にゃんにゃかふぇす

作者:皆川皐月

 ふわふわ。にゃー。ごろごろごろ。
 可愛らしいカラフルなマットや布団の上で転がる猫。
 ぴょんと飛んだりじゃれあったり、様々な猫たちが自由に過ごしている。
 色や柄、年齢も幅広い猫たちが集まる此処は、年に一度保護会が開くイベントの会場だ。
 温かな木調の室内に柔らかなクッションの溢れる、ふれあい広場。
 紅茶やコーヒー、スイーツ等、全てこの日の為に考え抜かれた猫仕様のカフェコーナー。
 全ては猫のため。猫を愛してくれる人を探し増やすため。
 此処にいる猫たちは、全て保護された子らだった。
 厳しい環境や苦痛を耐えた猫たちは今、幸せそうに伸び伸び過ごしている。
 開催日に向け走り回る保護会のスタッフ達は、猫たちが一匹でも多く良き家族と出会えるようにと、この日の為に心血を注いできた。
 だがその願いも未来の幸せも、デウスエクスによって全て奪われてしまう。
 崩れた建物の前、スタッフも猫も今は途方に暮れていた。

●つらにゃん
 沈痛な面持ちで溜息をつき、机にぐんにゃりと前のめりに額を付けた漣白・潤(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0270)がいた。
 気遣ってくれたケルベロスにまたぐんにゃりと礼をすると、改めて席に着く。
「大事件が起きてしまいました……酷過ぎると、思います」
 騒めく室内。緊急出動かと伺う声。静かに頷いた潤が取り出したのは、一枚の紙。
『にゃんにゃかふぇすてぃばる!~ねこと一緒に素敵な時間~』
 資料というより明らかにチラシ。しかもイベントの。
 チラシと潤を二度見、三度見したケルベロスはきっと普通。
「このにゃんにゃかふぇすてぃばるが、デウスエクスに襲撃されてしまったんです!」
 くわっと目を見開き、潤は突然熱の入った語りになる。
 凄い噛んでないとか、猫が襲われたのかと再び騒めく声に潤は再び頷いた。
「猫達はスタッフの方々のお陰で傷一つありません。ですが……」
 猫たちお気に入りのお布団も猫じゃらしなどの玩具。
 カリカリ用のお気に入りのお皿も破損してしまい塞ぎ込んでいる猫もいる。
 更に、カフェの為のキッチンも壊されてしまい開催は不可能という状態だ。
 今は何とか残ったキャリーケースや数少ない布団やタオルを搔き集め、何とか無事だった倉庫で猫たちは花冷えを凌いでいる。
 猫たちを思えば勿論のこと、開催日まで日は少なく、もう普通の修復では間に合わない。
「そこで、皆さんのお手をお借りしたいのです」
 届いたのは猫の肉球スタンプ輝くヒールの依頼状。
 添えられていたらしい猫たちの写真が机に広げられる。
 会場のヒールが済んだ後で是非ふれあい広場やカフェを楽しんでいってください、とのお声を頂いていると潤は微笑む。
 ふれあい広場は様々な年齢、模様の猫たちが思い思いに過ごしている。
 皆元は野良猫だが今は人と触れ合うのが何よりも好きとのこと。
 カフェは全てが猫仕様なメニューを提供している。
 訪れたケルベロスには感謝の証として気に入った柄を特別注文することもできるとか。
「可愛い猫も美味しいご飯もあります。是非、皆さんの手をお貸しくださいませ」
 よろしくお願い致します、と潤が改めて頭を下げた。


■リプレイ

●人の手を
 次々と行われるヒールと、順次運び込まれるインテリア。
 行き交う足音は活気と慌しさに満ちていた。
「オズさん、あっちを手伝えるか?」
 汗を拭ったラウロ・チェスティが示した先では、スタッフが重そうな荷物を運んでいる。頷いたオズワルドが指示通りに向かえば感謝の声が聞こえた。
「早く、助けてやらねば」
 到着して早々倉庫の一角で母なき子猫達が鳴き、端の方で悲しみ癒えぬ猫もいた。
 早急な支援とケアの必要性を痛感しつつ、深呼吸しながら動物ケア専門書を思い出す。ざっと辿りきったところで腕を捲り、復旧への一歩を進めてゆく。
 そうして皆々の尽力で全てのヒールが予定より早く完了した。
「これより、にゃんにゃかふぇすてぃばるを始めます!」
 元気なスタッフの声と猫の鳴き声が開催の合図。

●にゃ!
 ケアの相談も済み、ラウロは一服序でにケア方針の資料を熟読していた。
 集中しかけたその時、膝に何かがぶつかる。見れば小さなハチワレの子猫。
「……おぅ」
「みゃ」
 小さく鳴いて香箱座りをするや、うとうとしだした子猫を大きな手が優しく撫でた。
 広場では元気に跳ね回る子猫と各々気に入り場所でくつろぐ大人猫が沢山。
 エリヤ・シャルトリューは寝ぼけ眼を見開き、擦る。
 先程まで、手慣れた鼠とも兎とも違う猫を堪能していた。
 喉を鳴らす猫の温もりに舟を漕ぎ始めた時、膝に猫とは違うものが飛び込んできた。
「……あれ?猫さんだけじゃ、ない?」
 子狐に変身した櫛名田・たまも。
 強請られるまま子猫と共に撫でてやれば、ご機嫌な様子で再び駆けだしていく。
「元気な子、だなぁ」
 つい柔らかに微笑むほど、ゆったりと流れる時間。
 気付けばまた膝を乗っ取る子猫愛らしさと温もりを、エリヤはゆっくり噛み締める。
「わ、なんかいっぱい……!」
 寝転がった空野・紀美は視界が一瞬で猫に埋もれ驚いた。
 言葉を遮る勢いでもみくちゃにされたところで、違う毛並が一匹。
「なんか狐さん混ざってる?!」
 それも一瞬。また子猫の波に飲み込まれてしまう。
「ふぁぁあ……天国はここなんだね……」
 癒しを越え眠りへ落ちそうになった紀美へ、潤がそっと助け船。
 猫と撮影し、一緒に写真を撮り、二言三言を交わす束の間の小さな女子会。
 またね、と別れた所で紀美は近くの大猫に抱きついた。
「さいきんねーお仕事たくさんがんばってるんだぁ。こないだは宇宙にいったんだよ!」
「ぶみゃ」
 頭を寄せた紀美を褒めるように大猫が額を舐めれば、心が途端に温かくなる。
 感謝の気持ちを伝えるように、紀美は大猫をぎゅっと抱きしめた。
「お~、君も遊んで欲しいの?よしよ~しっ」
 鼻歌でも歌いだしそうな笑顔の近衛・皐月が、小さな手で白い子猫を撫でればそちらこちらから元気な猫の鳴き声が。
「わっ、くすぐったい……も、萌花おねーちゃん、たすけて~っ」
 皐月と共に広場で過ごす桜庭・萌花も寄ってくる子猫を夢中で可愛がっていたものの、振り返れば皐月は猫まみれ。
 言葉の割に漏れる笑顔と笑い声は元気の印。萌花が猫と共に撫で抱きしめてやれば、皐月は甘えるように抱きついた。
「さ、もうだいじょーぶ……あれ?皐月くんまで猫みたいになっちゃったの?」
 小さく頷いた皐月を、萌花は優しく見つめていた。
 穏やかなこの温もりをもう暫し。
 ウイングキャットのねーさんと共に広場を訪れた小鳥遊・涼香は、目当てのマンチカンを見つけそっと抱き上げる。
「うわ、かっ、かわいい…!」
 短い手足を懸命に動かして鳴く姿は、涼香の乙女心を擽った。
 ふとねーさんの方を見れば、群がる子猫が山のよう。
「ねーさん良いなあ……あ、そのままで。ちょっと撮らせてね」
 ポケットの携帯端末を出しカメラを起動。こっそり撮影。
 左右に揺れていたねーさんの尻尾は、いつのまにか子猫の玩具。
「ねーさんは優しいなあ」
 遊んであげて偉いねと褒めれば、得意顔の相棒。
 やっぱねーさんが一番可愛い、と涼香は自然と微笑んでいた。
 戯れ遊ぶ子猫達は見ているだけでルラ・フトゥーロの心を和ませる。
 にゃあと鳴く姿もまた心を擽って堪らない。だが、触ろうにも素早い子猫は中々捕まらなかった。
「姉君、これを」
 妹のルソラ・フトゥーロが懐から出した猫じゃらしを借りるも四苦八苦。ならば。
「えっと、平和に転がったら来てくれるかし……わっ」
 一瞬で視界が猫。誘惑に抗えず転がったルソラも。
「子猫殿の可愛さが光るでありま……わぷっ。あねぎ……わぷぷっ」
 埋もれた。可愛い妹と猫の姿に一生懸命ルラがカメラを構えるも、映ったのは9割猫。
「やっぱりソラより猫が……ソラ?あら、たいへん……わぷっ」
 一度転がれば抗えない温かさに、ルラとルソラは満足気に身を委ねた。
 悠長に構えていた猫夜敷・千舞輝と御神・白陽は甘かった。
「もふ襲されるって聞いたら、そら寝るしか無いやろ。ヘイカマー……?!」
「だな。ねこ可愛いよ……な!?」
 瞬く間に視界が猫。
 途中、白陽が対猫神器 キラキラ紐を取り出すも、ワンパンで攫われる。
 暫しじゃれ合い、お気に入りは見つかったかと笑いあう。
「推し?今日の一押しはここに入ってる子かな。でも実は、ちまキャットも今日の推し」
 それ襲撃だーと、一押しの袖に詰まった猫と共に千舞輝へ向け笑顔の白陽が突撃。
「おっ、なんかデカい猫が来たなぁ。貴様もじゃらしてやろうかー」
 受け止めた千舞輝も笑っていた。
 遊べと強請る猫達は白陽が転がればせっせと登り、千舞輝の猫じゃらしが白陽の顔を狙えば小さな肉球も倣って白陽の顔を狙う。
 多少怒ったところで子猫達は聞くはずもなく、賑やかな戯れはまだ続く。
 ヒールを終えたヴァルカン・ソルと七星・さくらも猫と戯れながら癒されていた。
「ヴァルカンさん、ほら!この子猫、すっごく可愛い!」
 懐っこい子猫はじゃれてさくらの頬をぺろり。
「ふゃ……!手を差し伸べに来たつもりが、わたし達のが癒され―……ヴァルカンさん?」
 猫と妻の可愛さに悶えたヴァルカンは、膝をついた瞬間子猫に群がられていた。
「にゃんにゃーん、わたしもヴァルカンさんのお膝の上に乗せてほしいにゃん」
「仕方がないな……可愛い奴め」
 子猫の群れを越え、ゆったり猫と戯れるヴァルカンへさくらが可愛くおねだり。
 言葉より優しい手が、さくらの髪をそっと梳いていた。
 ラズリー・スペキオサと茶菓子・梅太は、ヒールを終えて猫との時間を共有していた。
 座った瞬間猫に囲まれていたものの、梅太の膝に一番長く居着いていたのはぽっちゃりとした大縞猫。
「み゛ぁー」
 梅太の手に湿った鼻を寄せては、撫でろ撫でろとよく強請る。
 大きく重く足は痺れるが、得も言われぬ可愛さがあった。
 ラズリーにも教えてやろうと梅太が顔を上げれば。
「みてみてラズリーさん、猫が……」
「うわ……うわ、猫……、うわ」
 ラズリーは語彙力を失っていた。
 俯せで、我先に登る子猫の可愛さにも伏していた。
「ねぇどうしよう梅太……あぁ、モフ、きゃわ、うわ」
「うん。ふふ、動かないで」
 多少語彙力と雰囲気が家出しようとも、言いたいことはよく伝わる。
 全身を使い友人登山する子猫も、とろけた友人の顔も微笑ましい。
 梅太のスマホでパチリと一枚。もふもふの思い出と可愛い猫達の記録が刻まれた。
 ヒールを終えたマティアス・エルンストと槙島・紫織も腰を下ろせば、直ぐに猫達が寄ってきた。
「これが子猫……見ているだけで、心がほわっと和むものですね……」
「わぁ、マティアスさん見てください。この子、きっとグループのぼす猫です~」
 掌の温かさと柔らかさがマティアスに癒しを与えた時、紫織の声。
 示された紫織の膝を見れば、子猫よりも遥かに大きな黒猫が鎮座していた。
「ぼす猫とは、こんな大きな……この子猫から、こんなに?!」
 信じられない様子で手元の子猫と膝の大黒猫を見るマティアスに、紫織は笑みを零す。
「撫でさせてくれるみたいですよぉ。この不敵さもどこか愛嬌があって良いですねぇ」
 紫織がそっと撫で、マティアスも促されるままお辞儀をしてから撫でれば低い鳴き声。
 だがそれ愛らしい。二人は見つめ合い、微笑みが零れるのはほぼ同時。
 楪・熾月とリィンハルト・アデナウアーはじっと目の前の光景を見ていた。
「ねぇねぇ、リィン。もふもふだよ」
「もふもふだねぇ……とってももふもふ天国だよ!」
 我慢できないと瞳を輝かせ、熾月に手を引かれるままリィンハルトも揃って寝転がれば、即座に視界は猫。
「僕、今死んでも後悔ないかも」
 真面目な顔でさらりと凄いことをいうリィンハルトはご愛嬌。
 窓辺から見下ろす女王様猫と目が合えば、熾月は「ご機嫌よう、女王様」とご挨拶。
 リィンハルトは短い手足で一生懸命に自身を登るマンチカンにメロメロ。
 和やかに戯れていると頭上に影。揃って見上げれば。
「み゛ぃあ」
「……ぽっちゃり具合がぴよに似てない?」
「……ぽっちゃりボスはぴよちゃん似かも?」
 言葉が重なれば、どっと笑いが起きる。
 なんて楽しい一時だろう。なんて幸せな時間だろう。
 共有できる温もりの良さを共に噛みしめながら、尽きぬ話は藹々と。
「クレス……私、此処で横になりますので子猫が私に群がってきたら、これで撮影をお願いします」
「小町、何でいきなり敬語なんだ?」
 両手でデジカメを差し出し、90度の礼でクレス・ヴァレリーにお願いする九条・小町の顔は真剣だった。
「だ、だって色んなタイプの猫がいるのよ!全部可愛いっ」
「……いいぜ、任せろ」
 だが、クレスの含みと操作性に一抹の不安を感じた小町は寝ては起きての腹筋状態。
 最終的に促され渋々横なれば、猫達は早かった。
 クレスがどのボタンを押したなどと確認する隙も無い。悪戯猫に甘えん坊等小町はてんやわんや。でも慌しさと猫無邪気さ、優しく見守るクレスが小町の心を優しく包む。
「君は一人じゃないんだ。寂しくなったら呼んでくれよな……傍に居る事はできるぜ」
「貴方が居てくれて本当に良かった……ありがとう」
 実はクレスが録画ボタンを押してしまったことも、押した本人がすっかり忘れ色々記録されたことも、此処だけの話。
 右を見ても左を見ても猫。更に天井のキャットウォークにも足元にも猫。
「メロゥちゃん、蜂……こんな天国に行きたいわ」
「メロも、もふもふな天国に行きたい……」
 自然と口から出た二人の願いは同じだった。
 八柳・蜂の利き手に猫じゃらし、空いた手にスマホ。
 メロゥ・イシュヴァラリアも両手でスマホをバッチリ準備。
 せーの!で飛び込んでみれば、一瞬でとろけた。
 子猫軍団と猫じゃらしに絡む大人猫。双方甲乙付け難い可愛さで溢れている。
「すごく、しあわせな、重みだわ……」
「……これは、とっても幸せな光景ね」
 頑張って撮影した写真は9割猫まみれ。柔い温度ごと記録された温かな思い出だ。
「お家に猫が欲しくなっちゃいそうね」
「うん、ほしくなっちゃう……メロ、一匹引き取ろうかしら」
 メロゥの言葉に蜂が微笑む。
 遊びに行かせて?との提案は、いつでも大歓迎よ、と即承諾。
 そんな乙女の約束を、星瞬かせた子猫が見守っていた。

 『にゃんとも』で集まった蒼墨・雪登達は、元気な猫の姿が集う猫カフェと重ねた。
「にふにふ、ここの子もユキトのとこの子とも仲良く……わー!戯さん黒猫だらけだー!」
「何で俺の所は黒猫ばっかり来るのかねえ?」
 首を傾げた久遠だが、満更でも無し。
 一方、クレーエ・スクラーヴェは白猫パーカー。月岡・ユアは黒猫パーカーを装備して、寝た。
「うぅ、もふもふだよーしあわせー」
「にゃははっ、ほーらほーらっ。こっちだぞ~?」
 瞬く間に子猫軍団に包囲。クレーエは全身ふみふみされ、ユアは猫じゃらしに子猫が殺到し子猫の実が完成。その様子を、深緋・ルティエは余すことなばっちり撮影。
「ふふ、みんなにゃんこまみれだ……ね?」
「みゃーん!」
 丁度座ったルティエの足に小さな頭突き。マンチカンの子猫だ。
「あー、やばいめっちゃもふもふだぁ。足みじかーい。とりあえずかわいいぃ」
 各々楽しんでいたものの誰かが「そういえば団長は?」と言ったところで、大きな鳴き声。
「にゃっにゃっにゃ!」
 見て見て!と動物変身したユキトとベンガルの子猫が笑いながら並び歩いていた。
 混ざっちゃったと探す声も可愛いと褒める言葉も、全て微笑ましい一時が過ぎてゆく。

 『エトランジェ』がヒールした一角では、布花畑に直した那磁霧・摩琴とクッション床に直した雅楽方・しずくは笑った。沢山の猫達が楽し気に駆けまわっているからだ。
 さて自分達もと微笑みあった時、誰かが呟いた。そういえば寝転がると子猫まみれになるんだよね、と。
「そんなのやらないわけがない、ね?!」
「やらいでか!いつでもばっちこーい!でにゃんすぅ!?」
 喜び勇んで早速試した虎丸・勇と親指を立てた天淵・猫丸は、一瞬で子猫の波に沈んだ。
「わー!勇さんと猫丸さんが沈んでいく!アイルビー……バックできない?」
「あ~ボクも!へへ……天国はここにあったよ」
「ではわたしも。あ、あの、でもお顔に乗るのはご勘弁を……!」
 更に摩琴もしずく可愛い子猫に抗えず横に。顔はと抵抗したしずくだが、頬を舐める子猫の力に抗えず、即抵抗をやめた。
 慌てたアイカ・フロールだったが、四人の安らかな顔に大丈夫そう、と確信する。ふと振り返りウイングキャットのぽんずを見れば、ぽっちゃり縞ボスの子分になっていた。
 犬吠埼・シュカが青い瞳でこちらを見るシャム猫が気になり身を起こす。
「にゃ!にゃあにゃ、にゃー?」
「みゃあお」
 見様見真似の猫語で瞳を輝かせるシュカに猫は溜息一つの後、良いわよ一声鳴いた。
 マイヤ・マルヴァレフは皆の様子を、膝に茶虎大猫を乗せながら眺めていた。
「逃げないでいてくれるの、嬉しいな……で、でもちょっと重い、かも」
「なぁお」
 時間が経つ程ずっしり響く。しかし甘えたように猫踏みする姿は愛らしい。
 だがこの後、皆でカフェへ行く段になっても茶虎大猫がマイヤの膝から梃子でも離れなくなるとは、まだ誰も知らない。

 『木天蓼』の面々の中、藍染・夜が常と変わらぬクールな面持ちで横になる。
「俺、フワモフには軽率に屈しな……ウワー温か~い」
 瞬殺。
 最後まで喋る隙を与えない子猫達は、頭も足も関係なくよじよじと夜を登る。
 登り切った子猫は誇らしげに鳴いたり、夜の顔を肉球パンチと忙しい。
 クールイケメンも転がれば猫には玩具。容赦は無い。
「……本当に懐っこいな。すごい。ハガルならもっと、すごいことになりそう」
「湯たんぽの才能がおありですな藍染殿…!フゥム、拙者も真似を……」
 子猫山と化した夜にティアン・バとハガル・ハナハルガルが瞳を輝かせながら思案し、同じく夜を見下ろすサイガ・クロガネと、先程からシャッターを連打するアイヴォリー・ロムの二人は、ダイナ・プライズに話しを振った。
「アレをどう思いますかダイナ」
「夜が幸せそうでわたくしも嬉しいですよ。で、ダイナも混ざらなくてよいのですか?」
「どうって、なんかすげー幸せそうな……このまま、天国に置いていくか」
 大体俺を何だと思ってんだ、と怒るダイナを他所に、名案だと笑ったクロガネが転がる子猫を拾い、アイヴォリーの羽に乗せた。危ないでしょうとぷりぷり怒るアイヴォリーに反し、乗せられた子猫は温かな羽の中でぷうぷうと寝息を立て始める。
「アイヴォリー殿の羽にいる方はなんとも幸せそうでございますな!」
 ティアンの提案で俯せに転がったハガルの髪は、既に子猫のアトラクション。入っては飛出し、指通りの良い髪で泳ぐように遊んでいる。そして密かに耳と尻尾が出てしまったダイナも、ハガルが動く度に前足……否、右手ついつい前に出る。
 和やかな光景と爽やかなハガルの笑顔、背から届く寝息にアイヴォリーは折れた。
「いいです………もう、全てを赦します……あぁ、ティアンもいかがです」
 わりと、だいぶ、幸せですよと微妙な端切れで微笑むアイヴォリーの横へ、ティアンもそっと腰を下ろす。
「なるほど、だいぶ、ぬくぬくする」
 にゃあにゃあと膝を取り合う子に、猫じゃらし代わりに髪に悪戯する子まで。
「こりゃ今後とも逞しく生きてけるわ」
 自由奔放、天衣無縫。のびのび生きる子猫は強い。
 己の膝で丸くなり、撫でろと強請る猫に触れながら、サイガは自然と笑っていた。

●にゃお!
 メニューを開き悩まし気なクィル・リカに鉋原・ヒノトが微笑む。
「全部食べたい。……でも僕、三毛猫柄のにゃんぱふぇにする」
「んんー。クィルがパフェなら……よし、にゃんとーっていうフレンチトーストにする!」
  注文を終え、猫写真集に釘付けのクィルを横目にヒノトは店員へこっそり耳打ち。お待たせいたしましたと運ばれてきた、三毛猫ぱふぇとにゃんとーと、白猫3Dアートのカプチーノが二つ。
「あ、あれ。カプチーノは頼んでなかったですけど……」
「それ、「あちらの猫様から」だって聞いてるぞ!」
 ヒノトが指差した先には尾の長い茶猫。クィルの目に友人の色と似ている気がして。
「……んん。こちらの狐さまから、のようですね。もう」
 小さく頬を膨らませたクィルに、何とことやらと笑うヒノト。

 窓から抜けた春が、柔らかにカーテンを揺らしていた。

作者:皆川皐月 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月11日
難度:易しい
参加:43人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 5
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