竜牙兵の凶刃

■リプレイ

「通学路に竜牙兵ですか、数多くの生徒たちが通う場所ともあれば、沢山の命が脅かされる羽目になりますね」
　事件の現場へと急行するヘリオンの中で、タキオン・リンデンバウム（知識の探究者・e18641）は緊迫した口調ながらも、冷静な声音で呟いた。白衣に帯びた魔力を確かめるように襟を正し、タキオンは武器を装着する。
「誰にも被害は出させる訳にはいきません、此処で竜牙兵を討ち取りましょう」
　タキオンの言葉に、狩野・美幸（伝承を受け継げなかった男・e46976）もやや緊張した面持ちで頷いた。
「出来ることしかやれないけれど、それでも誰かの役に立てるなら……」
　ウイングキャット『ハナちゃん』が、美幸を勇気づけるかのように傍らに寄り添っている。
「ハナちゃんと共に頑張るよ」
　美幸は自身を奮い立たせながら、頼れる相棒の背を優しくひと撫でしていた。
「全部は無理でも、できることはしていこうね、クゥ」
　リュートニア・ファーレン（紅氷の一閃・e02550）もボクスドラゴン『クゥ』を抱き、少しでも不安を紛らわせようとしている。
「ティニ君、この前は助けてくれてありがとうございます」
　シャイン・セレスティア（光の勇者・e44504）は過去の依頼で同行したことがあったらしく、ティニ・ローゼジィ（旋鋼の忍者・en0028）に声を掛けていた。それから借りていたというマフラーを返している。
「あ、ちゃんとクリーニングしましたからっ！」
「いえ、気にしないでください。でも、ありがとうございます」
　ティニはそう言って軽く微笑み、いつものようにマフラーを装着する。
「さあティニ君、一緒に悪を倒しましょう！」
　張り切った様子のシャインに、ティニも真剣な表情で頷いた。
「一般人の皆さんには手を出させません！　私が、私達ケルベロスが、人の剣となり盾となります！」
　猫夜敷・愛楽礼（白いブラックドッグ・e31454）は言い放つと同時にライドキャリバー『火珠』のスロットルを捻り、エンジンを噴かす。勇ましき轟音と共に飛び出した火珠は炎を纏い、愛楽礼と共に空へと駆け出した！
「突撃！」
　牙から変じた竜牙兵の身体にダイレクトに突っ込み、同時に愛楽礼も足を突き出す。犬の足跡を模したような『ルプスサイン』でスタンプし、擦り上げるように蹴り抜く。
「犬ダッシュファイアです！」
　瞬時に巻き起こった炎が竜牙兵を包み、駆け抜けた火珠がタイヤを滑らせながら着地の勢いを吸収して、停止した。
　突然の竜牙兵の出現から、突っ込んで来た愛楽礼と火珠。その一瞬の攻防に、通学路の人々は呆気にとられたように足を止めていた。
「皆さん、ありがとうございます！　学生さん達をお願いするです！」
　続いて降下してきたタンザナイト・ディープブルー（流れ落ち星・e03342）が声を張り上げ、避難誘導に駆けつけてくれた警官たちに目配せする。それを合図に、周囲の人々もやや不安がりながらも避難を開始していた。
「オノレ、獲物ヲ逃ガスナ！」
　竜牙兵が鎌を振り上げ、がしゃがしゃと動き出す。タンザナイトはその目前へと割り込んで、金属塊のようなゾディアックソードを構えた。
「邪魔スルナ！」
　簒奪者の鎌が振り下ろされ、タンザナイトの首筋を狙う。しかしタンザナイトは闘気を帯びた腕の甲で弾き、直撃を免れる。とは言え刃が腿を掠め、僅かに血が滲みだした。
「はああっ！」
　それでも怯まずに、タンザナイトは地面から噴き上がるような光芒を呼び出した。光に呑まれ、堪らず竜牙兵が後退る。
「……とりあえず、初動は上々かな」
　千種・終（虚ろの白誓・e34767）は逃げ遅れた人がいないか留意しつつ、抜け出しそうな竜牙兵の前方に回り込んでいく。
「通すわけにはいかないんでね」
　振り下ろされた鎌の刃を、オウガメタルで硬化した腕で受けつつ、終は力を集中させる。地面を蹴って加速しつつ、鋼の鬼と化した拳を敵のあばらへと打ちつけた。
「竜牙兵、まだ出てくる……」
　リュートリアは降下した仲間たちの立ち位置を急いで確認すると、地面に鎖を伸ばしていく。ユナカイトがあしらわれた腕輪に手を添えて、守護の魔法陣を展開させていった。
「見境なし。……まぁ、竜牙兵らしいといえばらしいか」
　土方・竜（二十三代目風魔小太郎・e17983）は興味も無いかのように――。いや、あくまでも無機質なほど冷静に、掌に螺旋の力を集めていた。
「とりあえず、殺し切ろうか」
　突き出した一撃を、竜牙兵が鎌の柄で受け弾く。直後に鎌を回転させながら、勢いよく投げつけてきた！
「！」
　咄嗟に足をやられぬよう、身体を捻って逃れる竜。いくらかダメージはあるが、それ以上の攻撃を受けぬよう、急いで敵との距離を開く。
「忍びはその姿を見た者を、決して生かしてはおかないのさ」
　竜は表情を変えず、冷静な口調のままで呟いていた。

「やっ、ティニ君っ、上見ちゃダメっ！」
「え？　何ですか？」
　シャインの声に、ティニは咄嗟にそちらを向いていた。風に揺れるスカートを抑えるシャインが、ティニの顔面に着地する。
「むぐ、むぐぐー！？」
「きゃああっ！」
　慌てて立ち上がり、シャインはティニの背中側に回り込んだ。そこに向かって来た竜牙兵に、慌てて剣と騎士盾を向ける。
「いけない！」
　素早くティニも銃を抜き、敵の鎌を持つ手に銃弾を撃ち込んだ。相手が怯んだ一瞬に身を引いて、ふたりは仲間たちの戦列に加わる。
「……み、見えました？」
「え、あの、それは、その……」
　多少ギクシャクしたやり取りもあったようだが、とりあえずは戦闘開始だ。
「それじゃあ、みんなで力を合わせていこうか」
　美幸がカラフルな爆発を発生させて、仲間たちの戦意を鼓舞していく。愛楽礼はカッコいいポーズを取りながら、飛んできた敵の鎌を蹴り飛ばすが……。
「！？」
　鎌の影に隠れて、続けざまに別の竜牙兵が更に簒奪者の鎌を投げつけてきていた。避け切れずに、愛楽霊の腹部が深々と薙がれてしまう。
「大丈夫ですか、緊急手術です、暫くお待ちくださいね」
　タキオンが駆けつけ、傷口を確認する。不幸中の幸いか、傷は内臓や骨には達しておらず、縫合と止血だけで何とかなりそうだ。タキオンは魔力繊維で縫合を済ませ、治癒の魔力で血管を再建していく。
「学校の通学路に現れて無差別に殺戮をおこなうなんて非道、この私が許しません！」
　シャインが剣を構え、鎌をキャッチした竜牙兵に向かう。自分が通う学校の通学路だったらと考えると、とても他人事とは思えない。鎌の刃を叩き潰すように、思い切り斬撃を振り下ろす。
「邪悪な竜牙兵たち！　この勇者シャインが相手です！」
　がきん！　と敵はシャインの一撃を受け止め、押し払う。尻もちをつきそうになるが何とか堪え、シャインは横に素早く跳んだ。
「こいつらとは、何度戦っても慣れる気がしない」
　空いたスペースに、タンザナイトが踏み込んだ。乾いた骨の身体と、生気の感じられない動き。竜牙兵の姿にやや嫌悪感を覚えつつも、獣の力を腕に集中させていく。
「……ちょっとうんざりするけど、守るべき人がそこにいるのなら！」
　吼えるように突き出された一撃が、竜牙兵の鎧をぶっ叩いて砕く。パラパラと破片を散らしながらも、竜牙兵は堪えて鎌を構え直していた。
「頼んだよ、ハナちゃん」
　ハナちゃんの翼が輝き、清らかな波動が辺りに広がっていく。その間に美幸はナイフを構え、惨劇の鏡像で竜牙兵に狙いをつけた。
「ヌウ……」
　逃れるように位置をずらす竜牙兵だったが、美幸の眼に動揺はない。
「お願いします！」
「クゥ、いくよ！」
　リュートリアの声に応え、クゥが風の力をブレスにして噴き出した。敵が風に覆われた一瞬に、リュートリアも手にしたハンマーを振り上げる。
　どんっ！
　ハンマーに組み込まれた発火装置が作動し、瞬く間に竜牙兵が炎に包まれた！　何とか逃れようともがく竜牙兵だったが、クゥが細かな流星を纏いながらタックルを仕掛け、その後にリュートリアも続く。竜の力をハンマーに集め、思い切り叩き付けた！
　ガシャンと脳天から振り下ろされた一撃が、敵の身体を粉々に打ち砕いていくのだった。

「……」
　竜の毒手裏剣が、竜牙兵へと降り注ぎ始める。敵はその攻撃に気づいたらしく、身をかわしながら鎌を振るって叩き落としていく。
「……牽制だ。撃て」
　仲間に聞こえるように竜が発した言葉は、終の耳に届いていた。手裏剣を避けた動きのその先、薄汚れた骨の脚が着地する瞬間に、敵の目前へと飛び出す。
「！？」
　突然の急接近に、竜牙兵の動きが一瞬だけ硬直した。終はダッシュと同時に相手に背を向けて、オーバーヘッドの体勢で足を蹴り出していたのだ。
　髑髏の顔面に、星型のオーラが突き刺さる。ばぎゃんとそこが砕ける勢いのままで、終は敵を踏み潰すように着地する。
「薬液の雨よ、仲間を癒す力を与えて下さい」
　その間にタキオンは薬液の瓶を取り出して振り撒き、仲間たちの体勢を立て直していった。
「受けてください。必殺、ブレイブスラッシュ！」
　シャインの掲げた剣が輝き、ド派手な斬撃が残りの竜牙兵たちへと放たれる。
「ふふん、竜牙兵なんて、この勇者の力の前には……。って、なんか強くないですかーっ？！」
　しかし敵は怒った様子でシャインに殺到し、鎌を投げたり虚無の斬撃を繰り出してきたりする。
「危ないですよ！」
　慌ててティニが分身の術でフォローし、シャインの姿を幻影で誤魔化す。敵が空振りした隙に、何とか下がってシャインは体勢を立て直した。
「ここは断頭台、その首頂きます！」
　入れ替わりに愛楽礼が跳んだ。同時に撥ねた火珠のシートを蹴ってさらに高く跳びあがり、足を大きく振り上げる。
　ずしん！
　全身の気を一点に集中させた踵落としが、竜牙兵の兜を砕き背骨を押し潰す。
「許サン！　死ネェ！」
　着地した愛楽礼に向かって鎌を振りかぶる竜牙兵だったが、タンザナイトがその刃を受け止めた。
「天地を……繋げっ！」
　悪を祓う光――アセンションブレイズを振り上げるように繰り出して、タンザナイトは武器を押し出す。手にした鎌ごと身体を押され、光に呑まれた竜牙兵は、水に落とした角砂糖のように、崩れて消滅していった。
　残る竜牙兵は１体。最後まで戦意を失わず、唸りを上げて突っ込んでくる。
「目標……、補足」
　タキオンが静かに、バスターライフルの銃口を向けた。刹那の後に撃ち出された光弾が竜牙兵の眉間に命中し、頭蓋を微塵に粉砕する。
「……これで人々も、安心できるでしょうか」
　バスターライフルを携えた腕を少しだけ下げて、タキオンは小さく息を吐き出すのだった。

「……よし、今日も勝利！」
　タンザナイトは討ち漏らしが無いかを確認し、自分たちの勝利を宣言する。それからふと、空を見上げて口を開いた。
「あ～……、それにしても。竜牙兵の事件は全然止まないですね。もうこうなったら、百体斬り目指すです！」
　ややヤケクソ気味な様子で笑いながら、タンザナイトはそんなふうに話していた。
「……お疲れさま、ありがとう」
　リュートリアは傍に戻ってきたクゥを抱き上げ、身体を軽く撫でてあげる。クゥも嬉しそうに目を細めながら、リュートリアを労うように、優しく頬を寄せてくれるのだった。

作者：零風堂	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年3月4日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。