ずっと、一緒に

作者:雷紋寺音弥

●狙われた純情
 もっと、一緒にいられればいいのに。幾度目か知れない心の呟きを吐き出す代わりに、渡邉・美緒(わたなべ・みお)は大きな溜息を吐いてベッドに横たわった。
 一週間ほど前にあったバレンタイン。憧れていた部活の先輩に渡した本命のチョコレート。
 だが、先輩からの特別な返事は聞けなかった。いつも通り、「ありがとう」と言って頭を軽く撫でてくれただけで。
「やっぱり私、子ども扱いされてるのかなぁ……」
 もしかすると、先輩は自分のことを、妹のようにしか見ていないのではないか。そんな想いが頭を掠める。なにより、先輩はモテるのだ。本当は、もっと一緒にいられればと思うのだが、現実はそう甘くはなく。
「あ~あ……。私だけが、先輩を独り占めできればいいのに……って、なにこれ!? と、鳥……なの?」
 突然、美緒の前に現れた、孔雀のような姿をした女神の幻影。それが優しく微笑んだところで、美緒の瞳から徐々に光が消えて行き。
「アハハ……そうだ……そうだよ! 先輩に纏わりつく泥棒猫ども……あいつらを全部始末しちゃえば、先輩は私だけのもの! それに、先輩を攫って家に閉じ込めちゃえば……ずっと……ずっと一緒にいられるよね」
 完全に狂気を宿した瞳で、近くに転がっていたカッターナイフを拾って呟く美緒。そんな彼女の身体は、いつしか全身を羽毛に覆われた、ビルシャナのものへと変わっていた。

●暴走する愛
「召集に応じてくれ、感謝する。風音・和奈(哀しみの欠如・e13744)が懸念していた通り、秘めた恋心がビルシャナ菩薩の『大願天女』に狙われる事件が予知された」
 その結果、一人の少女がビルシャナと化し、同じ学校の女子生徒を全て殺害した上で、想い人を自宅に監禁しようと企んでいる。そう言って、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は改めて、自らの垣間見た予知について語り始めた。
「ビルシャナと化してしまう少女の名前は、渡邉・美緒。バレンタインに、自分の好意を抱いていた先輩にチョコレートを渡したらしいが、それで何が変わったわけでもない。自分の中に想いを秘めたまま、悶々とした日々を過ごしていたようだな」
 その程度であれば可愛いものだったが、しかし『大願天女』に魅入られてビルシャナ化したのであれば、話は別だ。ビルシャナと化してしまったが最後、彼女は暴走する愛情を内に抱いた、極めて危険な存在と化す。
「今から行けば、ビルシャナ化した美緒を説得して、計画を諦めさせることも可能だぜ。説得の方法は、大きく分けて3種類だな」
 1つ目の方法は、殺人などといった極端な方法を用いなくとも、先にケルベロス達の側で願いを叶えてしまうこと。もっとも、今回の事件では、これはなかなか難しいだろう。
 2つ目の方法は、これから行おうとしている暴力的な手段では、願いを叶えられないことを証明すること。だが、今の美緒は自分の計画に陶酔しており、周りが見えていない状態でもある。単なる全否定では激昂させてしまう恐れもあるので、なるべくシンプルな言葉を用いつつ、彼女の納得できるような代替案を示さねばならない。
 そして、最後に3つ目の方法だが、こちらは彼女の願望を叩き潰してしまうことだ。要するに、『大好きな先輩を嫌いにさせる』ことで、恋心諸共に諦めてもらえれば良いのだが……こちらも対応を誤ると、火に油を注ぐ結果に成り兼ねない。
「今から家に向かえば、美緒がビルシャナ化した直後に接触することができる。戦闘になると、美緒は手にしたカッターナイフで、惨殺ナイフのグラビティに似た技を使ってくるようだな」
 ビルシャナによって、歪められてしまった恋心。ある意味では、美緒もまた犠牲者の一人である。そんな彼女に、これ以上の涙を強いるのは酷だろう。
 どのような手段、どのような結果を選択するのかは、そちらに任せる。とにかく今は、少しでも犠牲を減らせるように努めて欲しい。そう言って、クロートは改めて、ケルベロス達に依頼した。


参加者
天尊・日仙丸(通販忍者・e00955)
月見里・一太(咬殺・e02692)
葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)
ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)
風音・和奈(哀しみの欠如・e13744)
楝・累音(襲色目・e20990)
キアラ・エスタリン(光放つ蝶の騎士・e36085)
ティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448)

■リプレイ

●逢魔ヶ刻に病みながら
 夕暮れ時の街を抜け、目的の場所である民家へと向かう。ドアに手をかけてみると、都合の良いことに鍵が開いていた。
「片想いとは難儀なものでござるな。しかし、その想いは純粋なもの。その情念を弄ぶビルシャナ、許してはおけぬでござる」
「未だ恋路を知らぬ身ではあるが……其の所業、全力を以て阻止せねばなるまい」
 互いに頷き、天尊・日仙丸(通販忍者・e00955)と葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)の二人が油断なく玄関へと足を踏み入れる。まさかとは思うが、情念に駆られて暴走した美緒が、いきなり襲い掛かって来ないとも限らない。
「恋心、ねぇ……。こういうのは想いを伝えたからって、必ず上手く行く訳じゃねーからな。その辺が難しい所だ」
 だが、それでもライバルを殺して排除するなどというのは、単なる逃げだ。そうなる前に、なんとか止めてやりたいと言いながら、ティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448)が階段を上った先にある部屋の扉を開けた。
「……誰?」
 窓辺から差し込む橙色の光。それを全身に受け、部屋の中で佇んでいた者が振り返った。
 帰宅してから、着替えることもしていなかったのだろう。学生服はそのままに、しかし袖口から除く手の先は翼へと変わり、顔は鋭い嘴の生えた鳥のものとなっていた。
 渡邉・美緒。憧れの先輩にチョコレートを渡したときから鬱々としていた彼女の身体は、既にビルシャナへと変貌していた。
「恋心など私にはわかりません。片想いは苦しく、想いを伝えたはずがすれ違い、子供扱い……辛いでしょう。でも、過ちをおかしてしまった後で遅いのです。私達が救ってあげなくては」
 未だ人の心を失っていないのであれば、僅かばかりの可能性はある。その可能性に賭けてみようと、キアラ・エスタリン(光放つ蝶の騎士・e36085)は覚悟を決め。
「渡邉・美緒さん……だよな?」
 まずは開口一番に、月見里・一太(咬殺・e02692)がビルシャナと化した美緒に問い掛けた。
「一個聴きてぇんだが、一緒に居たいってそれ手段で目的じゃねぇよな?」
 一緒に居たいと思うのは何故か。本当の目的はどこにあるのか。しかし、そんな彼の問いに対し、美緒は呆れたように溜息を吐くばかり。
「そんなこと……好きだからに決まってるでしょ? 好きな人とは、ずっと一緒に居たい……そんなことも解らないの?」
 ただ、相手が好きだから一緒に居たい。それのどこが悪いのか。単純な答えだからこそ、美緒の瞳に迷いは無い。
「俺はこういったことに疎いもんで、うまく伝わるかは解らんが……憧れる相手の傍に居たい、という気持ちなら理解出来る」
 だが、その結果として人を傷つけ、果ては想い人を攫ったところで、相手は本当に自分のことを好いてくれるだろうか。むしろ、余計に態度を硬化させるだけではないかと、楝・累音(襲色目・e20990)が尋ねてみたが。
「私の気持ちが理解できるなら、邪魔しないでよね。それに、泥棒猫達から守ってあげれば、先輩だってきっと感謝してくれるもの……」
 己の言葉に陶酔するような口振りで、美緒は天井の先にある、どこか遠くを見つめながら言った。
 自分のやろうとしていることは、相手に対する善意である。全ては、憧れの先輩のため。それなのに、何を恐れる必要があるというのか。そんな自信に満ち溢れた今の美緒には、チョコレートを渡す際に告白を躊躇ってしまった気弱な少女の面影もない。そんな彼女に、風音・和奈(哀しみの欠如・e13744)は改めて、美緒の行いに対する矛盾を尋ねた。
「もしかして、本命のチョコを渡しただけ? ちゃんと、本人に直接好きって伝えていないんじゃない? 泥棒猫を始末? 先輩を攫う? そんなことをしている場合じゃないよ」
 本当に大切なのは、内に秘めた心を言葉にして届けることだ。他の人など関係ない。自分の先輩に対する想いを、先輩に知ってもらうことが大切なのだと。
「想いを知ってもらう、か……。でも、それを邪魔する相手がいたら、やっぱり排除しないと無理だよね? 折角、伝えたいことがあっても、邪魔されて伝わらないんじゃ意味ないし」
 もっとも、美緒の口から返って来たのは、あくまで邪魔者を殺すという確固たる意志のみ。元は純粋な恋心を、ここまで歪めてしまえるとは。大願天女の影響は、想像していた以上に恐るべきものだ。
(「あくまで皆殺しに拘るか……。だが、その果てに待つのは……」)
 何か想うところがあるのか、ハル・エーヴィヒカイト(ブレードライザー・e11231)は油断なく美緒の動きに視線を合わせながらも、言葉を発するタイミングを計っていた。
 この手の輩は、下手に刺激すると逆効果だ。しかし、このまま放っておくわけにもいかない以上、なんとかして考えを改めさせねば。
 恋敵を殺すのも、先輩を攫うのも、全ては相手のためだと美緒は思っている。ならば、それを行った結果、本当に先輩は彼女を愛してくれるのか。未だ絶対的な自信に満ち溢れる美緒に、ケルベロス達は敢えて心を鬼にして、非情な現実を伝えることにした。

●想いの果てにあるもの
 自分の想いを通すために、他者を排除し相手を縛る。その果てにあるものが、今の美緒には見えていない。
「邪魔者を消して先輩を閉じ込めればずっと一緒に、でござるか。しかし、それを為した渡邉殿を先輩はどのような目で見るのでござろうな?」
 古今東西、強引に捻じ伏せるような形で愛を迫ったところで、それに振り向いてくれたという話はない。そこにあるのは澪が望んでいた結果ではないと、日仙丸は改めて彼女に尋ねた。
「先輩と恋仲になりたいと思っているのでござろう? そして、子供扱いされているのではと問題点にも気付いている。であれば、渡邉殿が取るべき行動はまず子供扱いされぬよう、はっきりと一人の女性として想いを伝えることではござらぬか?」
「想いを伝える、ね……。でも、それで成功する保証、どこにあるの? それに、問題に気づいていても、それをどうにかする方法が解らないんじゃ、どっちにしろ同じことだわ」
 だが、返ってきたのは現状を悲観するような美緒の言葉。もしかすると、歪められた彼女の想いとは、自信のなさの裏返しなのかもしれなかった。
「想いを伝えるのは誰しも勇気がいるだろう。チョコを渡した時も、それがどれほどだったかは俺には分らん。だが、それでも……妹のようにではなく、一人の女性として見て欲しいのならばそう真っすぐに伝えらどうかね?」
 ならば、まずは彼女の背中を押してやろうと累音が訪ねたが、それでも美緒は首を縦に振ろうとはしない。想いを伝えたところで、失敗すれば全てが終わり。そんな風に考えている素振りも見受けられ。
「問題をどうにかする方法か? 告白して認識を変えて貰う、っつーのは一つの手だぞ」
 実際に、それで認識を変えてもらって、改めて頑張っている者を知っている。認識を変えたいなら、まず告白してみろと一太が美緒に提案した。
「そもそも、一回告白に失敗したからってもうやっちゃいけないって理由はねぇだろ? 認識変えてから、またやればいい。……それに、認識変えなきゃ、一緒に居ても何にもかわらねぇぞ」
「認識を変える、か……。確かに、好きって言われたから好きになるっていうの、あるかもしれないよね。でも……」
 そこまで言って、美緒は力なく俯くと、どこか思いつめた様子で言葉を切った。
 告白されたから好きになる。それが本当なのであれば、ますます自分に勝ち目などない。自分よりも可愛い子や、積極的な子が先輩に告白すれば、先輩はそちらの方を好きになってしまうかもしれないと。
「否定されるのが怖いの? でも、今のまま否定も肯定もされないのは、もっと辛いよ」
 あくまで自分と先輩『だけ』の世界を作ろうとする美緒に、和奈の口調が少しだけ厳しくなった。
「それに今、貴方がやろうとしていることに比べれば、すごく簡単、大好きな人を傷つけることも無い」
 自分が傷つくのは辛いことだが、大好きな人を傷つけることの後悔に比べれば、いくらでも我慢できるし、乗り越えられる。そして、告白に踏み切る勇気を後押しするのも、その秘めた想いの力であると。
「人は真摯な想いに心を揺すぶられるもの。其の秘めた想いを言葉にして真っ直ぐに届けるべきだ」
「もし君が凶行を思い留まり、先輩に想いを伝える事を選ぶのなら、私たちも全面的に協力しよう」
 和奈に続き、影二やティリルも美緒の背中を押すような形で諭す。しかし、そんな彼らの言葉にも、美緒は俯いたまま顔を上げず。
「大切な人を傷つける? 心配しなくても、私が殺すのは先輩に纏わりつく泥棒猫達だけだよ。それに……先輩に振り向いてもらえなかったら、私にとっては死んだも同じだから……」
 他の誰かに奪われるくらいなら、独占する以外に道はない。今の美緒にとっては、自分の恋路の障害となる存在、全てが物事を悪い方向に考えさせる要素でしかないらしく。
「では仮に、邪魔者を排除し、先輩を独占したとして、その先輩の心に宿るあなたへの感情は何でしょう?」
 告白して失敗するくらいなら攫って監禁する。あくまで考えを改めない美緒に、キアラは敢えて厳しい現実を突き付けるべく問いかけた。
「恐らく恐怖心です。自由を奪い、強引に視線を釘付けにしてしまえばそうもなるでしょう」
 好きになってもらうはずが、恐れられては本末転倒。告白して失敗することもあるだろうが、だからといって監禁して成功するという保証の方も限りなく低いわけで。
「もし、君が全ての恋敵を排除したとして……それを知った彼は、果たして何を思うだろうか?」
 自分のせいで周囲の者が全て殺された場合、その人間が抱く感情は二つしかないとハルが続けた。事実、仇敵によってすべてを奪われた彼の言葉は、恐ろしい程に凄みがあった。
「それはね……無力な己への怒りと奪った者への憎しみだよ。俺はね、奴らを全て斬るまでは止まれなくなってしまったんだ」
 そうなったが最後、後に残るのは殺すか殺されるかの関係のみ。デウスエクスを殺す術を持たない先輩は、恐らく心の内に殺意と憎しみを抱いたまま、怒りの矛先を自身へと向け、自ら命を絶つかもしれないと。
「そんな……。それじゃ、どんな力を手に入れたって、私は……」
 ビルシャナを引き込むだけの強い想いがあるのなら、それを生かして告白してみろ。そう、伝えようとしたハルだったが、果たして彼が言葉を紡ぐよりも早く、眩い閃光が美緒の身体を覆い尽くした。

●操られた恋心
 閃光に包まれた次の瞬間、ビルシャナと化した美緒は殺戮を本能とする人形のように、ケルベロス達へと襲い掛かってきた。
 翼の先で器用に握り締めたカッターナイフを振るい、美緒は無言のまま周囲にいる者達へと斬り掛かって行く。だが、その瞳は光を失い淀んだ灰色になっていても、心までは死んでいないとケルベロス達は知っていた。
 大願天女が実力行使に出てきたのは、美緒の中に与えられた力への疑念が生じたからだろう。ならば、ここで操られている美緒を倒せば、彼女を救い出すことも不可能ではない。
「お前はまだ、何も成していないだろう? ここで人を辞めれば、それこそ全てが終わりだぞ」
「一歩踏み出せば、世界はきっと変わるはず……。だから、諦めないでください」
 無言のまま武器を振るう美緒に声を掛けつつも、累音とキアラはそれぞれに、石化の呪詛と雷鳴を帯びた穂先を繰り出した。
 このまま大願天女に操られ、道具として散るのは無念だろう。少しでも人の心を残しているのであれば、早くこちらに戻って来いと。
「悪いが、これ以上は彼女を玩具にさせるわけにもいかない」
「螺旋の極地、存分に味わい、そして逝け! ……送料は無料にしておくでござるよ」
 ハルの繰り出した無数の影が刃を持ってビルシャナを切り裂けば、それに合わせて間合いを詰めた日仙丸の掌底が、身体の奥深くまで螺旋を叩き込み。
「身動きも出来まい……!」
 駄目押しとばかりに、影二の投げた手裏剣が、ビルシャナの急所に突き刺さる。刃に宿した雷の霊気に神経を侵されたところで、ここぞとばかりに一太が攻める。
「太陽を喰らった魔狼の咢、味わってけよ」
 繰り出されるは、魔ではなく熱を食らう一撃。動きを封じられたビルシャナに、それを避けるだけの術はなく。
「喰らいやがれッ!」
 魔力を込めた妖刀をティリルが振るえば、氷像と化していた敵の翼は、木っ端微塵に砕け散った。
「好きな人に想いを伝えるのってとても怖いよ。でも、言わなければ想いはどんどん募って抱えきれなくなっちゃう。それに潰されてしまうなんて勿体無いじゃない」
 だから、これ以上はその想いを、ビルシャナなどに利用させなどはしない。それだけ言って、和奈は両腕に構えたガトリングガンの弾を、余すところなくビルシャナの身体へ叩き込んだ。
「……ッ!?」
 氷の砕け散るような音と共に、ビルシャナの身体もまた砕け散る。羽毛が散り、嘴が爆ぜ……粉砕された鳥人の殻の中から現れたのは、人としての姿を取り戻した美緒だった。

●本当に好きだったのは?
 気が付くと、外は随分と薄暗くなっていた。
 もうじき、美緒の両親も家に帰ってくるだろう。その前に、少しでも彼女の力になってやりたいと願うケルベロス達だったが、対する美緒は、どこか吹っ切れた様子だった。
「皆さん、ありがとうございました。結局……私、自分に酔ってただけだったのかも」
 本当に先輩のことが好きだったら、自分が傷つくことも恐れずに、ただ彼の幸せだけを願ったはず。しかし、実際は彼の気持ちなどお構いなしに、独占欲へと走ってしまった。
 先輩に恋する自分が好き。つまるところ、美緒の心の奥底には、そんな感情もあったのだろう。無論、本当に先輩を慕う気持ちもあったのだろうが、それらは往々にして混同しがちな感情でもある。
 だが、それは彼女だけでなく、誰もが陥ってしまいがちな恋の罠。恋に恋する年頃ともなれば、気持ちの種類や自分の本音に区別もつかなくなろうもの。
「私、先輩に自分の気持ち、伝えてみますね。あ、でも、いきなり彼女にしてくださいとか、そこまで言うつもりはないけれど」
 とりあえず、今よりも親しい間柄になれれば、それでいい。そこから先の言葉は、今はそっと温めておこう。恋する自分に酔うことなく、本当に真摯な想いを先輩に向けられたとき、改めて言葉にして伝えるために。
 本当の自分と、偽りの自分。ビルシャナという形の殻をケルベロス達の手によって砕かれて、少女は一つ大人になった。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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