病魔根絶計画~笑顔でまた、会えるようにと

作者:あかつき


「知ってるんだから……由梨は私が嫌いなんだ。だから、貴女は私を殺そうとしてるの。だから、私は……、貴女を殺す。私、殺されたくないもん」
「何……言ってんの? あたし、瞳の事大好きだよ? ちっちゃいときから、ずっと一緒だったじゃん。あたしの両親が忙しくて、家にいなくても、瞳が居ればそれで良かったんだよ。今日だって、これから二人で遊びに行く予定だったじゃん」
 夕方の教室で、瞳と呼ばれた高校の制服姿の少女は、ハサミを片手にゆらりと顔を上げる。その視線の先には、由梨と呼ばれた少女。
「由梨は私が羨ましくて、私なんかいなければいいと思ってるんでしょ。あぁ……もう、煩い! なんでこんなに煩いの! 寒い、寒い、寒い! 貴女の所為でしょ、知ってるんだから!」
「やめて! 瞳っ!」
 振り上げたハサミは、由梨の上腕を切り裂く。橙に染まった教室に、鮮血が飛び散った。
「やぁっ!!!」
「どうした? 佐々木、何やってんだ!」
 悲鳴を上げた由梨に、再度瞳がハサミを振り上げた瞬間、現れた担任の男性教師が瞳を取り押さえる。
「やめて、離して! 先生だって、私の事……いなければいいって思ってるくせに!」
 由梨は担任に取り押さえられて尚暴れる瞳を、呆然と見つめ、呟く。
「瞳……どうしちゃったの? 私は、瞳のこと……大好きなのに……」


「病院の医師やウィッチドクターの努力で、『回帰性懐疑症候群』という病気を根絶する準備が整ったので、皆にこの病魔を撃破して来てほしい」
 雪村・葵(ウェアライダーのヘリオライダー・en0249)は、集まったケルベロス達に今回の依頼の説明を始めた。
「現在、この病気の患者達が大病院に集められ、病魔との戦闘準備が進められている。皆には、この中で特に強い、重病患者の病魔を倒して貰いたい。今、重病患者の病魔を一体残らず倒す事ができれば、この病気は根絶され、もう、新たな患者が現れる事も無くなるそうだ。勿論、敗北すれば病気は根絶されず、今後も新たな患者が現れてしまう。しかし、デウスエクスとの戦いに比べれば、決して緊急の依頼という訳ではないが、この病気に苦しむ人をなくすため、ぜひ、作戦を成功させて欲しい」
 今回は、この病魔への『個別耐性』を得られると、戦闘を有利に運ぶことができる。個別耐性は、この病気の患者の看病をしたり、話し相手になってあげたり、慰問などで元気づける事で、一時的に得られるらしい。個別耐性を得るとこの病魔から受けるダメージが減少するので、戦闘を有利に進める事が出来るだろう。
 個別耐性について、ざっと説明した後、葵は一つ息を吐き、それから用意してきたらしい資料に視線を落とす。
「今回、みんなが接触する患者は佐々木・瞳。クラスの中心的人物で、誰かから恨まれるような事は無い明るくて優しい性格だそうだ。しかし……数日前、教室で幼馴染で親友の有原・由梨をハサミで斬り付けていたところを、担任の教師に取り押さえられ、隔離病棟に入れられている。それからずっと、寒気に震えながら、『私は悪くない、みんなが私の事を嫌いなのが悪い。みんな、私の事が邪魔なんだ。だから、死んでほしいと思ってるんだ』と、繰り返し呟いているらしい。『個別耐性』を得るのに、彼女の不信感を解消させてあげたり、病気になる前の幸せな人間関係を思い出させて上げることが有効だろう」
 そこまで言って、葵は資料を畳み、ケルベロス達に再度目を向ける。
「有村・由梨を始め、クラスの友達はみんな、彼女の事を心配していると聞いている。彼女が元々、みんなに愛されていたと言う証だろう。だから……彼女を始め、この病気で苦しんでいる人を助けるために、病魔を確実に撃破してきてほしい」
 そう言って、葵はケルベロス達を送り出したのだった。


参加者
木村・敬重(徴税人・e00944)
古海・公子(化学の高校教師・e03253)
魅縡・めびる(フェイスディア・e17021)
グラム・イェルチ(ドルセデレチェ・e27729)
王・美子(首無し・e37906)
巫峡山・月雲(遣らずの氷雨・e40158)
遠音宮・遥(サキュバスの土蔵篭り・e45090)

■リプレイ


「はい、どうぞ」
 古海・公子(化学の高校教師・e03253)は、グラム・イェルチ(ドルセデレチェ・e27729)が淹れた紅茶の入ったティーカップを、ベッドの隅で三角座りをしている佐々木・瞳に手渡す。
「……なに、これ。わたしを、殺す気なのね?」
 医師と看護師に付き添われて病室に来たケルベロス達。最初は怯えて両手を振り回し暴れる瞳が僅かに落ち着きを取り戻したタイミングを見計らい、瞳に挨拶をした。それから公子の持参したお茶とお菓子を準備し始めたのだ。何をする気かと怪訝な顔で眺めていた瞳は、ティーカップとクッキーを差し出す公子を睨み付ける。
「あなたの事を、邪魔だと思う人が『みんな』とは思わないでください。私達はそう思ってはいません」
 隣人力を纏った公子の穏やかな言葉に、瞳は数秒考え込み、それから。
「……あなたも、飲みなさいよ」
「ええ、勿論」
 ティーカップを受け取り、小さく肩を竦めた瞳の前で、公子は自分の分のティーカップに口をつけた。それを見て、瞳はゆっくりとクッキーを口に運んだ。
「寒くて怖くて、悲しかったでしょう。もう大丈夫よ。私たちはひとみ姉さまの病気を治しにきたの」
 プリンセスモードのイリーネ・ティルピッツ(山猫・e32241)は、優しくそう言って、瞳の側に歩み寄る。
「私の……病気を、治しに? そんなの、思っても無いくせに」
 ぶつぶつと吐き出す瞳のベッドの横に来て、それからイリーネは柔らかく笑う。
「この紅茶、水筒に淹れてきたの。はちみつをいれたから、とっても甘くておいしいのよ」
 そう言って、イリーネも自分のティーカップに口をつけ、一口飲む。
「ね? ひとみお姉さまも飲んでみて?」
 ふわふわと瞳に寄り添うウイングキャットのルーナにも促されるように、瞳は紅茶を一口飲む。
「……おいしい」
 ぽつり、瞳が溢したのに目を細め、イリーネは尋ねる。
「ゆり姉さまとの思い出は、辛くて、痛みを伴うものだった?」
「由梨……でも、由梨……由梨は、私の、事を……」
 小刻みに震える手を見詰めつつ、王・美子(首無し・e37906)は声を掛ける。
「誰が何でアンタを殺そうとするって? ゆっくりで良いから全部話してみろ」
 美子のその言葉に、目を数回瞬いた瞳は、震えなくなった手を温めるようティーカップを両手で包み込み、ぽつぽつ語る。
「由梨は……私の幼なじみ、大切な友人だった……。由梨は両親が忙しくて、私とよく一緒に居た。双子の姉妹みたいに……だから……由梨は私の事が羨ましくて……」
 ぎゅ、と寄せられた眉には、内心の混乱が映る。
「他のみんなも……私が疎ましくて……だって、他の子達とも楽しく学生生活を……でも、嫌われてるの……私なんて居ない方が良いと……思って……」
 僅かに不安そうな色が過る。それを見た木村・敬重(徴税人・e00944)が、荷物の中から小さな兎のマスコットを取り出す。
「それ……由梨がくれたお揃いの……」
「あんたとの思い出のものだと言っていた」
 説得には向かないかもしれないと自覚のある顔に精一杯の柔らかさを称えつつ、敬重は瞳に兎のマスコットを差し出す。瞳はティーカップから片手を離し、大切そうに兎のマスコットを受け取った。
「めびるにも、幼なじみの友達がいるの。大事な友達。昔から、今もずっと一緒の、大好きな人たち」
 魅縡・めびる(フェイスディア・e17021)は、大切な人々を思い浮かべながら、瞳に言う。
「だから、めびるは幼なじみの絆を信じてるの。ひとみちゃんも、きっとそうだったはず」
 横にいる敬重も、めびるの大切な人。大切な、沢山の人達との絆を胸に、めびるは精一杯の気持ちを言葉に込めて、紡ぐ。
「大好きな友達に嫌われたかもって思うの、辛いと思うの。でも、それは病魔のせい、みんなひとみちゃんのことが大好きなの!」
「大好き……? 私の事が? 病魔の、所為? 本当に?」
 泣きそうになりながらぽろぽろと溢す不安を聞きながら、グラムは尋ねる。
「その兎……どこで、買ったんですか?」
 瞳は自身を落ち着かせるように紅茶を一口飲み、それからゆっくりと口を開く。
「私の誕生日に、くれたの。いつも、一緒にいてくれて……ありがとうって……由梨と、お揃いで……。私がピンクで、由梨が黄色……私、ピンクがラッキーカラーなんだって……」
 兎のマスコットを握りしめた、瞳の手が震えるその手を遠音宮・遥(サキュバスの土蔵篭り・e45090)の手が包み込む。ハッとして遥を見た瞳に、遥は微笑む。
「今お話くださったこと振り返って、どこで嫌われていると思いましたか? 私には嫌われているようには聞こえません。皆さん、瞳さんを好いていると思います」
「それは……」
 言い淀む瞳に、美子が言う。
「何でそう思うのか、アンタも違和感を感じてないか。『違う』、何かが『おかしい』ってな」
 瞳は、下唇を噛み、手元の兎のマスコットを見詰める。幸せな思い出、楽しい思い出。
「思い出とせかいは何も変わっていないわ。今もずっと、ひとみ姉さまのことが大好きよ。私たちだって。もう、姉さまのおともだち!」
 ね、と笑うイリーネに、瞳は震える手でティーカップを返し、俯く。
「そんなこと、無いわ……きっと、私は嫌われてる……。だから、帰って」
 そう言って首を横に振る瞳に、敬重は語り掛ける。
「人を信じるのは難しいかもな。ただ、あんたはもっと愛されてると自惚れて良い」
 その言葉に、瞳が顔を上げた。そんな彼女に、グラムは二枚の写真を手渡す。一枚は瞳と由梨の笑顔の写真。もう一枚は、文化祭の時、クラス全員で撮った写真。瞳も、みんなも、楽しそうに笑っている。
「…………私っ……ねぇ、私……どうすればいいの……?」
 右手に兎のマスコットを、そして左手に二枚の写真を持ち、ぽろぽろと涙を溢す瞳に、グラムは頷く。
「大丈夫です。僕らはケルベロスですから手を差し伸べることができます。でも、立ち上がるには佐々木さんご自身の力も必要です」
「私の……力?」
 涙を拭いながら問う瞳に、グラムは答える。
「今、きっとご友人を想う貴女の心が、負けまいと身まで震わせているのです。彼らを、信じてあげてください。少しでも、良いんです」
 瞳はぎゅ、と瞼を閉じて、それから。
「…………私、みんなと……由梨と、また、仲良くしたい……楽しく笑って……いたいの!!」
 確固たる意思を込めた言葉に、ケルベロス達は頷く。それから、部屋の隅で待機していた医師と看護師に合図をし、病室から出ていってもらう。
「では、病魔を召喚しますね」
 準備を始める公子に緊張した面持ちで頷く瞳。そんな瞳に、今まで壁際で仲間達が説得するのを見守っていた巫峡山・月雲(遣らずの氷雨・e40158)が刀の柄に手を当てながら、言う。
「生憎、君の不安を取り除くすべが私には無いが……。なに、仕事は果たす。少し待っていれば、それで済むさ」
「…………ありがとうっ」
 颯爽と仲間達が準備をしている方へと歩いていく月雲の背に、掛けられた瞳の言葉。月雲は振り返らずに、頷いた。


 召喚された病魔、そして患者である瞳と、瞳を庇うように立つ八人のケルベロス。瞳は怯えたように、病魔を見詰めている。
「っ……!!」
 現れた病魔の姿に、思わず身を固くする後列のめびるの視界に、敬重はさっと身体を割り込ませる。
「大丈夫、前は任せろ」
「けいちょくんっ……」
 その背中を見て、めびるは自身の身体を包むコートを握りしめる。
「めびるお姉さま!」
 そんなめびるに、イリーネはとびきりの笑顔を向けた。
「ね、私たちが、ひかりになるのよ!」
「…………イリーネちゃん」
 光を放って見えるその笑顔に、めびるは、すぅ、と大きく息を吸い、そして。
「絶対に、ひとみちゃんの事を治してみせる。それから……みんなの事を、守ってみせる!」
 覚悟の籠っためびるのピンクの瞳に、敬重とイリーネは頷いて、前を向く。
 そんな三人の方を見る病魔は、周りを漂う鋏をめびるへ向けようと動き出す。
「こっちだぜ化け物!」
 そんな病魔の横っ面付近目掛け、美子は虹を纏う飛び蹴りを放つ。
「ぐぅあぁっ……」
 僅かに呻きつつ、瞳のベッドとは逆の壁際まで飛ばされる病魔。
「絆を歪めて孤独に追いやる……相当タチの悪い病魔ですね」
 そう言ってグラムは霊力を帯びた紙兵を大量に散布し、仲間達に守護を与えていく。
「どうか、どうか――ひとみ姉さまを、みんなを守って」
 イリーネは父親から貰った大切な銃に唇を寄せ、そして、銃口を病魔へと向ける。
 その足は、僅かに震えている。めびるにはああいったけれど、やっぱりおばけは怖い……病魔はおばけじゃないかもしれないけれど。とイリーネは思いながら、照準を素早く病魔へと合わせ。
「でも、……立ち向かうの。そう生きるって、決めたんだから」
 目にも止まらぬ早さで放たれた弾丸は、病魔を撃ち抜く。
「さて、どこまでやれるかな……?」
 呟き、刀身を鞘から抜いた月雲は、病魔へ向け駆ける。
「はぁっ!」
 空の霊力を帯びた刃は、病魔を真一文字に斬りつけた。傷口を広げる一閃に、病魔はのたうちまわって苦しむ。
「ふむ、これが病魔を斬る感覚か」
 振り抜いた刀を見詰めつつ、月雲は小さく呟いた。
「病院は苦手なので、早めに片をつけさせて貰います」
 そんな病魔と、仲間達の様子を見て、攻撃に転じるべきと判断した公子は、ゴム栓つきの試験管を取り出して、振りかぶる。
「この試験管に干渉できるは、この世の理と私、のみ!」
 見事に命中した試験管は、病魔に当たった瞬間爆発を起こす。
「ぐ……ぐおおっ……」
 爆発の衝撃で地面に転がりうごうごと苦しむ病魔は、その瞬間びたんと起き上がり、そして。
「うぐおぉぉぉぉぉぉ!!!」
 病魔の唸り声に呼応した鋏は、ケルベロス達へとその刃を向ける。鋭く蛍光灯の光を反射し、ケルベロスへと襲いかかる鋏。そこへ、身体を割り込ませるのはルーナと遥。
「くっ……皆さん、大丈夫ですか?」
 膝をつきながらも振り返り、仲間達を気遣う遥。めびるは遥とルーナへ、ゾディアックソードを構える。
「回復、するねっ……!」
 床に描かれた守護星座は、鋏が付けた傷を癒していく。
「こっちは俺に任せろ」
 そう声を掛け、敬重はめびるの横を駆け抜ける。そして、構えた拳は内蔵されたブースターで加速する。
「これで、終わりだ!」
 高速の重拳撃に殴り飛ばされた病魔は、壁まで飛んでいき、そして、崩れるように消えていった。


「怪我はありませんか?」
 尋ねる公子に、瞳は左右に首を振る。
「大丈夫……。ありがとう」
「クッキーとお茶、まだありますからね。片付けが終わりましたら、一息つきましょうか」
 微笑む公子に、瞳は頷いた。
「めびる、お疲れ」
「けいちょくん! けいちょくんも、お疲れさま」
 室内の片付けをしていためびるに、敬重は駆け寄る。それを見て、めびるは笑って頷いた。
「それからみんなも、おつかれさま」
 にっこり笑って、めびるは仲間達へと目を向けた。
「でも……私、みんなに……由梨に、酷いことをしてしまったわ」
 ぽつり、と溢す瞳に、ベッド際の僅かな亀裂を直して、イリーネが目を細める。
「大丈夫。きっと姉さまを許してくれるわ。だって、みんなも姉さまも、お互いが大好きなんだから。もちろん、私たちも! ね、みんな!」
 ふふ、と笑うイリーネに、ケルベロス達はそれぞれに頷く。
「疲労もあるでしょうし、明日からまた学校に、とはいかないかもしれません。でも、貴女の事を待っていてくれる人がいるのは、間違いありませんよ」
 そう言って、グラムは写真を持つ手をぎゅっと握る。
「心のかさぶたが取れたら、僕にも貴女の笑顔を見せてくださいね」
 写真と兎のマスコットを抱き締める瞳に、遥も優しく微笑む。
「ええ。みんなも、由梨さんも、それから……私たちも……、貴女がまた笑ってくれるのを、楽しみにしています」
 そんな仲間達と瞳を見ていた月雲は、一つ息を吐き、扉へと向けて歩き出す。
「……ふむ。無事ならばそれで良いか」
 扉に手をかけ、ゆっくりと開いて廊下へと出る。そこで待機していた医師と看護師をちらりと目を向け、小さく頷いてから、その場を後にする。
 その後から扉を開き、病室から出てきたのは美子。
「あの……」
 先程月雲に言いそびれた礼を言おうとした医師と看護師に、美子は肩を竦めて病室を指差す。
「……フン。早く行ってやんな。最後まで見届けてやるのはアンタら医者の仕事さね」
「わかりました。有り難うございます」
 頭を下げ、病室に入っていく医師と看護師。開いた扉の向こうでは、お茶会の準備が着々と進められていた。
「私は医者って奴が如何しても嫌いでね。今回のは気紛れだ。もう会う事も無いだろうよ」
 閉じていく扉へ向けて、ぽつりと呟く美子。そへからひらりと後ろ手に手を振って、美子は病室を後にしたのだった。

作者:あかつき 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月7日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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