アクア・ヴィタエ

作者:秋月きり

 廃墟の奥で、男が演説をしていた。
 聴衆は一人。10に満たない少年は声を張り上げる男を不思議そうに見上げていた。
「私が思うに、物事に近道など無い。地道、そして実直。得てして、最良の解決策などそう言うものなのだろう」
 少年――尾守・夜野(スペースヤマネ・e02885)は首を傾げる。単眼鏡の男が操る言語が日本語で、何かしらの意味を為している事は理解している。だが、それ以上は理解が追い付かない。男が何を以って彼にそんな話をしているのか、見当もつかないのだ。
「おじさんは……誰?」
 そして自分は何故ここにいるのだろう? 判らない。記憶が定まらない。思考回路が混乱していた。
「私の名前はサイプレス・ツュプレッセ。親しき者には『糸杉公』と呼ぶ者もいる」
 言葉を受け、夜野は身構える。男が醸し出す空気で理解した。――目の前のこれは、デウスエクスだ!
 夜野が得物を抜き放つ事を気にも留めず、男は言葉を続ける。
「さて。滔々と全てを語る必要はないだろう? 私には追い求めるものがあり、その為に適当なケルベロスに死んで貰う必要がある。そして、私の目の前にキミがいる。それだけの話だ」
 サイプレスは笑う。その表情は喜怒哀楽の無い、悪意のみで形成されていた。
「ボクが、ケルベロスと知って――」
 何故? とは問わない。目の前の男がデウスエクスで、自分がケルベロス。これから始まる戦いの理由は、それだけで充分だった。
「さて。生贄は多い方が良い。キミには大切な者がいるかな? 或いはキミを大切に思う者は? それらもまた、私たちの糧に――定命者達の憎悪と拒絶の種火とさせて貰おう」
「――っ」
(「ボクは――」)
 夜野の口から、答えが紡がれる事は無かった。

「夜野がデウスエクスに襲撃される未来予知を見たの。その事を知らせようと彼に連絡を取ろうとしたのだけど……」
 目を伏せたリーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)は視線を戻すと、金色の瞳をヘリポートに集ったケルベロス達に向ける。
 焦燥と信頼。その色を以って彼女はケルベロス達を見詰めていた。
「夜野を助けて欲しい。襲撃場所は判っているから、今すぐヘリオンで向かいましょう」
 襲撃者はドラグナー1体。単独だが、治癒と破壊の力を使う強力な存在だ。努々油断はしないで欲しいと告げる。
「夜野が連れ込まれた廃墟には人っ子一人いないから、避難誘導とかも考えなくていい。ただ、敵を倒す事だけ考えて欲しいの」
 何故夜野が選ばれたのか。その疑問に出せた答えは一つしかなかった。
「何らかの縁が二人にあった……のかもしれないわね」
 意図的なのか、それとも無意識なのか。それこそ宿縁と呼ぶものなのではないだろうか。
「悪しき縁は断ち切らないといけない。みんなで夜野の宿敵を打ち破って欲しいの」
 そして、リーシャはいつもの如く、皆を送り出す。
「それじゃ、行ってらっしゃい」


参加者
レクス・ウィーゼ(ライトニングバレット・e01346)
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
尾守・夜野(フラスコに沈む・e02885)
ユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
レヴィン・ペイルライダー(四次元のレボリューション・e25278)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
雨宮・和(悠遠のサフィール・e44325)

■リプレイ

●糸杉公の遊戯
 この手は憶えている。蔦を引き千切り、肉を切り裂く感触を。
 この耳は憶えている。その哄笑を。縋る自分に向けられた、悪辣な言葉を。
 この魂は……ああ、判らない。一年と少し前、自分はある事件を引き起こしていたデウスエクスを倒した。その筈だ。それは皆に褒められる、とても素晴らしい事だった筈なのに。
 何故だろう。
 喉が酷く渇く。心が酷く騒めく。
「おとーさん」
 答えなどある筈もない。だって、おとーさんはボクが……。

 尾守・夜野(フラスコに沈む・e02885)を狙った鞭は彼の右腕に絡みつき、小柄な体を持ち上げる。壁に叩き付けられる筈だった彼はしかし、足から着地。壁面を蹴飛ばし、地面をゴロゴロと転がり衝撃を逃す。
「流石はウェアライダーと言った処か」
 サイプレス・ツュプレッセが浮かべた笑みは、実験対象の動向を窺う科学者のそれだった。
「――何故?」
 それ以上の言葉が紡がれない。
 何故、ケルベロスを殺そうとするのか。
 何故、ボクを狙ったのか。
 何故、何故、何故?
(「どうして、その花を持っているの?」)
 夜野の視線はサイプレスの得物に注がれていた。
 植物の蔦を思わせる鞭は、グリップにぼうっと青白く輝く花が装飾されている。彼はその花を知っていた。その花は――。
「夜野、大丈夫か!?」
「尾守! 助太刀に来たぞ!」
 思考は一瞬にして途切れる。廃墟の中、レヴィン・ペイルライダー(四次元のレボリューション・e25278)とフィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)の呼び声を先頭に、7人と5体のサーヴァントが飛び込んできたのだ。
「流石だね、ネズミくん。『君を大切に思う者』は随分と沢山、いるらしい」
 君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)とアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)の手にした灯りに照らされ、目を細めるサイプレスは禍々しい笑顔を宿す。
「手前ぇ」
 ビハインドを携えたカピバラのウェアライダー――レクス・ウィーゼ(ライトニングバレット・e01346)の静かな声は、憤怒の表情で綴られていた。

 がちがちと奥歯が鳴る。握り込んだ拳は小刻みに震えていた。
 この感情は恐怖だ、と雨宮・和(悠遠のサフィール・e44325)は震えを唾棄する。――くそったれ、と。
(「この恐怖を、この震えを、尾守君も……」)
 道すがら、夜野が遭遇した痛ましい事件を、レクスに聞いていた。今回の敵はその縁かもしれない。ヘリオライダーの言葉に彼が漏らした感想は、和にとって悲しさを覚えるものだった。
 同情心は無い。それは夜野に対して失礼だと思った。
「神宮寺家筆頭戦闘侍女。ユーカリプタス、参ります」
 視界の端で、折り目正しい一礼を行うユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)の姿が映る。
 それが、開始の合図となった。

●命の水
「ふっ……はは! ははははは! はははははははは!」
 嗤い声は悪意と侮蔑と嘲笑に満ちていた。
「素晴らしいね。ネズミくん。キミを想い集った総勢7人、そしてキミ自身の死はきっと、定命者達に絶望を与え、そして彼らに憎悪と拒絶を抱かせるだろう。我々、ドラゴンに!」
「それガ、尾守を襲撃した理由カ」
 ならばこれ以上の問答は不要と眸が詠唱を紡ぐ。
「貴様は大切なもの、に、こだわりがあルようだ。さて……貴様には、あるのだろウか。大切なものが」
 放つ光弾はサイプレスの肩を貫き、鱗が纏う皮膚を灼いた。続くビハインド、キリノは瓦礫に念を込め、射出。サイプレスに飛礫の雨を降らせる。
「さっさとご退場願おう!」
 アンセルムの飛び蹴りは流星を纏い、サイプレスの足を梳る。受けた損害にサイプレスは眉を動かし、しかし、その口から零れたのは「ほぅ」と言う感嘆の声だった。
「そうだ、抗い給え。その抗いこそが人々に絶望を呼ぶ糧――我々の命の水となるのだから」
「悪趣味だな」
(「貴様ら、ドラゴン達はいつもそうだ」)
 幻影を纏うフィストは泡立つ感情を抑える事が出来なかった。
 奪う事でしか物事を成し遂げる事の出来ない侵略者、ドラゴン。彼らに破壊された自身の人生を思うと、怒りが湧き上がって来る。それは彼らの配下たる竜牙兵、そしてオークにも同じ事が言えた。まして、ドラゴンを信俸するドラグナーであれば。
 ウイングキャットのテラが短い鳴き声の後、清浄な風を仲間に纏わせる。気遣いの声は、未だ彼女の頭を冷静な物へ引き留めてくれていた。
「一つ問うぞ、サイプレスとやら」
 ビハインドの念動力を背景に、飛び蹴りを敢行したレクスはサイプレスに言葉を向ける。それは彼が聞き出すべき事だった。
「お前は一年と少し前、そしてそれより以前に、あるウェアライダー夫婦に何かを行った。……違うか?」
 全ての感情を押し殺した問いに、内容を察した夜野がびくりと震える。過去の事件とサイプレスが繋がっている確証は無い。だが、彼の持つ得物、それこそがその証左ではないか?
 一年前の花を思い出し、杞憂であってくれと浮かべる願いはしかし。
「何の事かな?」
 返ってきたのはむしろにこやかとの表現が相応しい応答だった。
「申し訳ないが、不死の歳月の中で幾度、幾十度と様々な事をしてきたのでね。些末な事は憶えていないが……ふむ」
 レヴィンの飛び蹴り、和の斬撃を鞭でいなしながら、サイプレスは顎に手を当て、頷く。
「戯れに問おう」
「私が勝利への道を導きましょう。さあ、行ってくださいませ!」
 サイプレスの言葉と、ユーカリプタスの詠唱が重なった。ユーカリの花を象った無人機からの爆撃の中、それでもドラグナーは笑みを形成する。彼女のサーヴァント、トラッシュボックスの咬撃はしかし、その笑みを止める事は出来ない。
「そのネズミのウェアライダー――いや、アフリカオニネズミはどうなったのかね? 私が何かをしたのなら、今頃、大事になっている筈だが」
 問い掛けに、レクスは思わず息を呑む。
 視線の先には悲愴な表情の夜野の姿があった。
 沈黙が流れた時間は刹那。
 それが答えだった。
「ふはははははっ。成程、理解した。お前達はそのウェアライダーを……」
「言うんじゃねぇ!」
 声を荒げ、制止するレクスの叫びはしかし、叶う事は無かった。
「殺したのか! 侵略者の陰謀に巻き込まれただけの哀れな犠牲者を!」
「うわあああああああっ!」
 悲鳴が木霊する。絶望は夜野の口から、慟哭の形をとって沸き立っていた。
「彼を助けようと思わなかったのかね? それとも大事の前の小事と、その程度の命は些末と割り切ったのかね? ああ、こうも考えられるな。キミ達は、その実、犠牲者となったウェアライダーを『殺したかった』?」
 乱雑に放たれる夜野の霊弾を受け、それでもサイプレスの口は止まらない。演説の如く繰り出される言葉は刃となって、夜野を切り裂いていく。
「貴様っ!」
 その口を止めろとレヴィンが長槍を繰り出す。稲妻も斯くやの刺突を受けたサイプレスは己が掌から湧き出る液体を嚥下、傷を癒していく。
 にぃっと口元に浮かぶ笑みは、悪意のみが刻まれていた。
「それ以上、戯言を紡ぐな」
 アンセルムの投擲する対デウスエクス用のウイルスカプセルはしかし、侵略者の口撃に何ら影響を与える事は無かった。
 それはサイプレスの悪意。彼の悪意は絶望を刻む為に紡がれる。
 彼の思想家は言った筈だ。絶望、それこそが死に至る病、だと。
「敢えて言おう。――この人でなし共め!」
 つまり、それがこのドラグナーの侵略行為なのだと。
「――っ?!」
 声にならない悲鳴が迸る。夜野に抱かせるべき想いが絶望ならば、それが成就した瞬間だった。

●狂おしい程貴方を思う
 それは、月光も無い暗闇の中での出来事だった。
 ボクは罪を犯した。誰もがその罪は仕方ない事で、許される事だと言ってくれた。
 でも、許されるわけがない。その事をボクは知っている。
 他ならぬボクが、ボクを許していない。

「人でなし共め!」
 悪意の言葉に夜野が悲鳴を上げる。
「尾守!」
 フィストの付与する花びらのオーラは夜野の負った傷を、そして纏わりつく瘴気を消失させる。だが、その内面は――。
「その口を噤め!」
「おや? 私は彼にだけ、言ったわけではないよ」
 人でなしの語句に反応したのは彼だけではないと、サイプレスは笑みをフィストに向ける。
「――人でなし。化け物。定命の中にいる異能。ああ、こうとも言おう。人々に交わり欺く気分はどうかね? 侵略者の末裔よ」
 それはドラゴニアンと言う種に向けての悪意だった。弱者の搾取に対する義憤から地球人の味方を選択したドラゴニアンだが、デウスエクスであった過去が無くなった訳ではない。
 そして、サイプレスの言葉は、彼女の傷口を抉るに充分な威力を秘めていた。
(「私は、私はっ」)
 過去が蘇る。悪意が身体を穿つ。涙が零れ、呼吸が乱れる。全身が悲鳴を上げ、それ以上の思考は危険だと制止する。
 それでも紡いでしまう。過去、自身が負った精神的外傷を。
「化け物なんかじゃ……ない」
 零れた言葉は弱々しく。
 そのまま膝から崩れ落ちてしまいそうだった。
「キミもだよ、シャドウエルフ」
 サイプレスの悪意の矛先は、アンセルムにも向けられる。
「大切な者を抱けないキミもまた、人でなしの一員である。思い浮かんだ中に家族、或いは恋人の顔があったかね? 地球の人々は? そう、それこそがケルベロスが超越者たる由縁。守るべきものの顔を思いつかない異能よ、喜べ、キミも存分に『人でなし』だ」
「――っ!」
 狼狽が広がる。確かにサイプレスの言葉に誰かの顔が浮かばなかった事は事実だ。
 そこで気付く。こいつの本質は教唆者。――自身の思惑を囁き、唆し、そして周りを動かす悪意の権現だ。故に、自身の言葉を操り、そこから得る情報を次の指嗾行為に充てる。――それが今、自身に、そして夜野に牙を剥いていた。
「此方からモ問おウ、糸杉公」
 地獄纏う炎弾と共に敢えてとの言い回しを行う眸の言葉を、サイプレスは眉根を潜め、応じる。壊れ行くケルベロスと言う美酒に酔いしれる彼にはそれだけの驕りがあった。
「何故、犠牲者がアフリカオニネズミだト知ってル?」
「貴方、本当は彼にまつわる事件を知っていた。そう言う事よね! 若しくは――」
 眸に続く言葉は和から紡がれる。
「本当の黒幕、だった?」
「ふ。先も行った通り、この手の事は幾度と繰り返していてね。その一つ一つを憶えている訳ではない。だが」
 笑みは醜悪な物に転じていく。愉悦と笑うそれは、嗜虐的な色を纏っていた。
「ご明察、と言っておこうか。地獄の番犬よ。趣向は気に入ってくれたかな?」
 賞賛の言葉に重なるは、不破の絶叫だった。
「ふざけんじゃねぇ! クソ野郎!」
 爆発したのはレクスだった。激怒の感情のまま、サイプレスへ肉薄。銃口を身体に押し付けたまま引き金を引く。
 響く銃声は一度。否、一発にも見紛う程の神速で放たれた6発の弾丸はサイプレスの身体に食い込み、血肉を撒き散らした。
「7歳のガキにあんな表情を、あんな慟哭を上げさせておいて、その挙句に『趣向』、だと? ゲス野郎が!!」
 血も涙もない悪鬼とはこの事だと叫び、引き金を引く。その身体を引き剥がしたのは、ドラグナーの口腔から零れた息吹――瘴気のブレスだった。
「気に入らなかったのは理解した」
「ええ。何から何まで悪趣味で、貴方の趣味趣向は理解致しましたわ。それが唾棄すべきものである事も。――弱点看破」
 それは傷口を抉る掌底の一撃だった。レクスの刻んだ弾痕を貫くユーカリプタスは、息吹の壁に飛び込んだ後遺症だろうか。白衣を焦がし、黒色の煙を立ち上らせていた。
 レプリカントの整った顔は黒い煤で汚れている。それでも、そこに浮かぶ表情は美しかった。
 そこに宿る感情は鋭利な怒り。目の前の侵略者を許すわけにいかないと、静かな闘志を瞳に宿していた。
「視えた、そこだー!」
 追い打ちの弾丸はレヴィンが刻む。
 バスターライフルから放たれた光線はサイプレスの身体を貫き、踏鞴踏ませる。
「人でなし? ああ、そうかもな。俺達は人と言う範疇から外れた存在かもしれない。だけど……この力でお前達を倒す! それが俺達の人としての在り方だ、デウスエクス!!」
 レヴィンの咆哮にサイプレスは呻き、己の身体を確認する。幾多の傷、そして今しがた怒り任せの攻撃を受けてなお、身体は健在。そして、健在であれば治す事が出来る。その筈だった。
「だったら、治癒する間を与えなければいいのよ!」
 己がサーヴァント、ぷーと共に突き進む和の斬撃は、サイプレスの身体を刻んでいく。狙うは眸とアンセルムが穿った不治の傷だ。己が惨殺ナイフでその傷口を押し広げていく。
「ワタシ達はヒトだ。だガ、そのヒトの刃が、デウスエクスを討ツ」
 和を跳ね除け、治癒に移るよりも早く。眸の精神剣がサイプレスの身体を貫いた。
「骨も残さぬ、魂も残さぬ、その罪を悔いて死ね!!」
 そこにフィストの炎が突き刺さる。全身を白麟の大蛇に転じたフィストの激情は黒き炎と化し、サイプレスの身体を焼く。辺りに皮脂の焦げる嫌な臭いが沸き立った。
「其は、凍気纏いし儚き楔。刹那たる汝に不滅を与えよう。――尾守!!」
 アンセルムの放つ氷はサイプレスの足を凍らせ、その場に留めた。回避の隙は与えない。その為の無数の氷槍だった。
「――かくてこの世は夢幻と化す。見える真、見えぬ真、見える嘘に見えぬ嘘、全ては全て思うがままに」
 泣き叫ぶように。悲哀で嘆くように。
 詠唱と共に、閉じられた夜野の瞳から、涙が零れる。
 夜野は慟哭していた。声を上げず、号泣を堪え、それでも彼は慟哭していた。
「く、おのれ、貴様、放せ! 何故貴様らが、私をっ。放せっ!!」
 サイプレスが最期に見た光景は何だったか。
 夜野の放つ光に包まれた彼に浮かんだ表情は狼狽と、そして焦燥。
 やがて、消滅していくサイプレスはククッと笑みを浮かべる。
「――ああ、ならば、此度は我が死を以って終焉としよう。諸君らの憎悪もまた、我らの糧となるが故に」
 それが、侵略者の最期だった。
 あっけない程簡単に、その身体は消失し、光の粒と化し消えていく。
「……負け惜しみを」
 ふんと鼻を鳴らすレクスの声に、彼のビハインド、ソフィアがこくりと頷いた。

●静かな夜
 青白い月明かりが廃墟を照らしている。
 いつかもこんな夜を迎えていた。そんな気がする。
「おとーさん」
 終わったよ、との独白に誰も応えない。応えられるわけはない。レクスも、フィストも、ユーカリプタスも、眸も、レヴィンも、アンセルムも、そして和も。
 誰も彼もが沈黙し、夜野を見守っている。
 彼の世界を闇に染めた元凶は確かに打った。その筈なのに。
「おとーさん」
 その闇が晴れる日がいつの日か。その答えを告げる事は、誰にも出来なかった。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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