風花に伸ばした手

作者:雨音瑛

●桜咲く公園
 夜の空を、桜の花びらと雪が舞っている。
 厚手の手袋をした少女は白い息を吐き、背伸びをした。
「よし、つかまえた! ……と、思ったら雪かあ、残念」
 もう片方の手には、温かいお茶が入ったペットボトル。蓋を開けて、一口だけ飲む。
「ここに来てから1年、あっという間だったなあ。友だちもできたし、吹奏楽部も順調だし、家族とも問題ないけど……気付いたらここに来ちゃうんだよね」
 なんでだろ、と首を傾げて、少女は幹に触れる。
「引っ越してきて最初に見つけた綺麗なもの、だったからかな? ふふ、今年も綺麗に咲いたね」
 ぽんぽんと幹を叩き、またお茶を口に含む。
 夜風に紛れて、花粉のようなものが飛んでいる。それは少女の目に留まることなく飛来し、桜の幹にとりついた。
 すると桜の木が揺れ始め、枝を伸ばして少女を絡み取る。
「……えっ、なに、これ……!? だれ、か……!」
 ペットボトルが落ち、伸ばした手も枝に絡め取られてゆく。
 静かに雪が積もる夜の公園で、攻性植物と化した桜が動き始めた。

●ヘリポートにて
 徐々に温かくなってきた今日この頃ではあるが、デウスエクスの活動は留まることを知らない。
 香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)の懸念から予知をしたウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)は、雪降る夜に早咲きの桜が攻性植物となって少女を襲うことをケルベロスたちに告げる。
「襲われた少女は宿主にされてしまっているようだ。君たちに頼みたいのは、攻性植物の撃破なのだが……」
 手元に資料に一度視線を落としたウィズは、顔を上げ再びケルベロスたちを見渡した。
「取り込まれた少女は攻性植物と一体化しているため、普段通り撃破すると彼女も一緒に死んでしまう」
 しかし、とウィズは言葉を続ける。
「攻性植物にヒールグラビティを使用しながら戦うことで、戦闘終了後に少女を救出できるかもしれない」
 ヒールグラビティを敵に使用しても、ヒール不能ダメージは少しずつ蓄積する。少女を救出する場合は、粘り強く攻撃とヒールを繰り返す必要があるだろう。
「さて、この攻性植物についてだが……桜の木1本ほどの大きさで、配下などはいない。高い攻撃力を持ち、自身のヒールも行うようだ」
 攻撃方法としては、強烈な桜吹雪を起こして加護を打ち消すグラビティ、麻痺効果のある樹液をまといつかせるグラビティを使用するという。
「また、現地は雪が降っている。戦闘に支障はないが、寒いことには変わりない。……というわけで提案なのだが、無事少女を救出できたら付近のカフェで暖まりつつ休憩してくるのはどうだろう?」
 微笑み、ウィズはタブレット端末に映ったカフェの画像をケルベロスたちに見せる。期間限定で桜のお茶やお菓子を提供する「サクラカフェ」という店のようだ。
「サクラカフェ、素敵なお店やね! ここでゆっくりするためにも、被害者の子を助けてあげたいよね。協力、よろしく頼むんよ」
 そう言って、雪斗は一礼した。


参加者
目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)
ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の甲冑騎士・e02187)
アッシュ・ホールデン(無音・e03495)
香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)
アトリ・カシュタール(空忘れの旅鳥・e11587)
ティノ・ベネデッタ(ビコロール・e11985)
ティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)
ゼビナ・メシャン(玄劃・e44596)

■リプレイ

●夜の白
 桜の花が、雪が、夜空に舞う。
「綺麗やねえ」
 白い息を吐いて、香坂・雪斗(スノードロップ・e04791)が見上げる。
「このまま眺めてたいけど……そうも言うてられへんみたいや」
「彼女の綺麗なもの、大切な場所、守ってあげなきゃね」
 アトリ・カシュタール(空忘れの旅鳥・e11587)が「大切な人にも見せてあげたい」と思うほどの景色は、きっと被害者の少女も愛したものだろう。
「うん、こんな綺麗なものを見られなくなったら可哀想だ」
 ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の甲冑騎士・e02187)も、同意を示す。
 夜の公園でケルベロスたちが戦う相手は、少女を取り込んだ桜の攻性植物。その上、ただ撃破するだけでは少女もろとも死んでしまうという、厄介な相手だ。
 だからといって、悲観的になる3人ではない。視線を交わした後は、拳を掲げ。
「えいえいおー!」
 と、声を重ねたのだった。
 ティノ・ベネデッタ(ビコロール・e11985)も一族代々のアームドフォートを構え、気合い十分。
「古いものだが整備は完璧、雪桜の美にも負けぬ自慢のものだ」
 きりりと引き締めた顔。の、下にはぐるりと巻いたマフラーが。
「しかし今宵は寒い……暖も忘れぬぞ」
 マフラーに首を埋もれさせ、身震いひとつ。
 一方、ゼビナ・メシャン(玄劃・e44596)は黒い外套の裾の衣擦れだけ、踵に鎖の音だけをたてて黒いウイングキャット「エラフ」の顎をくすぐった。
「さあ悲劇は一つに留めよう」
 視線の先には、移動する桜の攻性植物。外灯の光を受けて輝く花は、息を呑むほどだ。
「行け、しもべ達。皆を守れ!」
 最初に動いたのは、目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)。
 ドローンへと声をかけ、味方の前に展開する。その次は、少女が取り込まれている攻性植物へ呼びかけを。
「安心したまえ。今からオレ達が助けてやろう。あとでオレ達が必至な顔で助けてくれた、って、笑い話の種にしてくれ」
 ソメイヨシノは種では増やせないが、と付け足して。
「オレ達を信じていてくれよ」
 少女の囚われている攻性植物を見つめ、真は強気の笑みを浮かべた。
 攻性植物も攻撃を仕掛けてくる。中衛へ飛散する樹液を、真とヴィが盾となって受ける。すると、すぐさまナノナノ「煎兵衛」が真をハート型バリアで包んだ。
「誰も、倒れさせはしない!」
「ええ、私も、メディックとして、守り戦う者としての誇りにかけて! 皆さんを守ってみせます!」
 ヴィが身体を以て守るのなら、アトリは癒しの術を以て守りを誓う。
「さあ、私達に守るための力を…!」
 旅鳥を称する少女の魔力から生成された翡翠色の鳥は、いっせいに仲間へと飛び立つ。到達できるのはアトリのいる列までだが、それでも――。
「心強いね、アトリの回復」
 バスタードソードで敵に傷を刻みながら、ヴィがアトリを見遣る。
「ヴィくん、アトリちゃん、頼りにしてる!」
 二人に声をかけた後、雪斗は攻性植物を見据えた。
「無慈悲な冷たさに・・・凍えてもらおか」
 発生させた局地的な猛吹雪は、かつて敵から奪った術だ。凍えんばかりの猛攻のあとは、掌に螺旋を籠めたアッシュ・ホールデン(無音・e03495)が迫る。幹に触れて内部から衝撃を与えれば、桜の花弁がいくつか落ちてくる。
 少女が引っ越してきて最初に見つけた桜は、攻性植物となってなお綺麗であった。
「彼女が見つけた綺麗なものは助けてあげられないけれど……」
 眉根を寄せ、ティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)は攻性植物へとヒールグラビティを使用する。そこへ、彼女とともに攻性植物のヒールを担うティノも同じ術を重ねる。
「この地を、桜色ではない紅の色に染めるわけにはゆかぬな」
 ボクスドラゴン「クラーレ」の花の属性がヴィに注入されると、エラフも翼をはためかせて前衛に風を送り込んだ。
「雪に桜とそれから、嵐かな」
 先ほど落ちた花弁が舞い上がるのを視線で追いながら、ゼビナがつぶやいた。人を喰わずとも美しく咲いたであろう桜へ鎖を這わせ、締め上げる。
 この場に集まったケルベロスの意思は同じ。
 少女の、救出だ。

●救出へ
 ひんやりとした雪が鼻先に落ちるのを感じながら、アッシュは攻性植物に咲く桜へと視線を送る。
「この時期しか見れない光景だってのに、攻性植物もまた随分無粋な真似してくれたもんだ」
 亡き母が華道家であったためか、アッシュ本人も花は嫌いではない。しかし自身の容貌に花が似合わないと自覚しているため、表だって言うことはないのだが。
「……ま、他の木にまで影響与えずすむように、ちったぁ気をつけて立ち回るとしますかね」
 そこからは、一瞬。アッシュは攻性植物の進行方向、その逆に回りこみ、姿勢を低くして根を断ち切らんばかりの斬撃を加えた。
「卑怯?笑わせんじゃねぇ…此処は戦場、綺麗事で生き残れるほど甘かねぇよ」
 そう、特に相手の攻撃力が高い場合においては。
 だが、他者を癒すグラビティを持ち込んだ者は多い。
「少年、行けるか」
 アッシュに喚ばれて静かにうなずくゼビナも、その一人だ。
 伸ばされる手を、潰えた声を、掬う手立てがあるうちは諦めるわけにはいかない。
「花占いの代わりといこう」
 表情ひとつ変えず、静かに結果を告げる相手はヴィ。追って、エラフの翼から風も送られる。
 仲間を積極的に庇うヴィの傷は深いが、ゼビナやメディックを担うサーヴァントも積極的にヒールを飛ばしてくれる。
 それに、よく知る者が二人もいるのだ。嬉しく頼もしい感情を胸に、ヴィは自らの防御を固める。
「雪斗、攻撃は任せた!」
「ん、任せられた!」
 笑みを交わし、雪斗は真白の翼から光を放った。もちろん、少女への声かけも忘れない。
「絶対、助けるからね」
 二人のやりとりを笑顔で見遣りながら、アトリは中衛に雷壁を巡らせる。
 敵をヒールしながら攻撃する状況において、中衛ふたりが担う共鳴ヒールは作戦の要といっても過言ではない。
「ありがとう、アトリ。さて、次は……攻撃に回っても良さそうだ」
 そう言って、ティノは一族に代々伝わる銃を構えた。
「縫い止めろ、世界を航る黒の舟」
 静かな言葉の後、攻性植物を強い衝撃が襲う。
「花は静かに咲き誇ってこそ至高。慎むがいい」
 ティノが銃を降ろすと、真はじれったそうに攻性植物をにらんだ。
「くっ、まだか?」
 敵を攻撃しつつ、回復もする。言葉にすればシンプルなことではあるが、敵の正確な体力が不明な以上、いつ終えるともしれない戦いとなっている。
 真は樹の肌を観察し、攻性植物へと肉薄した。まだ攻撃を重ねても大丈夫そうだ、と。
「破ッ!」
 叩き込んだのは、いわゆる無影脚。攻性植物の幹に、亀裂が入った。
 少女は取り込まれて桜の花に包まれているため、その姿は見えない。救出できる可能性があるのは、攻性植物の撃破後だけだ。無論、戦闘中に分離させることもできない。
「不運なコトだな」
 首を振り、真は小さく息を吐く。しかし、と顔を上げ、少女が囚われているであろう場所へと視線を送る。
「少女にとっては、きっと後で笑い話の種になるさ。それがオレ達の仕事だ」
「ナノ!」
 と、煎兵衛も仲間を庇い立てる真を何度目かのバリアで包み込んだ。
 敵が回復に転じたのを見て、ティスキィは意識を集中する。
 すぐに爆発で土が、小石が飛ぶ。飛んできた幹の破片がティスキィの頬をかすめるが、彼女の視線は常に攻性植物へ向けられている。
 絶対に、助ける。助けられる命を、失いたくない。
 以前に似たような事件で被害者を救出できなかったティスィの意思は、ひときわ強い。
 クラーレは、そんな彼女に寄り添うようにして花の属性を注入する。愛らしい花飾りを揺らしながら首を傾げるさまに、ティスキィは思わず笑みを漏らす。
 甘えん坊だけど頼れる子が、そばにいる。
 そして、目的を同じくする仲間も。

●花散らして
 声をかけあい、時には敵のヒール担当が仲間を癒し、ダメージ過剰なら自身や他者を癒し、あるいはダメージ量の少ないグラビティを使用する。
 その連携が、戦線の維持に一役買っていた。
 しかし、決して楽な戦いではない。
 ヴィは肩で息をしながら、極小ブラックホール生成プログラムを起動する。
「計画ヲ実行スル」
 攻性植物のエネルギーを取り込み、癒えた体力に一息つくと、ゼビナが虚無魔法を詠唱するところであった。
 虚無球体は見えざれども、接触した攻性植物の枝葉をいくつか消滅させる。
「夜桜に雪とは風流で、わざわざ夜に訪れるのも解るけれど――散らすのは惜しいな」
 攻性植物の元になった桜は修復は能わないのだ。誰もが、理解している。
 されど、雪斗の最初から最後まで、願いはひとつ。
 少女が無事に春を迎えて、また綺麗な桜を見られるように。
「……この桜は、ここで綺麗に散らせたらんとね」
 雪斗が手にしたライフルから、グラビティを中和する光が溢れ出る。直後、アトリが雪斗を大きく癒す。
「うん、桜が散るのは寂しいけれど……最後まで頑張ろうね、ゆきとーさん」
「そうやね、頑張ろうね!」
 敵の攻撃力は高く、ケルベロスの消耗は大きい。
 ティノは素早く仲間を見渡し、ティスキィへと告げる。
「僕はいったん味方の回復に回ろう」
 薬液の雨が後衛へと降り注ぎ、状態異常をも消し去ってゆく。
「さあ今こそ、僕たちの戦いも咲くときだ」
 あと何度か攻撃を喰らったら戦闘不能になりそうな者もいる。ここが、正念場だ。
 エラフの羽ばたきで送られる風に、煎兵衛のばりあが重なる。
「そろそろ行けそうだ。準備はイイか?」
 つぶさに状況を観察してきた真は仲間へと告げ、攻性植物の斜め上方へと跳躍した。
「コレで止まれっ!」
 真の蹴撃を受けてのけぞった攻性植物はぎりぎりのところで持ち直し、桜吹雪を起こした。中衛に与えられた加護のいくつかが、剥がれてゆく。
 それでも、ティスキィは攻性植物を癒すのを止めない。
「私が、私たちが――助けるからね」
 愛用の手袋をはめたまま拳を握りしめ、密やかに勇気をもらう。
「アッシュさん、お願いします!」
「任せろ、ティスキィの嬢ちゃん」
 緩く言って、アッシュはオウガメタルを展開する。具現化されるのは、黒き太陽。照射された黒い光が攻性植物を照らすと、攻性植物の動きが止まった。
 すべての花弁が落ち、幹や枝が枯れてゆく。すべてが消えた後に現れたのは、その場に横たわる少女。
「オツカレサマ。っと、こうしてはいられない」
 真をはじめ、ケルベロスは倒れ伏す少女のもとへ急ぐ。
 幸い、少女の息はあるようだ。ヴィが少女を抱えてベンチに移動すると、ケルベロスたちは各々のヒールグラビティを使用して癒してゆく。
 やがてゆっくりと目を開いた少女に、ティスキィが優しく声をかける。
「……大丈夫?」
「あれ、わたし……」
 ケルベロスたちの顔を見渡す少女に、ケルベロスたちは順を追って説明する。攻性植物のこと。少女が囚われていたこと。そして、この場にいるケルベロスが少女を救出したこと。
「というわけだ。ところで具合はどうだ、嬢ちゃん。体調が良ければ、付近のサクラカフェとやらに一緒にどうだ? 身体も冷えているだろうし、何より嫌な思い出のまま終わるのは嬢ちゃんにとっても良いもんじゃないだろ」
 少女が慈しんでいた桜は、既にない。
 ならば、桜があった証拠として、ケルベロスに助けられた思い出で上書きができれば。
 アッシュはそっと、少女に手を差し伸べる。
「……はい、ぜひ!」
 アッシュの差し出した手を取り、少女は微笑んだ。

●サクラカフェ
 心地よい疲労を残したまま、真はカフェの椅子に座った。座面は柔らかく、ぼんやりしているとそのまま眠ってしまいそうだ。
「まだ季節は先だが、桜とは風流だ」
 カップの中で揺れる薄い色の桜に目を細め、真は茶を口に含んだ。
 それに、これだけ桜づくしのメニューがあると壮観だ。長いソファに少女と座り、アッシュは桜茶をのんびりと口にする。
「あの、先ほどはお礼を言いそびれましたが……本当に、ありがとうございました!」
「これもケルベロスの仕事だからな。ま、嬢ちゃんが無事で良かった」
「本当……無事でよかった」
 ティスキィもまた、近くの席で桜のお茶を飲んで身体を温める。
 しみじみと温もりを感じつつクラーレを見れば、半分こした桜のサブレをもう食べきったところであった。
「もう、クラーレったら」
「……そのサブレ、土産に良さそうだな」
「テイクアウトもできるようですよ」
「そうか、そんじゃ土産にいくつか買うかな」
 なんて会話をすれば、少女も買おうかなと身を乗り出して。
 和やかな時間は、ケルベロスたちが自らの手でつかみ取ったものだ。
 カフェの窓からは、公園の桜がよく見える。
「あのね、アシュレイさんと付き合う前に初めて2人で出かけたのが夜桜見物だったの。その時に自分の瞳の色と桜が同じですね、って言ってくれてから、桜が大好きになっちゃって……!」
 とは、アトリの言葉。ヴィは顔をほころばせつつ、桜のフィナンシェをフォークで切る。
「それは良い思い出だねぇ……。アトリにとっても桜は思い入れのある花なんだね。そういえば雪斗と夜桜を見たこともあったね。あれは綺麗だった」
「ヴィくんと一緒に見た夜桜も、綺麗やったなぁ。こうして季節が巡って、また一緒に桜を見られるのが嬉しい!」
 桜のシフォンケーキを食べる手を止め、雪斗も笑顔を浮かべる。
 二人の言葉に、アトリは桜の入ったお茶を飲む手を止めた。
「何々? お二人の良い思い出も聞きたい……!」
 思い出話はもちろん、頼んだお茶やスイーツについての話も尽きない。ふと訪れた沈黙に、雪斗はそっと窓の外を見た。雪と桜の混じったものが、踊るように舞っている。
「今度は四人で一緒に見られるとええなぁ」
 桜ラテの入ったカップで手を温め、雪斗が微笑んだ。
「次はみんなで一緒に花見だね!」
「うん、今度は皆でこようね!」
 二つ返事で、ヴィとアトリがうなずく。
 カフェには、桜の香りが満ちていた。
 温かい桜のお茶と大福に舌鼓を打ち、ティノはゆっくりと息を吐く。
 仕事のあとの甘味はご褒美。数少ない好きなものなら、なおさらだ。
「今宵は雪も桜も映える、よい日だ」
 窓硝子越しに桜を見ていたが、やはり近くで見てみたくなる。ティノは会計を済ませ、そっと外に出た。
 すると、エラフと共に一息ついていたゼビナも桜薫るお茶を手にカフェを出る。
 向かうのは、今はなき桜散った場所。それでも付近にはいくつかの桜が咲き、雪とともにその花を散らしている。圧倒され、ティノは無言でそれらを見つめる。
 不意にゼビナの指先に触れるのは、花弁の代わりともいえる雪ひとひら。
 潰えたものの代わりに芽吹くものがあることを、信じて。
 立ち上る桜の香りに、いつかの姿を見る。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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