和の誂

作者:志羽

●和の誂
 とある都市の、とある街。
 そこは古き良き日本というような街並みを今も守り続けており、観光地としても名高い場所だった。
 そんな街にデウスエクスの襲撃があった。
 幸いなことに建物などは無事だったが、東西をつなぐ道路が途切れてしまったのだ。
 それは人々の流通の要であり、また観光にきた人達にとっては使わなければならない道。
 その道が途絶えてしまったが為に、人々は困っているのだ。これから春となれば、桜も見ごろとなる。そんな観光シーズンに人々が呼べないのなら、それは街としては大きな損失になる。
 そんなわけで――その街の人々はケルベロス達に道路の修復依頼を出すのだった。

●ケルベロスさんにお願い
 道路の修復をちょっと頼まれてくれないかな、と。
 夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)はケルベロス達へと切り出した。
 それはとある都市の、とある町を東西につなぐ道路。主要な道路でこれからのシーズン、使えないと街としての実入りがという事で依頼があったのだ。
「道路は一斉にヒールすればすぐ終わると思うよ」
「うんうん、それで?」
「それで?」
「だからこう、美味しいスイーツがあるとか、そういう! 与太話! 美味しい話!」
 と、横から口を出してきたのはザザ・コドラ(鴇色・en0050)だ。
 それを聞いてイチは、あるにはあるけどと笑う。けれど、思っているような美味しさではないと紡いだ。
「本当にご厚意に感謝なんだけど、この街にもう店仕舞いをする呉服屋さんがあるんだ。店仕舞いセールをこれからするんだけど、その前によければお好きな反物を選んでくださいってお話を貰ってるんだ」
 デウスエクスの襲撃で店が壊れた――などではなく。高齢と跡継ぎがいないということで、その呉服屋は前々から店仕舞いとセールを決めていたそうなのだ。
 そんな折に襲撃があり。街のために動いてくれるケルベロス達へよければお礼に、ということなのだ。
「着物を……いただけると?」
「お仕立て代は持ってくれるって。反物代は自腹で。最大7割引き、ローンも可」
 簡単に言うと、沢山ある反物の中から、好きな物を探し、そして試着し。
 気に入れば買えるということだ。
「わたしいくわ……」
「そう言うと思ってた」
 着物とか好きな人は気になればヒールを手伝いがてら、行ってみてはとイチは言う。
 柄などはこういうの、というイメージを伝えれば店の人が良さそうなのをいくつか見繕ってくれる。
 俺もいくから相談にはのれると思うよとイチは続けた。
「私、振袖欲しい!」
「ああ。いいんじゃないかなぁ」
 と、なかなか無い機会にちょっと、興奮しつつ。
 ヒールの後は、和装の世界へご案内。


■リプレイ

●華
 ヒールを終えてその店へ赴けば主は待っていましたと迎える、そんなお店。
 自分より年配の店主は様々な縁を見てきただろう。
 その姿勢から学ぶことも多い筈と眠堂と話は弾む。
 そして店主が他の者に呼ばれたなら店内を歩き、迷うザザに声かける。
 自分のものより、誰かに見繕うのが好きなのだ。
「俺にも見立てさせてくれねえ?」
 振袖だったなと確かめつつ、眠堂が指すは淡い白と黄の地に古典柄が舞う反物。
「見目も振舞いも明るいザザに似合うと思って」
「素敵! 自分で選ばない色だわ」
 選んでもらったからこその、嬉しそうな顔。

 夏用の反物をと頼むと生地も色々とある。
 無地の様で縞模様。こちらはどうかなとメイザースは広げ。
「おや、イチ君いいところに」
 ひとつ見立ててくれないだろうかといえばもちろんと。
「とはいえ年も年だからね、あまり派手な柄物は少し厳しいかな」
 苦笑しつつ零せば、それならと藍鼠色にそれより濃色での流水模様。
 今年はこれで花火でも。
 なら着付は俺がと選んだイチが紡げば楽しみが増えたねと瞳は柔らかく。

「これはどうでしょう?」
 澪が纏の為に見つけたのは、可愛らしく花喰鳥が舞う山吹色。
「綺麗な色ですし、この鳥が纏さんのところに幸せを呼び込んでくれそうで。帯は……そうですね、空の色にしましょうか」
 鳥が自由に舞えるように。そんな茶目っ気を込めて小鳥の帯留めを合わせれば、お返しの着物選びは気合が入ると言うもの。
 反物を広げて澪の肩に乗せてみるものの。
「もうちょっと遊び心が欲しいわ」
 そして行き着いたのはレトロモダンな小紋柄の葡萄色。
「帯揚げは黄色なんかを合わせて。まぁるいハットに、赤いリップでアンニュイなスタイル――絶対、似合うわ」
 と、熱く提案していた纏ははっと気づいて重かったわねと反物を外す。
 澪はこんなにお洒落な合わせ方は初めて、出来上がって一緒に着る日を思うと心弾むと笑み。
 歩き疲れたら甘いものを食べてと、その日は楽しみなもの。その時は反物に散りばめた白い羽根と蝶の様に足取りは軽いに違いない。

 織櫻は紫紺、帝王紫、菖蒲色の生地を求める。他にも艶のある金糸と銀糸。
 その様に織櫻用にと反物を買おうとしていたベリザリオは着るのかと問う。
「派手好みな相方がいるので、それ用です」
 好きにやっているあたりがらしいと漆黒に花紫で桜をと頼む。
 それは好きなものを好きな色で楽しむ為に。

 四つ身で誂る振袖。この反物可愛いーと身体にあててみるホリィに光流は。
「このサイズやと、ばーんと胸元開いた振袖にならへん?」
「え? 胸元ばーんて……僕のじゃないよ」
 ごにょごにょと口ごもる様に焦りつつ顔真っ赤にして、小さな女の子への贈物とホリィは紡ぐ。
「ああ、団長先輩のかいな」
「うん、雛祭りのポスターを見て目をキラキラさせてたから」
 俺も出資するでと言って、光流は色のイメージやと水色と零す。
「水色地にピンクの桜とか良えなあ」
「あっ、見て見て、花柄のドーナツの模様がある」
「先輩、それは鼓の模様や」
「ツヅミ? ツツジの仲間?」
「せやなあ。先輩がそう言うんならこれは花ドーナツや」
 首傾げつつ、ホリィは色も綺麗だし豪華とそれを手にする。
「俺も夏用に反物買うとこ。絽の良い色のがあると良えな。先輩は何も買わへんの?」
「自分のは……僕、振袖似合うかな」
「そんなん滅茶苦茶似合うに決まってるやん。俺が保証したる」
 力強い保証が嬉しくて、ありがとうーとホリィは笑む。

 今日はちょっぴり冒険の日。
 朝希が求めるのは鮮やかに、華やかに、纏えば心持ちさえ転ず――傾奇者。
 そして出会ったのは朱墨めいた波紋打つ利休白茶地にたゆたう菊花がモダンな風情の反物。
「見つけました」
 この子がきっと今日の運命と朝希は笑んで。
「イチさん、イチさん。これをね、コート代わりの長羽織にしてヘリオンからばさっと飛び出したら……すごく格好よくないでしょうか!」
 そんな思い浮かべる未来図に、俺は後ろ姿しか見れないなと至極真面目な答。

「見てみて、季由! この柄も可愛い! 貴方によく似合いそうです!」
 季由には紫? それても茶色? と合わせてみるのが楽しいとロゼの表情は物語る。
「みて! これ猫ちゃんと彼岸花の柄です!」
「俺は猫と彼岸花か! 嬉しいな」
 可愛い中にも凛としたかっこよさがとっても貴方らしいのとロゼは紡ぐ。
 そういえば、純和服は初めてかもという季由。
 書生姿は良くみるけれどとロゼもつられて笑顔に。
 お互いに選びあうなんて、と季由は笑みこの一週間のリサーチの結果を発揮する。
 どんな柄がロゼに相応しいか――そして季由がロゼに選んだのは椿や鞠柄、大正ロマンあふれるレトロな反物。
「大輪の華咲く反物にも惹かれたが、君という薔薇が一番の華だから」
「ポップでキュートね!」
 ありがとうと紡ぎロゼは一つ提案する。
「着物が完成したら、これを着て一緒に演奏しましょっ!」
「ロゼの歌を最高に彩ってみせよう」
 今度は和服コラボと笑うロゼに季由は瞳細める。猫は何時でも可憐な花を見守っているんだと。

「イチ、イチ。ご相談に乗って頂いても、よろしーです?」
 サヤは雨の日に着るなら、と。
「えとえと、雨の苦手なひとが、おりまして。梅雨の時分に、こころを晴らすようなものがよいのです」
 着るのはサヤだけれど。
 でも見せる景色が違えば、きもちも違うかなと。
 それならと広がるのは紫陽花の反物。
「作家さんの染物。帯は……雨上りの楽しみはどうかな」
 それは、虹を描く帯だ。
「ふふー、今日はたくさん道楽いたします!」
 他にも小物、差し色も考えたくなるというもの。

 華やかな反物に目を奪われるミュゲの様子にちょっと難しいかなとつかさは笑う。
 誂るのは、夏物を。
 それならミュゲも浴衣を仕立ててもらうかとレイヴンは提案する。
 帯がひらひらして可愛いぞとつかさが言えば嬉しそうに。
「麻も気になったけど、手入れの事なんかも思うと阿波しじらとか良さそうかな?」
 うーんとつかさとレイヴンは悩みつつ。
 つかさが選んだのは黒を主体とした阿波しじら。レイヴンは淡い色目のものを。
 それを選んだレイヴンに良い感じじゃないか? とつかさは紡ぐ。
「淡い色目だとあんたの男前っぷりが際立つし」
 どうだろうかと問う視線に笑って返せば。
「つかさも、こう……しゅっとした感じで格好良いな」
 二人の間でミュゲは格好良いと嬉しそうに笑う。

 広げた反物は明るい物。
「ああ、良い色」
「ふふ、おじさんには少々派手かも知れませんが」
 そんな事は無いとイチは言う。
 店主の選んでくれた反物をいくつか。
 ふと、目に留った色無地の縮緬地広げれば――淡い灰色。
「薄雲鼠……」
 雲――と、ふと過ったのは共の顔だ。
 慌てて緩む頬を手で押さえるとイチがふと笑い零す。
「……もしかして変な顔していました?」
「ううん、これに決めたって顔かな」
 その声に笑って、つい一目惚れしちゃいましてと景臣は零す。
 我が家へ迎え入れる頃には華やかな季節。
 この子に色々な花を見せたいですと、微笑んで。

 振袖はあるので訪問着を。
 桔梗は出来れば用途を広く、派手過ぎないものをと探す。
 そして出会ったのは淡紫の地色にぼかし藤と桜が少々散りばめられた上品な生地だ。
「優しい色合いで、綺麗……春にぴったり、ね」
 艶めいて、柔らかい。試しにあて、桔梗はイチにどうかしらと尋ねる。
「落ち着いた柄だけれど、私には、まだ早い?」
「帯を華やかにするとその辺はカバーできるし、似合うよ」
 それなら帯もいくつか出して貰って合わせましょうかと桔梗は笑む。

 ネロだけの気に入った一揃いが欲しかったんだと紡ぎ、どれが似合う? とネロは問う。
 すると、おれの審美眼を当てにするなよと言う社におや、何故と視線向ければ。
「なんでって、お前は綺麗だから、何を着てもよく見えちまう」
 本当のことしか言ってないんだぜと。
 その返しは嬉しいから狡いとネロは唇尖らしながら反物を広げる。
「好みを言うなら、差し色にお前の瞳の色が欲しい」
 黎明の来る前の空の色、お前の色をとその瞳見詰め。
「薄藤、淡藤、白練、色味に迷うな――愛らしいピンクの聴色、……は似合わんか」
「――ピンクの着物も悪くないかもしれないぜ?」
 試しに着てみろと広げる反物は思っていたよりも華やかな柄。
 これも良いがそちらもと視線を躍らせるネロ。
「色んなお前を見せてくれよ、ネロ」
 可愛らしいお前も、綺麗なお前もと紡ぐ。
「何、気に入ったら二着とも買えばいい。二着目はおれが奢ってやるさ」
「……本当に? どちらも同じくらい褒めてくれなくては駄目だからな」
 お望み通り褒め言葉で射抜いてみせようともと笑う社。
 社の見立てた着物を着るのは楽しみと紡ぎ、社はと問えば。
「おれ? 実はもう目星付けてあるんだよ」
 後で見せてやる、楽しみになと笑う姿に想いのみ込む。
 どうやら心の準備はさせてくれないようだ。

 折角なので特別な時にも着れるような物を。
「あまり柄がいっぱい付いていたり、派手な色合いは苦手なんだ」
 アンセルムは落ち着いた色にしたいと、黒の反物集う前で悩む。
「柄は……どれがいいんだろう。いっそ無地もアリだけど……夜浪はどう思う?」
「無地より、地に柄が入ってるのとかどうかな」
 よくよくみると柄物であると判るような粋な反物。
「よし、じゃあ……この反物でお願いするよ。それでお値段は――えっ」
 良い反物、納得のお値段。ローンを組んでお買い上げ。

 家にある着物はどんな子たちだったかを思い出しながらうろうろとしていた蜂は花の帯留めを見詰めながら気が付いた。
 自分はとても優柔不断な蜜蜂だった事を。
 好きな色、纏いなれた色も、あまり纏う事が無い色も気になって悩んだ末に。
「あの、イチさん。どういうのが似合いそう?」
 そんな大雑把な質問にイチはそれなら、と一つ。
 藍の地に銀のみで描かれたは大輪の花。
 なかなか、着る人を選ぶものだけれどと。
 あまり自分を知らない人が選ぶそれに蜂は瞬きをひとつ。

 何時までも居れる気がするよな、と独り言ち、転がした織をヒコは撫でる。
 あれこれと広げ重ねては唸るばかり。
 無地は、縞は、こっちの小紋もと目移りばかり。
「――……キリがないな、コレ」
 そこでイチを手招いて相談を。
「お前は俺よかセンスいいだろう。コレ、どう思う?」
 普段は頓着しない衣、着るも飾るも己好みの品ばかり。
 相談するのも、また楽しいと思うのだ。
「出来たら見せてやるよ」
 それは楽しみと言うイチにふと、次も頼むと笑えば、いつでも何でもと笑い返す。

 呉服屋は楽しかった記憶のある場所。
「イチ様、お勧めの柄あったら……見てみたい……ですっ!」
「何色系が良い?」
 イチの問いに、希月は少し考えて。
「僕は赤系の反物……つい手に取っちゃいます……赤、好きだなって」
「そっか。じゃあ……」
 と、イチが選んだのは赤から桃へと変わる地に花々が描かれた物。
「あー、それも可愛い! 悩む…」
「ザザ様もお悩み……です、か? ふふ、素敵な着物にしたい……です、ね!」
「うん、折角の着物だもの!」
 そして希月は折角だからお勧めの反物でと選ぶ。
 思い切った買い物だけれど、手元に来るのを楽しみに。

 縁のない物と思ってはいたけれど一作り手としては、興味がある。
「織り、染め……」
 展示された着物を見て回り、奏多は何時しか思い浮かんだ顔にふと足を止めた。
 その傍らにある棚で伸ばした手が見つけたのは白鼠色。
 花唐草地紋の入った色無地は、思い浮かんだ顔に似合うだろうか。
 店主に問うた値段は思っていたより安くて瞬きは驚きを含む。
「……では、これを」
 ふと、いつか聞いた着る物を贈る意味を思い出す。それから、一番着て欲しい物の話。
 成る程、春もすぐそこかと、奏多はその口端に微かに笑み零した。

「んむむむ。見れば見るほど悩みます」
 店主に探して貰おうかなと紡ぎ、ジエロはどうしますかとクィルは問う。
「私は色だけ決めて柄はお任せしようかな」
「ひと月くらいで出来上がるなら、桜のお花見に着ていけるかも」
「そうか、お花見」
 どんな物と伝えるクィル。その後にそっと店主にクィルと揃いで着ても合うようにとこっそり付け加えると、瞬き一つ。
 その瞬きの意味を二人揃って知る事になるのは同じ事を考えていたからだ。
 ジエロのもとには深緑色の地に鈍い銀で模様描かれた反物がいくつか。それから、深緑から萌木色へと地の色が変わる物も。
 けれど草花柄が銀朱で細かく描かれたものが目に付いた。日頃クィルが纏わないような色だが落ち着いた色合い。
 自分よりもクィルの姿を思い描いて、口元の笑みは柔らかく。
 そしてクィルも、着物姿のジエロを想像して、緩む頬を手で押さえ笑い零す。
「出来たら一緒に、お花見に行こうね」
 ジエロは君とならんで着られる日が楽しみだと笑い返す。

 神父が説法で着ても違和感のない色柄にしようとレターレは反物をいくつか広げ選び終わって。
「やあ、レディ。随分と悩んでいるのならお手伝いをさせてくれないかい?」
 ザザの手元には反物がいくつか。
「キミがどんな品に心惹かれたのか、ゼヒ教えて欲しいな」
 それはね、とザザは笑う。
 ピンクも、すすめてもらった黄色も。ちょっと冒険して黒地も惹かれると。
 そう語る楽しそうな顔にレターレも笑んで思うのだ。最後に決めたと笑う姿を見れたらと。

「きれいな空色の髪だからな、緑色が映えるだろう」
 イルヴァの探し物は晴れ着。
 それを聞いてルチルがあげた色に戒李は頷く。
「緑はボクもいいと思うよ。君の好きな色だろうしね」
「模様はお花なんてどうだ?」
 花柄なら牡丹はどうかなと大きく描かれたものを戒李は広げる。
 華やかで、幸福を意味する縁起のいいものと。
「とっても華やかで素敵です」
 イルヴァは笑い零す。その色を選んでくれたのは、自分の髪に似合うようにというのがわかるからだ。
 それがとっても嬉しい。
 それだけでなく――この色はイルヴァの大切なひとの瞳の色。
 それは、二人には秘密と笑い零す。
「わたしは……どうするか、どんなのが似合うと思う?」
「ルチルはそうだなあ」
 これはと戒李が広げたのは赤。梅の花と兎柄の可愛いものだ。
 ルチルはせっかくのおすすめだ、その反物を手に取って、わたしはうさぎになろうと頷く。
「カイリはどんなの着るんだ? ……ハイカラだったか?」
「ハイカラ……ああ、袴だね」
 家に臙脂の袴があるのでそれに合わせてと考えた戒李は二人を見て。
「んー……二人なら、ボクにどんな着物を選んでくれる?」
「袴が臙脂色、でしたら黒とか、紺色とかも似合いそうです」
 柄は明るめにしてみてもすてきかも、とイルヴァはいくつか手に取ってみる。
「矢の羽根みたいな柄のやつとか似合うと思うのだ」
 反物は色々あって、宝探しの様。
 お目当てを探しながら、完成したらみんなでお出かけをと約束して。

 若葉の地色に、縞小紋。
「いつも君は黒ばかりだから、新緑のような爽やかな色」
 紫の瞳と合わせれば、藤の様に綺麗かなって、と宿利が紡げば累音は瞳細め。
「ほう、俺には若葉色か……こうした暖かみのある色に殆ど袖を通したことはないので新鮮だな」
 どうだろうと累音がそれをあててみると、志苑は笑み。
「若草色も明るい色も似合っていますね」
 累音の見立ても興味深いと言うのは夜。
「だって君、黒しか着ないのだもの」
 揶揄う口振り。けれど眼前に広がる反物の海は花めいて美しく目が離せない。
 では、と次に反物を手にしたのは夜だ。
「君と見たミモザの花色、覚えている?」
「勿論よ、想い出のお花だもの。早く纏ってお出掛けしたくなるわ」
 その反物に宿利は目を細め、ありがとうと微笑する。
 夜が宿利へと選んだのは、地色は春を寿ぐ淡黄の、礼節の美を謳う行儀文様。
 青紫系をよく身に着けている印象だからこそ、敢えてと選んだ江戸小紋。
 空色の瞳とも合い春らしいですと志苑は笑む。
「志苑も蒼の印象が強いが……」
 と、累音は桜花びらの江戸小紋は淡い桜色の着物だ。
「春めいた色も似合うのではないかと思ってな。気に入って貰えるといいんだが、如何だろうか」
「とても綺麗、桜好きなんです」
 その淡い色を撫で春が待ち遠しいですねと志苑は紡ぐ。
「桜も似合うわね、優しい雰囲気」
 宿利の言葉に志苑もええと頷いて笑い零し、藍染さんにはと反物を広げる。
「こちらなど如何でしょう」
 大小霰柄の江戸小紋。
「男性の着物は無地ですが小紋ですと遊び心もありお洒落ですね」 地色は空色鼠、昼と夜の境の明るい空色のようで、濃紺の羽織と共にするのも良いかとと志苑は紡ぐ。
「斯様に落ち着いた大人の男に見えるの」
 静々たる雪景色にも思えると、夜は瞳細め笑みは柔らかい。
「夜は……そうだな、落ち着きのある男だ」
 そう言って茶化しつつ、志苑のチョイスは洒落ているし流石だなと累音は紡ぐ。
「夜くんの霰模様、とてもお洒落ね」
 落ち着いた雰囲気も和らいでる気がする、と宿利も笑って冗談を。
「ありがとう。志苑は着慣れているだけあって選び取る物も洒落ているな」
 どの着物もそれぞれの為に選んだもの。
 今日、誂えた着物を纏って、どこかへ遊びに行くその日が待ち遠しく。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月14日
難度:易しい
参加:33人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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