●
キリキリッ、キリキリッ――。
人の絶えた廃校舎の教室に、金属のこすれ合う小さな音が響いた。
音の主はダモクレス。コギトエルゴスムの結晶に足を生やした、小さな侵略者である。
「キリキリキリキリ……」
ダモクレスは体を欲していた。地球人を殺戮し、グラビティの収奪するための体を。
「キリキリキリ!」
粗大ゴミの山を走査する赤いレーザー光は、程なくして目当ての物を見つけ出した。
教室の片隅で埃を被った大型プリンター。あれなら新しい体にピッタリだ。
ダモクレスは、教室の片隅で埃を被ったプリンターに一跳びで取りつくと、たちまち巨大な怪物へと姿を変えていく。
『ピピッ……同期完了』
新たな体の感覚を確かめるように、デウスエクスはゆっくりと8本の脚を動かした。教室の半分をまるまる占領するその体躯は、黒光りする蜘蛛を連想させた。
『各部動作チェック……プリントモード、シーケンスエラー……』
胴体部に組み込んだプリンターが、機能の異常を告げている。どうやら本来の力を取り戻すには、グラビティが足りないらしい。ダモクレスはインプットされたプログラムに従い、すぐさま次の行動を開始した。
『グラビティ補給プロセス起動。これより地球人の殺害処理に移行する』
遠く、窓の向こうから聞こえてくる子供の笑い声に誘われるように、デウスエクスは壁を破って外へと歩き出していった。
●
「プリンター型のダモクレスが、学校の子供たちを襲撃しようとしてるみたいなんだ」
単刀直入に話を切り出すミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)の目は怒りに燃えていた。
正義感が強く、虐げられる者を見捨てておけないウェアライダーの少女。そんな彼女が、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)の予知した今回の事件をどう感じているかは想像に難くない。
「うっし、準備はOKっすかね? んじゃ、説明を始めるっす」
ヘリオンの準備を終えたダンテが、ヘリポートのケルベロス達に資料を配り始めた。
ダモクレスの出現が予知されたのは、周囲を山林に囲まれた田舎の中学校。解体が予定されている廃校舎に放棄されたプリンターを取り込んで、地球人の虐殺を始めるという。
「敵は大型プリンターに8本の足と腹部をくっつけた、蜘蛛型のロボットっす。体のサイズは小ぶりの軽トラくらいで、胴体に取り付けた改造プリンターを使って、ガトリングガンによく似た攻撃をしてくるっす」
攻撃手段はグラビティで強化したインクと紙を飛ばすもので、いずれも射程が長い。
弾丸のごときインクの滴を雨あられとばら撒いて、周囲を蜂の巣にするもの。これは単体と列にスイッチが可能で、それぞれ追撃とプレッシャーのエフェクトを持っている。
次に、切れ味鋭い紙を連射して、相手を切り裂くもの。紙には摩擦によって発火する処理が施されているため、火によるダメージに注意が必要だ。
「現場は無人の廃校舎の中庭っす。到着してすぐ、ダモクレスが壁を破って出てくるんで、そこを皆さんで迎撃してほしいっす」
少し離れた場所に位置する新校舎にいる生徒達への対応は、ダンテが全て行ってくれる。ダモクレスの進撃を阻止し、撃破することがケルベロスの仕事だ。
「平和を脅かすデウスエクスは許せないっす。皆さん、どうかヤツの撃破を頼むっす!」
ヘリポートのケルベロス達に一礼すると、ダンテはヘリオンの操縦席に乗り込んだ。
参加者 | |
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光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124) |
麻生・剣太郎(ストームバンガード・e02365) |
赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584) |
ミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000) |
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815) |
篠田・葛葉(狂走白狐・e14494) |
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597) |
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532) |
●嵐の前の……
廃校舎へと続く道は、緑に囲まれたのどかな山道だった。
楽しそうに歌う鳥。枝に芽吹く若葉。あちこちに春の息吹を感じる。こんな状況でなければ仲間達とのんびり山歩きでも楽しめるのにと、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は思った。
(「生徒達に手出しはさせない。絶対に守ってみせる」)
黒い尻尾をピンと立て、ダモクレス打倒の決意を掲げるミリム。そんな彼女とは対照的に、麻生・剣太郎(ストームバンガード・e02365)の表情には陰が滲んでいる。
「プリンター型のダモクレス……ですか。『彼』にしてみれば、存在を否定された気分なのかも知れませんね」
入口の錠前を解錠しながら、剣太郎は改造されたプリンターに想像を巡らせた。
必要なしと判断され、ただ処分される時を待つだけの古い機械。壊れたからか、ただ必要なくなったからか、廃棄の理由はわからない。だが――。
(「人々の豊かな暮らしを支えるために造られた道具が捨てられ、人間を襲う兵器として生まれ変わってしまう……悲しいことです」)
門を潜ってしばらく歩くと、中庭が見えてきた。雑草のない敷地は綺麗に手入れされ、校舎の窓辺で遊ぶ鳥のほかは、何の気配も感じられない。
「やっぱり、インクジェット式だったのかな。元になったプリンターって」
「えー、やだなー。絶対インクべたべたになるやつじゃん」
中庭で準備運動をする赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)と光宗・睦(上から読んでも下から読んでも・e02124)は、敵の武装に話の花を咲かせていた。
もっとも彼女たちにとって、汚れることは最初から想定済みだ。緋色は真っ白いTシャツ、睦は作業着に身を包み、インクまみれの戦いを歓迎している雰囲気すらある。
「俺は紙の方が嫌だな。指を切ると痛い」
「うむ、分かる。痛いよな」
横から会話に加わったのは、櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)だ。
誰もが一度は経験したであろう、あの痛み。アレで体中を切られる痛みを想像し思わず身震いする千梨に、ミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)が頷く。
「インク汚れに切れる紙、か。まったくダモクレスも面倒な物を選ぶものだ」
「わたしなんて髪も尻尾も真っ白ですし……汚れたら落とすの大変そう」
不安そうに俯く篠田・葛葉(狂走白狐・e14494)の肩を、睦が笑顔でポンと叩いた。
「大丈夫だよ葛葉ちゃん。みんなの分もタオル持ってきたから、必要なら貸してあげる!」
「あ、ありがとうございます……!」
葛葉は睦を見上げると、ほんのり赤い顔で礼を言った。
「汚れるのは嫌ですけど、子供達の命には代えられませんものね。頑張ります!」
葛葉は、白い狐のウェアライダーだった。
服も毛並みも肌も、何もかも白い。武装のガジェットも新雪のように真っ白だ。
いったいどんな戦い方をするんだろう――睦が興味津々に葛葉を見つめていると、ふいにミリムが唸り声をたてはじめた。
「グルルルル……」
ふと気づけば、鳥の鳴き声も止んでいる。古びた校舎の奥から不快な金属音が聞こえたかと思うと、木造の壁が派手に吹き飛んだ。
『キリキリキリ……キリキリキリキリ……』
中から現れたのは、黒い蜘蛛のダモクレスだ。
鉄杭を思わせる、黒光りする8本の脚。
頭部に並んだ、複眼めいた赤いターレットレンズ。
腹部のプリンターが背負っているのは、切り詰めた電柱のようなガトリング砲だ。
「来ましたか……此処で止めないといけませんよねっ」
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)の笑みに、ほんの一瞬、狂気の光が宿った。
自らの内に抱え込む破壊への衝動。全力でぶつけるには申し分ない敵だ。
『キリキリ……地球人と思しき存在を発見。グラビティ収奪モードに移行する』
奏過と仲間達に行く手を塞がれたダモクレスは、すぐに牙をむいて襲い掛かってきた。
●春の山は七色に染まる
『ギギギギギ!』
巨大な砲門が回転し、インクタンクから充填した七色の掃射が前衛のミルカへと迫る。
「鉄騎、皆を守りますよ!」
剣太郎はミルカを庇いつつライドキャリバーに支持を飛ばした。景気づけに起動した爆破スイッチが、戦意を奮い立たせるケミカルな爆炎を周囲に巻き起こす。
「お前はここで止める! 誰も襲わせるもんか!」
ミリムは素早い足捌きでダモクレスの脇に回り込み、バスタードソードを担いで跳んだ。
狙いは腹部のガトリング砲。まずはあの武器を破壊する。
怪力に任せたミリムの得物砕きが激しく叩きつけられるも、砲身を傷つけたのみで、機能を奪うには至らない。
「凍りつけ! そして砕けろ!」
空気すら凍らせるミルカの近距離レーザーが、ダモクレスの腹に取りついたプリンターに命中。身を切るような氷が、たちまち鋼の体を包み込んでゆく。
しかしダモクレスに怯んだ様子はない。ガシャンガシャンという排紙音と共に、剃刀のような紙の束を射出機構に充填しはじめた。
『グラビティによる攻撃を確認。対象をケルベロスと断定し、最優先で排除する』
「ならば封じさせてもらいます……その武器を!」
ミルカの攻撃で凍り付いたプリンターを、奏過の雷鎖絶手が縛り上げる。縛鎖の魔法と氷の斬撃から逃れようと、ダモクレスはもがいて暴れ始めた。
「ふはははー。小江戸の緋色がスクラップにしてやるのだ!」
如意棒を地面に突き刺した緋色が、眉間にしわを寄せて何やら唱え始めると、ダモクレスの背中がふいに爆発した。精神集中によって遠隔地を爆破する技、サイコフォースだ。
『排紙機能にエラー発生。チェックを実施して下さい』
『キリキリキリ……ギリギリギリギリ!!』
「なるほど……皆! 奴は魔法が弱点のようだ!」
奏過と緋色の攻撃にダモクレスは大きなダメージを受けたようだ。それを見たミルカは、すかさず破鎧衝の構えをとる。
そこへ、好機と見た葛葉が懐へと飛び込んだ。
「グラビティが欲しいんだよね? 代わりにコイツをごちそうしてあげるよ!」
インクの嵐をものともせずに、純白の短機関銃へと変形したガジェットを敵の装甲の間隙に突き刺しトリガープッシュ。容赦の無い銃撃が内部構造を食い荒らす。
「あはは、撃って撃って撃ちまくる!」
たまらず悲鳴を上げるダモクレスに、ますます凶暴さを増してゆく葛葉の笑顔を、睦は呆気に取られた表情で見つめていた。
(「葛葉ちゃん、あんなに楽しそうに戦うなんて……」)
白狐の戦士が見せる豹変ぶりに、乙女天使大砲の予備動作もつい遅れてしまう。
何しろ、口調も態度もまるで別人なのだ。初対面の相手ゆえに、その驚きは一層大きい。
傷だらけになるのも構わず、自身を武器そのものと化してガジェットを振るう葛葉。
血とインクに染まってなお戦い続ける姿を見て、睦の胸に闘志の炎が沸き上がる。
「よーし、私も負けないよ。根性でっ! 当てるっ!!!」
翼で塗り固めた空気をエンジンに、ロケットと化した睦がプリンター部分に命中した。ダモクレスの体勢が崩れ、衝撃でめくれ上がった校庭の赤土が周囲を汚す。
『排紙モード、ON。発射』
一方ダモクレスは奏過の束縛を振り切り、前列めがけて紙片をばら撒いてきた。
空気摩擦で発火した紙片が、手裏剣のごとく乱舞する。
「アッチッチ! フー! フー!」
味方を庇ったミリムは尻尾の火を慌てて消しながら、ダモクレスの脚に組み付いた。
対する敵もケルベロスを排除しようと、巧みに彼我の間合いを取って攻撃してくる。
七色の飛沫は草地をえぐり、鋭い紙は校舎を焦がし、辺りはこの世のものとは思えない地獄絵図と化した。
「くそう……しぶとい奴だ」
「無茶をするな……とは言わんでおこう。しても良い、俺が直ぐ治す」
千梨のボディヒーリングが前衛の仲間を癒してゆく。炎の耐性アップのおまけつきだ。
「あ、ありがとう」
「例には及ばん。頼りにしてるぞ」
艶を取り戻した尻尾を振って、照れ臭そうに笑うミリム。
かたやミルカは破鎧衝でダモクレスの装甲を砕きながら、インクまみれの顔でやけくそ気味に笑っている。インク汚れを避けようと、極力回避を試みはしたが、やはり全てをかわしきるのは無理があったようだ。
「これだけ噴出したら、インク切れしそうだけどなあ!?」
「まったくな。皆、随分と斬新なファッションになったものだ」
飄々とした口調で返す千梨に、ミルカはふと問いかける。
「櫟。この服の汚れ、ヒールで修復できないか?」
「分からないな。試してみるか? 仕上がりのセンスは保証できないが」
「すまん、やはり撤回だ」
と、その時。
『グラビティ・チェインの反応を多数確認。距離800、推定人数300――』
ダモクレスの複眼が、新校舎の方角に向けられた。
●紙吹雪は校舎を焦がす
すかさず剣太郎が進路に割り込んで、シールドを振りかぶった。
「生徒達の所へは行かせません!」
自分達が倒れれば、ダモクレスを止める者はいない。
かつて自分が味わった喪失を、子供達に味わわせる訳にはいかない。
剣太郎はガードで痺れた右腕に活を入れ、敵の胸部めがけて破鎧衝を叩き込む。
『ギ……ギギ……?』
装甲がはじけ飛び、機関部が露出する。そこへ緋色と奏過が交互に仕掛けた。
「ふははは! さー観念してやられるがいー!」
「貴方の強みとなる部分……縛らせてもらいますよ!」
舞い散る紙吹雪の幕を、緋色のグラインドファイアが突き破り、ダモクレスの前脚をたたき割る。
奏過の斉天截拳撃が、プリンターの背にそそり立つガトリング砲をへし折った。
「殴るよ! 癒やすよ! すごい、痛いけど痛くない!」
「機械だって傷を抉られるのはイヤだよね?」
睦と葛葉は完全にバーサーカーモードに入っているのか、防御を廃した捨て身の攻撃を繰り返している。紙の切り傷も、インクの貫通創も、はなから眼中に無いようだ。
『出力低下……ダメージレベル上昇……』
ダモクレスは武器と足の自由を奪われ、次第に劣勢に追い込まれ始めるも、グラビティの収奪というプログラムにどこまでも忠実に、さらなる猛攻を浴びせてきた。
「なんのっ! 絶対に通さないぞ!」
軋みをあげる砲門から放たれるインクを全身防御でガードしながら、ミリムがダモクレスの行く手を塞ぐ。背後には、守護波動防壁で傷を癒やす剣太郎の姿があった。
敵はバッドステータスの蓄積によって攻撃力を失いつつあったが、ケルベロス側のダメージも決して軽くはない。予断を許さない戦況だった。
そこへダモクレスが睦を狙い、インクを掃射してきた。睦はダモクレスの攻撃にさらされ続け、相当のダメージを負っている。直撃すれば重症に陥る可能性もあった。
「大事な仲間に、手出しはさせません!」
剣太郎の鉄騎が身代わりとなって掃射をガード。反撃で繰り出すキャリバースピンの体当たりが、ダモクレスの後ろ脚を一本へし折った。
金切り声をあげてのたうち回るダモクレスに、奏過とミルカが同時に仕掛ける。迎撃は不可能と考えたのか、敵は両前脚をカマキリのように折り畳み、ガードの体勢を取った。
「そろそろ幕引きといこう。借りるは千筋の蜘蛛の糸……」
千梨の詠唱に応じるように、彼の周囲を白い糸が漂い始めた。蜘蛛の糸で標的を絡め捕る千梨の奥義、散幻仕奉『土蜘』だ。
束縛で回避もままならないダモクレスめがけ、ケルベロスは最後のラッシュに出た。
「いまだー! ひっさーつ! フェノメノンスタビライザーコエドシティ!」
「脚を壊したらどうなるかな。何本折ったら動けなくなる?」
緋色の気合と共に叩き込まれる如意棒の一撃と、葛葉のスタビングバーストに脚部の関節を破壊され、ダモクレスが体勢を大きく崩す。
『ギギギ……攻撃モード……ON……』
「あなたの武器は、もう脅威ではない。倒れなさい!」
悪あがきに繰り出されたインクの嵐を、奏過が双節自在棍『曙』で残らず打ち払った。
カウンターの斉天截拳撃がガトリング砲の砲門を打ち砕き、その機能を奪い去る。
「もらった!」
ミリムの振り上げるような溜め斬りの一撃。
ダモクレスの巨体がふわりと宙に浮いた。
「これでフィニッシュだよ!」
睦のグラインドファイアがダモクレスを炎に包みこむ。
熱で剥がれ落ちてゆくプリンターの装甲に、剣太郎がパイルバンカーを差し込んだ。
狙うは、奥で輝くコギトエルゴスムの結晶だ。
「確実に仕留めます。悪く思わないでください」
螺旋の力で勢い良く突き出された鉄杭が、コギトエルゴスムに叩き込まれた。
地響きをたて、地面に伏すダモクレス。結晶を破壊された体は制御を失い、炎に包まれ動かなくなった。
●戦い終わって
「いやぁ、結構汚れちゃいましたねぇ……」
愛用のスキットルを手に、奏過は小さくため息をついた。
戦いの後の一杯は何ものにも代え難い。若干インクの匂いが鼻につくのを除けば、だが。
「水道、使ってもいいって!」
そこへウサギのように飛び跳ねながら、睦が新校舎から戻ってきた。
「ありがたい。この姿で帰るのは恥ずかしいからな」
マーブルに染まった服で、冗談めかして言う千梨。その隣では、
「えっ!? どうしてこんなに汚れてるんですか!?」
塗料でゴワゴワに固まった自分の尻尾に、葛葉が驚きの声を上げていた。
戦闘に夢中で気づかなかったのだろう、窓ガラスに映る顔を信じられない表情で見つめていると、睦とミリムがバケツとホースを運んできた。
「お待たせ! タオルは自由に使っていいよ!」
バケツの水を勢いよく被ると、インクは嘘のように流れ落ちた。
「すっごい落ちるなー! どうしてかな?」
恐らく、母体のダモクレスが死んだ影響だろう。ピカピカの武器を指で触れば、キュッと綺麗な音がする。
「よーし、ぜーんぶ流しちゃうぞー!」
傷の痛みもどこへやら、緋色は目を輝かせながらホースを手に駆けだした。水とヒールで壊れた校舎をピカピカにするのだ。
「あ……待って下さい!」
校舎の横穴にヒールをかけようとした緋色を、剣太郎が止めた。
「どしたの?」
「これを中に戻したいんです」
「廃棄品でも、吹きさらしは可哀想だからね」
緋色が振り返ると、剣太郎とミリムが一緒にプリンターを運んできた。
ダモクレスから解放され、元の姿に戻った機械に、剣太郎はそっと手を添える。
「回収した残骸で、可能な限り復元しました。僕なりの礼儀みたいなものです」
あとは廃棄を待つだけの処分品。
そうと分かっていても、彼は最後の瞬間まで敬意を忘れたくなかった。
「お疲れさまでした。ゆっくり休んで下さい」
小さな感謝と祈りを捧げながら、剣太郎は思う。
もし機械に心があれば、教えてくれるのだろうか。自分自身の最高の使い方を……と。
別れを告げて教室を去る剣太郎達の背中を、黒焦げたプリンターが無言で見送っていた。
作者:坂本ピエロギ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年3月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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