着衣至高主義

作者:雨乃香

 夜も更け、明かりの落ちた家も多くなる頃。
 古いアパートに住む男は一人パソコンの前に座り、イヤホンから流れる音声に耳を澄まし、食い入るように画面を眺めていた。
 部屋は薄暗く、男の顔がディスプレイの光を受けてぼぅと浮かび上がる様は中々に不気味なものであったが、他に住むもののいないその部屋の中では些細な問題であった。
 そう、そこまでであれば、本当にどこにでもある些細な風景であったのだが。
 気づけば暗闇に浮かび上がる男の横顔は、人のものとはかけ離れた、文字通り不気味な鳥類のものへと変わり果てていた。
「う、ぅう! やはり、やはり! 着衣こそ最高なのだ! 知性のある我々は服を着ていてこそ、着飾ってこそ、よりいっそう光輝くのだ! 全裸モノなど、邪道! 着衣エロこそ至高なのだ!」
 感動の涙を流しながらそう口にしつつ、彼の眺めるディスプレイにはコスプレ衣装に身を包む可愛らしい女性が写し出されていた。
「そもそもだ! 女性が自らを引き立たせる為に選んだ服やアクセサリーを外してしまうなど、その努力を否定しているだけだ! 着衣こそ正義! 大正義! 私はここに真理を見つけた!」
 大声をあげ、天井に向かって吠える彼の耳に突如響く、ドンという無粋な音。
 両隣の住人達が、夜中に突然叫びだした彼に対して薄い壁を叩き抗議しているのだ。
「ふふっ、ふふふふっ! この正義、今すぐにでも誰かと共有したいと思っていた所存、これは布教のチャンスなのでは!?」
 言うが早いか、彼は名残惜しそうにディスプレイをみつめ、鳥の顔で不器用なウインクをすると部屋を飛び出した。

「皆さんは服に拘りはありますか? 季節を先取りしたオシャレや、あるいは、季節すらも無視し、自分の拘りを貫いたり、あるいは無頓着にあるものを着るという人もいるでしょうが」
 やってきたケルベロス達にそう問いかけるニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)は、真新しいカーディガンに口許を埋め、嬉しそうに笑っている。よほどお気に入りなのだろう。
「さて、そんな衣服ですが、まーとある界隈では着衣だの全裸だのニーソ、タイツだけだの、どうでもいいくらいに細分化され語られる事があるんですが、その拘りから大正義に目覚め、ビルシャナとなってしまった方が現れるようです」
 他人の性癖にとやかく言うのは野暮ではありますが、それを他人に押し付けようというのも、なかなかにはた迷惑なことですよ、とため息を吐きながらニアは続ける。
「件の人物が目覚めたのは着衣こそ大正義という、まあ大分広義? いやニアが毒されているだけかもしれませんが、まぁそんな感じらしいです」
 遣る気なさげにぶっきらぼうにいいながらも、ニアはさらに詳しい事柄について説明を始める。
「この大正義ビルシャナは出現直後ということもあり配下を持ちませんが、その強い信念から周囲の人々を信者にかえ、最悪新たなビルシャナすらも産み出しかねません、着衣こそ大正義! なんてビルシャナ、増やしたくはありませんよね?」
 というわけで、皆さんにはコノビルシャナを討伐してきてほしいわけです、とニアはケルベロス達に満面の笑顔で告げた。
「幸い、あまりにもその信念が強すぎるため、こちらからその正義に関する話題をふれば、敵さんはその議論に応じてくれるようです。ただ、こちらが戦闘行動をとると、さすがに議論も止めて、戦闘へと移るようですが」
 その習性を利用すれば近隣住民の方の避難時間を稼ぐことができるだろうと、ニアはケルベロス達に提案し、詳しい周辺状況を伝えていく。
「時刻は零時を過ぎ、周辺住民の中にはすでに眠りについている方もいるでしょう、避難誘導には少々てこずるかもしれません。目標が出現するのは市街地のやや外れに存在する古い二階建てのアパートで部屋は満室、周囲にも数件の民家があります、地図情報をお送りしてお来ますので、大まかな参考にしてください」
 加えて敵の戦闘能力自体は普通のビルシャナとなんら変わらず、配下もいないことから戦闘自体は八人で挑むのであればなんらだ問題ないだろうとニアは告げ、一息吐くと、思い出したように、ケルベロス達の方を見つめる。
「皆さんにも各々主張はあるでしょうが、それはあくまで理解者とだけ共有するものであり、他者に押し付けるようなものではないということを、呉々も肝に命じておいてくださいね? まあ、それで新しい世界に目覚める人がそれなりいるのも事実ではありますが、それでビルシャナになっちゃう人とかいても、責任、とれませんしね?」


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)
七種・徹也(玉鋼・e09487)
九十九折・かだん(自然律・e18614)
荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)
柚野・霞(瑠璃燕・e21406)
ミカ・ミソギ(未祓・e24420)
猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)

■リプレイ


 夜闇に沈む市街地の外れ。
 街の中心からやや外れた場所ということもあり、周辺に多いのは工場や寂れた雑居ビルが多く、民家や住宅の数はそれほど多くない。
 時刻は既に零時をまわり、普段であれば辺りは静まりかえっている時間だ。
 だが今日は違った。
 静かな夜、その静寂を破壊する一匹のビルシャナがその地域に出現していたのだ。
 古びたアパートの一室の前、執拗にドアを叩くビルシャナがそこにはいた。
「さぁ話そうではないか! 着エロはすばらしいぞ! 着衣こそ大正義なのだ、君もわかるだろう? 部屋を出て一緒に語らおう!」
 甲高いビルシャナ声は夜の街に響き渡る。
 時間が時間故に眠っている人々も多く、すぐさま彼の声に感化される者はそう多くはないだろうが、その声量とビルシャナの力を持ってすれば、いずれこの一帯の人々はその性癖を捻じ曲げられ、みな着エロ以外のエロを愛せなくなってしまうだろう。
「おいそこのお前。それは本気で言っているのか?」
 ドアに穴が開きそうな程執拗にノックを繰り返すビルシャの背後、突如そんな問いが投げかけられた。
「んん?」
 ビルシャナがその声に振り返るとそこは五人分の人影がずらりと並んでいた。
「今の質問は君かね?」
 真正面の一番近い位置に立つ七種・徹也(玉鋼・e09487)の顔を至近距離からまじまじと見つめながら、ビルシャナが問いかけると、彼は重々しく頷きを返した。
「なれば答えよう、本気である、と」
 やっと自らの正義を語り、共有することができる相手が現れてくれたのかと、ビルシャナはうきうきと饒舌に語り始める。
「着エロというのはすばらしいのだ。わかるだろう? 我々知性ある者は服を着ていてこそ、着飾ってこそ、よりいっそう輝くのだ!全裸などという、服を脱いだだけの格好など邪道にすぎぬ!」
 ビルシャナが力強く拳を握り締め、力説し、同意を得るように、徹也の肩に軽く手を乗せると、それは乾いた音を立てて払いのけられた。
 信じられぬものを見たとでもいうような表情を見せるビルシャナに対し、その襟首を掴みあげ、徹也は口を開いた。
「そんな……そんなモン脱いだほうがエロいに決まってんだろ!!」
 夜の市街地に響き渡るアラサーのシングルファーザーの主張。
 それを皮切りにケルベロスとビルシャナの熱い舌戦の火蓋が切って落とされた。


「なんだか……卑猥な叫びが聞こえた気がします……」
 件のアパートの裏手、荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)は小さく呟きながら窓から這い出してくる青年にその手を貸していた。
 ビルシャナが執拗にノックを繰り返していた部屋の住人である彼の顔には涙のあとがはっきりと残っている。
 何とか窓から抜け出した彼は、自分よりもふた周り以上背の低い綺華に対し手を合わせ何度も感謝の言葉を繰り返す。
「もう大丈夫です……とは、まだいえないです……から、皆さんと一緒にこちらに、避難してください……」
 綺華はふっと、ケルベロスカードを取り出しかけ、その仕草を途中で止めると、青年に向かって他のアパートの住民と共に避難するように指示を出す。
 ぐしぐしと、目元を拭い、何度も頭を下げ去っていく彼を見送り終えると、携帯端末を取り出して、アパートの住人の避難が終わった事を、他の仲間達へと伝える。
 すぐさまそれに気づいた、やや離れた場所にいるシィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)は彼女へと労いの返信を返しつつ、自らに任された分の仕事をこなすために、民家の扉を叩く。
「ハーイ、ケルベロスデース! ご在宅デショウカ?」
 インターホンのない古い小さな平屋の玄関を軽くノックしながら、シィカが声をかけると、どたどたと騒がしい音を響かせながら一人の男がのっそりと顔を出す。
 シィカは手早く事情を説明し、すぐに避難するように彼に言い聞かせると踵を返しすぐさま次の民家へと向かう。
 そんな彼女の前を通り過ぎようとして、ふと足を止めたのはケルベロスコートを身に纏い、夜道を走る、ミカ・ミソギ(未祓・e24420)であった。
「シィカ、ここの住人は?」
「ハイ、必要なものを持ち次第、すぐに避難スルとの事デース」
「じゃあこの子を送っていったら、帰りに一応俺が見ておくから、次の家を頼んだね」
 ミカが背に背負った寝息をたてるまだ幼い少年に目をやると、すぐに了解したようにシィカは声量を落とし、
「了解デス! お気をつけて、ミカさん」
「お互いに、だね」
 そう声を掛け合って二人は別れた。
「あっちの班は大丈夫だろうか」
 ちらりと一瞬だけ携帯端末に目をやりながらミカは緊急の避難所を目指し、少年を起こさないように気をつけながら夜の街を走る。


「裸はなァ……裸は男のロマンなんだよ! 服の下を見たくて男はどこまでも高みへ登っていくんだ! 丸みを帯びた肌を直に見たいと思わないのか!? 俺は見てェ! 全てを捨ててでも見てェ! だから全裸こそ最高! 着衣じゃ逆立ちしても敵わねェよ!」
 もしかすれば、その声はアパートの裏側までも届いていたかもしれない。しかし、自らの拘りを語るとき、人は時に全てを投げ打つ。だがそれが、他者にまで伝わるとは限らない。
「思春期の中学生かね君は?」
 ブーメランが額に刺さりそうな言葉で、ビルシャナは徹也ての思いを一蹴した。
「動物ですら全裸の相手に常に発情しているわけではないというのに、人がそれ以下に身を落としてどうする?」
 挑発するようなビルシャナの言葉に徹也が一歩踏み出そうとするのを九十九折・かだん(自然律・e18614)の伸ばした手が制す。
「着エロだがなんだか知らないが、服を着るという文化を持つ人だからこそ、一糸まとわぬ生まれたままの、非文化的な姿にこそエロチシズムを覚えるじゃないのか? 何も纏わず、身一つのか弱さと気高さを肯定する。愛しい人と触れあう肌と肌こそ、エロの本質だろう?」
 彼女の主張は徹也に比べれば幾分か分かりやすく納得のしやすいものであったが、主張を決して曲げることのないビルシャナに届く事はない。
「果たしてその愛おしい人を形成するのは、その身だけか? その服のセンス、化粧、アクセサリー、それらも含めて愛する人ではないのか? 人の本質と言うのは、そういった外見にこそ強く現れるものだよ。人は見た目が九割というだろう?」
 ビルシャナはかだんの顔の前に自分の顔を突き出し近距離で言葉をまくし立て持論を纏める。
 そこで今まで黙って話を聴いていた琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)が手らしきものを上げた。
 らしきもの、というのも、彼女は頭からすっぽりとシーツのようなものを被った、子供だましのお化けのような格好をしていたからだ。
「そちらの主張はわかったケレド、しかし、知性がアルカラ布を纏い……そして恥じらいながら脱ぐ様が最高なんじゃないカシラ?」
 長布の下、彼女は首をかしげながら、唯一覗く綺麗な脚ををビルシャナへと見せながら、
「アワユキ……この布以外は何も着テイマセン」
 ゆっくりとそう声をかけつつ、じわりじわりとシーツの裾を内側からあげていく。布の裾は膝を超え、太ももへとするすると上がっていき、やがてその付け根へと至ろうとしたところで一度動きを止める。
「見たくなってきませんカ?」
 淡雪は飛び切り妖艶な笑みを浮かべ、そう言葉にするものの、あいにくとそれはシーツの下の事ビルシャナにはまったく見えていない。
 たとえ見えていたとして、それがビルシャナに通じたかどうかは微妙なところだっただろう。
 目頭を押さえながらビルシャナは盛大なため息と共に淡雪のめくっていたシーツを叩き落す。
「コスプレモノの動画で途中から全部脱いで全裸になっちゃったらもうそれは違うでしょ! 着たままだからこそ意味がある その服装だったら普通に考えて脱がさないでしょ! 男が中に潜り込み脱がさずに一体になる! そんなエロスがすばらしい服装!!」
 言いたい放題言われ、淡雪の方も多少機嫌が悪くもなろうというものだ。
「でしたらこれなら文句ないのでしょう!」
 叫ぶなりばっとシーツを脱いだ下には、彼女が言い出したとおり全裸の淡雪の姿が……ということもなく、実際はオウガメタルがその体の各所を覆い隠している。
「ほぅ! これは、現実ではなかなかお目にかかれない触手服的なサムシング!?」
 ビルシャナにとってその服装は予想外にもクリーンヒットしたのか、彼は仰向けのまま淡雪の足元へと頭から滑り込みローアングルからその姿を網膜に焼き付ける。
 そこに投げかけられる、冷や水のような冷たく短い言葉。
「あなたは浅い、あまりにも浅い」
 はしゃぐビルシャナの姿に呆れたようなジトとした目を向けながら、柚野・霞(瑠璃燕・e21406)は続ける。
「偉そうに語りながらギャップというものを理解してしないとは残念でなりません。あなたが真に紳士なら、普段服を着ているからこそ、脱いだときの背徳感とかそういうものも楽しむべきだった……」
 淡々と霞は喋る。当人からすれば本当はさして興味もない、どちらでもいいという話題である。多少時間が稼げれば御の字、その程度の思いだったのだが。
 ビルシャナの心は霞の思う以上にかき乱されたらしく、彼は地面から飛び起きるとものすごい剣幕と早口でまくし立て始めた。
「ギャップなどというものは服など脱がなくてもいくらでも演出できる! わかり易い例を挙げると、普段は活発な女の子が今日はデートだからといつもは着ない、かわいらしい服を着るわけです。似合うかな? なんて自信なさげにそわそわと聞かれてしまった日にはダブルのギャップに私の中の火山がヴォルケイノするわけですよ!」
 途中から霞は呆れはてあまりの煩さに耳を塞いでいたのだが、ビルシャナは気にした様子もなく喋り続けていた。
「なるほどわかっとるやん」
 そんなヒートアップするビルシャナを止めたのは猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)の同意の声だった。
「普通の服に限らへん、折角コスプレしとんのに脱がしてどないすんねん! 衣装作り苦労すんねんでコレ!」
 ビルシャナと同じように拳を握り語る千舞輝の服装はどこかで見たことのある、アニメの魔法使いのコスプレだ。
「しかもこんだけ創作が溢れまくっとるのにキャラの服とか脱がしてみぃ、服無いと誰が誰かわかんないね、とか言われるんやで! もはやキャラ識別の為に服も必須の時代や!」
「わかる、わかるぞ! 同人誌等になると顕著であるな。公式と違う作者毎の味もある故に、衣装やトレードマークがなければ判別できないというのは多々ある!」
 気づけばビルシャナは他のケルベロス達に目もくれず、千舞輝の前に立ち熱く語り始めていた。その話題がヒートアップしてきたタイミングを見計らい、千舞輝が話題を変える。
「んで、細かい部分についてなんやけど、例えば拙者、服はダメでも髪下ろしはキャラの別面が引き立つゆえ大歓迎侍にござる。あと、ロボ娘の装甲パージも機能ゆえ仕方ない侍にござる。あんさんのその辺の細かい所どー思う?」
「概ねその辺りの意見には同意できるが、メガネに関しては某も決めかねている難しい所だ。最近はあまり聞かない眼鏡っ娘であるが、ビジュアル、キャラ付け的側面から外さないほうがいいという意見と自分にだけ眼鏡を外す姿を見せてくれる無防備さ、どちらも納得できるが……外してみるまでどちらが正解かわからない、シュレディンガーの眼鏡といった所か」
 周囲のケルベロス達を置き去りに、千舞輝とビルシャナの話は白熱していく。額を突き合わせ、爛々と瞳を輝かせ語り合う二人は、まさに同士であった。


 しかし、その二人の話し合いは、突然横合いから飛んできた攻撃によって遮られた。
 それは、周辺住民の避難を終え、今まさにこの現場へとたどり着いたシィカの先制の蹴りの一撃であった。
 遠目に見れば千舞輝がビルシャナの魔の手にかかる寸前に見えたとしてもおかしくない距離である、まさか二人が白熱した議論を未だ続けているなど、思うわけもない。
 あまりにもあっさりと敵に攻撃がクリーンヒットし、吹き飛ばされたことに、シィカが戸惑う中、千舞輝は吹き飛ばされたビルシャナの方へとぽかんとした視線を向ける。
「急いできたんだけど、なんだ、まだまだ余裕があったみたいだね」
「皆様、無事……な、ようですね」
 シィカに続いてやってきたミカと綺華もいまいち現在の状況が飲み込めていないのか、困惑しつつ、近くの仲間達に事情を聞いている。
「まんまとはめられた、というわけか」
 その間にふらふらと立ち上がったビルシャナ。
「ちゃ、ちゃうで、ウチの気持ちだけはホンモノや!」
 あわてて両手を振る千舞輝の言葉に、ビルシャナは一瞬だけ視線を投げ、
「皆まで言ってくれるな。その情熱、読み取れぬわけがなかろう。このような形で出会わなければあるいは――いや、もしもの話等、作り手だけが語ればいい」
 演技がかった仕草で語るビルシャナに、未だ自体を飲み込めない避難組は不思議な目を向けつつも武器を構える。
「で……なんで彼はあんなに盛り上がっているんだ?」
「よくわかりませんが、戦う事に意思はあるみたいデスネー?」
「さぁこい、番犬ども!」
 勢いよくビルシャナは宣言したものの、戦いはあまりにも一方的だった。
 綺華の捧げた祈りに背を押されたケルベロス達の猛攻は激しく、先ほどまでと違い嬉々とした表情で武器を振るう霞の斬撃にビルシャナの体はくるくると宙を舞い、早々に鼻で笑われた徹也とかだん、二人の鬱憤を晴らすかのような連携攻撃に、宙を舞ったビルシャナの体が地面へと埋まる。
 敵の反撃に備え、周囲に紙兵を展開する淡雪が何かをする出番もないほどの一方的な展開。
 それを不思議に思った徹也はビルシャナに問う。
「なぜ手を抜く?」
「所詮私は誕生したばかりのビルシャナ。信徒もなしに貴様らにかなう筈もなかろう」
 ビルシャナの言うことも間違いではなかった、だがそれを差し引いても、これほどまでに一方的にはならない筈だ。
「ただ……目の前にこれほど美しく着飾った者達がいて、我が正義を理解してくれる者がいたのだ。満足してしまっても無理はなかろう」
 地に撃ちつけられ、体も起こさないまま満足気に語るビルシャナを見て、
「ロックデスネー……」
 ポツリとシィカが呟く。
「たしかに、わからないでもない、ね」
 ミカはそう言って、コスプレ姿の千舞輝にちらりと目をやってから、倒れるビルシャナの前に屈み込む。
「その魂が巡り、もう一度この世に廻ること願うよ」
 光の粒子を纏うミカの手が、ビルシャナの体を貫く。
 彼は抵抗する事なく、あっさりとその一撃を受け入れ、一匹のビルシャナはそうして消えていった。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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