
●おそとつらい
栃木県某所の廃ビルの一室に、その珍妙な集団は、いた。
「お外の世界ほんとつらい! まじつらい! お外出るくらいならずっとおうちにいたい! それがダメなら家ごと移動したい! わかるだろう! そう思うとヤドカリとか最高じゃね? 俺らも家ごと移動しようぜ! したらもう家でなくていいじゃん!?」
廃墟となった部屋の真ん中で雑な演説をするのは羽毛の生えた異形、ビルシャナ。その周りをぐるりと囲むように、10名の人間がうんうんと真剣に聞き入っている。そしてなぜか、全員が覗き穴のあいたダンボール箱を頭にかぶっており、額の部分にマジックで「おうち」と書かれているというわけのわからない姿。そしてビルシャナ大菩薩の影響なのか、彼らは人間離れしたビルシャナの姿は気にならないようだ。
「おうちがいちばん! おうちがいちばん!」
彼らは妙な高揚にかられて、おうちがいちばんコールを繰り返すのだった。
●ビルシャナ撃破作戦
「レイス・アリディラ(プリン好きの幽霊少女・e40180)さん達がロボット犬のダモクレスを撃破した事件と同じ街の廃ビルで、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で悟りを開きビルシャナになってしまった事件の予測っすよ。今回は悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破することが目的っすね。外の世界は苦しみばかり、おうちが一番って主張を周りに布教して配下を増やそうとしてるみたいなんで、その前に乗り込むことになるっす」
黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー)が集まったケルベロス達に説明をはじめた。
「ビルシャナ化した人間の言葉には強い説得力があるんで、ほうっておくと一般人は配下になってしまうっす。そうならないように、ここでビルシャナ化した人間の主張をひっくり返すようなインパクトのある主張をこっちがすれば防ぐことができるかもしれないっすね。配下になった人間はビルシャナが撃破されるまでの間、サーヴァントみたいなかんじで戦闘に参加してくるっす。ビルシャナさえ倒せば元に戻って救出が可能なんすけど、増えると戦闘で不利になるっすね」
●ビルシャナと信者たち
「今回のビルシャナは光を飛ばしたり氷を飛ばしたりトラウマを突っついたりしてくるみたいっすよ。賛同できない人は逃げ去って現場には10人の信者が残ってるみたいっす。残った信者は、外の世界には苦しみ以外は何もない、おうちがいちばんいい。どうしても外に出ないといけないときはせめて狭い箱をおうちってことにしてかぶっていたい、とかそういうことを叫んでるみたいなんで、説得の参考にして欲しいっす」
●黒瀬の初見
「ビルシャナ大菩薩の撃破に成功したからこそ今この程度の被害ですんでるとも言えるっす。皆さんの頑張りありきってかんじっすから、これ以上被害を広げないように、外の世界で活躍してるケルベロスの皆さんたちが説得して来てくださいっす」
そう言って、ダンテは皆を送り出した。
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 生明・穣(月草之青・e00256) |
![]() ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300) |
![]() コクヨウ・オールドフォート(グラシャラボラス・e02185) |
![]() 志藤・巌(壊し屋・e10136) |
![]() ロザリア・レノワール(黒き稲妻・e11689) |
![]() イヴリン・アッシュフォード(アルテミスの守り人・e22846) |
![]() ライラット・フェオニール(旧破氷竜姫・e26437) |
![]() クーガー・ヴォイテク(紅蓮の道化師・e46526) |
●やどかりの群れ
栃木県某所。もともとは何かの会社のオフィスだったと思われる廃ビルの一室に、それらは、いた。まるで朝礼の新入社員のように「おうちがいちばん! おうちがいちばん!」と繰り返し唱えるダンボール頭たち。
「おうちが一番か。良い事を言うじゃないかヤドカリ共が」
「おうちがいちばん。それはそうですよね。自分が一番くつろげる場所ですからね」
「おうちじゃないぞ……ダンボールだ」
「好きな話にも似たようなセリフがあるが、ダンボール頭に言われると複雑な気分になるな……あれはすごく重要な言葉なんだぞ」
物陰から覗きながらささやく豹頭のコクヨウ・オールドフォート(グラシャラボラス・e02185)、赤いフレームの眼鏡と蜂蜜色の髪が印象的なロザリア・レノワール(黒き稲妻・e11689)、長く伸ばした黒い前髪で片目を隠したイヴリン・アッシュフォード(アルテミスの守り人・e22846)、筋肉質で眼光鋭い志藤・巌(壊し屋・e10136)。
「やはり大菩薩の影響と言うのはすごいですね。いつまで続くのか……終わりが見えません」
その横合いから肩にサーヴァントの藍華を乗せたキラキラのスーツの男、生明・穣(月草之青・e00256)が取り出したスマホで中の様子を撮影した。何か考えがあるのだろう。
「ビルシャナって廃ビルで集会するの好きだよな。ビルシャナ内で廃ビル特集情報誌とか出回ってんのかな」
その言葉を受けて、豊満なボディに八重歯の光る母性をたたえた笑顔のライラット・フェオニール(旧破氷竜姫・e26437)が軽口を叩く。
そんな他のケルベロスたちの会話を聞きながら、金の瞳の男、クーガー・ヴォイテク(紅蓮の道化師・e46526)は火のついていないタバコをくわえたまま黙って何やらじっと考え込んでいる。ヘリオンで事件の詳細を聞いた時から、彼は何事か考えていた。
「念のため建物の周りに殺界形成を展開しておいたぞ。我の采配に感謝するが良い。そろそろまいろうではないか。ヤドカリどもを説得に」
外を見回ってきたらしい、紫の髪の美しい教祖、ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)の言葉に、全員は行動を開始した。
●ヤドカリたちのいるところ
「なんだ~~~~~~お前らは~~~~~~~今おうちの素晴らしさについて説いているところだぞ!」
「そうだそうだ! おんもからきた奴は帰れ!」
「おんもの苦しみを俺たちに味あわせる気だな!」
「いや、仲間になりたそうにこちらを見ている可能性もワンチャン……?」
どやどやと入ってきたケルベロスたちに、羽毛の生えたビルシャナと、「おうち」と書かれたダンボールを頭からかぶった10人の信者たちがやいのやいのと抗議する。ビルシャナをぐるりと囲んで独特の言語センスでぴよぴよと騒ぐヤドカリたちの光景は異様の一言で、はっきり言って気持ち悪い。
「おんもって……外のことおんもとか言うのかよ、ガキみてえな言葉づかいだな、生明さん」
「全員いい大人のはずなんだけどね、巌くん」
巌と穣が目を見合わせて肩をすくめた。
「その紙箱が家だと? 家族も思い入れも、何一つ無いその箱が? 笑わせるな」
豹頭のコクヨウが牙を剥き出してぐるると唸る。普段荒事好きとはいえクールな皮肉屋である彼だが、過去のデリケートなところをくすぐられたのか、いつになく荒々しい。
「家は命をかけても守らねばならんところだ。そんなもののためにお前は命を張れるのか!? お前だ! 答えろ!」
「おんもの人! 怖い!」
コクヨウが一番近くにいたヤドカリに吠えると、そのヤドカリはひゅっと手足を引っ込めてガタガタと震えた。
「あー、うんうん……怖がらないで……」
怖がってしまったので、いつもの外向きの話し方とは違う話し方でイヴリンが慰めにかかった。そんなイヴリンを優しい目で見つめるクーガー。
「おうちがいちばん。うんうん、わかるよ。あったかい家でさ、ごろごろしてる時が一番幸せだよね。ウチ猫飼ってるんだけどさ、ずっと猫といちゃいちゃごろごろしていたいもんね」
「そう……おうちがいちばん……おうちがいちばんなんだよぉ……」
「どうしても外に出る時はそれがおうちなの? うん、なかなか良いアイデアだね。良いと思うよ。でもさ……今、どうしても外にいないといけないのかな? さっさと終わらせて、おうちに帰ろう?」
『ま、ママーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!』
イヴリンの言葉を聞いていたヤドカリ二体はふるふると震えると、ダンボールのおうちを脱ぎ捨て、イヴリンに抱きついた。
「ママーーー!! ぼくおうち帰るよーーー!!!」
「抱っこ抱っこーーーーー!!」
「えっと……ママじゃない……ライラみたいなほんとのママには負ける……」
困惑するイヴリンから元ヤドカリをひっぺがし、部屋から出すクーガー。あとでフォローしたいのでとなりの部屋に入れておいてください、と穣が声をかけた。
「ママみで説得するとは卑怯な!! よく見ろお前たち! あれがお外の奴らのやり方だぞ!!」
「ずるい! うらやまけしからん!!」
残ったヤドカリたちとビルシャナがぴよぴよコッコと抗議する。
「甘ったれんじゃないよ!!」
ライラットが騒ぐ信者たちを一喝した。
「そんなにおうちが一番っていうなら、こんなとこに出てきてないでネット集会でもしてろ! 人様に迷惑をかけないだけそのほうが全然ましだ!! だいたいそんなの被ってるからそんな考え方になるんだ! 好きなだけ日の光を浴びろ!」
旋刃脚で廃ビルの壁を蹴ると、ドゴォと音を立て壁に大穴が開いた。ワルゼロムの殺界形成で人がいないのは確認済みだ。そのまま近くにいたヤドカリ三体のおうちをひっぺがし、日の光を無理やり浴びさせる。
「うわあああ! 眩しい!」
「物理系おかんだ!! ひどい!」
「さっきのママがよかった!」
勝手なことを言いながら、元ヤドカリ三人もとなりの部屋に逃げ込んだようだ。
これで半分。あと五人である。
●ヤドカリあと半分
信者を半分失って、ビルシャナも残りのヤドカリたちも動揺し始めているようであった。そんな彼らの前にエアシューズをカッと踏み鳴らし、一歩踏み出すのは落ち着いた眼鏡のロザリアだ。
「おうちがいちばん。それはそうですよね。自分が一番くつろげる場所ですからね。いわば自分の城。おうちにいる限りは一国一城の主であるわけです。だからと言って、外に出ないというのは極端です。一切外に出ない、人と接しないというのでは心も段々と滅入って来るもの」
話しながらロザリアは流れるような動きでさきほどライラットが開けた穴の方を指し示す。
「外はいいですよ。刺激にあふれてます。外の光は明るく暖かく、風はふわりと心地よい。これからは梅も桜も見ごろです。『おうち』の狭い窓からこの世界を見るなんてもったいない。こんな暗くじめじめした廃ビルなんか出て、外の世界に一歩踏み出してみませんか?」
外から流れてくる風は確かに気持ち良い。花粉症ではなかったらしいヤドカリ一体がおうちを脱ぎ捨て、ふらふらと出て行った。
「のう、のうお主ら」
次に出てきたのは元教祖、ワルゼロムだ。
「何、そのダンボール箱が家? 其れは結構だが、そのダンボール箱に果たして何日引きこもれる? 食事は?トイレは? 結局のところ、お外がつらいで生きていける世の中ではないのだ。少しずつでもいい、社会に慣れろ。お主らが思うほど社会は冷たくはないわい」
言うことはシンプルな正論そのものなのだが、そこは流石に元教祖。声音に説得力を巧みに練りこんである。半分以上いなくなったヤドカリたちはかなり動揺しているようだった。
「おう、俺もお前らの気持ちを考えたいと思っていろいろ調べたんだけどよ。お前ら、段ボールが家の代わりになると思っているのか。雨が降ったらボロボロになるぞ」
巌がその動揺を別の方向から突く。
「雪の日に至っては最悪だ。雨同様に濡れたら崩れて来るし、そんなん被ってたらロクに足元も見えないんじゃねえの? どう考えてもスッ転ぶだろ。っていうかおい、お前のそのダンボール耐水性の高いやつじゃねえか。結構値が張るだろ? 人生において金かけるべきとこって絶対そこじゃねえぞ。つーか、カンザスのトルネードじゃなくても突風が吹いただけでお前らのおうち、飛んでくぜ。藁の家ってレベルじゃねェ程軽いんだが、そんなおうちで大丈夫か?」
「巌くんの言うとおりです。先にお聞きしますけれど……ここに来る前にお家の無かった方……居ます? それ、素敵な家でしょうか。何ならば……ここで改心すれば仕事と家を提供しなくもないですけど」
不安を煽られていた矢先、キラキラのスーツに身を包んだ穣の突然の提案と名家オーラに、残ったヤドカリたちはざわついた。さらに用意していた大きな鏡を取り出し、穣は続ける。
「さて、お家がなかったわけでもない方々もですが……それ、今まで住んでいたところと比べて快適ですか? ちょっとこの鏡でご自分たちの姿を客観的に見て欲しいのですが……怪しいダンボールマスクの集い。異様ですね。通報されたらとりあえず警察行きでしょうか。先ほどスマホで写真は撮ってますのでいつでも証拠として提出できます。こんな姿が世の中に知れたらお外どころかお家にいても辛い思いをするかと。そんなお先真っ暗な生活と比べたら私の提案もそう悪いものではないかと思うのですが。待遇は相談に応じると約束しますよ。いかがでしょう?」
突然の好条件にがやがやと話し合うヤドカリたちの前に、今まであまりしゃべることのなかったクーガーが立ちはだかった。
「ずっと考えてたんだがよ……なぁ……外の何が辛いんだ…? 俺にはわからねえ……辛いものがある、それは分かるぜ。俺にも辛いもん位あるしな。でもよ、ダンボールを被ってでも出るんだろ? それってよ、『辛いことがあるかもしれない』けども進むための勇気は持ってるって事じゃねえのか……? その勇気が、外に出ること自体が『立ち向かってる自分自身』なんじゃねえのか……? めっちゃかっけえじゃねえか……最高じゃねえかッ違うかッ!? その瞬間まさに勇者ってことじゃねえか、俺はスゲエかっこいいと思うぜ……」
それを聞いて、戸惑っていたヤドカリたちの覗き穴からどばっと滂沱の涙が溢れ出る。
「お、俺たち、頑張りたくないわけじゃないんだっ!!」
「頑張ってもうまくいかなかったんだっ!!」
「無理しないでねって簡単にみんな言うけど、無理しない方法がわからないっ!!」
「外でうまくやれるなら俺だってうまくやりたかった!! 主役になりたかった!!」
ほとほとと泣き出す四体のヤドカリをよしよしとなだめ、穣が待機部屋へ連れて行った。
「お、お前たち……お前たちまでお外がいいというのか……」
一人になってしまったビルシャナはオロオロとうろたえる。
「苦しみ以外もあるってお前も薄々自分でわかってるんじゃないのか! だから俺はなんでそんなにお前がおうちに固執するのかわからねえんだよっ!!」
クーガーが泣きそうな声でビルシャナに煙草を投げつけた。彼がずっと考えていたのはこのことだったのだ。
「では聞いてみましょう」
信者たちの避難もひとまずは済んだということで、穣が惨劇の鏡像を用いてビルシャナの過去をえぐった。明らかになったビルシャナの過去は聞くも涙語るも涙の同情を禁じえないものであったが、ケルベロス達は自分たちの中にしまって置くことにした。彼も元は罪のない被害者なのだ。
「お前の言うとおり、お前の外の世界は苦しみばかりだったな。今から楽にしてやろう」
そして、最後はコクヨウのブレイズクラッシュで、ビルシャナを眠りにつかせた。
●おうちにかえろう
「皆さんお疲れ様でした。隣室の人たちは説明会に連れて行くので私に任せてください。大したものではありませんがどうぞ。巌くんは棒付きね」
「えー……なんで俺だけちょっとかわいいやつなんだよ……」
穣にもらった飴玉をコロコロ舐めながら、ケルベロス達は後始末をしていた。
「おうちね……おうちがない奴はどこにひきこもればいいのやら」
「いやー、うちの子たちはああいうふうにならないように私が愛情込めて大人にしてやるよ!」
壊した壁をヒールしながらひとりごちるコクヨウと、決意するライラット。
「ねえ、今日はクーガーの家に寄ってもいいかな……?」
「ああ……うん……」
よければ手をつないで帰ろう、とイヴリンに手を握られ、クーガーは少し照れた。
「ふふ、外の世界は甘酸っぱい喜びに溢れているぞよ!」
「世界は広いですからね。あら、梅の香り」
そんな二人を見ながらほころぶワルゼロムとロザリアに、風が春の訪れを知らせに来た。
外の世界があるからこそ、おうちがいちばんなのだ。
| 作者:星野ユキヒロ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2018年3月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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