ミッション破壊作戦~機械仕掛けの侵食領域

作者:木乃

●無感情な支配者達
 いつものようにケルベロスが集まると、オリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)はミッション破壊作戦の決行を告げる。
「ミッション破壊作戦では『グラディウス』という光る小剣型の兵器を用います。およそ70cmほどの大きさで、通常兵器としては使用できませんが、ミッション地域の中枢である『強襲型魔空回廊』を破壊することが可能でしてよ」
 一度使用すると、グラビティ・チェインを再充填するまでに時間がかかる。代わりに、『強襲型魔空回廊』の破壊に成功すればデウスエクス乃地上侵攻に大きな楔を打ち込むことも出来るだろう。
「今回は『ダモクレス』の制圧地域、解放を提案いたします。以前ほど目立った動きはありませんが、今のうちに拠点を制圧するに越したことはありませんわね。現在の状況などを踏まえ、攻撃するミッション地域をご相談くださいませ」
 出撃先の意見が分かれた場合『多数決』となるため、その点も留意して欲しいとオリヴィアは補足する。

 次に強襲型魔空回廊を攻撃するまでの流れ。
「通常の方法では、貴重なグラディウスを奪われる危険性がございます。ですので『ヘリオンを利用した高高度からの降下作戦』で参ります。『強襲型魔空回廊』の周辺は半径30m程度のドーム型バリアで囲われており、このバリアにグラディウスを接触させれば発動しますわよ」
 さらにケルベロス全員が、グラディウスに込めるグラビティ・チェインを、極限まで高めた状態で『強襲型魔空回廊』に攻撃を集中すれば、場合によっては一撃で強襲型魔空回廊を破壊することすら可能となる。
「一度の降下作戦で破壊できずとも、ダメージは蓄積されましてよ。最大10回程度で『強襲型魔空回廊』を確実に破壊することが出来ましょう。周辺には強力な護衛戦力が存在しますが、降下攻撃を防ぐことは出来ません。そして、グラディウスは攻撃時に強烈な雷光と爆炎を発生させますわ」
 グラディウスの所持者以外、無差別に攻撃する。そのため防衛戦力も巻き添えになるのだ。
「皆様はこの雷光と爆炎によって発生するスモークを利用し、撤退してくださいませ。戦術兵器である『グラディウス』を持ち帰るのも、作戦の一環ですので」
 しかし『強襲型魔空回廊』の防衛戦力は、完全に無力化される訳ではない。
 雷光と爆炎を耐え凌ぐ、強力な個体が撤退を阻むことが予想される。
「奇襲を仕掛けてきた皆様を、見逃すことは有り得ないでしょう。グラディウスの攻撃で敵陣が混乱し、連携がとれなくなっている内に、素早く強敵を倒して撤退してくださいませ」
 時間がかかり過ぎれば、態勢を持ち直したデウスエクス達も攻めてくるだろう。
 ――そうなれば、デウスエクスに降伏するか、暴走して仲間の撤退を助けるしかない。
「暴走も降伏も、あくまで最終手段ですわよ。とはいえ、グラディウスと命を天秤にかけるようなことがあれば、ご自身の命を優先してください。……ミッション地域ごとに敵にも特色がありましてよ、攻撃する場所を選ぶ際には参考になさってくださいませ」

 オリヴィアは最後に、
「不確定情報……例えば、ミッション地域の情報に『記載がないもの』は全く頼りになりませんわよ。敵を見かけたことがあったとしても、です。思い違いの情報では、グラディウスも本来の効果は発揮しません。資料に載っている情報のみご参考になさってください」
 と、やや語調を強めて締めくくる。


参加者
樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)
ラハティエル・マッケンゼン(マドンナリリーの花婿・e01199)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
ユグゴト・ツァン(不変の怪・e23397)
櫂・叔牙(鋼翼朧牙・e25222)
レヴィア・リヴァイア(海星の守護龍・e30000)
中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)
マリー・ビクトワール(ちみっこ・e36162)

■リプレイ

●天空の遺産
 そこは近代経済の急成長を後押しした鉱山だった。
 文明開化の音響く、明治の貿易や鉱業に多大な功績を残し、日本有数の巨大財閥を築く礎となった『別子銅山跡』
 高度成長期を支えた地は、いまや岩肌を剥き出しにした更地に変わり果てている。

 ――――ケルベロス、降下ポイント到達。
 荒れた山岳地帯に8つの影が飛び立つ!
「おう、随分好き放題してくれてンじゃねェか。ぶっ壊して、踏み躙って……気に食わねェな」
 降下中、根絶やしにされた荒れ地に伏見・万(万獣の檻・e02075)は吐き捨て、携える刃も、万の眼光ほど鋭さを増していく。
「お前達が壊したものが解るか? 『日本』という小さい島国を成長させた、誇りある場所なんだよ。それを侵略者が壊していいはずがあるか?」
 ある訳がない! ――樫木・正彦(牡羊座の人間要塞・e00916)は真っ向から否定する。
「破壊するか、奪う事しか……念頭に無く。性懲りも無く。貴重な遺産を、破壊するとは……!」
 櫂・叔牙(鋼翼朧牙・e25222)は瓦礫すら消失した鉱山遺跡に静かな怒りを滾らせ、小剣も炎のように光を揺らめかせた。
 強敵との戦闘を予感しながらも、ラハティエル・マッケンゼン(マドンナリリーの花婿・e01199)は冷えた微笑を浮かべる。
「心無き殺戮機械? 私の知った事か。貴様らの事情には、興味がない。心があろうと無かろうと、殺戮しようが守護しようが、な」
 いずれ全てを撃滅する――今回は矛先が此処に向いただけのこと。
 自由落下の中、意識を集中させていたユグゴト・ツァン(不変の怪・e23397)はグラディウスに語りかける。
「殺戮機械が人間――思考と感情を抱擁した、私の仔共たち――を弄ぶなど言語道断。不要な物体は解体すべき」
 大地を均すごとく無慈悲な鏖殺こそ、生命を蔑ろにする冒涜行為でしかないと糾弾する。無限増殖する無機性生物の所業は、あらゆる有機生命体への侮辱でもあるのだ!
(「大切な御二人の大願の為にも……!」)
「――此の星には愛しいモノが、愛おしい願いが多過ぎるのデス」
 海色の髪をなびかせ、レヴィア・リヴァイア(海星の守護龍・e30000)は地表を見据える。誰かの思いを成す為に、この一刀で道を切り開かんと視線を鋭くする。
「お前達は、悪い事を強いられている兵器じゃ! わらわ達が悪さをする前に止めてやるのじゃ!」
「お前たちが……兵器が傷つけていいものなんてここには無い! ここを大切に思っている人も沢山いるんです!」
 マリー・ビクトワール(ちみっこ・e36162)と中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186)も追随し、強襲型魔空回廊へと急速に距離を縮めていく。

「ここは少なくとも、てめェらのモンじゃねェ! だからそろそろ仕舞いにしな、此処は返してもらうぜ!」
「さあ……ここから、出て行け……っ!」
 万と叔牙が接触し、爆撃じみた炸裂音と甲高い摩擦音が別子銅山に反響する。
 ラハティエルとユグゴトが間髪入れずに、二の太刀を斬り込んでいく。
「全能の神よ、我が業を照覧せよ……そして、絶望せよ!」
「醜悪なる地獄が此処に『楽園』を創って魅せよう。此度の私は怒りに満ちた混沌だ!」
 吹き荒れる爆風の中へ。竜矢と正彦も矢の如く飛び込み、グラディウスを叩きつける。
「壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ…………壊れちまえぇッ!!」
 凄まじい火花を散らすが強固なバリアはビクともせず、正彦の額に浮かぶ汗が増していくばかり。
 ――焦燥に駆られているのは彼だけではなかった。
「ッ、グラディウス、ワタシにチカラを……!!」
「えぇいっ!どうしたのじゃあ!?」
 レヴィアの込めた思いは『仲間の願い』だ。仲間を想う気持ちは尊きものであり、貴ぶものであろう……だが、それはレヴィア自身の思いとは言い難い。
 求められるものは『手にした者の意志』であり、誰かの願いを代弁したとて、グラディウスは計れない。
 マリーの思いも焦点が合っていなかったと言う他ない……この地を占拠するダモクレスを造りし者もまた、ダモクレスだ。
「くぅ……レヴィア! しっかり握り締めるのじゃよ!」
 せめて振り落とさぬよう呼びかけ、同時にバリアへ突入する――――全身を痺れさせるほどの衝撃が走る。
 接触は一瞬。にも関わらず、二人を拒絶するように弾き、仰け反らされる。
 マリーの機転で取り落とすことはなかったが……堅牢な防壁は奇襲作戦を退けた。
 ――――立ちのぼる白煙の中に不気味な赤い眼が浮かぶ。

●声なき吼える者
 異物の侵入を検知した殺戮機構は滅炎の光束で迎え撃つ。
「クソ、いきなりぶち込んで来やがった!?」
「ストリア、援護を!」
 万の言葉に、すぐさま竜矢がボクスドラゴンのストリアに指示を飛ばす。ユグゴトを狙う光を遮り、その隙にユグゴトは感応波を正彦達に送る。
「我が術は治癒。我が術は破壊。我が言語に集え――母の抱擁と殺戮の業。何方が強固か試みよ」
 破壊には破壊を。無情には無情を。テレパスをラハティエル達にも向けている間に、レヴィアがバルブと歯車で構成された巨体に斬りかかる。
「く、なんて硬さ!? ……だが!」
「待て、先走るんじゃない!」
 自身の数倍もある飛翔体へ。砲撃しながらレヴィアを制止しようとするラハティエルだが、装甲とを削ぎ落とそうとレヴィアは勇み足になる。
 『連携を意識する』と言葉にしても、『互いを思いあう感情』がなければ意味が無い。
 ……綻びはひとつではなかった。
「遠慮無く、受け取れ……!!」
「わらわよりデカいくせに、ふよふよしよって!」
 叔牙も竜鎚からの砲撃で阻害しようと動くが、仲間の行動に注意は向いていない。獄炎を身に纏うマリーも勢い余って空振る大斧を、飛翔兵器レイドライバーに叩きつけようと岩山を跳ね回る。
『――――』
 点と点。補いあうべき繋がりを断ち切るように、殺戮球体は高速回転するギアを次々と投下する。燃え盛る球体は、さながら土石流を撒き散らす活火山を思わせた。
 足並みが乱れていく中、正彦と万はいっそう仲間の動向に注意を払う。
「グ、ゥ!? ――――万、行け!」
「喰らってやるよ、来いやデカブツ!」
 骨身を削る一撃を受けながらも正彦は進路を確保し、追い打ちするように万が岩場を蹴り上げる――その眼力に映る命中率に、不安が残る数値だとしても。
「一気に攻めます!」
 牽制の一射で逸らされる正彦の後方から、竜鱗を燻らせる竜矢が抜刀と同時に傷をつけた。
 前衛、中衛の攻撃を巧みにいなすレイドライバーは倍以上の反撃で猛火を注ぐ。

 ……この作戦には大きな見落としがあった。『ケルベロス自身の命中率』だ。
 スナイパー2名の足止めが有効打として機能する前に、レイドライバーは異常状態を解除してしまう。
 ――ならば敵の弱体化を狙うより、地力を底上げしたほうが確実だったのではないか?
 どれだけ強力な攻撃だろうと、命中しなければ意味を成さない……実力差に対する想定が甘かった。
 これに対し、殲滅殺戮機構は精確な狙いでもって、叔牙達を追い詰めていく。
 戦局は手数で拮抗しているかのように見えるが、被弾率はケルベロスが上。
 別子銅山の谷間を埋め尽くした煙幕も、風に流され薄らいでいた。

「復帰速度が、早い……!」
 動きを止めようと叔牙はムーンサルトから鋭いキックを見舞う。
 着地する叔牙の隙を庇ったストリアは閃光の中に消え、レイドライバーの排気筒から極炎を噴き上げる。
 眼球じみた大型兵器は灼熱の一閃でラハティエル達を薙ぎ払い、斜面に新たな焼け跡を描く隙間で、ユグゴトが星辰の方陣を展開させる。
「折れるな、我が脚…………いまだ私は、此処に在る!」
 熱傷で爛れる片脚を叱咤する彼女の周囲に熱線が走り、正彦が射線を妨げる。
「ぐ、ぅ、あぁぁぁぁぁぁぁッッ!!?」
 焼け崩れた贅肉は何度も轢き潰されていた。
 肘から先は骨が露出し――裂帛の叫びをあげて痛みを抑えるも、自らを盾に動くことは厳しい状況にある。
(「二度も、暴走なぞさせるか!」)
 ユグゴトは過去に暴走している。それを目撃していたレヴィアにとって、二度目は絶対に阻止したい。
「深海より御出でませ。慈愛の刃、海竜の背鰭よ――――穿てッ!!」
 蒼海を思わす大斧を手繰り、軋む身体に鞭打ち切っ先を構える。
 天を貫かんばかりの大瀑布はレイドライバーの装甲を弾き飛ばし、更地に音を立てて突き刺さった。
「押されてばかりでは、格好がつかんのう……!」
 攻撃に専念するマリーも回復は仲間頼りだったことが影響していた。
 負傷はディフェンダーながらサーヴァントにグラビティを分け与える竜矢と同等か、それ以上のもの。
 杖代わりに支える愛斧を構え、足場を駆け上がる。
「下がれ! それ以上突っ込むんじゃねぇ!!」
 ユグゴトを補助しようと奔走する万の叫びより先に、マリーの頭上に暗い影が落ち――、
「例え、ボロボロになっても……!!」
 全身で受け止めるべく竜矢が滑り込む。
 コンマの差で圧殺ギアを抑えた竜矢は、そのまま地上に激突しながら背骨を押し潰される。
「無駄にして、なるものかえ……ッ!」
 開かれた血路。小さな身体を弾丸のように突出し、マリーは数十倍の質量を誇るレイドライバーに肉薄する。
「――――わらわの必殺技、受けてみるのじゃ!」
 何度となく攻撃を逸らされてきたマリーは、文字通りの捨て身の一撃を放つ――!
 全身全霊の一振り。レイドライバーの巨大な機体を揺るがし、轟音と共に亀裂を残すに到る。

 ……だが、彼女を護れる者はいない。
 新たに落とされた鉄塊ごと岩肌にしたたかに打ちつけられ、マリーの全身を激痛が駆け巡る。
「だが、今の一撃は無視できまい。貴様と戯れているほど暇ではないのでな」
 白く染まっていた視界は元に戻りつつある。ここが勝負どころと、ラハティエルは打って出る。
 鉄塊の豪雨がレヴィア達に降り注ぐ中、ラハティエルの双翼に鮮烈な朱炎が燃え広がっていく。
「我が鮮朱の炎こそ、殲滅の焔!」
 羽ばたきは大気の塵を焼き、超高熱のエネルギー球がレイドライバーに直撃。
 拡大した亀裂から部品が砕けたクッキーのように崩れる。
 まだ原型を保つ殺戮機構を撃墜しようと、叔牙も8枚の翼に似た攻撃用励起体を展開させた。
「敵機動解析・照準多重捕捉――――」
 限界まで圧縮された光学エネルギーは可視化され、稲妻を伴う光球に変容し、
「光条嵐舞……撃ち貫く!」
 叔牙から放たれた無数の光条は、こぼれる破片の隙間を縫うように、拡大した亀裂を刺し穿つ。衝撃音と共にレイドライバーの一部は瓦解し、球体は欠けた月のように姿を変えていた。
「…………無慈悲なるは、刻か」
 事務的な機械音が山彦となり重なり合う。敵は前か、後ろか、右か左か。
 ユグゴト達を見下ろす無感情な赤眼は、火花を散らしながらも、瞼を閉ざすには時間があまりに不足していた。
 ――命の危険。状況不利。仲間を守る――ありていに言ってしまえば、常日頃から注意を向けている事項だ。
 明確に危機的な状況を見定め、自らの魂を賭けるだけの絶対的覚悟――――暴走とは、都合良く発動する必殺技ではない。
 死に瀕しながら『いまこの瞬間、自分が消失してもいい』という覚悟を決めた者に、選択肢が与えられるのだろう。
「………………中条達を担いだら、さっさと走れ」
 膝をつく正彦にグラディウスを投げ渡す万は、砕けそうな身体の痛みとは別に、呼吸を荒々しく乱し始めた。
「万、お前――!」
「いいか、絶対に振り返るんじゃねェぞ!? こいつァ、俺の『選択』だ――――!!」
 ラハティエルの言葉を遮り、野山を賭ける野獣のごとき身のこなしで、万は半壊した殺戮兵器に挑みかかる。
 凄まじい闘気を察知してか、再稼働し始めたダモクレス達は一人暴れ狂う『ケモノ』に狙いを定めていく。
 これ以上ない撤退の機会を、彼は作ったのだ。
「……ここが潮時、でしょう」
 叔牙達は負傷者を担ぎ、互いの身体を支え合うようにして新居浜市街地へと目指す。
 最後に耳にしたのは侵入者を処理しようとするけたたましい機械音と、おぞましい化生の咆吼だった。

作者:木乃 重傷:中条・竜矢(蒼き悠久の幻影竜・e32186) マリー・ビクトワール(ちみっこ・e36162) 
死亡:なし
暴走:伏見・万(万獣の檻・e02075) 
種類:
公開:2018年3月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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