ベリー・ベリー・ストロベリー

作者:小鳥遊彩羽

 某県にある、のどかな田舎町。
 毎年この時期になると、県の内外から多くの観光客が訪れる、『いちご街道』と呼ばれる道がある。
 街道沿いに多くのイチゴ農家が軒を連ね、直売所では摘みたてのイチゴをパックや箱で買えるだけでなく、イチゴ狩りや、更にはイチゴを使ったスイーツも楽しめるのだという。
 そして、今年も例年通り、イチゴ狩りのシーズンがやって来た。
 イチゴ農家の人々も、いちご街道に行こうとしている人々も、皆、とても楽しみにしていたのだけれど――。

●ベリー・ベリー・ストロベリー
「その『いちご街道』に繋がる別の県道がデウスエクスに破壊されてしまって、要は物流の動きがとても鈍くなっている状況なんだ」
 いちご街道に続く道は当然通行止め。幸いイチゴ農家はどこも無事だが、これでは農家の人もイチゴ狩りがしたい観光客達も困ってしまう。何しろ、この『いちご街道』のイチゴは、口コミで多くの客が買いに訪れるくらい甘くて美味しいのだ。
「つまり、俺が食べたい……というのは今はとりあえず置いといて、皆にヒールの依頼が来てるんだ」
 トキサ・ツキシロ(蒼昊のヘリオライダー・en0055)はそう言って、今回の依頼についてさっくりと説明し、道路の修復を終えた後についての話を続けた。
「その後は勿論、イチゴ狩りを楽しんで欲しい、とのことだよ」
 イチゴ狩りだけでなく、ビニルハウスの近くにあるカフェまで足を伸ばせば、詰んだばかりのイチゴを使った様々なスイーツを楽しめる。パフェやパンケーキに添えられる真っ赤なイチゴやイチゴのソースもあれば、イチゴをふんだんに使ったタルト、シンプルだが華やかなイチゴのショートケーキも捨てがたい。いっそのこと、もっとシンプルに、焼きたてのパンに自家製のイチゴジャムを塗って食べるのも美味しくないはずがないだろう。他にもメニューは色々なものがあるので、これだと思ったものを見つけて欲しいとトキサは笑った。
「でもまずは、ちゃんと道路を修復してから……ですよね?」
 フィエルテ・プリエール(祈りの花・en0046)の言葉に、トキサはもちろんと頷いて、ケルベロス達へと向き直る。
「イチゴはいっぱいあるけど、これは今、この瞬間にしか食べられないイチゴだからね。一生懸命ケルベロスとしてお仕事をして、みんなでうんと楽しめるように、頑張ろうね!」


■リプレイ

「みてみて! 日和さん、季由! 美味しそうな真っ赤な宝石が沢山です!」
 日和と一緒に作った苺の髪飾りにブローチをつけ、ロゼは鼻歌を歌いながら苺を摘む。
「あ! ロゼさん、季由さん、この苺、髪飾りに似てませんか?」
 日和の声にロゼは早速その苺を摘んで、お揃いみたいと日和と笑い合い。
「ミコト、ここは楽園かもしれないぞ?」
 春色の乙女達に季由が見惚れている間に、翼猫のミコトはまるで掃除機の如く狂ったように苺を食べていた。
「待てミコト! 食べすぎだ!」
 すると、必死にミコトを止める季由の口に、ロゼが苺を一つ放り込む。
「甘酸っぱくて美味しいでしょ?」
 口いっぱいに広がる春の味と、悪戯に微笑む天使の笑顔に途端に癒される。一方ミコトは日和に苺をおねだりしていて。
「甘いですか? 気に入っていただけてよかったです。……え? もっと?」
「――ミコト!!」
 そんなこともあったが、概ね甘酸っぱい至福のひとときを過ごすロゼ達だった。
 長兄のイサギが行っておいでと見守る中、義弟妹である瑪璃瑠とウイリアム、そして樽人は苺狩りへ。
 瑪璃瑠はウェアライダーの狩りの腕前を存分に発揮して、イサギに届けるための苺をたっぷり摘んで。
 ウイリアムはせっかくならば一番美味しい苺をイサギと瑪璃瑠に献上したいと、苺を選ぶのに夢中になるあまり自分では食べないまま容器に苺が山盛りに。
 そして樽人は大好物の苺を心ゆくまで堪能しつつ、持ち帰り用の苺を吟味する。
 ジャムを作りたいというウイリアムに、生ハムと苺のサラダと苺大福を作ろうかと思案する樽人。
「ウィルとタルトの料理はとても美味しいから、メリーと私はいつもとても楽しみなんだ」
 イサギは穏やかに笑って、今日の想い出と一緒に皆で味わう苺に想いを馳せた。
「はわわーっ、おいしそうだよぉー」
 イチゴジャンキーと呼ばれる程苺が大好きなヴァニラは、甘酸っぱい香りに笑み綻ばせ。
 一歩踏み出せば、ときめきと幸せに満ちた夢のようなひとときが待っている。

 苺狩りを存分に楽しみお土産分まで確保した所で、晟はカフェの存在を思い出し。
 苺スイーツの全制覇もケルベロスとしての義務と、とても真剣に考え込むのだった。
 クランがミミックのカジュと探すのは、出来るだけ甘そうな真っ赤な苺。その場で味見は行儀が悪いかと、カジュの箱に仕舞うふりをして味見を頼んだはいいものの、
「……味がわからない? それもっと早く言って……!」
 気を取り直し、赤い苺を選んで摘んで。お楽しみは、家に帰ってから。
 タルトの店を開いているルリの一番の自慢は木苺のタルト。
 けれど、まだ作ったことのない苺だけのタルトに挑戦してみたいのだと微笑んで。
「美味しくできたら、フィエルテさんも食べてくださいね」
「はい、是非。楽しみにしていますね」
 そのために真っ赤な苺を沢山見つけなければと、翼猫のみるくも意気込んでいた。
「今日はイチゴ食べ放題です!」
 バスケット一杯に摘んだ苺を丸ごと洗い、のんびりと味見を楽しむトリスタンとエルス。
「これ、すごく甘いです! おじちゃんも食べて!」
「うん、これは凄く甘いイチゴですね」
 美味しくてあっという間に空になるバスケット。でも、今日は食べ放題だから。
「帰ったらお菓子でも作りましょう?」
 エルスは微笑んで、トリスタンを再び苺畑へ誘うのだった。
 ――誰が一番大きい苺を探せるかしら?
 苺の甘い香りに目を細めながら、シルとさくらと苺狩りを楽しむベラドンナ。
「いただきまーす♪」
 さくらは宝の山の苺の中からルビーのような一粒を摘み、その甘酸っぱさを堪能する。
「ん~、甘ーい♪」
 シルも宝石のような苺をいっぱい摘んで、二人にもお裾分け。
「べるちゃんもシルちゃんも、お気に入りの苺は見つかったかしら? はい、あーん♪」
 さくらにあーんとされてちょっと照れつつ、ベラドンナもお返しにあーんと返して。シルとも三人で摘んだ苺を食べ合いっこ。
「ほんとに甘くて美味しい。幸せー」
 たくさん食べて楽しんだ後は、一番美味しかった苺を、旅団の皆へのお土産に。
 今年も一年、皆で仲良く。
 美味しい物と一緒に、たくさんの想い出を紡いでゆきたいと願いながら。
 赤い苺が実をつける様子に、グレイシアの心は弾む。
「グレイシア、美味そうなの見つけたが食べるか?」
 呼ぶ声に振り向くと、アーロンの手にはつやつや輝く大粒の赤い苺。
「私にくれるの? ありがとう」
 広がる幸せの甘み。グレイシアもお礼にと、大きめの真っ赤な苺を見つけてアーロンへ。
 たくさんの幸せを噛み締めながら、苺狩りを楽しんで――。
「僕、あまーいイチゴ大好き♪ トキサくんはどんなイチゴが一番すき?」
「俺はねー、やっぱ苺! って全力で主張してる真っ赤なやつかな」
 こういうの、とトキサが見つけたのは程よく熟した大ぶりの苺。一方、リィンハルトもちょっぴり形は歪だけど大きさはぴかいちな苺を見つけてじっくり観察。
 甘いだろうか、すっぱいだろうか。でも、きっと美味しいのは間違いないだろう。
「うん、これはトキサくんにぷれぜんと♪ 今日いっしょにまわってくれたおれいだよ」
 へにゃりと笑うリィンハルトにトキサもへらりと笑って、お返しと先程見つけた苺を差し出すのだった。

 実を食めば、甘酸っぱさに輝く瞳。
「ゼレフさん、如何しましょう。とても美味しいです」
「如何もこうも――満足するまで楽しむべし」
 これは逸品とゼレフが綴る品評家めいた台詞も、口へ運べばどれも『美味い』で締め括られる。
 ならば大いに楽しむしかあるまいと、景臣は再び真っ赤に熟れた実に齧りつく。
 たっぷりと太陽の恵みを受けてきたから、こんなにも甘くて幸せになれる苺になったのかもしれない。
「あたたかいとほっとしますから。……幸せの御礼に――はい、どうぞ」
 いかにも景臣らしい発想にゼレフは笑んで、差し出された太陽のお裾分けを口に含む。
「娘にも土産を用意したら喜んでくれますかね?」
「いいね、かご一杯持っていこうよ。とびきり熟れた至高の果実を」
 家で待つ彼女が幸せそうに目を輝かせる様を思い浮かべれば、互いの唇にも自然と穏やかな笑みが綻んだ。
「見渡す限り苺、いちご、イチゴですわ!」
 どれも大きくて真っ赤でとても甘そうで。手近な苺を手に取って美味しいと頬を緩めるシエルを、フィエルテは微笑ましそうに見やり。
「シエルさん、こちらの苺もおすすめですよっ」
「まぁ、こちらも甘くて味も濃くて美味しいですの! 全部、全種類食べたいですわね」
 種類が複数あるならば、全部食べたいと思うのが乙女心。
 互いに顔を見合わせて、悪戯めいた微笑みと共に頷き一つ。
 いざ、全種制覇を目指す旅へ!
 今日のために甘い苺の見分け方を調べてきたのだとクィルは得意気に笑い、ジエロの期待に応え早速お目当ての苺を探し出す。
「採る時はこうして優しく持って……くいっと捻ります。どう? ジエロ、上手でしょう?」
「ふふ、流石クィル。私もうまく出来るかな」
 クィルが上手に苺を摘めたら、ジエロも微笑み。
「ジエロ、ここの苺すごく甘い」
 クィルは一粒食べて頬緩め、ジエロの口元にも一粒を。
「ああ、本当だ。甘いなあ」
 そしてジエロもお返しに、甘そうな苺をクィルへと。
 二人で摘んだ苺を楽しみつつ、家で一緒にスイーツを作るための苺も確保して。
 ――甘い幸せは、まだまだ続く。

「菱形でぷっくりしているのが美味いんだ。ほら、これなんてどうだ?」
 見つけた苺を差し出すクーに、ルムアは悪戯っぽく目を細めてぱくりと一口。
 無自覚だったことに気づいた瞬間、沸騰するクーの顔。けれどあーん、と差し出されたとびきり大きなハートの苺と甘い笑顔の誘惑に、恥ずかしさを覚えつつもぱくりと。
 故郷の苺も美味しいのだと気恥ずかしさを紛らわそうと続けるクーに、ルムアは優しく微笑んで、
「クーさんの故郷の苺も食べてみたいですね。きっと貴女のように、とびきり甘くとびきり可愛い苺に違いありません」
 何気なく添えられる甘い言葉と笑顔に、クーの頬は赤く染まるばかり。
 練乳も砂糖も蜂蜜も、ヨーグルトやチョコレートだって悪くはないけれど。
 このトッピングは、きっと一生止められない。
「トキサさん、これ食べる?」
 葉っぱの裏に隠れていた子を摘み、春乃は何の気なしにトキサの口元へ。
 あーんと大きく開いた口の中に消えていく赤色。
 甘いと笑う青年に、満足げな笑みが覗く。
「君が食べたいって言ったから、食べさせてあげたいなって。だって……」
 ――わたしの願いを叶えてくれているのに、わたしが君の願いを叶えないのは不公平だもんね。
 瞬いて見やれば、赤く染まった頬を苺で隠し微笑む少女の姿。
 つられるように青年の頬も赤くなったのは、きっと気のせいではなく。
「……春乃ちゃんとこうして過ごせるだけでも、お願い叶ってるようなものだけどな」
 ――苺狩りは、まだまだこれから。
 鼻を擽る甘い香りと緑に連なり煌めく紅色の宝石達に、弾む心が爪先を躍らせる。
「わたしね、絵本の中に出てきた小人さんの野いちご摘みに、ずうっと憧れていたの」
 甘酸っぱい果汁を閉じ込めたジュースに、宝石箱みたいなタルト。
 皆で集めたいちごで作ったジャムは、どんな味がするのかしら?
 ずっと夢見ていたからまだちょっぴりどきどきしているのだと囁くセスに、バンシーは少女のような微笑みを覗かせる。
「ジュースもタルトも、きらめくジャムも、全部全部、ひとつずつ。どんな味がするか、確かめましょうね」
 綻ぶような笑み咲かせ、指先伸ばして手折った一粒を、セスはそっとバンシーの口元へ寄せて。
「ね、バンシー。これは、わたしたちだけのひみつ!」
 瞬いた金の瞳に映る紅色。小さく齧れば広がる甘さに笑み深め。
「ええ。ひみつよ、セスさま!」

 鈴生りの赤い宝石達を見つめながら、アリシスフェイルはお礼を言いたかったのと内緒話のように紡ぐ。
 それは先日のバレンタインのキャンドル作りの時のこと。
「絶対大丈夫ってフィエルテが背中押してくれたから、とても心強かったのよ」
「こちらこそ、お力になれて良かったです」
 彼の部屋に置かれたキャンドルを見ると今でも嬉しくなるのだと微笑むアリシスフェイルに、フィエルテも自分のことのように嬉しそうに笑って。
 話の続きは、カフェの特等席で。
 甘い苺のスイーツを傍らに、どれだけの花を咲かせようか。
 陣内が歩きながら摘んだ苺は、そのままあかりが持つトレイに詰め込まれていく。
「遠慮なく食べとけ。摘みたての苺は絶対美味い」
 勧められるままかぶりつけば、鮮烈な香りとバランスの取れた甘みと酸味に口より先に揺れるエルフ耳。身体が苺になる位まで食べられそうだと珍しく興奮した様子のあかりに、陣内は鼻をすんすんと動かして。
「どうかした?」
 傍にいるだけで漂ってくる苺の香り。
「……食べたら美味いかな?」
「……っ!!」
「なんてね。ほら、耳まで真っ赤になって、食べ頃の苺みたいだ」
「――じゃあ、食べてみる?」
 耳の先まで赤くしつつもやられっ放しは性に合わないと。あかりの強気な仕返しに目を丸くした陣内は、すぐに口元へ差し出された一際大きな苺に知らず安堵の息を吐く。
「……子供は悪いことを覚えるのも早いな」
 そう嘯きつつそっぽを向くも、まだまだ幼いあかりに対し陣内は思うのだった。
 ――早く大きくおなり、と。
『あの日』以来、彼なりの気遣いをラウルは感じていた。
 今日も腹いっぱい食べてみたかったんだと、いつもと変わらず楽しげに苺を摘むシズネに少しでも安心してほしくて、ラウルは笑ってみせるけれど。
「……ちゃんと笑えているかな?」
「――ほら、おめぇもちゃんと食べろよ?」
 シズネは曇った笑顔に触れず、とびきり甘そうな苺をラウルの唇に押し付けた。
 命の煌きが詰まった、赤の彩。
 お返しにと一等甘そうな苺を差し出せば、まだほんの一部だとシズネは紡ぐ。
「ねえ、シズネ……俺は、君のお陰で彼女が愛した世界が美しいと、思い出すことが出来たんだよ。――それだけは確かだから」
「おめぇも、オレも、あの子にも、知らない世界があるんだぜ? だから、もっと色んな世界を見て教えてやらねぇと」
 シズネから返る言葉と想いは、泣きたくなる程優しくて。
「嗚呼……そうだね。未だ見ぬ世界の色に、――逢いに往こう」

 既に数多の宝玉を味わえども、飽くなき探求は我々を狩りへと駆り立てる。
 至高の苺を求め、我々はとうとう辿り着いたのだった――。
 夜とアイヴォリーのナレーションにティアンがわくわくと耳を揺らす中、三人は日溜りのハウスへと。
 薄紅の種が色付く珍しい白苺の名は『初恋の香り』。
「貴女が頬を染めたらこんな風?」
 アイヴォリーは笑み綻ばせ、ティアンの掌にそっと白苺を託す。
「ティアンがもし恋をしたら、斯様になるのだろうか」
 何気なく零した夜に、表情一つ変えずにティアンは首傾げ、
「……ティアンが恋したことがある、していると、言ったら、意外?」
 頬染める言葉を紡ぐ相手ではなかったけれど、想えば自然と眦緩むような、そんな恋。
「今も大層可愛らしいけれど、心染め温まる姿を見る相手は羨ましい限りだね」
 すると甘い言葉を紡ぐ夜の唇に、貴方には少し酸味が必要とアイヴォリーが赤い苺を押し付けて。
 瞬いたティアンが、倣うように先程の白苺を探しアイヴォリーの口元へ。
「慣れておくといい。これが恋の甘さなら」
 貰った白苺も夜の笑顔もどちらも甘く、指先まで蕩けてしまいそうな心地になって。
 瑞々しい香り。穏やかに過ぎるひととき。
 鼓動のように、ひかりのように、満ちるこれが――春なのだと知る。

 メニューを見て悩む時間さえも、目の前にいる彼を想えばヌリアの中に綻ぶのは今までとは違う愛おしさ。
 運ばれてきたタルトとパフェの、春めく苺の香りに心は弾み、一口掬えば幸せな気持ちに包まれる。
 美味しそうに食べるヌリアに銀河は微笑み、思わずそっと彼女の頭を撫でる。
「……ありがとう」
 溢れる気持ちは、自然とヌリアの唇を彩り。
(「ゆっくり、素敵な思い出を作っていこうな」)
 ヌリアの笑顔を見つめながら、銀河も想いを灯した。
 慶と真介のテーブルには、たっぷりの苺が散りばめられたパンケーキとぎっしり苺が詰まったタルト。
「タルト少しあげるから、一口分ちょうだい。駄目?」
「欲しいの? いいぜ、一口でも二口でも。ほらいっぱい食え食え」
 喜びも楽しみも二人で分かち合える分、一人で食べるよりもずっと美味しくて。
「……あのさ、あの。今日、一緒に来てくれてありがと」
 少しだけ照れたように紡ぐ慶に、真介はん、と頷き、
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう。また、どこか行こうな。一緒に」
 慶もまた大きく頷き、是非ともと笑って返すのだった。
 しっかりと空かせてきたお腹に、いざ苺スイーツを。
 タルトを彩る宝石のような一粒を、大きなひとくちで。
 広がる甘さと爽やかな酸味にぱたぱた揺れるメロゥの羽根は、美味しさの表れ。
 一方、棗も切り分けたパンケーキを心地好く香る苺のソースに絡めてぱくりと食べる。
「――おいしいっ!」
 口いっぱいに広がる幸せの味。
 ぴこぴこ揺れる白いオコジョの耳に、メロゥは殊更に笑みを綻ばせ。
 メロゥも一口どうぞと棗が差し出すのは、たっぷりとソースを纏わせたひとかけら。
「……いただいてもいいの?」
 あーんと一口、美味しさに頬緩め、お返しにメロゥからもタルトをお裾分け。
 ふたりで食べればもっと美味しくて――幸せな、時間。

 苺狩りを堪能した後、【鮮血】の面々は連れ立ってカフェへ。
 テーブルに並べられる煌めく赤のスイーツ達は、クラリスとウエンのスマホにしっかりと収められ。
 クラリスは早速銀のスプーン片手に、生クリームの塔に囚われた苺姫を救出するかの如くパフェの天辺に飾られた苺を掬ってぱくり。
 口の中で弾ける、春らしい甘酸っぱさをぎゅっと詰め込んだ苺に、思わず零れる幸せな溜め息。
 美味しい物を食べると無口になるし、真剣だから真顔になる。
 幸せな溜め息が出るのも、自然の理だろう。
 なので決して浮かれている訳ではと自分に言い聞かせつつ、即断でショートケーキに決めたリューデはひたすら黙々とフォークを口に運んでいた。
 ウエンは焼き立てのパンに苺ジャムをつけ、飲み物に苺ミルクを。
 ヨハンもまた、焼き立てのパンにジャムと、更にバターをたっぷりと。
 智十瀬は苺ソースをたっぷり掛けたパンケーキに苺ジャムをどっさり乗せたパンと、まさしく苺尽くし。
 煌めくタルトを一口、苺とカスタードのマリアージュにエヴァンジェリンは頬が落ちてしまいそうな心地になり。
 皆が美味しそうに食べるその表情を見ながらルビークもパンケーキの苺を口に。そして、幸せな溜め息をひとつ。
 目を閉じたら、苺の香りと幸せそうな皆の声に囲まれる。
 皆の幸せな溜め息に耳を傾けながら、まるで苺の魔法と笑み綻ばせるエヴァンジェリンの言葉に、同じくその魔法に掛けられたとルビークは笑み深め。
 やがてショートケーキを綺麗に平らげた後、幸せそうな皆の姿を見たリューデは、ほんの少しだけ顔を綻ばせた――かもしれない。
 皆と過ごす特別な、今日というご褒美。
 ――このしあわせなら、何度でも。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月8日
難度:易しい
参加:50人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。