幸福と、絶望と、

作者:洗井落雲

●幸せを絶つもの
(「……皆……」)
 家族の墓石の前にひざまずいて、リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)は祈りを捧げていた。
 こうして、家族の元を訪れるのは何度目になるだろう。悲しい事。辛い事。それから幸せな事。何度も、なんでも、報告した。
(「…………?」)
 リディが、ふと、顔をあげた。
 おかしい、そう思った。
 余りにも、世界が静かすぎる。
 人の声はもちろん、鳥の声も、虫の声も、もしかしたら、風の音すら聞こえない。
「あはははは!」
 と――。
 静寂の世界に、笑い声が響いた。
 とん、とリディの前に降り立ったのは、ボロボロの服を着た、長い金髪の少女だ。だが、胸元にのぞくモザイクが、彼女が人間ではないことを表していた。
 その姿を見たリディが、驚きに目を見開いた。しかし次の瞬間には、普段のリディからは想像もできぬ、明確な敵意を持った表情で、少女を睨みつける。
「クリィ・ソーン……!」
「およ? 私の事、知ってる?」
 クリィ・ソーンが小首をかしげた。
「あはは! そんなわけないよ! 私と出会って生きている人間が、キミみたいな幸せそうなオーラ出してるわけがないし!」
 その言葉に、思わずリディは叫んだ。
「私の家族の事……! 忘れたなんて言わせないっ!」
「うーん、前に襲った? 私がぁ? ごめーんね、全然覚えてないっ!」
 ケタケタと笑いながら、クリィ・ソーンが言った。本当なのか、あるいは挑発なのか。それは分からない。ただ、目の前のデウスエクスが、邪悪な存在だという事は分かる。
「幸せな人々を襲って、その絶望を楽しんだら忘れるの!? なんて……!」
「んー? 私も忙しいからさぁ? でも安心して!」
 ニタリ、とクリィ・ソーンが笑った。
 今までのそれとは違う、明らかに異質な笑み。
「今日の獲物はキミ。今、幸せかな? 大切な人はいる? 悲しんでくれる人はいる? いるいるいる? 居るよね、いるいる、きっといる!」
 空気が変わった。クリィ・ソーンが両手を広げる。
「じゃあ、皆に絶望を。悲しみを。平等に、平等に。すべてを平らに絶望に! そうじゃないと不公平!」
 プレッシャーが、リディを襲った。クリィ・ソーンは、明らかにこちらを攻撃する態勢に入っている。
 恐怖感が、リディを襲った。それでも、歯を食いしばって、耐えた。武器を構え、対峙する。
「あなたにこれ以上、だれの幸せも奪わせない!」
 リディが叫んだ。クリィ・ソーンは笑った。かくして、2人は激突する――。

●救出作戦
「急に集まってもらって済まない。緊急事態だ」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、集まったケルベロス達にそう告げた。
 アーサーによれば、リディが、宿敵とも呼べる相手である、クリィ・ソーンと言うデウスエクスに襲撃される、と言う予知がなされたのだ。
 急いでリディと連絡をとろうとしたのだが、どうしても連絡を取る事が出来なかったという。
 時間の猶予はない。リディが無事なうちに、速やかに救援に向かわなければならない。
「敵はクリィ・ソーンのみ。配下や他のデウスエクスは存在しない。単独で襲撃を仕掛けてきたようだな」
 襲撃時刻は昼、場所は墓地となっている。どうやらクリィ・ソーンにより人払いをされたらしく、周辺に人はいない。リディの救出と、クリィ・ソーンの撃退に集中できるだろう。
 今から現場に駆け付ければ、リディとクリィ・ソーン、2人が戦う直前に到着できるはずだ。
「速やかに現場に向かい、リディを助けてやって欲しい。難しい任務だが……皆の無事と、作戦の成功を、祈っている」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出したのだった。


参加者
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)
リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(犬好きの新妻・e04557)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
アトリ・セトリ(スカーファーント・e21602)
リューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)

■リプレイ

●絶望を求む者、幸せを求む者
 プレッシャーが、リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)を襲った。相対する相手――ドリームイーター、クリィ・ソーンは、にこりと笑い、しかし寒気を覚える程の殺意を、リディへ向けていた。
 恐怖感が、リディを襲った。それでも、歯を食いしばって、耐えた。武器を構え、対峙する。
「あなたにこれ以上、だれの幸せも奪わせない!」
 リディが叫んだ。クリィ・ソーンは笑った。
 クリィ・ソーンは、そのモザイクを刃へと変え――。
「お楽しみのところ悪いけど、少し邪魔させてもらうよ」
 戦場に響いたその声に、ぴくり、と動きを止めた。
「友人の一大事だ、見逃す訳にはいかない」
 姿を現した声の主は、リディを守る様に、クリィ・ソーンへ立ちはだかった。
「……アトリ、ちゃん?」
 声の主――アトリ・セトリ(スカーファーント・e21602)は、目を丸くするリディへ向けて、
「やぁ。相変わらず無茶をするね」
 くすりと笑いかけ。しかしその瞳は油断なく、クリィ・ソーンを見つめる。
「なぁーに? お友達?」
 クリィ・ソーンが、嘲笑う様に言うのへ、
「そう言ったつもりだけれどね。そうそう、来ているのは、自分だけじゃないよ」
「リディちゃん、助けにきたのだ!」
 月篠・灯音(犬好きの新妻・e04557)の声が響く。リディを助けに駆け付けたのは、総勢7名のケルベロス達だ。
「予定通り……間に合ったようですね」
 少しだけ安堵の声をあげたフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)は、しかしすぐに気を引き締め、クリィ・ソーンを見やる。
「皆……? どうして……」
 リディの言葉に、
「詳しくは後っ。兎に角、今は……!」
 答えたのは、シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)だ。その視線を追う様に、リディもまた、クリィ・ソーンへと視線を移した。
 クリィ・ソーンは、にやにやと笑いながら、ぱち、ぱち、と拍手などをしつつ。
「すっごーい! キミだけが獲物だと思ってたのに、今日は大量だっ!」
 8名のケルベロスと対峙し、しかし余裕の態度は崩さない。
「情報通り、騒がしい奴のようだな」
 四辻・樒(黒の背反・e03880)が言った。
「ここは墓地だ。死者に敬意を払うという発想は?」
 樒の言葉に、
「けーい? あははっ、そうだね! 最高の絶望を作ってくれるって言う点では、感謝はしてるよ!」
 クリィ・ソーンは、悪びれず笑った。
「ひどい……! 人の命は、そんなふうに利用していい物じゃないよ……っ!」
 愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)が憤る。
「噂通りに……ううん、それ以上に最悪な奴だよう……!」
 リューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)が、クリィ・ソーンを睨みつけながら言う。
「うーん、そこは『価値観のちがい』って奴だよね。まぁ、いいや」
 クリィ・ソーンの纏う雰囲気が、変わった。
「ちょっと予定が変わっちゃったけど、キミを殺すことに変わりはないよ。キミを殺して、お友達も殺して……ちょっと多いけど、悲しみを広げよう! 絶望を愉しもう!」
「あなたが幸せを壊して絶望を産むなら……私は、幸せを守って見せる」
 リディが、言った。
 仲間たちが駆けつけてくれた。
 その時に感じた、とても温かい気持ち。
 それが、今のリディにとっての幸せなのだ。
 そして、幸せはつながっていく。リディの幸せが、友人達へとつながっていき、そしてまた、リディも知らぬ、友人たちの大切な人へ、大切な人へとつながっていく。
 だから、決めたのだ。
 この幸せの循環を止めてはならない。
 故に。
「もう、貴女に私の幸せは奪えない。例え何度襲われようとも、私は、二度と絶望なんてしないっ!」
「無駄だよ!」
 クリィ・ソーンが嘲笑う様に言った。
「すべては絶望の内に。全部まっ平! キミもキミの友達もキミの友達の友達も、全部まとめて不幸せ!」
 クリィ・ソーンが、モザイクを武器にして、振るった。
 ケルベロス達が、それに応じるように、構えた。
 幸せを狩る者と。
 幸せを守る者たちの。
 戦いが、始まろうとしていた。

●幸福と、絶望と、
「まずは予定通りキミから!」
 刃状にしたモザイクを振りかざし、クリィ・ソーンがリディへ向けて駆ける。振るわれるモザイクの刃。
「させないっ!」
 叫び、フローネがリディの前へ躍り出る。『アメジスト・シールド』を展開し、その刃を受け止めた。
 光とモザイクが飛び散る。
「あなたの行動は、多くのココロを傷つける行為です!」
 フローネが、叫ぶ。
「決して許される行為ではありません!」
「誰が許さないって!?」
 クリィ・ソーンが、武器を振り払い、その反動で後方を飛びずさる。
「私達が、だ。灯、一気にたたみ込むぞ」
 樒の言葉に、
「ん、樒。さて、お嬢さん。余所見をするのはよくないのだ」
 灯音が頷き、手をかざした。その掌より放たれるは、巫術によって生み出された無数の黒い針だ。『黒縫(クロヌイ)』によって生み出された黒針は、驟雨のごとくクリィ・ソーンに向けて打ちつけられる。
「うわっとと!」
 いくつかを回避、いくつかは被弾。慌てるクリィ・ソーンへ、
「お前は動くな、口も開かなくていい」
 樒の二刀流の一撃が、クリィ・ソーンを切り裂いた。
「あいたたたっ! あはは、何怒ってるの?」
 しかし、クリィ・ソーンは余裕の笑みを崩さない。
「あなたが絶望を与えるためにいるのなら、わたし達は、希望を、幸せを紡ぐためにいるんだっ!」
 シルが駆けた。翼もつ白銀戦靴『シルフィード・シューズ』は、まるで羽ばたくように主を宙へと舞わせ、流星の如き飛び蹴りを放たせる。クリィ・ソーンはモザイクをシールド状にしてそれを受け止め、
「その手の指輪……恋人がいるの!?」
 ニヤリと笑う。
「だったら……っ!?」
 シルの言葉に、
「キミが死んだら、きっとすっごく絶望するだろうねっ!」
「……っ! あの子の笑顔を、曇らせたりするもんか!」
「まったく、悪趣味にもほどがあるね」
 アトリが呟き、手にしたナイフの刀身を、クリィ・ソーンに見せつけた。
 惨劇の鏡像は敵のトラウマを写し、具現化する。
「…………っ!?」
 その刀身に写った何かを見たクリィ・ソーンは、思わず顔を引きつらせ、後方へと大きく飛びのいた。
「何を、したの!?」
 クリィ・ソーンの顔が歪む。
「ふむ、どうやら当たりをひいたみたいだね」
 アトリが言った。主に続き、ウイングキャット『キヌサヤ』は、清浄な風をケルベロス達に注ぎ、その抵抗力を高めた。
「アメジスト、ルビー、両ドローン! 防壁陣展開!」
 フローネが『紅紫防壁陣(コウシボウヘキジン)』によるドローンを展開し、味方のケルベロスを援護する。
「クリィ・ソーン!」
 リディが叫び、その身にオウガメタル『ハピネス』を纏わせた。鬼の装甲の一撃。クリィ・ソーンはその攻撃をよけようとはしなかった。クリィ・ソーンが顔を歪める。だが――。
「くっ、ううっ! なんなの!? こいつ!」
 何もない空間へ向けて叫ぶクリィ・ソーン。どうやら攻撃よりも、先ほど植えつけられたトラウマの残像に気をとられているらしい。
「どんなに願っても 涙は枯れはしない ゼロを1に変える魔法が 生まれたときから君に掛かってる」
 ミライが『「KIAIインストール」(キアイトイウナノコンジョウロンゴリオシ)』を歌いあげ、フローネの傷を癒す。ボクスドラゴン『ポンちゃん』もまた、属性インストールでケルベロス達に耐性を与える。
「相手が戸惑ってるなら、チャンスだよ! 神々より託されしこの一投、神殺しの一撃! 大神の鉄槌は(グングニル)――」
 リューインが大きく武器を構え、投てきする姿勢をとり――。
「雷光の如し(バスター)!!」
 投げつけた。それは、全てを打ち貫く、グングニルのように。狙いを定めた敵を、逃すことなく追い詰め、解き放たれるは裁きの雷光。
「――――っ!!」
 流石のクリィ・ソーンも、声にならない悲鳴をあげた。全身を雷に焼かれ、立ち尽くす。そこに、ビハインド『アミクス』の、背後からの一撃が決まった。クリィ・ソーンが、たまらずよろめいた。
「……い」
 クリィ・ソーンが、呟いた。
「うるさい! うるさい! なんなの!? さっきから! ――あ、ああ! やめて! やめて! 叩かないで! ごめんなさい! ごめんなさい!」
 頭をふりながら、クリィ・ソーンが、絶叫する。
 植えつけられたトラウマの虚像が、クリィ・ソーンに何らかの精神的な負荷をかけているようだ。
 クリィ・ソーンが見ているトラウマが何なのかは、ケルベロス達にはわからない。
「うう、うう……! 消えて……全部! 全部消えちゃえ!」
 クリィ・ソーンの胸のモザイクが、爆発する様に噴出した。それは雪崩のようにケルベロス達を襲い、一気に飲みこんだのだった。

●絶望と、光と、
 ――歪む。
 世界が歪んでいる。
 モザイクの波にのまれたリディは、地に倒れ伏した。
(「負けたの?」)
 胸中で呟いた。
(「守れなかったの?」)
 仲間を。友達を。幸せを。
「だから言ったのに」
 リディは、顔をあげた。
 そこには、リディがいた。
 厳密には、違う。リディによく似た、リディでない存在。
「自分だけを守っていればよかった。そうすれば、誰も傷つかなかったのに」
 かつて出会った敵。リディとは違う幸せを追い求め、リディと対峙した、絶対幸福圏の主。
 もちろん、それは幻影だ。クリィ・ソーンのグラビティにより見せつけられる、トラウマの虚像。
「もういいでしょう?」
 虚像が言う。
「もう疲れたでしょう?」
 虚像が言う。
「そのまま倒れていなさい。私が終らせてあげるから」
 壊れた鎖を鳴らし、虚像がリディに迫る。
 ――あきらめないで。
 歌が聞こえた。
 ――忘れないで。
 ミライの歌声だった。
 心を震わせる歌。もう一度、立ち上がらせてくれる歌。
 ――思い出して!
(「そうだ。私は。私は」)
 リディが立ち上がった。虚像は首を傾げた。
「まだ、立つのね」
「――うん」
 リディは頷いた。
「まだ、歩くのね」
「――うん。だって」
 私の周りには。
 大切な人達がいる。
 そう思った瞬間に、リディの意識は覚醒した。トラウマの虚像が掻き消える。
「リディさん!」
 気づけば、目の前には、アトリがいた。自身の周囲には、フローネのドローンが舞っていて、それがミライの歌を届けてくれたのかもしれなかった。
「すまない、庇いきれなかった……!」
 自らも傷を負いながら、アトリが悔恨の表情でそういうのへ、
「ありがとう……私は、大丈夫だから」
 そう言って、アトリを優しく抱きしめた。それからリディは、アトリに今の状況を確認した。どうやら、長い時間は経過していないようだ。クリィ・ソーンの攻撃を受け、すぐさま灯音とのコンビネーションを発揮した樒、シルが反撃に出た。フローネとミライのコンビネーションで味方の治療にあたり、ケルベロス達の傷と、異常状態の治療を行っていた。
「自分とキヌサヤも治療にあたろう」
 アトリがそう言って、キヌサヤに合図する。アトリとキヌサヤは、ヒールグラビティで仲間の傷を癒す。
「ありがとう」
 リディがそう言って、笑った。
「リディさん」
 アトリが心配そうに言うのへ、リディは目を細めた。
「大丈夫。決着を、つけてくるよ」
 そう言って、リディは、クリィ・ソーンと対峙した。
 仲間たちの攻撃を受け、クリィ・ソーンにも相当のダメージが蓄積している様子だった。
「クリィ・ソーン」
 リディが、口を開いた。
 クリィ・ソーンが、リディをにらみつける。
「貴女が。貴女が誰かを傷つけることでしか幸せを得ることができないなら。私は……私は、貴女の幸せを否定する。誰かの幸せを守るために、私は貴女の幸せを否定する――!」
 叫んだ。同時に、ケルベロスチェイン、『ハピネスグローリー』を放つ。ハピネスグローリーが、クリィ・ソーンを捕えた。チェインに巻かれ、身動きをとれなくなったクリィ・ソーンに、リディはオラトリオの失われた力を再現、解放した。
 それは、時間を巻き戻す力。
 不完全なままに行使された巻き戻しの力は、多大なる負荷を相手に与え、その肉体に深刻なダメージを残す。
 『ミスティック・ディスエンチャント』リディの切り札であるその一撃は、クリィ・ソーンの肉体を破壊し。
「何で……? 何で……? 私、私は、ただ……」
 クリィ・ソーンが呟く。その肉体は膨れ上がるモザイクに包まれ、見えなくなった。やがてモザイクが爆発する様に四方に飛び散り、消えさった後に、その肉体は一変たりとも残ってはいなかったのだ。

●光と、そして新たな幸せを。
「流石にヒールは問題だろうし、この程度しかしてやれなくてすまないな」
 樒が、戦闘の余波で傷ついてしまった墓石に向かって、そう言った。
 戦いの後。ケルベロス達は、可能な限りヒールを使わず、自らの手であたりの修復を行っていた。
 なにせ、墓地である。ヒールの副作用として外見が変わってしまう事について、ケルベロス達は些か忌避感があったし、遺族の気持ちもある。そう言った観点から、ヒールを割けたのだ。
 とは言え、それでは修復するのにも限界がある。ある程度は、後日、また別の手段をもって修復しなければなるまい。
「お疲れ様、樒」
 灯音がそう言って、樒と指を絡めた。
 愛する者の体温。それを感じられる幸せ。
「皆無事でよかったぁ。リディさんも……」
 リューインが言うのへ、
「はい。リディさん、みんな無事ですよ。誰も……幸せを奪われたりなんて、しませんでした」
 頷き、フローネが言う。
 その言葉に、リディは嬉しそうに頷いた。
「皆無事で、良かった……それに、助けに来てくれて、ありがとうっ♪ ほんとうに、本当にうれしいよっ!」
 リディの言葉に、
「リディさんを守れてよかったよ」
 アトリがそう言って、
「はい♪ 皆の幸せも、リディさんの幸せも、ちゃんと守ることができたのです!」
 ミライが嬉しげに言った。
「これで……弔いには、なったのかな」
 シルが、墓石を見つめながら、言った。
 それは、リディの家族の眠る墓。
「うん……ありがとう。ねぇ、皆、見えるかな?」
 リディは、墓石に向かって手を広げた。
「皆、皆……私の大切な友達。新しい、大切な……家族」
 リディの言葉に、ケルベロス達は微笑んだ。
「だから……私、もう大丈夫だよ。私今、とっても、幸せだよ」
 リディは、笑顔だった。
 それでも、頬を、一筋の涙がつたった。
 その涙が何を意味するのかは、リディしかわからないだろう。
 ただ、ひとつだけ確かな事は。
 リディは、今、本当に、幸せな気持ちでいっぱいだという事だ。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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