病魔根絶計画~ハサミの音が聞こえる

作者:洗井落雲

●断たれる音
 誰かが自分を害そうとしている、と思う。
 いわゆる被害妄想である。
 多少の差はあれ、誰もは一度は感じたことがある、『不安』。そう言ったものの究極が、被害妄想……何もかもを信じられなくなる、という病、なのかもしれない。
 さて、この被害妄想にかかってしまう、という病気がある。
 『回帰性懐疑症候群』と名付けられたその病は、一度かかってしまうと、「愛や絆などと言った、目に見えないつながりが信じられなくなってしまう」という。その結果、そう言ったものを嫌悪・忌避する様になり、次第に周囲の人間は自分を害そうとしている、という不安と被害妄想に囚われてしまう。
 やがて患者に訪れるのは、周囲を巻き込んだ破滅である。
 ここに、1人の重症患者がいる。
 かつての彼は、社交的で明るく、友達や仲間の多い人間だった。
 そんな彼に、ちょきん、ちょきん、と何かを切る様な幻聴が聞こえだしたのは、いつ頃だったろうか。
 その音が、まるで絆を断ち切っているかのように。彼は、そう言ったものが信用できなくなっていった。
 彼が隔離病棟に収容される決定的な事件が起きたのは、妻と、幼い息子すら信じられなくなった時だった。酷い不安に駆られた彼は、その不安の大元を解消しようとした。つまり、妻と、息子に対して危害を加えようとしたのだ。
 機転を利かせた妻の手により、直接的な被害は抑えられたものの、彼はもう、既に限界を超えていた。
 結果、今はこうして独り、独房じみた隔離病棟に閉じ込められている。
 彼は日々を過ごす。
 ちょきん、ちょきんというハサミの音。そして酷い寒気と被害妄想に囚われながら。

●断てぬもの
「さて、今回の作戦は、「回帰性懐疑症候群」という病の根絶が目的だ」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、集まったケルベロス達に向かって、そう言った。
 病魔根絶計画とは、その病にかかった人間を一か所に集め、ウィッチドクターや病院の医師の協力の下『病魔』を発生させて全て退治し、その病その物を根絶しようという計画だ。
 この作戦で、全ての病魔を倒すことが出来れば、病は根絶される。しかし、一体でも倒し損ねてしまえば、病は再び猛威を振るい、新たな患者が現れてしまう事だろう。
 デウスエクスとの戦いに比べれば、緊急性の高い依頼ではないが、病に苦しむ人々を守る、という点では、重要な作戦であることに違いはない。
「皆には、特に重症となっている患者の一人を担当してもらいたい」
 そう言って、アーサーは、重症患者についての資料を、ケルベロス達に手渡した。
 三上浩二。既婚者の男性である。病にかかり、妻と幼い息子に危害を加えそうになったところを確保され、病棟に隔離されたそうだ。
 さて、患者のプロフィールをケルベロス達に開示した事には、もちろん意味がある。
「病魔を倒すことはもちろんだが、彼の看病も、皆には頼みたいんだ」
 というのも、病魔と戦う上で重要となる『個別耐性』と言うものを得ることができるからだ。
 この個別耐性は、患者を適切にケアできた場合、その病魔に対して『防御面で有利になる』という効果を得ることができる。
 もちろん、患者を適切に看護し、その心に安らぎを与える事は、患者を救う、という点でも重要な事だ。
「普段の戦いとは違い、勝手が違うかもしれないが……どうか、彼自身も落ち着かせてやってほしい。彼も苦しんでいるのだ」
 この病の特徴は、『目に見えない絆へ、不信感を抱いてしまう』という所にある。
 そう言った不安を取り除いてあげたり、かつての幸せな人間関係を思い出させてあげる、或いは純粋に話し相手になるだけでも、心は安らぐかもしれない。
「やり方は君達に任せるよ。よろしく頼む」
 そう言って、アーサーはヒゲを撫でた。
「この病を根絶するまたとないチャンスだ。多くの患者たちを救うため、頑張って欲しい。君達の無事と、作戦の成功を、祈っているよ」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出した。


参加者
天矢・恵(武装花屋・e01330)
オイナス・リンヌンラータ(歌姫の剣・e04033)
天ヶ崎・芽依(オラトリオのパラディオン・e44129)
久里・蒼太(ルリビタキ・e44787)
リーネ・シュピーゲル(空に歌う小鳥・e45064)
レーニ・シュピーゲル(空を描く小鳥・e45065)
ケースケ・シャイニング(自称小さな大芸術家・e45570)

■リプレイ

●目に映らないものたち
 病院に到着したケルベロス達が案内された隔離病棟は、まるで独房のような雰囲気を漂わせていた。
 時折、暴れる患者もいるらしく、扉や壁などが非常に頑丈な物で作られていた。また実際に患者が暴れたと思わしき跡が、壁に生々しく刻まれていることもあり、どこかすさんだような空気すら感じる。
「……仕方のない、ことなのですが」
 オイナス・リンヌンラータ(歌姫の剣・e04033)が、言った。
「こう暗いと、気分が落ち込んでしまいます。患者も、家族も……もちろんお医者さん達も、辛い、でしょうね……」
 言って、オイナスは俯いた。
 その気持ちは、他のケルベロス達にもよく理解できただろう。
 だからこそ、今日、この日の根絶作戦を成功させ、患者を、家族を、そして彼らに付き添い続けた医療関係者たちを、解放してやらなければならない。
「……そうね。頑張りましょう、オイナスさん。隔離病棟なんて、今日でその役目を終わらせてあげるのよ」
 ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)が、オイナスへ、そして自分自身の決意を新たにするように、言葉を紡いだ。
 ローレライの言葉に、オイナスは頷く。
 オイナスは頭を振った。そして、笑顔を作った。これから会う患者を不安にさせてはいけない。そして、この暗い雰囲気に負けてはいけない。
 だから、オイナスは、努めて笑顔を作るのだ。
 さて、ケルベロス達は、ある部屋の前に到着した。ここに、ケルベロス達が担当する患者、三上浩二と言う男性がいる。
 ケルベロス達は頷きあうと、医師に渡された鍵を使い、部屋の中へと入った。
 部屋の中は、必要最低限の物しか置かれておらず、非常に閑散とした印象を与えた。鏡などの割れて危険なものは存在せず、窓には鉄格子が嵌められており、万一の事態に備えているようである。
 その部屋の隅、ベッドの上に、浩二はいた。
 うずくまり、カタカタと震える浩二は、その視線をこちらに向けている。
「初めまして。レーニ達はケルベロスだよ」
 最初に口を開いたのは、レーニ・シュピーゲル(空を描く小鳥・e45065)だ。かばんからケルベロスカードを取り出す。
 リーネ・シュピーゲル(空に歌う小鳥・e45064)はレーニの隣に立ち、まるで鏡写しのように、同じくかばんからケルベロスカードを取り出した。
『はい、どうぞ』
 レーニとリーネが、同時にケルベロスカードを差し出した。受け取る様子はない。警戒しているのか、驚いているのか。レーニとリーネは、同時に別々の方向に小首をかしげると、うん、と納得したように首を振り、ケルベロスカードを近くのテーブルへと置いた。見えやすいように、注意して。
「今日は、浩二さんの、治療に来ました」
 天ヶ崎・芽依(オラトリオのパラディオン・e44129)の言葉に、浩二が答えた。
「治療……そう言えば、医者がそんな事を言っていた……」
 はい、と芽依が頷く。
「そちらに行っても、良いですか?」
 芽依の言葉に、男は頭をふった。
「いや、ダメだ……信用できない」
 拒絶する男の言葉に、それでも芽依は笑顔で答えた。
「はい。それでもかまいません。でも、どうか、私達の言葉を聞いてください」
 芽依が続ける。
「さっきも言った通り、私達は、浩二さんの治療に来ました。その為にも、浩二さんにも、色々教えて欲しい事があります」
「教える?」
 尋ねる男へ答えたのは、ローレライだ。
「例えば、奥さんとの馴れ初めや、息子さんとの思い出、とか」
「……それを聞いて、どうするんだ」
 男へ答えたのは、オイナスだ。
「もちろん、治療に必要なのですよ。決して興味本位で聞いているわけではないのです」
 オイナスの言う通り、これは治療、看護に必要な事だった。
 ケルベロス達は、男の中に眠る家族との思い出によって、もう一度、たのしかった、幸せだった日々の気持ちをよみがえらせようとしていたのだ。
 確かに、その効果はあったようだ。絶望しきっていたような男の声色に、少しづつではあるが、正の感情が戻ってきているような気がした。
「幸せだったんですね」
 久里・蒼太(ルリビタキ・e44787)が言った。
「ご家族の方にお会いして、お話を聞いてきました。やっぱり、同じ思い出を、とても幸せそうに話してくれました」
「家族……妻と息子にあったのか?」
「はい。お友達の皆さんも、もちろん奥さんも息子さんも、三上さんが元気になって戻ってくるのを待ってます。……だから、信じてあげてください」
「私のパパは、優しいけどちょっとおっちょこちょいで。スポーツしてたら大けがして心配させたり、夜遅く帰ってきてママに怒られてて……でも、ママはパパを大好きだって言っていますし、私もパパが大好きです」
 芽依が続けた。
「浩二さんを傷つけようとする人は、確かにいると思います。でも一緒にいたいって人はもっといっぱいます。それは忘れないでほしいです」
「いや……でも、俺は……」
 男が頭をふった。
「傷つけようとしてしまったんだ……いくら病のせいとはいえ……」
 と、歌声が響いた。
 優しい、声だった。
「この歌は……」
 男が呟く。
「はい。おうちの人が教えてくれたですよ」
 リーネが言った。それは、男が、子供と一緒に歌っていた歌だった。子供向けの歌だったけれど、息子がお気に入りで、何度も、なんども、一緒に歌った歌だ。
「みんな心配して寂しがっていたです」
「あのね、絵は好き? レーニね、ちっちゃい頃からとうさまに絵を教わったの」
 そう言って、レーニはスケッチブックを開いて見せた。レーニと、リーネ。そして、自身の父と母が描かれた、一枚の絵。
「ね? 『大好きっていう気持ちが形になった』。見えるようになるの」
 レーニが微笑を浮かべた。
「見えないから、怖い。とってもわかるの。でも、見えなくても、確かにあるし、こうやって形にする事もできる……何より、簡単に切れたりしない。気持ちって、とってもとっても強いものなのよ」
「で、その『大好きの形』がこれだ」
 と、一枚の絵を差し出したのは、ケースケ・シャイニング(自称小さな大芸術家・e45570)だ。
「これは……」
 男の言葉に、
「わかるだろ? あんたの子供が描いてくれた絵だ。父親のことが好きじゃなきゃ、こんな心底楽しそうな絵なんて描けねーよな。うん」
 ケースケはうなづきながら、
「あんたの病気の症状は分かるぜ。辛さも、わかるつもりだ。だけど、言う。この絵に免じて、もう一度信じてくれ。やり直せる、皆もやり直したいと思ってる、ってな」
 そう言った。
「……昔話をしてやる。仲間にも家族にも恵まれた男の話だ」
 天矢・恵(武装花屋・e01330)が言った。
「大好きなものを否定された事がきっかけだったか。全ての人が否定している様に感じ塞ぎこんだ男が居た。男はその苦しみに負け……大事な仲間や家族迄手にかけた」
 どこか遠くを見るように、恵が続けた。
「男は他に熱中できる物を見つけて克服した。代償はあったが。……お前はその男とは違う。病魔を倒せば治る至極簡単な病気だ」
 恵が、男を見つめた。
「手にかければ幾ら懺悔しても届かねぇ。今ならやり直せる。……俺達は、必ず、お前を救って見せる。だから、お前も、もう一度やり直せる。そう信じてくれ」
 恵の言葉に、男は俯いた。
 何を思うのか。何を感じたのか。
 それは分からない。
 やがて、時が来た。
 男はストレッチャーに乗せられ、『手術室』へと送られる。
 ケルベロス達は、男と共に、手術室へと向かった。

●断つものとの戦い
 手術室へ到着したケルベロス達は、病院のウィッチドクターが、病魔を召喚するのを見守っていた。
 やがて、ストレッチャーに寝かされていた男の身体から、何かがぼんやりと浮かび上がる。それは直ぐに実態を表した。
 シーツに包まれた人間のような、奇妙な外見だった。周囲には、目を模した球形の何かが浮かび、はさみのような音が、絶えずチョキチョキと音をたてている。幻聴の原因は、このハサミの音なのかもしれない。
「チョキチョキ! チョキチョキ!」
 病魔、『回帰性懐疑症候群』が喚いた。
 病魔の姿を認めたケルベロス達は、すぐさま行動に移った。
「こちらへ! 避難してください!」
 蒼太が医師達と患者を避難させる。
 その間、ケルベロス達は、病魔をブロックする様に対峙していた。
「これが……病魔! これをやっつければ、病気に苦しむ人を助けられるんですね……!」
 芽依が言った。
「変な見た目の奴だが、油断はするんじゃねーぞ!」
 ケースケが筆を構えつつ、叫ぶ。
『家族の絆、病気なんかに切らせはしない!』
 レーニとリーネが、異口同音に叫び、
「いきましょう、ロー!」
 オイナスの言葉に、
「ああ、彼を助けよう、必ず!」
 ローレライが頷いた。
「戻りました!」
 蒼太は戦列に加わり、その翼を広げる。
「じゃあ、手術を始めるとするか。あの患者を、『愚かな男』と同じにしないためにもな……!」
 恵が言って、駆けた。勢いを殺さず、病魔へ飛び蹴りをお見舞いする。
「ドローン、展開する! シュテルネは攻撃を!」
 テレビウム『シュテルネ』へ指示を出しつつ、ローレライはヒールドローンを展開、味方への支援を開始する。シュテルネは顔から放った閃光で病魔を攻撃。
「ロー、僕が続くのです!」
 オイナスがローレライとの息の合ったコンビネーションを発揮。二振りの日本刀、『揺らがぬ炎』と『砕けぬ氷』による、連続攻撃をお見舞いする。二刀のはまるで花弁のように舞い、煌きは星のように。『氷晶炎舞(ヒョウショウエンブ)』は、オイナスの修行の成果、その集大成だ。
 主人に続けと、オルトロス『プロイネン』も、口にくわえた剣で斬撃を加える。
「陣形を組んで……名付けて、『絆を守護する陣』!」
 九尾扇を振るいながら、レーニが味方のケルベロス達を援護し、
「皆を守って!」
 芽依が生み出したエクトプラズムが、味方のケルベロス達の傷をふさぎ、阻害効果への耐性を与える。
「これは愛しい思いの歌。きっと、病魔のあなたにはわからないのです」
 リーネが歌い上げるは世界を愛する者達を癒やす歌だ。
「僕から逃げられるなんて思わないでください!」
 飛行した蒼太が、病魔めがけて急降下。その勢いのまま、病魔を斬りつけた。
 それはまるで吹き降ろす風のように。まるで獲物を狙う猛禽のように。
 『蒼翼のミストラル(ソウヨクノミストラル)』による一撃は、シーツのようなものに包まれた病魔の身体を深く切裂く。
「行くぜ! 俺のスケッチ、とくと味わいな!」
 と、ケースケは筆を振り回しながら突撃する。ケースケの突撃を受けた病魔は、怒りの声をあげると、前衛のケルベロス達に向かって、浮遊するハサミを投擲した。チョキチョキと言う音とともに迫るハサミを、ケルベロス達は回避、或いは受け止める。
 ダメージは少ない。それは個別耐性が十分にもたらされているという事であり、つまり、看病が成功したという事を、患者からの信頼を得られたことを、患者の希望を蘇らせることができたという事を表していた。
「信じてもらえた……託してもらえた。ならば、負けるわけにはいきません!」
 蒼太が叫ぶ。
「おうよ! 一家の命運を背負ってるんだ、病気なんかに負けてらんねぇ!」
 ケースケも同意する。
 恵が時間を凍結する弾丸を打ち放ち、病魔を凍り付かせる。ローレライとシュテルネが、影の如き斬撃と狂気攻撃をコンビネーションで繰り出し、病魔を圧倒。
 逃げようとする病魔へ、
「逃がさない、よ!」
 レーニの虹色の飛び蹴りが叩き込まれる。
「人を悲しませちゃう子は――おしおきです!」
 芽依が、アニミズムアンクである指揮棒で、病魔をぺんぺん、と叩くと、突如爆発が起こった。『お菓子のABCD(アッド・ベイク・クラッシュ・デザート)』による攻撃だ。
 リーネが『小鳥さんのペーパーナイフ』で病魔を斬りつけ、オイナスとプロイネンがそれに続き、斬りつける。
「苦しんでいる人たちの為にも、負けられません!」
 蒼太が混沌を纏わせた武器で病魔を攻撃。
「おらぁっ、吹っ飛んじまえっ!」
 ケースケが空中に筆で道を描き、その道を描けながら突撃した。
 病魔も反撃に移るが、個別耐性を得たケルベロス達にとって、病魔の攻撃など、もはや痛くも痒くもない。
 なにより、患者からの信頼を得られたことにより、ケルベロス達の士気も上がった。状況はケルベロス側の有利へと傾いていく。
 勢いを殺さぬままに、ケルベロス達は病魔を圧倒し続けた。
「これで片を付ける……!」
 恵がどこからともなく、一振りの刀を召還した。閃光が走る。それが刃の煌きであったという事を認識した時には、全ては終わっていた。
「これで終わりだ……『斬華一閃(キリバナイッセン)』」
 いつ斬られたのかもわからぬほどの神速の一撃。
 病魔はその身体を二つに分断された。悲鳴をあげる間もなく、病魔は消滅したのだった。

●繋ぐもの、繋いだもの
「心配ですね、三上さん……」
 蒼太が眉を下げながら言った。
 戦いによって、病魔は消滅した。だが、元々消耗していた患者はまだ意識を取り戻してはいない。
「ああ……でも、病魔はやっつけたんだ。もう、大丈夫なはずだ」
 ケースケが答える。
「そこは喜ばしいのです」
 にっこりと笑いながら、オイナスが答える。
「後は、再び元の日常に戻れるか、でしょうか」
 ローレライが首を傾げた。
「そこは、心配いらない、と思いますよ」
 芽依が言った。そうして、芽依が指さした先には、患者の病室へと向かう、一人の女性と、幼い少年の姿がった。患者の家族だ。
 『手術』が終った時、ケルベロス達を出迎えたのは、医師達と、そして患者の家族だった。
 手術が無事に終わった事を家族に告げると、患者の妻は涙ながらに、何度も礼を言った。患者の子供である少年も、幼いなりに自体を理解したらしく、元気よく、お礼を言ってくれた。
「あんなに愛されてるんです」
「家族なかよく、あたらしいはじめの一歩から」
『悪い夢はもうお終い』
 ね、と、リーネとレーニが顔を合わせ、笑いながら言った。
「悪い夢、か。そうだな」
 恵が言った。
「あいつの悪夢、この病もこれで終わりだ。これからも幸せで」
 恵が、呟くように言った。言葉を届けるべき相手は、今はまだ夢の中にいる。
 だが、今見ている夢は、きっと悪夢ではないだろう。
 そして、患者が目を覚ました時、その夢は現実となって、彼の前に現れるだろう。
 ささやかながら、大切な幸せ。
 目に見えない、絆と言うつながり。
 一度は切れかかったかもしれないそれを、ケルベロス達は見事につなぎ直したのだった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月7日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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