暮夜の六花

作者:長谷部兼光

●無聊の偽物
 星一つない夜だった。
 九十九折・かだん(自然律・e18614)が空を見上げれば、ちらりちらりと雪が散る。
 通りで寒い筈だ。いつの間にか、吐き出す息も仄かに白い。
 周囲を見回す。まだまだ冬の色は濃く、新たな緑が芽吹く日は当分先になるだろう。
 かだんはぼんやりそう考える。
 人気(ひとけ)無い自然公園。白雪達はただしんしんと、

 ……否。
 静寂は突如として破られる。
 一陣の烈風にまかれ、主体無く乱舞する六花達がかだんに敵の奇襲を知らせ、
「……ッ!」
 かだんは刹那、それに応じ奇襲を相殺する。
 夜を裂き、攻撃を仕掛けてきたのは、屍とも竜ともつかぬ異形の獣。
「捌いたか。流石ケルベロスと称えるべきか……」
 ゆらり、と大鎌を携えた青年が闇より姿を現す。かだんと交差した獣はそのまま青年の元へと駆け、どうやら彼が獣の主であるらしい。
「それとも所詮は紛い物と、我が従僕を謗るべきか」
 いずれにせよ、今暫くの辛抱か、と男は呟く。
「……何者だ?」
 幽かに漂う、拭い切れぬ死の匂い。それを纏うものが、まさか常人(にんげん)ではあるまい。
 殺人鬼……そんな言葉がかだんの脳裏をよぎった。
「さあて、一番最後に騙った名は……辰下・敬、だったか。何、これから死にゆくものに真の名を語ったところで仕様も無いだろう」
 青年が大鎌を振るい、獣が唸る。

「用があるのは屍体のみ。無駄に足掻いてくれるなよ。こちらの手間が増えるだけだ」
「……馬鹿馬鹿しい。てめぇの道楽なんぞに付き合っていられるか」
 かだんもまた敵を睨む。
 逃げられない。逃がす訳にはいかない。
 ……二体の連撃を、たった一人でどこまで凌ぎ切れるだろうか。

●救援
「一足遅かったか……!」
 かだんと連絡がつかない、とザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は苦い顔をした。
「彼女がデウスエクスに襲われる。その予知を覆すことは最早出来ない。だが、今ならまだ間に合うはずだ!」
 戦場となるのは都市郊外にある自然公園。
 特に障害物となるようなものはなく、周辺に人影も見当たらない。
 やや光源に乏しいが、誤差だ。こちらも戦闘に影響を及ぼす要素では無い。
 かだんを襲撃するのは辰下・敬と名乗るドラグナー。しもべを一体伴って連携し、バッドステータスの蓄積を狙ってくる。
 しもべの実力は主の敬より劣るが、敵の手数を考えれば、長期戦は避けた方が無難だろう。
 ……デウスエクスの勝手を許す訳には行かない。
 最悪の未来を回避するために、一刻も早く救援に向かわなくては。
「時間がない。文字通りヘリオンを飛ばすぞ。全速力だ。乗り心地に関する苦情は受け付ん……全てが片付くまではな」


参加者
ティアン・バ(弔弔・e00040)
クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)
桐山・憩(機戒・e00836)
カレンデュラ・カレッリ(新聞屋・e14813)
白井・敏(毒盃・e15003)
九十九折・かだん(自然律・e18614)
ルルド・コルホル(恩人殺し・e20511)
エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)

■リプレイ

●光
 偽竜が哭き、烏が囀る。
 怨嗟にも似た叫喚は惨劇の記憶を喚呼する。もう取り返すことの出来ない光景が、護るべきものを護りきれず亡くしてしまった過去が、トラウマとなって九十九折・かだん(自然律・e18614)を責める。ほんの、数十秒前の話だ。
 大きく肩で息をして、彼女の体を支える両脚(じごく)が揺らいだ。
 ……それでも、かだんは決して倒れない。
 血を払い、身を削り、臓腑を燃やし、鬼気すら纏ってかだんは奮う。
 そうだとも。ここで倒れてしまえば、トラウマだって報われない。
「聞き分けがないな。無駄に足掻くなと、そう言っただろう」
「聞いてなかったのか。てめぇなんぞにゃ付き合わねぇと、言ったろうが」
 あくまで態度を崩さぬかだんへ向けて、ドラグナー・辰下・敬は再び偽竜をけしかける。
 偽竜は即座、溶ける様に闇へ消え、跫ひとつ漏らさない。
 右か、左か、暗夜に隠れた偽竜の牙。敬は僅かに口端を吊り上げる。
 だが、偽竜がかだんへ襲い掛かろうとする寸前、夜空に熾火が瞬いた。
 ヘリオンを飛び出した直後、クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)はvictoriaに地獄を燈す。炎の刃と化したグルカナイフは空を裂き、闇を焦がしながら明々と軌跡を残し、クロハの着地より一足早く、偽竜の体を深く貫いた。
「間に合ったようですね、お待たせしました。さて、ここから巻き返しますよ。しかし……貴方はよく敵に絡まれますね、かだん」
「ああ。けど、信じてた」
「間に合ってよかったパオ。これでもう、ひとりの戦いは終わりなのパオ!」
 私は此処だとかだんが『叫んだ』声は、遥か上空にいる仲間たちにも届いていたのだ。
 クロハに渡された酔い止めを齧るエレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)は、それでも乗り物酔いで若干ふらつく体を律し、かだんを治癒の蒸気で覆う。エレコの相棒、トピアリウスは、彼女の酔いが戦闘に影響を与える類のものではないと確認すると、腕に抱えたスコップで偽竜を強か殴打する。
「中々面白い趣味をしているデウスエクスも居るものですね。ですが、生憎とその作品が完成することはありませんよ。我ら番犬に牙剥いたこと、後悔しなさい」
 クロハは、炎が消え、顕わになったvictoriaの黒き切っ先を敬へ向けた。
「ケルベロスの骸はお前にはやらない、ここでは出させない」
 かだんには、以前別の仕事で世話になった。
 他愛無い事だったから、彼女は覚えていないかも知れないが、その時の彼女の振舞いは、自分の心をほっとさせてくれた。
 だから援ける。ティアン・バ(弔弔・e00040)がこの場に駆けつけた理由は、それで十分だった。
 ティアンはゆびさきで前衛を指し示し、紙兵を幽か踊らせた。風に吹かれた紙兵達は、雪華と共に夜を舞う。
「さて。困ったな。こちらはしがない人殺し。面と向かって、と言うのは柄じゃないが……」
 吐き出す言葉とは裏腹に、偽竜も敬も後ろに引く様子はない。
 使える躯が向こうからやって来た。腹の底ではその程度にしか思ってないのだろう。
 前衛を相手取るのは面倒と見たか、偽竜は蒸気と紙兵の頭を飛び越えて、メディックたるエレコに奇襲を仕掛ける。
 桐山・憩(機戒・e00836)はそこへ強引に割って入り、偽竜の攻撃を受け止めた。
「かだんを殺して奪うだと……? テメェ、ブッ殺すぞクソ眼鏡ェ!!!!」
「ほう。活きが良い。藪をつついた甲斐もあったか」
 偽竜の攻撃を凌ぎ切ったばかりの憩目掛け、敬は大鎌を玩ぶようにくるりと回し、その命を斬獲せんと振り下ろす。
 しかし憩は即座、縛霊手纏う右腕を突き上げ、怒りのままに大鎌へぶつけた。
「死んでも殺す。テメェはそれだけの罪を口にした!!」
 鎌撃を弾いたと同時、憩はウイングキャット・エイブラハムの羽搏きと共に前衛へヒールドローンを展開し、
「闇討ちとはええ度胸やのう? 当然お前らもそれなりに覚悟決めとんやろな?」
 白井・敏(毒盃・e15003)がその間隙を縫うように、点滴台――ライトニングロッドより雷を疾らせる。
「おい、ヘラジカ。べっちょないんか~?」
 不要だったナイロン袋ごと偽竜を焼き切ると、敏はかだんをゆるりと見やる。
 かだんはそれに応じるように咆える。永い永い哮けりだ。春を呼び、畏怖を呼び、命そのものを掻き回すその咆哮は、彼女が健在である証そのものだった。
「お~。お元気そうで何より」
 もし、かだんが腑抜けていたのなら発破の一つもかけてやろうと思っていたが、いらぬ心配だったらしい。
「無事か? なら良かった。ここに来るまで、酷い道程だったが……王子の野郎……!」
 終わったら覚悟してろよ、と、ルルド・コルホル(恩人殺し・e20511)は闇夜を仰ぐ。
 冗談の類かと思ったが、王子の運転は本当に、筆舌に尽くしがたいほど荒かった。
「敵中に独り戦う恐怖! 仲間を失うかもしれない焦り! 戦場を覆う狂騒! いいねェ、売れる記事になりそうだ。やっぱ紙面ってのは、こうでなくっちゃな」
「……カレンデュラ。お前、別の意味で酔ってるんじゃないだろうな?」
「いいや、素面だ。まぁ、酔い覚ましの迎え酒なら何時だって大歓迎だが」
 ルルドの言葉に、カレンデュラ・カレッリ(新聞屋・e14813)は飄々とした調子で返す。
 軽口の裏側には、かだんに対する信頼があった。
 彼女ならこの程度のアクシデントなど物ともしないだろう、と。
「何にせよ、勝利の美酒に酔うのはこいつ等を倒した後で、だな」
 ルルドは惨殺ナイフ・オドーラに眩い雷を奔らせると、間髪入れず神速の刺突撃で偽竜を穿つ。
 ルルドの一閃とは対照的に、カレンデュラのリボルバー銃・静寂のルネッタより放たれた弾丸はあちらこちらに飛んで跳ね、不規則な軌道を散々描いた後、正確に偽竜を射抜いた。
「よう、生きてるか? 一応助けに来たぜ」
「今死んだ」
「マジか」
 かだんはカレンデュラへ雑に返す。
「まぁ、だったら仇もちゃんと討たないとな……悪いがあんたらには、俺の飯の種になってもらうぜ」
 腰に下げたランタンのわずかな光が揺蕩う。
 リボルバーの照準越しに、カレンデュラは敬を睨んだ。

●死
 鎌にぶら下がる髑髏が擦れ、乾いた音を立てた。
 死の匂いがする。
 死者を、冒涜する匂いがする。
 あの獣は偽りの竜なれど、しかし、命としては。
「――どれ程、殺して来た」
 率直に、かだんは問う。
「大した数じゃない。精々……お前の想像の倍くらいだろう」
 それ以上の応酬はいらなかった。
 かだんは流星の煌きを宿した脚に全体重を乗せ、偽竜を踏み貫く。が、偽竜はそれでもかだんの地獄を脱し、前衛を撹乱する。
「お願い、みんなを守って、パオ」
 エレコはそれに対応し、『生命湧き』のゴーレムを錬成する。
 ゴーレムたちは味方を警護すると同時に治癒し、彼らが側に居るだけでケルベロス達の免疫力が飛躍的に高まった。
「我輩がなおしてあげるのパオ、みんな安心してなのパオ!」
「ナイスエレコ! こいつがあれば百人力だ!」
 トピアリウスの応援動画にも背を押され、石化の呪縛を脱した憩は巨大な鉄塊と見紛うほど武骨なチェーンソー剣・Dreadnought's Roarの刃を自壊寸前まで高速回転させ、勢いのままに偽竜を斬り刻む。
「ドラゴンは仇だ。ドラグナーとて同じだ。ころしてやる、かならずだ」
 朧に燻ぶるのは、黝い炎。死者を冒すような真似を気に入る道理もない。
 刃の音か獣の悲鳴か、金切声が途切れると、ティアンは静謐を保つ自身のオーラをカレンデュラに譲渡した。
「助かったぜ、ティアン嬢ちゃん。このまま石像化したら、世界的芸術作品になっちまうところだった」
 気力を受け取り、快癒したカレンデュラは、リボルバー銃の弾倉にグラビティチェインを込め、手足が届くほどの至近距離から高密度のグラビティを偽竜へ放つ。
「言うて、記者やるよりそっちの方が儲かったりして。なんて」
 冗談もそこそこに、敏が懐より取り出したのは芥子によく似た攻性植物・タマちゃん。
「エエ子や、なぁ? タマちゃぁん」
 タマちゃんはライフルと砲手――敏の体に深く寄生すると、双方の魔力が高まり、本気を見せてやろうと敏の指を引鉄へ導く。
「ワイと一緒にイけるとこまでイってみようや!!」
 魔力。毒液。花粉。全てが一体となった魔弾は、広範囲を一気に埋めつくす豪華な牽制射だ。
 タマちゃんの本気に紛れ、ルルドは一息偽竜に迫る。
 ……混ぜられている。人と獣の区別なく。偽物の竜を観察したルルドはそう感じた。
 技術体系はまるで異なるが、恐らくこれは、いいや『これも』、本物に至る過程で生み出されてしまったモノなのだろう。
「報われねぇな。お前も。誰かの都合で玩ばれる奴はいつもそうだ」
 一斬、偽竜の腹を裂き、
 二斬、ルルドは偽竜の首を狩る。
「……獣、お前もほろぶといい」
 ティアンの眼差しに見送られ、偽竜はようやく眠りの時を迎えた。
「完全に消滅したか。惨い事をする。これでは二度と蘇るまい」
 偽竜を失った敬は、虚空に手を伸ばす。
「定命の者の一生は、この暮夜の六花の様に淡く儚い。いずれ瞬く間に消えて失せる……何の事は無い。私はその刻を、少々早めたに過ぎない。屍目当てでな。お前達とて、どうせ最後には焼かれ埋められ壊れるのだろう? 勿体ない」
 烏が囀ると、物理法則を無視した挙動でクロハに迫り、硬質の嘴で彼女を啄む。
「屍。そう、『死』だ。不死のデウスエクスすら恐れるその属性こそが、真にこの星を支配している。故に私は――」
 クロハの間合いを詰める一足に、烏はついていけなかった。電光石火の蹴撃を敬へ浴びせ、強制的に彼の口を塞ぐ。
「……生憎と貴方の道楽に興味はない。お遊びの時間は終わりですよ」

●相反
 ダメージ、と言う形で偽竜の痕跡は残っていた。
 ルルドはグリフォンブーツに魔を降ろし、敬の鳩尾を蹴りぬくと同時、そこから彼の魂を貪った。
「もらうぜ。その力」
 怯んだ敬は大鎌を杖代わりに何とか堪えると、夜陰に紛れ接近し、ティアンの死角を取る。
 しかし憩が再び仲間の盾となって鎌撃を防ぎ、刹那、カレンデュラは伏せろ! と彼女に退避を促す。
 憩が身を屈めた刹那、拳圧が彼女の頭上を掠めた。カレンデュラは敬の急所に拳を打込み、続けて淀み無く頭突きを見舞い、更に飛び退りながら回し蹴り、ついでとばかりにもう片方の足で雪を蹴りあげ視界を塞ぎ、ありったけの弾丸を叩き込む。
「カレッリィ!」
「そう怒んなって。上手く行ったんだから良いだろ?」
 最後に憩の抗議を受け流し、カレンデュラの強襲は幕を下ろす。
 そして、次の舞台は業火の海。
 ……守られるばかりの弱い子供じゃない。
 自分にだって、戦える。
 誰かを、守れる。
「――はは」
 決意と共にティアンの胸元から溢れ零れた黝い炎は、天地の白雪全てを灼き尽くす。
 炎に彩られたフィールドで敬が相対するのは、もう一つの炎、クロハ。
「どうぞ、一曲お相手を」
 地獄と化したクロハの両脚が、陽炎の如く揺動し、目にもとまらぬ速さで連撃を叩き込む。
 手負いの筈のクロハの蹴撃は、しかし一撃毎に威力を精度が研ぎ澄まされ、まさに炎舞と呼ぶに相応しく。
「さすがクロちゃん。ワイも負けてられへんなぁ」
 敏はバスターライフルのスコープを覗き込む。
 標的は二つの炎のさらに奥。些か難儀する位置だが、しかし、この場面で緊張するのも柄じゃない。
 平生通りの心持ちのまま放った光線は、それがさも当然の事と言うように、業火の海を掻き分けて敬の躰を貫いた。
 ビームの残光を目印に、憩はドラグナーの元へ辿り着く。
「お前を、逃がしゃしない!」
 蝶継鎧。叩き当てた一撃は、相手の『生命力だけ』を抉り取る。変換された生命エネルギーの影響で、剥き出しになった機械の四肢は赤い燐光を放ち、傷を覆うように全身へ纏わりつく。
 ……身体が潰れても関係ない。
「髪一本残さずブッ飛ばす!」
「ならば……!」
 追い詰められた敬が、聞きなれない――恐らく地球の物ではないのだろう――言語を口ずさむと、突如として酷く濃厚な死の匂いが立ち込める。
 ケルベロス達は総毛立つ。死と腐敗を従える何者かが、此方を覗き込んでいる。そんな気配がしたが、直後にあらゆる病毒を孕む死の霧が全てを遮った。
 烈風が吹き荒び、死の霧は死の嵐となって前衛を徹底的に侵食する。
 かだんは咄嗟、憩を庇って二人分の毒を受け、
「……やはり、『まだ』」
「いいや。『もう』。これで終わりだ」
 それでも尚、立っていた。
「かだんさん、いっけー! なのパオ!」
「ああ。任された」
 エレコのルナティックヒールと、エイブラハムの清浄の翼を受けたかだんは、オウガメタルをその身に纏い、自身の拳へ全てを収束する。
「生者の権利、死者の自由、全てを蹂躙、しやがって」
 生者のには健やかに生を全うする権利がある。死者には安らかに眠る自由がある。
「私の身体は、私がこれまで食ってきた亡骸の、墓だ。そして盾だ。つくりも、地獄も、業も、良質だろうが……てめえが使うにゃ役者不足だ」
 両の地獄(あし)でしかと大地を踏みしめて、
 何よりも重く、真っ直ぐに、命の冒涜者を叩き砕いた。

「お前が、呪われるべき、本当の名前は?」
 かだんが最後、敬に訊く。
 しかし敬は最期の力で鎌を振るい、かだんの頬に一筋傷をつけ、嘲るように顔を歪めながら消滅する。
 その答えは、拒絶。
 ……最後まで、相容れる事は無かったか。

●命
 ティアンと敏が戦場にヒールを施して、公園も粗方きれいに整った。
「エレコ、怪我は?」
 実の娘を気遣うように、クロハはエレコの身を案じる。
「全然平気なのパオ! ヘリオン酔いだってどっかいっちゃったのパオ!」
 エレコの笑顔に、クロハはほっ、と一息つく。
「……無いなら良いんです。皆、無事なら何よりだ。それでは帰りましょうか」
「帰る、つってもな」
 ルルドは再び、空を見上げる。恐らく帰りは問題ないだろうが、それでも今日はこれ以上、ヘリオンに乗る気は起らない。
「だったらメシ連れてってぇや~。働いたらハラ減るし」
 ヒールもそこそこに、敏は大人たちへウザ絡む。
「そいつはいいな。奢りだったら付き合うぜ」
 カレンデュラも敏に乗りかかる。
「ほら、ヒールが終わったんならティアンちゃんもこっちにおいで。カレンデュラはんが奢ってくれるって」
「ははは……うん?」
 カレンデュラが気付いた時にはもう遅い。
 いつの間にかそう言う事になっていた。

 憩はかだんの角にそっと触れ、何も言わず、目と目で意思を疎通する。
「腹へった……食べる」
 そう発したかだんに、憩は持参したサンドイッチを差し出す。
 今だけは、何かを腹に納めたいという少しの甘え。
 かだんはサンドイッチを両手で持って、

 全ての命に。
「――いただきます」

作者:長谷部兼光 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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