●心を壊す病
淡いパステル調のインテリアで統一された病室は、神経質過ぎるほどに清潔にみえた。
黄色を帯びた光が室内を穏やかに照らされている。
ベッドの上で白い布団に包まったまま、ピンク髪の少女はガタガタと震えている。
「…………」
「いちかさん、お願いだから何かたべて。このままじゃあ死んじゃうよ……」
「ほら、いちがが大好きだったイルカのプリンですよ。とっても可愛らしいでしょう」
(「またこの音、頭が割れるようですわ、なにそのグロテスクな青いプリン、気持ち悪い。きっと毒が入っている、私を殺そうとしているに違いありませんわ……」)
今のいちかには、励ましや思いやりの言葉は全て鋏を擦るような異音にしか聞こえず、目にするものは歪んで悪意にしか映らない。
「そろそろ時間です。控え室の方に」
ワゴンを引いてきた、看護師がゆっくりとした語調で告げる。
「こんなのもう見たくない。私たちには何も出来なかった。だけどあなた方なら、出来るのですよね! だから絶対に直してあげて下さい!」
●ヘリポートにて
「バレンタインデーも終わって、寒さも和らいできたような気がするね。色々お願いして済まないのだけど、病魔を駆逐する作戦に、手を貸してくれる人はいるかな?」
ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は、あなた方ケルベロスに声を掛けた。
「実は、医師、ならびにウィッチドクターの努力の結果、『回帰性懐疑症候群』の病魔根絶の準備が整ったんだ。ちょうど今、発病した人たちを、とある医療施設に集めて、治療に取りかかろうとしている」
集められた罹患者は全て、誰のことも信じられなくなり、「自分の周りにいるのは敵ばかりである」という不条理な妄想に囚われた重病者ばかりだ。
対象の患者は、本来、社交的で多くの人に愛される人気者のタイプである。
今回、あなた方が担当する重症患者も、仲間を集めてスイーツ研究会を立ち上げてしまうほど活発で社交的な中学二年生。
しかし、今や呼びかけの言葉が酷い鋏の音の幻聴にしか聞こえず、どんな衷心からの言葉も彼女に苦しみしか与えない。
「重病患者に取り憑いた病魔を、一体残らず撃破することができれば、この病気は根絶される。もう新たな患者は出ないはずだ」
但し、敗北、つまり根絶に失敗すれば、新たな発病を食い止めることは出来ない。
「普段のデウスエクスの討伐依頼に比べれば、この依頼の緊急性は低い。病院が機能するための社会システムが破壊されかねない危機と病院での治療行為を天秤に掛ければ、社会の防衛が優先されるのは当然だよね。ただ僕はこの病魔を見過ごせ無かった。だからこの病魔を滅ぼしたい人に引き受けて欲しい」
状況を告げると、対応する病魔について話に移る。
「患者に巣くう病魔は白いシーツにくるまった人のような見た目をしていて、周囲には可視化された悪意のシンボルらしきものが浮遊している」
この病魔との戦いのポイントは『個別耐性』の獲得ある。
それは患者の看病をしたり、元気づけるなどして、患者に寄り添うことで、一時的に獲得できるもの。
「そう言う病気だから仕方無いけど、患者は君らの言葉を悪意としか捉えないし、苦痛しか感じない。当然、癒しにはならず、励まされることも無いが、彼女の置かれた状況を理解しようとする行動は、一時的にだが、君らに『個別耐性』をもたらす」
患者を苦しめてしまうことは遺憾だが、病魔の根絶を確かにするためには仕方のないこと。治療に成功して良い結果になれば、真意は伝わるはずだ。
この病魔の攻撃手段は対象をノイズで遮断して孤立感を与えたり、仲間の善意を悪意と思い込ませたりする、精神攻撃が中心である。仲間との繋がりが希薄な者ほど影響を受けやすい。
こうして必要な情報を告げたケンジは手帳を閉じて、あなた方の顔を見つめる。
「頑張れ無い人に頑張れと言っても苦しめる結果にしかならない。病人に必要なのは治療だ。何を言っても通じない、何を見せても悪意にしか取られないと分かっているなら、共に同じ方を向いて見て、その気持ちを理解するだけで良い、救いにはならなくても、苦しみは与えない。耐性も獲得できる。——その上でやれることを全力でやって下さい。あなた方にはその為の力があるのだから」
どうかよろしくお願いします。そう言って、ケンジは丁寧に頭を下げた。
参加者 | |
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据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357) |
霧島・絶奈(暗き獣・e04612) |
アウラ・シーノ(忘却の巫術士・e05207) |
ルロイ・オッペンリバー(歪に煌めく極彩タングラム・e19891) |
エクレール・トーテンタンツ(煌剣の雷電皇帝アステリオス・e24538) |
潮・煉児(暗闇と地獄の使者・e44282) |
ルクシアス・メールフェイツ(この世の全てに癒やしを・e49831) |
深谷・虹(一つ星・e49886) |
●届かない言葉
恐怖や疑いといった、ネガティブな情動反応は、危険を遠ざけるものとして、人間以外の生命にも広く見られる原始的な反応である。ただし人間は社会的な関係性が生存を左右する為に、恐怖や疑いだけでは生存を強化できない。
「なぜ人々は、一華さんに悪意を向けたがるのでしょう?」
アウラ・シーノ(忘却の巫術士・e05207)は患者との関係性を得ようと考えて、謎をかけてみた。
しかし、いちかは何の反応も返そうとしない。聞こえているかも聞こえて無いかも判然としない。
それでも続ける。
「人は競争する生き物ですから、疑いや恐怖は当たり前です。負けたくないから強くなろうとしますよね。でも、1人でするよりも、2人で、2人よりも10人でやる方が、ずっと大きなことができるとすぐにわかりますよね。1人だけで頑張るよりも10人の友だちと一緒に頑張ったほうが良いと思いませんか?」
アウラは人の世の理を分かり易く語り、今までにあなたを訪ねて来た人は皆、あなたが必要だからあなたを助けたいと思い、同時にあなたにとっても必要な人である筈だと告げた。
いちかは布団に包まったままだが、状態は安定しているようだ。
で、あれば思ったことを言うだけだと、潮・煉児(暗闇と地獄の使者・e44282)は口を開く。
「俺は君が今どんな気持ちでいるかなんて分らん。ただ、信ずるべき家族も信じられないのは、俺にも覚えがあるし、一人で己を追い詰めて苦しい事も、想像くらいはできる」
煉児はいちかの気持ちを楽にしてあげたい。その真心から、懸命に自分の思いと体験を語った。
しかし、いちかは沈黙しか返さない。
カウンセリングの技法に受容と共感ということがある。まずは相手の状況を受け入れることが受容。それから共感によって信頼を結ぶ。患者が充分に話を聞いて貰った実感のない状態で、共感を目指しても上手く行かない。
そうしたことを端折って、アドバイスをしても、受け手の心には響かない。
そう、正しい手段を知っていたとしても、この依頼の中で掛けられる時間は少なすぎるのだ。
(「信じられないということは、悲しい事です。それが病魔の所為だというなら、許せないことです」)
——だからどうか、心や夢まで奪われないで下さい。
深谷・虹(一つ星・e49886)は、いちかに触れようとしたが、断念する。布団に包まった姿は接触を頑なに拒んでいるように見える。接触テレパスは声を出さないだけで、言葉を伝えるという機能は音声と同じ、しかも身体に直接触れれば暴れ出すリスクもある。
(「どうしましょう。見て貰えなければ、身振り手振りでも伝えられませんし」)
そこで繰り出したのは、ASMR(※Autonomous Sensory Meridian Response(自律感覚の絶頂反応)視覚や聴覚等への刺激により、心地よさや快感が引き起こされること)動画であった。
その内容は、事前に知りえたいちかのプロフィールを鑑みて菓子作りの音をモチーフとしたもの。映像は見られなくとも音だけでも耳に届けば、発病する前の、幸せな記憶を思い起こす手助けにはなるはず。
それは読み通りに、いちかに興味を抱かせたようで、布団の隙間からピンクの髪とカエルのように丸々とした目が覗き見えた。
虹はこれで充分とした。少しでも心が安らかなになったなら、病魔の弱体化に繋がるはずだから。
「うふふ、これなら上手くゆきそうですね。では今から私も演奏しますね。退屈凌ぎにでも思ってください」
ルクシアス・メールフェイツ(この世の全てに癒やしを・e49831)は、その効果に目を見張った。そしてさらなる効果を得る好機を逃すまいと、ベッドの脇に近寄り、用意していたた音楽データを奏で始める。
データは古今東西、クラシックやロック系、またオルゴールなども含めた様々な音楽、本人によるとあらゆるジャンルを網羅した中からの、30厳選。
「ヒギイイッ!!!」
だが、直ぐにいちかは布団を深く被ってガタガタと震え始める。
暴れだした時のためにいちかの着けられていた行動を制限するベルトが軋みを上げて、獣の如き叫びが響き渡る。
嫌がる可能性はルクシアスも想定していた。だから良い効果の曲にたどり着こうと次々に曲を変える。だが曲を変えるごとに、苦痛の度合いは増して行くように見えた。
「もうやめておきませんか、いちかさんを苦しめるのは本意ではないのでしょう?」
このまま身体が持たないと感じた、据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)が静かな声で告げる。ここに来たのは病魔を倒す為であり、本病の苦痛を緩和する手立てを見つける為でも、治療に有効なエビデンスを探す為でも無いから。患者に寄り添う気持ちがあるなら、引く決断も必要だ。
患者本人への心配だけでなく、アプローチする側は『そういう病気』だと言うことを理解する必要がある。
病室に静寂が戻る。それだけのことで、いちかは大人しくなった。そしてあなた方に向かって、口を開いた。
「……もう意地悪しないで、痛いも苦しいのも嫌、殺すならひと思いに殺してよ」
(「世界の全てが敵だというのはその齢には耐え難い苦痛でしょう」)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)はラブフェロモンの気配と共に小さく呟くのみ。何かの反応を引き出す為に働きかけるなら、それはもはやモルモットと同じ扱い。だから、絶奈は何もせずにやるべきことのみを告げる。
「……私達は貴女の夢をそんな風に歪める悪意を滅ぼしに来ました」
「殺せェェ!!」
行動を制限するベルトを引き千切らんばかりに力を籠め、いちかは叫ぶ。
「苦しいのは一華さんの方ですからな」
これ以上苦しめたくはないと、赤煙は本意を告げるが、その言葉の意味は正確には届いていない。
どうにもならないという絶望が心に忍び寄ってくる。
そんなタイミングで、場違いな程に明るい声が響き渡った。
「ふははははは、余は紫電にして雷光! 即ち至高! 雷電皇帝アステリオスである! 貴様の病魔など必ずや駆逐して治療してやろうではないか!」
空気を読んでなさそうな、エクレール・トーテンタンツ(煌剣の雷電皇帝アステリオス・e24538)の声に場の空気が凍りついた。が、凍り付いた者の中には、いちかも含まれていた。
潮目の変化に気づいた、エクレールは続ける。
「余にかかれば、病魔など、指先ひとつでノックアウトである! ほあたっっ!!」
その姿は本人には不本意かも知れないが、年齢不相応に、子どもっぽくて、無邪気で愉快に見えた。
「……ぷっ」
一瞬、噴き出しそうなるいちか。しかし体力を使い果たしてしまっていたのか、そのまま瞼を閉じて意識を失う。
「ボクもね、昔病魔に侵されていたんだ。ボクのは勝手に治ったけれど、君には治してあげようとこんなに仲間が集まったんだよ。だから心配しないでほしいかな」
少し離れた位置から言って、ルロイ・オッペンリバー(歪に煌めく極彩タングラム・e19891)は親指を立てて、サムズアップ。
もう言葉は届いていないかも知れない。だけど仮面を着けたルロイの醸し出す不思議な雰囲気とジャスチャーも、どこか楽しげな感じがする。
人間の中で、『笑い』は関係性が敵ではないことを示す上で、重要な役割を果たしたと言われる。
刹那とは言え、彼女に救いをもたらしたのは、『笑い』だったのかも知れない。
果たして、最良のタイミングを逃さずに、病魔の分離が行われて、病魔はあなた方ケルベロスの前に姿を現す。
●戦い
いちかが控えていた看護師らにベッドごと室外に運び出されると同時、広い病室内に青く輝く魔方陣が多重展開された。
「……今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝。かつて何処かの世界で在り得た可能性。『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ」
絶奈の詠唱と共に魔方陣から吐き出される、輝く物体は怒れる巨槍となって、病魔に突き刺さった。
「きゅっ」と息を絞り出すような悲鳴が病魔から零れた。
「あなたのような病魔は、今此処で永遠に根絶します」
こんな病気が蔓延すれば人類社会は遠からず破壊され、この星と人は容易にデウスエクスに蹂躙されてしまう。強い危機感を孕んだ一撃は病魔を二度鳴動させた。
テレビウムの手にした凶器が振り下ろされる横に、赤煙の振り下ろしたエクスカリバールが突き刺さって、身体を覆う布地のような白を盛大に引き裂く。
しかし一拍の後には病魔の周囲に浮遊するシンボルが回転を始める。間も無くそれらがシーツにくるまれたような身体に吸い込まれると、傷だらけの身体は全く間に修復されてしまう。
「人は善意には善意で、悪意には悪意で返すもの……ならば無限の悪意を生む病魔には、私は無限のグラビティを返しましょう!」
己の信念を確かめるように言い放ち、アウラは『フロスト・ランスナイト』氷属性の騎士のエネルギー体を召喚する。突然に現れたそれは、身を守ろうとする病魔にとって唐突なものだった。
「禍は全て凍り付きなさい!」
騎士のエネルギー体は飛び征き、正面から打ち込まれた一撃は病魔を氷の結晶に閉じ込める。
「まだ戦いは始まったばかり、油断は禁物である!」
嗚呼そうに決まっている。と、ひとりで納得しながら、エクレールは祭壇を展開して、霊力を帯びた紙兵を大量に散布する。海中を泳ぐ鰯の群れの如くに広がる紙兵が癒やしと加護の力を広げ、続けてルロイが使い込まれ、傷の目立つライトニングロッドを振りかざす。
「なめるなよ病魔が、仲間は傷つけさせない!」
淡い光を帯びた雷の壁が、浮遊して前列に加護を与える様は雀牌の河の如く。ルロイの加護を受けながら、煉児は跳び上がり、病魔との間合いを詰めるべく急降下する。その眼前で病魔を包んでいた氷が微塵に砕け散った。
「貴様のような悪意……俺の怒りはそれを喰らい滅ぼす為にある」
決意を込めて言い放ち、煉児が流星の輝きを帯びた足で強かに蹴り据えれば、病魔は床面に叩きつけられて無数のコンクリート片をまき散らす。
一方、霊体を実体化したエクトプラズムで作り出した疑似肉体を従えて、ルクシアスは敵の害悪を阻まんと備える。
隙の無い攻勢に病魔は自分自身の傷を癒し、守りを固めることに精一杯で攻撃に転じられないまま消耗を重ねている。
「虹は怒っていますよ! 覚悟して下さいね!」
機を逃さずに、虹は炎弾を撃ち放ち、病魔を燃え上がらせる。
輝きを増す炎の中で病魔は全身から灰を散らしながらのたうち回る。
「飛龍のごとく……」
赤煙が何処が脚だかは分からない病魔の身体を脇に固め、そのままきりもみ回転と共に投げ飛ばす。
本人に曰く、紛うことなきプロレス技であるらしいが、盛大にぶっ飛んで壁に叩きつけられた病魔は破けた白の布地の間から、粘り気のある体液と気味の悪い黒色の肉片を飛び散らせた。
恐らくこの敵は攻撃してこないのでは無く、攻撃に転じる余裕が無いのだと、絶奈は確信して、ケルベロスチェインを伸ばす。精神に操られた鎖は難なく病魔に絡みついて、甲高い金属音を立てながら強かに締め上げ、テレビウムがそつなく追い打ちを掛けてダメージを積み重ねて行く。
アウラもまた絶対的な優勢に気づいた。もはや長くは持つまいと、トドメを狙って繰り出すのは、巫術を補う『地獄』をカードの形に凝縮する、ケルベロスとしての全てを賭した一撃。
「地獄よ。我、我が身を門として汝を引寄(ドロー)せん!」
声と共に、何も無いかに見えた手の内に力が集まり始め、カードの形をなす。それを素早く投げつければ、吸い込まれるようにして病魔に命中して、直後大爆発を起こす。
紅蓮の炎の中で塵を散らしながら燃えて行く病魔の影を目にして、戦いは終わるかに見えた。
「わはははは、ちょっと足りないようだな! 余が塵も残さず、消し飛ばしてやろう!!」
エクレールの声が轟いて、一行の間に、またあなたですか。と言う空気が流れた。
果たして、エクレールは雷光を槍に集めると、自身の光の翼を爆発させて、その勢いを加えた突撃と共に力を開放した。後に残されたのは、轟雷によって刻まれた破壊の跡だけで、原型も留めない程に破壊された病魔の残骸は、黒い煤を散らすようにして、ゆっくりと消えて行った。
●戦い終わって
「いちかサン——その髪?!」
「すまないねえ、あたしがこんな身体なばかりに、ご迷惑をお掛けしましたようで……」
病魔から解放されたいちかは、写真で見る姿とは比べものにならないほどやせ衰えていた。しかも先程まではピンクに見えた髪の毛も白になっていて、15歳の少女とは思えない老人のように見えた。
「こほン、もしかシテ、それネタデスカ?」
「はい、そのわざとらしい咳、時代劇の定番ですよね。……でも私たちは借金取りではありません」
ルロイとアウラの当然なツッコミにいちかは頭をコツンと叩くと。
「ごめんなさい。この度は本当にありがとうざいました」
今度は丁寧に言ってから、確りと頭を下げた。
「礼には及ばぬ、余は雷電皇帝アステリオスであるから。苦しむ者を救うのは当然のことである!」
エクレールの大げさな言い回しに、「またか」という空気と共に、大きな子どもを見るような暖かな気配が広がった。
「ところで……」
スケッチブックに書いた文字を胸の前で掲げる赤煙に気がついて、いちかが首を傾げる。
『お友だちから、絶対に治して欲しいと頼まれましてな。次にお見舞いに来た時には、安心させておあげなさい』
「赤煙さん、もう普通に話せますよ。ええ、そうでした。実はお友だちから『イルカのプリン』を預かっています」
絶奈の言葉に訪ねて来てくれた友だちに酷いことを言ってしまったことを思い出し、いちかの表情が翳る。
「なぁに、プリンを食べて感想を言うだけでいいのですよ」
今度は肉声で告げる赤煙にいちかは瞳を潤ませながら「うん」と頷く。
——ありがとうございます。本当に本当に美味しい、みんなのやさしい気持ちがいっぱい入っていて、キラキラしている。そんな様子にアウラは目を細めると、ベッドの脇の椅子に腰掛けて、いちかの目の高さで話しかける。
「今度、是非とも一華さんのお菓子、振る舞ってはいただけませんか? 是非とも私たちを一華さんの味方にしてしまって下さいませ!」
「な、なんですとー! ケルベロスさまが味方ですと。これは朗報なのです。精一杯作らせて下さい!!」
「そうだな、同じ方向を見てくれる味方は、居ると思えば居るものだ」
いちかが歓喜する様子を遠目に、煉児は、もう大丈夫だと確信して窓を開ける。
吹き込んでくる、早春の爽やかな風に空を見上げれば、雲ひとつ無い青空が広がっている。顔に当たる眩しい陽光がは再び繋がった人の絆を祝福しているように見えた。
作者:ほむらもやし |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年3月7日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
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