電子の鍵盤が輝く時

作者:baron

『ピ♪ ピッ♪ コシッュ……ピ♪』
 リズムの途中で気の抜けた音を出しながら、ゴミ置き場でゴトンと騒音がした。
 いや、朝方だったので、リズムのある音の方も騒音かもしれない。
 それでも迷惑と言う意味では、これから起きる出来事よりはマシだったろう。
『ピー!』
 けたたましい音を立てながら、ゴミ置き場が爆散したからだ。
 轟音レベルに拡大された電子音が鳴り響くと、まるで弾丸の様に周囲を破壊し始める。
 そして郊外に在るゴミ置き場から、町中目指して騒音を立てるナニカが移動を始めたのである。


「とあるゴミ置き場で回収を待って居た廃棄家電が、ダモクレスになってしまったようです」
 ユエ・シャンティエが地図を手に説明を始めた。
「一度にたくさん集めてまとめて持って行くために、郊外にあったよおですが、放置すれば被害者が出てしまうでしょう。その前にダモクレスの撃破をお願いしますえ」
 地図をテーブルの上に置いた後、ユエはとある商品のカタログを開いて説明を続ける。
「ダモクレスの形状は電子鍵盤。電子オルガンとかそおゆう類になりますわ。ピ・ポ・パ出音が出るお小さいピアノなんやねえ」
 メーカーによって名前は違うのだろうが、開かれたカタログにはエレクトリック・ピアノといった意味の言葉が書かれている。
 見たところ一部の譜面を入力してある様で、自動で音楽を鳴らしたり、御手本として鍵盤が光ったりするらしい。
「グラビティに関してはガトリング砲使いのレプリカントの方が近い様ですなぁ。まあ参考にしとるだけなんで、手足は無い様に見えても格闘できる様なんやろけど」
 ユエはそういうと、ポジションはジャマーだと付け加える。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスは放置できませんわ。よろしゅうお願いしますえ」
 ユエはそう言うと、地図やカタログを置いて出発の準備に向かったのである。


参加者
ルヴィル・コールディ(黒翼の祓刀・e00824)
ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)
隠・キカ(輝る翳・e03014)
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)
霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)
立花・吹雪(一姫刀閃・e13677)
龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)
九尾・珠藻(自称暗黒太陽神ヒュペリオン・e42760)

■リプレイ


「今日は不法投棄じゃなくてゴミ置き場だっけ?」
「素材がどこにでもある以上、どこからでも発生しうる……っていうのが、怖い所よね」
 ルヴィル・コールディ(黒翼の祓刀・e00824)の質問に対して、ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)は独り言の様に呟いた。
「とはいえ、いつどこに出てくるか予測なしじゃ予想もつかないのがデウスエクスか」
 もともと話すのが得意ではない彼女は、ひとまず頷くことで相槌を打った。
「こっちは全然問題無いわよ。いつでもいける」
 仲間が確認する前に比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)は殺意の結界を張り、誰も近づかない様にしておいた。
 これで自分達ケルベロスとてkぢ絵あるダモクレス以外に誰もいまい。
『ピー♪』
「よ~し、敵も出て来たことだし頑張っていくぞ!」
 ルヴィルは走りながら弓を取り出し、音源に向かって矢を放つ。
 そして翼を広げながら、敵の攻撃を受け止めたのである。ガンガンと降り注ぐパルスが彼を引き千切って行った。

 ゴミ置き場で巻きあがる爆煙とスパーク。
 一種遅れて廃棄処分を待つ機械達が落ちて来た。
「きっと、たくさん弾いてもらったんだね。音が鳴らなくなるまでこわれるまでずっと」
 隠・キカ(輝る翳・e03014)は落ちて来る家電を並べ直しながら、もう動くことが無い犬型ロボットやディスクシステムを撫でてあげた。
 そして黄金のリンゴを椅子に玩具のロボットを掲げた。
「悪ぃ。死ぬかと思った」
「どんと、もあい。どんまい? きぃだけじゃないから、きにしたらだめ」
 破れて居たルヴィルの翼が元の形を取り戻し、尾は外側に行くほど赤くなる黒い尾を再生して行く。
 キカは力を貸してくれた家電製品達の力だと告げて、玩具のキキを撫でてあげる。
「電子ピアノ、か。……昔はピアノ結構弾いたっけ。だからといって手心は加えないけれどねッ! どんな暗闇でも、心に宿した光がある限り歩もう。魂が唄う限り」
 ユスティーナはルヴィルの傷がまだ残っているのを見ると、お菓子であり薬でもあるドロップを口に入れながら唄い始めた。
 この戦闘が終わったらちゃんとしたお菓子を食べようと御褒美効果を期待しつつ、心を奮い立たせてその力を仲間に伝播する。
 心を伝えるグラビティだけに、彼女が魂から奮起せねば効果が薄いのだ。
「朝っぱらから五月蠅いね、近所迷惑になるから早く破壊しないと」
 その間に黄泉は戦場を走り込み、フェンスを蹴って三角飛び。
 できるだけ高い位置から体重を掛けながら角度のある蹴りを放ったのである。
 おくしてケルベロスとダモクレスの戦いは始まったのである。


「出番か! 混沌より出づる妾の封じられし力の一端、その魔術の妙技を見せてくれようぞ!」
 この時、九尾・珠藻(自称暗黒太陽神ヒュペリオン・e42760)は内心ビビっていた。
 これが初陣と言うのもあるが、さっきに何気にルヴィルが千切れ掛けて居たのである。
 いかにドレミファソラシドの連打を一オクターブ分受けたせいだとは言え、でぃふぇんだーでなかったら危険だったかもしれない。
 イメージトレーニングで積んで来た顕さんと違って、実戦の空気は厳しいのではあるまいかと不安に襲われてしまったのである。
「どうされました? もしや流れ弾で……」
「委細問題無い……くっ、敵の反応に我が御霊の深淵より荒ぶる力の制御ががが……こ、これが世界が決めた選択であったか……!?」
 立花・吹雪(一姫刀閃・e13677)が心配してくれた時にいたたまれなくなって、とっさに腕を押さえて恰好良いポーズで誤魔化した。
「世界の選択……ですか? そこにはどんな力が……」
 あまりにも厨二病なポーズであったが、幼いころから修行明け暮れ人の良い吹雪の事。
 咄嗟の嘘を信じてしまったらしい。
 ああいかん、これでは誰かさんと同じ状況。引っ込みが付かないではないか。
「フフハハハ! 妾こそ暗黒太陽神の末裔にして、混沌の主、マスター・カオスと契約せし者! 魔法少女ヒュペリオン・バレンシアじゃ!! これでもくらえい!」
 珠藻はとある地域密着型秘密結社の大首領がそうであるかのように、仕方無く動き出す事にした。
 時と止まれ! と叫びながら石化の力を解き放ったのである。
「世界の選択が混沌? よく判りませんが……楽器という人々を楽しませるためのモノを悪用するのは音楽を愛する者の一人としても許せませんね」
 吹雪はなんとなく、世界の選択と言う言葉は歌詞のようだと思った。
 もしかしたら詩を連ねて決意表明とする歌なのかと前向きに考えつつ、きっと珠藻もまた音楽を愛する人なのだなあと考えてみる。
「いずれにせよ、ここで止めさせていただきます!」
 吹雪は抜刀するや足元に散らかるゴミを巧みに避けながら走り出した。
 鋭い斬檄で装甲を切り割きつつ、次なる仲間の為にその場を離れる。一撃離脱を掛けてその場を譲ったのである。
「メディックとサーヴァントのサポートがあるとはいえ、面倒なことになる前に大勢を決したいな」
「そーだなァ。さっきみたいなのは勘弁だぜェ」
 龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)と霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)は先ほどの光景を思い出しながら、敵を挟みこむ様に両脇を駆け抜けた。
 なにせ敵が最も得意とするであろう技だったのだろうが、たまたま全力で機能したのだ。
 おかげでロクでもないダメージになっており、翼猫のノラたちも回復サポートに回らざるお得なかった。油断せずに回り込むのも仕方あるまい。
「まずは動きを止める」
 隆也の蹴りがダモクレスにヒットし、勢いを付けて仲間の方に追いやった。
 そして自身はバックステップを掛けて助走距離を取る。
「そうらァ。今の内に防壁建てとくぜェ」
 悠はその間に剣を大地に突き立て星剣の加護を降ろし、隆也たちの回りに障壁を立てる。
『ピ♪ ピッ♪ コシッュ……ピ♪』
「来た来たァ」
 けたたましい音を建てるサラウンドが、周囲に爆音を奏で始めた。
 それに合わせて悠は次なる手を打ち、雷鳴の壁を建てることで傷を相殺しようとする。
「いくぞ」
 その頃には隆也は再び敵に接近し、無造作に手刀を振り下ろした。
 膨大なグラビティが指先から掌に走り抜け、ただの手刀が聖剣に匹敵する威力を見せる。
「さっきの程じゃないな。しかし、いい電子音……い、いやうるさいな? 今片付けるからな!」
 ルヴィルは体に走る痺れを歌で取り払いながらも、先ほど程の脅威を感じなかった。
 出会い頭に強烈なのを喰らった事や、負荷を与える為の技であり範囲攻撃であることも影響しているのであろう。


「あとで、ちゃんとなおすからね」
 それほどダメージがなかったこともあり、キカは傷の回復を仲間に任せつつ予定通りに後衛に防壁を張った。
 そして砕け散るティーポットや魔法瓶を見ながら、後で直してラーメン専用にしようかなあと首を傾げたのである。
 こうして戦いは佳境に至り、苛烈な攻撃の応酬になって行く。
「まだ耳が鳴ってる気がする……。これで直撃してないなんてね」
「庇ってもらって感謝はしてるわ。その分、こっちでお返しするから」
 ユスティーナは一番傷の深い仲間を治療する為に唄い始め、黄泉は洗濯機を足場にジャンプ。
 大上段から斧を振り降ろして、電子オルガンを粉砕しに掛った。
 一同は包囲しながら徐々に攻勢を始め、防壁を立て、回復を繰り返しながら敵の体力を徐々に削り取って行っているのだ。
「少しだけ安心しました。音痴なのは私だけではないのですね」
 吹雪はホっとしながら刀を振りあげて、手や足はどこだろうかと探りながら攻撃する。
 途中で面倒になり、円を描く様に四方を切り割くことで代用をすることにした。
「フフフ。混沌と契約すれば今なら漏れなく歌が上手くなるのじゃ。なにしろ魔法少女と言えば歌ってなんぼじゃからの」
 珠藻はノリノリで出まかせを口にしながら、スライムを槍の様に固めた。
 何ですとー!? と信じそうになった誰かさんを尻目に、踊るように槍を投擲する。
 一瞬、我と契約して魔法少女になって世という幻想が頭に浮かんだが、気にしないでおこう。

 それから二順・三順の時が廻り、戦いは一層激しくなっていく。
 巻き込まれて吹っ飛ぶ家電は指の数を既に越えており、コードやボタンが無数に散乱して居る。
「だいじょうぶ。あなたがみんなをこわさないように、きぃがここにいるよ、みんなここにいるよ」
 ここは夢の島、故郷の工場、あるいは子供達が見た夢の続き。
 目を閉じてればいつでも思い出す、そんな光景をキカは思い浮かべながら唄って行く。
 キカは大きなノッポの古時計が人々を見守った様に、思い出を持って時間と仲間を修復する。
「追い込むぞ」
「了解。そろそろケリを付けたいよな」
 隆也のハイキックがダモクレスをカチ上げ、上体(?)が浮いた所に仲間が迫る。
 追い討ちとばかりにルヴィルは針を投げつけた。
「付喪の針よ! この楔は打ち抜く楔、心惑え、その場に留まれ」
 ルヴィルが投げたのは巻き込まれて壊れたミシンの針であり、グラビティを持ち居てダモクレスを縫い止める。
 重力の糸で固定して、一斉攻撃の下準備を始めたのだ。
「じゃあァ、こいつも剥いどこーなァ」
 悠の延ばした手は夕日で延びる影のよう。
 それはブロッケンの巨人のように大きくなって、ガッシリと掴んでダモクレスの装甲を引き裂くのだ。


「行くぞ必殺のおおぅぅ!」
「いつでも必殺だけどね」
 珠藻が心臓でも握り潰しそうな感じで拳を握り込むと、スライムが電子オルガンを包み込んで行く。
 バシュっと弾けて飛び出したところを、黄泉が蹴り飛ばしてその中に鎮め直した。
「剣術だけでは無いところをお見せしましょう。射ち貫きます!」
 吹雪は弓に指を這わせると、額に押し当ててから弦を引いて行く。
 そして祈念と共に霊力と意志の力をグラビティで矢に変えて行った。
「春の名残雪、夏の山風、秋の朝霜、冬に積もりたる銀嶺の如く。この一撃は外しません! この矢は的中の一矢也!」
 音痴であることを自覚している吹雪は、歌うのではなく珠藻のように力強い言葉を詩として唄ってみた。
 儀式系の武芸にはこうやって気合いを乗せる方法もあり、音で魔を知りず蹴る梓弓のようなものもあったなぁ……と考えながら指を開く。
 豪風によって巻き起こされた風は凍るような寒さを矢に集わせ、霊力によって造られた氷の矢を放ったのである!
「効いてる! あとちょっと見たい」
 グラリと傾くダモクレスにユスティーナは体力の限界を見た。
 あと少しで倒せるのだと皆で頑張ろうと、一途な気持ちを力に変えて高速で振り切ったのである。
「後少しならば回復も不要だ。これで十分!」
「これで貫いてあげるよ」
 隆也は傷を無視して鉄拳を固めると、音波の壁を越えて鉄拳を浴びせる。
 それに合わせて黄泉も飛び込み、力一杯に斧を叩きつけた。
「よかろうなのだ! ナインテイルマジック・ラジカル・ケラヴノス!! 雷よ、解き放て!!」
 珠藻はスライムを蹴っ飛ばして天空で中味を開放。
 不運しておいた魔法陣を一筆で空に描き出す。
 それは空を浸食し天空を虚空に換えて、雷雲を呼び起こした。その力を一点に集約し、雷撃を放ったのである。
「なんかバチバチ行ってるな」
「私が絶縁します!」
 ルヴィルが矢を放つと雷に吸い寄せられるように突き刺さった。
 その言葉で吹雪は空を切り割き、敵の周囲を切り取って封印。力をその中で何度も往復するように切り裂いた。
「えと、どう、しようか」
「あー俺がやっとくぜェ。ケド倒せなかったら頼む」
 キカは悠の言葉に頷きながら、物言わぬ廃棄家電達の無念を力に変えた。
 それが石化の力を発揮するよりも早く、家電の周囲から姿なき猫たちが飛び出してくる。
「ねこ?」
「うん。にゃあ、お」
 影で出来た猫たちは、声だけが自己主張。
 にゃんにゃんと鈴鳴りに、夕方なら普段は見ないカラスが数羽一度に見受けられるように、次々に現れてダモクレスに絡みついて行った。
 そして気が付いた時には、ポトンとダモクレスは崩れ落ちたのである。

「終わったか。人を楽しませる為に生まれたんだ。人に害を与える前に壊せてよかったと思っておこう」
「こうして少しずつでも、事件が起こる可能性を潰していければいいわね。……役目を終えたものには、静かに眠っていてもらいたいものだし、ね。きっと、役目を果たしてここに来たんでしょうから」
 隆也は動か無いことを確認すると、残骸を整理し始める。
 ユスティーナは頷きながら、まだ直せる物は修復して元の形に直して行った。何せ周囲には処分場に送られる筈の家電が巻き込まれて砕け散っていたのだ。
「片付けして帰ろうか」
「手分けすれば直ぐでしょう」
 黄泉もそう言って手伝い始めると、ユスティーナは頷きながら歌を唄う。
「音楽は。ヒトを癒す効果も在るらしー、し。出ない音が出来ちゃったのは、使い込まれたかも。だし、? 其れを奏でるコトが出来る、モノが。こーして何かを壊す、てのは。哀しい、かね」
「かなしいね。ほんとはこの子も直せたらよかったのに」
 悠がお祈りするかのように呟くと、キカと一緒に周囲の家電をヒールし始めた。
 さっきにイメージがあったからか、変異修復された犬型ロボットはどこか猫に見えなくもない。
「待てよ。この電子鍵盤の残骸……組織の者たちならば、我が封じられし力を制御する暗黒デバイスとして……」
「この子にもヒールを使ってみて、演奏できないか試してみようかな? 歌は苦手だけど演奏だけなら……」
 珠藻に真銘はマジカル・ブッキーはどうよと言われて吹雪は照れながら、調子はずれなハミングで元ダモクレスのオルガンにヒールを掛け始めた。
「歌は込められた想いと熱意が大事なのです!……下手でも回復はしているから大丈夫だよね?」
 吹雪は少しだけ恥ずかしそうにしながら、幾分か小さくなったオルガンを見つめたのである。
「よし、片付けられたかな? 持ち運ぶならアームドフォートにでも入れれば良いと思うぜ」
 その姿を見てルヴィルは一件落着と言いながら、小さな水筒を取り出して口に運ぶ。
 不思議と陽気になって歌い始める彼と共に一同は帰還を始めた。
 こうして平和は守られたのである。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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