「ほわちゃぁっ!」
山の上の一軒家から聞こえてくるのは、おじいさんの声。
ばちぃんという大きな音とともに、広く山に鳴り響いている。
「なになになんの音!? おっもしろいねー!」
そんなおじいさんの隣に、何処からともなく少女が現出した。
面子を投げようとしていた腕を止めて、ちょっと退がるおじいさん。
「む? なにやつ!?」
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
だがその問いに答えはなく、逆に意識を奪われてしまった。
言われるがままに、少女に何度も面子を叩き付ける。
「うん。僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
無傷の少女は、大きな鍵で容赦なくおじいさんの胸を貫いた。
倒れるおじいさんと入れ替わるように、ドリームイーターが立ち上がる。
「麓になら誰かいるんじゃないか? お前の武術を見せつけてきなよ」
少女の言葉に、ドリームイーターは駆け出すのだった。
「みんなにお願いがあります! ドリームイーターを倒してほしいのです!」
呼びかけるのは、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)だ。
天杭・魎月(レプリカントのブラックウィザード・e44438)も、首を縦に振る。
「幻武極っていうドリームイーターが、武術を極めようと修行に励んでいる武術家を襲う事件が発生しています! 自分に欠損している『武術』を奪って、モザイクを晴らすのが目的みたいなのです!」
そんな幻武極にとっては残念なことに、今回の襲撃では、モザイクは晴れなかったよう。
代わりに、武術家のドリームイーターを生み出して暴れさせようとしているらしい。
「襲われたのは、面子が大好きなおじいさんです! 出現するドリームイーターは、おじいさんが目指す究極の技を使いこなします!」
いまから向かえば幸い、このドリームイーターが麓の集落へ到着する前に迎撃できる。
ケルベロスも含めて、技の届く範囲に家屋やヒトの姿はないとのことだ。
春めく樹木や草花はあるものの、派手に破壊しなければ問題もない。
ひとまずは、被害を気にしなくて構わないだろう。
「ドリームイーターの武器は、おじいさん愛用のものと同型の面子です! 紙なんですけど、ドリームイーターが投げることで殺傷能力が上がっています! おじいさんが目指しているのは、対戦相手の面子すべてをいっぺんに裏返す強力な攻撃です!」
物理的に投げつけられる近距離攻撃だけではなく、遠距離攻撃もなかなかのもの。
相手の足許へと面子を投げつけて、その衝撃波でひっくり返そうとしてくる。
ちなみに面子は、幻武極が生み出した模造品なので傷を付けても大丈夫だ。
「今回のドリームイーターは、自らの武道の真髄を見せつけたいと考えているみたいです! 戦いの場を整えれば、相手から挑んでくるはずです! よろしくお願いします!」
ねむ曰く、被害者は自宅の一室に倒れている。
ドリームイーターを倒すまでは、眼を覚まさない。
おじいさんに声をかけるかどうかは任せますと、ねむは付け加えた。
参加者 | |
---|---|
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889) |
デフェール・グラッジ(ペネトレイトバレット・e02355) |
揚・藍月(青龍・e04638) |
風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931) |
卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351) |
ルデン・レジュア(夢色の夜・e44363) |
天杭・魎月(レプリカントのブラックウィザード・e44438) |
ベリリ・クルヌギア(不帰の国の女王・e44601) |
●壱
ヘリオンから降下したケルベロス達は、警戒しながら戦闘準備を整え始めた。
「……メンコって武術なん? いや、実際狙われてんだから武術……なんだよな。日本おっかねーところだな! とんでもねーところだぜ!!!」
それは、誰も答えを知らないし、皆が抱いているであろう疑問。
デフェール・グラッジ(ペネトレイトバレット・e02355)が、眼をまんまるにする。
「……戦いの場を整える……面子持ってきてみた……」
頭に布を被ったままで、ルデン・レジュア(夢色の夜・e44363)が呟いた。
厚紙に絵を描いた手づくりの面子8枚を、順番に地面へと勢いよく叩きつける。
するとその音に導かれるように、ドリームイーターが姿を現した。
負けじと、ルデンの足許へ向かって己の面子を叩きつけた。
「てめぇはよぉ、そもそもメンコでなにするつもりなのかよくわからんのが気に食わねぇ。ってんで殺す」
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)が、愛用する髑髏の仮面で表情を隠す。
挑発の言葉とともに、ドラゴニックハンマーから竜砲弾を撃ち出した。
「対戦っつーからメンコって格闘技なんだろ? よくわかんねーけど、ケンカができるってんでやってきたぜ! オラ、さっさと構えてオレとやりあおうぜ!! 一緒に遊ぼーぜ!」
間髪入れず、愛用のリボルバー銃から目にも留まらぬ弾丸を放つデフェール。
被害を気にしなくていい分、思う存分の戦いを挑むことができる。
「随分と変わったものを使うが……よくあることだな。そうそう。おじいさんには癖があるんだ。叩きつけるときは上から、衝撃で飛ばすときは横から、面子を投げるようだ」
爆破スイッチを押して、揚・藍月(青龍・e04638)が前衛の士気を高めた。
ボクスドラゴンがブレスを吐いているあいだに、予め調べておいたことを皆に伝える。
たいするドリームイーターは、腕を横へと振り引いた。
「きっきっき。面子に託けての悪戯に揺さぶりとはいけないねぇ」
天杭・魎月(レプリカントのブラックウィザード・e44438)が、女性陣の前へ割り込む。
強烈な風から女性陣を護ったが、なんとかつらが吹っ飛び、陽光に輝くツルピカ頭。
眩しさに不意を突かれて、ドリームイーターの動きが止まる。
「ありがとうございます、魎月さん。さて、面子を武術に昇華、ですか。私とも、是非お手合わせ願います」
卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)は、より命中率の高い技を選択。
如意棒を自在に操り、振り上げられていた面子を捌いて腹を打った。
「おじいさんを狙うなんて非道いんだぞ! 老人を労われ!!」
風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931)はびっと指をさして、狼に変身。
光球をぶつけて己の凶暴性を高めると、ライドキャリバーに乗って突撃した。
「死ャ死ャ死ャッ! 天杭、レジュア、妾に遅れをとるでないぞっ! 面子なぞたかが紙切れ! 妾が刻んでくれようぞっ!」
血の滴るふた振りの喰霊刀を後ろ手に、漆黒の光の翼で突貫。
ベリリ・クルヌギア(不帰の国の女王・e44601)の瞳は、赤く輝き澄み渡っている。
「きっきっき。畏まりました、女王様。悲劇の記憶を以て、我が眷属となれ そなたは不老を呪う者の始にして頂 不老故に不変なればこそ――遅すぎた永劫は呪いとなり牙となる」
かつらをとって、吹き飛び防止に突き立てておいた内蔵の杭も抜いて。
詠唱の最後にパチンと指を鳴らすと、魎月は「悲劇の記憶」から老人の霊体を召喚した。
「……面子が武術なんて、面白い見方をする……だからといって許されるものではない……襲っている時点でアウト。倒す。皆、がんばーれ!」
普段は大人しく無口だが、戦闘中は口数が増えるルデン。
ベリリと魎月の連携攻撃の最中、中衛の背後にカラフルな爆発を起こす。
3名は、同じ旅団に所属する友人なのだ。
●弐
ケルベロス達は決して攻撃の手を緩めず、バッドステータスを重ねていく。
「遊びとは、ときに技へと昇華する。遊びを真剣におこなうからこそ、きっとそれは美しいのだろう。実に遊戯というものの理解がなされているんだね。紅龍もそう思わないかい?」
藍月の問いに首を縦に振ると、ボクスドラゴンは四角い箱に入って体当たりした。
追って握り締めた縛霊手で殴打し、網状の霊力で以てドリームイーターを緊縛する。
だが。
ドリームイーターはなんとか手首を動かすと、サイドスローで面子を投げてきた。
「面子の衝撃波で攻撃、それならば面子が地面へ触れる前に妨害します!」
紫御の投擲した5本の針は、投げられた面子の影を正確に大地へと縫い止める。
地面すれすれのところで、面子はどうにも動けなくなった。
「ったく、どんな凶悪な紙っきれだよ!! 紙きれのくせにトンデモネー威力とか!! オラ! オレぁまだ倒れてねーぞ! もっとやりあおうじゃねーか! どんどん来いよ!! あー! 楽しいじゃねーかまったく!!」
右目の地獄を纏わせたゾディアックソードで、ドリームイーターへと斬りつける。
デフェールの燃えたぎる炎が、傍に浮かぶ面子をも焼ききった。
「いわんこっちゃねぇぜ。餅は餅屋だ。遊び道具が武術になってたまるかってんだ!」
返されてもらわれていくどころか灰とされてしまった面子に、竜人の怒りも増す。
ヌンチャク型の如意棒を振りまわして、思い切り殴りかかった。
「私の重さ受けてみろ! トゥッ!! ライダーキック!!」
周囲の重力を操作して高く跳び上がると、くるりと宙返りする響。
急降下して蹴りつけた足先からグラビティ・チェインを流し込み、爆発させる。
叩きつけられる面子は、ディフェンダーのライドキャリバーが受け止めた。
「夢よ夢。我らのとおり、願ったとおり、望んだように、重ね重なる色彩よ。覆い尽くして真を潰せ……無限色/白」
唱えれば、さまざまなカタチで構成された幾何学模様が胸の前へと創造される。
ルデンはそれを優しく吹き飛ばして、ライドキャリバーの傷を覆い尽くした。
「ふむ、その手に持つ面子……妾が消してしまったらうぬはどう戦うというのだ?」
そう言って口端を上げるベリリの手には、不可視の球体が揺れている。
放り投げれば狙いどおり、ドリームイーターの面子に触れて消滅させた。
しかし懐から次の面子を出してきて、前衛陣へと衝撃波を生じさせる。
「割と動けるみてぇだが互いに無理すんなよ? きっきっき」
すぐさま魎月が指パッチンを鳴らし、大地の記憶から抽出した魔力を前列へと贈った。
肉体と精神と、そのどちらが欠けても動けなくなってしまうのだから。
●参
ドリームイーターの面子を叩きつける音が、徐々に弱くなってくる。
ヒールを毎ターン繰り返しても追いつかないくらい、ダメージが蓄積していた。
「影を射止める、それは光を制すること。その真髄を味わっていただきます」
いよいよの瞬間を迎えるために、紫御がドリームイーターの影へと針を打つ。
気を飛ばして、今度はドリームイーターの動きを束縛した。
「貴様は此処で終わりだ!」
響は懐へと入り込むと、獣化した手足で以て高速かつ重量のある一撃を放つ。
ライドキャリバーも颯爽とスピンして、ドリームイーターの足を損傷させた。
「八卦炉招来! 急急如律令! 行くぞ紅龍! いまこそ俺達の力を見せるときだ!」
「きゅあきゅあっきゅあーーー」
藍月の展開した8枚の板型符は、ドリームイーターを閉じ込める結界となる。
其処へボクスドラゴンが数十発の炎弾を墜とせば、超高温にて燃え盛り、爆砕した。
「きっきっき。熱いだろうからよ~く冷やしてあげようねぇ」
すかさず魎月が、指笛を吹き鳴らす。
指から口から音色から、発生する混沌の波がドリームイーターを呑み込んだ。
「攻撃こそ最大の防御ってな! 弾け飛べ! 弾丸っ! オラぁ! 砕け散りやがれっ!」
右目の炎を弾丸に変えて発射すれば、ドリームイーターの眼前でぱぁんと砕け散る。
デフェールの地獄から沸いた飛び火は、これまでに皆の残した傷口を抉った。
「偽物は、やっぱり壊れないと価値は出ないよなっ!」
焼かれる躯を、続けてルデンの攻撃が襲う。
怒りは激しい雷となりて、ドリームイーターの頭部へと落ちた。
「死死死っ! さぁ現れよ、骸の巨人、ディンギル・フバーハ! 妾が最強の一撃にて、うぬを大地ごとひっくり返してくれよぉぞぉおおっ!!!」
ベリリの影から現れた巨大な門が開き、幾万の鎖に封じられていた異形が解放される。
炎の鎧を身に纏う巨骨が、憤怒の煉獄へとドリームイーターを導き誘った。
「いいからさっさと死んどけや、なぁッッ!!
竜人は古竜の尾を、顎を砕く角度と威力で振り上げてから、そっと仮面を外す。
「アオテンってか。返されたテメエの負けだよ」
べちゃんと落下した躯が動くことは、なかった。
●肆
戦場を修繕してから、ケルベロス達は被害者のもとを訪れる。
「眼を覚ましたな。私達はケルベロスだぞ」
おじいさんに笑いかける響は、既に狼からヒト型へと戻っていた。
ライドキャリバーも嬉しそうに、おじいさんの周囲をまわってみせる。
「お身体は大丈夫でしょうか? 鍛えられてはいるでしょうが、まだまだ寒い季節です」
黒の瞳で、おじいさんの様子を観察する紫御。
念のためにだが分身を生み、ヒールしておく。
「最近この手の面白武術見ること多くてよ。武術ってなんだろうなって思うわ。つーかそもそも、メンコのなにに武を見出したんだろうな」
ふわっと事情を説明してから、竜人はそんな疑問を口にしてみた。
真相は、幻武極にしか分からないのだろうが。
「にしても生きてっからよかったが、年寄りの冷や水にしても笑えねえよ。今後はも少しヒトの多いとこでやってくれ。第一メンコなんてひとりでやるもんじゃねえだろ?」
おじいさんと視線を合わせて、眉間に皺を寄せる竜人。
言葉は荒くても心配の気持ちは伝わったようで、おじいさんは「ありがとう」と応えた。
「……その……面子とはどのように遊ぶものなんだ? 少し興味があるのだが……よければ教えてもらえないだろうか?」
藍月は、面子そのものは先程の戦闘で眼にしたのだが、実際にやったことはない。
請えばおじいさんは、笑って「ええよ」と頷いた。
「懐かしいですね。当時は大きさ以外にも、デザインを自慢しあっている男子が多かったのを憶えています」
記憶を辿れば、生徒達のわいわい遊んでいた声や表情が想い出される。
紫御も、ともに面子を教わることにした。
「武術の面子じゃなくて……皆で楽しめる面子、教えてくれたら嬉しい……」
所謂、昔の遊びに触れられるとあって、ルデンも内心ウキウキしている。
おじいさんの手許を、布の下からじっと見詰めていた。
「……難しいな……だが……ときに童心に帰るのも……いいものかもしれないな……」
「きゅあっ」
そして藍月もおじいさんの真似をしてみるものの、同じようにはなかなかできない。
器用にぺちんと面子を投げる相棒は、寧ろ藍月と遊べるのが嬉しいようだ。
「よっし、爺さん勝負だ。勝てずとも一度やってみかったからな。それに狙ってるもんもあるしよ。爺さん、いいコレクションじゃねーか。きっきっき」
実は、ドリームイーターの持っている面子のなかに、欲しいものがあったのである。
魎月はその面子を懸けて、おじいさんに勝負を申し込んだ。
のだが。
「ほぉぉ、これがめんことやらか。叩きつけた風圧のみでひっくり返せば妾の勝ち、と。死死死っ、この程度の稚戯が冥府の支配者たる妾にできぬわけがなかろ? 刮目せよっ! 妾のっ一撃をぉぉおっ!!」
ベリリ乱入。
しかも、1枚もひっくり返せない。
「こりゃまた……じいさんの圧勝じゃねぇか」
デフェールの眼前で、おじいさんは次々と面子を裏返していく。
あっという間に、勝負がついてしまった。
「……し、死ャ死ャ死ャっ! 見たかっ! なに、見てない? 妾の一撃が凄過ぎてすべての面子が一回転してしまったのだ! いやいやぁ残念であったなぁ? 死死死死死! え、結局負けなの?」
ケルベロス同士で対戦してみたり、おじいさんに挑戦してみたり。
暫く、楽しい時間を過ごしたのであった。
作者:奏音秋里 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年3月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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