スキー場を襲う竜牙兵

作者:流堂志良

 スキー場内のレンタルショップ前。
 これから滑る人、滑り終わった人が雪の上を行き交い、ちょっとした賑わいを見せていた。
 そこへ飛んできた巨大な牙が突き刺さる。
 そしてその牙が竜牙兵へと変化した。その数、三体。
「グラビティ・チェインをヨコセ!」
「このシロいユキをアカくソメてやろう!」
 竜牙兵は口々に言って、手近な人々を殺戮し始めた。
 甲高く悲鳴が上がり、人々は竜牙兵を恐れて逃げ惑う。
「ガハハハ! いいぞ、そのヒメイはココチよい!」
「ドラゴンサマにこのゾウオとキョゼツをササゲよう!」
 血に染まる雪の中、竜牙兵の咆哮と笑い声が響いていた。


「スキー場に竜牙兵が現れて人々を殺戮することが予知されました」
 上代・ミナキ(オラトリオのヘリオライダー・en0282)は集まったケルベロスたちに予知の内容を伝える。
 これは遠野森・空(虹描き・e44142)からの情報提供によって予知されたことであった。
「急いでヘリオンで現場に向かって凶行を阻止してください」
 ミナキは祈るように手を組み、ケルベロスたちに告げる。
「ただ、竜牙兵が出現する前に、避難勧告をしてしまうと竜牙兵は他の所に出現してしまうでしょう」
 そうなると被害が拡大して、事件も阻止できない。
「皆さんが到着した後の避難誘導は警察たちにお任せできますので、竜牙兵を倒すことに集中してください」
 ミナキはそれから肝心の竜牙兵の説明へと移る。
「現れる竜牙兵は三体、ディフェンダーが二体、ジャマーが一体です」
 ディフェンダーの竜牙兵はゾディアックソードを使い、ジャマーはバトルオーラを使う。
 竜牙兵の使用するグラビティは勿論、それぞれの武器のグラビティである。
「現場はですね。スキー場内に用品のレンタルショップがあるのですが、その建物の前に竜牙兵が現れます。雪の上での戦闘になりますが、戦闘に支障はありません」
 そしてミナキは一点だけ付け加える。
「竜牙兵たちは戦闘が始まった後は、撤退することはないみたいです」
 最後にミナキは言った。
「人々が楽しむスキー場で竜牙兵による殺戮なんていけません。どうか討伐をお願いします」
 そうしてミナキは深々と頭を下げたのだった。


参加者
多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)
一羽・歌彼方(黄金の吶喊士・e24556)
リン・イスハガル(凶星の氷闇龍・e29560)
シレネッタ・ロア(海の噛痕・e38993)
遠野森・空(虹描き・e44142)
由井・京夜(駆け出しゴッドペインター・e44362)
本屋・辰典(断腕・e44422)
フィミリア・ストレイダー(ノービスヒューマン・e50392)

■リプレイ

●スキー場は白いままで
「こういう所って、はじめて来たわ。ええ、ええ――」
 シレネッタ・ロア(海の噛痕・e38993)は言葉を切り、周囲を見渡しため息を吐いた。
「真っ白い、素敵な場所ね」
 そこはスキー場のレンタルショップ前。スキーをこれから滑る人たち、もう滑り終わった人たちが行き交う。
 それを台無しにするように現れた竜牙兵を、確認してケルベロスたちは行動を開始する。
「楽しく遊んでいるところに割り込むとは凄く不躾な奴らよな」
 リン・イスハガル(凶星の氷闇龍・e29560)は呆れたように呟いた。
 一羽・歌彼方(黄金の吶喊士・e24556)も頷く。
「無粋。無粋ですね」
 この人々が楽しむ場を台無しにする輩を、放置しておけるはずがない。
「さて、早々にご退場願おうかの」
「銀雪を悲劇の紅に染めぬ為――いきます、全身全霊で!」
 歌彼方は武器を構え、進み出る。
「ケルベロスの登場じゃ。さて、主らは弱き者かえ? 見せてみよ」
 リンの宣言を合図に、ケルベロスたちは竜牙兵たちの前に姿を現した。
 由井・京夜(駆け出しゴッドペインター・e44362)は剣を振り上げる竜牙兵と一般人の間に滑り込み、攻撃を受けとめる。
「グォォォ! せっかくのケイカクが!?」
「君らの事情なんかどうでもいいんだよぉ。僕は楽しくも面白くもない事を終いにするだけだからねぇ」
 ややのんびりした口調で京夜は言う。
「挑発は任せたよぉ」
「ヘイ竜牙兵のみなさん!」
 竜牙兵たちに向かって多留戸・タタン(知恵の実食べた・e14518)が挑発する。
「タタンとジョナがいるかぎり、雪は白いままですよ!」
 更に続いて何やらさらにぎこちなく挑発を行おうとするのだが――。
「先輩、ストップ! それはダメな気がするっス」
 フィミリア・ストレイダー(ノービスヒューマン・e50392)が慌てたように制止する。
「みんなが楽しむ場を邪魔するってんなら、俺たちケルベロスが相手になってやんよ!」
 遠野森・空(虹描き・e44142)は、竜牙兵たちに見せつけるように大きな絵筆を構える。
「ジャマを、するナァ!」
 竜牙兵たちの言葉もなんのその。ケルベロスたちは竜牙兵たちの邪魔をし、その間に警察たちが一般人を誘導して避難させていく。
「突破などさせませんので」
 兜を被った本屋・辰典(断腕・e44422)は武器を構え、後ろには竜牙兵の攻撃も通さないという気迫を発していた。
 やがてこの場にはケルベロスと竜牙兵のみとなった。

●雪に沈め竜牙兵
「まず守りを与えるわ」
 シレネッタのヒールドローンが前衛の守りを固める。
「ジョナはみんなを守るですよ!」
 タタンの声に、相棒のジョナ・ゴールドが前に進み出る。
「よーし、思いっきり殴るっスよ!」
 フィミリアはドラゴニックハンマーを構えて闘志満々である。
 その隣ではライドキャリバーもやる気に満ちていた。
 ディフェンダーで守りを固めて、竜牙兵を一体ずつ確実に倒すという作戦だった。
「では我はお主らに加護を与えようかの」
 リンのメタリックバーストが後衛の命中率を高める。
 幸いなことに、竜牙兵たちは後衛に対する強化解除の手段を持たない。
 まず彼らが狙いを定めたのは竜牙兵Aだった。
 歌彼方が雪を蹴り、散った白が宙に舞い、勇ましい声が響き渡る。
 次いで、空の叫び声が竜牙兵Aに向かって行った。
「避けられるもんなら避けてみろー!」
 二人のヴァルキュリアが揃って光の粒子に変化し、突撃していく。
「僕も頑張るしかないかねぇ。よいしょっと」
 京夜の気咬弾が竜牙兵Aに食らいつく。
「よしよし。この調子でいこうかなぁ」
 その手応えの確かさに京夜は頷いた。
「がんばるですよ!」
 小さな体で大きく動き回り、タタンはまるで小動物のよう。
「くらうです!」
 飛びあがり、降魔真拳を竜牙兵Aに叩き込んだ。
 竜牙兵たちの応戦は、ディフェンダーたちが防ぐ。
 ゾディアックソードの重い一撃も受け止め、喰らいつくオーラの弾丸さえ、辰典に防がれ後衛には届かない。
「通しませんとも」
「回復は任せてね」
 強化が解除された分、シレネッタは前衛の回復を兼ねた強化を施す。
 辰典は静かに凪いだ瞳で竜牙兵たちを見据えて、バスタードソードを構えた。
「それではいきましょう!」
 気合一閃。雪に強く跡が残るほど踏み込んで武器を振り下ろす。
 その強烈な一撃に、竜牙兵Aは大きくのけぞった。
「隙が出たのぅ、避けられるかえ?」
 すかさずリンの怒號雷撃が叩き込まれる。
「我は前に出るよりこう、後ろからチクチクと邪魔していくのが大好きなのじゃよ」
 その言葉の通り、彼女の攻撃には敵の行動を妨害する効果がある。
「オマエらのスキにはさせんぞ!」
 何度か攻防を繰り返すと、竜牙兵たちは竜牙兵Aの回復に集中する。
「回復で手数使ってくれてラッキー、ラッキー」
 空は竜牙兵たちの様子を見て気楽に笑う。
「このチョーシでいきますよー!」
 タタンは武器を持ち変える。
「えいやぁ!」
 簒奪者の鎌をブーメランのように投げつけたのだった。
 合わせるかのようにジョナ・ゴールドはりんご飴のような棒を作り、敵を殴りつけた。
「向こうの回復より、こちらの攻撃が上回ればいいということですね。これはわかりやすい」
 辰典が感想述べる。その後ろでシレネッタは次の手について考えていた。
「次は、そうね。レネも攻撃に回るわ」
 攻撃が止んだ分、回復が必要なくなる。
 そうなるとシレネッタが攻撃に回るのも必然であった。
「ブレイクしてあげるわ」
 そしてシレネッタがスターゲイザーを放つ。
 綺麗な軌跡を描き、飛び蹴りは綺麗に突き刺さった。
「グァァァ!」
 竜牙兵Aは弾き飛ばされ、雪原に沈む。
 すぐに起き上ろうとするが――。
「隙ありっス!」
「これはチャーンスですよ!」
 すかさずフィミリアが蹴り飛ばし、タタンもマジックミサイルで狙い撃つ。
 しかし竜牙兵Aは立ち上がり、剣を振り上げる。
「いやはやしつこい骨じゃの。……むき出しの身体にはこの寒空、氷は耐えれるのかぇ?」
 リンは呆れたように呟き、構えた。
「氷の礫よ、荒々しく舞うがよかろ」
 彼女の指が宙に二つの文字を描く。氷の嵐が竜牙兵A、Bを巻き込んで吹き荒れる。
「ギギッ……!」
「アアアアアア!」
 嵐が過ぎ去った後も、よろよろと竜牙兵たちは立ち上がる。
「カイフクを!」
 竜牙兵Cが竜牙兵Aを回復させるが、焼け石に水というものだろう。
「伝え。届け。私の歌よ、彼方まで。閃け。私の翼、私の刃、私の命――!」
 歌彼方響奏樂第三番:『神速の魔弾』。彼女が歌うは信念の歌。
 歌彼方の翼の光量が増し、彼女の体が加速する。
 目で捉えるのは困難、予測も不可能。
「避けさせませんよ――!」
 無茶な軌道で竜牙兵Aに肉薄して彼女は強烈な一撃を食らわせた。
「ガアァッ!」
 それが竜牙兵Aの最後の叫びとなった。
「まずは一体。この調子で微塵に粉砕してあげますとも!」
「先輩すごいっス! あたしも負けていられないっスね!」
 ドラゴニックハンマーを構えたフィミリアが気合を入れる。
「といってもあたしの武器は、このハンマーと肉体だけっス! つまり思いきり殴って殴って殴るっス!」
 言うが早いが、彼女は疾走して武器を大きく振り上げた。
「黒き神の御業を我が手に! こく! めつ! しょーう!」
 次の目標は竜牙兵B。黒い気のようなものを纏い、滅多打ちにドラゴニックハンマーが振り下ろされる。その技の名は――黒滅衝。
「ギャアアア!」
「すごい、すごい! 俺も負けていられないね!」
 空は楽しそうに声を上げ、絵筆で宙に虹を描く。
 それでも、竜牙兵Bは何とか持ちこたえる。
「こんなトコロで、オワってたまるか!」
 悪あがきのように竜牙兵Bは吠え、剣を振り上げる。
 ゾディアックブレイク。しかし、ケルベロスの勢いは止められない。
 辰典は、その攻撃を鎧で受けても突進を止めない。
 跳躍して、竜牙兵Bの頭上へとバスタードソードを振り上げた。
「たあああああ!」
 辰典の達人の一撃が竜牙兵Bを打ち据える。
「グアアアアア!」
 さらに攻防は続く。
 竜牙兵Bは、竜牙兵Cの力も借り回復を遂げるが、すぐにケルベロスたちの集中砲火を受けてボロボロになっていく。
 歌彼方のヴァルキュリアブラストが竜牙兵Bを大きく弾き飛ばした。
 あと一押しで竜牙兵Bは倒れるだろう。
 回復の手が空いたシレネッタが攻撃に回った。
「気づいたときには奪われる。わたしの恋はあなたのものよ!」
 その場に響くは海鳥の、機械の、くじらの恋の唄――シレネッタの『Track01(コイハアラシノヨウニ)』である。
 竜牙兵Bは避ける事も出来ず、その攻撃を受けてその場に崩れ落ちた。
「残り一体っと」
 京夜がホーミングアローで最後の一体を穿つ。
 仲間からの支援も受けられず、最後の竜牙兵はケルベロスからの集中攻撃を受ける。
 竜牙兵Cが攻撃を返してもシレネッタがすぐにヒールを振りまき、守りを崩すことができない。
 されるがまま竜牙兵Cは追い詰められていった。
「そろそろ幕引きの時間かの?」
 リンの怒號雷撃。雷が竜牙兵Cを撃ち抜く。
「そろそろ終わりっス!」
 フィミリアの炎を纏った蹴りが炸裂する。
「コレで、オワるとオモうな!」
 竜牙兵Cはハウリングフィストで歌彼方を吹き飛ばそうとする。
「させません!」
 辰典が滑り込み、代わりに攻撃を受ける。
「この程度で俺を落とすことなどできませんよ!」
 返すように気咬弾で竜牙兵Cに攻撃をぶつけた。
「ぐっ……グヌヌ……!」
 よろよろの竜牙兵C。あと一撃で倒れるだろう。
「あともう少しだね。ハレルヤ! さあ楽しくなってきたよ!」
 空は羽を煌めかせ、空に大きな虹を描いた。『虹翔』である。
 絵筆を大きく振り、希望のように彩を撒いていく。
 その最後の攻撃を受けた竜牙兵Cも、雪原に沈んだのだった。

●雪のある所は楽しい所
 竜牙兵の撃退も成功し、片づけも終わったスキー場。
「雪うさぎ完成だよぉ。誰かリクエストある?」
 今にも飛び跳ねそうなほど躍動感にあふれた雪うさぎが京夜の手によって生み出された。彼が作った雪うさぎはすでに数体。
「うわぁ、先輩すごいっス! じゃあハンマーとかも作れるっスか?」
 京夜の芸術作品に目をキラキラさせて、フィミリアはリクエストを出した。
「はいはーいっとハンマーねぇ」
 のんびりと京夜は返答してまた作業に取り掛かる。
 いかにも楽しげに、その手で雪の形を変えていく。
「これだけたくさん雪があると、もっと色々作りたくなるなぁ」
 創作意欲が湧く、とうきうきした調子であった。
「かまくら作りも楽しそうだし、人数がいれば雪合戦も……」
「雪合戦! 何だか楽しそうな響きっス!」
 フィミリアがはしゃいだ声を上げる。
「雪合戦する人~」
 京夜ののんびりとした呼びかけ。
 すると、辰典が名乗りを上げたのだった。
「雪合戦ですか。雪の上での運動はいい鍛錬になりそうですね」
「楽しそうですね。私も混ぜてください」
 ふふっと歌彼方は笑う。
 フィミリアは歓声を上げて喜びを全身で表す。
「楽しく遊ぶっスよ!」
 そんな楽しげな雰囲気の中、リンは見物を宣言した。
「ふぁ……ふぁ…さすがに久しぶりに動くと堪えるわぇ」
 そうは言うが表情は涼しげで、少し離れたところで見物である。
 さてチーム分けをどうするか、という時であった。
「ひゃっほう! たのしー!」
 スキーで滑り降りてきた影が二人。空とタタンだ。
「みんな集まって何してんの? 俺も混ぜて~」
 楽しそうな雰囲気を感じたのか、ワクワクと二人とも参戦する。
「ひょー! 楽しく滑ってきたですよ! え? 雪合戦? タタンも混ざるです!」
 こうしてケルベロスたちは雪まみれになって、楽しく遊んだのだった。

作者:流堂志良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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