いい感じの重ね方

作者:寅杜柳

●重ねること
 夏の終わりの公園。秋の涼しい風と和らいだ日差しを行きかう人々は楽しんでいた。
 ベンチに一人の男が座っていた。若々しく、けれどその表情は優れない。
 そんな彼の前に壮年、それよりはもう少し歳を重ねた、夫婦と思しき男女が通りかかる。容赦なく被さる年月をも上手くこなし、成熟した雰囲気を感じさせるその二人の姿を見て、青年の目が怪しく光った。
 色々探してもどこか歯車が噛み合わない、本当の好みではない。そんな悶々とした想い抱え続けた者が長き渇望の果てにかっちりかみ合う存在に巡り会えた、そんな勢いで彼は祝うような勢いで叫ぶ。
「枯れつつも若いだけの青臭い精神性から成熟した関係性! 穏やかで健やかな日常、正しくハッピーエンドのその先にあるべき姿! これが、これこそがこの世の大正義だ!」
 自身の大正義を世界に宣言し、立ち上がった彼は鳥と人を混ぜ込んだような異形と成り果てていた。

 はぁ、と大きな溜息がヘリオンに響く。
 その溜息の主、雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)は何とも言えない表情で顔を伏せていたが、意を決したように顔を上げる。
「……ナイスミドル、いいやちょっと違うな。熟年カップルこそが大正義、と主張するビルシャナが出現すると予知されたんだ」
 微妙な空気がヘリオン内に流れるも、知香は続ける。
「このまま放置すると一般人を信者化して同じ大正義の心を持つビルシャナを生み出してしまうからどうにかその前に撃破をお願いしたい」
 まだ配下はいないが、周囲の一般人が感銘を受けて信者になったり、あるいはビルシャナになってしまう危険があるのだと彼女は言う。
「この大正義ビルシャナはケルベロスが戦闘行動をとらない限りはどんな意見にも反論する性質があるからそれを上手く利用しつつ一般人の避難などを行ってほしい。ただ、どんな意見でも本気の意見じゃないと他の一般人へ大正義を主張して信者にしてしまうから議論を挑むなら本気で挑む必要があるだろう」
 そこまで説明した知香は資料を広げ始める。
「このビルシャナが出現するのは晴れた昼の公園、その中心部辺りになる。ベンチに座っていた青年がいるんだが、仲睦まじい中年夫婦を目の当たりにしてビルシャナ化、己の大正義を訴えかけ始める。人通りはそれなりにあるから避難誘導は必要だろう。まあ、道を塞がれているわけでもないから誘導経路自体は外側に向かうよう誘導すれば問題ないだろう」
 ただ、防具特徴など能力使ったらそれを戦闘行動と判断してくる危険があるからできるだけそれらを使わず上手く誘導してほしい、そう彼女は言った。
「ビルシャナの教義については……なんかこう、色々時を経て安定したような穏やかな関係性とか日常とかそういうのこそが大正義らしい。大体五十代以上。そういうのに真っ向から対立する意見を主張すれば言い負かそうとしてくるんじゃないかな。上手く一般人の避難誘導が完了したら、後はビルシャナの撃破を頼む」
 そこまで説明した彼女は資料を閉じる。
「ビルシャナは自分を大正義と信じてるから説得は不可能だ。だけど上手い事やって一般人に被害を出さないよう解決させてくれ」
 そしてふと遠い目をし、
「しかし穏やかにいい人みつけて年を重ねる、なんて今の時代じゃなかなか難しいからねぇ。あまりないからこそ美しいとか言うのは分からなくもないけど」
 そんな風になれるのかねぇ。二十代半ば過ぎの白熊はそう呟いた。


参加者
リシティア・ローランド(異界図書館・e00054)
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
鋼・柳司(雷華戴天・e19340)
鍔鳴・奏(モラの下僕・e25076)
心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)
アメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)
霊ヶ峰・ソーニャ(コンセントレイト・e61788)

■リプレイ


「そうだこれこそが大正義なり!」
 秋めいた空気の気配が感じられる公園に怪鳥の魂の叫びが響く。
 かつては普通の人、けれど今は白いラインの入ったこげ茶の羽に赤の嘴。仲のよい夫婦の代名詞である鳥にも似た姿となった彼は、驚く人々に大正義を説こうとする。
 だが、反論の声が響く。
「共に同じだけの年月を重ねてなくたって、幸せにはなれます」
「何奴っ!」
 勢いよく振り向いたビルシャナの目に映ったのはアメリー・ノイアルベール(本家からの使い・e45765)の小柄な姿、それと男女一人ずつの計三人。
「一つの生き方しか認めないというのは柔軟性を失う主張だ。貴様の主張は確かに聞こえが良い。だが、そこを外れたとしても立派に生きている人間は存在する! それを否定する事こそ精神的な成長からの乖離だ」
 アメリーの言葉に重ねた壮年男性は鋼・柳司(雷華戴天・e19340)。鳥の主張がまるで自分に喧嘩を売っているようにしか思えないバツイチ武侠系の彼も受けて立つ構えは万全也。
「熟年夫婦自体は私も好きだけどぉー、皆そうなるのは違うよね」
 そして円谷・円(デッドリバイバル・e07301)もやんわり否定する。
「何を言うか貴様等! この大正義を……」
「ほーら~いっ! ちょっと壁になってて!」
 きしゃーと反論してきた怪鳥に灰色ふかふかの蓬莱をずずい、と押し出し一呼吸。
「えーとね。熟年カップルの落ち着きや阿吽の呼吸、語らずとも伝わるあの感じ……うん、とっても素敵だよね」
「そうだろうそうだろう! 故に広く説くのだ!」
 同意するような事を口にする円に喰いつくビルシャナ、けれど円は蓬莱に隠れつつ首を振る。
「でもでも、カップルに大切なのはドキドキやときめき、稀に喧嘩して仲直り、とか。そういう若気の至りだってとーっても素敵な事なの!」
 人生は一度きり、時は戻らない。一度熟年になったならそんな青臭い高揚感はどう満たしたら良いのかと円は問う。
「そんなものは積み重ねた日々の後の安らぎに比べれば無価値、故に不要!」
 けれどそれを鳥は丸ごと否定。それは彼にとっての大正義ではないのだから。
 剣幕に驚いた風な素振りを見せつつ、円はビルシャナのさらに向こうで一般人を誘導している仲間達の一人、此方の様子を機にかけていた霊ヶ峰・ソーニャ(コンセントレイト・e61788)と目が合い、軽く頷く。
「皆さん、此処は危険ですので、早く離れて下さいませ」
 ビルシャナに悟られないようやや声のトーンは低めに、カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)は避難を促し、
「はーいこっちよー」
 危ないわよー、とおっとりとした声で翼猫のソウを連れて誘導しているのは心意・括(孤児達の母親代わり・e32452)。白くて丸い、毛玉のような箱竜を連れた鍔鳴・奏(モラの下僕・e25076)と、鷹の羽衣を纏うリシティア・ローランド(異界図書館・e00054)も人々を静かに誘導し、徐々にビルシャナから引き離していた。
 避難誘導に向かっている仲間達へと注意を向けさせない為、三人は大正義への反論を続けていく。


「わたしのお父様とお母様は、親子ほども年が離れていました。だけど、二人はお互いを深く思いやり、心から幸せそうでした」
 アメリーが懐かしむように両親の事を語る。四十も年が離れた両親。その結婚は最後の子を残し、老いた父の最期を看取るためのものだった。
 共に過ごした時間は短かったが、その分二人は一瞬一瞬を大切にしていた。二人の間の強い、確かな愛情をアメリーは近くで見ていたのだ。その最高の両親を想い、胸がきゅっと切なく、涙と流れようとするけれどもアメリーはぐっと我慢。その想いを熱に、言葉に変える。
「真に心を託せるパートナーに巡り会えるかどうかに、年齢なんて関係ないんです」
 けれどもビルシャナはそんな想いを意に介さない。
「結局途中で死に分かれたのだろう? だったらバッドエンド、子供もそんな自明の理、大正義も認めないなど真っ当に育ってな……」
「両親が離婚して母だけに育てられても優しく育っているうちの娘が立派ではないとでも言うつもりか!? あんな良い子は滅多に居ないぞ!」
 急に割り込んだのは親馬鹿の柳司である。諸事情で今は月一の面会でしか会えなくなってはいるが、娘が大切なのである。
「いやそもそも私は熟年カップルが大正義で育ちとかは枝葉……ええい! それは関係ない!」
 剣幕に少し圧されるがすぐ反論を再開しようする鳥、けれど袖を引っ張られる感触に止められる。そこにはヴァルキュリアの少女が一人。
「熟年、カップル、か。恋愛、という、ものは、年齢、関係、ない、よく、言う」
 それ自体は否定しない。が、それが大正義だという点は全面的に否定するとソーニャは言い切る。何故なら年齢は関係ないのだから。
「それこそ、50代、超える、年齢、の、人、と、10代、の、人。極端、な、年の差、の、恋愛、だって、許される、はず、だ」
 話すのが苦手なだけで内気だとか人見知りではない彼女は、さらに続ける。
「お互い、が、求め、あう、ならば、それに、越した、事は、ない。お互い、認める、なら、年齢、どころ、か、性別、すら、関係、ない、言う、人も、いる」
「うむ、確かにそれは関係ないな。種族も性別も超え積み重ねた日々の果ての関係……大正義でないはずがないな!」
 自分の言葉に納得したようにビルシャナが宣う。守備範囲は割と広いようだ。
「夢、見過ぎじゃね?」
 大正義に酔っぱらった鳥を奏がぶった切る。もふもこには目がない彼だがわるいもっふりには容赦はない。
「枯れつつも若いだけの青臭い精神性から成熟した関係性? 妥協の末の結末かも知れないぞ?」
「その考えこそ甘いし若い考えよねー。今の時代、熟年になってからの方が波乱があったりするわよー?」
「妥協の何が悪い! 波乱などに負けぬ!」
 真っ向から否定する奏と括だが、怪鳥の大正義への信仰は堅牢。
「確かに年数を重ねたカップルは仲睦まじいと思いますけど、若いカップルも負けていないと思いますわ」
 大正義に人々を巻き込ませない、そんな意思を胸に宿したカトレアも切り出す。
「若いカップルは、これからの人生設計、子育てへの熱意、それらに頑張る姿が素敵だとは思いませんか?」
 カトレアが説くのは、人生設計や子育てに初めて挑む若いカップルの将来の無限の可能性への素晴らしさ。既にある程度経験を重ねた熟年の関係には少ない、不安定で未知に共にぶつかっていく事のそれだ。
「それに若い間は必死に支え合わないと生活出来ないから何だかんだで絆が強いのよー」
 彼女の言葉を括が継ぎ、
「でも、子供が独り立ちして余裕が出てくると夫婦それぞれが抑えていた青臭い感情が復活してくるのよー。昼ドラや居酒屋で騒ぐのが好きな人が多いのも、感情がまだまだ青臭いからかしらね!」
「……あれ、括って何歳!?」
 いつもと変わらぬ穏やかな表情で語る括の、実体験のような語り口に奏が驚いたが彼女は微笑みでスルー。
「なるほど。恋愛というものを理解していないわね」
 ビルシャナの主張を一通り聞いていたリシティアが無感動に告げる。
「あんたの考える熟年カップルに至るまでには若いころの恋愛の積み重ねがあってこそ。其れを蔑ろにしておいて大正義とは笑い話にしても陳腐だわ」
 とはいえ、鳥風情に恋愛を理解しろと言うのも酷な話かもしれないだろうけど、と冷めた口調。どんな熱量で大正義を説かれても、それに惑わされるような彼女ではない。
「熟年カップル、大いに結構。しかし、熟年カップルだからこそ起きる問題も色々あるよね。老後の事とか考えると」
 そして奏が指摘するのは、遺産にお互いの家族へのケア等の現実的な問題。
「ちなみ、だが、子供、欲しい、と、考える、なら、30、まで、には、考えた、方が、いい、らしい、な」
 ソーニャもそれにそっと付け加え、
「最近よく聞く熟年離婚や熟年不倫もその一つね! 近所で仲睦まじく歩いている熟年カップルが実は夫婦じゃないなんて事もざらで、周りもその関係を知ってて知らないふりをするのが大変なのよー?」
「やめろーっ! そんな関係は紛い物だー!」
 止めを刺すような括の言葉に頭を抱え首を振り、周囲を見やったがそこには一般人達の姿は居らず。代わりに戻ってきた柳司達の姿があった。
「というか……」
 暫く黙っていたアメリーが口を開く。表情を変えず、けれど大切な両親の生き方を否定された故に強さを増した声は、雄弁に彼女の想いを、熱を表していた。
「あなたのような部外者に、人の幸せの形を測ってほしくありません。そのような勝手な言い分、許さないです」
「人は誰しもいつかは熟年カップルになるのかもしれない、でもいきなりじゃ勿体ない事が多すぎるんだよ!」
 さらに円が想いを叩きつけるように続け、
「だからビルシャナ、貴方の教義は間違ってるの!!」
 きっぱりと、否定した。
(「気持ちは分かるんだ。歳を取っても手を繋いでデートとかなー、思わず微笑んでしまうような光景に憧れもするさー」)
 結構辛辣な事実を並べた奏ではあったが気持ち自体は分からなくもない。彼自身にそんな相手は今の所いないが、と内心自虐しふと思い至る。
「んー、とな。キミがその考えに至った経緯を聞いて良いかな? まだ若いじゃん?」
「大正義を悟った、それ以外に理由などない!」
「……もしかして、フラれたばかりとか?」
「……」
 あ、図星。
 目を微妙に泳がせ氷輪を出現させ戦闘態勢をとった鳥の反応に一同はそう察した。


 戦闘開始から数分が経過。
 傷ついた怪鳥が氷輪を解き放ったが、白くまん丸なボディを精一杯に使ったモラと、蓬莱が庇い受け止めた。負傷に蓬莱のアンバーの瞳が細められるが、すぐに羽ばたいて傷を癒やし、それに合わせ後方から黒スカーフを靡かせたソウが羽ばたいて呪縛をも解除する。
 そして最小限の動作で氷輪を躱したリシティアが、星狩を魔法で回転させ投擲。回転速度を増しながら銀の刃が敵の守りを斬り刻むと主の手元へと従順な猟犬のように帰還した。更に奏が銀の粒子を展開し感覚を活性化させると、その援護を受けたモラがブレスで追撃。同時、狙い澄ましたソーニャの流星の飛び蹴りが頭を蹴り飛ばすと、円のイチイのロングボウから放たれた矢が大きく弧を描く軌道で鳥の背を射抜く。
 アメリーが失われた愛しい想いを歌い上げ、その歌声に援護されたカトレアが薔薇の飾りの付いたブーツに炎が生じさせながら駆け出し、
「この炎で、焼き鳥にしてあげますわ!」
 思い切りのいい蹴りが怪鳥に突き刺さり、赤い火の粉が花弁のように散る。反撃に怪鳥は妖しい経文を唱えカトレアの精神を揺さぶるが、括が癒しの想いを体現するオーラで包み込み正気に戻す。
 戦況はケルベロス達優位に進んでいた。序盤こそ攻撃を躱されることがあったものの、命中に優れた攻撃や命中させるための支援の準備が功を奏し、攻撃重視の編成がビルシャナから速やかに余裕を削り取っていく。
「お前のような奴がいるから世間の目が厳しいのだ」
 敵の攻撃後の隙を見逃さず柳司が弧月の軌道で手刀を当て動きを縛る。直後距離を取った彼の居た場所に円の放った虚無球体が地を削り取りながら飛び込みビルシャナに直撃。そこに距離を詰めたアメリーの鎖刃の群が鳥の傷口を引き裂き、さらにソーニャが氷の魔力を纏ったハンマーを怪鳥に勢いよく振り抜き殴り飛ばす。その先にいたリシティアは無感情にグラビティブレイク。斬る、というより砕くといった方が正しいだろうその衝撃にビルシャナは苦悶の声を漏らすが、
「大正義を証明するため負けられぬ!」
 強引に体勢を立て直し、清らかな光で己の傷を修復する。
 けれど、それは焼け石に水。
「予防のお時間ですよー。怪我予防をしておくから、全力でいってらっしゃい!」
 自分のペースを崩さず、括が柳司に手早く想いを込めた包帯を巻きつけ援護。
「雷華戴天流、絶招が一つ……紫電一閃!!」
 それ受けた柳司が機身に内蔵された魔導回路のエネルギーより形成した紫の雷刃を放出、増幅された火力で遠間からビルシャナを斬り裂いたと同時にモラが鳥の頭に激突、火花の弾けるような衝撃にふらついたビルシャナに、光の粒子と化した奏が追撃する。
「炎よ、集え。風よ、集え。土よ、集え……」
 機と見たソーニャの詠唱、空間に熱量と力が収束、増幅、膨張。それが発動する前に反撃しようと手を翳す怪鳥だったが、月にも似た色合いの鱗が投擲され突き刺さると翳した手を痺れさせたように停止させる。
「おっと、もう動けないでしょう?」
「明けに輝く月の煌めきは、全てを切り裂く狂気の刃よ」
 鱗を投げつけた円の言葉に応える間もなく、司書の言葉。夜に輝く月の光で形成された巨大な光刃が弧月を描く。その光を目にした、つまり精神を月光の狂気に侵されたビルシャナはざっくりとこげ茶の羽を紅く染める。
「その身に刻め、葬送の薔薇! バーテクルローズ!」
 そこに思い切り踏み込んだカトレアが艶刀を構え、気合いを込め連続の薔薇の紋様を描く斬撃を見舞う。終いの一突きと同時に起こった爆発にビルシャナの身体は熱量の塊の下へと吹き飛ばされ、
「沈黙させよ、殺戮せよ、討伐せよ。今この時、我の意思の元、その力を示せ」
 同時にソーニャの詠唱が完了。火山の噴火にも似た大爆発、そして生成された溶岩がビルシャナの全身を灼き尽くし、その生命活動を停止させた。


 戦闘がそれほど長引かずにビルシャナを撃破できたこともあり、カトレアやアメリー達によるヒールも手早く完了した。
「倒した後に言うのもなんだが、まぁ奴の主張も多少は理が有った……多少は」
「けれどもそれだけ、っていうのはねー」
 柳司の言葉に括が返す。
(「私も『あの人』と仲睦まじく余生を過ごせていたらどれだけ幸せだったのかしら……」)
 そうはならなかった可能性を思い起こさせる大正義にちくりと痛む想いも無かった訳ではないが、子供達との今の生活を否定する程ではない。憂いは心の中だけだ。
「……それにしても本当にうちの娘はよく育ってくれているな……次の面会日が待ち遠しい」
 遠い目をしながら柳司が娘を想う。
「理想だからこそ眩しく思えるのかねぇ」
「……理想だけで理解を放棄したらこうなるのかしらね」
 白いふわもこの温かみを頭の上に感じながらの奏の言葉にリシティアが冷たく述べる。
(「メールひとつで喜んだり、別の子と話すだけで嫉妬したりしたいけどなぁ」)
 老いて穏やかに。そんな凪いだカップル自体は好きだが、今のまだまだ若い円は好奇心を満たし、当たり前のときめきを楽しんでいたいのだ。
 周囲の確認を終えたソーニャが広場の外へと歩き出し、仲間達も共に帰路につく。
 穏やかな日常は無事、取り戻されたのだ。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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