歯をむき出しに笑う。
「意見があうじゃねーか。こんな寒々しい場所と祭りは最悪だ」
 大剣を切り上げるように引き抜けば、噴き出るように火炎が走る。その巨体と火力で盛大に会場を破壊してくるエインヘリアルへ、浜咲・アルメリア(捧花・e27886)は溜息一つ。
「……図体のくせにガキね。炎の方が氷より……なんて、くだらない対抗意識に巻き込まないで」
 白銀の共生者を手にまとい、切り払えば『百合白皓』の由来のままに、美しく炎が花開く。
「綺麗なものは守るわ。女の子はそういうものよ」
 有限実行。返す動作で引き絞る『Primrose』がウイングキャット『すあま』の起こす風を纏い、ダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)へと祝福を運ぶ。流れるように流麗な一動作。
「見下しやがって……」
「汝から見れば我々の方が凶悪な者なのだろう。『自分の楽しみを奪う空気の読めない猟犬ども』というところか……否定はせんよ」
 敵意を向きだすエインヘリアルだが、ダンドロはそれを是とした。バチバチとぶつかり合う年頃でもない自覚はある。
「ならば、凶悪なまでの猟犬の牙の鋭さをその身で体験するがいい」
「ぬぉっ!?」
 言葉は温く、切っ先は冷たく。オウガメタルをまとった手刀が鋭くエインヘリアルの剣を打つ。思わぬ方向からの強撃に巨人の剣が揺れて流れた。
 すかさず、空いた胴へと電光石火。羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)のグレイブがエインヘリアルを突き飛ばす。
「氷像はこのお祭りのシンボルであり、このために行ってきた努力の結晶でもあります。粗末な炎なんかに踏みにじられてなるものですか」
「知るかよそんなもん!」
 後ずさる巨人の傷は憎まれ口をたたく程度。だが目論見通り、これで展示会より敵は離れた。なにせ冬の終わりの小さな祭りだ。
 あまりに暴れまわられては、祭りの主役がなくなってしまう。
「そういう割には毎度、催し物の都度……大小問わず現れますね。あなた方……何処かで、情報収集でもしているのですか……?」
「俺が知るかよ、ヴァルキュリア! そんなの送り込んだ御上に聞きやがれ!」
 唯織・雅(告死天使・e25132)の皮肉めいた呟きに、割と律義な答えと炎が襲い掛かる。
「周辺気温、上昇してます。まだ微々たるものですが……」
「ソフィアさんは、癒しと盾を。ここで、食い止めましょう」
 ソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)のヒールドローンと、『Crystal Funnel』シールドユニットの二枚重ねで炎を受けとめ、雅はブレイブマインのスイッチを押し込む。
「はんげきー。どかーん!」
 炎を吹き飛ばす極彩色の爆発のなか、勢いと効果音をつけた勇名の蹴りが、剣を振り抜いたエインヘリアルの脛を強かに打った。

●熱く、赤く、激しく
「おあっとわぁー!?」
 脛は弁慶の泣きどころ、などと言われるが巨人にとっても例外ではなかったらしい。ヒビの入った脛当てを抑え、動きの鈍った巨人を容赦なくケルベロスたちが追撃する。
「ここまで暑苦しいと、いられるだけで災厄です。祭りのため、冷やさせてもらいます。アリアさん!」
「委細承知……その炎、消し飛ばす」
 紺の手から槍上に伸びるブラックスライムを、アリアのワイルドウェポンが追いかける。エインヘリアルへ食らいつくや、樹氷のように成長するワイルドウェポン。硬化した混沌の水へと氷の魔女の秘術が流れ込んでいく。
「冷たき力、渦巻く風、切り裂き凍り――」
「凍るかよぉぉぉーっ!」
 だがそれは熱への差し水にもなってしまったか。迫る脅威に赤髪が咆える、例えではなくエインヘリアルの肉体が紅蓮に燃え上がった。
「頭からケツまで火属性ってか、恐れ入ったぜ」
「知り合いにも熱い奴はいるが……ここまででは」
 熱波をかわし、陽治とカイトは思わずうめく。ケルベロスの上でも千差万別なバトルオーラだが、この派手さはなかなかない。要するには『気力溜め』なのだろうが、放出されるエネルギーはけた違いだ。
 陽治が降り注がせるメディカルレインも、瞬く間に霧散し痕も残らない。
「氷が怖いのですか、さすがはハリボテの炎ですね?」
「ハッ、お前らこそだろ? 俺の炎が怖いのはッ!」
 挑発する紺めがけ、炎と叫びが走った。チェーンソー剣で切り裂き、受け止めてなお飛び散る火の粉が会場へと熱をばらまいていく。
「まだまだ、次々いくぜぇ!」
「それ、だめ……っ!」
 更なる炎を走らせるエインヘリアルに勇名が飛び出す。
 祭りの邪魔はさせない、それ以上に氷像の流す涙のような雪解け水が反射的に彼女を走らせた。
「はっはぁ! いいぜ、頃合いだ! 直接ぶっ飛ばす!」
 雄たけびをあげるエインヘリアルが大剣を振りぬく。必殺の飛び蹴りを上半身だけで受け止めると、その止まった少女の身体を邪魔とばかりに打ち返す。
 拘束を破り、少女に迫る脅威にカイトは搭載する『氷結エンジンV9』を咆哮させた。
「いいだろう、のってやる……フリージング!」
 氷の防御と炎の火力、せめぎ合いに白黒つける時だ。手を覆う盟友『凍護銀涙』と共に練り上げた凍気は、たいやきの甘い香りも纏って襲い掛かる。
「戒めるは凍気、喰らうは貪狼の顎……!」
「あいにくだが! 冷てぇのも、閉じ込められんのもこりごりなんでな!」
 だがまだ足りない。
「手を貸すわ。熱くなったら負けよ」
 振るわれる大剣、アルメリアの声にカイトは反射的に身を避けた。
 燃え上がる痛みを癒す涼し気な風、顔を向ければウイングキャット『すあま』が得意げな顔。
「ち、いいところだってのによぉ!」
「それこそおあいにくさま。やりかたに付き合う義理なんてないわ」
 舌打ちする巨人へ、氷よりも冷たいアルメリアの声。百合と銀涙、二人のオウガメタルの輝きが燃え上がる剣を押しのけた。

●冷たく、白く、鋭く
 赤毛の巨人が炎と燃える。再び大地に突き立てられた剣から、火柱がほとばしりケルベロスと会場を焼いていく。
「あっちぃっ! ちょっとこれやばいぞ!?」
「肯定です。 攻撃により地表温度が上昇中……このままでは、基礎が危険です」
 ソフィアが頷くより早く、素足のまま駆け付けた泰地が素足を抑えて飛び退く。既にエインヘリアル周辺は真夏のアスファルトのような熱量だ。
「私は雅さんと癒しで支援します! ソフィアさんたちは炎対策を!」
「お任せを。これが……私の、役割です」
 フローネのドローンが雅の祈り……『MoonLight Blessing』を増幅、拡大する。
「生きる力は、魂の力。それぞれの、存在の形。今、共々に鳴り響き。いざ、生を奏でよ……」
 彼女の翼が示す月の光と夜……それが生み出す『生命の場』を紫水晶の輝きが満たし、アルメリアたち護り手の傷を癒していく。
「癒しは間に合いそうね。問題は……」
 強力な癒しを受けて攻めへ転じるアルメリアだが、またも炎のオーラが立ちふさがる。掴み寄せようとする手を蹴り落とし、空中で反転。的が大きいのはいいが、それを支える強靭さは厄介だ。
「ちいせぇんだよ!」
「悔しいけど……面積が違う……」
 アリアが放つ凍てつく創世衝波、混沌の波も長くは保たず霧散してしまう。力比べは圧倒的に不利だ。攻撃の都度にも冷却を続けてきた会場も、広がる地熱に何処までもつか。
「周りの心配してる場合か、オラァーッ!」
「ドローン大破……残1……!」
 大剣がソフィアのヒールドローンが両断して迫撃する。
 勢いを殺された大剣をダンドロは何とか、『≪ Diadochoi ≫』バスタードソードを両手に持ち替えて受けた。
「自由への気迫は命がけか……だがまだだッ」
 手足を一歩ぶんほど引きながら、ダンドロは背後の気配に素早く屈む。
「援護します!」
 迫る大剣を受け流す動き、脅威が通り過ぎる隙を紺のグレイブが強かに貫いた。
「効かねぇなぁ!」
 エインヘリアルの注意が反れる。今だ!
「防御が留守だぞ、喝!」
 身を起こすダンドロは片手を開けて鈍色に輝く『≪ Lycurgus ≫』スクラマサクスを抜剣。突き立てると同時、『【 アーケツラーヴ 】』でハンマーのごとく叩きつける。
 最適と最善を瞬時に見出し仕掛ける『【断金】』の技が、炎の巨人に一打を打ち込んだ。
「ぐぁっ!? そ、そんな針みてぇな剣一本……!」
「相乗りさせてもらうぜ、鉄鎚の!」
 振り払おうとするエインヘリアルに、アイコンタクトで陽治がライトニングロッドを抜く。銘は医学の象徴『白亜之塔』。その先端から突き立てられた戦刃めがけ、鋭く電光がほとばしった。

●アリア、挑戦する
「生物はおしなべて電気に弱い、ってな……お前さんがたに普通の生化学は通じねぇだろうが、似たような俺らのならトントンだろ」
「せーかがく?」
「チャンス到来、ってことよ」
 闘志を燃やせど、致命打と重ねた異常は癒しきれない。大変わかりやすい陽治の説明に、勇名は傷ついた体をぐっと伸ばす。
「いっぱいなぐる、ぼくのしごと」
 一発、二発、勇名の鎌が草刈りの如くバッサバッサと炎を狩っていく。癒しの数と質、ケルベロスたちが大きく勝る差が氷炎の勝敗を分けつつあった。
「あ、足の一本や二本でてめぇら如きにっ、なぁっ!?」
「三本目は、ないでしょう……あなたの足は……」
 まだ剣は届く、と振り上げた腕が大きくそれる。
 役割を果たしたキャットリングが戻ってくるのをウイングキャット『セクメト』がフゥッ、と雌獅子の声で合図した。
「合わせるぞ、アリア」
「うん……今度こそ、これで、おしまい」
 頷くアリアに先行するカイトの詠唱。追いかけるアリアの声が熱くなる会場に輪唱する。
「……閉じるは氷獄への棺! 『氷獄棺:貪狼』……」
「冷たき力、渦巻く風、切り裂き凍り、形成せ、白き花よ」
 一度は遮られた詠唱が、合わさりあって完成する。
『その欲深き者を覆え』
 螺旋へと束ねられた二人がかりの冷気は竜巻のようにエインヘリアルを襲う。炎を散らし、熱を奪い、その身に霜を振りかけて。
「く、くそ凍ってたまるかぁぁぁぁ!」
 抵抗の瞬間、集束した螺旋は花の形で結実する。それはエインヘリアルを閉じ込める『氷獄棺:貪狼』であり、『螺旋氷華』の花であった。
「凍って、凍って……砕けろ」
「炎には自信があったようですが……こちらには『氷の乙女』がついていますから」
 けして負けはしない。謡うようなアリアに合わせ、紺もまた切り札を切る。黒い影のような蔦が絡みつく『貪欲な寓話』、絡みつき、奪い、絞り上げる。
 最期の言葉もなく、氷像と化したエインヘリアルは砕け散った。

「被害状況、最小限。ですが……」
「折角の、氷像を。戦闘で……壊して、しまったのは。残念です」
 ソフィアの報告に雅は肩を羽ごと落とす。被害は最小限というが、なにぶん小さな地方の祭りだ。一つのダメージも大きな喪失になる。
 今もヒールグラビティで治せるところを治してはいるが、芸術品ばかりは……。
「そうしょげてばかりいるもんじゃないわよ。ほら」
 そんな二人の声をかけたのは、やはり復興を手伝うアルメリア。規模の小ささは悪い事ばかりでもないと、指さす先には仲間の姿。
「急拵えじゃ、精巧な物は難しいけど……どう。かな?」
「無骨なわたしにはその辺の技術は解らぬが……考えるな、感じろ。というやつかな? 精緻さは芸術の一面にすぎん」
 アリアの作り上げていく氷像へ、ダンドロはそう呼びかける。変に考えず素直に受け入れればいい、と。
「直せないなら、新しく作ればいい……」
「スタッフの方も、願ったり叶ったりだったそうですよ」
 感心したようなソフィアにそう声かけながら、紺は出来上がりつつある氷の華を共に見上げた。申し出へのフットワークの軽さ、アットホームな空気は顔の見える小さな祭りならではだ。
「どくたー、あれ、よく見えないー」
「面白いか? なら、よっと……」
 勇名を肩車して練り歩く陽治に、スタッフや観客が暖かに迎え入れてくれる。
「氷像祭りとか来るの初めてだけど、こういうのいいもんだな。俺も何か……あ、別にかき氷とかはないと思うぞ、たいやき」
 屋台へと見歩きながら、カイトは飛び込んでくる相棒をそう抱え上げた。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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