●こどく
隔離病棟の一室。
「どうして……」
ベッドの中でシーツを頭まで被り、寒さに震えている女がいた。
シーツの上には2枚の毛布。毛布の上には掛け布団。
幾ら真冬とは言え汗を掻きそうな程に何枚も引き被っているのは、実際の冷気でなく病気による悪寒と。
シャキシャキシャキシャキシャキシャキ!
耳の奥で鳴り響く鋏の幻聴へ耐えかねているからだ。
「どうしてあの人は私と付き合ったの……顔もよくない、お金も無い私と……」
山のように膨らんだ布団の下で女は嘆く。
「判らない……解らない……陰で私を馬鹿にする為としか思えない……きっとSNSのスクショを晒し上げたり、ホテルで盗撮したり、酷い事をする気としか!!」
女は思い出していた、恋人だった男を突き刺した時の包丁の感触を。
実際には、力が足りなくて突き刺すまでに至らず、男は無事である。
「……あの人はもう私の事なんか好きじゃなかった、だから放っておかれた、今だって……」
女の悲観は止まらない。恋人からの愛情を確かな根拠も無いのに疑ってしまう、愛や絆が信じられない——それが、悪寒よりも強く厄介な病気の症状であった。
「……ううん、最初からあの人は私を愛していなかった。そうに違いないわ……!!」
敵意に満ちた声で女が呟いた時、病室のドアをノックする音が聞こえた。
「玲音、入ってもいい——」
「帰れッッ!!!」
来訪者が言い終わる前に叫ぶ女。
「どうせ皆私がいなくなれば良いと思ってる癖に! 早く死ねば良いと思ってる癖に! 家族ヅラして見舞いになんか来ないでよ鬱陶しい!!」
回帰性懐疑症候群……仲の良かった恋人や家族、友人が自分に害を成す、そう思い込んでしまう病気である。
●
「此度も皆さんにお願いしたいのは、病魔の討伐であります」
小檻・かけら(清霜ヘリオライダー・en0031)が説明を始める。
「病院の医師やウィッチドクターの方々の御尽力で、病魔『回帰性懐疑症候群』を根絶する準備が整ったのでありますよ」
現在、回帰性懐疑症候群の患者達が大病院へ集められ、病魔との戦闘準備を進めている。
「皆さんには、その中でも特に強い、『重病患者の病魔』を倒して頂きたいであります」
今、重病患者の病魔を一体残らず倒す事ができれば、回帰性懐疑症候群は根絶され、もう新たな患者が現れる事も無くなるという。勿論、敗北すれば病気は根絶されず、今後も新たな患者が現れてしまう。
「デウスエクスとの戦いに比べれば、決して緊急の依頼という訳ではありません。ですが、回帰性懐疑症候群に苦しむ人をなくすため、必ずや作戦を成功させてくださいましね」
かけらはぺこりと頭を下げた。
「さて、皆さんに討伐して頂く『回帰性懐疑症候群』についてでありますが……」
かけらの説明によると、回帰性懐疑症候群とは白い布に包まれた姿をしていて、その周りに幾つも丸い糸切り鋏が浮かび、また、鋏の側には赤い目の描かれた球も漂っているという。
回帰性懐疑症候群は、漂う赤目玉によって遠くまで見通す『不信の視線』を向け、敵1人へ理力に満ちた破壊を齎す。
しかも喰らった側は赤目玉の奥にトラウマを見てしまい、具現化されたそれに苦しめられるそうな。
加えて、敏捷性に優れた『絆切り鋏』を広範囲に斬りつけて、敵複数人の自然治癒力を削ぎ落とす事もできる。
「もし、戦闘前に回帰性懐疑症候群への『個別耐性』を得られたなら、戦闘を有利に運べるでありますよ」
個別耐性とは、今回ならば回帰性懐疑症候群患者の看病をしたり、話し相手になってあげるなどの慰問によって元気づける事で、一時的に得られるようだ。
中でも、目に見えない絆への不信感を解きほぐすのが肝要だ。
患者本人に、病気になる前の幸せな人間関係を思い出させてあげられれば、効果があるだろう。
また、患者が抱いている不条理な不信感について、優しく聞き役に徹してあげるだけでも、少しは心が和らぐかもしれない。
「個別耐性を得ると『この病魔から受けるダメージが減少する』ので、どうぞ積極的に狙っていってくださいね」
かけらはそう補足して説明を締め括り、ケルベロス達を激励した。
「どうか、回帰性懐疑症候群で苦しんでいる患者さんを助けて差し上げてくださいましね。病魔を根絶するチャンスでもありますから……」
参加者 | |
---|---|
アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770) |
モモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721) |
ラズ・ルビス(祈り夢見た・e02565) |
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426) |
七道・壮輔(端歩飛・e05797) |
鳳来寺・緋音(弾丸・e06356) |
カジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834) |
空木・樒(病葉落とし・e19729) |
●
隔離病棟の一室。
「帰れッ!!」
ケルベロス達は扉を開けた瞬間、相手を確かめもしない玲音の大喝に出くわした。
「って、誰??」
だが、玲音がすぐ怪訝そうに黙った為、8人は彼女を刺激しないよう1人ずつ病室へ入る事にした。
「人の心の移り変わりは本当にままならぬもの。しかし、病魔に弄ばれる筋合いはありません」
空木・樒(病葉落とし・e19729)は、小さく口の中で呟いてから、玲音へ優しく声をかけた。
「初めまして、玲音さん。空木と申します」
人当たりの良い上品な物腰と丁寧な口調の彼女。
それらの外面からは意外に思えるが、良識や喜怒哀楽の内の哀、怒の感情を任務に不要と切り捨てている。
「初めまして、私に何の用。彼の新しい女?」
「わたくしは玲音さんのことも恋人さんのことも存じ上げません。病魔を倒しにきたウィッチドクターです」
今回も、人を救いたいという如何にも医療従事者らしい感情は持ち合わせず、病魔の根絶に対する関心から参加したそうな。
「赤の他人?」
「ええ。ですから言いたいことを言いたいだけ、吐きだしてしまいましょう」
だからこそ、任務として必ず治療すべく、どこまでも真摯に誠実に患者の玲音と向き合えるのだろう。
「とても信じられない。いきなり来て病気を治すとか何とか。どうせ腹の中では私を嗤ってるんでしょ、このクソ女!」
しかし、そんな樒の姿勢は病魔に侵された玲音へ通じず、口汚い罵倒しか返ってこない。
「な、何よ! 何とか言いなさいよ!」
「わたくしのことはご心配なく、続けてください」
それでも樒は耐えた。決して玲音の言い分を否定すまい、まずは彼女の話を聞いて相槌を打ち肯定する所から、信用は芽生えると信じて。
「……本当に他人? 浮気相手じゃ……新しい女じゃないの?」
樒は玲音から何を言われても視線を逸らさず、彼女が興奮して立ち上がろうとした際には優しくその手をきゅっと握った。
「はい、他人ですとも」
樒の根気強さが、玲音へ微かな落ち着きを取り戻させた。
続いて。
「人を信じられなくなる病気とはのう。病気を治すには根気が重要なのじゃ」
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)が、自慢のつけヒゲを撫で撫で溜め息をついた。
「初めましてじゃな。あたしはウィゼ・ヘキシリエンじゃ。宜しくのう」
そして、病室へ入る前にぺこりと頭を下げ、丁寧に自己紹介をした。
(「どんな形であれ、名前を呼んでもらえれば一歩前進じゃからな」)
かようなウィゼの考えが通じたわけでもあるまいが。
「……水城玲音です。それで、ウィゼさん? は何の用なんですか」
玲音は警戒心を隠そうともせず、つっけんどんに返してきた。
(「嘘をついて別人の名前を騙っておる可能性もあるのにのう」)
何だか名前を呼ばれただけで依頼成功したような達成感を感じるも、まだまだ気を抜けないと頭を振るウィゼ。
「うむ、他の皆と同じじゃ。玲音おねえの身体と心を蝕む病魔を仕留めに来たのじゃ」
「……やっぱり信じられない! 病魔を倒すだとかそんな上手い話……私の家族や知り合いに頼まれて私を殺しに来たんじゃないの?」
「そうかもしれんのう、じゃがあたしはこうも思うのじゃ」
辛そうに訴える玲音へ、ウィゼは噛んで含めるように言い聞かせる。
「玲音おねえの家族が玲音おねえが亡くなって得をする筈など無い。おねえは知っているかのう? 人1人亡くなった時に遺族へどれだけ精神面以外の負担がかかるか。一体何日間役所や銀行回りに忙殺されるかを」
彼女の言葉を頭ごなしに否定はすまいと気をつけながら。
「人は生きている方が他人への迷惑にはならんもんじゃよ。自分で自分の尻が拭けるからのう」
ウィゼはつけヒゲを弄びつつ、澄んだ目で玲音を見つめた。
「宜しければ、こちらをご覧ください」
アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)は、数枚の書類を玲音へ差し出した。
スチームパンクに魅せられた、蒸気『飛行船「エフィジェ」』の二代目主かつ、自称半人前のウィッチドクターの女性。
後に義母となる人との絆で定命化したのもあり、回帰性懐疑症候群を許せない気持ちは誰よりも強い。
「これは?」
「以前、私が参加した病魔根絶計画の結果を纏めたものです。私は幾度も病魔による患者さんの苦しみを絶ち切ってきました」
柔らかい声音で語るアイラノレは、玲音の視界に武器が入らぬよう、手荷物に仕舞い込む心配りも見せていた。
自分を殺しに来たなどと誤解されない為の必要な対策だと言えよう。
「……、ケルベロスが病院でも活動してるなんて知らなかった……」
言いながら片手でスマホを弄る玲音。アイラノレの提示した資料の内容が真実か否かネットで検索しているのだろう。それ程までに彼女の疑心は根深い。
「玲音さん……今までの思い出は本当にすべて嘘だと思いますか。以前の自分に、戻りたくはありませんか?」
堪らずアイラノレが問いかければ、玲音は内なる葛藤を表すかのように、ぽろぽろと涙を零した。
「わからない……今の彼が信じられなくても、思い出だけは信じたい気持ちもあるし、でも、思い出は私が勝手に美化してる気もして」
饒舌に喋る玲音の話を、アイラノレはうんうんと頷きながら聞いている。
決して彼女の話を否定せず、不安にさせる言動もすまいと決めていたからだ。
「病を絶つのが我らの役目、あなたも必ず治してみせます」
病魔絶対許さないウィッチドクターとして、偽りのない決意である。
その後ろでは。
(「まずは信を得るところから。最初は相手の発言に口を挟まず、ただ肯定を行うのみ……頭では解っていても、なかなか実行に移すのは難しそうだな」)
カジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)が、玲音と真っ直ぐに向き合って説得を図る婚約者の姿を、優しい目で見守っていた。
連れているボクスドラゴンのボハテルは、先端が煌々と燃え盛る尾と、炎の如き眩さのツノが特徴で、雄々しい姿をしている——のだが、やはり玲音を怖がらせるといけないので、今は封印箱の中に隠れている。
「まぁ、男として正直なところ……はっきり言って顔なんて好悪に関係ないさ」
と、玲音の持つ不信感や被害妄想を少しでも解きほぐそうと、さらっとした口調で語るカジミェシュ。
現に彼自身、アイラノレのどこに恋したのかと問われれば、内面だと即答できる。
初めて好きになった頃の想い出を鮮明に覚えているが故に、自信を持って言える持論だった。
「……彼も、顔はどうでも良かったと……?」
「そういうこと。きっと最初は顔でなく中身に惹かれたのでは無いだろうか。勿論、強く恋焦がれる内に自然と、顔だって髪の毛1本だって愛しくなるものだと私は思うがね」
「きっとそこまで行かなかったのよ。私に嫌気が差したのよあの人は!!」
含蓄のある彼の主張に比べたら、玲音の被害妄想がいかにその場の思い込みからくる感情論で根拠に乏しいか判る。
カジミェシュも、アイラノレ同様に玲音が一頻り愚痴って落ち着くのを待ってから、
「貴女に害意を持っている人なんていないさ。だから」
帰っておいで、と情のこもった声音で告げた。
他方。
「強い被害妄想に襲われる病魔なら、もう大丈夫。私達が来たよ!」
モモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)は、玲音を元気づけようと力強く断言する。
「他人を信じられない瞬間ってあるよね。私も周囲が敵だらけなギャンブルの世界に生きる者だからね」
「周囲が敵! 本当にそうだわ。敵しかいないのよ!」
ポケットから出した飴を口に放り込みつつ、モモが言う。
「でも私には付き合ってる人と義理の娘がいる。貴女にも付き合ってる人がいるじゃない」
「……いないわ。今はもう……裏切られたのよ!!」
目を血走らせる玲音を前にしても、モモは微笑を保ったまま諭した。
「彼が本当に愛してないなら、付き合う事なんてありえないでしょ?」
ずっと剣呑な光を宿していた玲音の目に動揺が走る。
「そうなのかしら……だとしても、私……もう」
彼を……刺して——。
玲音の目から何度目かの涙が溢れる。
「こんな事言っても信じてもらえないかもしれないけど、私達は今まで数々の病魔を根絶してきた」
モモは真剣な眼差しで玲音を見据え、はっきりと宣言した。
「だから、貴女の病気を治してみせます。信じてください」
玲音は頷きこそしなかったものの、充血した目をいっぱいに見開いて、言葉を失っていた。
「玲音様、初めまして。私は看護師の、ラズ・ルビス。こちらは、ミミックのエイドです」
さて、ラズ・ルビス(祈り夢見た・e02565)はいつもと同じように礼儀正しい自己紹介から、患者との接触を始める。
「お加減、いかがですか?」
ラズが努めて柔らかい語り口で問いかければ、激しい罵倒が返ってくる。
「良い訳ないでしょ、良かったらとっくに退院してるわよ!」
散弾銃の如き文句の全てを、ラズはじっと堪えて聞き役に徹した。
「ええ。それもそうですね、失礼致しました……入院生活の中で、何かお困り事はありますか?」
「……考えても仕方ない事ばかり考えてしまうのが辛いわ」
看護師の格好——自分へ会いにきたのは害意でなくただの仕事と信じられる為か——が頑なな警戒感を鎮めて、比較的素直に思いを吐露する玲音。
「彼はどうして私に近づいたのか……私の知らないところで馬鹿にしてるんじゃないかと」
ラズは深く頷いてから、慎重に言葉を選んで話し始める。
「どうして自分に良くしたのかと、考えてしまうのですか……玲音様は優しくて、繊細な方なのですね」
「見え透いたお世辞は」
「どうでも良い相手ならば、敵意を持たれたところで、そこまで気にはなりません」
そう伝えるラズの口角は僅かに上がっている。
「それは……そうね。だから私もあなた方には……本当に知らない人なのなら、どう思われたって」
「……玲音様が、その方々をとても大事に想い、想われていたからこそ、今、そんなにも悲しくて、辛いのですね」
「ええ……ええ、そうよ……私は彼を本当に愛していたし、家族の事も人並みに好きだった……!」
玲音が悲痛な声を振り絞る。
「大丈夫、ですよ。元通りの温かい日常は、必ず戻ってきます」
ラズは、泣きじゃくる玲音の肩へそっと手を置いて、慈愛すら感じられる声をかけた。
「私達が、戻してみせます」
硬い決意に、豊富な討伐経験からくる自信を乗せて。
「聞いてきたのより随分と印象が違うけど、何かあったのだろうか?」
七道・壮輔(端歩飛・e05797)は、敢えて病魔について触れずに話のとっかかりを探している。
すっきりした短さの灰色の髪と不思議な輝きを宿した藍色の瞳を有するオラトリオの巫術士。
「だ、誰から何を聞いたの? 彼がSNSで私を悪く言ってたのね、だから拍子抜けしたって!!?」
壮輔の問いかけへ玲音は一瞬怯えを見せてから、皆が驚くぐらいに激昂した。
印象が違うという感想を病魔による不信感のせいで悪い方に——元々の悪いイメージより印象が良かった——と解釈したのだ。
壮輔としては、玲音の家族から予め事情を聞いたと伝えたかったのだが、その事情と言うのがどんな内容かはっきり伝えない限り新たな誤解を招くのは想像に難くない。
『娘は明るく社交的な優しい子だったのに病気になってから人が変わって』
恐らく親からそんな情報を得たのだろうが、壮輔の自己完結した言葉からそれを読み取るのは、精神を追い詰められた患者でなくても難儀しよう。
「愛から始まる愛は、それこそ最初からないのかもしれない」
壮輔は、玲音の怒りの理由にも気づかぬまま、そんな事を言った。
「愛が何から始まるか考えてみてはどうだろうか?」
病魔のせいで論理的に思考できない患者へは、自分で考えさせるより答えを提示して促す方が良いのだが。
同じ質問でも、アイラノレやモモ、ラズのように答えを自分から言ってそこへ導く念押しが出来ていれば、きっと個別耐性を得られただろう。
「よぉ、平気……って訳じゃなさそうだな。アタシらで良けりゃ話を聞くぜ」
同じ目線の高さになるよう膝を折ってから、真剣な面持ちで手を差し出すのは、鳳来寺・緋音(弾丸・e06356)。
束ねた銀髪と鋭く紅い眼光が凛々しい、降魔拳士の女性だ。
日頃は気怠そうな雰囲気を纏い、殆ど変わらぬ表情や少ない口数からいかにも冷徹に見えるが、その実、一旦感情的になると本来の激しさや情熱が顔を出すそうな。
「本当に赤の他人なら話しても良いわ……」
玲音は緋音の手を不承不承握った。
「どうだ? 暖かいだろ。アンタもこうやって誰かを暖めたり、暖められたりしてたんじゃないのか」
何とかして玲音へ病気になる前の記憶を思い出させたい——そう願う緋音は、玲音の手を両手でそっと包み込む。
「……彼も昔はよく私を抱き締めてくれた……飽きずに髪や背中を撫でて、顔に触れて……朝はそれだけで時間が過ぎて……幸せだったわ」
玲音は、初めて過去が幸せだったと口にして、号泣した。
今回は話を聞く自体困難だったものの、7人は無事に回帰性懐疑症候群の個別耐性を得られた。
●
「病魔よ。姿を現せ!」
アイラノレの病魔召喚によって、回帰性懐疑症候群が玲音の体内から引き摺り出された。
すぐに緋音が廊下を先導し、玲音の乗ったストレッチャーをラズが押して避難する。
「逃がさないわよ。消えるまで、大人しくしていなさい」
がらりと口調の変わったモモが、半透明の御業を嗾けて回帰性懐疑症候群を鷲掴みにさせる。
「ピンチの時のお薬なのじゃ」
ウィゼはその場で劇薬『エリクドトキシン』を調合、奴へ無理やり飲ませて苦痛を与えた。
回帰性懐疑症候群は、容赦なく絆切り鋏を飛ばしてくる。
「アイラ!」
即座にアイラノレを庇い、カジミェシュが刃に刺された。
「ん……ボハテル? どうした?」
そこまでは格好良かったが、箱に入れられっぱなしで拗ねたボハテルの機嫌を取る様は少々情けない。
「いかなる異常も、わたくしの前では無力と知りなさい」
ボハテルのストライキは、2人の友人である樒がカバー。
手製の薬を用いて精密かつ迅速な治癒行動に移った。
「……逃がしてあげません」
ラズは強力な麻酔薬をメスに塗りつけ、回帰性懐疑症候群目掛けて一気に投擲した。
「ブッ潰れろッ!」
緋音は不敵な笑みを張りつけたまま、無名鉄塊のジェットエンジンにて急加速。
拳を奴へ減り込ませた瞬間、杭状のグラビティも放出した。
まるで相手を壊す事で己が痛みを晴らしているかのように。
「いいから黙って大人しくしろ」
アイラノレは、歯車や真鍮をあしらった古い手術台へ奴を叩きつけ、レザーベルトで自動固定。
構えたメスと浮遊した手術器具の斬りつけによって、遂に回帰性懐疑症候群へトドメを刺した。
作者:質種剰 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年3月7日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
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