●3月3日、昼
お辞儀をしてからあなた――、ケルベロスと視線を合わせた遠見・冥加(ウェアライダーの螺旋忍者・en0202)は、ウサギの耳をぺったりと倒したまま首を傾げた。
「耳寄りなお話、かどうかは解らないけれど……、あなたに頼みたい事があるのよ。聞いてくれるかしら?」
ケルベロスが了承すると耳をぴょんと立てて、冥加は笑う。
「今日、私の故郷に行こうと思っているの。それで、……あなたに付いて来てほしいのよ!」
冥加が言うには。
今日はちょうどお休み。失伝ジョブの皆やオウガも目覚めたばかりで、新しいケルベロスも増えた。
その為、先輩として皆に色々伝えられるように、故郷の山で秘密特訓を行おうと思ったそうだ。
「でも、経験を積んだ人と一緒に特訓したほうが絶対に上達するわよね。それに、どうせなら来たばかりの皆とも特訓したほうが絶対に楽しいわ!」
という訳で。
ケルベロスの皆で一緒に特訓に行く事で、内容をより充実させたいと思っているようであった。
●うさぎうさぎ、なにみてはねる
特訓と言っても、何ができるのかとケルベロスが尋ねると、冥加は胸を張って答える。
「ふふ、螺旋忍者の秘密特訓基地よ!」
秘密特訓基地かどうかは、さておき。
冥加の故郷の山には、小さな滝から連なる川が流れており、広場には木で作られた大きなアスレチックのような施設も有るらしい。
アスレチックを使って、体を鍛えるも良し。
水場や広場を使って皆で手合わせをするのも良いだろうと、冥加は言う。
はた、と気がついたケルベロス。
皆で行くと『秘密』特訓では無くなってしまうのでは無いかと尋ねると、冥加は前髪を揺らして首を横に振った。
「うふふ。どんなに沢山の人を呼んだって、来た人みーんなが内緒にしていてくれれば秘密特訓だわ」
何よりね、と人差し指をケルベロスの唇に差し出して内緒の指。冥加は楽しそうに笑う。
「ウサギは寂しいと死んじゃうのよ」
どうやら彼女は『秘密特訓』という響きが格好良いから、言ってみたかっただけのようであった。
「さぁ、日が暮れる前に急ぎましょうっ! 疲れてくたくたになっちゃうまで一緒に特訓よっ!」
●
青々とした木々が並び、遠くにそうそうと流れる水の音。
「山奥で特訓とのことだったので、てっきりサバイバルかと思っていたのだが」
無駄な大荷物だったか。
大荷物を背に。晟はアスレチックを見上げ小さく首を振った。
「いいや」
整備が行われていたとしても、山である事には違い無い。
山林の探検。大荷物での登山は山岳救助等の訓練にもなる。
「一石二鳥どころではなく一石三鳥だな。……惜しむべくは探検隊が隊長一人のみという事だが」
そうと決まれば、と足を踏み出す晟。
「まぁ、なんでも良い。――いざ行かん!」
特訓のはじまり、はじまり。
「手合わせは初めてだよな、本気でかかってきて構わないぞ」
獣尾を揺らし、ヒノトは楽しげに首を傾げ。
「エルピスが勝ったら、欲しい物を何でも一つ奢ってやるぜ」
「ふふふのふー、じゃあヒノトが勝ったら美味しいもの沢山奢るのよ! 本当よ?」
エルピスは耳を立てて、へにゃと笑う。
「だから真剣に勝負なの!」
「正々堂々、勝負だ!」
次に交わす視線は互いに真剣な色だ。
「はぁっ!」
一気に踏み込んだヒノトは、獣めいた拳を叩き落とす。
「ヒノトがまた強くなってるの!」
腕を交わしてガードを上げた、エルピスの足形が地へと轍を生む。
「ワタシも、負けない!」
振り払う形で放つのは、同じく重力を纏った獣の一撃。
相手の出方を見るように同時に二人は距離をとる。
「ワタシもまた強くなったの!」
「……本当にますます腕を上げてるな」
「ふふーん、すごいでしょ」
えっへん。いやエルピスはただ自慢をしたかっただけかもしれない。
「へへっ、それでこそエルピスだ!」
「ワタシはオオカミだもの!」
軽口の応酬、重ねられる攻防は実践と見紛う程激しく。
「最後は得意な技で、……どうだ?」
「その提案、乗るの!」
二人の重力が蠢き、膨れ上がる。
「集え、冱てし白藍の穿氷よ!」
「ぐるるーっ!」
そして最後まで立っていたのは――。
巨大な円柱ポールを見上げ、あかりは途方にくれていた。
「どうやって上まで登るんだろ……」
ケルベロス大運動会めいたアスレチックの半ば。
横をすり抜ける黒い影。
豹の如き軽やかな身のこなしを会得するのだ、と師匠面していた陣内だ。
黒豹姿の彼は、言葉通り軽やかな身のこなし。
その翠の視線の先。
「師匠……! ここを登れって事だね」
鎖と僅かな足場。あかりは飛び込むように跳ねる。
「動物変身で登るなんてズルいなんて言わないよ!」
言わない言わない。
握りしめた鎖を引き絞ろうとした瞬間、あかりの掌が滑った。
「わっ」
陣内の猫が背を逆立てて羽根を広げ。黒豹は尾をぱしりと床に一度叩きつけて、それを見咎める。
本当は手伝ってやりたい、という陣内の心の現れだろう。
しかし、……師匠として、ここは心を鬼にして――!
「危なかった……」
逆手でしっかりと体重を支え直すあかり。ウムと頷き、黒豹は進む。
「動物変身で登るなんてズルいなんて言わないよ!」
二度目の主張。
「その代わり、僕が疲れ切ったら後はよろしくね、タマちゃん」
師匠では無く、タマちゃんへのお願い。
耳と尾が揺れ。それを了承と捉えたあかりは、更に翔ける。
帰り道は陣内の背で楽をさせてもらおう。
それは師匠の特権、否。義務だ。
柱を飛び跳ねた恭志郎は、兄貴分と慕う冬真の背を目で追う。
「よっと!」
やはり、螺旋忍者の兄さんの様に軽やかに跳ねる事は難しい。
覚醒の遅かった彼は運動神経も並。デウスエクスの忍軍にだって出し抜かれる事が多い。
それでも、ここでしっかり鍛錬して、次こそは。
「懐かしいな」
ぐっと意気込む恭志郎に追われる彼は、細道を軽快に駆け。
川に浮かぶ丸太を一息に飛んだ。
「子供の頃はこういう場所で鬼ごっこをやったっけ」
家にも鍛錬場があった。ああそうだ、童心に帰って恭志郎と鬼ごっこも面白いかもしれない。
思いつきに冬真は振り向き、目を見開いた。
「!」
丁度、無理な体勢からの踏み込みで、丸太の上で足を滑らせバランスを崩している恭志郎。
「恭志郎っ!」
慌てて一瞬で距離を詰めた冬真は、恭志郎の服を引っ掴んで小脇に抱える。
そのまま、不安定な丸太を蹴って柵の柱へと降り立つと。
抱えられたままの恭志郎はへにゃりと苦笑を浮かべた。
「にんじゃ……すごい……」
呆然とした彼の笑みにつられたように、冬真も柔く笑む。
「先に行ってごめんね、僕が悪かった」
謝罪を口に。そう、恭志郎は自らのように螺旋忍者では無い。
「僕が支えるからゆっくり慣れていこうか」
「……はいっ!」
兄貴分に習い、基礎から改めて。
好戦的に笑うノル。
「愛してるからこそ手は抜かないよ」
だからこそ、負けたくは無いのだ。
「さあ、仕合おうか!」
だからこそ、遠慮するのは失礼だろう。
「ああ」
グレッグが頷くと、体に纏う白銀が鋼の鬼と化し。
飛び込んだ彼は、ノルの横っ腹に目掛けてその拳を叩き込んだ。
純白の鞘でその一撃を受けたノルの体が勢いに弾き飛ばされる。
強かに背を打ち付けながらも、一瞬で抜刀した彼は跳ねた。
――コードXF-10、魔術拡張。
「やっぱり、……強いね!」
「遠慮は無しだからな」
愛しい人に狙いを定め。生命力を魔力に変換したノルは十字に空を斬る。
放たれた剣撃は、十字の雷撃と化し。
衝撃を振り切ったグレッグは、重たく感じる足を一瞬引きずり地を蹴った。
足を止めたまま勝てる程、自らの愛しい人は甘くない。
纏った白銀が滑る。
「行くぞ、ノル」
グレッグはそのまま蹴り上げると見せかけ、彼の肩に馬跳びのように片手を添えて更に飛ぶ。
足止めを貰った状態でそのまま突っ込んでも避けられてお終いだ。
一度高く飛んでから、巨木の枝を蹴り上げて制動を掛けたグレッグは、その反動でノルへと飛びかかった。
刃の如く鋭くなった白銀を足に纏い――。
「受け止める!」
それが彼の本気だと解るから。ノルはにんまりと笑う。
●
木々を隠れ蓑に。
構えた憩の背へと一気に間合いを詰めたかだんは、その拳を叩き込み。
交わすがどこか振り切れぬ憩の拳は、かだんに命中する事無く空を切る。
かだんは、吠える。
「――ヴゥルルォ、アア!」
それは森の王の、威風堂々たる様。
喉、脳天、意志を揺さぶる咆哮。
「あ」
同時に拳を叩きつけた筈であった憩の体は跳ね飛ばされた、と思う間も無く投げ飛ばされていた。
弾ける水雫。川が綺麗だ、なんて呑気な事が頭を過る。
「憩さあ。遠慮した?」
しゃがみ、尋ねるかだん。
憩はぽかんと言葉に詰まった。それは、図星だ。
憩の普段の戦闘スタイルは、火器と格闘を織り交ぜた物。しかし、火器は。
「訓練だし。大暴れしたら……困るだろ」
自然を傷つけると嫌がるだろう、と瞳が語る。
「じゃ、今度は防戦の練習させて」
遠慮しないでいいと、座った侭の憩に手を伸ばすかだん。
「私が何も傷付けさせない練習、させて」
「……そうか。ならもう遠慮はナシだ」
ぐ、と手を取った憩。
「でもキツくなったら言えよ! 隠すなよ!」
愚直に視線を交わし立ち上がった憩。
「あとな、意外と」
かだんは瞳を細めて笑む。
「自然は強いよ」
再び始まる攻防は、燃える炎の如く。
何故か滝に落とされる憩の姿が在ったとか、無かったとか。
大自然の澄んだ空気。
「先月はちょっと食べ過ぎたからな……」
「……代謝が悪くなる年頃だしねぇ」
過分に蓄えられた脂肪は燃やさねばならない。アラサー二人組。ナディアとヴィルベルは並び準備運動。
「さ、どこからでもかかってこい」
ナディアの言葉は開戦の合図。
脚を纏ったオウガメタルは光を散らし、地を蹴った彼女の刀は銀に煌めく。
「あぁ、やろう」
ガードに上げたヴィルベルの腕を覆う竜鱗。
刃の軌道を鱗に滑らせ反らし。彼女の突進の勢いを返す様に、掌底を叩き込まんと腕を伸ばした。
ヴィルベルの腕が軋む。
想定内の動き。ナディアは笑い、伸びた腕に地獄の炎を纏わせて――。
「重ッ」
「あ?」
眉を潜めた彼が思わず零した言葉。ナディアは自らに叩き込まれた腕を引っ掴んで地へと叩きつけた。
「黒焦げにしてやろうかその鱗!?」
「わぁ」
思わず漏れた本音が踏んだのは地雷か、虎の尾か。
叩き込まれるラッシュに防戦一方。散る雫は汗か血かはたまた涙か。
鬼の怒りが冷める頃には、疲労困憊で大の字に倒れ込んだヴィルベル。
「あぁ……、空気が美味しいなぁ」
「……寝るなよ?」
釘を刺し、横に座り込むナディア。
「疲れた、……だがまあ、こういう疲れ方は悪くない」
風は、火照った体を心地よく冷やしてくれる。
「あ、ああいうのは何かちょっと……僕には合いそうにないかな……普通に体鍛えよ」
遠目に見える鬼の猛攻。耳を倒して目を反らすコメット。
「そういえば遠見さん誕生日なんだよね……」
お祝いも、誘ってくれた礼も有る。冥加の姿を探し。
「あ、いたいた……って、早!?」
山へと跳ねる様に冥加は翔けて行く。
「うう……でも、これは秘密の特訓なんだし……僕にだって!」
獣道に消えた冥加を、コメットは追う。
うーん、と唸る月は図鑑とにらめっこ。
「櫻、コレはこのページのキノコ……」
伸ばそうとした月の手を櫻は叩き。首を横に降り、猛毒キノコの頁を指差す。
「ええ、でも食べられるキノコにもすごく似てますよ?」
そこに冥加が上から降って来た。
「あ、冥加さん。食べられる植物は見つかりました?」
「バッチリよ!」
籠の中には、野草がたっぷり。
「わぁ、沢山ですね。 そうだ、このキノコって」
「有毒よっ、触っちゃだめよ?」
頷く櫻。月が首を傾げた。
「はぁ、はぁ……っ、遠見さん」
そこへ駆け込んで来た、ボロボロのコメット。
「や、やっと追いついた……、あの、き、今日は、お誕生日、おめで、と」
ばたん。倒れる虚弱体質。
「きゃー、コ、コメットさん!」
「ひ、ヒールヒール」
彼が目を覚ます迄、山の幸狩りは中断だ。
風に靡く空色の旗。
空団の誰が言い出したか、妨害OKアスレチック旗取り合戦。
「スタート!」
掛け声と同時に。綱を蹴って一気に跳ねたティアンから膨れ上がる半透明の御業。
「行け」
ティアンの御業は旗へと一直線に伸び。
「ティアンさん速いです! 賢いです!」
シィラが思わず零した言葉。キソラも内心その手があったと感心をするが。
「ケド渡しやシマセンよ」
動きを止めること無く、キソラは腕を伸ばす。
覆い尽くせ。広がる闇色。広がる重圧はティアンの御業へと空を塗り替えるように伸び。
「わたしも負けていられませんね!」
柱を馬跳びのように片手で飛び。2つ、3つ飛ばしで翔けあがるシィラは、風に銀髪を靡かせて弾丸の雨を前方へと降らす。
「おっと」
「!」
爆ぜる雨に一瞬怯むティアン。キソラは柱を蹴って横に跳ね、網を掴み、弾を避ける。
その瞬間、御業を捉えた闇の雲。互いにかき消えたグラビティを裂くように、シィラは真ん中を駆けた。
「やはり、ただのかけっことは違うな」
「タダではやらねぇよ!」
旗へと手を伸ばしたシィラに向かい、ティアンは呟き。
弾を避けた反動で半回転しながら掌で制動を掛けたキソラは、腕の力に任せて体を跳ね飛ばして。シィラへと刃の様な蹴りをその腕に叩き落とさんと、急接近。
「やはり簡単には行きませんか……っ!」
腕を傷められては溜まらないと。咄嗟に腕を引いたシィラの取った次手は、旗を銃で撃ち飛ばす事であった。
「おおっ、シィちゃん!?」
「つかまえた」
ティアンが縛霊手を薙ぐと、網状の霊力が放出される。そのまま巨大な腕で旗を掴んだティアンは、更に翔ける速度をあげた。
「待って下さい!」
指で空を撫でるシィラ。放つ電極針。骨まで痺れる甘い棘。
痺れに足をとられたティアンは受け身を取り、その横に滑り込んでくる影。
「大人げなくいくって言ったデショ」
いかにも楽しげに笑ったキソラは腕を伸ばした。
果たして、勝利の行方は。
●
「ここが冥加ちゃんの故郷……」
街で生まれ育った自らには新鮮で。豊かな自然を駆け回る彼女を想像して、俊は笑う。
「それじゃあ、手合わせしようか」
マイペースに靴紐を整えて居た炯介が顔を上げる。
「ただし僕は手を出さない。君の好きなように、日頃の鬱憤を晴らすといい」
俊は細く息を吐いて、応える。
「いいわ、覚悟しなさい。吠え面かいても知らないんだから」
完全に舐められている。
獣と化したその右腕を振りあげ、俊は地を蹴り上げた。
「かかっておいで」
華王の急降下もひらりと回避。からかうように炯介は跳ねる。
はた、と気が付き手を振る彼。
「おや、誕生日おめでとう、レディ」「おめでとう!」
炯介は片手を前に右脚を後方へ引きながらおじぎを一つ。俊も笑顔でご挨拶。
「待ちなさいっ!」
一瞬で切り替え。俊は豪と吼えた。
「嵐の様ね」
呆然と手を振る冥加の背後に近づく影。
「お誕生日おめでとうミョン!」
「冥加、誕生日おめでとっ」
トーマとシィが同時に声をかけ、冥加はおじぎだ。
「皆、どうもありがとうっ」
「後、覚えてるかは分からないけれど、お礼に。去年アドバイスを貰ったからさ」
「贈り物は気持ち、よね」
大事にして貰っているのね、とトーマへと幸せそうに笑う冥加。
「……おうっ。おめでとついでに付き合ってくんね?」
「あっ、ワタシもよかったら一緒にどうかしらっ? ワタシとレトラのコンビネーションでお相手するわ!」
今日のお誘いと言えば、もちろん手合わせだ。
「良いけれど、二人同時はちょっと難しいわね……あっ、リィさんっ! お願いがあるのよ」
「あら。ミョン、何かしら?」
そこに通りかかったリィを引き止めた冥加。
斯くしてここにタッグマッチは開戦したのであった。
樹を蹴り、アスレチックを蹴り。あらゆる障害物を盾として足場として冥加は跳ねる。
「ぴょんぴょんとウサギみてぇ……って、ウサギだったわ」
「その通りよっ!」
彼女の身軽さが武器だとすれば、トーマの一番の武器は足だ。
「はっ!」
螺旋を籠めた掌を翳した冥加が飛びかかると同時に、居合い斬りを放つトーマ。
その拳が叩き込まれる前に、彼女を蹴り上げ距離を無理やり取る。
「ウサギと一緒に竜は如何?」
トーマの距離を取った先。
低く構えたリィがピコピコハンマーを変形させて、砲と化す。シィの執事たるレトラが間に割り入り、その一撃を受け止めた。
「一気に攻めるわよ、リィさん!」
「任せて、遊んであげる」
ぐん、と振りかぶったリィが投擲したのは箱に入ったイドだ。
どや顔のイドが飛ぶ。
「レトラ、止めて!」
シィは歌う。
希望のために走り続ける者の歌を。
任せろ、と言わんばかりに胸を張ったレトラが箱に向かってその爪を振り抜いた。
振り抜かれたように、見えた。
「楽しそうなことしてるじゃん、俺も混ぜてくれよ!」
赤い髪を靡かせ、イドをエクスカリバールで叩き落としたのは悪路であった。
オウガたる彼の血は、戦闘の匂いにその闘争本能を抑える事が難しいのだ。
「行くぜ、あんた達の強さを見せてくれよな!」
オウガにありがちな脳筋。デウスエクスであった時は強かったであろう彼も、今では挑戦者だ。
「ま、負けないわよっ!」
その後も何故か人数がどんどん増え。何とか収拾が着いた時には冥加はヘロヘロであった。
訓練が終われば一休み。
レトラの淹れた紅茶とシィのお祖母様特製アップルパイ。
「ミョンお疲れ様、……そしてプレゼントよ!」
銀製のカトラリセットを手渡し、シィは笑う。
「改めて、13歳のお誕生日おめでとう!」
「誕生日おめでとうな、冥加!」
「これからますますステキなレディになってくキミを応援するよ」
頷き、笑いながらも。肩で息をする冥加にゆっくり休みなよ、と言ってからレスターは構え。
「さて、次は俺達の番だな。――俺は本気で挑む。ラルバも全力で来てくれ」
「ああ、模擬戦だって後悔はしたくねえ。お互いいい戦いをしようぜ」
と、言ったものの。
頼りになる兄貴分と戦うのは少し緊張する。しかし、やるからには手は抜きたくない。
「では、始めようか!」
レスターはガンスリンガー。ラルバは降魔拳士となれば、自ずと戦い方は決まってくる。
駆けたレスターは、距離を取りながら弾を叩き込み。
「ぐっ!」
縛霊手で弾を受け止めたラルバは、距離を詰めるべく駆けながら、考える、考える。
こちらが近接戦が得意なのは事実だ。
しかし。
「オレも、遠距離攻撃はできるんだぜ!」
ぶわ、と半透明の御業がレスターへと一直線に伸びる。避けられようが、彼の動きが一瞬止まればそれで良い。
瞬間、電光石火の如く間合いを詰め。拳を振りかざすラルバ。地獄の炎で拳を受け止め、レスターは真っ直ぐに視線を交わした。
「キミの真っ直ぐな眼差しと拳、ちゃんと受け止める」
「なら、オレだって全力だ!」
ケルベロス達の秘密特訓は、日が暮れても、ヘトヘトになっても。
まだもう少し続くようであった。
「あっ」
「……って、俊さ」
攻撃を外して、崖へと足を滑らせた俊。
思わず炯介が足を止めると、『振り』であった俊が岩棚を蹴り上げて跳躍した。
「鬼ごっこもここまでよ」
気がつけば、彼女の下に押し倒され、拳を突きつけられていた炯介。
「ふふふ。さぁ、観念なさい」
「参った。……顔だけは勘弁して」
俊は拳を振り上げ――。
作者:絲上ゆいこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年3月10日
難度:易しい
参加:26人
結果:成功!
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