病魔根絶計画~あなたとわたし

作者:白鳥美鳥

●病魔根絶計画~あなたとわたし
「……怖い……怖い……」
 カタカタと身を震わせてベッドで彩香は毛布に包まっていた。
「……私……私……もう一人の私……妹を信じていたのに……」
 チャキチャキと耳元で鋏の音が大きく聞こえ、彩香は大きく震える。
 彩香には由香という双子の妹がいる。瓜二つの二人は性格こそ違ったが、何でも気が合い、どんな時も仲が良かった。彩香は由香を心から愛していたし、彼女を理解していると思っていた。由香も同じ様に思っているとそう信じていた。
「……あの子が……由香が……私を殺そうとしていたなんて……もう……誰も信じられない……誰も信じられない……」
 ある時、彩香は由香が自分を殺そうとしている事に気が付いた。そして、身を護る為に由香に襲い掛かったのだ。
 幸い、由香は怪我をしたものの命に別状はなく、彩香は今、こうして隔離病棟の一室で震えている。
「……由香が怖い……もう誰も信じられない……信じられない……」
 彩香はそう呟きながら、毛布を握りしめる。耳元には大きな鋏の音がいつまでも聞こえていた。

●ヘリオライダーより
「今回はね、みんなに病魔を倒して貰いたいんだ」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、そう言うと、話を続ける。
「あのね、病院の医師やウィッチドクター達努力が実って、『回帰性懐疑症候群』という病気を根絶する準備が整ったんだよ。今、この病気の患者達が大病院に集められていて、病魔との戦闘準備が薦められているんだ。それで、みんなには、この中で特に強い『重病患者の病魔』を倒して貰いたいんだよ。今、重病患者の病魔を一体残らず倒す事が出来れば、この病気は根絶されて、もう新たな患者が現れる事も無くなるそうなんだ。勿論、負けたら病気は根絶できずに新しい患者が出てしまうけどね。デウスエクスとの戦いに比べれば、決して緊急の依頼という訳では無いんだけど、この病気で苦しむ人をなくすために、作戦を成功させてほしいんだ」
 デュアルは作戦についての説明を始めた。
「今回の病魔は鋏や拒絶等を元に攻撃してくる。そして、今回、この病魔への『個別耐性』を得られると戦いを有利に運ぶ事が出来るよ。この『個別耐性』っていうのは、今回の病気の場合、目に見えない絆への不信感を解いてあげる事。例えば、病気になる前の人間関係を思い出させてあげたり、不信感に対して優しく話し相手になってあげたり、とかね。上手くいけば、一時的に『個別耐性』を得る事が出来て『病魔から受けるダメージが減少』するんだ。だから、戦闘を有利に進める事が出来ると思うよ」
 デュアルは最後に皆に言葉を投げかけた。
「大切にしている人達を信じられなくなるのは哀しい事だし、本人だけじゃなくて周りの人も本当に辛いよね。だから、みんなにはこの病気を根絶して欲しいんだ。みんななら出来るって信じているよ」


参加者
エリヤ・シャルトリュー(影は微睡む・e01913)
ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
ステラ・フラグメント(天の光・e44779)
ベルーカ・バケット(チョコレートの魔術師・e46515)

■リプレイ

●病魔根絶計画~あなたとわたし
 ケルベロス達が彩香の病室を訪ねると、彼女は怯える様に毛布に包まって震えていた。
 ロストーク・ヴィスナー(庇翼・e02023)、ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)の二人は彼女が怯えない様に武器を隠したり、持たない様にして戦意が無い事をアピールしてみせた。8人のケルベロスの訪問に警戒心を高めていた彩香は、ぎゅっと握りしめていた毛布を少し緩ます。少し警戒心を解いてくれたようだ。そんな彼女に、ステラ・フラグメント(天の光・e44779)は、ウイングキャットのノッテに傍に行って貰う。毛布でくるまれている彼女に、ウイングキャットの温かい体温が伝わってきて、ガタガタと大きく振るえていた身体が少し安心を得る糧になった様だった。
「普通のあったかいココアだよ。温まってほしいな」
 エリヤ・シャルトリュー(影は微睡む・e01913)は、持って来た温かいココアを差し出す。毛布で包まっている彩香の表情は余り見えない。その震えが寒さによるものなのか、恐怖によるものなのかは分からないけれど、少しでも心を温めて欲しかったのだ。エリヤにも双子の兄がいて、彩香が由香に抱いていた『もう一人の私』という感情がとても分かる。だからこそ、気持ちを温めて欲しかった。エリヤと彩香のやり取りを見ながらタイミングを図り、ベルーカ・バケット(チョコレートの魔術師・e46515)も軽食を差し出す。少しでも、気持ちを落ち着けて話して欲しいから。
 彼女が今、こういう症状に陥っているのは病魔なのだが、直ぐに病魔のせいだと言っても彼女に伝わるだろうか。
 彩香の方は、少し、気持ちは落ち着いてきているらしい。毛布に包まっているが、ベッドに腰をかけ、エリヤのココアを飲んでいる。傍にすり寄っているノッテにも心を和らげてくれている様だ。ここは、もう少し彼女の話を聞いた方が良いだろう。
「これこれ、アルバムを預かって来たっす!」
 コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)は、明るい笑顔と声で彩香に話しかけた。このアルバムはコンスタンツァの恋人でもあるファルケと一緒に彩香と由香の実家に行って借りてきたものだ。このアルバムには彩香と由香が仲良く写っている写真も多くあった。
「思い出してくださいっす。このアルバムには子供の頃の彩香と由香が映ってるっす。写真は嘘を吐けないっす」
 コンスタンツァは、彩香と由香が仲良く笑って写っている写真が多くあるページを開いて、彼女に見せる。彩香は由香の姿を見て、びくっと肩を震わすと真っ青な顔色になった。
「……由香」
 そう呟くと彩香はガタガタと震えだした。不信さ以上に怖さを持っている様にも見える。
 館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)は、元来表情が余り無い方だが、義理の弟妹のいる彼女は出来る限り力になってやりたい一心で、出来る限り優しく声をかける。
「ねえ、あなたは何時から妹さんから嫌われていると思ったのかな?」
 そう詩月に声をかけられて、彩香は毛布をぎゅっと握りしめた。
「……分からない。……ある時、ふと……そう感じて……」
 明確な理由は無いようだ。
 詩月は、もう一つ彩香に聞いておきたい事があった。
「……彩香ちゃん自身は妹を憎みたいのかな?」
「……憎む?」
 詩月の問いに、彩香はぴくりと反応する。
「……分からない……分からない。……ただ、由香がとても怖く見えて信じられなくて……」
 ぽつりぽつりと紡ぎだす彩香の言葉は、少なくとも妹の由香を憎んでいるとは思えなかった。どちらかといえば『信じられず怖い』という感じだ。
「私ね、一人っ子なんです。きょうだいがいる感覚ってどんななのでしょう」
 シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)も優しく話しかける。『きょうだい』、その言葉に彩香は反応する。
「……仲の良い双子だったと思う……少し前までは……」
「喧嘩の後は仲直りした、彩香にはそんな経験ねっすか?」
 コンスタンツァもそう言葉を重ねる。それに、彩香は頷いた。
「……喧嘩かぁ、そんな事もあったな。……でも、いつも直ぐに仲直りしてた」
 少しずつ、過去の記憶を辿っていっているようだ。
「たのしいこと、なにか覚えていないかな。そこまで優しかった妹さんとなら、たのしい思い出はこれからもいっぱいできるはず。信じられなくなって終わり、だなんてちょっと勿体無いよね」
「仮に今信じられなくても、信じていた時のことを思い出せなくても、これから信じることはできないかな。『信じられない』ということは、『信じたい』んだろう?」
 エリヤとロストークも優しく言葉を重ねていく。
「……信じられない……信じたい……?」
 ロストークの言葉に、彩香は戸惑っているらしい。
「君の本当に、大好きな、大切な人は誰だい? なあ、今怖い病気があってね、大事な人を信じられなくなる、そんな病気だ。俺はそんな病気から君を救い出すために来たんだよ」
 優しく丁寧にステラが話しかける。病魔の事をこのタイミングで話す事にする。彼女に病気である事を自然と受け入れて貰えるだろうと踏んだ。
「……病気? ……私、病気なの……?」
「もう誰も信じられなくない! という気持ちは、君の中にいる病魔が思わせている」
 翻訳機ガジェットを調整しつつ、ベルーカは温和な口調で語りかけた。
「君が妹を信じて愛しているように、彼女も君を愛しているし回復を願っているよ。誰も信じられないなら自分の気持ちを教えてほしい。君がまた、以前のように妹さんと仲良くしたいと思うなら、僕らに病魔を倒す手伝いをさせてくれ」
 心の篭ったファルケの言葉、そしてステラが赤いストックを彩香に手渡す。赤いストックの花言葉は君と妹さんとの『愛情の絆』。そして、『俺を信じて』。
「なあ、俺を、俺たちを、信じてくれないか」
 赤いストックを受け取った彩香は、ステラやケルベロス達に頷いてみせる。
 それを確認して、シアは野紺菊という名の日本刀を水平に掲げ病魔召喚を行い始めた。
「さあ、施術を開始しましょう」

●病魔『回帰性懐疑症候群』
 召喚された病魔は酷く奇妙なものだった。まるで毛布に包まった人の形。そして目の絵柄にバツ印のついた球体、奇妙な形の鋏を纏っている。
「彩香、こっちっす!」
 皆の回復役を担っているコンスタンツァが、別途用意していた車椅子に彩香を移動させて危なくない場所に連れて行く。これで、彼女の安全は確保できる筈だ。
 それを確認してから、すぐさま行動に移ったのがシア。渾身の力を籠めて、ウイルスを病魔に撃ち込んだ。病魔に対してウイルスを撃ち込む。何とも皮肉な攻撃だが、こんな病魔だからこそ倒さなくてはならない。そう強くシアは思う。
 直ぐに病魔の纏う目の絵柄の球体から、シアに向かって強い視線が送られてくる。
「レディに攻撃とは失礼な奴だ」
 それを直ぐにステラが庇った。
「ありがとうございます」
 シアのお礼の言葉に、ステラはニッと笑って返す。その間に、ファルケは病魔に向かって飛び込むと強烈な一撃をお見舞いした。
「ローシャくん」
「ええ、エーリャ」
 二人は頷きあう。
「謡え、詠え、慈悲なき凍れる冬のうた」
 白手袋を着けたロストークは詠唱により斧に刻まれたルーンを解き放つ。そして、氷霧を纏う一撃を叩き込んだ。そこに重ねる様に、エリヤは凍結の弾丸を撃ち込み氷で固めていく。更にロストークのボクスドラゴン、火属性を持つ赤い東洋竜のプラーミァがタックルを喰らわせた。その間に詩月が抑え込んでいる……そして病魔に対する強い憤りも込めているような狂気を解き放ち、ファルケ達に与えていく。
 彩香を安全な場所に連れて行ったコンスタンツァが戻ってくると、歌を紡いでいく。何処でもない何処かで仲間の信じる面影を揺り起こすような、そんな歌を。
 ステラは華麗な足捌きで病魔に向かって重い蹴りを放つ。そして、ノッテは清らかなる風をステラ達に送って行った。
「私達は、彩香。君を信じる!」
 彩香に伝える様にベルーカは言うと、自然発火装置を装着したガジェットで病魔に向かって炎を放った。
 病魔は包まっている毛布を固く握り締める。回復に努めているようだ。
 それに対して、シアは雷の霊気を乗せた突きを病魔に放つ。続けてファルケがグラビティ・チェインを用いて病魔の守りを打ち破った。
「―― 捉えたよ」
 詩月は、多種多様の飛び道具を駆使して病魔に向かい放つ。一瞬、動きが止まった所を狙ってロストークの重い蹴りを叩き込んだ。続き、プラーミァが炎のブレスを放つ。一方、エリヤは黄金の果実の光でロストーク達に護りの力を与えていった。
 コンスタンツァは病魔の死角を狙い、弾丸を撃ち込む。それに合わせてステラは炎を蹴り放ち、ベルーカは塗料を飛ばして塗りつけていった。
 病魔は纏っていた鋏をエリヤ達に向かって飛ばしてくる。その鋏は絆を切る鋏。彩香の耳に響いていた鋏の音の正体。それがケルベロス達を傷つけていった。そう、ケルベロス達の絆を切る様に。でも、そんな事で切れたりなんてしない。
「さあ、別れの吟を歌いましょう。忘れない為に」
 シアがそう歌うように言うと、病魔の足元から一斉に勿忘草が生い茂り、覆いかかる様に絡みつき……勿忘草に包まれた病魔は勿忘草と共に消え去って行った。

●そして……
 避難させていた彩香を再びベッドに戻し、毛布をかけてやる。彼女はすやすやと眠っていて、その表情は出会った時の暗いものから穏やかなものへと変わっていた。
「人を信じる事ができない病魔なんてタチ悪いっす」
 そうコンスタンツァは言う。彼女も時々不安になる事もあるけれど、やっぱり信じたいと思うからだ。
「そんな恐ろしい病魔の根絶に役に立てたんだ。喜んでいいんだよ、スタン」
 恋人であるファルケはそう声をかけ、その言葉にコンスタンツァは微笑を浮かべる。
「信じる、か。私も、仲間に頼らねば、病魔を退治することは出来なかった」
 ベルーカは、そう皆を見渡して、にっこりと微笑む。そう、信じる事は大切な事で……信じているから得られる事も沢山ある。
「しかし、すぐに妹さんに会うのはお互い難しいんじゃないかな」
「うん。彩香ちゃんも自分の心も傷つけていると思うしね」
 詩月の言葉に、エリヤも頷く。今回の病気で心に傷を負ったのは由香だけではなく彩香もそうだ。彩香は、自らの行いをきっと後悔をするだろう。
「でも、ご家族は病気が治る可能性を信じてアルバムを貸してくれたんだよ」
「そうっす! 彩香が帰るのを待ってると思うっす!」
 彩香の両親に会っているファルケとコンスタンツァ。家族は彩香が病気だと知っているし、回復を望んだからこそアルバムを貸してくれたのだ。
 二人の言葉に皆は頷く。
「……また仲の良い姉妹に戻ってくれると良いな」
 詩月の言葉に、皆も頷いた。
 穏やかな顔で眠っている彩香。彼女が誰よりも信頼している双子の妹と元の仲の良い関係に戻ってくれる事を強く願う。
 信じる事の大切さ。それがあるなら、きっと――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月7日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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